第八章 大天使との別れ(後)
ラグナは光を見た。
神々しいとまで言える光をその目で。
その光が降り立った。
ラグナ以外の者は既にそれを見たことがあった。
イルミナ。
ゼオ・ブースターを背負ったイルミナがパナマに立った。
ラグナは何とかジャスティス・ブルーナイトを起こすと、イルミナに通信回線を開いた。
「お前は・・・・・?」
「フエン・ミシマと言います。力をお貸しします!」
「ちょっと待て、フエン!? 一体どうして!?」
別の機体からの声。
声の主はアルフ。
僅かに上ずっているのはフエンが再び戻ってきたからだろう。
だが、更に驚くべきはイルミナの後ろのミストラルの状態だ。
左舷はほとんど使い物にならない位にボロボロになっている。
一体、宇宙で何があったのだろうか。
そんな事を考えている余裕は今は無かった。
イルミナの登場により敵の攻撃が一層激しくなったのだ。
フエンの実力はかなり高い。
ここで援軍が来たのはある意味正解だと言えた。
予想通り、イルミナが来てからは敵の数が急激に減った。
やがて、敵は完全に消え、輸送機もいつの間にやらどこかへ消えていた。
戦闘終了後のパナマ基地は瓦礫の山と化していた。
MSの破片や、施設の壁、抉られた地面が戦闘の激しさを物語る。
フエンはイルミナを降り、マリュ―達に事情を説明した。
ネオ・ジェレイドの事、月に眠る戦艦の事。
宇宙にいたのはほんの少しの事だったが、いろいろな事があった。
マリュ―達はフエンの話を聞いて納得した。
「でも、アークエンジェルは・・・・・」
「多分ここに置いて行く事になります。なにせ新造戦艦ファイナリィはMSを15機も搭載できるんですから」
「15機も!? それは、凄いな」
アスランが珍しく大きい声を出す。
これにはカガリやアルフ達も驚いた。
従来の戦艦のMS搭載数を軽く超えているのだ。
月面基地は新地球連合軍の中でも独特の技術を持つと言われている。
その成果の一つがファイナリィなのかもしれない。
まだ躊躇いのあるマリュー達。
答えを出すのは当分先になりそうだった。
L2コロニー、ディザイア宙域。
ここでは二機のMSが模擬戦を行っていた。
グリーテスの操るアブソリュートとリエーナの駆るドレッドノートだ。
まずはグリーテスのアブソリュートが動いた。
腰部のレールガン「リュート」と高出力ビームカノン「オーフェン」を同時撃ち、更に低彩度ビームナイフ「ミラージュ」でドレッドノートに迫る。
リエーナは初めの攻撃をかわすとクラトス・ビームライフルを放つ。
このライフルはプロヴィデンスのライフルと同型ながら威力、命中精度、連射力に優れている。
続いて腰に装備されているMA-M01ネオラケルタ・ビームサーベルを抜いた。
フリーダム、ジャスティスのサーベルよりも出力は上がっているものの扱いが難しく、リエーナ専用ドレットノートが初めてネオラケルタ・ビームサーベルを装備したMSである。
アブソリュートはそんなネオラケルタ・ビームサーベルをミラージュで防いだ。
そして勢いよくドレッドノートを蹴り上げた。
負けじとドレッドノートが背部の改良型IWSPから集束型高エネルギービーム砲MA−4Bネオフォルティスを撃つ。
本来ならば新地球連合軍にのみ存在するはずのIWSPパックが元・ザフト製のドレッドノートに装備されているのはネオ・ジェレイド独自の技術のゆえんともいえる。
ザフトと連合の技術を持つネオ・ジェレイド。
そんな組織が可能にした高性能のMS達。
そんな模擬戦を自室から見ていたロイド。
そんなロイドの脳裏にパナマでの出来事が浮かんできた。
C.E.71。パナマにある地球軍のMS訓練学校。
ここにロイドとロイドの自称ライバルアキト・キリヤがパイロットになるべく入学していた。
「おらぁっ!」
ロイドの操る「MSP-000プラクティス」の簡易ビームサーベルが相手を捕らえた。
「そこまで!ロイド・エスコールの勝ちとする!」
審判らしき士官が判定を下す。
コクピットハッチが開きロイドが降りてきた。
黒い髪を適度に伸ばし、茶色の瞳は少年の性格を物語っている。
この士官学校でもトップクラスの実力の持ち主。
「まぁたロイドに負けた・・。なんでそんなに強いんだよ、おまえ」
「なんでって・・・お前の攻撃は直線的すぎるんだよ」
「それはお前だって同じだろが!」
先の模擬戦で負けた他の少年と話をしていると、何やら騒がしい。
二人は声のする方へ行ってみた。
そこでは別の模擬戦が行われていた。
ちなみにこの学校で使用しているMSは全て同じ「MSP-000プラクティス」。
だが、個々によってカラーリングが異なっている。
ロイドのものは赤と黄色に上手くまとまっている。
話は戻るが、今、模擬戦を行っているのは青いプラクティスと緑のプラクティス。
「あれは・・・・」
青い方をみたロイドは声を漏らした。
ヴヴ・・ン
青いプラクティスのカメラアイが光る。
そして、一呼吸おいてから簡易ビームサーベルを抜いた。
「う・・・うわぁぁぁぁぁぁっ!」
相手のパイロットが叫ぶ。
「そ・・・そこまで!アキト・キリヤの勝ちとする!」
「アキト・・・」
その名を聞いたロイドは敵意を剥き出しにした。
アキト・キリヤ。
ロイドの十年来の友達にして最大のライバル。
トップクラスの実力を誇るロイドもアキトには敵わない。
アキトという少年はこの学校のNo,1の実力を持っている。
どういうわけかロイドとアキトが模擬戦を行うと決まってアキトが勝っている。
そのせいか今では友達というよりも、ライバル同士になってしまっている。
もちろん、ロイドが一方的に目の敵にしているのだが・・・。
「おい、アキト」
「・・・・」
このアキト、必要以外のことは口にしないためロイドが話し掛けても反応する事はあまり無い。
まぁ、毎度毎度のことなのでロイドは慣れていたが・・。
「またお前手加減してなかったろ・・・」
「・・・・・模擬戦とはいえ戦闘だ。気を抜く事は出来ん・・・・」
「はいはい・・・」
ここでロイドは追憶を止めた。
思い出したくない記憶だった。
考えてみれば、パナマから全てが始まったのだ。
そんなロイドの部屋に呼び出し音が鳴り響く。
スピーカーホンをオンにして、ロイドが言う。
「俺だ」
「ロイド様、例の機体が完成しました」
「そうか。すぎ行く」
ロイドは部屋を出てMS格納庫へと足を運んだ。
立っていたのは生まれ変わったフール。
注文どおりPS装甲起動時のカラーは赤と黄色となっている。
これは昔からロイドのパーソナルカラー。
ロイドは早速試しに乗り込み、OSを立ち上げた。
画面に映る「G.U.N.D.A.M」の文字。
お遊びで使用したものなのだが、なかなか様になっている。
OSを自分好みに改造するロイド。
その慣れた手つきはナチュラルの者ではない。
かといってロイドはコーディネイターでもない。
ハーフコーディネイター。
それがロイドの人種だ。
大戦時にザフトが情報収集のために地球連合軍へスパイを送り込む事になった。
記念すべき一人目がロイドだった。
だが、科学者達の意に反してロイドはナチュラルの親に引き取られてしまい、何の影も持たない子供に育った。
その親はロイドにハーフだと言う事を伝えなかった。
ロイドが自分達の手から離れるのを恐れて。
その後、ロイドは地球連合軍に入隊し、リエンの指揮下に入った。
戦いの中でロイドは自分がハーフである事を初めて知った。
ロイドは管制室に声をかけた。
「このままテスト機動に入る。グリーテスとリエーナには帰還命令を出せ」
「了解!」
「ロイド・エスコール、ディフェニス、出るぞ!」
フール改めディフェニスが宇宙に飛び立つ。
それと時を同じくしてグリーテスとリエーナが帰還した。
二人とも見慣れないMSに少々気をとられていた。
二人がそれぞれMSから降りた。
グリーテスはヘルメットを外し、やる気の無さそうに頭をかいた。
一方リエーナはじっとドレッドノートを見ている。
「なあ、リエーナ。あのMSってロイドさんが乗ってったのかな?」
「・・・・・・・・・・・・・・」
グリーテスの問いにも無反応のリエーナ。
それでもグリーテスは続けた。
「良いなぁ。俺もあんなMSに乗りてぇ!」
最新鋭機のアブソリュートがありながら何を言うか、と思わず突っ込みたくなったリエーナだった。
それにしても、とリエーナは思った。
まさか本当にロイドが戦場に出るとは、誰も思っていなかった。
その頃のロイドは、暗礁宙域にいた。
ディフェニスは腰の450ミリ収束エネルギー砲「カタストロフ」を放った。
宙に浮いているデブリや小隕石が粉々に吹き飛んだ。
更にビームサーベルを抜いて残りのデブリやら何やらを砕いた。
「これが新しい俺の機体の力・・・・・・? やれるぞ・・・・・これなら!!」
明朝、まだ日も昇りきってない頃。
パナマ基地ではアスラン達のMSがミストラルに搭載されていく。
ちなみに瓦礫は、フエン達のMSの力でほぼ撤去する事が出来た。
マリューはまだアークエンジェルのブリッジにいた。
もう、乗る事はないだろう。
これからアークエンジェルは実験艦として運用される事になる。
もちろんその時のクルーは全く知らない人だ。
マリューは静かに一礼をして、ブリッジを出た。
「遅いですよ、ラミアス中佐」
リエンが言う。
マリューはほっとした。
まだ彼女にはいるべき場所があるから。
『彼』はもういないが、まだまだマリューにはやるべきことがあった。
発進シークエンスが進み、右舷のローエングリンがその姿を現した。
一つしかない分、出力が足りないかもしれないが、リエン曰く、
「何とかなるだろう」
とのこと。
ローエングリンが光り、発射された。
ミストラルは上手い具合に加速し、大気圏を抜けた。
アークエンジェル同様、ミストラルの使命も今終わった。
ノースブレイド基地に戻るとすぐに全MSがファイナリィに搭載された。
カタパルトは三つ。
一番カタパルトにフリーダム、イージスセカンド、ストライクルージュとストライカーパック三つ。
二番カタパルトにはアウスレンダガー、フェル、105ダガー。
三番カタパルトはイルミナ、ジャスティス・ブルーナイト、ストライクブルーにI.W.S.Pパックが配置された。
艦長はリエン、副長にマリュー、ミリアは第二副長の座についた。
ファイナリィはCICの席が四席あった。
そこに配属されたのはサイ・アーガイル、ミリアリア・ハウ、リィル・ヒューストン、ヴァイス・クロイツァーの四人。
操舵席にはアーノルド・ノイマンとミストラル操舵担当のハイウェル・ノース。
フエンの姉のサユもこの艦にオペレーターとして乗っている
これで出港準備が整った。
が、出港前に一機のシャトルがノースブレイド基地に辿り付いた。
そのシャトルから出てきた人物を見て、フエンは驚いた。
そしてファイナリィから降りて、その人物の元へ駆け寄った。
「デュライドさん!」
デュライドと呼ばれた人物が振り向いた。
肩より少し長いヒスイ色の髪を首の後ろで纏めている。
フエンとは大戦時からの戦友。
とは言っても階級も年齢もデュライドの方が上なのだが。
デュライドは大戦が終了したときにあるコロニーに向かっていた。
そのコロニーの名はディナ・エルス。
中立コロニーでデュライドの故郷。
そのコロニーに久しぶりに戻っていたのだ。
フエンは少し戻って来るのに時間がかかると聞いていたのだが、予定よりもかなり早く戻ってきたデュライドに心から喜んだ。
「もう、良いんですか? ディナ・エルスにいなくて」
「ああ。やりたい事はあらかた終わらせていた。あとはまた軍人に戻るだけだ」
デュライドの目がファイナリィに注がれた。
「あの戦艦・・・・・・・・出港するのか?」
「はい。あ、お願いがあるんですけど・・・・・・」
フエンはデュライドに事を話した。
デュライドのディナ・エルスでネオ・ジェレイドの事を知っていた。
事情を飲み込むのは早かった。
「ま、良いだろう。お前の頼みならばな」
「ありがとうございます!」
「じゃあ、ヴァイオレントを持ってくる。どこにつけば良い?」
フエンはデュライドに三番カタパルトにつくように頼んだ。
言われたとおりにヴァイオレントをデッキに搭載する。
MMS−X018ヴァイオレントはイルミナとほぼ同時期に開発されたMS。
頭部に二門のイーゲルシュテルンを装備、通常の物よりも少し口径の小さい45ミリビームライフルとシールド裏にマウントされたビームソード「デュランダル」が主武装。
近接戦闘を主眼に置いたMSでデュランダルはリミッターが装備されており、それをカットする事でエッケザックスモードになる。
大戦終期にはイルミナとのコンビネーションで多大な戦果をあげたのだ。
今、ファイナリィ小隊のMSは十体。
この戦力ならばネオ・ジェレイドとも対等に戦える。
ノースブレイド基地のハッチが開き、漆黒の宇宙が広がっていく。
管制室では皆立ち上がり敬礼をしている。
ファイナリィの全てのシステムが正常と確認された。
「ファイナリィ、発進する! 目標・・・・・・・L2コロニー、ディザイア!!」
ゆっくりと動き出す巨大な戦艦。
そしてどこまでも深く続く宇宙にファイナリィは姿を現した。
(第八章 終)
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