Phase-Final It is deeper than the sea and valuable

 目の前には漆黒の巨人がいる。
 その巨人動けば 地面が揺れる。
 風が震える。
 水は蒸発し、炎は全てを焼き尽くす。

 その戦いはまるで、地獄絵図だった。

「ぐああああああああああああっ!?」

「コーレル!」

 今もまた、仲間が死んだ。
 Project Destroyを阻止するべく、デストロイに果敢に挑むルーウィンたちだが。
 デストロイとの力の差は歴然だった。

 戦闘開始から20分。
 既に3割以上の被害を受けていた。
 このまま行けば、わずか一時間足らずで全滅してしまう。

 絶望的ともいえる戦い。
 デストロイは自分に群がるMSをまるで羽虫でも殺すかのように倒していく。

「固まるな、狙い撃ちにされるぞ! 散開して、攻めるんだ!」

 ルーウィンが指示を出す。
 デストロイの弱点はその機動性の低さ。
 そこを逆手に取れば正気はある。

 だがそれをあまり補う攻撃力と防御力。
 避けるので手一杯で、反撃に移れない。

 両腕部飛行型ビーム砲「シュトゥルムファウスト」がデストロイから切り離される。
 縦横無尽に飛び回るそれは、的確にかつ素早くMSを倒していく。

 冗談じゃない。
 ルーウィンは唇をかんだ。
 何なんだよこれは。
 シュトゥルムファウストがストームに迫る。

 既に眼前に。
 スラスターを切り、落下を利用してそれを避ける。
 そして再び急上昇。
 そのままビームサーベルで斬りつける。
 
 シュトゥルムファウストを一つ破壊するも、まだもう一つ残っている。
 シュトゥルムファウスト一つでMSの働きを補っているような気がした。
 それほどまでにデストロイは驚異的だった。


***


 戦闘は混迷を極めていた。
 確実にデストロイにダメージを与えているが、それ以上にルーウィン達の被害が大きい。
 
 気が付けばファンダル基地に大分近づいている。
 ここからならばデストロイの兵装をもってすれば直接攻撃が可能である。
 デストロイに固執するあまり、自分たちが今どこにいるかを忘れていた。

「くそ……まずいぞ、ルー!」

「分かってる……」

 デストロイを撃破しなければならない。
 もうこれ以上進ませるわけにはいかない。
 
 そこでProject Destroyのデータの事を思い出した。
 デストロイを破壊したら、それが引き金となりサイクロプスが発動する。
 そうしたら間違いなく自分たちは終わりだ。

 更に追い討ちをかけるように、ファンダル基地からの指令。

『敵駐屯基地内に高エネルギー反応を確認! ローエングリンです!』

 最悪だった。
 ローエングリンのチャージが始まったのだ。
 ここまで追い討ちをかけられるとは。

『第一、第四、第六小隊はギリアム駐屯基地へ向かえ!』

 ギリアム駐屯基地も同時に陥落させる。
 それがペイルの狙い。
 その指揮はリーファスに任された。

「ルー、そっちは任せたからな」

「おう、任せとけ」

 リーファスのディンと、9機のMSが戦線を離脱した。
 残っているのはルーウィンのストームと12機のMS。

 ストームが飛んだ。
 アムフォルタスビーム砲とビームライフルを構え、同時に放つ。

 まだだ。
 まだ落ちるなよ、ストーム。
 せめて、この戦闘だけは。
 
 そんな気持ちが、ルーウィンにはあった。
 ストームは気まぐれ。
 それはまるで風のように気まぐれで。

 思えば振り回されっぱなしだった。
 初めてこのストームを受領した時、何て凄い性能だとその目を疑った。

 その性能の裏にはとんでもない暴れ馬がいたものだが。

「ストーム、お前は……」

 意識がアラートによって現実に引き戻された。
 デストロイが変形し、背部高エネルギー砲「アウフプラール ドライツェーン」を構えていた。

 ルーウィンの背筋が凍る。
 そしてデストロイ、ストーム、ファンダル基地、ラケールの位置関係を確認していた。

 目の前にはデストロイ、背後にはファンダル基地。
 その基地の南西にラケール。
 基地とデストロイのちょうど中間にストーム。

 もしも「アウフプラール ドライツェーン」が放たれ自分が避けた場合、ファンダル基地、ラケールは消滅する。
 避けなくてもファンダル基地とラケールは、ストームと一緒に消滅するだろう。

 ここまで、か。
 結局は勝てない戦いだったのか。

 守れなかった。
 基地を、ラケールを、フィエナを。

『貴方は貴方、何のためにザフトに入隊したのですか……?』

 フィエナの言葉がよぎる。
 そうだ。
 あの時思い出したじゃないか。
 
 自分は大切なものを守るためにザフトに入隊した。
 そしてMSパイロットになった。
 色々な人に支えられて励まされて。
 自分はここにいる。

 そんな人々を裏切るのか、俺は。

「そう、だったな。もう少しの間、俺に付き合ってくれよ、ストーム!」

 ストームのコンソールキーボードを操作する。
 それは今まで封印していた最高の盾。


 ゲシュマイディッヒ・パンツァー。


 ストームのシールドにはそれを発動できるシールド。
 しかしながら今の今までルーウィンがゲシュマイディッヒ・パンツァーを封印していたのにはもちろん理由がある。

 ゲシュマイディッヒ・パンツァーはその偏光フィールドを発動させるために大量のエネルギーを消費する。
 それは試作型ハイパーデュートリオンシステムを装備しているストームならば問題は無いように思えるが。

 試作型ハイパーデュートリオンシステムはあくまで試作型。

 使用量が一定量を越えると機体に負荷がかかるために、ダウンするという代物である。

 何度かルーウィンはゲシュマイディッヒ・パンツァーを発動させ、ストームが動かなくなるという事態に陥った事がある。
 それがあるから、今日まで封印してきた。

 だけど今は違う。
 これは一つの賭けでしかないけれど。
 理論上はフリーダムのフルバーストにも耐えられる代物と言われている。

 だったらやってみせる。

「ロンファンさん、俺は貴方を信じる!」

 ストームのメンテナンスをしてくれたロンファンのためにも。
 ゲシュマイディッヒ・パンツァーを発動させた。

 同時に、デストロイの「アウフプラール ドライツェーン」が発射。
 それは真っ直ぐに、ストームへ。

 ゲシュマイディッヒ・パンツァーの偏光フィールドに「アウフプラール ドライツェーン」が接触した。
 激しいまでの風が、衝撃が、辺りを走り回る。

 ストームが悲鳴を上げている。
 持ちこたえてくれ。
 更にゲシュマイディッヒ・パンツァーの出力を上げる。
 ここで、ここまで来て。
 落とされてたまるか。

「なめるな……」

 ルーウィンはデストロイを睨んだ。

「なめんじゃねぇぞ!」

 ヘルメットを脱ぎ捨てる。

「惚れた女一人守れねぇで、MSパイロットが務まるか!!」

 ストームが少しずつ押し始める。
 そして。

 「アウフプラール ドライツェーン」の光が曲がった。
 それは右に曲がってでもなく、左に曲がったでもなく。
 天に、昇っていった。

 これでひとまずは安心か。
 
「ご苦労だったな、ストーム……」

 ルーウィンは死を覚悟した。
 が、まだ終わっていない。
 それを告げるようにストームの駆動音が耳に入る。

 まだストームは生きている。
 試作型ハイパーデュートリオンシステムは。

 落ちていない。
 
 デストロイは。

 反動で動けない。

 勝機が、見えた。

 ストームのビームサーベルが握られた。
 破壊はしない。
 だが、叩き潰す。


「ストーム、お前は……最高の機体だ!」


 ストームが走る。 
 この一撃で終わらせる。
 ビームサーベルがデストロイのコクピットを貫いた。


***


「馬鹿な……! デストロイが……Project Destroyが、失敗したというのか……!」

 アルベルトはギリアム駐屯基地の司令室で愕然としていた。
 ローエングリンも破壊された。
 そして彼もまた、その道を外れていた。

 かくなる上は、手動でサイクロプスを発動させるしかない。

「ふはは、ふはははははははははははははははははっ! コーディネイターめ、ざまをみろ! 死ね、死んでしまえ!」

「それはどうかな」

 アルベルトの左胸を銃弾が貫いた。
 口から、胸から鮮血があふれ出した。

 その勢いのまま、アルベルトは倒れ絶命した。

「ルー、こっちは終わったぜ」


***


 戦闘終了後、ファンダル基地総出で事態の収集を行なっていた。
 ギリアム駐屯基地は完全降伏をした。
 
 ルーウィンも当然、駐屯基地で様々なデータを調べていた。
 ギリアム駐屯基地が、ガルナハンのローエングリンゲートの開発場所だった事。
 ロドニアと言う場所にあるエクステンデッド研究所の、次期研究所に任命されていた事。

 そんな事が分かった。

「こっちは終わりましたよ、隊長」

「そうか、ご苦労だった」

 ペイルはルーウィンからディスクを受け取り。
 
「さて、ルー。お前はまだやる事があるだろう?」

「はい?」

「彼女を、迎えに行ってやれ」

 ペイルは肩に手を置いた。
 ここは任せろ、と言う彼からの無言のメッセージ。

 ルーウィンは基地を飛び出した。

「若いって良いよな?」
 
 ヒナミに問う。
 それはいつか聞いた事。

 ヒナミは努めて冷静に。

「そうですね。私も、そろそろ見つけなきゃ」

 そういって笑みを浮かべた。


***


 ラケールでは戦闘終了にあたり、人々が戻ってきた。
 フィエナもライルたちに連れられて、我が家に戻ってきた。

「兄ちゃん、遅いな」

「大丈夫です……」

 消え入りそうなほど小さな声で。
 
「ルーウィンさんは来ます……」

 その時だ。
 どこからかMSが飛来した。

「だってあの人は……」

 MSが着陸する。
 パイロットが地上に降りた。

「優しい人ですから」

 ヘルメットを外したパイロット。
 灰色の髪が風に揺れ。

 フィエナの前に立った。
 フィエナは目の前にいる人が誰だか分かっていた。

「おかえりなさい」

「ああ、ただいま。そして」

 男はフィエナを抱き寄せ。

「迎えに来た、フィエナ」

(Phase-Final  完)

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