Inter Phase 2  宇宙、全ての集う場所

 スカンジナビア王国。

 ヨーロッパ北部のスカンジナビア半島州域に位置する、中立国家。

 現存する中立国では、オーブに次いで巨大な中立国家として存在している。

 その思想はオーブのそれに影響されているところが多く、ナチュラル、コーディネイターの共存を主としている。

 ミストラルが入国したのは、北欧紛争終結より2日後の事だった。

 ほぼ日程どおりに到着をした。

「ミストラル艦長、リエン・ルフィード大佐だ。この度の受け入れ、感謝する」

「スカンジナビア第十三代国王、サマルだ。オーブよりその旨は聞いている。すぐに宇宙へと上がれるように作業を行うように指示はしてある」

「早いもので」

 中々和やかな雰囲気ながら、どこか探るようにリエンは口を開く。

 今でこそ遊撃艦のような立ち位置にあるとはいえ、元々は地球軍の艦。

 それをこうもあっさりと入港させるとは。

 オーブのように技術提供でも望むのだろうか。

 しかしながらそのような話は出ず、本当に下心も無く受け入れをしたようだ。

「宇宙での事はこちらに報告がきている」

 サマルが報告をまとめた用紙をリエンに手渡す。

 その用紙を読んでいく。

 現在、アークエンジェル、クサナギはL4コロニー「メンデル」に駐留している。

 未だ目立ったトラブルなどは無いようで、現在は戦艦の整備などに徹底をしている。

 何よりもまずはアークエンジェルとクサナギの無事を確認できた。

 それだけで嬉しかったが。

 何も喜ばしい事ばかりではない。

 地球軍月面ノースブレイド基地がザフトの襲撃を受けたと言う知らせも入っている。

 今や地球軍ではないのだが、念のために。

 それにしても。

 リエンは用紙の一部分をじっと、見ていた。

 L4コロニー、メンデル。

 かつて人々の夢が集まり、栄華を極めた場所。

 夢が集まり、同時に欲望が渦巻いて夢を食べ。

 滅んでいった場所。

「これも、神の思し召しってヤツなのか……」

「何か?」

「いや、何でもない。こちらのことだ」

 少々キラ・ヤマト、そしてロイド・エスコールには苦い場所かもしれない。

 そのロイドはブレイズについて考えていた。

 少なくとも2回、ブレイズに乗っていて違和感を感じた事があった。

 一度目は北欧に到着してすぐの時、セフィとの戦闘。

 二度目は決戦時、敵の隊長と戦ったとき。

 そのどちらも、自分は非常に興奮していた。

 興奮していたが、判断能力などは逆に向上していたような気がする。

 あの感覚は何なのか。

 ロイドはブレイズを見上げる。

 今でこそ灰色の、無機質なMSだが。

 そのそのブレイズに乗るときに装着するヘルメットにはコードがついている。

 戦闘データのフィードバックと思っていたのだが、どうやら違うようだ。

「何とかして調べられないかな」

 ドックを駆け上り、ブレイズのコクピットに入る。

 OSを立ち上げて、調べる事に。

 不慣れなキーボード、手間取ってしまう。

 調べてみても、特に変わったところは無い。

 思い過ごしだったのだろうか。

 いや、そんなはずは無いのだ。

 確かに戦闘中に妙な感覚を覚えたのだ。

 あれが幻と言うのなら、何が現実なのだろうか。

 しかしながら何回調べてもおかしいところは無いのだ。

 ならばあの感覚は何なのだ。

 次第に苛々が募っていく。

「……あ」

 ふと、自分の顔が翳ったので前方を見る。

 セフィがいた。

 目が合うと、物陰に隠れてしまう。

 コクピットを乗り出して、声をかける。

「何してんの?」

「……ロイドが、いないから」

 探していたと言う。

 特に約束はしていないはずだが。

 彼女にとってロイドはこの艦で唯一、話の出来る人間だから。

「ちょうど良いや。セフィ、こっち来てみ」

「……なぁに?」

 ロイドからの説明を受けて、セフィはそれを了承した。

 コーディネイターのセフィならば、OSのチェックくらい容易いだろうとロイドは考えたのだ。

 非常に安直で軽い考えなのだが。

 セフィの手が止まる。

 モニターを覗き込む。

「……ここ、ブラックボックスになってる」

「ブラックボックス? 開放できないかな」

「やってみるね」

 慣れた手つきでキーボードを操作するが。

 出てくるのはエラーのみ。

「無理みたい」

「どういうことだ?」

「……なんか凄い複雑なの、このプログラム。パスワードとパスワード、システムとシステムが複雑に絡んでるから……」

 つまるところ開放は出来ないと。

 OSを閉じ、ブレイズから出る。

 結局、謎の感覚については分からずじまいだった。

 セフィが申し訳無さそうにロイドの後ろを歩く。

 別段、ロイドは気になどしていない。

 こちらが突然頼んだ事に対して無理でしたと言われた。

 それを怒る人間などいない。

 それでも、やはり気になるものは気になる。

 何とかしてブラックボックスを開放できないものかと模索していると。

「ロイド」

「あ」

 アキトと遭遇した。

 やはりと言うか何と言うか、セフィはロイドの後ろに隠れる。

 出てくるように言うが、セフィはおどおどとしている。

「大丈夫だ、気にはしていない」

 それから3人で食堂に向かい、飲み物を口にする。

 話は宇宙の事。

「宇宙に出るのか……初めてだから興味はあるな」

「私も」

「アキトは?」

 アキトが手に持っていた紙コップを机に置いた。

「……コロニーの生まれだから初めて、と言うわけではない」

「お前、コロニー生まれだったのか?」

「……言ってなかったか」

 何しろ自分の事など殆ど話さないアキトだ。

 コロニー生まれと言う事を知っているのはごく一部の人間だろう。

 アキトは語る。

 彼はヘリオポリスの近くのコロニーに住んでいた。

 ヘリオポリスでのMS強奪事件の折に、避難民が彼の住んでいたコロニーに押し寄せてきた時は大変な騒ぎだった。

 そしてその影響で自分の住んでいるコロニーが襲撃された時は、何の冗談かと思ったほど。

 噂では、その避難民の中に地球軍兵士がいたとか。

 その事をどうやって嗅ぎわけたかは知らないが、ザフトが攻め入り。

「そして俺の両親は死んだ」

 ザフトによる虐殺。

 それでアキトの両親は散った。

 命辛々、アキトは地球へと降りた。

 最初は地球の重力と言うものに戸惑った。
 
 それと同時に、ある感情がアキトに芽生えた。

 コーディネイターへの憎しみ。

 その言葉を聴いたとき、セフィは怯え始める。

「……ああ、すまない。君を怖がらせるつもりは無かったんだ」

「お前……」

「ただ、俺は今でも許せない。だから地球軍に入った」

 非常におびえているセフィにもう一度謝り、アキトはその場を後にした。

 残されたロイドとセフィは何だか居たたまれない気分になる。

「アキトって、ああ言うやつだから気にしないほうが良いよ」

 自分でも何を言いたいのかよく分からなくなるが。

「……でも、アキトって何だか可哀想」

「可哀想? アイツが?」

 確かに戦争で両親を亡くしたのは可哀想だがと、ロイドが言うがそうではないらしい。

 セフィ曰く、わざと自分から人を遠ざけているような感じがするらしいのだ。

 それこそ、拒絶。

 ある種、アキトがレフューズに乗ることになったのは必然だったのかもしれない。
 
 その宇宙で、アキトの、彼の運命を大きく狂わせる事件が起こるのはもう少し先の事。

***

 プラント本国。

 定期的に戻る事を義務付けられている。

 他の兵士には無い事。

 上層部もカルラと言う人間を危険視しているのだ。

 扱いにくく、暴れやすい。

 そのくせ、腕はある。

 だから、敵的に本国に帰還させ報告をさせているのだ。

 彼にとっては面倒くさい事この上ない事である。

 本日もカルラは報告をしに議員の前に立つ。

 議員の前に立っても、彼の威圧するような態度は変わらない。

 兵士の中には、何故カルラのような人間が赤服なのかと疑問視する人間もいる。

 腕があるということの他に、拘束する意味もある。

 赤服はただでさえ目立つ。

 下手な行動をすれば一目で分かるほどに。

「……以上が最近の事項の報告」

「ご苦労だった。それにしても、ライル・セフォードが戦死か……」

「だから早くに制圧をしていれば良かったものを!」

 報告が終わったのだから、早く開放してくれれば良いのに。

 一向に終わる気配のない議員たちの会話に、カルラの苛々が募っていく。

「それとだ」

 急に話を向けられる。

「カルラ・オーウェン、君は本日付けでクルーゼ隊への入隊が決定した」

「クルーゼ隊……だと?」

「そうだ。知っての通り、現在クルーゼ隊ではパイロットが不足していてな。イザーク・ジュール、それに最近赤服になったシホ・ハーネンフース。彼らとともに行動してもらう」

「……」

 クルーゼ隊といえば、かつてはパトリック・ザラ最高評議会議長の息子である、アスラン・ザラも所属していた。

 さらには隊長であるラウ・ル・クルーゼは名将ともいえる名高き人物。

 彼にとって、どうでも良い事であるが。

「48時間後に顔合わせを行う。それまでゆっくりと休んでおくように」

 カルラも一息ついて敬礼をする。

 議会室からカルラが去った後も、議員たちの話は続いていた。

「ここで皆さんに話さなければならないことがある」

「何かね」

 パトリックの声に皆が耳を傾ける。

「1ヶ月前に奪取されたZGMF-X10A、そして先日我が息子であり反逆者、アスラン・ザラの乗機であるAGMF-X09A。その両兄弟気が先日ロールアウトした」

 感嘆の声を上げる者。

 ため息をつく者。

 反応は様々だった。

 モニターにその機体の映像が映る。

 まずは灰色のMSだった。

 背中にはジャスティスのものと同様と思われるリフターを装備している。

「AGMF-X21A、セフィウス。フリーダムの高火力、ジャスティスのリフターによる立体攻撃と言う長所を併せ持つNJC搭載型MS。性能はフリーダム、ジャスティスよりも上と、報告を受けている」

 画面が切り替わる。

 次に映ったのは赤いMSだった。

 燃える様な真紅の四肢。

 背中には数枚の翼。

「もう一機はPDS−01A/ZGMF-X22A、フェミア。フリーダム、ジャスティスよりもさらに高次元で纏めた高機動型MS。特筆すべきはそのシステムにある。PS装甲にまわすべきエネルギーを全て推進部へと装填。それによる爆発的加速力を生み出す「フェイズドライブ」。なおこの状態でのPS装甲の展開は不可能と言う弱点はあるものの、フリーダム以上の機動性、ジャスティス以上の一撃離脱戦法を生み出す事に成功」

 そのスペックを聞いて、議員たちは何を思っただろう。

 一つだけ言えるとしたら。

「これにより我らの勝利はより近づいたと言えるだろう! 全ては!」

 パトリックの声に熱が帯びる。

「ザフトのために!!」


(Inter Phase 2  終)


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