Phase-08 北欧A‐レジスタンス‐
北欧に到着するや否や手厚い歓迎を受けた。
その後もザフトによるミストラルへの攻撃は続いた。
ロイド達に度重なる追撃による疲労の色が浮かぶ。
額から流れる汗がもどかしい。
それでも敵が目の前にいる以上。
集中しなければならない。
倒さなければならない。
生きるために、守るために。
「バリアント、発射!」
レールガン「バリアント」がミストラルより放たれる。
加速する電磁の弾丸を避けるのは至難の業。
薙ぎ倒されるザフトのMS。
「この数……尋常じゃないぞ!」
「この間の奴らが本気を出したのか……。それとも別の要因か」
「のんきに分析している暇は無いぞ、アキト!」
ヴェルドの声にアキトは無言。
ただ目の前の敵を見据えている。
「遅いっ!」
二振りのビームサーベルでジンを切り裂く。
振り向きざまにイーゲルシュテルンで、別のジンの頭部を破壊する。
メインカメラを失ったジンはフラフラと蛇行し、格好の的となる。
そのジンを倒したのはアイリーンのブレード。
数でこそ負けていたが、それぞれが数による劣勢を感じさせない活躍をしている。
機体の性能と、パイロットの強さか。
それらが相まって、未だにミストラルは沈んでいない。
敵もさぞ驚いているだろう。
数にして約3倍もの戦力を投入していると言うのに。
全く沈む気配すらないのだ。
しかしながら気配はなくても、ブリッジは常にぴりぴりとした空気だった。
「対空! 右舷にまわせ!」
「ジン接近!」
「間に合いません、ゴッドフリートのコントロールをマニュアルで渡してください!」
ミリアが叫ぶ。
副長席に備え付けられたモニターを見て。
射線軸を整える。
「トリガー……ここでっ!!」
ゴットフリートが火を噴いた。
通常発射の際には若干のタイムラグが生じる。
それは機械に頼っているとき。
今回はミリアの肉眼、肉体による感覚による射撃。
ほぼタイムラグはない。
「このまま微速前進! 現宙域を離脱する!」
「MS隊に打伝します」
ゆっくりと動き出すミストラル。
そのブリッジでリエンは考えていた。
(何故、今になってこれだけの数を投入した……? 攻め落とすなら、先の戦闘でも良かったのに)
先の戦闘より、まだ3時間と経過していない。
何か狙いでもあるのだろうか。
***
「何故今になって攻めるのか?」
「はい。先ほどの戦闘、私と隊長が仕掛けたところにセカンドラインを敷いていればより簡単にあの船を」
「セフィ、君は賢いな。しかし、賢いだけでは戦場を行きぬくことは出来ない」
後ろからそっと抱き寄せ。
「彼らは大きな戦闘が終わって安心しきっている。そこへあの数だ。焦りで彼らの集中力はズタズタになるさ」
あまり戦場では集中力などの精神的なものは信じたくないのだが、と付け加えるライル。
「物事は全てタイミングだ、それをずらされれば、物事と言うものは上手く運ばなくなる」
「……はい」
頭に手を置く。
そのままライルはどこかへと去っていく。
残されたセフィは、ただただその場に立っていた。
***
戦闘は、ややミストラルが不利な状況になっていた。
というのもエネルギーの問題である。
中でも高火力故にミストラルの攻撃の一手を担っているフレアのエネルギー問題は改善すべき問題で。
この戦闘においてもフレアは真っ先にエネルギーが尽きた。
「くそ……これじゃあ役に立たねぇ……! フレア、撤退する!」
ヴェルドはミストラルのドックで一人、いたたまれない気持ちになっていた。
カラーズのリーダーとして、傭兵部隊をまとめる男として。
これでは、何のために。
ヴェルドが抜けた穴を埋めようと奮闘するロイド達。
しかし、どうやっえもフレアのいたオフェンスの穴を埋めるには至らない。
そもそもミストラルに集まっているMSの半数は汎用性を重視したMS。
ブレイズ、レフューズ、イェーガー、ニグラ。
フレアとブレードくらいなものである。
砲撃戦と、近接戦に特化した仕様のMSは。
汎用性重視のMSは運用こそ容易なものの、決め手に欠けるのが昔からの問題である。
ある意味それを解決したのがGAT-X105、ストライクと言う機体なのかもしれない。
ストライカーパックの換装で、汎用型MSの弱点を克服しようとした。
揺れるミストラルの船体。
ヴェルドはフレアを見る。
ザフトが連合から4機のGを強奪して、解析。
全部で5機もの試作型MSが製作された。
もうどれくらいフレアに乗っているのだろう。
ここらで、フレアは生まれ変わるべきなのかもしれない。
全てを薙ぎ払う火竜として。
その頃の戦場では、次第に減っていくエネルギーゲージにパイロット達は焦りを感じ始めていた。
ビームを放つたびに少しずつ減っていくエネルギー。
そもそも前回の戦闘からそう何時間と経過していない。
そんな状態では満足にエネルギーが蓄積されるわけがない。
かといってエネルギーの心配をして、手加減をするわけにもいかない。
そんなことをすればたちまちこちらが負ける。
何とも苦しい戦いだった。
初めはただ、スカンジナビアへ向かうだけだと考えていた。
しかし今はどうだ。
このままではスカンジナビアへたどり着く前にやられてしまう。
どうする事もできないのか、自分達は。
「な……!」
ブレイズがシールドで自らを守るように構える。
爆発による先行がブレイズの無機質な頭部を照らす。
カタカタと震えるロイドの両手。
怖いんだ。
「ふざ、ける……な……ッ!」
酷く、自分の頭が淀んでいく。
怖くなどない。
恐れているのか。
恐れてなどいない。
無理もない、若干16で戦場に出て。
違う。
違わないさ。
「違うゥゥゥゥッ!!」
ロイドは、その瞳で真っ直ぐ、前を見据えた。
ブレイズのスラスターが唸るように。
その右腕からビームの刃を放出して。
敵を薙いでいく。
ロイドは必死だった。
このままエネルギーが無くなって無様に死にたくない。
少しでも足掻いて。
足掻いて足掻いて。
それで死ねるとしたら。
本望かもしれない。
「ど……! イド、ロイド!」
我に返る。
アキトの声だった。
「むやみに動くな! この状況で……!」
モニタを見る。
自分は確かに敵を倒していたはずなのに。
何故自分達は。
「囲まれた……ッ!?」
ぐるりとミストラルを中心に包囲されている。
このまま集中砲火でも浴びせられたら、すぐに装甲は解除される。
第三の援軍―サードライン。
ロイドは無我夢中だったため、気がつかなかったのだ。
おそらく少しでも動けば、撃たれるこの状況。
打開する方法はあるのだろうか。
***
「ザフトを追ってくれば、何ともまぁ大きな客人だなぁ」
その少年はヘルメットの奥からミストラルを見ていた。
「そう言うな。共通の敵だ、ザフトは」
「裏切り者だけどな、俺たち」
「……痛いところを」
男がレバーを倒す。
乗っていた機体が走る。
「突いてくれるな!」
その手に閃光弾。
それを3発、上空高く放り投げる。
「何だ!?」
強烈な光によって、その場にいたMSのメインカメラが一時的にショートした。
『地球軍!』
突然の救難チャンネルを用いた全周波回線。
『活路を開く、脱出しろ!』
レーダーから敵機の反応が消えていく。
何者かが、自分達に力を貸した。
そう考えるべきだろう。
罠かもしれない。
だがレーダーは嘘をついていない。
『早くするんだね。急がないと、死ぬよ?』
二人。
力を貸してくれたのは二人。
「MS隊に帰還命令! 同時にゴットフリートを発射する! 目標、0時!」
「ブレイズ、レフューズ、帰還! 続いてブレード、ニグラ……イェーガー着艦しました!」
「よし……ゴットフリート照準! てぇーッ!!」
メインカメラが死んだMSに避ける術はない。
砲門から放たれた巨大な閃光に飲まれていく。
全速で宙域から離脱するミストラル。
その後方の甲板に、手助けをしたと思われるMSが着艦した。
まだ許可は出していない。
「アンノウンMSより通信です。どうしますか、艦長?」
ヴァイスの問いにリエンは目を閉じ、考えた。
「……繋いでくれ」
モニターに映る男の顔。
『初めまして。クレイ・シンドーだ』
『どうもー、リース・リシアイルだ』
対極とも言える二人の少年。
まるでロイドとアキトのようだ。
「君達は? 一体どこから?」
『一つずつ答えていこうか。俺たちはレジスタンスのMSパイロット』
「レジスタンス……? 砂漠の虎とアークエンジェルが戦った時にも確か……」
『あー、うん。そんなもんだと思ってよ』
彼らの話だと、ザフトがこの辺りの地域に侵略し。
それを良く思っていない地球軍がこの辺りに侵攻。
ほぼ毎日のように小競り合いが繰り広げられていた。
つい最近も大きな戦闘があり、大きな被害をもたらした。
レジスタンスは最初こそ地球軍とザフト、双方を追い出そうと考えていた。
しかし、後にある事件がきっかけとなりレジスタンスの目標はザフトのみへとシフト。
『共通の敵ってやつでね。そういう事で助けた』
「なるほど……だが、信用できるのか? 君達は」
『そりゃあ……今ここで信用しろなんて言わないさ。ベースについてからゆっくり話し合おうぜ』
***
レジスタンスのベースは、既に廃墟と化した名も無き基地だった。
地球軍、ザフトが設立されるよりも前の基地だろう。
どこにもその類のエンブレムは確認できない。
ミストラルは船体に保護幕を被せられる。
辺りの風景となるべくどうかするようにベージュ色の保護幕。
リエンとミリアはレジスタンスベースに向かった。
外見こそ廃墟の基地だが、中身は違っていた。
設備はある程度整えられている。
手動ではあるが地下のMSドックへ向かう事も出来る。
レジスタンスにしては設備が整いすぎている。
「ミストラル艦長、リエン・ルフィードだ」
「レジスタンスリーダー、ガルムだ。ようこそ、地球軍の兵士」
「……俺たちはもう地球軍じゃないさ、なぁ?」
「え、ええ。ちょっとした事情で……」
リエンとミリアが見合う。
それを見て、ガルムと名乗った大男もそれ以上の詮索はしないでいた。
「大方の話はリースとクレイから聞いたな?」
「ああ。それで?」
「あん?」
「ザフトと戦っていたって言う地球軍の連中は? いるんだろ?」
ガルムは何も言わない。
リエンはうすうす、何かに感づいていたのかもしれない。
今の問いは、「それ」を「確証」へとするための問い。
「「生きている者」は皆、このレジスタンスに入ったさ。ほら、そこのオペレーターの嬢ちゃんも」
話が聞こえていたのだろうか、リエンが目で追い、視線が合った。
ふい、とそっぽを向いた。
なかなか強気そうな女だった。
「生きている者は……か」
何人かは死んでいる、という事だ。
「話を戻そう。リエン、俺達と組む気はないか?」
「ザフトを追い出すためにか?」
「そうだ。お前達にとっても悪い話じゃぁ無いはずだが?」
確かに。
このまま無事にスカンジナビアへたどり着けるかどうか。
そもそも無事という保障なんてどこにも無い。
少しでも北欧脱出に力を貸してくれるのならばありがたい事で。
「それは助かるが、戦力は?」
「シグーが2機、それだけだ」
「それだけでよく持ちこたえてきたな!? 逆に凄いぞ……」
驚かざるを得ない答えにリエンはつい声を荒げた。
シグーが二機、という事は自然とあの二人の少年はコーディネイターという事になる。
「……分かった。手を組もう」
「艦長!?」
「少しでもここを抜ける確立を上げなきゃな。それに……」
リエンが外を見る。
「何かある気がする……」
***
その後、レジスタンスの協力もありミストラルの船体の補修作業が行われた。
さすがに完璧とまでは行かないが、二度の戦闘でかなりダメージ受けていたのだ。
ここらで補修が出来てのは運が良かったのかもしれない。
そしてクルー達は久々にゆっくりと休む事ができた。
中にはぐっすりと熟睡をする者までいた。
そんな中、リエンはガルムと話しをしていた。
「ザフトの基地に強襲をする?」
「そうだ。レジスタンスベースはここ」
相違ってガルムが地図を指す。
荒野の端のほうに×印がされている。
そこがレジスタンスベースの位置で。
そこから西に線を引く。
点在している3つの基地。
そのうちの一つは少し前の戦闘で破棄された。
現在、北欧におけるザフトの拠点はその2つ。
「そのうち、こちらの基地を叩く」
「どっちを攻めても同じじゃないか?」
「いや、そう言うわけでもないんでね」
ガルムが説明を始めた。
レジスタンスとミストラルの共同戦線で強襲するザフトの基地は、ジブラルタルからMSの輸送が度々確認されている。
つまるところ、今度襲撃する基地はMS運用の要とも言える基地。
ここを叩けば、夕方の戦闘のように大舞台が押し寄せる事も無くなるだろうと、ガルムは考えていたのだ。
「なるほどな。だが、MSが輸送されてくると言う事はそれだけ警備も厚いと思うが?」
「ああ。そこは避けられないだろうよ」
下手な基地を護衛するよりも戦力確保の方が重要。
故に警備強化を行うと言う事もある。
しかしこのまま輸送されてくるMSを放置するわけにもいかない。
基地を攻めたとしても、輸送基地を攻めたとしても。
どちらにしろ激戦は必至。
「悩む必要はないと思うがな」
「……だな。全く、アンタの考えには頭が上がらないよ」
決まりだ。
明朝10:00。
レジスタンス、ミストラルの全戦力を持って輸送基地を叩く。
これで、少しでもザフトの戦力を削れると良いのだが。
***
夜が明けた。
皆が互いに起こしあい、リエンからの指令を聞く。
それは激しい戦いの幕開けとなる指令だった。
「特にMSパイロットは自機のチェックをしておくように。発進は40分後、09:30。それでは、解散!」
メカニックは格納庫へ。
ブリッジクルーはブリッジへ。
それぞれの持ち場につく。
ロイドもブレイズのチェックをする。
この戦いでロイドは運命の出会いを果たす事となる。
それは自らの出生、運命、全てを表にする。
そんな出会い。
(Phase-08 終)
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