Phase-16 メンデル(中)

 ムゥはメンデルの中にいた。

 しんと静まり返ったコロニー内。

 人の気配は感じられない。

 しかしいるのだ。

 ここに、ザフトが。

 いや、因縁のあの男がいる。

 自分の遺伝子がそう告げている。

 幼少の頃からの悪しき因縁。

 それが彼らを引き寄せる。

 アラートが鳴り、ムゥが気付いた。

 目の前に接近する機影。

 ゲイツに、デュエル。

「クルーゼッ!!」

「ハッ! 今度はお前がその機体のパイロットかね、ムゥ!!」

 クルーゼが叫ぶと、ゲイツのビームライフルが放たれる。

 それはストライクを掠め、コロニーの地表に命中する。

 巻き上がる砂埃。

 ムゥは必死だった。

 遠距離砲撃戦用のランチャーストライカーでは、ゲイツ一機相手にするにも苦戦してしまう。

 それを巻き返すには、ストライクと言う機体の性能を限界まで引き上げなければならない。

「ストライク……! アイツが……ッ!!」

 デュエルがビームライフルを構えるが、それを何かが遮る。

 イザークは我が目を疑った。

 今、目の前に現れた機体。

 かつて仲間だった男が乗っていた、GAT-X103バスター。

「バスター……ッ! くそっ、よくもディアッカの機体でェェェェェッ!!」

 デュエルが肉薄する。

 バスターは近接戦闘用装備を持っていない。

 イザークは激昂する。

 かつて仲間だった男の機体を、ナチュラルがこうして乗り回していると言う現実が許せなかった。

 だが、現実は甘くない。

 バスターに乗っているのが、「見知らぬナチュラル」だったら良かったのだ。

「よせ、イザーク!!」

「ッ!?」

 思わずトリガーを引くのを躊躇った。

 額より流れる一筋の飛沫。

 イザークの表情がこわばる。

 聞こえてきたのは非常に聞きなれた声だった。

「ディアッカ……ッ!? バカな、そんな事があるわけ……」

「イザーク……」

「本当に、お前なのかディアッカ!!」

「ああ、そうだ。銃を降ろして話をしよう、イザーク」

 その後方ではストライクとゲイツが激しい攻防を繰り広げていた。

 ストライクが方に装備されたコンボユニットより、350mmガンランチャーを放てば。

 ゲイツはカウンターとばかりにビームクローで格闘を挑む。

 そのゲイツの隙を見て、至近距離で120mm対艦バルカン砲で装甲を削る。

「ククッ……実に面白う余興だよ、ムゥ・ラ・フラガ!」

「貴様、何を言って!」

「全ての始まったこの場所で、こうして貴様と戦えるのだからなァッ!!」

 ゲイツの放ったビームがアグニを貫いた。

 爆発する前にそれをパージし、腰に装備されたアーマーシュナイダーを取り出す。

 極近接でのみ威力を発揮する鋼鉄製のナイフ。

 心許ないが、今のストライクにはそれしか装備が無い。

「クルーゼェェェェッ!!」

「ハッ、所詮子は父には勝てぬということだ!!」

 ゲイツの腰より、アンカーであるエクステンション・アレスターが伸び、一つはストライクの肩を貫いた。

 もう一つはストライクのコクピット周辺を捉えており、その爆発によって生じた破片がムゥの腹部に突き刺さる。

「ここがどのような場所かも分からず! だが貴様はここに来た!! これも、フラガの遺伝子の成せる技かね!?」

「さっきからごちゃごちゃと訳の解らないことを抜かすな!!」

「だったら……ッ!?」

 ふとラウは何かを感じた。

 遥虚空より飛来するMS。

 自由の名を冠した、それが飛来し。

 ビームライフルでゲイツの右腕を貫いた。

 直進する勢いのまま、ビームサーベルでゲイツの胴を薙ぐ。

「ぐぅぅぅぅぁぁぁぁっ!!」

「ムゥさん!」

「キラ!? お前、アークエンジェルは!?」

「その、アスランたちが守ってくれるって……」

「君も来たかね、キラ・ヤマト!!」

 全く聞いた事のない声だが、キラには不快しか感じられない。

「君ならば知っているだろう! ここがどのような場所か!!」

「ここ、が……!?」

 キラには全く覚えが無い。

 ここに来たのは初めてのはず。

 しかし、何だ。

 この懐かしさは。

 アークエンジェル、クサナギと一緒にこのコロニーに入ったときから感じていた懐かしさ。

 目の前の男、ラウはそれを知っている。

 自分の知らないそれを知っている。

「君が知らないのは罪というものだな! 着いてくるかね!? ここがどのような場所か、この私が教えてやろう!!」

 ストライクとフリーダムが同時に着地し、キラとムゥはその手にハンドガンを握る。

 合流したキラはムゥの腹部に出来た傷に気がついたが、ムゥはどうと言う事はないといいそれ以上触れないように念を押す。

 果たしてここがどのような場所か。

 それを知った時、キラは己の出生、運命を知る事となる。

***

 宙域での戦闘は、四隻艦隊が押されていた。

 防衛目標が多すぎるのと、慣れない空間戦闘ということで不利な状況に立たされていた。

 その最中、ロイドの目の前でレフューズが中破した。

 まだ生存反応はある。

「チッ、浅かったのは俺のほうか……!」

「アキトッ!!」

 反応は無い。

 帰ってくるノイズに、ロイドは焦りを隠せない。

「おい、このジャンクを片付けておけ。どうせ放っておいてものたれ死ぬだろうさ」

 カルラの声に3機のジンがレフューズを掴んだ。

「貴様らァァァァァッ!!!」

 ロイドの叫びにブレイズが答える。

 SYSTEM A'sの発動。

 レフューズを捕獲され、母艦に連れて行かれる前に全て倒す。

 グロウスバイルを展開し、一機のジンに狙いを定める。

「その手を離せッ!!」

「っせるかよッ!」

 セフィウスが防護する。

 到底今までの彼の思考からは考えられないが、目の前にいるブレイズを倒す事だけを考えているとすれば。

 ブレイズの興味を自分にひきつけておく必要がある。

「邪魔だ、カルラァッ!!」

「ハンッ! 俺が憎いってか!?」

 セフィウスがブレイズを蹴り、ファトゥムー01を放出する。

 自立型AIによって行動するトリッキーなファトゥムーの前に、翻弄される。

 加えて、SYSTEM A'sによる興奮状態。

 まともな判断が出来ない。

「アキトを、アキトを返せッ!」

「ああ、返してやるってさぁ!! ナチュラルの捕虜なんざいらねぇってんだよォッ!!」

 ブレイズが悲鳴を上げる。

 ロイドの操縦技術は、ブレイズの限界性能を突破しようとしていた。

 SYSTEM A'sの効果により、ロイドの技術が上がっているとは言え、今のこの技術力は完全に想定外の事だった。

「ほら、どうした!! とっとと俺倒さねぇと、大事な大事なお友達が連れ去られるぞッ!」

「くぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 ビームライフルを連射するが、どれもセフィウスを貫かない。
 
 悪戯にエネルギーを消費し、残量が少ない事を注げるサイレンが鳴る。

 それも、ロイドの耳には届かない。

 セフィウスのビームサーベルが、ブレイズを捉える。

「終わりだッ!!」

 焦りはない。

 ただただロイドの中にあるのは怒りのみ。

 ビームの軌跡が、ブレイズの頭部を掠める。

 とっさに身を引いたのだ。

 頭部の装甲がはがれ、まるで傷のような痕跡が生じる。

「チッ……すばしっこいヤツッ!」

 再びセフィウスが突進する。

 しかし。

 ブレイズとセフィウスを引き裂くように走る閃光が一つ。

 その突然のビームに、セフィウスの足が止まる。

***

「レフューズが……捕獲された!?」

 リエンはその報告に愕然とした。

 機体を半壊させられた上、敵に捕獲された。

 アキトの生存反応はあったものの、こちらの呼びかけに対する反応は無い。

 気絶しているのだろうか。

 レフューズを取り返そうとブレイズが奮戦しているが、時既に遅し。

 レフューズは、ザフトの手に落ちた。

「どうしますか? カラーズを向かわせて……」

「いや、それだとこちらの守りが手薄になる。頼りになるのは……」

 高速で戦場を駆け抜ける機体が一つ。

 PDS-01A、フェミア。
 
 パイロットとしてセフィを乗せ、ブレイズの下へ。

「頼むぞ、セフィ……」

 戦場を書けるフェミア。

 その赤い機体に襲い掛かるザフトのMSだが、フェミアの機動性の前に振り回されている。

 こちらの攻撃は当たらず、向こうからの攻撃はほとんど無い。

 攻撃の意思はない、と言う事か。

 それとも相手をしている時間などないということか。

「邪魔をしないで……ッ!」

 全速力で、フェミアは目的の地点にたどり着いた。

 そこで目にしたのはまるで獣のように猛るブレイズと、軽くそれをあしらうセフィウスの姿。

 やはり、レフューズはいない。

 この場にいないアキトの身の安否も気になるが。

 まずは目の前のロイドだ。

 付き合いこそ短いが、あんなにも暴れまわるロイドは見たことがない。

「ロイドを止めなきゃ……」

 ブレイズに接近するフェミア。

 通信回線を開こうとするが、向こうは一向にこちらの呼びかけに応じる気が無い。

 強制的に声を届かせるには国際救難チャンネルを用いての直接回線しかない。

 コンソールを操作し、国際救難チャンネルでブレイズに呼びかける。

「ロイド、ロイドッ!」

「セフィ……!? 止めるなッ!」

「落ち着いて……! 今は体勢を整えなきゃ……」

「止めるなって……言っているんだッ!」

 フェミアの腕を振りほどいて。

 グロウスバイルでセフィウスに肉薄する。

 なおもブレイズの猛攻は続くが、それを捌いていくセフィウス。

 パイロットであるカルラの技量が、セフィウスの性能を最大までに引き出している。

 この状況、カルラと言う男は楽しんでいた。

「ハッハァッ! 楽しいなぁ、紅いのッ! もっとだ、もっと攻めて来い!!」

「貴様ッ!」

「ロイドッ!」

「女ァッ! テメェは、引っ込んでいろ!!」

「くぅっ……!」

 ファトゥムー01の突進にフェミアの体勢が崩れる。

 スラスターでその体勢の崩れを最小限に留め、反撃に移る。

「落ちて、お願いだからッ……!」

「チィッ……!」

 流石にセフィウスの兄弟機だけあって、互角の勝負を繰り広げる。

「ロイド……! お願いだから一度戻ろうよ……。そんな状態じゃ、何も出来ないよ」

「ふざけるなっ! 俺はまだ戦える!」

「お願いだから!」

 セフィウスを蹴り、距離を保つ。

「戻ろうよ……! これ以上みんなを心配させないであげて……!」

「……ッ」

 釈然としない心のまま、ロイドは戻るしかない。

 ちょうどエネルギー残量が低下している事を示すランプも点滅している。

 ミストラル、アークエンジェル、エターナル、クサナギから信号弾が放たれる。

 それぞれ所属の機体が艦に戻って行く。

 その現状を見たドミニオンブリッジ。

「ああ、敵は撤退するようです。ここは一気に攻め込みましょう、ねぇ、艦長さん?」

 アズラエルはしたり顔で指示を出すが、艦長であるナタルは渋い顔をしている。

 こちらの残存戦力を考えると、撤退し、無防備な今が狙い目なのは間違いないが。

 ただし、パイロットの精神力と機体のエネルギーが持つかどうか。

 特機であるカラミティ、フォビドゥン、レイダーは多少余裕があると仮定しても、ストライクダガーにこのまま戦闘を行うだけのエネルギーがあるとは思えない。

 苦渋の選択。

 このまま追撃するか。

 体勢を整えるためにこちらも一時撤退するか。

「信号弾! 全機撤退させろ!」

「何を考えているんです!? 今がチャンスでしょう!?」

「艦長は私です! 私の指示に、従ってもらいます」

「……」

 自分の意見が通らなかった事に対し、アズラエルは不満げな表情をするが。

 すぐにその表情を変える。

「オーケイ、分かりました。艦長さんの指示を優先させましょう。ただし」

 アズラエルの声のトーンが一段階低くなる。

「今ここで撤退すれば、次は勝てるんでしょうねぇ?」

「……」

 「はい」とも、「いいえ」とも言えない。

***

 全ての機体を収容した、四隻の戦艦が再びメンデルの港に入港する。

 やはりと言うか、敵は攻めてこない。

 地球軍側はこちらと同じように撤退信号が放たれたので体勢を整えるつもりだろう。

 しかし問題はザフトだ。

 ムゥが中に入ってからかなりの時間が経過している。

 ザフト側の戦力もセフィウス以外は強力と言えるMSはほとんどいなかった。

 果たして、ザフト側は何が目的なのか。

 単に四隻連合の撃墜を目的をしているならば。

「ダメです」

 そういったのはエターナルのブリッジに座っていたラクスだった。

 通信の相手はジャスティス、アスラン。

 アスランはキラが戻るのが遅いと言う事を理由に、メンデル内部に向かおうとしていた。

 ただし、ラクスはそれを許そうとはしない。

「何故だ! キラをすぐにでも連れ戻して……!」

「これ以上、戦力を裂くのは得策ではありません。私たちは、今いないキラ達の分まで戦わなければならないのです……」

「くっ……」

 エターナルでもそのようなやり取りがあった頃、ミストラル。

 リエンは騒ぎを聞きつけて、MS格納庫に向かっていた。

 撤退してきた6機のMS。

 その中のブレイズから降りたロイドだが、再び出撃しようとしているのだ。

 自分のせいでアキトが囚われた。

 その責任を果たそうと、彼は言う。

 が、それを誰も認めようとはしない。

「落ち着けって。お前のその沸騰した頭で出ても、死ぬだけだぞ?」

 ヴェルドが落ち着くように嗜めるが、ロイドの勢いは収まりそうにも無い。

 エイスもアイリーンも困り果てている。

 セフィに至っては、若干の距離を取っている。

「何の騒ぎだ!」

「リエンさん……その、ロイドくんがもう一度出撃させろって」

「あの子、アキトを取り戻そうと思うあまり、自棄になってるようなのよ」

「……まったく、ロイド! 落ち着け!!」

 リエンがロイドの肩に手を置く。

 その手を振り払う。

 ロイドの表情は、険しかった。

「落ち着いてなんかいられるかよ! アキトは、アキトが……!」

 仲間を思うが余り暴走するパイロットと言うのはよくいる。

 ロイドもその類だった。

 しかし休める時に休まないと、本来の力を発揮する事もできない。

 それにMSのバッテリーチャージも終わっていない。

「こうしている間にも……!」

「ロイドッ!」

 リエンの握り拳がロイドの頬に当たる。

 唇を切り、血を流す。

「頭を冷やせ、馬鹿者が!! そんな状態で出撃されても、こっちは困るんだよ!!」

 反抗の意をその瞳に燃やし、ロイドはリエンを睨みつける。

 リエンもその意思を変えるつもりは無い。

 一騒動が治まった後、ヴェルドはリエンの後について行く。

「お前も言うようになったなぁ。まるで艦長みたいだ」

「艦長だからな……。昔の俺を見ているようだったし」

「ああ、お前が地球軍に入るきっかけになったあの時か? 確かに状況は似ているな」

「……俺もあいつも、まだまだ青いってことだ」

 だが、リエンとてアキトの事を無視するわけにはいかない。

 ロイド、アキト。

 パナマで彼らに出会った。

 それからずいぶんの時が流れた。

「必ず、助けるさ」

***

 メンデル「BL4+ HUMANANGENE MANIPILATION LABO」。

 かつて人々の思惑、夢が集った場所。

 この地で人は自らの遺伝子を操作し、より高みへと上ろうとしていた。

 鉄の子宮にゆられて、人々は夢を実現しようとしていた。

 だが、その夢の前に突如としてバイオハザードが巻き起こり、夢は潰えた。

 成れの果てがこの場所なのだ。

 薄暗い部屋、大量に置かれている資料に。

 割れている試験管、見当もつかないような機材など。

 まるで当時のまま、廃墟となっていた。

 ムゥを追ってやってきたキラは、寒気を覚えながらもそのうちに生まれた妙な感覚に襲われる。

「僕はここを知っている――――――?」

 腰のホルスターにハンドガンを携帯し、通路を走る。

 すると、突然上のほうで銃声が鳴り響いた。

 キラは慌てて近くの階段を駆け上る。

「ハッ、やはりお前が来たか、ムゥ・ラ・フラガよ!」

「ラウ・ル・クルーゼ!」

 そんな声が聞こえる。

 ラウ・ル・クルーゼと言う名前にキラは今までアークエンジェルと追っていたアスランたちの部隊の事を思い出した。

 あの部隊を指揮していたのがラウだと、以前ムゥから耳にした事がある。

「フラガ少佐!」

「キラ……!? バカ、何でお前がここに!」

「だって、少佐が死んだらマリューさんが……」

「生意気言って!」

 ぴたりと銃声が鳴り止んだ。

 しんと静まり返るラボの中で、二人の息遣いだけが響く。

「君も来たのかね、キラ・ヤマト……! 懐かしくは無いかね! まるで母親の故郷に来た時のような!」

「貴方が、ラウ・ル・クルーゼ……!」

「君は知っているはずだ! この場所を、このラボを! この空気を!」

「何を……貴方は何を言っているんだ!」

「着いてきたまえ、そこに答えがある!!」

 靴音が響き、やがて小さくなる。

 キラはついて行く気は十分である。

 ムゥもラウとの因縁に決着をつけるため、その後を追う。

 銃弾を道しるべ代わりに二人を誘導するラウ。

 どんどんラボの奥へと進んで行く。

 その奥へ進むにつれて、辺りの空気は不穏なそれへと変化して行くのわかる。

 同時に、先ほど言っていたラウの言葉が脳裏で繰り返される。

(懐かしくは無いかね!)

「やっぱり僕は知っている……? この場所を」

「どうした、キラ?」

「い、いえ」

 ムゥからの返事を短く切り返し、二人はラウの逃げ込んだと思われる部屋にたどり着いた。

 部屋の中は周囲と同じように薄暗く、荒れ放題荒れている。

 その奥に人影が揺らいでいる。

 ムゥが見つけるが早く、トリガーを引き銃弾を放つ。

「俺たちをこんなところに連れ込んで、貴様は何を!」

「ハッ! 君達は知る権利があるのだよ! それぞれの遺伝子レベルで刻まれた、呪われた過去を!」

 ラウが何かを投げつけた。

 それはアルバムだった。

 二人の足元に落ち、ページがめくられる。

 そこに映っていたのは、ムゥにとっては見知った顔。

「……ッ!? 親、父……!」

「え……?」

 ムゥは自らの親父が何をしていたのか、思い出した。

 ムゥの父、アル・ダ・フラガは遺伝子工学の研究に莫大な資金提供をしていたのだ。

 元より備わっていたその空間認識能力で自らの財力を爆発的に膨らませ、スポンサーとなっていた。

 その話をフラガ家に勤めていた家政婦から聞いたのだ。

「そうか……ここが親父の……!」

「そしてキラ・ヤマト! 君は今、何を感じている!?」

「なっ……!」

 ラウが歩み寄る。

 その手に握る銃のトリガーを引き、理解できていないキラに向かって。

「危ないッ!」

 フラガがそんなキラをかばうように動く。

「言っただろう! ここは君にとって故郷のような場所だと!」

 二発。

 三発。

 四発と銃弾を放つ。

 跳弾し、部屋中から火花が散る。

 転がっていたソファに身を潜め、ムゥは銃を放つ。

「人々の数多の夢、数多くの思惑が渦巻いたこの場所で! 君は生まれたのだからな!」

「僕が……ここで!?」

「数多の実験を重ね、多くの命が死んで言ったこの場所で! 君はその命を踏み台にして生まれた最高のコーディネイター! 人々の夢の結晶!」

「ふざけたことをッ! キラ、お前も鵜呑みにするな!!」

 頭の中の処理能力が追いつかない。

 ここで生まれた?

 自分が?

 多くの人々の犠牲の上で?

「君には力がある! 血で汚れた、呪われた力が!」

「キラッ!」

「ハッ! 驚いているかね!? 怖いかね!? だがそれが事実! 紛れもない現実なのだよ!!」

 ソファに次々と銃弾が埋め込まれていく。

「ならば語ろう! 全ての混沌の元となった史実を!」

 ラウの声が、部屋中に響き渡った。


(Phase-16  完)


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