Phase-04 Break The World <SIDE-A>
ユニウス・セブン。
かつて「血のバレンタイン」と呼ばれる悲劇が起きた場所。
その場所で多くの人間たちが犠牲となり、以後世界は、長い戦争状態へ突入した。
C.E71年の大戦が終了後、このユニウス・セブンでは「ユニウス条約」が締結された。
それにより、兵器へのNJCの使用禁止、MS保有数の上限など、様々な条約が設けられた。
しかし、人々の中には未だに血のバレンタインの悲劇を嘆いている人間がいる。
「悲劇による悲しみを忘れ、ナチュラルと暮らすコーディネイターたちよ……」
カウントが始まる。
フレアモーターと呼ばれる装置が不気味に作動する。
「さあ行け、我らの墓標よ! 全ての人々の記憶を、呼び覚ますのだ!!」
フレアモーターによって、100年単位での安定周期から外れたユニウス・セブンは、ゆっくりと移動を始める。
その向かう先は地球。
つい先日、ある男によってフレアモーターが、彼らにもたらされた。
これを使えば、悲劇を話売れた人々の目を覚ます事が出来ると、彼は言っていた。
そうだ、これで良いのだ。
血のバレンタインの痛みを忘れ、ナチュラルと共にのうのうと生きることなど出来ない。
全ては、コーディネイターの世界のため。
***
プラントでは、移動を開始したユニウス・セブンの情報をいち早くキャッチしていた。
プラントと呼ばれる巨大な質量をもつ物体が、こうも簡単に安定軌道を外れるわけが無い。
上層部は慌しく動き回っている。
「ミネルバにいる議長との連絡は!?」
「それよりも地球への勧告はどうする!?」
「えぇい、何故ユニウスが……!」
そんな声ばかり聞こえる。
そう、誰もがユニウス・セブンが落ちてくるとは思ってもいなかった。
「司令、ミネルバとのコンタクト、取れました!」
このときギルバートはミネルバのタリアの部屋にいた。
そしてタリアから、アレックスの事を聞いていた。
彼がかつてのザフトレッド、アスラン・ザラだと言う事、そして彼個人の理由でオーブに渡り、カガリの補佐を勤めている事も。
「おそらく、彼自身、かつての負い目からの行動だと思われます」
父親であるパトリックの言葉の通りに動き、世界を混乱させ。
挙句の果てに親友と殺し合い。
自分は何をやっていたのか。
今の彼の行動は、誰の言葉によるものでもない、自分の考えで動いている。
そう言う事だろう。
「ふむ、そうか……。ならば、彼をザフトに戻すのは難しいかな」
「議長は、そのような事をお考えに?」
「いや、何も私とて最初からそう考えていたわけではないし、彼が生きていたと思ったことも無い」
ギルバートは、タリアが用意したコーヒーを飲む。
「ただ、今のこの状況だ。彼ほどの人間の持つ力が必要なのは、君とて理解できるだろう?」
既に地球軍とザフトでは各地で戦闘が勃発している。
アスランの力、寝かせておくには些か勿体無いのだ。
ギルバートは、もし可能ならば彼をザフトに復隊させたいと言う考えを明言したのだ。
それを聞いてタリアは複雑な気持ちだった。
タリアはこの部屋で、アスランから直接にその考えを聞いた。
自分がカガリを支えなければならない。
その考えはおそらく変わらないだろう。
例えそれがギルバートからの頼みであっても。
「そう、上手く行くとは思えませんわ」
「だろうね」
その時だ。
タリアの部屋の通信機が鳴り響いたのだ。
モニターに映るメイリンは酷く慌てている。
「どうしたの?」
「艦長、プラント最高評議会より、議長にチャンネル・ワンです。何やら急な用件とのことですが」
「繋いでくれたまえ」
ギルバートが通信機を持つ。
スピーカーから聞こえた報告に、彼は驚愕した。
***
ギルバートはすぐにカガリとアスランを呼んだ。
彼らは知っておくべきなのだ。
この状況を。
「ユニウス・セブンが動いている!? 馬鹿な、あれは100年の単位で安定軌道にあるはずでは……!?」
アスランも流石に驚きを隠せない。
「だが、動いているのだよ。それも、かなりの速さで」
ギルバートの言葉に俯くカガリ。
自然と握られた手が震える。
もしも落ちた場合の被害は?
そう考えただけで、背筋が凍る。
「もし……もし落ちたら地球はどうなる……? オーブは、いや、他の国々は!?」
「あれだけの質量です……申し上げずとも、それは姫もお分かりでしょう?」
やはり、か。
ユニウス・セブンが落ちた場合、オーブも、スカンジナビアも何もかもが消し飛ぶだろう。
それだけは避けたいのだが。
ユニウス・セブンと言う巨大な質量、そう簡単に軌道を帰れるはずが無い。
「そもそも、どうしてユニウス・セブンが?」
「隕石の衝突か……あるいは別の要因か……現在、ジュール隊が調査に向かっております」
「ジュール隊……? イザーク達か……」
アスランはかつての仲間達の顔を思い浮かべた。
イザークは隊を任されるほどのパイロットに成長し、ディアッカも議長の計らいで復隊することが出来た。
彼らは守らなければならないのだ、プラントを。
「すぐにミネルバも、落下中のユニウス・セブンへと向かいます。その際、代表と……アスラン君にはランチにてこの艦を降りていただきます」
タリアの言葉に、二人は黙りこんだ。
「いや、私は降りない」
カガリが口を開く。
「この状況で、自分一人だけが安全な場所に逃げる事なんて出来るか! 私は全てをこの目に焼き付ける! 平和になったのに、こんなこと……!」
「私も同意見です。代表が残ると言うならば、補佐官である私もここに残るべきかと」
「姫……アスラン君」
***
地球軍月面ノースブレイド基地にガーティ・ルーが入港したのは、ユニウス・セブン落下が判明する少し前の事。
その艦長であるイアン・リーはフエンとデュライドと対面していた。
「ガーティ・ルー艦長、イアン・リーだ」
「フエン・ミシマ少尉であります」
「同じく、デュライド・アザーウェルグ少尉です」
「ふむ……若いな。彼らと同じ年代か、それよりも下か」
そういった視線の先には三人の少年少女の姿。
皆好き勝手に行動しているようだ。
「今回の異動で、君達には早速だが地球へと降りてもらう。近々オーブとの第二回目の会合を行うのでね」
「防衛任務、と言うわけですか」
デュライドの言葉にイアンは静かに頷く。
「そう言う事になるな。後はしつこいハエを叩いてくれればそれでいい」
地球への降下は3日後。
それまでに支度を済ませておく様にとの事だったが。
基地内のアラートが鳴り響いた。
各々が近くのモニターを起動させる。
「どうした、何事だ!」
『た、たった今プラントからの電文で……ユニウス・セブンが地球へと効果を始めた模様! 計算では15時間以内に地球へと落下、その際の被害は……』
「ユニウス・セブンが、落ちる……!?」
「……ならばそれは、ザフトに任せれば良い」
「イアン艦長……!?」
イアンの決断に、フエンは気を疑った。
この一大事、少しでも手が必要なのは明白な事実。
それをどうして。
「我々の任務ではない。それに、元々あれはコーディネイターの所持していたものだ。自分たちの後始末くらい、自分達でつけるべきだ」
「後始末って……彼らが落下をさせたと?」
「そうは言っていない」
フエンの言葉は軽くあしらわれる。
「止めておけ、イアン。この緊急時にさ」
「ロアノーク大佐……」
黒い仮面を装着した男が現れる。
その言動は、中々掴みどころが無い。
フエンとデュライドが敬礼をする。
ネオ・ロアノークと名乗ったその男は、イアンの考えよりもフエン達の考えを汲み取ったのだ。
「私達は地球軍だ。地球を守るべき、な。地球へと撒かれる脅威は取り除かなければならないのだよ、イアン」
「はぁ……」
「準備が出来次第、ガーティ・ルーを発進させる。目標はユニウス・セブンだ! もちろん、君達も出撃だ、良いな?」
「りょ、了解しました!」
ファントム・ペインの中にも、中々に話の分かる人間がいたものだ。
その時、フエンはそう考えていた。
***
地球へのユニウス・セブン落下の勧告は一部であるが出されていた。
それは一斉に行うと大規模な混乱を招きかねないと言う配慮か。
はたまた違う考えによるものなのかは、一般人が理解する所ではない。
のどかな山村地帯に立てられた一軒の屋敷に、彼らは集まっていた。
それぞれワインを嗜み、ビリヤードをするなどして楽しんでいる。
「ユニウスが落下か……人類滅亡へのシナリオが、これで進んだわけだ」
「シナリオとは……誰が書いたかも分からんのにか」
しかしそこで話されている話題は到底明るいものではない。
ブルーコスモス、及びその関係者が一堂に会していた。
「デュランダルの奴、すぐにこちらへの勧告を促してきおったわ……何とも早い決断だな」
「だが本当にこれは、自然現象の成せる技なのか……」
「そんなことはもはや関係ないのですよ」
彼らの言葉を遮り、一人の男が口を開いた。
色白の装飾にしっかりとした服装に身を包んだ男だった。
ロード・ジブリール、現ブルーコスモスの盟主である。
「あれが落ちてきている。それだけの事ですよ、皆さん」
彼は声高々に彼らに呼びかける。
「そんあ、どうして? 一体何故!? 最初聞いたときはそんなことばかりが頭に浮かびましたよ」
「前置きいは良い、ジブリール」
「いや、ここからが肝心なのですよ、皆さん。やがて世界の人々がこの事態を知る事になれば、誰もがこの考えを抱くでしょう。そうなった時、私達は彼らに「答え」を示してやらなければならないのです」
「やれやれ、もうそんなところまで考えているとは」
「無論! あんな無様で馬鹿な物体が地球に、私たちの頭上に落ちてくることだけは確かなのです!! どういうことなのです! あんなものために私たちが顔色を変えて逃げ回らなければならないのです!」
ジブリールの演説めいた言葉を聴いていた老人たちは顔を合わせる。
「こんな屈辱を与えられた彼らに、報復を、と言う事か……?」
「ハイウェル・ノース、戻っていたのか……」
入り口から聞こえた声にジブリールは答える。
少々熱が入っていて、気付かなかったが。
「最初からいたさ。原因を辿っていけば、あんなプラントなんてものを宇宙に作り上げたコーディネイターが悪い、そう言う事だろう?」
「ふ……やはり君は話が分かるな」
「しかしだな、ジブリール卿、ノース卿……被害によっては、戦争をする体力も残ってないぞ」
「そこで皆さんにお集まりいただいたのですよ」
ジブリールの考えは、既に次のファクターまで進められていた。
非難も脱出も構わない。
しかしその後、我々は一気に打って出ると、彼は老人たちに告げた。
「その際には、君の秘蔵っ子の力も借りるがね、ハイウェル・ノース」
「スターダストのか……構わんよ、なぁ?」
「ん? 私は戦えれば、殺せればそれで良いよ」
「ふふ、良い子だ……」
***
プラントの決めた作戦はこうだった。
ユニウス・セブンと言う巨大な建造物である以上、ミサイルもビームも期待できない。
そうなると直接砕いていくしかない。
時間は掛かるが、被害は抑えられるはずだ。
調査に向かうジュール隊に、破砕機「メテオブレイカー」を持たせ、ユニウス・セブンの破砕作業を行う。
そこへミネルバが到着し、作業の支援を行うと言うものだった。
既にミネルバの中ではシン、ルナマリア、レイがノーマルスーツに着替え、出撃の時を待っていた。
「あんな物が落ちるなんて、信じられないけど」
「だが起きてしまったのは事実だ。逃避するのは、あまり感心できないな」
レイの言動にルナマリアは視線をそらした。
彼の言うことがあまりにも全うすぎて、口を開いた自分が馬鹿らしいから。
「シンはどう思う? 今回の事」
「……到底自然現象によるものじゃない、誰かが無理やり動かしたんだろ、あれを!」
アーモリー・ワンでの強奪騒ぎといい、どうしてこうも事件が続くのか。
もはや偶然と思いたくない。
誰かが無理やり引き起こしているんだと、シンは言う。
そもそもアーモリー・ワンの強奪騒ぎも、管理がされていたはず。
それを潜って強奪されたとなると、情報を流している人間がいてもおかしくは無い。
「でも、粉砕作業の支援って言っても何をすれば良いのよ……」
ふとルナマリアがガラス越しに一人の男を見つけた。
「ねぇ、あれってアスハ代表の側近の人じゃない?」
「本当だ……何してんだ、アイツ」
「……彼は側近じゃない」
レイの言葉にシンとルナマリアは振り向いた。
「彼はオーブのアレックス・ディノではない、彼は……アスラン・ザラだ」
ユニウス・セブンまで残り僅かとなり、パイロットには出撃命令が下された。
「アスラン・ザラって、あのアスラン・ザラ!?」
「うっそ、それって本当なの、レイ?」
「ああ、議長から先ほど聞いたよ……」
「……ふぅん、一応MSには乗れるから助かると言えば助かるけど」
ヘルメットを被り、搭乗機に乗り込む。
その時アスランはメイリンから期待についての説明を受けていた。
ザクウォーリアには三つの装備が存在する。
高機動戦闘用の「ブレイズ」。
砲撃戦用の「ガナー」。
近接戦闘用の「スラッシュ」。
『装備はどうしますか?』
「ブレイズウィザードで出る。今回の破砕作業はスピードが命だ」
『……! ま、待ってください! 任務変更です!』
突然の任務変更に、シン達が驚く。
ミネルバの熱センサーがユニウス・セブンにて戦闘と思しき熱源をキャッチしたのだ。
それによると既にジュール隊にも被害が出ていると言う。
任務は破砕作業支援からジュール隊と共にアンノウン撃破及び破砕作業支援へと変更された。
『戦闘になっちゃいましたね』
メイリンに変わって、ルナマリアがアスランに語りかける。
『どうします、アレックスさん?』
「……」
発進シークエンスが進む。
シンのコアスプレンダーが、レイのザクファントムが出撃する。
『それじゃ、先に行きますね』
続いてルナマリアのザクウォーリアが出撃した。
「俺はアレックスじゃない……」
アスランが操縦桿を握り締める。
そして、ヘルメットのバイザーを下ろした。
「アスラン・ザラだ……! アスラン・ザラ、出る!!」
アスランを乗せた、ザクウォーリアがユニウス・セブンへと向かった。
(後編へ)
トップへ