〜第19章 ダブルアタック〜

コウ達がレジスタンスベースに滞在してから既に3日が経っていた。
スローンの修理の方も順調で、飛行するには申し分ないほどまでに修理は完了していた。
スサノオも積んであった予備のパーツを使って足と頭を元通りに直し、フルーシェのガルゥもやっと3つの頭が揃った。

リースが腕がいいメカニックだと褒めていただけの事はあり、マヒルの働きは目を見張るものがあった。
繊細な作業はナターシャやフルーシェには敵わなかったが、とにかく作業のスピードが抜群に速く、ミスもほとんどない。
少なくとも、スサノオとガルゥの修理がこの3日間で終わったのは彼女の力によるものが大きかった。

ある程度、修復作業に目途がついたと言う事で、スローンは次の日の明朝出発する事となった。

「リースお兄ちゃん。また来ますね。」
「ああ、ナターシャ。気をつけてな。それに、戻ってきてくんなきゃオレらも困るしね。あっはっはっは。」


簡単な別れを済ませ、スローンは地球連合軍北欧基地へと飛び立った。
スローンのMSドックにはコウの姿があった。
スサノオのコクピットの中で、アモンと一緒になにやらOSの調整の相談をしている。
実際、『ダブルフェイス』のナビゲーター・アモンのおかげで、スサノオのソフト面の調整は彼がやってくれている。
もちろん作業をするのはコウだし、使うのもコウなのでアモンが手取り足取り教えながらやっていると言う方が正しいが・・・。

その開きっぱなしのコクピットに銀色の髪の毛が姿を見せる。
ぴょこんと顔を出したのは、ナターシャだった。

「あの・・・コウさん。」
「どうしたの? ナターシャ。」
『よお! ナターシャ。元気かい? 』

ナターシャはうつむいたまま無言でコクピットの中に入ってきた。
そして、

「あの・・。この前は、ごめんなさい。私・・・。」
『お〜、お〜、コウ! お前、ナターシャに何したんだ?すみにおけないなあ。 』
「ア、アモンさん、からかわないで下さい。・・・この前? ・・! ああ、あの事か。別にいいよ。むしろ、オレの方がごめんね。」
「い、いえ。私、結局あのままシャワーの方もやらなかったし。本当に。」
「いいって、もしかしてそれでよそよそしかったの? 」

実はレジスタンスベースにいる間も、ナターシャはどことなくコウを避けているような感じであった。
ナターシャも忙しいんだろうな、とコウは前向きに考えていたのだが思い返せば明らかに彼女と話した記憶がない。
マヒルやフルーシェとはよく話をしたのに。ガルムとまで。

ナターシャはうつむいたまま、無言で頷いた。
その綺麗な銀色の髪にコウの手がポンと乗せられる。

「まったく。ダメだよナターシャ。」
「え? 」
「君は、もっと仲間に甘えてもいいんだから。そういう風に変に気を使う方がダメだよ。オレなんか、OS調整はアモンさんにまかせっきりだし、ハード関係はマヒルにほとんどやってもらったし。悲しいときは、みんなの前で泣くしね。」
『・・・お前、本当に何もしてないな・・・。』

「コウさん。」
「だから、ナターシャももうそんな事を気にして悩んだりしたらダメだよ。約束しよう? 」
「約束・・・ですか。」
「オレもナターシャも、つらいときは助け合うし楽しいときは一緒に喜ぶ。仲間なんだから。」

そういってコウは右の小指を差し出した。
ナターシャは恥ずかしそうに自分の小指を絡めて言った。

「はい、約束します。」

微笑む二人にアモンが突っ込む。

『はいはい、もうよろしいでしょうか? OS直したいんだけどね? 』
「あ、は、はい。すみません、アモンさん。やりますよ。」

ナターシャがコクピットを後にしてからもアモンとコウはあーだこーだと話しを続けていた。

ナターシャは右の小指を大切そうに抱えて、ガルゥの整備をしているフルーシェを手伝いに走った。



「一応、もう一度作戦を確認するよ。」

オーラルのMSドックで黒服のディノはパイロットスーツを纏った部下たちに最終の指示を飛ばしていた。

「ネビロス、ペルセの二人は地球連合軍北欧基地を襲撃、深追いする必要はないけど出来る限りたたいてくれ。そして、カルラとセフィはレジスタンスベースを襲撃。こっちの方も同じく限り潰してくれ。これは、徹底交戦の宣戦布告だけど、敵の戦力が減る分には全く支障ないからね。好きに暴れてくれたまえ。」

「一応、聞いてもいいすか。隊長殿? 」
「なんだいカルラ。」
「隊長殿は出撃されないんで? 」

その問いにディノは笑いながら、

「ボクは君達が暴れている隙にやる事があるんだが、君達が戦果を挙げられなそうだな、と判断したら行ってあげよう、カルラ。では、武運を祈るよ諸君。」

と適当に激励をした。

MSドックのカタパルトハッチが開く。

「はぁ〜、なんてこった。今のオレの仲間は、くそ生意気な黒服のガキ上司に、愛想の微塵もない氷女と年下のエロ美人。それに変態オカマか・・・はぁ〜、これじゃメイズのやつがかわいく見えらァ。」
『ちょっと!! カルラ! 変態オカマって何よ!! オカマはともかく、変態って!! 』
『・・・・氷女の・・・何がいけないの。』
『ンフフっ。美人はともかく、その前の形容詞が問題ね。せめて、『奥ゆかしくも魅力的なうら若き絶世の美女』、とか言ってほしいわ。カルラちゃん? 』

うっかり通信を入れたままこぼしてしまったグチを、仲間の全員が聞いているようだった。

「うげっ・・・ちぃ! うるせーよ! 行くぞ、お前ら! 」

話をごまかそうとするカルラにディノからも通信が入る。

『そうそう、カルラ。君も十分、我が隊の立派な問題児だよ、『暴走小僧』君? 』
「うっ・・・・・い、行ってきます。クシナダ隊長殿。」

4機のモビルスーツのカメラアイに光が灯る。

「カルラ・オーウェン、ツヴァイ、出るぜぇ!! 」
「セフィ・エスコール、ファーブニル、発進するわ。」

高速を誇る2機がレジスタンスベースに向かってカタパルトから空へと消える。

「今回は、大蛇型レッグユニット『ヨルムンガント』よ! ・・・腕がなるわねぇ! 」

フィーア・ヘルモーズの漆黒の上半身が、真っ白い蛇のような下半身とドッキングする。

「ネビロス・ベルダンディー、フィーア・ヘルモーズ、・・殺って来るわ!! 」

大蛇の化身が空へと舞う。
そして、ペルセポネの機体である薄桃色のジンがカタパルトに接続された。
真紅のアサルトシュラウドを装着したその装甲は厚く、武装面でも他の3機に決して引けを足らない。

「ペルセポネ・ディナ・シー、ジン・アサルトシュラウド、行くわね。」

最強のジンもグゥルを装着し、大蛇の後を追い連合の基地へと空を駆けていった。



北欧基地では、マックスを見つけたユガが驚きの声を上げていた。

「マ、マ、マ、マックスさぁ〜ん! どうしたんですかぁ!!? 」

ユガの声に、近くにいたメイズも駆けつけた。

「・・・どうした、ユガ。いったい何が・・・・マックス!? 」

メイズとユガが見たものは、ジャンク置き場の山の中に倒れたマックスの姿だった。

「マックス!! 」

驚き、駆け寄ろうとするメイズ。
しかし、・・・。

「んん〜? なんだぁ? ・・んあ、おお、メイズか・・・ユガも・・。何かあったのか? 」
「「そりゃ、あんただよ!! 」」

二人にきれいに突っ込まれて、マックスはおもむろに辺りを見渡した。
・・・・・・。

「ああ、昨日ジンの整備をしてからドックをうろついて・・・・・眠かったから寝たみたいだな。どうやら。」
「おい・・・なんでまた、ジャンクの中で・・・。」
「ん? さあな〜。面倒だったからじゃないか? 眠かったし。」
「「・・・・・・。」」

このマックスという男、仕事中は誰しもが尊敬するほどの力を発揮するのだが、一旦スイッチが切れるととんでもないことをしでかす。
しでかすというか、何もしないというのか・・・・。
とにかく、『面倒』という言葉で全てを片付けるこの男をメイズとユガはある意味心からすごいと思った。

「君達かね、バルバトスの雇った傭兵というのは。」

そんな3人に声をかけてきたのは、この地球連合軍北欧基地を統括するユーラシア連邦の士官、ダグ・ウォールダン大佐であった。
レジスタンスベースでマナに通信による指示を出したのもこの男である。
マックスはスイッチが入ったのか突然立ち上がり、挨拶をした。

「私はマックス・ジークフリートです。今回のXナンバーのパナマまでの移送を勤めさせていただく事になっております。」
「・・メイズ・アルヴィースだ。」
「ユガ・シャクティです。」

「君達の名前などはどうでも良いのだよ。それより、君ら二人は、コーディネイターだそうだね。」

ダグのその言葉に3人は眉をしかめる。
特にメイズは。

「で、緊急時だったとは言え、あのGAT-X279 マステマに乗ったのは、誰だね?」
「・・・オレだ。」
「・・・ほう、君か。単刀直入ですまないが、今後は遠慮してくれたまえ。あれは我々ナチュラルのMSだ。いいね。私が言いたいのは以上だ。」

一方的に言いたい事だけを言って足早に去ろうとするダグに食いついたのは、ナチュラルでありブルーコスモスのユガだった。

「でも! メイズはバルバトスさんに正式にあれのテストパイロットとして搭乗して欲しいとの依頼を受けています!そんな言い方・・・。」
「ああ、バルバトス大佐か。あの人はいつも本当に勝手で困るよ。大体、何故ここで製造されたマステマの本体があの人の元にあったと思う? 専用兵器である特殊攻盾システム『ジェミナルトリニティス』はまだここにあったというのに。」

確かに妙な話である。
マステマの本体だけがロシアにあり、事故も重なってアフリカに放置されていた。
しかし、専用兵器はまだ北欧にあり、マステマも再輸送を・・・・。

「そりゃ、お前さんたちのせいじゃろが。『ボケダグ』! 」

そう言って話に加わってきたのはドクター・オセだった。

「お前さんたち連合がこちらの都合も考えず、『新型MSを早く送れ、早く送れ』と言いたい放題言ってくるからじゃろうが。。じゃから、ワシは言うとおりに送ったまでじゃ。出来とる分だけな! 運用テストもOS調整もい〜ッさいやらずに送りつけてやったもんじゃから、バルバトスのヤツが気を効かして知り合いのメカニックのところへ預けたんじゃろ! お前さんは感謝こそすれ、文句など言える立場ではないわ!! 」

「くっ、たかが一介の研究者が言ってくれるな、ドクター・オセ。我々だって事情があるのだ。大西洋の技術提供を受ける代わりに作成したこのMS2体を早急に大西洋連邦に納付せねばならないのだよ。我々の立場を優位に進めるためにもな。そうすれば、量産化されたMSもユーラシアに支給される事になっているのだ。」

「あのダガーとかいうカッチョ悪いヤツか? ハイペリオンはどうした!? 」
「・・フン、あんたに教える義理はない。さっさと仕上げてくださいよ。あの2体とあれを!」

そう言うとダグは足早にその場を発った。

「もう実はと〜っくに終わっとるわい。ホントに頭にくるヤツじゃな。のう! メズメズ? うんうんうん。」
「・・・あ、・・ああ。そうですね。」
「でも、なんでフルーシェのとこにマステマがあったのか、やっとわかったよ。」

「・・・・・フルーシェ、じゃと? 」

その時だった。
大きな振動と共に、基地内に警報が鳴り響く。

「な、なにごとじゃ!? 」
「おい、何があった! 」

マックスが慌てふためく整備員を捕まえて問いただす。

「て、敵襲だよ!! オーラルのMS! 」
「! メイズ、ユガを頼む。オレはジンで出る! 」

そう言うと、マックスは愛機の方へと駆けた。
それを歯がゆそうに見送るメイズ。

「・・・な〜にをしとんのじゃ? お前さんも行かんか。」
「・・・いや、しかし。オレは・・・。」

メイズの表情がにわかに曇る。
ユガもそれを悟り、心配そうに見つめていた。

「・・・じゃが、決心してここへ来たのじゃろう? 」

ドクター・オセは真剣な表情で言った。

「お前さんが、かつての仲間と戦うのを躊躇するのも分かるがの。ここで、とまったままなら、何も変わらんし、分かりはせんて。うんうんうん。」
「ドクター・オセ・・・・。」

ドクター・オセの言葉にメイズは自分の決意を思い出す。
今、自分にとって何が大切なのか。何をするべきか。
それを探すための旅なのだ。

それ以上に、このまま何もしないままではマックスやユガの身だって危ない・・。
メイズはその時初めてしっかりと確認した。

今は、この『友人』を守りたいと思う自分の気持ちに。
そしてこの2人を『友人』だと思っている自分がいる事に・・・・。

「それに、あのマステマを遊ばせとくつもりか? 冗談じゃないワイ。テストパイロットなら、あの新型兵器のテストもやってくれないと困る。契約違反じゃ。」

ドクター・オセのその言葉がメイズを吹っ切れさせた。

「・・・ユガを、頼みます。ドクター・オセ。」
「き、気をつけてね!! メイズ!! 」

右手を挙げながらメイズも駆けた。

「ほれ、ユガッち。ワシらもドックのハッチを開けにゃならんぞ。急げ! 」
「は、はい! 」

ユガ達の手によってMSドックの電動ハッチが開き、2機のMSのカメラアイが輝く。

「お、おい!! 誰だ! マステマに乗ってるのは!!」

マステマの足元で叫ぶダグに、メイズは外部スピーカー越しに言い放つ。

『オレはこいつのテストパイロットをバルバトスから請け負っている。彼からの変更指令がない限りはオレの機体だ。使わせてもらう! 』
「なにを・・・待て!! 」

ダグを無視して歩き出すマステマを見て、マックスも微笑む。

「ふふ、あいつ。普段は暗いくせに、ここ一番の時は変わりやがる。・・・・オレと、似ているかもな。・・・マックス・ジークフリート、ジン、出る! 」

紫のジンが、

「『ジェミナルトリニィティス』か・・・。使いこなしてやるさ。・・・メイズ・アルヴィース、マステマ、発進する! 」

深い赤紫のガンダムが、攻撃を受けている基地の航空機発着滑走路へと飛び出した。


「んふっ、どうやら真打登場のようね、ネビロス。」

ペルセポネはジン・アサルトシュラウドの左肩の220ミリ径5連装ミサイルポッドで、基地を破壊しながらネビ ロスに通信を入れた。

「あらぁ、どっかで油売ってる『妖精ちゃん』以外にもモビルスーツがあるなんて! なぁんて運がいいのかしら! もう、イっちゃいそう!! 死になっさ〜〜〜い!!! 」

ネビロスのフィーア・ヘルモーズ≪ヨルムンガント≫は、その大蛇の如き蛇腹の下半身で締め付けていた連合の戦闘機を一気に締め壊し、紫のジンとマステマ目掛けて滑空した。

「来るぞ! メイズ! 」
「・・・ああ! 」

マックスのジンは重突撃銃を構え、フィーア・ヘルモーズに連射するが、地上に降り立ったフィーア・ヘルモーズはその蛇腹の機構を駆使して、不規則な動きで地を這うようにそれをことごとくかわす。
早いというよりも、旨い。
そんな操縦であった。

一気にジンとの間合いを詰めて蛇腹の尾を鞭のように振りかざす。

「くっ!! なんだこのMSは! 」

マックスのジンも後ろに跳躍してすんでの所でそれをかわした。

「う〜ん、やっぱりジンはジン同士でやりなさいな、ペルセ! 私はあの赤紫の大盾のヤツを殺るわ! 」

やはり、ジンだと物足りないと感じたのか、フィーア・ヘルモーズは標的をマステマに代え、猛然と地を這う。

「ま、待て、貴様・・・!! ・・」

フィーア・ヘルモーズの背部に向けて重突撃銃を構えるマックスのジンを一筋の光線が狙った。
上空を見上げると。グゥルに乗るジン・アサルトシュラウドの右肩の115ミリレールガン≪シヴァ≫の発射口から煙が上がっていた。

「ねぇ、紫ちゃん。私のピンクちゃんとも、遊んでくれないかしら? 」
「・・・・くそ、空からか! メイズ、そいつは手ごわいぞ! 気をつけろ!! 」

「・・ああ。・・・・よし、大体把握した。特殊攻盾システム『ジェミナルトリニィティス』、試してやる! 」

ナチュラルの軍事基地を舞台に、メイズ、マックスとネビロス、ペルセポネのコーディネイター同士の戦いが幕を開けた。



一方その頃、スローンのブリッジにも救難通信が入っていた。
しかも、2つ。

「艦長! 北欧基地とレジスタンスベースからの救難通信をそれそれ受信! どちらもザフト北欧方面軍オーラルのMSに襲われているとの事です! 」
「そんなっ、私達が出たのを見計らって双方に攻撃を!!? 」

シュンとサユが叫んだ。

「リ、リースお兄ちゃん・・・!! 」

ナターシャの声が震える。
そして、アモンのホログラムがマナに言う。

『マナ、艦長はお前だ。決断しなきゃ、皆が焦る。』
「・・分かりました。総員、第2戦闘態勢!! レヴィン! 急速反転! レジスタンスベースに戻ります! 」
「え、いいのかよ! 北欧基地の方は! 」
「この距離ではスローンの全速でも北欧基地には間に合わないでしょう。引き返す方がまだ意味があるわ! コウ、フルーシェは今すぐMSにて出撃! コウはそのまま北欧基地へ飛んで加勢を! フルーシェはスローンより単独先行してレジスタンスと合流、応戦を! 」
「「了解!! 」」

2名のパイロットはそれぞれの愛機に搭乗する。

『カタパルト接続。空戦型換装パック『ヤクモ』・・・・装着! システムオールグリーン! コウ、無茶しないでね! クシナダ機・スサノオ発進、どうぞっ! 』
「ああ、ありがとうサユ。コウ・クシナダ、スサノオ、出ます!! 」

スサノオが北東の空のかなたに消える。

『システムオールグリーン。フルーシェ、ちょっと待って。』
『・・・お姉ちゃん。』

通信に出た声はナターシャだった。

「・・言わなくても、分かっていますわ。リースも、レジスタンスのみんなもわたくしが必ず守って見せますわ。お任せなさい! 」
『・・・・はい。お姉ちゃんも、気をつけて! 』
『そうよ、フルーシェも気をつけてね! メディール機・ガルゥ発進、どうぞっ! 』
「フルーシェ・メディール、ガルゥ、出掛けますわ!! 」

3つの頭を携えたデザート・ケルベロス、ガルゥが森の中を全力で駆けて行った。

「頼んだわね、コウ、フルーシェ、それにお兄ちゃん。レヴィン! スローンも全速飛行! 」
「了解! マナ姉! エンジンの1つや2つ壊れるかも知れねぇがな。」
「壊れても、私がすぐに直して見せます! 」

珍しく意気込むナターシャの言葉が、クルー全員の心に火をつける。

「よく言った、ナターシャ! それじゃあ、クールに行っくぜぇ!! 」

黄金の座天使も、全力でレジスタンスベースへと飛行した。



北欧基地では、メイズのマステマが動きを見せていた。

「・・・・これでどうだ! 」

マステマの両腕のユニット、特殊攻盾システム≪ジェミナルトリニィティス≫から特殊なコロイド粒子が周囲に散布され、コロイドの霧を作り出す。

「あああああ、我慢できないわ!! 一撃でフィニッシュよ!!! 」

それを気にする事もなく、フィーア・ヘルモーズは右腕にビームジャベリンを構えて高速で地面を這いながら、獲物を狙う蛇の如く一気にマステマ目掛けて跳躍した。
そして、なんとマステマは蛇に睨まれた蛙の如くそのまま微動だにせず、ビームジャベリンにまともに貫かれた。
しかし・・・。

「何ですって!? すり抜けた? 」

フィーア・ヘルモーズのビームジャベリンは体ごとマステマを突きぬけた。
突きぬけた、というにはあまりに手ごたえがない。
振り返ってみると、そこには水面に映る自分の姿に石を投じた時のように、マステマの姿が揺らいでいる。
それだけではなかった。

「な・・・・こいつ・・・量産型だったとでもいうのぉ!? うそぉ!!? 」

辺りには無数のマステマがフィーア・ヘルモーズを取り囲む。
しかし、よく見るとそのどれもが微妙に揺らいで見える。

マステマは、≪ジェミナルトリニティス≫の特殊兵装の一つ、光学偽装領域発生装置≪ファントムコロイド≫で、周囲に展開したコロイドガスの霧に自機の三次元光学映像を投影し、空中に無数の分身を作り出したのである。

その異様な光景に、ネビロスは一瞬動揺した。


「なんだというの? あの赤紫ちゃんは? 」

そして、空中でグゥルを駆るペルセポネのジンもその動きを止める。
メイズとマックスはその隙を逃さなかった。

「・・・落ちろ、蛇! 」

無数のマステマから胸部誘導プラズマ砲≪フレスベルグ≫が一斉に火を噴き、無数の真紅の光線がフィーア・ヘルモーズに襲い掛かる。

「ぐああああああ!!! 」
「ネビロス! 」
「おっと、ピンクのジン! あんたはよそ見してる場合じゃないぜ? 」

バーニアを全開にして跳躍していた紫のジンは重斬刀を構え、一気にジン・アサルトシュラウドの乗るグゥルのエンジン目掛けて切りつけた。

ドォン!

爆発と共にその機能を失い、落下するグゥル。

「この・・・! 油断したわ。なかなかやるのね、紫ちゃん。」

ペルセポネのジン・アサルトシュラウドはグゥルから飛び降り、地上に着地した。

「もう一発! 」

、数十機に分身したマステマからフレスベルグの第2陣が一斉放射される。

しかし!
バシュウゥゥゥゥ!!!

ネビロスはフィーア・ヘルモーズの左腕にもつビームコーティングシールドで、その砲撃を防いだ。

「!! 」
「ふん、そんなチョコザイな戦法が・・・この私に何度も通用するわけがないでしょ!? ちょっと動揺したけど、ユラユラしてるのは幻ね。要は、本体もビームも一つ。一撃目のビームで大体の位置は掴んだわ・・2度目で、さらに完璧に・・・・そこぉぉぉ!!! 」

フィーア・ヘルモーズの蛇の尾が起き上がり、その先端に内蔵された、レールガン≪シヴァ≫が無数のマステマの幻を掻い潜り一直線に空を裂く。
そして・・。

ズガァァ!!

見事にマステマ本体に被弾した。
メイズはかろうじて、≪ジェミナルトリニィティス≫の大盾で機体への損傷は防いでいた。

「・・・なんてヤツだ! たった2度の射撃で『ファントムコロイド』を見破って、さらに正確に攻撃してくるなんて。」
「さあ、もう私にはそのちんけな幻は効かないわよ? そら、どうするぅ!! そらそらそら!!! 」

フィーア・ヘルモーズは尾のレールガン≪シヴァ≫を連射し、的確にマステマを射撃した。

「メイズ!! ・・・くそ、あの蛇の機体、やはり強い!!加勢に行かなければ・・・・ く!!! 」

ジュバァァァァl!!!

薄桃色のジン・アサルトシュラウドのビームサーベルと紫のジンの重斬刀がぶつかり、煙と火花を上げる。

「そうそう、いいコね。紫ちゃんの相手は、私のピンクちゃんよ。少しはこのコを満足させてちょうだいね? 」

マックスのジンはカラーリングとチューンこそマックス仕様ではあるが、武装そのものは通常のジンと変わらない。
アサルトシュラウド装備をし、ビームサーベルを所有するペルセポネのジンと比べれば明らかに分が悪かった。

「くそ! 邪魔するな!! ピンクのジン!! 」

マックスは重斬刀でビームサーベルを思い切り上方に跳ね上げ、後方に後退して再び間合いを取った。
2機のジンが向かい合い、構える。


メイズの方はフィーア・ヘルモーズの正確な狙いのビームを何とかかわしていた。

「・・く! これでは、『ファントムコロイド』はエネルギー損か・・・。」

≪ファントムコロイド≫を解除したマステマは、一変してビームをかわす動きを止めて両腕の大盾を構えた。

展開された第2の特殊兵装、≪ゲシュマイディッヒパンツァー≫が≪シヴァ≫の光線をことごとく捻じ曲げ、マステマの脇を流れていく。

「へぇ! あの連合の新型はホントに面白い機体ね。ビームを曲げるなんて・・・欲しくなっちゃった。・・・でもぉ! 」

うねる様にして再び大蛇がマステマに急接近する。

「やっぱり、我慢できないわぁぁぁぁぁ!! ぶっ壊す!!! 」

フィーア・ヘルモーズの不規則な動きに翻弄されながらも、マステマは頭部の≪イーゲルシュテルン≫で牽制してその動きを捉え、ネビロスの繰り出したビームジャベリンを左の≪ジェミナルトリニティス≫で受け、≪ゲシュマイディッヒパンツァー≫で拡散させる。

そして、右の≪ジェミナルトリニティス≫の手刀状の特殊鋼刃、重刎腕斧≪アンフィスバエナ≫をフィーア・ヘルモーズの脳天に振り下ろす。

しかし、それはフィーア・ヘルモーズのビームコーティングシールドに阻まれ、膠着状態となる。

「・・・かかったな!! 」

メイズはその体勢のまま、胸部誘導プラズマ砲≪フレスベルグ≫を至近距離で発射しようとエネルギーを貯める。

「甘いわ!! 」

その刹那の瞬間をネビロスは見逃さなかった。
素早く蛇腹型の下半身の尾の先端を振り、マステマの胸部のフレスベルグ発射口にハンマーのように叩きつける。

ボォォン!!

「ぐ!! くそ!! 」

小さな爆音と共に発射口は損壊し、マステマの≪フレスベルグ≫は使えなくなってしまった。
もちろん、フィーア・ヘルモーズの≪シヴァ≫も壊れたが、ネビロスにとっては些細なことであった。
既にこれだけの至近距離にいるのだから!

「うふふふふふ! 捕まえたわよぉ! 」

不意をつき、フィーア・ヘルモーズの下半身がマステマにまき付いて締め上げる。

「し、しまった!! 」

メキメキメキ!!

TP装甲ですら軋むほどの強力な力で、フィーア・ヘルモーズの蛇の体がマステマの五体を締め上げてゆく。
≪イーゲルシュテルン≫の反撃も空しく空を撃ち、マステマのコクピットにアラームの音が鳴り続ける。

「く・・・このままでは、圧壊する! 」
「あら、圧壊なんてさせないわよ。黒ヒゲ危機一髪って知ってるかしらぁん?・・・このビームジャベリンでぇぇぇぇ!!!」

マステマを締め上げる蛇腹の隙間を狙ってネビロスはビームジャベリンを構えた。
それは、ちょうどメイズのいるコクピットの位置!

「メイズ!!逃げろぉ!!」
「ンフ、残念ね。お友達はお先に天国に行くそうよ? 」

マックスが叫び駆けつけようとするが、ペルセポネがそれを阻む。

「死ねぇぇぇぇぇぇ!! 」
「・・くそ!! 」

「待てぇぇぇぇ!! 」

その時、空のかなたから一振りの剣が飛来した。
空を裂き投げつけられた9.98m対PS超高熱空斬剣≪ツムハノタチ≫は、その赤熱した刃をフィーア・ヘルモーズの脳天に向け一直線に落下してゆく。

「・・く! 」

フィーア・ヘルモーズはとっさに巻き付いていた蛇腹を解いて上体を交わすが、下半身の蛇腹の1/3ほどが交わしきれず、≪ツムハノタチ≫でトカゲの尾のように切断された。

その場にいた全員が空を見上げる。

マックスが、 
「・・・あれは!? 」
ペルセポネが、 
「なに!? 連合のMSなの!? 」
ネビロスが、
「うふふふ。また、会えたわねぇ・・・・! 」
そして、メイズが
「・・・白い、ミコト・・!!? 」

それぞれに口にする。

「地球連合軍第49独立特命部隊所属、コウ・クシナダです! オーラルのMS撃退に、加勢します!! 」

荒ぶる風の神が、その北欧の緊迫した大空に姿を現した。

〜第20章へ続く〜



  トップへ