Phase-11 北欧D‐全てを終わらせよう、今日、この地で‐
彼女の目の前にある者は何だ。
セフィが帰還してから、数時間。
これからの事をライルより説明を受けていた。
格納庫に運ばれてきたMS。
新型だった。
濃い緑色のMS、右手には一丁のビームライフル。
左腕には発生器のついたシールド。
ZGMF-600、ゲイツ。
それが目の前にある機体の名。
ザフト軍の次期主力量産型MS。
それの先行量産機が目の前にあるこの機体である。
ザフトの中でもエースに配布される先行量産機。
「私が以前まで使用していたシグーは君にあげよう。もっとも」
そう言ったライルの視線の先。
そこにあるのは何だ。
無機質な鉄の塊。
まるでロケットのような。
表面には「核」を意味するマーキング。
それだけでセフィは理解する。
核ミサイル。
フリーダム、ジャスティスの開発字に完成したNジャマーキャンセラー。
それにより、地球圏での核の使用が解禁となった。
その一つが今、ここにある。
「君達はまず、相手方の基地に攻め入ってもらう」
作戦の説明。
最初こそ、相手を駆逐するためのものだと信じていた。
しかし。
「そして時が来たら、このミサイルで一掃する」
「……え?」
皆がざわめく。
核ミサイルなど放たれたら、自分達はどうなる。
ライルは「発射前に退避命令は出す」と言っているが。
逃れられるはずが無い。
セフィは、尋ねる。
もし、巻き添えを受けたらどうなるのか。
やや間を開けて彼はこう言った。
「……大丈夫だ。私を信じろ」
それは果たして本当か。
嘘か。
だが周りの連中は「隊長がそういうなら」と非常に盲目。
セフィは、その言動が「嘘」である事を薄々気付いていた。
核ミサイルを放ってから逃げたのでは遅いのだ。
今日、この日。
自分は死ぬのかと、そう考えた。
***
ライルにとって、もはやこの紛争はどうでも良くなっていた。
いつまで経っても、この荒れた土地一つ自分の物に出来ないのだ。
ならばいっそのこと、全て吹き飛ばして、一から作り直せばいいのだ。
低脳なナチュラル相手にここまで手間を取るとは。
ライルは表面にこそ出していないが、内面、激しい憎悪が渦巻いていた。
憎悪、苛立ち。
その二つにも似た何とも混沌とした感情が、彼の中にある。
だから核ミサイルなど持ち出す気にもなれたのだ。
それに、機になる要素がもう一つ。
一時的に敵に捕まったセフィが、戻ってきてから様子が変だった。
「ふむ、毒されたか……」
ライルはノーマルスーツに着替える。
全てを終わらせよう。
今日、この地で。
下らない紛争も。
むやみやたらに増えていく犠牲も。
全て、今日、ここで。
***
レジスタンスベースでメンテを受けているミストラル。
長い事、正規の基地に立ち寄っていないがために艦のダメージ状況は深刻なものだった。
「今、この間のダメージ状況は酷くてな」
「報告してくれ」
「レールガン「バリアント」の二番使用不可、イーゲルシュテルン3番から7番、及び九番から十一番までが使用不可。そしてゴットフリートの収束能力が30%低下」
「これは酷い、確かに」
苦笑するが、その表情に冗談めいたものは無い。
主要武装となるバリアントの仕様不可、ミサイル迎撃に必要なイーゲルシュテルンの各種使用不可。
そしてゴットフリートの威力低下。
いよいよ持って危なくなってきたか。
本当ならばこの様な紛争に目もくれずにスカンジナビアへ向かいたかったのだが。
援護してもらってはそうもいかなくなる。
それに、今こうして軽くてもメンテナンスをしているから生きているのだ。
もしここでメンテナンスをしないで強行突破しようとしたら今頃死んでいるだろう。
何せこの辺りに地球軍はいないのだから。
ザフトとの紛争で全滅した。
そう聞いているが、果たして。
疲弊してやむなく撤退したのではないかと勘ぐってしまう。
このベースにいるメンバーのうち半数は、地球軍第三基地より流れ着いた人間だと聞いている。
「早く終わらせたいな、この紛争は」
「へっ、違いねぇ」
ガルムが言う。
彼の本当は早く終わらせてレジスタンスを解散させたいのかもしれない。
しかし予定よりも長引いてしまっては解散など出来ない。
彼らは、ザフトによる周辺の弾圧を阻止したいのだ。
そんなことをしたら、ナチュラルは蔑まされ。
コーディネイターは無理やりにでも徴兵させられる。
皆が皆、平和に暮らしたいのだ。
だから戦う。
「俺たちは、な」
「……そうか」
リエンも最初こそ目的があって地球軍に入った。
ザフトを、コーディネイターを倒すと。
その心一つで、彼は大佐にまで上り詰めた。
それでも、最近は分からない。
この戦争は正しいのか。
やたらに戦渦を広げるだけで、何の解決にすらなっていない。
「俺たちはこの先にあるものを見たいのかもな。戦争の先の世界ってやつをさ」
「戦争の先、か。俺には細けぇことは分からねぇ。だがな、リエン」
ガルムの拳が軽く、リエンの胸に当たる。
「ここを無くさなきゃ、人は生きていけるってもんだ! 例え戦争中でも、どんなに荒れていてもな!」
「だな」
談笑をしている。
そんな時間はすぐに壊れていく。
慌てた様子でベース内に響く、敵襲の知らせ。
「ザフト軍陸上戦艦が三隻接近中!」
「戦闘態勢に移る。MSのパイロットはすぐに準備を!」
リエンの指示でミストラルに火が灯る。
「ただしレジスタンスの戦力はだすなよ、ガルム!」
『何故だ! 俺たちだって』
「いざとなったらベースを放棄することを考えるんだ! 奴等は本気だ……!」
ガルムは未だに納得いかないようスだが。
リエンにとってこれが最後の恩返しなのだ。
ベースを守りきる。
「ミストラル、発進する!」
微速前進するミストラル。
もしかしたらこれでミストラルは沈むかもしれない。
それでも、彼らは守る。
レジスタンスベースを。
「第一戦闘配備発令! パイロットは直ちに出撃してください!」
ミリアのアナウンスが響く中、ロイドは憂鬱だった。
別れたセフィの事が気になっていた。
おそらく今攻めてきている部隊の中にセフィもいるだろう。
そうなった時、戦えるか。
いや、戦わなければならないのだ。
自分は彼女と。
「ロイド」
アキトが声をかける。
「やれるな、ロイド」
「……あ、ああ」
若干頼りない返事だが、それを信じなければならない。
「セフィ、君はどうしてるんだ……」
「ポエムか」
「うは!」
背後にいたアルフに妙な事を言われる。
さすがは元・殺し屋。
人の背後を取るのが得意。
「人は恋に落ちると盲目になるという。お前は、どうだ?」
「恋なんて……」
でも、もしかしたらそうなのかもしれない。
考えると、彼女の事を考えると。
「ま、頑張る事だな」
アルフがニグラに乗り込み、ロイドがやや遅れてブレイズに乗りこむ。
「ブレイズ、発進どうぞ!」
「……ロイド・エスコール、ブレイズ、行きます!!」
***
ザフト軍陸上戦艦より発進するMS。
ジンが十機、バクゥが七機、シグーが二機。
十九機の大部隊。
地上からはバクゥの波状攻撃。
空中からはグゥルに乗ったジンとシグー。
そして援護として陸上戦艦からの長距離砲撃。
隙がほとんど無い。
「固まるとやられるぞ! 散開して、各個に応戦するんだ!」
ミストラルを中心に展開するMS隊。
その中でロイドは迫る敵を倒していく。
もしセフィが換わらずMSに乗っているとしたら二機のシグーのうちのどちらか一機。
それは明白だった。
片方だけ、動きの遅い機体。
「あれか……! セフィ! セフィ・エスコー」
「させるかよぉッ!!」
もう一機。
黒いMSがブレイズに襲い掛かる。
ツヴァイ。
ツヴァイの腕部グレネードランチャーがブレイズの足元に着弾し、砂埃を巻き上げる。
一瞬にして視界がさえぎられる。
アラートにより、それが迫るのを把握する。
砂埃の無効に光り輝く日取り色の光。
ツヴァイのカメラアイ。
「そらよォッ!! もう一丁!」
「がぁっ!?」
ツヴァイの連撃にブレイズが倒れる。
目の前にセフィがいると言うのに。
「悪いが……お前と遊んでいる暇は無い!!」
「どうしたぃ……もう終わりかよッ!? えぇっ!? 赤いヤツ!!」
ツヴァイのビームライフルの銃口が、ブレイズの頭部に突きつけられる。
カルラはこの瞬間がたまらないのだ。
敵機を貫くこの瞬間が。
それ故に邪魔をされると、いつも以上の激情が湧き上がる。
「クハ……クハァーハハハハハッ!!」
それを阻害する者が現れる。
ツヴァイの頭部を掠めるビームが走った。
レフューズだ。
先述したとおり、カルラは邪魔をされるのが嫌いだった。
故に、彼の目標が変わる。
「貴様ァ……俺の邪魔をするッ!!」
「お前には色々と、聞いてみたい事がある……。ロイド、先に進め」
アキトの声にロイドは無言で頷く。
彼、アキトの考え。
それは確認。
ロイドは甘い部分がある。
もし、相手の「カルラ」と言う男が友人だと判明したら、それまで優勢だったとしても。
たちどころに不利にしかねない。
だから彼が確かめるのだ。
カルラと言う男の正体を。
「カルラ・オーウェンだな……?」
「テメェ……何で知ってやがるッ!」
「お前を知る者から名を聞いた。お前は、ロイド・エスコールと言う男を知っているか」
「さぁな……勝てたら教えてやんよォッ!!」
ツヴァイが走る。
その速さは到底、MSとは思えない。
背中のスラスターを噴かし、加速力を倍増させているのだ。
そのままメタルブレードを前面に展開。
突進する。
PS装甲とはいえ、突進により威力は上がっている。
受け止めるだけで、どれだけのエネルギーが減るか。
「ならば……」
太刀筋を見極め、避ける。
ツヴァイはそのまま荒々しく、転換。
今度はビームを放つ。
「言っておいてその程度かよ、えぇっ!? 口ほどにもねぇなぁッ!!」
「……そう言っていられるのも」
レフューズが静かに両腕に装備されたビームサーベルに手を伸ばす。
「今のうちだ!!」
珍しく大声を上げるアキトの声。
居合い切りの要領で、ビームサーベルを抜き放つ。
二刃のビームがツヴァイのビームライフルを切り裂いた。
カルラは息を飲んだ。
「な……ッ!?」
「……」
ゆっくりと息を吐くアキト。
武装を破壊され、カルラは激昂する。
「き、さまァァァァァァァッ!! 殺す、殺してやる!!」
「……やってみろ、外道。人の記憶を餌にする奴らなど……!」
ロイドから話を聞いた時、彼は信じられない事だと思っていた。
だが、それが本当だと言う。
人の記憶を餌に縛り付ける相手に。
「もはや、手加減などしない……! 覚悟を、しろッ!」
***
ブレイズは二機のシグーに接近した。
片方は応戦体勢に入ったものの、もう片方は動かない。
「邪魔をするなよ、お前!!」
一閃の下に切り捨てる。
爆発するシグーを横目に、ロイドはセフィの乗ると思われるシグーに近づいた。
「セフィ、セフィ!!」
通信を送るも返事は無い。
一瞬囮かと考えたが、杞憂。
スピーカーより聞こえたのは嗚咽だった。
か細い、少女の鳴き声。
「セ、フィ……?」
「ロイド、来てくれた……私……」
「大丈夫だ、もう。だから」
言おうとした時、その声を耳を劈くようなアラートが遮った。
陸上戦艦より発進する機影。
機体の照合ライブラリには無い。
新型。
それがブレイズに接近する。
「新型!?」
「隊長……!!」
「そこまでだ! 離れてもらおうか!!」
見た事もないMSに翻弄されるブレイズ。
敵の新型MSがシールドよりビームクローを展開し、接近戦を挑む。
ブレイズも「グロウスバイル」を展開、迎撃に移るも敵の格闘能力が高く、ブレイズでも対処しきれない。
加えて、腰に装備されているアンカーによる追加攻撃。
「こいつ……!」
「さすがゲイツだ……! Gの流れを踏んでいるだけの事はある!!」
連合より奪い取った4機のG。
その流れを踏んでいるのが、ゲイツ。
ザフトで初めて携行式のビームライフルを装備。
さらにシールドに装備されたビームクローによる格闘。
腰のエクステンション・アレスターによる立体的な攻撃。
量産機にあるまじき性能を誇る。
スペック上、腕の立つパイロットが乗れば初期型GATにも引けをとらないと言われている。
「セフィ・エスコール、何をしている!」
ライルの声にピクリと肩を震わせる。
自分は、この男に従っていいのだろうか。
何時になったら教えてくれる、自分の事を。
誰が?
何時?
何を教えてくれる?
セフィのシグーは未だに動かない。
彼女自身悩んでいるのだ。
隊長に従うか。
自分の事を親身になって心配してくれた相手を助けるか。
迷うはずなど無いはずだ。
自分はコーディネイター。
敵はナチュラル。
従うのは隊長のはず。
なのに。
何故、自分は迷っている。
考えている。
「何をしている……! さぁ、セフィ・エスコール!」
勝ちを急ぐあまり、ライルの思考能力は低下しつつある。
「私は……ぁ……!」
「記憶が欲しくないのか、セフィ!」
「貴様ぁぁぁぁっ!!」
ロイドの怒号が響く。
ブレイズの右手が開き、ゲイツの頭部を握り締める。
「それ以上、それ以上セフィを泣かすなッ!!」
「黙れ……ナチュラルがッ!!」
ゲイツの反撃。
エクステンションアレスターがブレイズの左腕を吹き飛ばした。
それでも構わない。
ブレイズの右手が、ゲイツの頭部から離れると同時にイーゲルシュテルンを連射する。
「人の記憶を餌にするなんて……それでもお前は!」
「餌になどしていないさ。彼女の望むものを、与える。それに見合うだけの事をしてもらっているだけだ!」
「ならば今すぐに彼女に全ての情報を明け渡せよ!」
「断る! 何故私が貴様如き人間に指図されなければならないのだ!?」
ゲイツのモノアイが光り、ビームクローでブレイズを切り裂くが。
ブレイズはとっさにシールドを右手に持ち、それを防いだ。
眩しい火花が中を照らし、二機のMSは真正面から向き直る。
「そうやってお前はいつまで立ってもセフィに情報なんて渡さないんだ……! 最低だ、お前は!」
「知ったことか! 何時情報を渡そうが、私の勝手!」
「貴様が渡さないと言うのなら……!」
ブレイズの眼が、変化する。
ライトグリーンから、真紅に。
ロイドは気付いていないのだ。
ブレイズの、力に。
「俺が探し当てる! セフィ!!」
「……!」
「一緒に来い!」
突然のロイドからの誘いに戸惑うセフィ。
ロイドは自分達がセフィの情報を探して見せると言うのだ。
そもそもライルがセフィの情報を持っているのかどうかが怪しいのだ。
全くの出鱈目かもしれない。
何ヶ月、何年。
何十年とかかるかもしれない。
「必ず、見つかるさ……! だから!」
零距離で、グロウスバイルを展開。
ゲイツの右腕、頭部をなぎ払う。
素早く蹴り、横転させる。
「ここまで言っても、最後に決めるのは君だ、セフィ……。君が望む答えを」
「ロイ、ド……」
そう、ライルはおそらくこのまま渡す気は無いだろう。
例え本当に自分に関する情報を持っていても、結局自分はライルの操り人形で終わってしまう。
それで良いのか。
本当に。
情報をくれると言ったから彼に従う。
その情報が貰えないのなら。
「私……」
シグーが動いた。
そのままブレイズに。
「探してみたい、私の事……。自分で、ううん……ロイド達と」
「セフィ……」
「く、は……これは傑作だな! とんだ喜劇だ!!」
ゲイツが立ち上がる。
「やはり出来損ないは出来損ない同士、惹かれあうと言うのか!? こんなに可笑しいことは無いなぁッ!!」
ライルはもはや我慢の限界だった。
「どこまで……どこまで貴様らは俺の邪魔をするというのだッ!?」
ゲイツが突進する。
アメフトのタックルのようにブレイズに襲い掛かる。
ブレイズのビームライフルが、ゲイツを貫こうとするが。
発射よりも早く、エクステンションアレスターによって手元から離された。
残る武器はイーゲルシュテルンと、グロウスバイル。
ただし、もうエネルギーも残り少ない。
派手に立ち回りすぎた。
「ロイド……!」
セフィのシグーより重突撃機銃が渡された。
重突撃機銃はビームライフルと違いマガジン制。
手渡せば、ブレイズだろうと何だろうと使う事が出来る。
重突撃機銃のトリガーを引いた。
本来ならば多少は散弾するはずだが、至近距離のため全弾がゲイツの胴体に命中した。
「が……ッ!」
「所詮お前は……人の上に立つ男じゃないんだ!」
片腕のブレイズが、グロウスバイルでゲイツを貫いた。
それで終わったと思っていたが。
ライルは最後の隠し玉を使おうとしていた。
トリガーを引く。
ゲイツの左指から信号弾が放たれた。
それを見たセフィの背筋が凍る。
「ダメ!!」
「セフィ……?」
「ふは……もう遅い! 何もかも、全て! 消えてしまえッ!!」
それだけ言うと、ゲイツは爆発した。
同時にブレイズのエネルギーもゼロになり、PS装甲は解除された。
セフィは何かを知っている。
「一体何が……?」
「……」
セフィは全てを話した。
作戦とは違うものの、きちんと核ミサイルは放たれた。
着弾まで、残り5分と言ったところ。
「ハッ、さっきの信号弾……もうここには用はねぇ!」
カルラがそう言うとツヴァイがふわりと宙に浮いた。
やられる前に離脱をしなければならないのだ。
「……どこへ行く」
「死にたくなければ、とっととここから立ち去るんだな! それと全員に伝えておけ!」
カルラからの伝言。
「貴様ら全員、皆殺しだ」
***
「レーダーに熱源! ミサイルです」
ボロボロになったミストラルブリッジに響くリィルの声。
リエンが、ミリアが。
皆がその報告に息を潜める。
「この熱量は……核ミサイル!?」
「馬鹿を言え! 核ミサイルなんて……!」
「着弾まで、残り3分! 緊急離脱をしたとしても、艦へのダメージは甚大です!」
このまま何もしなかったら巻き添えを食らう。
だからと言って逃げるわけにもいかない。
止めるしかないのだ。
着弾する前に、何としても。
「リエン」
「アルフ、何用だ」
「ミサイルを打ち落とすんだろう?」
リエンはふと考えた。
アルフなら、可能かもしれないと言う結論に至る。
ニグラがミストラル甲板に立つ。
その甲板に設置された外部コンジットを引き出す。
その手には、フレアの320mm高エネルギー砲。
外部コンジットヲエネルギー方に接続。
肩膝を下ろして、高エネルギー砲を構える。
ミサイルが着弾する前に、狙撃して落とせばいいのだ。
大気汚染は免れないかもしれないが、甚大なる被害をもたらすよりは。
「ミストラル! レーダーシステムを渡せ!」
チャンスは一度きり。
ミサイルが見えた瞬間が勝負。
「ミサイル着弾まで、1分! モニター、出ます!」
確かに巨大なミサイルがこちらに迫っていた。
まだだ。
まだミサイルがぶれている。
もう少し。
もう少し――――――――。
「行けよッ!!」
トリガーを引いた。
圧縮されたビームが、核ミサイルへと直進する。
通常のMsならば到底出せないようなパワーも、ミストラルに直結してしまえば造作も無い。
放たれたビームは、真っ直ぐに的確に核ミサイルへ向かい。
ミサイルは爆発した。
「さすが、元・殺し屋。狙撃は得意っていうやつか?」
「久しぶりだったが、腕は鈍っていないようで助かったぜ……」
破片が地上へと降り注ぐ。
隊長を失い、最後の手段も失敗したザフトに戦うほどの気力は残っていなかった。
レジスタンス・ミストラルの勝利だった。
***
すぐに敵基地への侵攻を始めたミストラル。
その前に報告しなければならないことが、ロイドにはあった。
艦長室。
中は誰一人喋ろうとせず、重い空気が流れている。
「大体の事情はこの間聞いている。もちろんこちらとしても、セフィ・エスコール。君を歓迎するつもりだ」
「あ……」
照れているのだろうか。
すぐにロイドの後ろに隠れてしまった。
元々敵対していたもの同士、こうして面と向かって向き合うのは恥ずかしいのだろうか。
「出来る限り、君についての情報は調べるし、分かりしだい君に提供する。これでどうだい?」
「あ、わかり……ました」
「そうか。そう言う事だ、ロイド、少し席を外してくれないか?」
「は、え……分かりました」
ロイドが席を外し、艦長室を出た。
残ったのはセフィとリエン。
ミリアはブリッジで指示を出している。
リエンはセフィに立っているのもなんだから座るようにと促す。
セフィも断ることなくゆっくりと備え付けの椅子に座った。
彼女が座ったのを確認すると離縁は立ち上がり、一冊のファイルを取り出した。
「このファイル、君は目を通す必要がある」
「……」
「警戒しなくてもいい。おそらく君の欲しい情報が載っているはずだ」
それを聞いたセフィは、すぐにファイルを開いた。
そこには常人にはおおよそ理解できないような難しい数式だとか、化学式が書かれている。
しかし、不思議とセフィは理解できる。
何故だが、これらの全てを知っている気がする。
「そのファイルはロイドが地球軍に入ったとき、親御さんから渡されたものでね」
「……」
読んでいくセフィの視線が止まる。
そのページを何度も、何度も繰り返し読んでいく。
「それが、真実だ」
「……そっか」
「怖くなったか?」
「……いえ」
ある程度、覚悟していた。
どんな事でも受け止めようとしていた。
彼女も人間だ、この様な結末になって恐ろしさが生じないはずが無い。
「でも、今は怖いって言うよりも、満足してる……。これが私なんだって」
セフィは立ち上がり、頭を下げる。
「ありがとう、ございます」
そういうとセフィは艦長室を出た。
何とも後味の悪い感覚だけが、リエンの中には残っていた。
(Phase-11 終)
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