Phase-25 ヤキン・ドゥーエ攻防戦―4

「……ッ!?」

 キラはフリーダムのコクピットの中で何かを感じた。

 様々な欲望が渦巻く戦場の中でも、ひときわ恐ろしく、異様な雰囲気を放っている「何か」。

 それをキラは感じ取った。

 この世界を憎んでいる、そのようにさえ感じる。

 フリーダムの進路を変更し、追従していたジャスティス、ストライクルージュから離れる。

「キラ、どうした?」

「何か、いる……!」

「おい、キラ!?」

 アスランとカガリの声にも耳を傾けず、彼は向かう。

 全ての元凶の下へ。

 急がなければ、世界は、どす黒いそれに飲み込まれてしまう。

 スペースデブリとなったMSの破片の中を突き進むフリーダム。

 それと出会うのは、さほど遅くなかった。

 虚空の彼方より飛来する無数の光。

 類まれなる危機感知力で、キラはフリーダムを駆る。

 ミーティアという巨大な追加装備がついていながら、どこから来るか分からない光の雨を紙一重で避けていく。

「この攻撃は……!」

 かつてムウが操っていたメビウス・ゼロのガンバレルに似ている。

 その攻撃の元、灰色のMSがフリーダムの前に立つ。

「ようやく来たか、キラ・ヤマト!」

 スピーカーより聞こえたその声、忘れるはずがない。

 ラウ・ル・クルーゼ。

 キラの鋭い視線がその新型―プロヴィデンスを捉える。

「厄介なヤツだよ、君という人間は!」

「何を、言って!!」

 プロヴィデンスの右腕が握り締めている大型のビームライフルが火を噴き、ミーティアの右アーム部分を掠める。

 ビーム熱により、誘爆する。

 使い物にならなくなり、デッドウェイトとなったその部分を切り離しフリーダムが迫る。

「存在してはならない人間だと言うのに!!」

「あなたの言う事など!!」

「知れば誰もが望むだろうさ! 君のような人間になりたいと!!」

 再び、何もない空間からの無数のビーム。

 そのビームの着弾点を計算し、ビームサーベルで防ぐ。

 彼の言う事などまやかしだ。

 耳を貸してはいけない。

 そう思いながら、精神を集中しようとするが、耳をふさごうとしても。

 心の中に直接響いてくる。

「故に許されない! 君のような存在は!!」

 もしも自分が、戦争の種を作り出しているとしても。

 もしも自分が、全ての憎しみの元凶だとしても。

 キラが叫ぶ。

「力だけが……僕の全てじゃないッ!!」

 無数に降り注ぐ、光の雨にミーティアが貫かれた。

***

 ヤキン・ドゥーエより、少し離れた激戦地域。

 そこにミストラルを背後に、ブレイズとフェミアが二機のMSと対峙していた。

 目の前にいるのは灰色の、セフィウス。

 そして、仲間だったはずのレフューズ。

 フェミアが、ゆっくりと防御体勢を解いた。

「落とさせない……ロイドも、ミストラルも……!」

 フェミアが超加速する。

 真っ直ぐにレフューズに突進する。

「っ……!」

 レフューズのコクピットの中でアキトは顔を顰めた。

 フェミアの推力に、レフューズはなす術もない。

「セフィ!」

「アキトは、私が説得する!」

「説得って……」

 それだけ聞いた時、アラートが鳴る。

 セフィウスだ。

 セフィウスより切り離されたリフターが、ブレイズを襲う。

 体勢を崩し、追撃のチャンスを与えてしまう。

「ハッ、戦闘の最中に!!」

 ビームサーベルが輝く。

 リフターとセフィウスによる、多重攻撃にロイドの思考が追いつかない。

 加えて、リミッターを外したブレイズでは元々の不利な状況に拍車をかけている。

 エネルギーが足りないのだ。

「くそっ!」

 グロウスバイルで、セフィウスからの斬撃を防ぐ。

 火花が、両者の顔を照らす。

「テメェみたいなアマちゃんが、MSに乗るなど!!」

「お前が昔友達だった……そんな過去!!」

『馬鹿げてる!!』

 そうだ、目の前にいるのは敵だ。

 敵敵敵。

 憎むべき敵だ。

 目の前にいる、こいつが。

 全て、何もかもを奪っていく。

「ハッ、一世代も二世代も昔の旧型がァッ!! とっととスクラップになれよ!!」

「MSの能力など!」

 エールストライカーの推力に身を任し、ブレイズが駆ける。

 セフィウスの攻撃がブレイズを掠めるが止まる気配がない。

 止まってなどいられないのだ。

「そんなもの……いくらでも埋めてやる!!」

「無理だっつってんだろうがよォッ!!」

 カルラの叫びと共に、ブレイズのシールドが吹き飛んだ。

 防御の手段が無くなった。

 カルラの下賎な笑いが、脳に響く。

 ああ、何と自分は無能なのだろう。

 ロイドが悔やんだ。

 下手に悩み、下手に救おうとし。

 その結果がこれだ。

 敵は自分の事など覚えていない。

 全くの無駄な事だったのだ。

「これで終いだ!!」

 セフィウスの背中のリフターが、再び切り離される。

 それは確実に、ブレイズの胴体へ向かっていた。

 だが、ブレイズがエールストライカーを切り離した。

 リフターはエールストライカーとぶつかり、爆発した。

「何だとッ!?」

「これで互いに背負い物はない……!」

「だからどうしたァ!!」

 腰部レール砲、ビームライフルを構える。

 固定武装の多いセフィウスに対して、今のブレイズの武装はビームライフルとグロウスバイル。

 接近さえ出来れば勝ち目はあるが。

 無数の弾幕を張るセフィウスに迫る事さえできない。

「ヒャァハァ! こいつは最高だなァ!!」

「なめる、なァァァァッ!!」

 弾幕を掻い潜り、セフィウスの懐に潜り込む。

 ブレイズのカメラアイが光り、セフィウスのレール砲を潰す。

「足一本、くれてやんよ!!」

 ブレイズの右手がセフィウスの頭部を掴んだ。
 
 なりふり構わない、荒い戦い。

 持てるだけの力を出し、セフィウスの頭部を締め上げる。

「このっ……しつっこい!!」

 セフィウスのビームサーベルが、右腕を切り落とした。

 一旦距離を取り、セフィウスの攻撃を誘う。

 左腕でビームライフルを握る。

 頭部のセンサーが生きている限り、まだ戦える。

 そしてロイドは呟いた。

 まだ、勝機はある。

 チャンスは一度だけ。

 一度きりの、勝負。

 セフィウスが、突進する。

 もうブレイズに大した武装は残されていない。

「これで終いだなァッ!!」

「一撃で、貫く……ッ!」

 セフィウスのビームサーベルが、ブレイズの頭部を切り裂いた。

 だが、ブレイズのビームライフルもまたセフィウスの腹部を貫いている。

 広がっていく閃光の中で、カルラは笑っていた。

 そう、勝ったと確信していた。

***

 その爆発の光は、セフィも確認した。

 一瞬だが、レフューズも止まる。

「ロイド……? ロイドーッ!?」

「カルラ・オーウェンが死んだか……」

 セフィの瞳は、潤み。

 レフューズを睨みつけた時、彼女は泣いていた。

「……こんな事、してる場合じゃないの……」

『……』

「そこを退いて」
 
 フェミアがレフューズの傍らを去ろうとした時。

『……待て』

***
 爆発が起きた宙域では、セフィウスが粉々に吹き飛んでいた。

 爆発にブレイズが巻き込まれたとしたら、無事ではない。

 そのコクピットの中で、ロイドは肩で息をしていた。

 バイザーの割れたヘルメットの向こうの世界は暗く、いくつもの爆発が起きては消えていた。

 奇跡的な状況だった。

 セフィウスが繰り出したビームサーベルによる突き。

 ブレイズが放ったビームライフルの一撃のタイミング。

 そして姿勢氏絵魚のために噴いていたスラスターの噴出量。

 その全てが一致した時、爆発による衝撃はブレイズをその場から「離脱」させるための加速要因となった。

 コクピットハッチがひしゃげ、まともに開く事すらままならない。

 それが幸いし、空気漏れは最小限に抑えられているようだ。

 傍らに納めてあるテープで割れた箇所の穴をふさぐ。

 レーダーが機能していないのでは、ミストラルの位置が分からない。

「……いっ!」

 ふと、ずきりと痛む顔の左半分。

 きっと割れたバイザーの破片が刺さっているのだろう。

 まだ、戦うべき相手がいる。

 レフューズとの、アキトとの決着を。

「セフィは……ミストラルはどうなっているんだ……?」

 その時だ、ブレイズが振動に包まれる。

 スピーカーからノイズ交じりに聞こえる声。

 それは、セフィの声だった。

 直接回線による、フェミアからの通信。

『ロイド……無事なの……?』

「……な、何とか……」

 苦笑交じりに答える。

***

 時は少しだけ戻る。

 キラは、叫んでいた。

「力だけが、僕の全てじゃない!!」

『ハッ、それが誰に分かる!?』

 プロヴィデンスの無線ビーム兵器「ドラグーン」が再び火を噴いた。

 神がかり的な反射能力で、雨のように降りそそぐビームを避けていく。

『分からぬさ!!』

 ラウの叫びと共に、振り下ろされるビームサーベル。

 それをシールドで受け止める。

 全く予期できないような空間からのビーム攻撃。

 それに加えてプロヴィデンス本体の性能の高さと、ラウ自身の能力が相まって今まで戦ってきた相手の何よりも強い。

 キラが姿勢制御のためにスラスターペダルを踏み込んだとき、ふっと視界に何かが入る。

 それは一隻の小型艇だった。

 普段ならば気にも留めない、そんな小型艇だが。

 その時、何故か彼女の姿が脳裏をよぎった。

「フレイ―――――――?」

『ほう……』

 戦いを邪魔されたのを気にしたのか。

 はたまた別の事を思ったのか。

 プロヴィデンスのライフルが小型艇へと向けられる。

「やめろォォォッ!!」

 フリーダムが走る。

 放たれたビームは、真っ直ぐに小型艇へと向かう。

 寸での所でシールドにより防護する。

 ああ、確かにそこに彼女はいた。

 守る事ができた。

 ずっと、ずっと言っていた。

 君を守ると。

 それが例え偽りの感情だったとしても、今は違う。

 だれも、失いたくはないから。

 虚空より飛来した光が、音もなく小型艇を貫いた。

 一瞬、キラの視界が暗転する。

 爆破する小型艇。

 キラの悲痛な叫びが、コクピット内に響く。

 プロヴィデンスは満足したのか、その場より去った。

「フレイ、フレイ……!」

 嗚咽交じりに、キラは呟き続ける。

 守れなかった。

 結局、彼女を。

 友達を傷つけて、互いを慰めあって。

 何もかも失ったけど、それは間違いだと気付いて。

 また位置からやり直していこう、歩み始めようと決めたのに。

「ちくしょう……! 僕は、僕は……!」

 これでは、何も変わらない。

 変わるわけがない。

 自分に与えられた最高のコーディネイターの力とは何だ。

 この時のために、その力を使わないでどうする?

 落下する時と似た、感覚に襲われ。

「……!」

 キラに瞳から光が失せていた。

 こんな事、もう終わらせなければならない。

 フリーダムはプロヴィデンスを追った。

 丁度、その機体を確認したのはジェネシスに程近い宙域だった。

「ラウ・ル・クルーゼ!!」

『しつこいな、君という男は……!』

「貴方は、貴方だけは……!」

『いくら叫ぼうが今更!! これが運命さ! 知りながらも突き進んだ道だろう!?』

 せせら笑うラウの声に、キラは今もっている怒りの全てをぶつける。

『正義と信じ、分からぬと逃げ! 知らず、聞かず! その果ての終焉だ!! もう止める術などない!』

「それでも!」

 フリーダムのビームライフルがドラグーンを打ち落としていく。

 今のキラには全て手がわかる。

 ドラグーンの位置。

 放たれるビームの間のわずかな隙間。

 確かに自分は「正義」と言うものを信じていた。

 分からない時、辛い時は目の前の事から「逃げて」いた。

 その「果て」にあるのがこの戦いだ。

 一度始まってしまった戦いを止める術は、確かに無い。

『そして人は滅ぶ! 滅ぶべくしてな!』

「そんなの……貴方の勝手な理屈だ!!」

 叫び返すが、一々ラウの言っていることが正論なのだ。

『それが人だよ、キラくん!』

 違う。

 人は。

 人間は。

 そんなものではない。

 ラウの一言で片付けられるような、簡単なものではない。

 確かに人は間違いを犯し、道を外れることもある。

 だが、それがあるから成長できる。

 それがあるから、戦えるのだ。

 キラも、道を外した時がある。

 今思えば、それがあったからこそこうして戦えているのかもしれない。

「たとえ、人が貴方の言う愚かしい生き物だとしても……僕は!」

『その人とやらが! この世界を破滅へと導くとしてもか!』

 フリーダムの五つも砲門が展開し、プロヴィデンスを追い詰めていく。

 ビームライフルがプロヴィデンスの左腕を貫く。

 残ったドラグーンを集結させ、フリーダムに向かってビームを放つ。

『君とて、世界を破滅へと導く「人」の一人だろう!』

「それでも……!」

 フリーダムがビームサーベルを連結させる。

「それでも僕には……!」

 ドラグーンがフリーダムの頭部を、肩を貫いていく。

「守りたい世界があるんだ!!」

 ボロボロになったその体で、プロヴィデンスの腹部を突き破る。

『……だが、どちらにしろ私の勝ちだ』

「まだそんなことを!」

『ジェネシスは確実に、地球へと放たれる……。そうなった時が、私の真なる勝利だ! 死してなお、私は勝者でいられる……!』

 プロヴィデンスが爆発した。
 
 キラのフリーダムもまた、その衝撃をまともに受けていた。

***

 ロイドとカルラ。

 キラとラウの戦いが集結した頃。

 アスランはヤキン・ドゥーエ内部にいた。

 その隣を歩くカガリは、少し前の事を思い出していた。

『アスラン、この敵機の数は……!』

『くそ……これでは……!』

 そう呟いてから、数分。

 突然ジャスティスが動き出す。

 カガリの静止も聞かず、ジャスティスが向かったのはヤキン・ドゥーエ。

『どうするつもりだ、アスラン!』

『ヤキンの司令部を直接叩く』

『だけど、そこにはお前の父親が……!』

『……』

 アスランは無言だった。

 この手で親を殺す事になるのは覚悟の上。

 それでも、悪戯に戦局を悪化させるよりは。

 ヤキン・ドゥーエ守備隊の包囲網を潜り抜け、ヤキン・ドゥーエに突入し、現在に至る。

(あのハツカネズミが、まさかここまで行動的になるなんてなぁ……)

 カガリは思ってもいなかった。

 少し悩めば、うじうじといくらでも悩み続ける男が、よくもこんなに思い切った行動に出たものだ。

 ハンドガンを手に、通路を突き進む。

「なぁ、アスラン」

「何だ」

「本当に、お前……」

「決めた事だ、もう、変える事はない」

 その声は、固い決意を表していた。

 司令室前の兵士を気絶させ、中に突入する。

 突然開けられた扉に、パトリックは振り向いていた。

「父上!」

「アスラン!? 貴様、何を……!」

「今すぐジェネシスを止めてください! 今なら、まだ間に合う!」

「ふざけたことを言うな! 戦争は、勝って終わらねば意味が無いのだ! 負けたところで、何が残る!?」

 パトリックが取り出したハンドガンを、正確な射撃で弾く。

 少し間違えば、パトリック自身に命中するかもしれない。

「父上、貴方は……!」

「ジェネシス、エネルギーチャージを続けろ! 目標は、地球ワシントンだ!」

「父上ッ!!」

 もはや聞く耳など持っていない。

 咄嗟にアスランはトリガーを引いていた。

 銃弾はパトリックの左胸を貫き、鮮血が宙に漂う。

「がっ……ぐ……」

「アスラン!」

 アスランは銃を構えたまま、硬直していた。

 兵士の間には動揺が生まれ、このまま続行するか否か迷う者まで出始める。

「これでジェネシスは止まる……か」

 アスランが呟いた時。

 司令室にアラートが鳴り響いた。

 けたたましく鳴り響くその音に、アスランは息を飲んだ。

 パトリックが何かを握り締めている。

「父上ェェェェッ!!」

「ジェネシス……地球、を……ナチュラルを………焼き、つくせ……我らの」

 ゆっくりウォ上げられた右手はアスランの頬に触れ。

「創世の、ひか、り」

 絶命する。

 そのスイッチによって何が引き起こされるのか。

 アスランはキーボードを操作し、回線を辿る。

 その回線は、ヤキン・ドゥーエの自爆回路に繋がっていた。
 
 それどころか、ヤキン・ドゥーエが自爆すればジェネシスも発射される。

 アスランの顔が引きつり、最後の最後まで自らの意思を貫き通した男を見る。

「父上、貴方はそうまでして……!」

「どうした、アスラン」

「ヤキンの自爆シークエンスに、ジェネシスの発射が連動している……!」

 その言葉に、司令室にいた兵士がざわめく。

 ヤキン・ドゥーエが自爆すれば、ここにいる兵士たちも無事ではない。

 誰かが逃げ出したのを皮切りに、次々と司令室から退避する兵士たち。

「……止めるぞ、ジェネシスを」

「ジェネシスを……!?」

「ああ、ジャスティスをジェネシス内部で核爆発させれば……」

 そういうと走り出すアスラン。

 通路は逃げ戸惑う兵士たちで一杯だった。

 ジャスティスに乗り込み、ジェネシスへ向かう。

 カガリは、彼を止める事で精一杯だった。

 何を言っても聞きそうに無い。

 その辺に頑固なところはあの父親譲りなのだが。

「待てよ、アスラン! アスラーンッ!!」

『カガリ、お前は戻るんだ……』

「ダメだ、お前! ……あうっ!」

 ストライクルージュにぶつけられた、ジャスティスのリフター。

 それに阻まれ、ジャスティスはどんどん遠ざかっていく。

 狭い通路を進むジャスティス。

 そう、これこそが自分の成すべき事なのだ。

 ジェネシスなどというものを作り、戦況を一層悪化させた父親の分まで、償うのが。

 ジェネシス中心部。

 NJCによる駆動音が響いている。

 アスランは、ジャスティスのコンソールを起こし、自爆シークエンスに移ろうとする。

 脳裏によぎる友の顔、仲間の顔。

『アスラーーーーーーンッ!!』

 彼は息を飲んだ。

 リフターを振り払い、そこに現れたのは見間違うはずがない。

 真紅のストライク。

『逃げるな、お前!!』

「カガリ……」

『生きる方が、戦いだ!! だから、逃げるなよ!』

 カガリの心からの叫びに、アスランの手が止まる。

 確かにジェネシスを破壊し、罪を償うのが自分の役割かもしれない。

 ただ、彼女は「死ななくても良い」と言った。

 生きろと、言った。

***

 程なくして、宙域のザフト及び連合の間に全周波数での通信が流された。

 プラント、地球軍間の戦争の終結。

 全ての武装は解除され、ここに一つの大戦が終結したのだが。

 ミストラルの医務室では、慌しく処置が進められている。

 フェミアによってミストラルに戻されたブレイズ。

 そのコクピットの中でロイドは気絶していた。

 顔に大きな傷を負い、息も絶え絶えと言った状態。

 セフィが心配そうに見守るが、医務室には入れないでいた。

 彼女はロイドに伝えなければならないのだ。

 アキトからの伝言を。

 あの時―フェミアとレフューズが対峙していた時の事だ。

 フェミアはブレイズをミストラルへ戻そうと、レフューズの傍らを通り抜けようとした。

『……待て』

 ふと、フェミアのコクピットにアキトの声が響いた。

『……彼に伝えて欲しい。何時でも良い、始まりの場所で待っている、と……』

「……何を、言って」

『おそらく、それだけ言えばわかるさ。あの男ならば』

 何かがおかしい。

 彼は、ブレイズを見ても、セフィと通信をしても「何も覚えていない」かのような素振りを見せていた。

 しかしながら今のアキトはどうだ。

 まるで、ロイドを知っている。

 そこでセフィは仮説を一つ、打ち立てた。

 万が一、アキトの「記憶喪失」と言うものが「フェイク」だとしたら。

 つまるところ彼は演技をしていたとしたら。

 電波による通信は傍受されやすい。

 それは、先ほどの通信も例外ではなく。

「待って、アキト! 貴方、やっぱり……!?」

『……俺はお前たちの敵、だがな……あいつはまだ、俺の事を心配しているのだろうか』

 それだけ言って、レフューズはどこかへと去っていった。

 いや、場所は分かっている。

 始まりの場所。

 それは、地球連合軍パナマ基地跡地。

 
 (Phase-25  終)


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