Phase-2 Strong Heart
「ストーム、発進どうぞ!」
ファンダル基地からストームが発進した。
他の格納庫からもザクウォーリアやシグー、ディンが出撃した。
現在ファンダル基地から北東20キロの地点にて地球軍とザフト軍が衝突。
戦闘が開始されていた。
ルーウィン達はその援軍として、戦場に向っていた。
「しかし、地球軍の奴らも急だな」
「確かに」
ルーウィンの応答に答えたのは、ブレイズザクウォーリアに乗っているリーファス。
今回、ザフト軍が侵攻しているのを地球軍が見つけ、戦闘を仕掛けたというわけではない。
ザフト軍は南アメリカを調査していたのだ。
最近、南アメリカにて不穏な高エネルギー反応を多数感知した。
それの調査に来ていた部隊が襲撃を受けたのだ。
「よっぽど何かを隠したい……そう考えるのが妥当かな?」
「だろうな。ギリアム駐屯基地にはローエングリンが設置してある。まだ何か隠していてもおかしくない」
ルーウィンはあの基地で見たことを思い出していた。
もしかしたらまだローエングリンは製造されているのかもしれない。
つまりはローエングリンは一つでは無いと言うこと。
そうでなければ地球軍がこんなにも急に戦闘を仕掛けることはない。
『まもなく作戦地点です。皆さん、注意してください』
オペレーター、ヒナミから指示が出る。
ルーウィンたちも確認した。
爆発を目視している。
「仕掛けるぞ! 作戦開始だ!」
ルーウィンのストームを戦闘に各機散開する。
ルーウィンとリーファスが先頭に出る。
残りの機体も散り、地球軍の機体を撃破していく。
「こちらはファンダル基地のルーウィン・リヴェル。援護に来ました!」
『助かった。援護を頼む!』
ストームのライフルが火を吹き、リーファスのブレイズザクウォーリアの突撃銃が敵を貫く。
戦闘は終始、ルーウィン達が押していた。
しかしながら戦況と言うものは時間と共に変化する。
どんなに優位に立っていても。
どんなに劣勢に立たされていても。
一つの「きっかけ」でその戦況は変わってしまう。
そう、今のように。
『皆さん!』
ヒナミからの通信。
声で分かる。
慌てている?
「どうした?」
『高エネルギー反応が接近中! 会敵予測……10秒後です!』
ストームのレーダーでも捉えた。
何かが、来る。
青い空の彼方から何かが飛来した。
それはMSでも、MAでもない。
陽電子の光。
ローエングリン。
ギリアム駐屯基地においてあった「あの」ローエングリンだった。
これで全ての合点がいった。
最近観測されたエネルギー反応は、ザフトをおびき寄せるための物。
そのために地道にエネルギー反応をわざを観測させるように放っていた。
そしてザフトがその調査にきた時に戦闘を仕掛け、その場に留まらせる。
地球軍は最小限の戦力で戦いを挑み。
ザフトの調査隊に大損害を与えるために。
そう言えば前大戦時に誰かが言っていた。
こちらの損害は最小限に、敵には最大限の損害を。
それが地球軍の狙い。
「馬鹿な……! 味方を巻き込んでの超長距離射撃だと……!?」
ルーウィン以下ファンダル基地からの援軍部隊の被害は調査隊に比べれば、大分少なかったが。
それでも、被害が無いと言うわけではない。
ルーウィンとリーファスは無事だったが、敵を倒しに先行したザクウォーリアやディンは助からなかった。
「帰還……するぞ」
ルーウィンの指示に従い、残った者はファンダル基地に戻っていった。
***
帰還したルーウィン達だが、その心は暗かった。
ローエングリンが放たれた。
そのことが何を意味するか、容易に想像できる。
我々はいつでも貴様達の基地を狙える。
そう言う無言のメッセージ。
「くそっ……!」
乾いた音が響いた。
「荒れているな、ルー」
「ペイル隊長……!」
ペイル・ヴェイン。
この基地の総司令兼隊長の任についている男
ルーウィンがこの基地に配属になったときからの付き合いである。
ペイルはルーウィンをなだめるように言うが。
とうの本人は怒りが収まっていない。
仲間を巻き込んでの攻撃なんて。
許されるはずが無いのだ。
その理不尽なまでの攻撃に、ルーウィンは地球軍に対しての怒りを抱いていた。
「あんな攻撃……許されるんですか! 仲間を巻き込んでまで、俺たちを根絶やしにしたいんですか!」
「落ち着け、ルー」
「そんなの、そんなの! ただの虐殺まがいの」
「ルー!」
一際大きい声。
そこで我に返る。
これ以上、何を言おうとしていた。
「地球軍も我々も、戦争をしているんだぞ! ボランティアでも、何でもないんだ! 殺し合いをしているんだ!」
「殺し、合い……」
自分達は軍人で、MSに乗っている。
そして殺し合いをしている、戦争をしている。
先の攻撃も、作戦としてみれば結果的に成功といえるだろう。
囮を使った立派な作戦なのだ。
「そんなの、納得なんて出来ない!」
「ならば今すぐザフトをやめるんだな」
「なっ……」
「もう一度言う、我々は戦争をしているんだ。それが出来ない、納得がいかないというのならザフトをやめるんだ」
***
ストームのコクピットの中でルーウィンはうずくまっていた。
どうするべきだろう、自分は。
地球軍のあの攻撃に怒りを感じ。
自分達が殺し合いをしているという事を忘れ。
何をしているんだ、自分は。
素直すぎるんだ、お前は。
ザフトに入りたての頃にペイルに言われた事。
素直すぎるといわれたのを思い出した。
素直なのは良いことだ。
しかしそれは戦場において、死を招きかねない要因となる。
軍人は常に冷静であれ。
それもあの隊長の受け売りだ。
でも、自分は。
自分を捨てる事なんてできない。
ストームのコクピットを降り、ジープに乗り込んだ。
***
フィエナは外にいた。
心地よい風が彼女の髪を撫で回す。
昨日出遭ったルーウィンの事を思い出していた。
盲目のため、外見など分からないが。
声で分かる。
「あの人は……悪い人ではないわ」
外見とか、色々な事が「見えない」けど。
ルーウィンは悪い人ではない。
そう考える事に対して、理由なんて要らない。
生まれてから盲目で、父の顔も母の顔も知らないフィエナ。
その人の声で、雰囲気で分かる。
良い人か悪い人か。
「……? 車……」
遠くから車の音が聞こえてくる。
段々と近づき、フィエナの前で停まったようだ。
「やあ」
「ルー……ウィンさん?」
***
一日ぶりに会った盲目の少女。
しかし長い間会っていないような、そんな気がして。
「どうぞ」
「ああ、ありがとう」
ルーウィンは紅茶を口に含んだ。
昨日と同じ紅茶だろうか。
クッキーを一口かじり、皿に置いた。
「……? あの、美味しくなかったですか?」
「いや、そうじゃなくてね」
ルーウィンの声が重い。
フィエナはすぐに彼が迷っている、悩んでいる事を感じた。
そっと、彼の机の上の手に触れた。
「なに、を……?」
「私には分かります。貴方は悩んでいる……迷っている」
確かにその通りだった。
しかしこんなにも簡単に見破られるとは。
やはり自分は素直な人間なのだろうか。
「敵わないな……フィエナ、君には」
ルーウィンは口を開いた。
「確かに悩んでいてね。ちょっと隊長に怒られたんだ。さっき戦闘があったんだ。そこで地球軍は仲間を巻き込んで俺たちを殺そうとした」
思い出したくも無いあの戦闘。
しかしこれから話すには語らなければならない。
「俺達は軍人で、戦争をしているって。そのためにはどんなに納得のいかないことも、しなければならない……」
「……」
「それが出来ないのならば、ザフトを辞めろってさ……。どうすればいいんだろうな、俺は」
「迷う事は、無いと思いますよ……」
フィエナが言う。
今のルーウィンにとっては何よりも明るい灯火。
フィエナに次げた事で彼女が事細かに理解できるはずが無い。
しかし、彼女は彼女なりのアドバイスを、ルーウィンに告げた。
「貴方は貴方、何のためにザフトに入隊したのですか……?」
「何のために?」
何のために。
何故自分はザフトに入った?
最近では忘れかけていたこと。
自分にとって大切な物を守るために。
守るべき物を失わないために、ルーウィンはザフトに入隊した。
それはプラントに住む家族であり、友達であり。
そして、フィエナ。
彼女を守りたいという想いが、今のルーウィンにはあった。
「あ……」
「その気持ちを忘れなければ、おのずと道は見えてくるはずです……」
ルーウィンの進む道。
守るべき物のために。
そしてそのことを思い出させてくれた彼女のために。
自分はザフトを辞めずに、残るべき。
例えこの先、どんな事が待っていても乗り越えてやる。
それが自分が自分であるべき事だから。
「ありがとう……。何だかすっきりしたよ」
「ふふ、でしょうね。声が、明るくなりましたもの」
やっぱり自分は素直であるべきだ。
冷静な自分なんて考えられない。
「ところで」
「ん?」
「良いんでしょうか、私の家に来ても」
言うのを忘れていた。
1日4時間ほどならフィエナの家に来ても良いと言うことを。
あの隊長、物分りだけはずば抜けて良い。
そのことを告げると、フィエナの頬が紅潮した。
「では、毎日来てくれるんですか?」
「まあ、そう言うことになるかな」
「それでは、毎日新しい紅茶を用意しておきますね」
***
さて、時間が来た。
フィエナの家の前のジープに乗る。
「それじゃあ、また今度」
「はい。お気をつけて」
ジープが出る。
急いで戻らないと。
隊長は時間に五月蝿いから。
さて基地にたどり着くのに森を抜ける必要がある。
舗装されていない野性のままの道をジープが進んでいく。
「うぉぉぉぉ……やっぱりこの道は苦手だ……」
ガタガタとジープが揺れる。
と、不意に辺りが揺れた。
それは爆発音とともに。
ルーウィンはジープから降り、辺りを警戒した。
ジープのダッシュボードに隠していた銃を手に。
何かがいる。
「何だ? 近いけど……」
うっそうと茂る草を掻き分け。
森の奥へと進む。
先ほどの爆発、まるで先の戦闘のローエングリンのような爆発だった。
まさか。
まさかな。
そんな嫌な考えが頭をよぎる。
目の前が開けた。
光で溢れている。
そこにいたのは、漆黒の巨人。
ドーム型の頭部、逆間接の脚部。
そして全身にくまなく装備された砲門。
GFAS-X1 デストロイ。
それが、ルーウィンの前にいた。
(Phase-2 完)
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