宇宙空間に漂う瓦礫。

 それに混ざるように流れるのは、破壊されたMSの残骸だった。

 ジュール隊隊長、イザーク・ジュールは突然自分たちに襲い掛かってきた相手MSを睨みつけた。

 そのMS群はメテオブレイカーを優先的に狙っている。

 この機体のパイロット達が今回の騒ぎを起こしたと見てまず間違いないだろう。

「ジンを使っている……どこの部隊だ!!」

「IFF、応答無い様だ、参ったね」

 ディアッカ・エルスマンがトリガーを引く。

 ガナーザクウォーリアに装備されたビーム砲「オルトロス」が相手MSを貫く。

 ユニウス・セブンの調査に来て、アンノウンに襲われ。

 これでは破砕作業どころではない。

「とにかく今は破砕作業を進めろ! 間もなくミネルバ隊も到着する!」

 イザークのスラッシュザクファントムのモノアイが光る。

 一閃の元に、ビームアックスでジンをなぎ払う。

 メテオブレイカーにより、ユニウス・セブンの表面が削られていく。

「ちぃっ、奴らにユニウス・セブンを破壊されてなるものか!!」

 リーダーであるサトーが斬機刀を振るう。

 護衛についていたゲイツRは脆くも破壊され、メテオブレイカーも一刀両断される。

 このままメテオブレイカーを破壊され続ければ、作業に支障が来たすのは必至。

 何としても地球落下は阻止したいところだが。

『隊長、ミネルバです!』

「やっと来たか……!」

 レーダーに移る光点が4つ。

 インパルスにブレイズザクファントム、それにガナーとブレイズのザクウォーリアが一機ずつ。

 すぐに4機が散開し、相手の迎撃に移る。

 その間にイザークたちは本来の任務である破砕作業を続行。

「これ以上メテオブレイカーを破壊されるな! 予備はそう多くは無いんだぞ!!」

 規定の場所にメテオブレイカーを設置し、作動させる。

 それにしても。

 イザークはブレイズザクウォーリアを見る。

 あの動き、誰かと似ているようだが。

***

 やや遅れて、ガーティ・ルーがユニウスセブンに到着したのは、ミネルバが到着してから3時間後の事だった。

 既に先頭が始まっており、その様子はブリッジに備え付けられたモニターから伺うことが出来る。

「ここにザフトがいる、と言う事は……やはり彼らが?」

「さぁて、どうだろうね。少なくとも、これでハッキリしたな」

 ネオが笑みを浮かべる。

「単なる神の気まぐれではなかったと言う事だ。カオス、ガイア、アビス、それとイルミナ、ヴァイオレントを発進させろ」

「了解」

 ガーティ・ルーのハッチが開き、5機のMSが出撃する。

 ファントム・ペインの三人のパイロットは戦闘に出たくてウズウズしていたようだが。

 フエンは違っていた。

 もし出来るならばザフトと協力して、ユニウス・セブンの破壊を行いたかった。

 この状況で、ナチュラルとコーディネイターが戦闘をする理由がない。

 ナチュラルにとっては、住むべき場所を失いかねない。

 そしてコーディネイターにとっては、自分たちのせいでこのような惨事が起きてしまった。

 どちらも、協力して破壊するべき時なのに。

『フエン、お前の考えている事は大体分かる』

「デュライドさん……」

『どうせこの状況だ。分からないさ」

「案外適当、ですね」

『……かもしれんな』

 二機のMSがカオスたちとは別方向に散開する。

「イルミナ、ヴァイオレントが離脱します。いかが致しますか」

「放っておけば良いさ、良い子ちゃんたちはさ」

 ネオはスティングたちに出来るだけこの状況を記録しておくよう伝える。

「ハッ、こんなところで、どたばたとォッ!!」

「お前たちの仕業かよ……こんなものが落ちてきたのは!!」

 カオスの機動兵装ポッドがゲイツRを貫く。

 そしてアビスのビームランスがジンを捉える。

 彼らにとって、ここにいるザフトの機体は全て一緒と考えていた。

「地球軍まで……! こんな時に!!」

 アスランのザクウォーリアが背部ミサイルを放ち、カオスの動きを止める。

 彼の思惑通り、カオスの動きが止まるがそれを補うようにポッドがザクウォーリアを襲う。

 ポッドより放たれるミサイルとビームを避け、反撃の一撃を浴びせる。

 カオスがバランスを崩し、さらにビームトマホークを投げつける。

 カオスがシールドで防御するが、衝撃までは防げず。

 二振り目のトマホークによる斬撃で左腕を落とされる。

「何だよ、コイツ……! 強い……ッ!!」

 スティングは目の前の量産機にここまで押されていると言う事実を、飲み込みたくは無かった。

 その頃インパルスはアビスと、ガナーザクウォーリアはガイアと交戦していた。

 アビスの砲門がインパルスを狙う。

「こいつ、ちょこまかと! うるさいんだよ!!」

「くそっ……! こんな事をしている暇なんて無いのに!」

 インパルスのビームライフルが光を放つが、それはアビスのシールドによって防がれてしまう。

 こうして時間だけがただ過ぎていく。

 この間にも、ユニウス・セブンは地球へ向かって落ちていると言うのに。

 ミネルバでも、この戦闘の意味は何なのかと言う意見が出始める。

「艦長、ボギー・ワンの位置は?」

「メイリン」

「ブルー25、デルタ、マークブラボーです」

「ふむ……通信回線は開けるかね?」

 直接回線は無理である。

 Nジャマーによる電波障害により、敵艦との距離が離れていてはままならない状況だ。

「国際救難チャンネルでしたら、何とかなりそうです」

「ならばそれでボギー・ワンに呼びかけてくれないか。我々はこの場所に先頭のために来たのではない、と」

 ギルバートの言われたとおりに電文を打ち、ボギー・ワンに向けて送信する。

 これで少しでもこちらの意図を理解してくれるのなら良いのだが。

 果たしてそんなに上手くいくのだろうか。

***

 フエンは襲い掛かるジンを撃破していく。

 もはや見境ない攻撃に、焦るフエン。

 もうほとんど時間も無い。

 そこへ更に青色のザクファントムが襲い掛かる。

「地球軍がァッ!!」

 大斧を振り回すが、それを避けるイルミナ。

 咄嗟に通信回線を開き、襲い掛かってきたザクファントムに通信を送る。

「止めてください! 僕は……戦いに来たわけじゃない!!」

「敵機からの通信……!?」

 ブラフか。

 イザークは一瞬、その回線を開くか開くまいか躊躇う。

 しかし、時間が惜しい今この状況では考えている暇など無い。

「戦いに来たわけではない……どう言うつもりだ!」

『良かった、話の分かる人で……』

「何ぃッ!?」

『ごめんなさい! 地球軍所属、フエン・ミシマ少尉と申します! このユニウス・セブンの破壊作業のお手伝いを……』

 イザークは目の前の機体に乗るパイロットの事を信じるしかなかった。

 確かに戦うにしては覇気が無さ過ぎる。

 イザークは現状、残っているメテオブレイカーの位置をフエンに教え、それの護衛をするようにと命じた。

 同時に、友軍に対して彼と、もう一人デュライドの事を伝える。

 どちらも戦いに来たのではないので、撃破しないように、と。

 フエンがメテオブレイカーの設置場所にたどり着いた時、既にジンが迫っている。

 その後方にはヴァイオレント。

「デュライドさん!」

 イルミナのビームサーベルが突っ込んでくるジンを真っ二つに叩ききる。

『フエンか、助かった』

「いえ。ザフトのジュール隊長から聞きました、もうそろそろユニウス・セブンが割れるようです!」

『二つに割れれば片方がおそらく落下しないだろうが、もう一つは……ッ!?』

 その時だった、ユニウス・セブンの地表が揺れ始めたのは。

 地表に皹が入り、ユニウス・セブンが崩壊を始める。

 メテオブレイカーの効果で、真っ二つに割れた。

 それでもまだその大きさはかなりのものだった。

 とは言え、使用できるメテオブレイカーは数えるほどしかない。

 イルミナとヴァイオレントが離脱する。

 手伝いに来たとは言え、メテオブレイカー無しでは。

『おい、お前たち』

 先ほど分かれた青いザクファントムが二機に接近する。

 その手にはメテオブレイカーを持っている。

「イザークさん」

『今から指示場所にこれを設置して来い! ただし、もう限界高度に近い、常に注意をしておくんだ!』

 そう言うと、スラッシュザクファントムは離脱し、友軍機と合流。

 更なる破砕作業に向かう。

「デュライドさん、行きましょう!」

『だな』

 二機が指定されたポイントへ向かう。

 そこは中心部より離れた場所だった。

 メテオブレイカーの設置をし、スイッチを入れる。

「よし、これで……」

『フエン、帰還信号だ』

 宇宙に輝く3色の信号弾。

 母艦からの信号弾を確認し、イルミナが浮き上がる。

「イザークさん達、大丈夫かな……」

『見たところ歴戦の腕を持っているようだし、大丈夫だろう。それよりも』

 デュライドの声のトーンが下がる。

『俺達の身を按じたほうがいいかもな』

「……そう、ですね」

 独断行動に敵への協力。

 反逆と思われてもおかしくは無い。

 ただ、彼らにも言い分はある。

 一先ず今は帰還しよう。

 全てはそれからだ。

***

 イザークはディアッカと共にメテオブレイカーの設置作業を続けている。

 しかし敵の攻撃は止むことなく降り注ぎ、彼らの邪魔をする。

「くそっ、邪魔をするんじゃない!」

 ディアッカが狙いを定め、トリガーを引くが回避される。

 焦りが得意の射撃にも影響を与えているようだ。

 そこへ、イザークが追撃を仕掛ける。

「このッ!!」

 ビームアックスの攻撃に、まるで紙の様に敵機が切り裂かれる。

「ディアッカ、急げ!」

『分かってる!』

 しかしジンからの砲撃に足元がおぼつかない。

 イザークも別の相手と戦っている。

 一機のジンが、斬機刀と抜き放ちディアッカ機へと向かう。

「家族の墓標を、壊させてなるものか!!」

「させるかッ」

 ミネルバ所属のブレイズザクウォーリアが、ビームトマホークで防御行動に出た。

 ディアッカ機を庇うように立ちふさがり、そのジンを一蹴する。

『大丈夫か……早く作業に戻るんだ』

「あ、ちょ、待て! その声……」

「アァァァスラァァァン!! 貴様、こんな所でいったい何をしている!!」

 アスランは驚く。

 その二機のザクに乗っていたのは、かつての仲間だったのだ。

 イザークとディアッカとの再開に喜ぶ間もなく、彼らは設置を急ぐ。

 無事に設置をし、メテオブレイカーを作動させる。

 これで全機稼動させたことになる。

 後はユニウス・セブンが更に砕けるのを待つだけだ。

「させるものか!!」

 突然響き渡る怒号と共に現れたのは三機のジン。

 その真ん中の一機がアスランのザクウォーリアに襲い掛かった。

「お前たち! 自分たちが何をしているのか分かっているのか!」

「我が同胞の墓標……落として焼かねば、悔いは晴れん!!」

 ジンのキックがザクウォーリアに命中、アスラン機は地表に打ちつけられる。

 イザークとディアッカも残りの二機と交戦中。

 追撃のビーム突撃銃の雨を打ちつけられる。

「こんな事をしても……戻るものなんて無いだろう!」

 ザクウォーリアのブースターが唸り、ビームを避ける。

 破砕作業も残りわずかの所まで来たと言うのに。

 こんな所で時間を食っている暇など無い。

『府抜けたクラインの後継者に惑わされ、ザフトは変わってしまった!!』

「変わってなどいない! これが本来の――――――」

『我らにとって、パトリック・ザラの取った道こそが、唯一正しきものだと! まだ気付かぬかァッ!!』

「ッ!?」

 一瞬の動揺。

 ザクウォーリアの右腕が切り落とされる。

 そして蘇る悪しき記憶。

 父、パトリックの取った愚行。

 それに踊らされた自らの過去。

 全てが鮮明に蘇る。

 アスランの戦意が喪失して行く。

「アスラン! アイツッ!」

 イザークが向かうよりも早く、インパルスが駆け抜ける。

「アスランさん!」

 ビームサーベルでジンの胴体を真っ二つに割る。

 シンの声に、アスランは弱気な声で答える。

「シン、か……」

***

 ユニウス・セブンの破砕は寸でのところで、限界高度を迎えてしまった。

 ミネルバはこのまま降下と同時に陽電子砲によるは再作業を続ける事を決意した。

 その際にギルバートはランチにてイザークたちの母艦へと移動してもらうことも。

「しかし、シンや彼がまだ……!」

「……陽電子砲、起動。目標、右舷構造体!」

 タリアの決断に、アーサーは従うしかなかった。

 降下しながら真達を救助、そのまま着水できれば無事に収まる。

「タンホイザー、起動! ってぇー!!」

 ミネルバ中央の主砲「タンホイザー」がユニウス・セブンを貫く。

 高い威力を誇る陽電子砲でも、ユニウス・セブンを破壊するにはまだまだ威力が足りない。

 砲身が焼きつくまで、撃つしかない。

「インパルス、ザクウォーリアの位置は!?」

「ダメです、熱センサー、レーダー共に反応がありません!」

 二射目のタンホイザー。

 それにより、ユニウス・セブンの塊が更に砕ける。

 そのガレキに混じり、ミネルバに向かう機体が2つ。

 インパルスとザクウォーリアだった。

 インパルスに手を引かれ、被弾しているザクウォーリアを発見した時、ブリッジクルーが湧き上がる。

 ミネルバが2機の着艦を確認した後、そのまま地球へと降下して行った。

***

 地球を襲った未曾有の惨事。

 それはミネルバとザフト、そして地球軍の二機のMSによって必要最小限の被害に留まった。

 それでも爪痕は酷く、人々の生活は困窮の道を進まざるをえなくなった。

 そして。

「本日、私は地球上にず結べての人々に、非常に重要な決断をお知らせしなければなりません」

 地球軍はプラントに対してテロリスト全員の引渡しを要求。

 それが守られなかった場合、地球にとって非常に悪質な敵性国家とみなし、武力を持って排除する事を宣言した。

 フォックスノット・ノベンバー。

 世界が、再び戦火に飲まれた日である。

 その中で、フエンは、果たして?


(Phase-04 <SIDE-A>終了)


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