Inter Phase  束の間の休息

 オーブを脱出し、北欧へと進路を決めたミストラル。

 この日は天気もよく、絶好の航行日和である。

 レーダーにも機影は無く、クルーはそれぞれの時間を過ごしていた。

「じゃあ今から半舷休息とする。ミリア、艦内放送を頼む」

「了解」

 休息と言う放送を聴いて沸きあがる艦内。

 ちょうど自機のメンテナンスを行っていたロイドとアキトも休憩のため、食堂へ向かう。

 食堂にはヴェルドとエイスが座っていた。

 もう既に二人は自機のメンテを終えていたということだろう

「よう、終わったか」

「ヴェルドさん。あとは各駆動形のチェックで終わりです」

「……俺もだ」

「お疲れ様です。何か食べますか?」

 エイスが料理を頼もうと厨房へ向かう。

 時間的にもう昼食を食べても良い時間で。

 昼食を食べたら先ほど言った駆動系のチェック。

 その後の予定はといくにないので久々にゆっくり休めそうだ。

 ここの所どたばたとしていた。

 パナマ陥落。

 カラーズとの合流、そして戦闘。

 オーブ開放戦。

 ここで小休止を取るのも悪くはない。

「はい、どうぞ」

「ありがとうございます」

 エイスが運んできた昼食を食べる。

 それにしてもあの小島での一件、未だに気になる。

 敵の通信を傍受した時に耳にしたカルラ・オーウェンと言う男の名。

 その昔、ロイドの幼少の頃の友達に同じ名前の男がいた。

 しかし世界に同姓同名の人間は何人もいる。

 もしかしたら。

 万に一つの低い可能性かもしれないが。

「……何を悩んでいる」

「ん?」

 頭が混乱している。

 その時に。

「馬鹿らしい。まだ戦争は終わっていないと言うのに……」

「お前……」

「……下らない悩みは戦争が終わってからにしろ。正直、迷惑だ」

 ロイドの方が震える。

 それを見ていたヴェルドとエイスは止めようと立ち上がる。

「忘れてたよ。お前、一言二言いつも多いんだよ!」

「だからどうした。本当のことだろう」

 ぎゃあぎゃあと騒ぎ立てる。

 この二人、息が合うのか合わないか妙に分からない。

「リエンはこの二人の教官をしてたのか……大変だな」

「で、ですね」

「……そういえばアイリーンとアルフはどうした?」

「はい?」

***

 ミストラル甲板。

 アイリーンはそこに座っていた。

 眼前に広がるのは青い海と、青い空。

 澄んだ景色が広がっていた。

 同じような景色が続くのでつまらないといえばそれで終わりなのだが。

 タバコを一本、噴かして口に咥える。

 灰色の煙が空気に流れていく。

「ふぅー……」

 晴れた日はこうして外でタバコを吸うのが一番落ち着く。

 彼女自身、ヘビースモーカーでどこでもタバコを吸うのだが。

 一番好きな景色を見ながらのタバコが美味しいのだ。

「ここにいたのか」

「アルフ」

「隣、良いか?」

「ダメって言ったら?」

「それでも座る」

 アルフがアイリーンの隣に腰を下ろした。

 一緒に空を見上げる。

「タバコくれよ」

「残念、この一本しかないわ」

「むぅ……」

 が。

 アイリーンがタバコを口から取ると。

 それをアルフの口に咥えさせる。

「んっ!?」

「吸いたいんでしょ、タバコ。それ、あげる」

「おま……ちょ……ッ!」

「何よ」

 アイリーンの蒼い瞳がアルフを見つめる。

 恥ずかしくなったのか。

 照れたのか。

 アルフは顔を逸らした。

 そして彼女がくれたただ一本のタバコを噴かした。

「ねぇアルフ。これからどうなると思う?」

「……何がだ」

「戦争よ」

「正直、良い方向へは行かないだろうな。俺達みたいなのがいくら頑張ったところで、戦争なんか終わらない」

 アルフはタバコを口から放す。

 喋りにくいのだろうか。

「それでも俺達の「任務」はミストラルの無期限の護衛だろ? 戦争なんて、オマケみたいなものだ」

「……大きな、オマケね」

 我ながら大きなオマケを手に入れたものである。

***

 戦場に着けば彼らは戦士となる。

 だから今だけは、この平穏な時間を過ごす。

 せめて彼らもこの時間だけは、普通の少年のように生きている。

 これが、そう長くは続かなかったとしても。

(Inter Phase 終)


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