Phase-5 Project Destroy
ギリアム駐屯基地司令室。
アルベルトなあの廃棄された基地より持ち帰ったディスクをセットし、中の情報を確認していた。
Project
Destroyに関する情報。
前々より計画されていたが。
「しかしながら凄い計画ですね、一体誰が立案を……」
副官が言う。
「ロード・ジブリールさ。あの男はいまや地球連合軍の指揮系統自体をその手中に抑えている」
「なるほど……」
恐ろしい男よ、と。
アルベルトは続けた。
もしこの南アメリカで成功すれば、他の地域でも成功する実がある。
アルベルトはこの作戦の指揮を任されている。
もし成功すれば、その功績に一気に華が飾られる事になる。
「それにしてもディスクを忘れるとは……もしザフトに回収されていたら」
「分からんのか?」
アルベルトがディスクを取り出す。
「コレはザフトのディスクだ」
「……と言う事は」
「あの場にいたと言うことだ。おそらくディスクにデータを入れていたときに、我々が来たので慌てて隠れたんだろうよ」
アルベルトには全て分かっていた。
あの基地の通路には埃が積もっていた。
地球軍のブーツの他に、もう一つ。地球軍製の物以外のブーツの跡があった。
「もうザフトにはばれているだろうよ、このプロジェクトの事は」
「では……」
「Project
Destroyを本日決行する。作戦開始時刻は13:00。各員に通達しろ」
基地中に指令が下る。
さあ狂え。
さあ泣き叫べ。
全ては、私の手の上だ。
***
よくよく考えたら、もの凄い事になっていると思った。
ルーウィンは昨日の事を思い出していた。
『大丈夫だ。俺はフィエナを置いて、どこにもいかない。そうさ、決して』
『俺はいつでもフィエナの隣にいる。いつまでもな……』
何と言う事言ってしまったんだ、自分は。
ついその場の雰囲気と、ノリで。
(別に後悔しているわけじゃないけど、ああ言うのはきちんと段階と言うものがあって……。落ち着け、落ち着くんだ)
「……どうした?」
隣にいたリーファスが声をかける。
そのほかにもヒナミやペイルの視線が痛い。
「リーファス、ちょっと良いか?」
「何スか?」
整備士に呼ばれ、司令室から出るリーファス。
ルーウィンはひたすら悩んでいた。
フィエナも戸惑っていたと思う。
何より行ってしまった自分も。
でも、フィエナの叫びは悲痛だった。
自分に何が出来るだろう。
そう考えた時、あの言葉が自然と出てきた。
覚悟を決めろ、ルーウィン。
「……? この反応……!」
ヒナミが言う。
直後にアラートが鳴り響いた。
「どうした!」
「北西より熱源接近! ライブラリ照合! GFAS-X1 デストロイです!」
「デストロイ……!? まさか」
ペイルの考え。
それは唯一つ。
Project
Destroyの始動。
すぐにMSの出撃命令が下される。
「隊長、ちょっと良いですか?」
もう、時間が無い。
悩んでいる暇など、いつまでもあるわけが無い。
ルーウィンに連れられて司令室を出るペイル。
周りに人はいない。
そこでペイルはルーウィンからある事を告げられた。
「……それはお前が決めたことなのか?」
「……はい」
「それで後悔はしないんだな」
「はい」
ルーウィンは本気だった。
先ほどまでのヘタレ具合が嘘のように。
「分かった。お前が決めたことなら、そう言うことで話を進めておこう」
「すいません」
「それと、今すぐ発進しろ」
「……?」
司令室の扉が開く。
「あの子に、フィエナちゃんに一言言って来い」
***
ストームがどの機体よりも先に発進する事になった。
ペイルの計らいで。
ルーウィンはそのコクピットの中で、アムルから貰った手紙を読んでいた。
「攻めるべし……か」
デストロイがファンダル基地に到達するまで約3時間。
それまでに撃墜するしかない。
もしかしたらこの戦いで自分は死ぬかもしれない。
その前に、ちゃんとフィエナに伝えなければ。
自分の気持ちを、全てを。
「リヴェル機、発進どうぞ!」
ヒナミの声がコクピットに響く。
そして小さく。
「ルーウィン、頑張りなさいよ?」
いつもは無愛想なヒナミから後押しの激励。
「………はい! ルーウィン、リヴェル、ストーム! 出るぞ!」
ストームが発進する。
変形し、まずはラケールへ。
***
ラケール近辺に避難勧告が発令された。
民間人が逃げ惑う。
もちろんラケールでも。
フィエナは戸惑っていた。
こういう時、誰も助けに来てくれない。
彼女は一人、家の中で座っていた。
辛かった。
目が見えないことではない。
皆がこういう時、手を差し伸べてくれない事が。
「フィエナ! フィエナ!!」
荒々しい音と共にルーウィンが入り込んだ。
「ルーウィンさん……?」
「やっぱり、まだ家にいたか」
「ルーウィンさん……私」
彼女は泣いていた。
動けなかった。
怖かった。
「私、皆に置いていかれたと思うと……動けなくて、怖くて……」
涙が流れ始める。
その場に座り込み、嗚咽と共に泣き始めた。
「私……こんなにも目が見えないことに対して怖いって感じた事は無い……の」
気が付くと外の喧騒が収まりつつあった。
皆避難し終わったのだろう。
残っているのは、ルーウィンとフィエナだけ。
「私、私……どうすればいいんですか………?」
「頼れよ」
「………ぐす」
「俺がいるだろ?」
「でもルーウィンさんはこれから……」
「ああ、だから言いに来たんだ」
ルーウィンは改めて。
フィエナを抱き寄せる。
「俺がフィエナの目になる」
「え、な、ふえ……?」
器用じゃない。
伝わらないかもしれない。
それでも、ルーウィンは伝えたかった。
フィエナに、好きな人に。
思えば出会ってから、数日しか経過していないけど。
「俺が、フィエナのそばにずっといる」
これで、良いんだ。
これで思い残すことなく戦える。
大切な人を守るために全力で、全ての力で。
「……この戦いが終わったら、俺はザフトを抜ける」
「? どうして……」
「フィエナ、君と一緒にいるために」
つまり。
それは。
そう言うことだ。
「改めて言う。フィエナ、好きだ」
まるで時間が止まったように。
フィエナは声を出すまでにやたらと時間がかかった。
再び涙が流れる。
「……………はい」
二人の唇が重なる。
「ん……」
唇を離し、ルーウィンはフィエナを玄関まで連れて行く。
向き直り、言う。
「行って来るよ、フィエナ」
「行ってらっしゃい……ルーウィンさん」
ルーウィンがストームのコクピットに入り込む、その直前。
「兄ちゃん!」
ライルをはじめ、町の皆がそこにいた。
フィエナを迎えに来たのだ。
「すまないな、案外手間取っちまってよ!」
「でしょうね。大変そうでしたから」
「フィエナちゃんのことは私たちに任せてさ」
「行ってきなよ?」
皆がいてくれる。
皆が自分のそばにいる。
フィエナは、皆に連れられラケールを出た。
***
さて、行こうか。
デストロイを、殺戮のための機会兵を倒しに。
フィエナは皆と一緒だ。
不安になることは無いだろう。
ストームが宙に浮く。
そのまま合流地点へと向う。
もう思い残す事は無い。
不思議と操縦桿を握る手が落ち着いている。
もしかしたら今から死ぬかもしれないのに。
「いや、大丈夫だ……」
今のルーウィンには大切な人がいる。
全てがある。
合流地点には皆揃っていた。
ザクウォーリアにディン、シグーにガズウート、バクゥ。
その中のディンからの通信。
「よう、ルー。やっと来たか」
声の主は、リーファス。
ルーウィンとリーファスが話をしていると。
各機のレーダーが同時に反応した。
反応は1。
それぞれのライブラリの照合結果。
それは、漆黒の機械人形。
GFAS-X1 デストロイがその巨体を現わした。
さあ、いよいよだ。
生きるか死ぬか。
始めよう。
壊されるか否かの戦いを。
(Phase-5 完)
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