〜第20章 竜の咆哮〜

「何がレジスタンスベースだよ! ただの洞穴じゃねぇか!! 」

カルラはそう吐き捨てた。
ツヴァイを駆るカルラとファーブニルを駆るセフィは、先ほどからレジスタンスベースに向けて攻撃を仕掛けていた。

リースのバクゥやマヒルのジン・カスタムが応戦に当たっているが、何分相手の2機のスピードと空中を自在にかける機動力に追いつけず、その攻撃が当たらなかった。

「くっそぉぉ!! 当たれ、当たれよ、バカヤロウ!!! 」
「マヒル! あせっちゃダメだ! 余計に相手に翻弄されるぞ! 」
「で、でも、このままじゃベースがもたないぜ! ちっくしょう! シグー・カスタムさえできてりゃあ!! 」

焦るマヒルを制止しながらも、リースはこの状況をどう打開するべきか考えていた。
彼らがはじめて見るオーラルの新型MSの性能は、レジスタンスのそれと比べると遥かに上であり、せめてフライトユニットさえあればと考えざるを得ない。

「くくく、そろそろ終わりにするかな。この新型兵器、試してやるぜ! 」

カルラはツヴァイに追加された新型兵器、290ミリ高エネルギー砲≪エデン≫の砲頭をレジスタンスベースの岩山に構えた。
『楽園』というその名は一見聞いただけでは兵器とは無縁の響きを持つが、その威力は死すら感じることなく全てを破壊する、正に全ての生あるものをこの世とは別の楽園へと旅立たせる死出の導きの光となる。

と、カルラはツヴァイの整備兵に聞いていた。
これを聞いただけでもカルラの顔が嬉しさのあまり邪悪な笑みにゆがんだ事が容易に想像できるだろう。

「さあて、あばよ! ゴミども!! 」

ツヴァイがレジスタンスベースに照準を合わせ≪エデン≫を構える。
その最凶の兵器を構える漆黒の悪魔に気付き、リースとマヒルも攻撃をかける。

「やらせるか! マヒル、あの黒いのを落とすぞ!! 」
「わかってら!!! くらえぇぇぇぇぇl!!!! 」

バクゥが背部マウントの450ミリ2連装レールガンを、ジン・カスタムが以前捕獲したジンが持っていた拠点制圧用装備の一つ、バルスス改・特火重粒子砲をそれぞれ構える。
しかし、

「カルラの邪魔は、させないわよ。・・・『敵』は、倒すのみ!! 」

水晶の化身・ファーブニルが高速で飛来し、レジスタンスの2機にヒートフィンガー≪ノーアトゥーン≫を繰り出し、その照準を合わせさせない。

「邪魔だよ! この・・・ガラスヤロウ!! 」
「あはは、ヤバイなこれ。・・・あの水晶みたいなMS、黒いのよりさらに早いぞ!! 」

ファーブニルの装甲は、高速重視の超軽量装甲である。
従来の発砲金属は使わず、試作型の新素材である超軽量結晶装甲≪ヴァナディース≫を採用している。
これにより、機体重量を従来の1/3にまで減少させ、かなりの高速飛行・高速機動を可能としている。
ただし、≪ヴァナディース≫は発砲金属の装甲と比較すると、半透明な水晶のような外見をそのまま反映するかのように案外もろく、攻撃を耐えるというよりは回避する事が前提の装甲であった。

「くらぇぇぇぇ!! オレ様の『エデン』を!! 」

290ミリ高エネルギー砲≪エデン≫の砲頭が輝き、悪魔の光が発射された。
恐らく、それとほぼ同時の事だったのだろう。

「させませんわよ! 宇宙人!! 」

空中からビームライフルのビームがツヴァイに被弾し、手元が狂った≪エデン≫の破壊の光はレジスタンスベースの中心からずれて放射され、ベース上部の岩肌を根こそぎ削り削り取った。
しかし、なんとかレジスタンスベースの壊滅はまぬがれたようだ。
そのまま飛んでいった≪エデン≫の光線は、遥かかなたの森に被弾し大きな楽園の光を上げている。
それを見ただけでも、すさまじい威力である。

「ちぃ!! 誰だ! 邪魔しやがったヤツァ!! 」
「・・・なんなの? あれは・・・バクゥ? ・・・・しかも、飛んでいる・・!? 」

セフィの言葉通りだった。
3つの頭を持ったその獣型MSは背部にフライトユニットらしきものを装備して空中を飛翔している。
空中で制止したその姿は、2本足で立たされている犬のようで少し滑稽ではあるが。

「お〜っほっほっほっほ!! わたくしのガルゥは日進月歩! この天才美少女メカニック・フルーシェ様にかかれば、飛行する事くらいわけありませんわぁ!! 」

北欧に来るまで、フルーシェは暇を見ては捕獲したMSドライ・シュヴーアの壊れたフライトユニットを何とか修理し、ガルゥ用にカスタマイズしていたのである。

「あれは、『スローン』のMSか! 」
「そうだよ、リース! フルーシェのヤツだ、きっと。あいつ、早速フライトユニット試してやがる!! 」

リースもマヒルもその不恰好に空を飛ぶケルベロスに驚きながらも喜び勇んだ。

「ちぃぃ! 不細工な犬が、いっちょ前に空飛んでんじゃねぇ!! 」

カルラが≪エデン≫をガルゥに構えるが、その姿はすぐに視界から消えた。
そして、スナイパースコープから目を離した時には、ガルゥは既にツヴァイの背後に回りこんでいる。

「な、なにぃ!! 」
「ドライ・シュヴーアのフライトユニット、あなたの同型機の翼は伊達じゃありませんことよ! さあ、お逝きなさい!! 」

ガルゥの左頭部の口から特殊鋼刃鋲が先端についたヒートロッドが射出され、背後からツヴァイの体を貫かんと襲い掛かる。

ガキィ!

しかし、ツヴァイとガルゥの間に割って入ったファーブニルが、その高速で飛来するヒートロッドの先端を難なく右手で掴み、ツヴァイへの被弾を防いだ。
そして、そのままガルゥへと投げ返す。

「きゃあっ! ・・・また、速い新型ですのね。・・・でも、わたくしも もうその手のMSには慣れましたわ! 」

投げ返された自らのヒートロッドをかわしながら、ガルゥは体勢を立て直す。

「・・・ツヴァイはやらせないわ。新しい『敵』、あなたの相手は私がする・・・! カルラ! あなたは『エデン』でベースの破壊を!! 」
「・・ちっ。腹の立つ犬だが、仕方がねぇ。セフィ、任せたぜ。」

ファーブニルとガルゥが空中で睨み合う。
フルーシェもツヴァイが動いた事に気付いてはいたが、ファーブニルに牽制されて身動きが取れなかった。

「リース、あの黒いの! またベースをやる気だ! 」
「じゃあ、あいつはオレ達でやんなきゃな! 申し訳ないが、水晶MSはフルーシェに任せよう。」
「わかった。・・・でも、どうやって・・。」

また高速空中専用MSを相手にするという振り出しに戻った事をどう打開すべきか考えるマヒルに、リースがおもむろに笑い出す。

「あはははははははは! 」
「な、なんだよリース! 何が可笑しい! 気持ち悪いなぁ! 」
「あはっ、いや、フルーシェで思い出したよ。・・・マヒル! オレの上に乗れ!! 」
「! ・・・あ、あいつら・・スローンの連中が砂漠でやったていう・・アレか!? 」
「ああ。あとはあの黒いのの狙いはベースだ。ベースを狙えばそれがヤツの隙になるだろ!? 」
「!!そうか、 たまにはいい事思いつくじゃんよ! よし、行くぜリース!! 」

ジン・カスタムを乗せたバクゥはそのままベースの岩壁を器用に駆け上り、先ほど損壊した頂上付近に着地する。
それと同時にジン・カスタムのバルスス改・特火重粒子砲と、バクゥの450ミリ2連装レールガンが、空中でこちらを狙うツヴァイに一斉に火を吹く。

とっさにスナイパーゴーグルから目を離し、3本の光線をかわすツヴァイ。
しかし、かわし切れすにレールガンが左足の先をかすめる。

「く! あのゴミども・・・・邪魔を!! そんなに望みなら、先に始末してやるよ!! 」

怒りに燃える漆黒の悪魔が硬質メタルブレードを構え、バクゥとジン・カスタムに迫る。
しかし、2機にとっては願ってもいない事だった。
接近戦の方がまだこちらの攻撃が当たりやすい。
そしてスローン流の人馬ならぬ人犬?一体の戦法をとれば、ジンの機動力も格段に上がる。

「きたぞ! マヒル! 回避はオレに任せろ! お前は攻撃を! 」
「ああ、やってやるさぁ! 行くぞ、黒いヤツ!! 」

ツヴァイの硬質メタルブレードとバクゥ+ジン・カスタムの人犬の重斬刀が激しい火花を上げる。

その上空では、ファーブニルとガルゥの激しい空中戦が繰り広げられていた。
ファーブニルは両掌を赤熱させたヒートフィンガー≪ノーアトゥーン≫と高速飛翔を武器にガルゥを引き裂かんと迫る。

一方ガルゥは自分よりも若干速いその水晶の機体の動きを、右頭の口から火炎を放射しながら牽制し、相手の攻め手を徐々に読み、封じてゆく。

セフィももちろん並みのパイロットではなく、ファーブニルの機速も常軌を逸していたのだが、砂漠で自分よりも高性能かつ高機動のMSと戦いなれていたフルーシェの方が、経験的に一枚上手であった。
つまりは、セフィのこの戦法はフルーシェの最も捌き易いものとなっていたのである。

「・・見えた! そこぉ!! 」

ガルゥの中央の頭のモノアイがファーブニルの姿を捉え、ビームを発射した。
そのビームは高速で飛翔するファーブニルの左腕に見事に被弾し、そのもろい装甲を腕ごと破壊した。

「きゃあああ!! く、・・・『敵』めぇ! 」

その時だった。

「ゴッドフリート、てぇ!! 」

ようやく駆けつけた黄金の座天使から22センチ2連装エネルギー収束火線砲≪ゴッドフリート≫の光がファーブニルに迫る。

不意をつかれたファーブニルは、運悪く回避する際に残る右腕に被弾し、≪ノーアトゥーン≫を全て失ってしまった。

「ぃやっほぅ!! クールにやったぜ! 見たか、羽ザフト! 」
「フルーシェっ! 大丈夫!? 」

スローンからのサユの通信にフルーシェは答える。

「ええ、わたくしも、リースたちも、基地も、まだ大丈夫ですわ。さあ、一気に片付けますわよ! 」
「リース! スローンが来てくれたよ! あいつらぁ・・・! 」
「ああ、これで勝たなきゃ申し開きも立たないな、あっはっはっ! 」

「ちぃ!! あの『金ぴか』! まだ、この辺にいやがったのか! おい、セフィ! 大丈夫かよ? 」
「ええ、平気。でも、『ノーアトゥーン』は失ってしまったけどね。」
「けっ、仕方ねぇ! 一時撤退する! 」

そのカルラの判断をセフィは否定した。

「なぜ? 引く要素がどこにもないわ。」
「バカかテメェは! オレだって引きたくなんかねぇ! だが、ヒートフィンガーがぶっ壊れちまった以上、テメェはもうただ単に速いハエと同じじゃねぇか! 」
「・・・・誰が、言ったの? 」
「はぁ!? 」

セフィはとても静かに言った。
その氷の表情に少しだけ、笑みがこぼれる。

「誰が、ファーブニルの武器が『ノーアトゥーン』だけだと言ったかしら? 見せてあげる・・・・『敵』を滅する、禁断の『ヘイズルーン』・・・。」

ファーブニルのモノアイが、怪しく輝いた。



一方北欧基地では、フィーア・ヘルモーズがスサノオに猛攻を仕掛けていた。

「『白い妖精』ちゃん!! 会いたかったわよぉぉぉ!! 」

フィーア・ヘルモーズの大蛇の尾が鞭のようにスサノオを襲う。
しかし・・・。

「この前はスローンに取り付かれていたから出来なかったけど・・・これでも食らえ!! 」

コウは竜巻発生装置≪テング≫を起動させ、スサノオの両掌から2本の竜巻を発生させた。
広範囲を覆う気流の渦に、フィーア・ヘルモーズも回避しきれずそのまま渦に飲まれて宙を舞う。

「ああああああああ!! お、おのれぇ!! やりやがるわねぇぇぇぇぇ!! 」
『ヤツは危険だ! 一気にコクピットを仕留めるぞ! コウ! 』
「止むを得ませんよね・・・。行きます! 」

スサノオは9.98m対PS超高熱空斬剣≪ツムハノタチ≫を構え、その荒れ狂う気流の中をむしろ風を操るかのごとく飛翔する。

「おおおおおおおおお!! 」
「くぅ!! この風・・・・『ヨルムンガント』じゃ、空中制御が効かないわ! こうなったら・・。」

ズバァァァァ!!

スサノオの≪ツムハノタチ≫がフィーア・ヘルモーズを切り裂いた。
狙いは下半身にあるというコクピット。
しかし・・・。

「これでもねぇ!! 私もいろんな修羅場くぐってんのよぉ!! 」

ネビロスはスサノオが接近する瞬間に瞬時にチェストユニット(上半身)とレッグユニット≪ヨルムンガント≫を分離させた。
そして、大蛇の尾をうまく使ってチェストユニットをそのままスサノオに目掛けて投げ飛ばしたのである。

「くそ! 仕留められなかったか! 」

赤熱した≪ツムハノタチ≫に両断されたチェストユニットが空中で爆散する。
そして、その煙の中から≪ヨルムンガント≫が飛び出してきた。

「! しまった!」
「お返しよぉぉ!!! 」

上半身を失ったフィーア・ヘルモーズは、既に体そのものでもある大蛇の尾を鞭のように振りかざし、スサノオの体を地面に向かって吹き飛ばした

「うわぁぁぁぁぁ!! 」

とっさに≪ヤクモ≫のバーニアを吹かし、その落下速度を減速させたスサノオは、コンクリートの大地に激突する寸前になんとか着地した。

『本当に戦い慣れしてるヤツだ。だが、今のでいい。 この戦いの目的はやつ等を退けさせることだからな! この調子でガンガン押すぞ! 』
「はい! 」

「な・・なんなの!? ネビロスと互角以上に渡り合うなんて・・・。あれが、ディノの言っていた・・・『ミコト』の力!? 」

ペルセポネははじめて見るディノの愛機と同系統のMSの能力に絶句した。

「メイズ、どうやらとんでもない助っ人が来てくれたらしい。」
「・・・ああ。敵に回せば恐ろしいやつだったが、味方になるとこれほど頼もしいやつは、いないな。・・・それに! 」

マステマがブースターをふかし、動きの止まっていたジン・アサルトシュラウドの元へと駆けた。
そして右腕の重刎腕斧≪アンフィスバエナ≫を振り落とし、ジンの左腕を切り落とした。

「しまった! この赤紫!! 」
「・・・悪いが、ここから去れ! 同じコーディネイターのよしみで殺したくはない。」

マステマがジン・アサルトシュラウドの左首と右手を掴み、その動きを封じて直接通信を送る。

「あら、優しいのね、あなた。そういうヒト、嫌いじゃないわ。ンフフ・・・でもね!」

ジン・アサルトシュラウドの右肩の115ミリレールガン≪シヴァ≫が至近距離のマステマの頭部を狙って砲撃する。
マステマは頬を焦がしながらもそれをなんとか回避し、後方へと離れた。

「わたしも、カラダ張ってるのよ。・・・この戦争に! 」

そして、ジン・アサルトシュラウドはビームサーベルを抜きマステマに追撃をかける。
高出力のビームの塊であるビームサーベルを≪ゲシュマイディッヒパンツァー≫を展開した大盾でその斬撃を防いだ。

「・・・く! 」
「・・・ピンクのジン、心意気は買うが・・・引かないならオレは容赦するつもりはないぞ。」

重斬刀を手に、マックスの紫のジンがマステマと膠着状態のジン・アサルトシュラウドの背後に迫る!
その時、意外な一言が飛び出した。

「あー! もうやめ、やめ! ペルセ、帰るわよ!! 」
「!! ・・・ネビロス、何を! 」
「私の『ヨルムンガント』は下半身だけじゃ弱いのよ〜。あんたもボロボロじゃない? もう飛べもしないし。文句あんなら置いてくわよ! どーすんの!! 」
「・・く・・・仕方がないわね。赤紫ちゃんと、紫ちゃん、そういう事になったの。・・・また、私のピンクちゃんと遊んでね? 」

そういうとジン・アサルトシュラウドは後方に跳躍し、フィーア・ヘルモーズのレッグユニット≪ヨルムンガント≫に右手でしがみついた。

「『白い妖精』ちゃん? 残念だけど、また今度ね。今度は確実に殺してあげる!! 」

そのまま、2機のオーラルのMSは空へと消え、戦線を離脱していった。

「勝った、みたいですね。」
『今回はな。ま、よくやったぞ。』

空を呆然と眺めるようにスサノオは立ち尽くす。
それを複雑な表情でメイズは見つめていた。



「艦長! ぶ・・・武装が・・・・!! 」

シュンの声がスローンのブリッジの中で震えていた。

「スローンの武装・・・全て破損!! もう援護射撃も出来ません!! 」

一体何が起こったのか。
かなり有利に戦っていたかに見えたその戦局は、一機のMSの力によって最悪の事態へと発展しつつあった。
スローンの≪ゴッドフリート≫、≪イーゲルシュテルン≫、≪イフリート≫、≪バリアント≫、そしてその他大型ミサイル発射口・・・・。
その全てがことごとく起動前に破壊されていた。
誘爆を起こさなかった事が奇跡的である。

「く・・・あとは、『ワルキューレ』だけという事ね。でも、あれは元々対艦戦闘用の武装。あの速いMSには・・・当たらないでしょうね・・・。」
「マナ姉! やってみなきゃわかんねぇぜ! 『ワルキューレ』しかねぇんなら! 」
「でも、レヴィンさんも本当はわかっているんでしょう? 」
「! 」

サユがレヴィンに言った言葉の意味。それは・・・。

「ああ、わかっているさ、サユ! あの透明な羽ザフト、スローンの武装だけを的確に破壊してくる。もし、『ワルキューレ』充填中に狙い撃たれたら・・・・。」
「・・・最悪の場合、この艦ごと爆散するかもしれません。元々この小型艦には不釣合いな兵器なんです、あれは・・・。」

ナターシャのその言葉が避けようのない現実であった。

そうしている間にも、フルーシェ、リース、マヒルの3人の機体が徐々に追い詰められている。
見かねたレジスタンスからも戦闘ヘリやジープ、メンバー自らの手持ちバズーカ攻撃などの援護があったがその全てが、一瞬の内に壊滅・撤退させられた。

ファーブニルの禁断の兵器、≪ヘイズルーン≫によって。

「『座天使』は後でゆっくりと沈んでもらうわ。その前に、目の前のちょろちょろする『敵』3体を落とす! 」

ファーブニルはその背部に付属している6本の水晶体のような外見のユニット、≪ヘイズルーン≫を飛ばしてそれぞれからビームを射出し、3機を攻撃する。

「あはっ、これはマジできついな!! 」
「ちくしょう!! なんなんだあの水晶のユニット! ガンバレルか!!? 」
「・・・それにしては、無線ですし・・・・大体ここは地上ですのよ!? 」
「・・・地上運用型の、無線式ガンバレル? あはっ・・・そんなの反則だぜ!! 」

地上運用試作型ドラグーン≪ヘイズルーン≫は高速で3機を取り囲みながら無数のビームを多方向から浴びせかけた。
ザフトの最高技術である量子通信によるドラグーンの試作型を用い、その装甲に超軽量結晶装甲≪ヴァナディース≫を採用した事によってユニットの重量を極限まで軽量化。地上でも単独飛行可能なドラグーンとなったのが、この≪ヘイズルーン≫である。
実際はまだドラグーンそのものが試作段階であり、なぜこれをオーラルが所有していたのかは不明なのだが・・・。

高速移動するファーブニルよりもさらに軽量な6基の≪ヘイズルーン≫は、正に目にも止まらぬ速さで3機の周囲を旋回しており、ドライのフライトユニットを持ったガルゥもその結界から中々抜け出せない。
抜け出そうとするとその方向から集中砲火を受けるのである。

スローンの武装も、この≪ヘイズルーン≫によってセフィが破壊したのであった。

「ガルム司令官! このままでは、リース達がやられるのも時間の問題です! 」

レジスタンスベースでMS管制をしていたフィリス・エンバースが悲痛な叫びを上げる。
ガルムも傷だらけの顔をかきながら、唸る。

「うむ。しかし、こちらとしても手が出せん!・・・・・ええいっ、くそ! 」

自分達の力のなさを呪うレジスタンスの面々。
その間にも、交戦中のリース達3機は≪ヘイズルーン≫から照射されるビーム攻撃を受け、ところどころから煙を上げる。
3機とも、最大限その攻撃を何とかかわすよう努めていたが、時と共にそれも難しくなってくる。

「こ、このままじゃあ、確実にやられますわ!! 」
「あたしのジン・カスタムは・・・右腕がイカれた! 」
「くっそぉぉぉ!! こんな、こんなところで!! 」

スローンのブリッジでその様子を見ていたナターシャが突然その場を後にした。

「ナ、ナターシャ! どこへ!? 」

マナの叫びも空しくナターシャは駆けた。
そこは・・・。

「お願いです! お姉ちゃんとお兄ちゃんを助けて!! 」
「! ・・・一体何なんだ!? また攻撃か? よく分からないぞ。」

ナターシャは鉄格子越しにその状況を説明した。
捕虜である、ザフト兵、ブリフォー・バールゼフォンに・・・。

「こんなお願い、しちゃいけないって分かってます。でも! でも! やっと会えたフルーシェお姉ちゃんも、死んじゃってたと思ってたリースお兄ちゃんも、死なせたくないんです! 」

鉄格子を掴むナターシャの手が震えていた。
自分が何を言っているのかも分かっているのだろう。
しかし、ただ必死だったし、その事がブリフォーにもメリリムにも伝わってきた。
そして・・・。

「・・・ザナドゥはどうなってる? 」
「え? 」
「オレの機体だ。出れるのか? 」
「・・・実は、両手足はまだそのままです。ただ、駆動系とフライトユニット、捨ててあった小型のエネルギーパックみたいなものは改修してて・・」
「・・・充分だ! ここを開けろ! 」
「ブ、ブリフォー! あなた、何を!? 」

ブリフォーのとろうとした行動に、メリリムは驚いた。

「別にたいした事じゃないさ。このまま沈められたらオレ達も死ぬ。・・・それに。」
「それに、なんです? 」

メリリムもなんとなく分かっていたが、あえて聞いた。

「・・・フロの礼を、しないとな。・・・ナターシャだったか? 早く開けて、ドックまで案内しろ! オレがフルーシェを助ける! 」
「・・・はい! 」



「お〜、お〜。セフィの機体、いいもん持ってるなぁ。ツヴァイにもつけられねぇかな、アレ。」

悠然と空からファーブニルの戦闘を見物していたカルラにセフィから通信が入る。

「・・・ドラグーンはあなたには無理よ。そんなことより、あなたは『エデン』でレジスタンスベースをさっさと消しなさい! 何のための追加武装だと思っているの? 」
「ちっ、わかったよ! てめぇもさっさと消せよ。そんなゴミども。」

そう言うと、ツヴァイは290ミリ高エネルギー砲≪エデン≫をレジスタンスベースに向けて構える。

「今度ははずさねぇ!! 食らえぇぇぇ!!」

≪エデン≫の光がレジスタンスベースのMSドックを貫く。
大きな爆発と共に岩山ごと崩れ、ドックは半壊した。

「フィリス! 状況を報告させろ! 」
「・・・MSドックは・・・半壊! 半分以上は岩窟ごと崩れて、復旧の目途は立たずとの事! 」
「くそぉ!! オーラル!! オレ達はこんなところで終わるわけには・・!! 」

振動のおさまらないベースの中で、ガルムの叫びがこだまする。

「けっ、どうせ旧式戦車やザフトの盗難MSしかねぇんだろ! ・・・さあ、次で最後だぜ! 」

黒い悪魔が≪エデン≫を再び構える。
その照準は、レジスタンスベース司令本部。

「さて・・・・消えな!!!! 」

カルラの手に力がこもる。

マヒルが 「ベースが!! ガルム司令! フィリス! 逃げやがれ!! 」
リースが 「ちくしょぉぉぉ!! また、オレは何も出来ないのかぁぁぁぁぁ!! 」
フルーシェが「くぅぅ!! でも! こっちも、もう限界ですわ!! 落とされる!! 」

『フルーシェ! その透明なMSの動き、よく見て狙えよ!! 』
「え? 」

後方の空から4本の光が放たれる。
1本はツヴァイの発射寸前の≪エデン≫に被弾し、そのまま誘爆させた。
そして残り3本の光がファーブニルを襲う。
しかし、その3本を掻い潜るようにしてファーブニルはかわすが、ヘイズルーンが1基被弾し爆発する!

「こしゃくな! まだ『座天使』のMSがいたのか!? ・・あれは! 」

「ナターシャ! 補助パワー供給ケーブルはずせ! 」
「了解! 」

補助パワー供給ケーブルをはずし、両手足をもがれたままのそのグレーの機体は両翼を広げ空へと飛び出した。

フェイズシフトを展開し、その機体は鮮やかな蒼に染まってゆく。

「あれは、確か・・・ZGMF-PX01、ザナドゥ・・! 何であれがあそこにあるの!?」
「どこを見てますの! 」
「! 」

ザナドゥと、ザナドゥが放った試作型レールガン≪グラシャラボラス≫にセフィは気をとられ、≪ヘイズルーン≫の動きが止まっていた。
そこへ、ガルゥの牙!

「くぅ! ・・・しまった、『ヘイズルーン』を・・・」
「遅いですわ! 」

逃げられないようにヒートロッドをファーブニルに撒き付け、ロッドを赤熱させる。
超軽量結晶装甲≪ヴァナディース≫から煙が上がり、パワーのないファーブニルではそれを解きようがなかった。
そして、ガルゥの中央の頭と右頭のヒートファングがそれぞれファーブニルの首筋と左肩に食らいつく!!
ファーブニルの全身に衝撃が走った。

「きゃああ!!! 」
「チェックメイトですわね。ごめんあそばせ! 」

ガルゥの中央の口のビームライフルと右口の強烈な火炎放射が唸りを挙げようとしたときだった。

『そこまでだ! フルーシェ! 』

すると、ガルゥの背後でザナドゥが≪グラシャラボラス≫を構えていた。
そして、全周波回線を開き通信を送る。

『連合軍、オーラル両軍に告ぐ! こちらはZGMF-PX01ザナドゥ、ザフト地上侵攻特務隊所属、ブリフォー・バールゼフォンだ! 決着はついた! 両軍速やかに戦闘をやめ、ここは引け! 』

フルーシェが  「ブリフォー、あなた・・・。」
セフィが    「なんだというの。あなたは私たちと同じザフトでしょう!? 」

それぞれに驚いた。

「な・・・ブリフォー!?? ・・・生きてやがったのかよぉ!! テメェ!! 」

そして、≪エデン≫を破壊され空中で体勢を整えていたカルラが、その強い口調の言葉とは裏腹に自分でも気づかぬほどの歓喜の声を上げた。

ブリフォーの通信は続いた。

『カルラ! オレは今『リトルジパング』ことスローンの捕虜として乗船している。やむをえぬ事情があってお前を砲撃したが、軍を裏切るつもりもさらさらない。だが、ここは引いてくれ! 』
「な・・てめぇ!意味分かんねぇよ! 自分が言ってることわかってんのか、 ああ!? 」
『・・・・頼む、カルラ。引いてくれないのなら・・・オレも戦わざるを得ない。約束しちまったからな。』
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!! ちぃ! これは貸しだぞ! ブリフォー! おい! セフィ、引くぞ!! 」
「な!! 何をバカなことを! カルラ! 」
『フルーシェ、その機体から離れろ。今から『グラシャラボラス』を撃つ。』

宣言したブリフォーの駆るザナドゥから4門の≪グラシャラボラス≫の内の3門が火を吹き、2つの光は空中に静止する≪ヘイズルーン≫をさらに3基破壊し、もう一つの光はとっさに身を引いたガルゥのヒートロッドを断ち切った。

「あ、あ、危ないじゃないですの!! ブリフォー!! もう! 」

フルーシェが激昂するがその声はどことなく安心しているようだった。

「おいセフィ! てめぇの『ヘイズルーン』もあと2基! オレの『エデン』もやられた! 一旦引いて出直すんだ! 」
「く・・いいでしょう! しかし、ブリフォー・バールゼフォン。この事はしっかりと報告させてもらうわ。」
「・・・ああ、報告は頼む。いつまでもMIAというわけにもいかんしな。メリリム・ミュリンもオレと一緒に捕虜となっていると伝えろ。」
「! メリリムもかよぉ!! くくくく! エリスのヤツが聞いたら・・・・あばよ! ブリフォー!! 」
「覚えておきなさい! ブリフォー・バールゼフォン! ・・・・どちらにせよ、あなたは私の『敵』よ! 」

2機のザフトの機体は空の彼方へと消えていった。

シュウゥゥゥ・・・・。

そして、ほぼ同時にザナドゥのフェイズシフトがダウンする。

「ふぅ、相手がカルラで助かった。『グラシャラボラス』のはったりも効いたみたいだしな・・・。」

「は、はあ〜、あたし達・・助かったんだな。」
「あっはっはっは。ま、何とかなったみたいね。それにしても、あの蒼いMSのおかげだなホント。」

リースのその言葉にハッとなったフルーシェはザナドゥに全周波回線を開き通信を送った。

「ってゆーか、なんであなたが出撃しているんですの!? 捕虜の癖に!! 勝手なことして、しばきますわよ!! 」
「ああ!? お前らが余りにふがいないから助けてやったんだろうが! 感謝の一つ位しろよな! 」
「頼んだ覚えなんて、ありませんわ!! 」
「・・・頼まれたんだよ。」
「へ? 」

ブリフォーの口調が急に穏やかなものになった。

「ナターシャに『お姉ちゃんとお兄ちゃんを助けて』ってな。頼まれて、約束しちまったんだよ。文句あるか・・・ったく、今回だけだからな。」
「・・・ナターシャが。そうでしたの。」
「あは、あいつ。・・・・無茶しやがって。」

フルーシェとリースは健気な妹の心に感謝した。
そして、ブリフォーがおもむろに口を開く。

「さて、汗もかいたし、帰ってシャワーでも浴びるかな。」
「ちょ、ちょっとブリフォー!? あなた、いいんですの? 」
「・・・助けるって約束して出てきただけだ。そんな事で脱走したら約束を破ることになるだろうが。それに、中にはまだメリィもいる。オレを見くびるなよ。」

そういってグレーの満身創痍の魔王は艦へと帰還していった。
それを見たフルーシェも笑いながらついてゆく。

「もう! あなたは監視がないとシャワーも使えませんのよ! 」
「じゃあ、お前やってくれよ。助けてやったんだし。」
「な! だ、だ、誰があなたなんかと! 」
「はあ!? 一緒に入れなんか言ってないぞ、オレは。・・・・・お前何考えた? 」
「・・・な! わ、わたくしは・・!! 」

ブルーコスモスとコーディネイターの間にそびえ立つ大きな壁。
それはもう、少なくともこの二人の間からは消えたようであった。

ザフトと連合というお互いの立場だけをのぞけば・・。

〜第21章へ続く〜


   トップへ