Phase-03 血は精神を歪め、人を殺す

 何時からだろうか、こんなにも人を殺したいと思ったのは。

 幼少の頃は、ごく普通の子供だった。

 近所の子供たちとつるんで、ちょっとした悪戯をしたり。

 昨夜見たアニメの話をしたり。

 でも、自分の両親が死んで、たった一人で見知らぬ世界に放り投げられたような現実に直面した時。

 彼の中の心は、彼と言う存在は死んだ。

 彼の両親はテロ行為に巻き込まれて命を落とした。

 ナチュラルの仕組んだテロだった。

 彼はナチュラルを憎んだ。

 心の底から憎んだ。

 憎んで憎んで、何時しか彼の心は捻じ曲がっていた。

 殺したいほど憎い。

 憎いほど殺したい。

 そんなどす黒い憎悪だけが、彼の中にある。

 殺せ、全てのナチュラルを。

 憎め、ナチュラルを。

 だから彼は、ザフトに入隊した。

 それはカルラ・オーウェン、16歳の時のこと。

***

 カルラはツヴァイの中で、モニターに映るMSを見ていた。

 その赤い、砲戦仕様のMSの全身から火花が散っている。

 元々ザフトが開発したMSだった。

 しかし、鬱陶しい傭兵部隊がそのMS−4機のMSを奪ったのだ。

 カルラはその後、奪われたMSの奪還の任務を抱えた。

 一歩ずつ、ゆっくりと迫るツヴァイ。

 まるで死人を解体する悪魔の様。

 ただ彼は無言だった。

 いや、自分の中の衝動を抑えているのか。

『……ン、カルラ・オーウェン! 聞こえていたら返事をしろ!』

「チッ……」

 一体何時から自分は呼ばれていたのだろう。

 それすらもどうでも良かった。

 カルラは通信回線を開き、母艦からの指示に耳を傾ける。

『命令は4機のMSの奪還だ! 忘れるなよ』

 おおよそ今のカルラなら目の前の4機を叩き壊すと、危惧したのだろう。

 声は焦っており、早口だった。

「しかしこれだけ部位を破壊されては、役に立たないのでは? いっそのことここで破壊してしまった方が」

『馬鹿を言え! MS、しかも特機を1機作るのにどれかでの金と時間がかかると思っているのだ! 少しは考えろ!』

 鬱陶しい声。

 頭を貫くような、不快な声。

 カルラの苛立ちが増していく。

 今ここで「うっかり」母艦を沈めてしまいたい気分だ。

 それほど、彼の精神は不安定極まりないものだった。

『カルラ・オーウェン、気をつけてください。そちらに接近する機影が確認されました』

 女の声。

 カルラの表情が一瞬動いた。

 すぐにレーダーを確認する。

 確かにこちらに接近する光点が2、いや3。

 目の前に横たわる赤い機体から視線をそらす。

 殺されたいやつが来たようだ。

「……くっ、クク……アァッハッハッハッハッハァッ!!」

 今日は最高の日になりそうだ。

 目の前に立ちはだかる敵を薙ぎ倒し、パイロットをたくさん殺すことが出来る。

「気分が良いなァッ! 今の俺は!」

***

 断続的にスラスターによるジャンプを繰り返すことで、その2機は素早く目的地に近づいていた。

 ブレイズとレフューズ、やや遅れて母艦ミストラル。

 先ほどからレーダーに動きが無い。

 それは4機の光点もそうだが、それと対峙するするように点滅している光点も。

 何か不気味だった。

 ロイドにもアキトにも、第六感などと言う非科学的なものは無い。

「気をつけろよ、ロイド……。相手はどんなやつか判断できない」

「分かってるよ。4機のMS相手に無事なヤツなんて、早々いるもんか!」

 目的の小島に付いた時、それは目の前にいた。

 全身が漆黒のMS。

 その奥にはところどころが破壊されている4機のMS。

 驚くことに、その漆黒のMSはほとんどダメージを受けていなかった。

 確かに外装に弾痕と見られる痕が確認できるが、それも致命傷ではない。

 4機のMS―見たところその4機も漆黒のMSもブレイズを同じ様な出で立ちである―はボロボロだと言うのに。

 恐ろしく腕の立つパイロットか、それとも機体の性能が凄いのか。

 果てはその両方か。

 ロイドの頭の中で軽症が鳴り響く。

 まともに戦いあえる相手ではない、と。

「識別地球軍……! ナチュラルめがァッ!」

 カルラが叫び、2機に襲い掛かる。

 ツヴァイのビームライフルが、瞬間的に火を噴いた。

 トリガーを引くスピードが速すぎる。

 ブレイズもレフューズも、ほとんど感覚的にそれを避ける。

「散開するぞ、ロイド!」

「分かってる!」

 2機が左右に分かれる。

 どちらを狙うべきか。

 いや、両方狙うべきだ。

 ツヴァイの腕部グレネードランチャーが放たれる。

 双方に迫るグレネード。

 ブレイズは「グロウスバイル」で、レフューズはビームサーベルでグレネードを切り裂いた。

 しかし、レフューズの眼前にはツヴァイ。

 アキトが小さく声を漏らした。

 ツヴァイのカメラアイが光ると、レフューズの機体が揺さぶられた。

 ツヴァイの両腕のメタルブレードが、レフューズの胴を捉えていた。

 幸いPS装甲のため、そのダメージは無いに等しいが機体への振動まで抑えられるわけではない。

 激しき揺さぶられるコクピットの中で、アキトはその敵機を睨んでいた。

 彼自身、ここまで怒りを覚えたことは無い。

「アキトッ!」

 ロイドが援護しようと、ブレイズを駆る。

 スラスターを噴かして、地上スレスレを高速で移動する。

 左手に握ったショート・バレル・ライフルを乱射する。

 やはりこちらが動いている、あるいは敵が動いていると照準がぶれてしまう。

 現にブレイズの放つビームは、ツヴァイに対して決定打にはならなかった。

「赤いの! 貴様から、死ぬかッ!?」

「こいつ、墜ちろよ!」

 ツヴァイのメタルブレードが、ブレイズのシールドを弾いた。

 回転し、宙を舞うシールドだが。

 ブレイズはそのシールドを蹴り飛ばした。

 回転を殺さず、ツヴァイに向かうシールド。

 一瞬で良い。

 一瞬でも相手が隙を見せれば。

 ロイドの思惑通り、シールドを避けようとしたツヴァイのバランスが崩れる。

「う、おぉぉぉぉぉっ!」

 グロウスバイルが、ツヴァイの翼を貫いた。

 本当は胴を薙いでいるはずだった。

 ツヴァイがギリギリのところでそれを避けたのだ。

「ああ、クソッ!」

 それでもロイドは諦めない。

***

 オペレーション・スピッドブレイク。

 5月8日に行われた、ザフトによる地球軍アラスカ司令部への大規模な侵攻作戦。

 その戦闘により、地球軍・ザフト双方に多大なダメージだけが残ってしまった。

 アークエンジェルも防衛に参加。

 しかし最終的にアラスカ司令部が使用した「サイクロプス」の存在に気付き、連合・ザフトにその旨を伝えアラスカから脱出していた。

 戦死したと思われたキラ・ヤマトと共に。

「敵の反応は?」

「いえ、艦の半径400に敵影は無し」

 艦長マリュー・ラミアスの問いにCIC、ミリアリア・ハウが答える。

 ザフトも疲弊しており、さすがにここまで追ってこないだろうと考えていたが。

 5月25日、つい先刻パナマへの直接攻撃が行われた。

 ブリッジに重い空気が流れ始める。

「なぁに、大丈夫さ。ザフトが来ても、俺とキラが出て倒してやるよ」

「ムウ……」

 MA乗り、ムウ・ラ・フラガが言うが気休めにしかならない。

 戦闘中、何が起こるか分からないのだ。

「キラもさ、何か雰囲気変わったし……何て言うの、頼もしくなった?」

「そうね……。私達が、彼を変えてしまったのかもしれないわね」

 初めてキラと出会った時、マリューは何と普通の少年だろうと思っていた。

 4機のXナンバーが強奪された時も、普通の少年ながらよく戦ってくれた。

 その後のヘリオポリス崩壊の原因となった戦闘でも彼は戦うことを嫌がっていた。

『ずるいですよ、貴方達は……! この艦にMSはアレしかなくて……! そして戦えるのは、僕だけだって言うんでしょう!?』

 あの時のキラのことは忘れない。

 いや、忘れてはいけないのだ。

 本当は戦うことなんて嫌なのに、自分達はキラのコーディネイターとしての彼の力を頼り。

 彼から大切なものを、多く奪ってしまった。

 マリューの視線が第二操舵席に向かう。

 今は誰も座っていないその座席、元々キラの親友が座っていた。

「私達は、間違っているのかしら……」

「間違っていたとしても、間違っているなりにその道を進めばいいさ。何せ俺たちはもう、地球軍じゃあないんだ」

 彼らは作戦行動中に許可無く作戦領域から、いわば「脱走」したのだ。

 彷徨う大天使の行く末は、果たしてどこか。

「れ、レーダーに反応!」

 一瞬にして、全員の意識が覚醒する。

 マリューが問う。

「前方2000の位置にある小島より、戦闘と思しき熱源を感知! 数8! その内大型の熱源が1、識別は地球軍です!」

「戦闘……! オーブも近いって言うのに、地球軍もザフトもよくやる!」

 ムウの言葉にため息しか出なかった。

 もし、中立国であるオーブに被害でも出れば、それこそ問題である。

 向こうはこちらに気付いていないようだが、どうするか。

「こ、このまま戦闘を見過ごすわけにもいきません……! 総員、第一戦闘配備! ヤマト少尉は出撃を!」

「おいおい、俺はどうするんだよ! 俺だって出れるぜ?」

「フラガ大尉はブリッジで待機してください。スカイグラスパーはまだ整備中です」

 舌打ちをするムウ。

 カタパルトでは発進シークエンスが進められる。

 今回は戦闘が目的ではなく調査が目的。

 先頭になることはほとんど無いと、マリューは伝える。

「分かりました。キラ・ヤマト、フリーダム、行きます!」

 蒼き翼を持つMSが出撃する。

***

 ブレイズとレフューズの2機とツヴァイの戦闘は終わる気配がなかった。

 2機のショート・バレル・ライフルがツヴァイめがけて放たれるが、ツヴァイはやすやすとそれを避けていく。

 戦闘が始まってから既に40分が経過していたが、落とされる様子も無い。

 このままではただ悪戯にバッテリーを消費するだけである。

 まだ余裕こそあるものの、ビームを放つたび、被弾するたびにエネルギーは減っていく。

 いくらブレイズとレフューズが外付けのバッテリーパックを装備しているとはいえ、エネルギーは無限ではない。

「この……!」

「無駄打ちはするな、ロイド……! こちらが不利になる……!」

「だけど、このままみすみすやられろって言うのかよ! 俺は御免だ!」

 ブレイズが駆ける。

 いつもロイドには振り回されている。

 その突拍子も無い行動が時には打開策となるが、今は戦闘中。

 せいぜい死なないように援護する。

「貴様ら……よくも俺を苛つかせるなッ!」

「お前、動くなっ!」

 再び交わるブレイズとツヴァイだが。

 ロイドはブレイズのコクピットの中で、敵の通信を傍受した。

 ノイズが酷い。

『……て……ウェン! 深追いを……』

「敵の通信を傍受した……? 何なんだ? ノイズを取り消さないと……」

『聞いているのか、カルラ・オーウェン! そちらにもう一機、MSが接近中だ! 深追いをするな!』

 もう一機。

 今確かにそう言ったが。

 確かにレーダーに反応があった。

 識別は地球軍だが、MSと思われる反応が1、戦艦と思われる反応が1。

 地球軍ならばもう少し戦力があってもおかしくは無いのだが。

 ぐんぐんと迫る反応。

 ツヴァイもブレイズも、レフューズもその場で止まった。

 現れたのは、蒼き翼を持つMSだった。

 ロイドとアキトはそれが何か分からない。

 見たこともないMSだった。

「ちっ……興ざめだ」

「ま、待てよ!」

 ロイドがとっさに声をかけるが、遅かった。

 目の前のMSの反応に気を取られていたが、相手は確かに「カルラ・オーウェン」と言っていた。

 もし聞き間違い出なければ、あれに乗っているのは。

「カルラ……!」

「ロイド、どうした?」

「いや、何でもない。それよりも、目の前のアレだ」

 対峙する赤と青と、蒼き翼を持つMS。

 その奥には、大天使の姿。

「いや、参ったな……」

 ミストラルブリッジで、リエンは呟いた。

 まさかアークエンジェルが出てくるとは思わなかった。

 オペレーション・スピッドブレイクが終了した日に、各基地には戦果報告書が送られていた。

「全員にハンドガンを携帯させろ、アトレー大尉」

「は?」

「どうやら大天使と、話さなきゃならないようだからなぁ……。このまま、あいつらが逃してくれるわけ無いだろうし」

 リエンが立ち上がる。

 ミリアもその後について行く。

 ブリッジクルーはこの場で待機、その他の者は艦の外で待機。

 ロイドとアキトにもそのことを伝える。

 リエンとミリアが外に出るよりも、少し遅れてアークエンジェルから艦長と思われる女性と男が出てきた。

 どちらも警戒している。

「アークエンジェル艦長、マリュー・ラミアスです」

「アークエンジェル級ミストラル艦長、リエン・ルフィードだ。まさかこんな土地でご高名なアークエンジェルに会えるとは思いもよりませんでした」

 ミストラルでは中破した4機のMSの収容作業が進められている。

「あなた方は何故ここで戦闘を?」

「ちょっと知り合いと合流する予定でしてね。アークエンジェルも、オペレーション・スピッドブレイクを終えたばかりで疲弊している様で」

「……?」

「おや、違いましたか?」

 どうにも様子がおかしい。

 リエンは何か繋がらない現状の糸に不信感を抱き始めた。

 ミリアにオペレーション・スピッドブレク戦果報告書を持ってくるように命令する。

 リエンが目を通した報告書と、アークエンジェルのクルーが遭遇した現実が違っているのか。

 そんなことは無い。

 戦果報告書は戦闘であったとこを嘘偽り無く報告するのが義務となっている。

「持ってきました」

 未だに状況が分かっていないアークエンジェルクルーに、リエンは戦果報告書を読み上げる。

「先日行われたザフトによる大規模侵攻作戦「オペレーション・スピッドブレイク」は地球軍の圧倒的勝利に終わった。その功績はアラスカ司令部にて待機中だったアークエンジェルと、GAT-X105ストライクの活躍によるものが大きい、と」

「何と言うこと……!」

 やはり、そうか。

 この報告書は。

「詳しく、教えていただけませんか?」

 それからマリューがアラスカであったことを全て話した。

 ムウ・ラ・フラガ、ナタル・バジルール、フレイ・アルスターの3名はアークエンジェルより退艦命令が下された。

 ムウとナタルはこれからの地球軍で活躍するであろうMS隊や指揮官として配属される予定で。

 フレイは単なるプロバガンダ的な扱いでアークエンジェルから降ろされたのだろう。

 その後、数日に渡りアークエンジェルは半軟禁生活を余儀なくされた。

 アークエンジェルがアラスカ司令部にたどり着いたのは5月2日。

 オペレーション・スピッドブレイクが開始されたのは5月8日。

 実に一週間もの間、彼女達は何の指令も無くアラスカに留まらざるを得なかった。

 しかし始まったオペレーション・スピッドブレイク。

 アークエンジェルはアラスカ防衛任務のために戦闘に出るが、その戦力差は歴然だった。

 ザフトは陸海空からMSで攻め入る。

 大した地球軍は時代遅れのVTOL戦闘機にイージス艦。

 よくてもアークエンジェルである。

 その戦力でアラスカを防衛できるわけが無い。

 そもそもリエンもその事については不思議に思っていた。

 パナマで試験運用中だったストライクダガーがアラスカに配備されているわけでもない。

 なのに地球軍の圧倒的勝利に終わったと、報告書には書いてある。

 ぜひ、その戦術を知りたかった。

 しかし文面の裏を探ってみると、何ともお粗末な結果だったと言うことだ。

 オペレーション・スピッドブレイクの終盤、地球軍は友軍が残っているにもかかわらず広範囲殲滅兵器「サイクロプス」を起動。

 司令部より戻ったムウにより、サイクロプスの存在を知らされたアークエンジェルは友軍に宙域よりの離脱を示唆する。

 が、敵がそうすんなりと逃がしてくれるわけも無い。

 ムウの乗るスカイグラスパーも奮戦するが、相手は強奪されたデュエル。

 敗色濃厚だったが。

『こちらフリーダム、キラ・ヤマト。アークエンジェル、聞こえますか?』

 MIA認定を受けていたキラが戻ったのだ。

 後の話で彼はマルキオ導師とジャンク屋の人間の手によってプラントへと送られ、療養していたと言う。

 戻ったキラの力もあり、アークエンジェルはアラスカより離脱することが出来たのだ。

「……これが、アラスカで起こったことの全てです。正直、あの時ヤマト少尉が戻ってこなかったら、私達は……」

「……酷いです、こんなの」

 ミリアの震える声がその場にいた全員の耳に届く。

「仲間ごと、敵を倒そうだなんて思考、間違ってます!」

「だが、それも戦術だよ……ミリア」

「でも!」

「俺たちは地球軍で、ザフトと戦っている。そのための戦術さ、作戦なんだよ」

 リエンは手に持った戦果報告書を両手で掴んで。

 思い切り引き裂いて。

 風に飛ばす。

「俺たちは軍人である前に人間だ。こんなの、作戦として許せるもんか」

***

 ロイドとアキトは格納庫にいた。

 ハンドガンを携帯しろと言う指示だったが、どうやら話は纏まったようで。

 今はブレイズとレフューズの足元にいる。

「……」

 ロイドはただ考えていた。

 あの漆黒のMSのパイロット、カルラ・オーウェン。

 もし本当だとしたら、実に戦いにくい相手だ。

「ロイド、あの黒いMSのパイロットについて何か知っているようだが……?」

「あ、ああ……いや、同姓同名かもしれないけど。カルラは、昔の友達さ。そうは言っても10年くらい前だけど」

 10年前、ロイドとカルラは友達だった。

 家が近所と言うことで、よく一緒に遊んでいた。

 しかし次第にコーディネイターを地球から追い出そうとするブルーコスモスの脅威がカルラの家族に忍び寄る。

 そのことを危惧したカルラの両親はプラントへ向かうことを決めた。

 それからロイドはカルラと連絡が取れなくなっていた。

 時間が経って、彼はカルラが今も普通に生活していると思い込んでいたのだ。

 その思い込みがカルラと言う男の存在を、ロイドの記憶の中から薄れさせていた。

 しかしながら記憶と言うものは何がきっかけで戻るか分からない。

 先ほどの戦闘で、ロイドの中のカルラに関する記憶が表に蘇ったのだ。

 それまで何とも考えていなかったことだが、ロイドは地球軍でカルラがザフトにいると言うことは非常な現実。

 戦いにくい現実を告げられた。

「あいつは普通に生活していると持っていたけど、ああして俺と同じMSのパイロットになっていたなんて……」

「だが、相手はお前の事知らないようだった……」

「きっと忘れてるんだよ、俺のことなんか」

 珍しく落ち込むロイド。

 が、そんな気分も吹き飛ばすような声が格納庫に響いた。

「あー、大変な目にあった!」

「で、ですねぇ」

「ねぇ、この艦の喫煙所ってどこよ」

「お前ら……」

 一気に賑やかになる。

 二人はきょとんとしていた。

 そんな二人に気付いたのか、相手がこちらにやってきた。

「なぁ、リエンはどこだ?」

「は、ルフィード大尉ですか……?」

「ルフィード大尉なら外ですが?」

「そうか、話を聞こうと思ったのになぁ……」

 そんなことよりも、何か視線を感じる。

「それにしてもあの2機のMSのパイロットがこんな子供ねぇ……」

「驚いたな」

「何なんだよ、この人たち」

「失礼だな、リエンのやつから話を聞いてないのか?」

 リエンの昔の知り合いと合流するとは言っていた。

 つまるところはそういうことで。

 彼らこそがリエンの昔の知り合いと言うことだ。

 一人一人自己紹介をしていく。

 リーダーのヴェルドを筆頭に、なかなか個性的な面々である。

「まぁ、これからよろしくな。一応俺達の方がパイロットとしては先輩だし」

「出きり限り相談には乗りますよぉ」

「それは頼もしいことで」

 これで一気にミストラルの戦力は増強されたと言えよう。

 そしてこれから彼らは、平和の国へと進むことになる。

(Phase-03 終)


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