第五章  激戦

 名も無き小島。
 そこには今ミストラルとアークエンジェルが停まっている。
 さらに小型の輸送機と小型の飛行機が一機ずつ、近くに着陸している。
 その飛行機の横にはヘビを催したマークが描かれている。
 サーペントテール。
 今の時代でこの名を知らないものはいないだろう。
 傭兵の中でも最強の傭兵部隊の名をほしいままにしている。
 飛行機からはサーペントテール代表として遣された風花・アジャーが降りた。
「サーペントテール代表、風花・アジャーです」
「ミストラル艦長、リエン・ルフィード大佐だ」
 大人顔負けの挨拶を軽々とこなす風花に一同は息を飲んだ。
 風花はリエンとメカニックたちを輸送機に案内し、オーブイズモ級戦艦の予備ブースターを見せた。
 これをミストラルに設置すれば、大気圏の脱出が可能となる。
 早速作業にかかった。
 メカニックが協力してブースターを取り付けていく。
 作業をしている横ではミストラルオペレーター、ヴァイス・クロイツァーが説明を受けている。
 取り付け作業をしている間、ミストラルブリッジには誰もいなかった。
 当然、レーダーが反応しているのにも誰も気付いていない。

 作業は順調に進んでいた。
 あと一時間もすれば作業は終わりそうだった。
 それほどメカニックの腕が優秀だと言える。
「じゃあ、私はブリッジに戻ります」
 ヴァイスはリエンに報告をし、ミストラル内部へ戻った。
 ヴァイスはこれからリィルと共にブースターとミストラル本体の最終調整をしなくてはならない。
 これを怠るとどんなに高性能なパーツでも十分にその力を発揮しないからだ。
 ブリッジに入り、自分の席に座るヴァイス。
 リィルも席についたようだ。
 そこでふと、レーダーに目をやった。
 ヴァイスは手に持っていた書類を落とした。
 そして、艦内・外に聞こえる放送を流した。
『大変です! レーダーに機影! 数、一! 戦艦クラスの物と思われます!!』
「何だと・・・・・! ヴァイス、詳しく分からないのか!?」
 リエンが叫ぶ。
 キーボードを叩き、その間について調べる。
『識別反応はネオ・ジェレイドのものです! 位置は・・・・・・宇宙!!』
 皆が一斉に空を見る。
 空には何も無い。
あるのはただただ青い空と白い雲があるのみ。
 戦艦の影は見えない。
 リエンは第二戦闘配備を発令、メカニック以外は所定の位置についた。
 パイロット達はMS内で待機との命令が下された。
「敵影は確認されているみたいだが、攻撃はしてこない・・・・・・。どういうつもりなんだ?」
 リエンが呟く。
 隣りのミリアも大体同じ事を考えていた。
 ブリッジに着いたときには他のクルーは位置についていた。
 とはいえ、ミストラルは今ブースター取り付け作業中で発進する事が出来ない。
 もし敵が攻撃してきたらMSとアークエンジェルに任せるしかなかった。
 しかし、敵はいつまで経っても攻撃はしてこない。
「敵戦艦の状態は?」
「依然、動きはありません!」
 こちらの動きを見計らっているのか、それとも・・・・・。
 なんにせよ作業が終わらなければミストラルは動けない。
 リエンの気持ちだけが焦る。
 フエン達もいつ出撃になるか分からないため緊張している。
 そんな緊張の中、外にいた風花から作業終了の通信が入った。
 リエンはマリューに別れを告げると、ミストラルを起動させ発進させた。
 ハッチ下部からローエングリンの砲塔が出現し、艦首は空を向いた。
「機関最大! ローエングリン、スタンバイ!! ・・・・・・・・・・てーーーーーーっ!!」
 巨大な光が空ヘ向かって伸び、次にミストラルはポジトロニック・インターフィアランスにより加速した。
 そのままミストラルはぐんぐん上昇し、空の彼方へと消えた。
 そんなミストラルを残されたアークエンジェルのメンバー達は敬意を払い、総立ちで見ていた。

 大気圏を脱出する時の振動がミストラルを襲っている。
 艦内は熱せられ、クルーに苦悶の表情が浮かんだ。
 二度目とは言え地球の引力から脱出するのだ。
 そんな振動も数分もすれば少しずつ収まっていった。
 完全に大気圏から抜けるにはもう少し時間がかかるがこのまま行けば何とか大気圏を抜けられそうだった。
 だが、リィルが叫んだ。
「前方に、大型の熱量を感知! 先ほどの戦艦です!」
 モニターに拡大された外の様子が映し出された。
 確かに戦艦らしきものが地球圏にいる。
こちらに気付いている様子も無い。
 気付れるとと後々面倒な事になる。
 リエン達は息を殺した。
「大気圏離脱まで残り30秒です」
 ヴァイスが伝える。
 三十秒という時間は実に微妙だった。
 気付かれるかもしれないし、そのまま通り過ぎる事も出来るかもしれない。
 が、この位置にいるという事は地球に対して何かしらの行動を移したということ。
 遅かれ早かれネオ・ジェレイドの戦艦は地球へと向かうだろう。
 その時は地球に残ったアークエンジェルが何とかしてくれると思うが、実際そんな気にはならなかった。
 ここで出来るだけ食い止めなければ。
「大気圏離脱まで残り10秒・・・・・・7・・・・・・・5、4、3、2、1・・・・。大気圏、離脱しました!!」
 瞬間。
 ミストラル内部にサイレンが鳴り響いた。
 ネオ・ジェレイドの戦艦はミストラルに最初から気付いていたのだ。
 大気圏を抜けるまで攻撃しなかったのはおそらくロイドの考えだろう。
 昔の仲間のよしみだと思っての事だ。
 すぐに敵艦からのMSの発進を感知し、第一戦闘配備へと移行した。
「敵MS接近! 数、二! 識別反応、ネオ・ジェレイド! ライブラリ照合・・・・・・・・ありません!」
「ネオ・ジェレイドの新型MSだと・・・・・・? ロイドのやつ!」
 フエン達パイロットはMSに乗り込んだ。
 各コクピットにヴァイスの声が響く。
『敵は巡洋艦サイズの戦艦一と未確認のMSニ機だ。気を付けてくれ』
 発進シークエンスがゆっくりと進んだ。
 前方のカタパルトハッチが開き、漆黒の宇宙がモニターに移る。
 最初に出撃するのはフエンのイルミナ。
 気を引き締め、モニターに写る宇宙を見る。
「フエン・ミシマ、イルミナ、行きます!!」
 それからフリーダム、アウスレンダガー、ストライクブルーのI.W.S.P装備が発進した。
 ヴァイスの言う通り、敵機は本当に二機しかいない。
 一機は白く、いたるところにバーニアが装備されている。
 高機動タイプのMSだ。
 もう一機は天使を連想させる外見を持つ不思議なMS。
 フエンはその二機を目にとめながら、キラに交信した。
「俺とエメリアさんであの白いやつを抑えるから、キラさんはヴェルドさんとあの天使のようなMSを!!」
『分かった。無茶だけはしないで』
 それぞれ散開し、自分の敵の元へ走った。

 幕開けは敵機からの攻撃だった。
 白い高機動のMS―ストナーが手にした30ミリ低エネルギーライフルをイルミナに向けて発砲。
 すかさず30ミリアクションガンで牽制する。
 これはどちらも牽制用の武器で、威力はそんなにない。
 イルミナは弾道を見切って反撃に移った。
 ストライクブルーもコンバインシールドの30ミリ6銃身ガトリング機関砲を撃つ。
 だが、敵機はフエン達の予想よりもかなりの機動性を発揮し、易々とかわしていく。
 フエンは舌打ちをしてスコープを出した。
 よく狙い、ストナーにカーソルが重なる。
 刹那。
 イルミナのビームライフルが勢いよくビームを放った。
 ビーム粒子が宇宙に煌き、ストナーに向かって直進する。
 直撃かと思われたビームだが、ストナーは有り余る機動力で不自然に弾道から姿を消した。
 フエンがモニターをチェックしていると、ロックオンを知らせるサイレンが鳴り響いた。
 ストナーは真上にいたのだ。
「な・・・・・速い!!」
「落ちろ!! そして、死ねえええええ!!」
 ストナーがビームサーベルを手に特攻する。
 脅威の加速力で近づき、一気に距離を縮める。
「フエン君! させない!!」
 ストライクブルーの115ミリレールガンが火を吹く。
 ストナーは見たところPS装甲でもTP装甲でもない、普通の合金製の装甲だ。
 そのため、幾らストナーがガンダムタイプとは言えレールガンでも十分なダメージを与える事が出来る。
 レールガン直撃の振動がゼロを襲う。
 ゼロは頭に血が上った。
 何を思ったのか全速力で二機の元を離れ、ミストラルへと向かったのだ。

 キラとヴェルドは天使の様なMS―ミカエルの相手をしていた。
 このMSのパイロットはかなりの腕の持ち主である事が戦闘開始してからすぐに読み取れた。
 的確な攻撃、高い反射能力、鉄壁の装甲。
 その三つを併せ持つのだ、いくらキラとヴェルドとはいえ苦戦を強いられている。
 しかし、キラは何か引っかかっていた。
 確かに的確な攻撃なのだが、相手から自分たちを倒そうという意思が感じられなかった。
 ミカエルが攻防一体特殊兵装「ソウルアライヴ」を展開させた。
 この武装の両サイドには高硬度の実剣が装備されている。
 それはPS装甲をも貫く。
 そして、実剣なのでアンチビームシールドも役に立たない。
つまり避けるしかないのだ。
 ミカエルがフリーダムに接近し、ソウルアライヴを叩き込む。
 キラはすんでの所で操縦桿をきり、ミカエルの攻撃をかわすとバラエーナ収束プラズマビーム砲を放つ。
 ヴェルドもやや押され気味だったが、何とか調子が戻り反撃に転じていた。
「もう・・・・・・・・止めてください!!」
 フリーダム、アウスレンダガーのコクピット内に女の声が響く。
 キラ達は目を白黒させた。
『どうやらあのMSからのようだな』
「そうですね」
 エンスはキラ達に向かって叫んだ。
「退いてください! そうすれば貴方たちを撃たなくて済むのに・・・・・・・・・!!」
(やっぱりあのMSのパイロット・・・・・・・最初から戦意は無かったんだ)
 フリーダムもアウスレンダガーも一旦攻撃の手を止めた。
 ミカエルも今は攻撃する意思は無いようだ。
 だが、静寂を打ち破る者がいた。
 ストナーが猛スピードでミストラルに向かっているのをモニターの端に映した。
 エンスは思わず叫んだ。
 そして、ミカエルをストナーに向けて発進させた。

「くくく・・・・・・ハァー―――――ハッハッハッ!!! 死ね、死ね、しぃぃぃぃねぇぇぇぇ!!」
 ゼロはスピードを落とさなかった。
 ストナーは右腕にビームサーベルを、左手に30ミリ低エネルギービームライフルを持っていた。
 ミストラルのブリッジに緊張が走る。
「MS接近!!」
「野郎・・・・。迎撃! イーゲルシュテルン、敵を近づけるんじゃない!!」
 ミストラルのイーゲルシュテルンが夥しい数の弾を放つが、ストナーには全く命中していない。
 リエンはCICに命令した。
「ゴットフリートの照準をマニュアルでこちらによこせ!!」
 CICのコンピュータからリエンの下にゴットフリートの火気官製が送られる。
 リエンは照準を合わせ、よく狙った。
 普通、戦艦の主砲でMSを狙うようなやつはいない。
 だがリエンは違った。
 何せリエンは「カラーズ」一の射撃の名手なのだから。
「この・・・・・・・来るんじゃねええええ!!」
 ミストラルのゴットフリートが火を吹いた。
 ストナーは避けようとスラスターを噴かすが間に合わず左腕を破壊された。
 ストナーの破壊された部位から火花が散り、ミカエルが駆け寄る。
「放せ、エンス!! あいつら、絶対にゆるさねぇ!! ずたずたに引き裂いてやらぁ!!」
 喚くゼロの声には耳を傾けず、ミカエルはオケアニスに帰還し撤退していった。
 これで脅威は去ったかと思われたが、ミストラルレーダーに新たな機影が感知された。
 やはりこの機影もネオ・ジェレイドのものだ。
 現在四機はまともに稼動できるが、フリーダム以外はバッテリー式のためエネルギー残量が心配される。
 だが、敵はすぐそこまで迫っていた。
「敵の援軍か・・・・。アウスレンダガー、やれるか・・・・?」
 ヴェルドの機体アウスレンダガーはダガー系の中では強力な機体なのだが、やはりオリジナルMSに比べるとその性能の劣りは隠せない。
 現に先の戦いであちこちの駆動系をやられてしまっている。
 そんなヴェルドにリエンから帰還命令が下った。
 ヴェルドはそれを素直に受領し、ミストラルへ帰還した。
 ヴェルドが帰還してからすぐに敵機は姿を現した。
 敵機は未完成らしく背中の翼のようなスラスター部に大型の剣が一本装備、そして腰にはレールガンが装備されている。
 その外見からかなりの威圧感を感じる。
「気を付けなさい・・・・何が来るか分からないわ」
 エメリアが注意を促す。
 敵機は背中の剣を抜いた。
丁度、ソードストライクの対艦刀を連想させるが、それよりも遥かに長い。
 ビームの刃を発生させ、敵機は襲い掛かった。
 そのモーションには一つの無駄が無く、まるで機械が操っているのではないかと思うほどである。
 イルミナもビームサーベルを抜くが力の差は歴然、押し返されている。
 そのイルミナの影からストライクブルーが現れ、9.1メートル特殊合金製対艦刀を抜いた。
 だが、敵機は腰のレールガンを展開させ放つ。
 その弾速は速く、放ったと同時に着弾していた。
「きゃあああああ!!」
「エメリアさん!」
 キラがフリーダムのディスプレイを持ち上げ、フリーダムのフルバーストモードで敵機を撃つ。
 四つの光が敵機を襲う。
 だが背中の翼を畳み、その砲撃をやり過ごした。
 どうやら背中のスラスターは防御にも使えるということが分かった。
「今度はこちらの番ね」
 不意に敵機のレールガンが放たれた。
 狙いはフリーダムでもイルミナでもストライクブルーでもない。
 目標はミストラルだった。
 ミストラルの左舷に直撃し、炎が上がった。
 幸い撃沈までは至らなかったようだ。
 母艦がダメージを受けた以上、戦闘続行は難しかった。
 フエン達はミストラルに戻り、撤退を余儀なくされた。
「・・・・・・・・・逃がしたか」

 ミストラルに戻ったフエン達は現れた三機のMSについて話していた。
 最初にあらわれた二機はありとあらゆる情報網から情報を集め白い機体がストナー、天使のような機体がミカエル、あとに現れた未完成のMSがオルフェウスというMS。
「これほどのMSを作る技術を持っているとは計算違いだった・・・・・」
 リエンが消え入りそうな声で言う。
 現在ミストラルは月面ノースブレイド基地に向かっている。
 フエンの頼みで基地に入港させてもらう事になった。
 だが、それを喜んでいるほどの気ではなかった。
「あのミカエルのパイロットは・・・・・・・全く敵意が無かった。どういう事でしょう?」
 キラが言う。
「そういやそうだったな。なんか退いてくれたらどうのこうのって・・・・・・・」
「そうか。分からない事だらけだな」
「あと、ミストラルはどうするんですか? あんな状況ではこのまま戦うのは無理ですよ?」
 ミリアが現在のミストラルの状況を説明する。
 左舷が被弾し、左舷カタパルトハッチが使用不能、バリアント、ゴットフリート共に二番が使用不能。
 更にレーダーの一部が故障という非常に危ない状況になっている。
 そんなリエンやミリアを見て、フエンが言った。
「大丈夫ですよ。ノースブレイド基地に行けば何とかなりますって」
 どこまでも明るいフエンにミリあの声が少々荒がる。
「何を言っているの!? この艦はパナマでしか整備を受けられない特殊艦なのよ!?」
「誰が整備を受けろと言いました?」
 フエンが悪戯っぽく笑う。
「良い物があるんですよ、あの基地に」
 そう。
 ノースブレイド基地には一隻の戦艦が眠っている。
 その勇士が表に現れる事夢見て。


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