Phase-01 二人の少年

 C.E.71、5月25日。

 地球軍、パナマ基地。

 地球軍の指揮する中でも中規模サイズの基地である。

 基地内にはMS格納庫、訓練スペースなど、各種施設が取り揃えられている。

 ちょうどその時、パナマ基地に「とある戦艦」がやってきたのは誰も知らない。

 訓練スペースでは今まさに、MS同士による模擬戦が繰り広げられていた。

 先刻ロールアウトしたばかりのGAT-01、ストライクダガー。

 GAT-X105の戦時量産機であるそれを、さらに訓練用にスペックをデチューンしたMS。

 名をプラクティス。

 練習の名を持つ模擬戦用MS2機が激しい火花を散らしていた。

 プラクティスを与えられた訓練生は、外見を好きなように塗装出来る権限を持つ。

 ある者は金色に、ある者は漆黒の黒に。

 そして、この話しの主役となるべき彼はプラクティスを「赤」に塗っていた。

「ちっ……流石に素早い!」

 狭いコクピットの中で呟いた。

 ロイド・エスコール、16歳。

 レーダーに映る光点を追うが、相手はこの模擬戦でもトップの腕を持つ相手。

 ロイドは、彼に挑んでいた。

「防御は趣味じゃない! 攻める!」

 ロイドのプラクティスが地を蹴った。

 勢いよくビームサーベル型の実剣を突き出すが。

 見切られ、避けられる。

 相手のプラクティス―青いプラクティスが反撃とばかりに攻め込んだ。

 振り下ろした実剣がロイドのプラクティスの右肩に、命中する。
 
 その衝撃でロイドの体は激しく揺さぶられ、何度も頭をシートに打つ。

 そして。

 コクピットハッチに、攻撃が命中する。

「そこまで! 模擬戦第17試合はアキト・キリヤの勝利とする!」

 判定を行う士官の声が高らかに結果を報告した。

 プラクティスを移動させ、ラダーを使って地面に降りたロイド。

 コクピットの中と違い、パナマに吹く風が彼の火照った体を急速に冷やしていく。

 ちょうど隣には相手となった青いプラクティスが立ち並んだ。

 同じようにラダーヲ使って降りてきたのは、ロイドと同じ年頃の少年だった。

 アキト・キリヤ。

 パナマ基地MS模擬戦トップの期待の新星と言ったところか。

「よう、お疲れ! って、声をかける空気でもないか……」

 同僚のティル・ナ・ノーグが駆け寄る。

 またいつもの言い争いか否か。

 いや、言い争いである。

「アキトのバカッ! 何でお前は俺に花を持たせようとしない!」

「知るか。模擬戦と言えど、手を抜くことなど出来ないだろう」

「勝たせてくれよ、俺に!」

「腕をあげろ。そうすれば勝てる」

 結果はいつもどおり、ロイドが言い寄るがアキトが巧みに返していく。

 そもそもロイドは直感で行動しやすいところがある。

 先ほどの戦闘もどこか直線的な動きばかりだった。

 それは教官からも何度も言われてはいるのだが。

 人の癖がなかなか直らないのと同じで、ロイドのMS操縦における癖と言うのもなかなか直らない。

 だから彼は日ごろから呟いていた。

 どこかに癖を勝手に直してくれるマシンはないか、と。

 そんなものがあればパイロットは苦労しない。

「くぅ〜、早くダガーが欲しいぜ! なぁ、アキト!」

「……そうだな」

 そう話をしていると、目の前には彼らの上官であるリエン・ルフィードが立っていた。

 その隣にはこの基地ではまず見かけない、少年の姿。

 リエンはこの少年について、話を始め、次にロイド達の紹介を行った。

 その少年はコウと名乗った。

 ロイド達よりも先に戦場に出て、今では中尉と言う立場にいる。

 あこがれの、前線で戦っているパイロットが目の前にいる。

 少なくともそれは好奇心の旺盛なロイドと、ティルの両名の心を震わせるにはうってつけだった。

「先輩に質問です! 今までどんな戦場を渡ってきたんですかッ!?」

「先輩って……コウでいいよ。戦場に出たのはロイド達よりも先だけど、軍属はつい最近だし……」

「じゃあコウ」

「順応性高いなぁ……」

 呆れたというよりも、苦笑に近い笑みを浮かべるコウ。

 彼が話すことはロイド達にとって、別世界で起きているかのような話ばかりだった。

 色々なことを潜り抜けて、コウは今ここにいる。

 色々なことを体験して、コウは今、存在している。

 いつか自分もコウのようなパイロットになれるだろうか。

 ロイドは、心に熱い想いを抱き始めた。

***

 アラスカにある地球軍本部「JOSH-A」が陥落したと言う知らせが入ったのは数日前のこと。

 その不吉な知らせはパナマ基地の彼らの意欲を削いでいた。

 もちろん、当初の予定ではこのパナマに攻め込んでくると言う情報だったが。

 彼らは裏をかかれたのだ。

 大元を叩けば、地球軍が崩れるのもたやすい。

 所詮地球軍は複数の組織からなる、つぎはぎだらけの組織なのだ。

 現にユーラシアと大西洋連邦は仲が悪いことで有名だ。

 少し前に宇宙にある大西洋連邦の「アルテミス」に地球軍の特装艦が迷い込んだ時も一悶着あったと言うし。

 今度こそ地球軍崩壊か、などと有りもしない噂が飛び交うほどだった。

 そして現在5月25日。

 リエンは大急ぎで自室に向かっていた。

 副官であるミリア・アトレーからの緊急の呼び出し。

 何でも「連絡」らしいが。

「リエン・ルフィードだ」

『よう、お久さし』

「……あぁ、お前か。どうした、急な連絡って』

『いや、俺たちのネットワークで妙な噂が手に入ってな。近々、ザフトがパナマに攻め入るって言う』

「ザフトが……。そうか、狙いは」

 マスドライバー。

 物資などを宇宙へ運ぶ際に用いる、大規模なカタパルト施設のこと。

 現在地球軍の使用することの出来るマスドライバーは、このパナマにあるもののみ。

 別の、ビクトリア基地にあったものは先日ザフトが侵攻し略奪された。

 そのマスドライバーを破壊すれば、地球軍は宇宙に物資を運ぶことが困難となる。

 その間にザフトは攻めればいい。

 簡単な説明だ。

「ザフトがこんなちんけな基地に攻め入るのはそれくらいしか理由がない、か……」

『ああ、俺達は今は任務中で参加することは出来ないが、死ぬんじゃないぞ、リエン』

「分かってるさ」

 電話口の相手にそう告げて受話器を下ろした。

 いよいよ、か。

 リエンは放送でロイドとアキトを呼び出した。

***

「失礼します!」

 ロイドとアキトがリエンのいる部屋に現れたのは、招集をかけてから10分と経たない時のこと。

 敬礼をし、軍服の乱れを直して部屋に入る二人。

 近くの椅子に座るように指示をし、二人に一枚の紙を渡す。

 その紙には先ほどの連絡の要点がまとめられていた。

「パナマに、ザフトが……!」

「どうしてですか!? オペレーション・スピッドブレイクはもう……!」

「おそらくそれとは別だ。そこにも書いてあるがやつらの目的は、おそらくマスドライバーの破壊」

 ついに自分達のいる場所にまで戦争の足音が聞こえてきた。

 ロイドの紙の端を握っている手が、震える。

「そこで、だ。本日付けでロイド・エスコール訓練兵、アキト・キリヤ訓練兵の両名は少尉へと昇格」

「少尉に?」

 地球軍ではMSに乗ることが出来るのは少尉からと言う規則がある。

 つまり、これから二人は実戦に出ると言うことになる。

 憧れのストライクダガーに乗ることが出来る。

 ロイドとアキトの感情は高ぶり始めていた。

「二人とも、ちょっと付いて来い」

「は、はい」

「アトレー大尉、第2戦闘配備の発令を頼むぞ」

 ちょうど机の上の書類を整理していたミリアに指示を出して3人は部屋を出る。

 部屋を出て1分ほどで基地内に第2戦闘配備が発令された。

 ミリアの透き通るような声が、その旨を伝えていく。

 騒ぎの大きくなる基地内。

 外に出て、第2格納庫に入る。

 乗り手を待つように佇むストライクダガーがそこにいた。

「ストライクダガー……! これに俺たちが乗るんですね?」

 ロイドがリエンに問うが、リエンは首を縦には振らなかった。

 立ち並ぶストライクダガーを後ろに、第2格納庫のさらに奥へ向かう。

 今、ロイドとアキトの目の前には扉がある。

 そこはどんなカードキーを読み込ませても開かない扉で有名だった。

 きっとこの奥には何かあると、もっぱらの噂だった。

 まさかこの扉の奥を自分達が見ることになろうとは、思いもしなかっただろう。

 リエンは懐からカードキーを取り出し、スキャンする。

 いつも使用しているカードキーとはまた別の代物で。

 扉のロックが外れ、リエンが開ける。

「これが、お前達の乗る機体だ」

 二人が駆け足で中に入ると、ストライクダガーとはまた違う2機のMSがそこにはあった。

 両方とも外見が灰色になっている。

 有名なPS装甲を搭載しているのだろう。

「GAT-X141レフューズ、そしてGAT-X142ブレイズだ。どちらに乗るかはお前達が決めろ」

「俺たちが……。普通こういうのは上層部が決めることでは無いでしょうか……?」

「ん? ああ、この2機は兄弟機でな、さほど性能に差はないんだ。搭載している武装に多少の差異はあるがな」

 確かにレフューズと呼ばれるMSには両腕の肘の辺りにビームサーベルが装備されている。

 しかしブレイズには右腕にしかサーベル―と呼べるかどうかはこの時点で判断し辛い―が装備されている。

 それ以外にはショートバレルタイプのビームライフルに、アンチビームコーティングされたシールド。

 頭部にバルカン砲と共通の武装となっている。

「……俺はこっちに乗る」

 ロイドが動くよりも先にアキトが動いた。

 彼が選んだのはレフューズだった。

 拒絶の名を持つそのMS、確かに近寄りがたい雰囲気を持つアキトにはお似合いかもしれない。

 ならばロイドはブレイズに乗るしか他ない。

「これ、ティルのやつが見たら泣いて叫ぶぞ。何で俺には無いんですかー、って」

「心配するな。あいつにも渡してあるさ。俺のとっておきだ」

「そうなんだ……自慢してやろうと思ったのにさ」

 そしてOSの調整をしておけと言う指示を二人に告げて、リエンは踵を返した。

「大尉はどちらへ?」

「ん? ちょっと眠っている天使を起こしにな」

***

 リエンの言うとおりだった。

 二人がOS調整をしていると激しい揺れとともに爆発音が響き渡った。

 奴らが、ザフトが攻めてきた。

「もう来たのか!?」

「焦るな、ストライクダガー隊が出るだろうし、すぐには墜ちないだろう、この基地も」

「でも、皆頑張ってるのに俺たちだけこんなところで……!」

「OSの調整をしろというのが大尉の指示だ。下手に動けば調整不足で俺たちが死ぬぞ。せっかく与えられた特機だ……無駄にはしない」

 ロイドの気持ちも分かるが、今はこの2機のスペックを最大限引き出すのが先決。

「よし、アキト出来たぞ!」

「ああ」

 目の前のハッチが開いていく。

 広がるは、戦場。

 爆発の光、喧騒が基地を包み。

 ブレイズとレフューズが、外に姿を現した。

 迫るはジンが4機。

 練習を思い出せ。

 やれるはずだ。

 ロイドはレバーを引いた。

 ブレイズが後退し、ジンの重斬刀による一撃を避けていく。

 やはり練習用のプラクティスなんかとは比べ物にならない。

 ロックカーソルが重なった時、トリガーを引いた。

 ショートバレルライフルが火を噴き、光が人の胴体を貫いて爆散させた。

「攻めて、くるッ! お前達!」

 ライフルをリアアーマーに収め、右腕を構える。

 前腕に装備されている腕部内蔵型ビームサーベル「グロウスバイル」を展開、全ての推力に身を任せて突進する。

 ジンの目の前で急制動をかけ、翻弄する。

「アキト、そっちは!?」

「もうすぐ終わる……!」

 アキトはあくまで冷静に敵を捌いていた。

 PS装甲にも限度がある。

 実弾を76発も受ければ、その分エネルギーを消費して稼働時間が短くなる。

 アキトはその辺りを考慮して戦闘をこなしていた。

 ロイドのようにむやみに突進せずに、一機ずつ確実に。

「まだ敵がいる……ロイド、援護に向かうぞ」

「ああ、早く片をつけないと被害が広がるばかりだ」

 2機のMSがパナマの地を駆ける。

 このときほど空を飛べたら良いと思ったことは無い。

 その時だ。

『アラートッ!?』

 ほぼ2機同時にアラートによる敵機の接近が知らされる。

 それは南の方から接近していた。

 かなりの高速機のようだ。

「……ロイド、どうした」

「先に行ってくれ、アキト。あいつの相手は俺がする!」

「……お前の悪い癖だな」

 ため息をつく。

 それ以上のことをアキトは言わない。

 言っても無駄だし、言ったところで止まる男ではないと言うことをアキトは理解していた。

「相手は……ライブラリ照合、GAT-X102、デュエル……!?」

***

 イザーク・ジュールは愛機デュエルのコクピットのモニターから外の様子を見ていた。

 ザフトが終始押しており、圧倒的な勝利は間違いないだろう。

 それはストライクダガーの登場はちょっとしたサプライズだった。

 MS開発においては遅れていた地球軍がここにきてMSを前線に投入してきたと言うことは、それほど切羽詰っていると言うことの表れか。

「ちっ……面白くない的だな」

 モニターの端で、バクゥの脚部に機関砲からの攻撃が命中する様を目にした。

 体制を崩し、その場に崩れるバクゥ。

「おいおいおい……大丈夫かよ」

 仕方がなく、デュエルの肩部5連装ミサイルランチャーを放つ。

 機関砲を潰し、グゥルに乗って再浮上。

 そもそもこれは本当に自分が望んだ戦いだろうか。

 確かに彼はナチュラルのことが嫌いだった。

 自分たちの能力の無さをコーディネイターのせいにして勝手に妬んで憎んで。

 戦争勃発のきっかけは、元々ナチュラルの方だ。

 しかし、この状況はどうだ。

 まるで開戦当初の地球軍と変わらない一方的な戦い。

「ったく、何を迷っているんだ、俺は……!」

 こんな注意力散漫の状態では、すぐに墜ちてしまう。

「何だ、アラートだと?」

 その集中力をフタタブ復活させるには十分だった。

 デュエルのコクピットに鳴り響くアラート。

 レーダーには「UNKNOWN」の表示。

 ストライクダガーの他に新型がいると言うこと。

「あれは、ストライク……? いや、しかしストライクはアスランのやつが……」

 目の前のその機体は忌まわしきストライクに酷似していた。

 しかし外見は赤を基調とし、肩などにも違いが見受けられる。

「そうか、面白い。お前が俺の相手かァッ!」

 グゥルを駆るデュエルが真紅の機体に迫る。

***

 ロイドは目の前のデュエルとの戦いに身震いしていた。

 死ぬかもしれないと言う恐怖感。

 初めて戦場に出たことによる緊張感。

 そして、自分がMSに乗って戦っていると言うことに対する高揚感。

 その全てがロイドの中にある。

「デュエル、たしかヘリオポリスで強奪されたって言う……。相手にとって」

 ブレイズが走る。

 スラスターを噴かして、短時間だが宙を舞う。

「不足は無い!」

 ショートバレルライフルによる連射。

 いくつもの光がデュエルを掠めていく。

 全くもってめちゃくちゃな戦い方だった。

 無鉄砲で考え知らず、まるで真っ直ぐな槍のような戦い方。

 しかしだからこそ、ある種で相手を翻弄することが出来る。

 何を考えているのか分からないのである。

 次はは何が来る。

 次はどうする。

 そう言った事が予測しづらいのである。

 現に今、イザークもロイドの戦いぶりに翻弄されていた。

「くそ、何なんだコイツは!」

「逃がすか!」

 地面に降りたブレイズ。

 ショートバレルライフルから放たれたビームがグゥルを貫いた。

 爆発に巻き込まれる前にグゥルから飛び降り、ビームサーベルを抜いた。

「沈めぇぇぇぇっ!」

「させない!」

 ブレイズのグロウスバイルが、デュエルのシールドを貫いていた。

 アンチビームコーティングが施されているとはいえ、デュエルの落下によるスピードと。

 ブレイズの突き出すスピードがその威力を倍増させた。

 シールドを貫いて、左肩を融解させた。

「な、うわぁっ!」

 イザークが小さな悲鳴を上げる。

 ブレイズが接近するが、レールガン「シヴァ」を放ち、その場を離れる。

 まさか地球軍にまだこれだけのパイロットがいようとは。

 このパナマ開放戦は実に大きなものをイザークの中に生みつけていた。

***

 戦争は激化する一方だった。

 ロイドと別れたアキトは友軍の援護を行っていた。

 通信相手から驚きの声と同時に、激励の声や叱咤の声が飛んでくる。

「ロイドはどうした……遅いが」

『アキト、上空だ!』

「え?」

 レフューズのカメラアイが何かを捕捉した。

 上空から、大気圏を抜けて落下してくる何かが確認できた。

 『それ』は5つ。

 それぞれ別の場所に散っていく。

 何だろう。

 とても嫌な予感がする。

「援護、お願いします」

『キリヤ少尉!?』

「あれは、落とさなきゃダメだ……!」

 普段は勘や奇跡など信じない。

 目に見えるものだけが全ての現実主義者の彼だが、今回だけはその目に見えないものに従っても良い。

 アキトの只ならぬ様子に、他のパイロットも空から降ってくるそれが嫌に不気味に見えた。

 レフューズが地上から狙撃するが、ショートバレルタイプのこのライフルでは威力が足りない。

「くそ……照準がぶれる……!」

 ライフルを左手に持ち替え、ビームサーベルを抜いた。

 それを投げつける。

 底部に命中し、カプセル状のそれは空中で爆発した。

 嫌に簡単に破壊することが出来たが、何かの罠だろうか?

『アキト、何なんだありゃあ!』

「俺にも分かりません……。ただ、落とさなきゃいけないような気がしたから」

『アキトーッ!』

 耳を劈くような声。

 ブレイズが合流した。

 するとどうだろう。

 先ほど落下した謎のカプセルが光を発した。

 地面を雷が走ったと思ったら友軍機が次々と倒れていく。

 電磁パルスによる物理破壊兵器「グングニール」。

 それがこの戦いにおけるザフトの切り札だった。

「この辺りは何ともないけど……何でなんだ?」

「俺が先ほど一つ破壊しておいた。あの装置でカバーできる範囲にも限界があるんだろう」

「ちぇっ……また良いとこ取りかよ」

 しかしこれで地球軍の敗戦は決定的となった。

 ストライクダガーがまるでオモチャのように破壊され、マスドライバーも無くなった。

 何だかやりきれない気持ちで一杯だった。

「そして、まだ敵は来る……!」

 皆殺しにでもするつもりだろうか。

 気がつけばブレイズとレフューズ、3機のストライクダガーはザフトのMSに囲まれていた。

「おい、アキト……そっちのエネルギーはどれくらい残ってる?」

「……40%だな」

「万事休す、か……?」

 ザフトのMSが攻め込んだ。

 迎え来る敵を撃墜していくが。

 遼機であるストライクダガー防衛までは手が回らなかった。

 次々と倒されていき、3機残っていたストライクダガーは全て瓦礫と化した。

「そんな……! うあっ!?」

「ロイド!」

 迫るシグー。

 それを貫く巨大な光。

 爆発していくザフトのMS。

 一瞬の出来事だった。

 自分達を取り囲んでいた敵機は瞬く間に消えていた。

「一瞬で……?」

「あれは、戦艦……?」

 空にいたのは薄い青色の戦艦だった。

 少し前に資料として見せてもらった地球軍の特装艦アークエンジェルと同タイプの戦艦だった。

『二人ともすぐに乗り込んでもらおう』

 聞きなれた声が、二人を導いた。

***

 戦艦に着艦した2機のMS。

 そこから降りたロイドとアキトは、格納庫で待っていた人物を見て目を丸くした。

「リエン、大尉!?」

「どういうこと、この艦は……?」

「初陣ご苦労だった。残念だがパナマは陥落したが、地球軍特装艦アークエンジェル級3番艦「ミストラル」は守り通した」

 ミストラルと言うと地球軍では作業ポッドが思い浮かぶ。

 何を考えて同じ名前にしたのか、理由は不明のまま。

「この艦は今からどこへ向かうんですか?」

 ロイドの問いにリエンは暫く間を置いた。

「……今から合流すべき相手がいる。そいつらと合流しようと思う」

「そいつ、ら?」

「そう。昔からの馴染みでね」

 リエンのことだ。

 きっと直前まで誰かは言わない。

 現に言わずに、艦内を案内し始めた。

「今日は休んでおけ。初陣で疲れたろう」

「あの、本当にパナマは……皆は……」

「……悔しいか、ロイド」

 ロイドと向き直る。

 真っ直ぐにロイドの瞳を見たまま、リエンは告げる。

「その悔しさを強さに変えろ。そうすれば道は開くさ」

「どういう」

「ほら、休んだ休んだ!」

 無理やり部屋に押し込まれた。

 この部屋が今日から自分達の個室となると言う。

 さっそく備え付けのベッドに横になる。

 今日は色々なことがあった。

 ブレイズとの遭遇。

 デュエルとの戦闘。

 間近での仲間の戦死。

 戦場の重圧。

 初陣の高揚と緊張。

 突っ伏したロイドの口からはため息しか出なかった。

「これから、どうなるんだよ……俺は、俺たちは」

 決して正史では語られる事の無い話。

 歴史の闇に葬られる話。

 それは二人の少年を中心に少しずつ明かされていく。

 そんな話が幕を開けたのはC.E71、5月25日のことだった。


(Phase-1 終)


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