Phase-04 人ならざる者、月光の使者

 ミストラルブリッジ。

 ソナーにて敵影を探るが、その危険性は低く。

 一時の休息を満喫していた。

 アークエンジェルの姿は無い。

「本当によかったんですか、アークエンジェルと別れて」
 
 副艦長席からミリアが声をかけた。

 一通りの話の後、リエンはアークエンジェルと分かれることを告げたのだ。

 リエン曰く、マリューの話は本当。

 このまま地球軍を離脱したいくらいだが。

 しかしまだ自分の心の中で、納得し切れていない自分がいるのだ。

 自分が地球軍で。

 アラスカで起きたことを体験していないから。

 ほんの小さな塊だが、納得し切れていないのだ。

 その塊がなくなったとき、彼が進む道はおのずと見えてくる。

「確かめなきゃならないからな……。上層部に、何としても」

「そうですが、いきなりそんなことを尋ねても怪しまれるだけです」

「分かってるけどな。こういうのは単刀直入に言ってみるものさ」

 実にリエンらしい、明朗な答え。

 しかし、事実上地球軍の総司令部だったJOSH-Aはもうこの世には存在しない。

 尋ねようにも、ここはオーブの近く。

 どうしようもない状態だった。

「艦長!」

***

 ミストラルの隣には地球軍のイージス艦が停船している。

 2隻の艦を繋ぐ簡易通路を渡って、地球軍の仕官がミストラルブリッジに訪れた。

 ウィリアム・サザーランドと、3名の仕官。

 サザーランドの姿を確認するなり、立ち上がり敬礼をするブリッジクルーの面々を見渡すサザーランド。

 その立ち居振る舞いはさすがに大佐と言う位置にいるだけの事はある。

「サザーランド大佐ともあろう方が、何用で?」

「うむ、今日はある作戦に参加してもらいたく、その旨を伝えに来た」

 サザーランドが軽く左手を挙げると脇にいた士官が一枚の紙を読み上げた。

 来る5月29日、ビクトリア奪還作戦が開始される。

 ミストラルはその奪還作戦に参加、ビクトリアにあるマスドライバーを取り返すと言うことだった。

 ビクトリア基地と言えば、今年の2月13日にザフトによって陥落したマスドライバーを有する地球軍の基地。

 2月13日の時点では地球軍はMSの配備がされておらずただただ陥落を許してしまったが、今は違う。

 既に各地の基地からMS隊がビクトリアへ向かっている。

 その中でも2機の特機を有するミストラルは最高の戦力になりうるとサザーランドは考えていた。

 さらに先刻完成したばかりの3機の新型GATの可動テストもこの作戦は兼ねているらしい。

 実戦が可動テストとは、どうやらその3機のGATの性能によほど自信があるらしい。

「至急ビクトリア基地へと向かっていただきたい」

「了解いたしました」

「それでは失礼する」

「ちょっと、宜しいでしょうか?」

 リエンがサザーランドを呼び止める。

 マリューから聞いたことを確かめようとするが。

「時間が無いのでな。このあとブルーコスモスの盟主殿との会合も控えている。失礼する」

「ちょ……」

 こちらの静止もむなしく、サザーランドは用件を伝えるとさっさとミストラルから姿を消した。

 結局真相は聞けず。

 だがまたいずれチャンスはある。

 そのときに聞けば。

「おー、いたいた。リエンー」

 厳粛な空気が一瞬にして騒がしくなった。

***

 実に遅くなった。

 本当にリエンは彼らには悪いと思っていた。

 ミストラルのクルーを集めて彼らのことを紹介する。

 ロイドとアキトは既に面識がある。

 カラーズの面々を雇った理由、これからともに行動することとなること。

 それぞれ自己紹介など。

 それらを全て終え、カラーズの面々はリエンと話をすることになった。

「3ヶ月ぶり、だな」

「ん? ああ」

 3ヶ月前のあの日、リエンはカラーズから抜けた。

 彼らの説得も無駄に終わったのだ。

『落ち着け、リエン! こんなことをしても……何にもならないだろうが!』

 忘れない。

 あの時の、3ヶ月前のあの時のことは。

 3ヶ月と言う、短い期間でリエンは大尉の位置にまで上り詰めた。

「今も、あの時の気持ちのままなのか?」

「……いや、あの時はどうかしてたさ」

「じゃあ、カラーズに戻るんですかぁ?」

「それはない。今の俺は地球軍の「リエン・ルフィード大尉」だ。そしてミストラルの艦長、戻るわけにはいかない」

 昔から楽天的で、物事は常に前向きに考える人間だった。

 しかし変に頑固なところがある。

 部屋から外を見る。

 ビクトリアへと向けて動き出したミストラル。

 景色が後ろへと流れて行く。

「それにしてもこの艦もパイロット……若いわね」

「ロイドとアキトのことか? パナマでも1、2を争う腕の持ち主だ」

 カラーズの4人は彼ら2人ともう既に会っている。

 戦闘もあの小島で見せてもらった。

 中々の腕だが、実戦に慣れていないのか。

 所々危ない部分もあったことは事実で。

 その辺りは先輩であるヴェルド達がサポートする。

 もちろんこの艦の護衛も含めて。

「これからも、よろしく、ってことで。どうだい、今夜一杯」

「遠慮しておく、ヴェルド」

***

 5月29日。

 3日の航行と1日の補給を終えたミストラルはビクトリア基地に程近い沖合いの海にたどり着いた。

 既にイージス艦が横一列に並んでおり、いつでも戦闘を仕掛けられる状況ではある。

「ミストラル配置完了、と旗艦に」

「了解」

 電文を打ち、艦内に第一戦闘配備が発令された。

 今回出撃するのはロイドとアキト。

 それにカラーズからアイリーンとアルフ。

 ヴェルドのフレア、エイスのイェーガーはともにまだ整備中。

 旗艦イザベルよりミサイルが発射される。

 それは先手を打つという意味と。

 戦闘開始の合図。

 イージス艦より次々とストライクダガーが発進していく。

 ミストラルも例外ではなく、2つのカタパルトハッチが開いた。

「ブレイズ、レフューズ、発進どうぞ!」

「ロイド・エスコール、ブレイズ、行きます!」

「アキト・キリヤ、レフューズ、出る」

 2機のMSがカタパルトハッチより射出された後、ビクトリアの地面を踏んだ。

 程なくしてアイリーンのブレード、アルフのニグラが到着する。

 旗艦イザベルより命令が下る。

 それは転送されたデータを基に、敵施設の全破壊、及び敵機の駆逐。

『と、言うことだが、4人ともやれるな?』

「はい!」

「……問題は無いです」

「ま、死なない程度に」

「やってやるよ」

 それはそれは頼もしい返答ばかりだった。

 リエンの指示はただ一つ。

 死ぬなと言うこと。

 それだけで十分だった。

 ロイドとアキトはリエンの下で訓練を積んでおり。

 アイリーンとアルフは3ヶ月ほどともに戦っていないとはいえ、元々見知った仲だった。

 言わずもがな理解できるというやつだ。

 通信が切れると、4機は隊列を崩さずに突き進む。

「さすがビクトリア……敵の数が多い!」

 ブレイズのグロウスバイルがジンを切り裂いた。

 前衛は近接先頭の得意なブレイズと、ブレード。

 後衛はほとんどの状況に対応できるレフューズとニグラ。

 これで十分だったが。

『旗艦イザベラより3機のMSが発進しました!』

 3機のMS。

 確認するよりも早く、3機のMSが戦場に降り立った。

 一機は黒と赤を基調としたMSで鳥のようなMA形態から変形し、右手に持った破砕球で敵機を破壊して行く。

 そのMSより降りた緑色の、砲戦仕様のMSの両肩の巨大なビーム砲が広範囲の敵を巻き込み、塵へと還す。

 そして上空よりカーキ色のMS。

 その手には巨大な鎌を持ち、振り下ろした。

 鎌の餌食となった敵機は紙のように簡単に切り裂かれた。

 その3機のどれもがナチュラルの操縦とは全く思えなかった。

 凶悪で、敵味方関係ない。

 ただ自分達の本能ままに、戦う。

 現に緑色の機体が味方であるはずのストライクダガーごと敵を倒している。

 その狂気に満ちた戦闘スタイルに、ロイドは戦慄した。

 まるでナチュラルのものではないそのMSに呆気にとられていたが、今は戦闘中。

 今は生き残らなければならないのだ。

 死ぬわけにはいかない。

「……切り込みます! 援護を!」

 ブレイズが走る。

 今は自分の戦いをするだけ。

 いくらあの3機がナチュラルの範疇を超えているとしても。

 惑わされる必要は無い。

 竦む必要は無い、恐れる必要は無い。

 アイリーンの声が聞こえる。

 アキトの声が聞こえる。

 アルフの声が聞こえる。

 そして、ロイドの声が響く。

 その瞬間のブレイズのカメラアイは、通常のグリーンではなく。

 燃え盛るような真紅だったと言う事は誰も知らない。

***

 パナマの二の舞にはならなかった。

 またザフトが何か隠し玉を持っているのではないだろうかと懸念した。

 しかし今回はそんなことも無く、地球軍の圧勝でビクトリア基地は奪還された。

 圧倒的なまでの戦力差だった。

 ザフトも突然の侵攻に準備が整っていなかったと言うこともある。

 しかし、それ以上に、何よりも。

 旗艦イザベルより出撃した3機の新型GATの活躍が目立っていた。

 もちろんブレイズ以下4機も奮闘したが、あの3機に比べれば。

 戦闘が終了し、地球軍兵がビクトリア基地内部に残っていたザフト兵を全員外へと連れ出した。

 両手両足を縛り上げ、地面に正座をさせて。

 一人ずつ、射殺していく。

 もちろんのことだが、戦力も全て破壊された。

「あー、皆さん。ご苦労様です」

 ミストラルの外にいた、ロイド達に一人の青年が声をかけた。

 人を小馬鹿にしたような、不快な声だった。

 いかにも苦労と言うものを知らないような、そんな声にも聞こえる。

「貴方は?」

「ブルーコスモス盟主、と言えば分かるでしょう?」

「ブルー……コスモス」

 ヴェルド、エイス、アイリーン、アルフが気まずくなり顔を背けた。

 4人はコーディネイター。

 相手はブルーコスモスの盟主。

 ブルーコスモスと言えば地球上からのコーディネイター排他運動を掲げている組織である。

 テロまがいの行動もあり、その思想はナチュラルにも理解しがたい部分はあるが、その根本的なものは戦争そのものと何も変わっていない。

 コーディネイターが憎いから。

 それに限る。

「ご苦労様です。これで何時戦場が宇宙へ移っても安心、というものです」

「そうですか……それは良かった」

 リエンは相手の―ムルタ・アズラエルの言葉には二つ返事で答えていく。

 なかなか好かない相手のようだ。

「おや、何か気に入らないところでも?」

「いや……それは」

 そういうとリエンの視線は先ほど射殺されたザフト兵の亡骸へ。

「何もあそこまでしなくてもよかったのでは?」

「ああ、その事ですか? 何事も徹底するのは良い事ですよ? 奴らを生かしておけばいずれ我々の首下を掻き切られるかもしれない。だから殺せるときに殺しておく方が得なのですよ」

 得とかそういう問題ではないのだが。

 どうやらこのアズラエルと言う青年は些か捩れた考えを持っているようだ。

「それと、近日中に地球上の中立国家、そうですねぇ……今ですとスカンジナビアと、オーブ。その両国に対して「ワン・アースス・アピール」を行うつもりです」

 それは文字通り「地球を守るために一丸となりましょう」というアピールである。

 ただしこれは大衆に向けた表の顔。

 裏では中立国に対して恫喝にも近い方法で迫り、協力を得ようという手段。

 早い話が連合への加盟である。

 今のところ、地球上で中立を保っている国家の仲で代表的なのは先述したスカンジナビアとオーブ。

 その2つさえ地球軍の傘下へ入れてしまえば、残った中立国も時間の問題となる。

「もちろん、この2つの国が早々大人しく我々に従うとは思えません。そこで期限となる6月13日に我々はこの足でオーブへと向かいます」

 崩すなら大本から。

 スカンジナビアよりも、世界への影響力の大きなオーブに狙いを定めたのだ。

 アズラエルは続ける。

 その6月13日にミストラルも参加しろと。

 この作戦に参加したら、間違いなくオーブへ向かったアークエンジェルと戦うことになる。

「もしオーブが素直に従えば結構。しかし従わなかった場合……私達はこれを排除しなければなりません」

「排……除……?」

 誰かがそう漏らした。

 自分達に従う力ならば優位に使わせてもらう。

 しかし従わないのならば、脅威になりかねないそんな危険な力など要らない。

 消してしまえばいいのだ、脅威になる前に。

「私達に従わない力など、必要ありませんからねぇ……」

「……」

 誰も喋る気にはならなかった。

「それでは、私はこれで」

「待ってください」

「何ですか?」

 リエンが呼び止める。

 この間の事を聞かなければ。

 アラスカで、何をしたのか。

 その口で吐かせて、この耳で聞かなければ。

「アラスカで、サイクロプスの使用があったと聞きましたが……本当ですか?」

「何のことかと思えば……」

「上層部が……あんた達が遣した戦果報告書と違う! あれは、ありのまま起こった事を書き記すものじゃないのか!?」

 余りの態度に、側近がリエンに銃を向ける。

 しかしアズラエルはそれを静止する。

 2、3歩歩み寄ると彼は口を開いた。

「何か、悪いことでもしましたか?」

***

 戦闘終了後、近くの港へと立ち寄り補給と整備を受けるために停泊した。

 大勝とはいえ、整備・補給は常に行っておかないと何が起きるか全く分からないのだ。

 ブレイズとレフューズは整備を受けている。

 ヴェルド達の機体はザフトから奪ったと言うこともあり、なるべくミストラルの方で整備をすると告げた。

 丸一日ほどかかる作業。

 その間、クルーは休息を取りそれぞれが楽しんでいた。

 ロイドはミストラルの甲板にいた。

 もう日も沈んで、辺りは闇が包んでいる。

 今日の戦闘で、3機のGATの凄さを思い知らされた。

 心強い味方と言うわけではない。

 恐怖にも似た凄さを味わった。

「……ロイドか」

 風に紛れて聞こえたのはアキトの声。

 彼も甲板に上がってきた。

「ああ、ちょっと考え事をしていてさ……」

「ビクトリアでのことか……」

「そ。色々と、な」

 アキトも3機のGATの強さには驚いていたようだ。

 あの動きはナチュラルの芸当ではない。

 だとしたらコーディネイターをパイロットにしているのか。

 それは考えられない。

 今の地球軍はブルーコスモスの思想が、間違った形で深く根付いている。

 コーディネイターをパイロットにするなど、考えられない。

「なぁ、アキト。もし、俺があんな感じになったらどうする?」

「……お前は何を言っているんだ」

「だから、こう……敵味方関係なく暴れるようになったら」

「下らない……。その時はその時、殺すも生かすも、その時だ」

 実にアキトらしい答えにロイドは安心した。

 ここで変に慰めるような返答をされても、逆に問いを投げかけた自分が気まずくなるだけ。

 ロイドが空を見上げた。

 漆黒の空に浮かんでいたのは、金色の光を放つ満月がそこにある。

「おい、アキト見ろよ! 満月だ」

「……珍しいものでもないだろうに」

 それでもその満月を見あげるアキト。

 実に久しぶりに満月を見た。

***

 地球より遠くはなれたその地に。

 地球の衛星、月にそれは存在していた。

 地球軍ノースブレイド基地。

 宇宙に存在する地球軍の基地の中でも小規模な基地。

 そのため、ここに送られてくる兵士はいても、ここからどこかへ移る兵士はほとんどいない。

 そんなノースブレイド基地においてこの日、一機のMSがロールアウトした。

 白と青のツートンカラーの機体。

 PS装甲を装備しており、実態団には無類の防御力を誇る。

「イルミナ、ついに完成したんだ……」

 イルミナと名づけられた、形式番号の無い期待を見上げる少年。

 この基地の数少ないMSパイロット。

 名を、フエン・ミシマ。

 日本の生まれで、黒髪に黒い瞳といたって普通の日本人。

 イルミナの製造が始まった時、自分にパイロットをしてみないかという声がかかった。

 ちょうどその時、彼の姉は別の任務で地球にいた。

 その姉を守りたいと言う心で、フエンはイルミナのパイロットの任を承ったのだ。

 それから数ヶ月。

 今日、ついにイルミナが完成した。

 月で作られた独自のMS、イルミナ。

「お前は……俺にどんな力を与えてくれるの……イルミナ」

「フエン、イルミナの形式番号が決まったぞ」

 メカニックがフエンにメモを渡した。

 メモには幾つかの案が書かれているが最終的に赤丸で囲まれているものに決まったようだ。

 MMS-015。

 それがイルミナの形式番号。

 MMS―Moon Mobile Suitの略称。

 015、それはちょうど今夜が地球から見たときに月例15であることに由来する。

 だから、MMS-015。

「それと、今からデュライド・アザーヴェルグの乗るヴァイオレントとの起動テストを兼ねた模擬戦を行う。30分後に指定された宙域に来るように、だとさ」

「あ、はい。分かりました」

「しっかりやれよぉ? 何たってイルミナ、ヴァイオレントには俺たちの意地が詰まってるんだからな!」

 イルミナには少し先にロールアウトした兄弟機が存在している。

 ヴァイオレント、形式番号はMMS-018。

 およそ一月ほど前に先にロールアウトを迎えた。

 フエンとイルミナの初めての戦いは。このヴァイレントとの模擬戦。

 パイロットスーツに着替えたフエンはイルミナに乗り込んだ。

 イルミナ専用のヘルメットを被り、OSを立ち上げる。

「M.O.S、システム良好、火器管制ロック解除。フエン・ミシマ、イルミナ、行きますッ!」

 ノースブレイド基地のハッチからイルミナが発進し、指定宙域へとたどり着く。

 指定宙域とはいえ、ノースブレイド基地から見えるところにある月の大地である。

「イルミナ……ようやく完成したな、フエン」

「デュライド……。うん、待たせてごめんね」

 ヴァイオレントのパイロット、デュライド・アザーヴェルグとの通信。

 デュライド自身もイルミナの完成には心待ちにしていたものがある。

 ヴァイオレントはもう何度も実戦を繰り返している。

「何時でも来い、フエン!」

「分かった……! 行くよ、イルミナ!!」

 イルミナのカメラアイが光り輝く。

 これがイルミナに搭載されたM.O.S―Mind Operation System−の効果。

 このシステムはフエンの精神をリアルタイムで気体に反映させることが出来る。

 例えばフエンが敵に対して、怒りなどで気持ちが高ぶった時、イルミナの性能も向上する。

 しかしフエンが恐れを抱いて弱気になった時、イルミナの性能もダウンする。

 言わばイルミナは、フエンの心そのものと言ってもいい。

 今のイルミナは模擬戦の取り組むフエンの真剣な心をトレースし、通常時よりも性能が上がっている。

 イルミナを操縦する時、如何に敵に対して弱さを見せないか。

 それがフエンに化せられた課題でもあり、イルミナの弱点。

「速いッ!」

 さすがに相手は自分よりも実戦を繰り返しているヴァイオレント。

 的確にフエンの攻撃を避けていく。

「ならば……接近戦を!」

「甘い!」

 ヴァイオレントの右腕に装備されたビームソード「デュランダル」が猛威を振るう。

 ヴァイオレント似接近戦を挑もうとしたのが間違いだった。

 模擬戦ゆえに出力は最低レベルまで抑えてある。

 それでも通常のサーベルだと打ち負ける。

「あぁっ!」

「まだまだだな、フエン」

『二人とも模擬戦はそこまでだ。急な客が来た』

 急な客と言うことで戻ることに。

 イルミナとヴァイオレントから降りた二人は、ドック内に存在している見たこともない戦艦が目に入った。

 護衛艦やイージス艦の類とは全く異なる、戦艦だった。

 無重力の宙から降りたフエン。

 そんな中、戦艦のクルーのある女性と目があった。

 その女性、いや少女は人を押しのけてフエンのところへ文字通り飛んできた。

「フエーン! 会いたかったよぅー! 元気だった!? 風邪とかひいてない!?」

 久しぶりだった。

 本当に、久しぶりで泣きたくなったが。

 そんなことよりも、まず先に。

「ね、姉さん……久しぶり。相変わらずだね」

 そういうフエンにうるうると涙ぐむフエンの姉、サユ。

 姉さんと言う単語を聞いて、クルー全員が声を上げた。

「サユの弟!?」

 どうやら相手方のクルーはこの事実を知っていなかったようだ。

「姉さん、ぎゅぅは後でいいから……。あの戦艦は?」

「あれ、戦艦じゃないよ。作業ポッド「ミニミストラル」って言うんだよ」

「フエン、作業ポッドと戦艦を見間違える馬鹿がどこにいるか……」

「え、あ、あれ……?」

 このお惚けぷり。

 間違いなくサユそのものである。

 これでクルーと思われる兵士達は納得したのは言うまでも無い。

「そうだ! フエンお腹空いたでしょ! お姉ちゃんがご飯作ってあげるから早く艦に行こうよ! ね?」

「と、ととと……姉さん!」

「デュライド君も、早く早く!」

 デュライドはなるべくならこの誘いを拒否したかった。

 彼女の作る料理は奇想天外、奇妙奇天烈なものばかり。

 何をどうしたら「甘い味噌汁」など出来るのか不思議でならなかった。

 喉が焼けたと思ったと、その味噌汁を口にした兵士達が行っていたのはノースブレイド基地での逸話である。

 今でもその話は語り継がれている。

「彼らには後で話をしておきます。暫くはこの「タケミナカタ」で預かる、と」

「そうしていただけると助かります、タケミナカタ艦長、マナ・サタナキア中尉」

「なかなか有望な人物だと思いますよ。真っ直ぐで……誰かを守りたいと思って」

 マナはフエンの背中を見る。

 ミニミストラルに運ばれていくイルミナとヴァイオレント。

 あとは中立コロニー「ディナ・エルス」へ向かい、「あの男」の治療が終われば。

 マナは改めて向き直り。

「マナ・サタナキア中尉、フエン・ミシマ少尉、及びデュライド・アザーヴェルグ少尉、イルミナ、ヴァイオレントの受領を承りました!」

「ああ、改めて、彼らのことを頼んだ」

 この日、イルミナと言う力を得たフエンは少しの間、ノースブレイド基地を離れることになった。

 この後フエンは数々の戦いを潜り抜け、様々なものを目にする。

 その先にあるのは、新たな戦いか。

 それとも、別の何かか。

 フエンがその事を知るのはC.E..72のある男の反乱の時である。


(Phase-04 終)


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