第三章  それぞれの時間

 ミストラル、アークエンジェルは太平洋を進んでた。
 ギガ・フロートまではあと三日はかかる。
 そんな時、ミストラルに通信が入った。
 何でも新たに配属になったパイロットがいるらしく、今から合流するとのこと。
『では合流地点の座標は転送しましたので、十分後に』
「了解した」
 リエンは通信を切った。
 情報によるとそのパイロットは女で、大戦時にもMSに乗り戦地を駆け抜けたと言う。
 だが、配属は嬉しいのだがミストラルのMS搭載数は限界に近い。
「どうしようか。誰かアークエンジェルに移ってもらうとか・・・・」
「無理でしょうね、あのメンツでは。皆リエン大佐の事を信頼しているので移る気は無いでしょう」
 ミリアが最もな事を言う。
新入りのフエンでさえもうリエンの事を慕っているのだから。
 それにヴェルド達は元々リエンと仲間の関係にある。
 エイスに至っては泣くかもしれない。
 そうなっては面倒だ。
 仕方なくリエンはミストラルにそのパイロットとMSを配属させる事にした。
 頭の痛くなるリエンだった。
 何せただでさえ個性の強いメンバーなのにこれ以上増えたら、胃痛になりかねない(自分がこのメンバーにいるとは考えていない)。
 せめてまともな人材が来ます様にと天に願うリエンだった。

 合流地点はとある中立の軍港だった。
 事情を説明し艦を着陸させ、リエン達はパイロットを待った。
 約束の時間になった。
 しかし、それらしき人物はあらわれない。
 と、暫く待ってから空に一機の輸送機が現れた。
 その輸送機はリエン達の前に着陸すると、ハッチを開いた。
 中から現れたのはGAT-X105ストライクに似たMS。
 既にPS装甲が展開されており、ストライクよりも蒼い。
 そして背負っているストライカーパックは実験中だったといわれているI.W.S.P(Integrated Weapon Striker Pack/統合兵装ストライカーパック)。
 このパックを扱うのなら相当の腕前の持ち主だ。
 その蒼いストライクのコクピットハッチが開き、パイロットスーツを着た兵士が降り立った。
 ヘルメットを外したその顔は凛としており、女性ながら冷静な雰囲気を与える。
「ミストラルに配属される事になったエメリア・コーテリスです。分からない事がありますがよろしくお願いします」
「この艦の艦長のリエン・ルフィード大佐だ。よろしく」
「副官のミリア・ルフィードです」
 早速蒼いストライク−ストライク・ブルーを格納庫に運び、エメリアは艦内を歩いた。
 アークエンジェルと同型艦とは聞いていたが、ここまでそっくりとは。
 そんな時エメリアはフエンとばったり出会った。
 フエンは手にマニュアルを持っている。
 このマニュアルはバスターランチャー等を運んでもらった際に付属していたもので、バスターランチャーとメガ・ビームサーベルを同時に扱うときについてがびっしりと書かれている。
 そんなマニュアルをエメリアも覗いた。
「ふぅん。ねえ、これ全部読む気?」
「え・・・・ダメですか?」
「そうじゃないけど、こんなのを最後まで読むとしたら一苦労よ。こういうのは実戦で覚える方が意外と簡単なのよ」
 エメリアはI.W.S.Pを受領した時の事を話した。
 第二次ヤキンドゥーエ攻防戦の直前にエメリアは受領した。
 既にカガリが扱う訓練をしていたのだが、ルーキーでは当然扱うには至っていなかった。
そこでエメリアのストライク・ブルーに装備された。
「その時私はマニュアルを渡されたけど、基本的な所を読んであとは読まなかったわ。何故だと思う?」
「何故ですか?」
「実戦中だったからよ。少しでも遅れたら命取りになるようなときだもの。悠長に読んでいる暇は無いのよ」
 そう言ってエメリアはフエンと別れた。
 その事を聞いてフエンはマニュアルを閉じた。
 ちょうど艦も動き出した。
 新しい仲間をつれ、再びギガ・フロートへと動き出した。

 L2コロニー、ディザイア。
 ここのは着々と兵士が集まってきている。
 さらに新地球連合と戦う場合に備えて、オリジナルの機体の開発が進んでいた。
 その機体は三機。
 一機目はNJ−MSX1025ストナー。
 全高は16、54m、総重量は57.6トン。
30mm低エネルギーライフルと30mmアクションガン、ビームサーベルを装備したMS。
 高機動設計のため装甲は極端に薄い。
 
 二機目はNJ-MSX1039ミカエル。
 全高は23,7m、総重量90,2t。
武装は大型ビームサーベル「アース」と50mm高エネルギービームライフル「レクイエム」。
 背中には六枚のウイングバインダーを装備しており、地球攻略の際は単機で大気圏突入も可能なMS。
 
 最後の三機目はNJ−MSX1167オルフェウス。
 本体全高、18.43mで本体総重量、75.62t。
 武装は頭部82mm近接防御機関砲≪ピクウスU≫×2。
 胸部120mm高初速対艦機関砲≪エデ≫×2。
 高圧縮プラズマ砲×2≪メテオ≫。
 攻防複合ウイングスラスター≪フェニックス≫×2とフェザー型分離式統合制御高機動兵装群ネットワークシステムドラグーン≪アステカ≫×20。
 アステカはドラグーン・システムを搭載しており、空間把握能力のあるパイロットしか扱えない代物。
 腰部300mm高加速レールガン≪べレディア≫×2。
 大型専用ブレード。
 さらにこのMSだけTP装甲を搭載している
 これだけ見てもネオ・ジェレイドの中のMSでは最強クラスの性能を誇る。
 そして特殊システムとして偏光フィールド発生装置を装備しているが、実験段階のため稼動限界時間は二分となっている。
 
 この三機はやがてネオ・ジェレイドの貴重な戦力となるだろう。
 その三機をロイドは例によって見ていた。
 この三機の横では量産型MSレイスが着々とロールアウトされていく。
 ロイドは笑みを浮かべた。
 これでこの世界を修正できる。
 だが、その前には大きな壁がある。
 先日パナマを襲撃した時、突然空から降ってきたMS。
 あのMSは脅威だ。
 仮にもロイドはフールを駆っていた。
 フールは新地球連合軍の新型機。
その機体に追いつくだけの腕を持つパイロットがまた一人増えた。
 ヴェルド達カラーズのメンバーだけも戦力は大きいと言うのに。
 だが、そんなネオ・ジェレイドにもエースパイロットと呼ばれる兵士がいた。
 ゼロ・イーター、エンス・パーシ、シセリア・アーリクロスト、リエーナ・カラファー、グリーテス・トーラ、の五人だ。
 彼らはネオ・ジェレイドの「赤」と言って良い腕を持つ。
 多種多様なパイロットがいる中で彼らだけは特別、突出している。
「彼らにオリジナルを任せてみるのも良いか・・・・・・・」
 軍服を翻す。
 その目には悲しみの光が宿っている。

 再びミストラル。
 今まで何事もなく進んでいたのだが、突然レーダーに機影が写った。
「レーダーに機影! 数、十! 機種特定、GAT/A-01E2バスターダガー、GAT-01Dデュエルダガーが五機ずつです!」
 オペレーターのリィル・ヒューストンが報告する。
 バスターダガーはストライクダガーの発展系で量産型ながらバスターと同等の戦闘力を誇るMS。
 そんなバスターダガーから砲撃が降り注いだ。
 ダガー系は連合の開発したMSだが、攻撃をしてくるという事は少なくとも仲間ではない。
即刻、第一戦闘配備が発令された。
 ミストラルからはフエンとエメリアが、アークエンジェルからはキラが出撃した。
 イルミナのビームサーベルが敵を薙ぎ倒し、フリーダムのルプス・ビームライフルが敵機の頭部を吹き飛ばす。
「やるじゃないの二人とも」
 そんなエメリアの元へ二機のデュエルダガーが飛来した。
 サブフライトシステムに乗っているため機動性は高いが所詮はデュエルダガー。
 元々飛行が出来ないためイレギュラーな動きには対応しきれていない。
 そんなデュエルダガーにストライク・ブルーの攻撃が降り注ぐ。
 115ミリレールガンが火を吹き、 9.1メートル特殊合金製対艦刀が抜き払われ敵を斬る。
 さすがエメリアとストライク・ブルー。
 一瞬にしてデュエルダガーを葬った。
 フエンとキラも良い調子で敵機を倒していく。
 突然ミストラル、アークエンジェルのレーダーに新たな機影が感知された。
「新たな機影を確認! オーブの輸送機です!」
 オーブの輸送機。
今日はつくづく輸送機に会う。
 次の瞬間、響いた声に皆が驚いた
「こちら、アスラン・ザラだ。聞こえるか?」
 オーブヘカガリの手伝いで向かっていたアスランが戻ってきたのだ。
 スピーカーからは更にカガリの声も響いた。
 両人を乗せた輸送機はアークエンジェルに着艦すると、すぐにマリュ−達が駆けつけた。
 キラも格納庫にフリーダムを着艦させ、アスラン達を迎えた。
「アスラン・・・・久しぶり」
「キラ・・・・」
 何しろ突然カガリに引っ張られてオーブへと渡ってしまったのだ。
 アスランは置いてけぼりにしてしまった自分の機体を見た。
 イージス戦後回収型。
 大戦後のザフト残党軍による「オペレーション・ラグナロク」時に受け渡されたイージスを更に改修した機体。
 武装は60ミリ高エネルギービームライフルとアンチビームシールド。
 腕部内蔵型ビームサーベルに脚部連装ミサイル発射管。
 腹部には550ミリ複裂位相エネルギー砲「スキュラ」を装備。
 MA形態に変形でき、大気圏内でも飛行できるようになっている。
 このイージス戦後回収型−イージスセカンドのOSはアスラン用のOSとなっている。
 他の人間では扱えないMSだ。
アスランはマリューにオーブにいたときの事を話した。
 オーブにいたとき、頻繁に兵士がマスドライバーを使おうと許可を貰いにきたという。
 ギガ・フロートだけではなかった。
 その兵士達はザフトから連合まで様々なパイロットスーツを着ていた。
「そんな事が・・・・」
「もしそれが本当に敵兵ならえらい事だぞ。なんせザフト・連合の兵士が集まっているんだ。今までに無い巨大な組織になっているはずだ」
 マリューとリエンが話している。
 いまやザフトも、自分たちが所属している新地球連合軍もあまり意味をなしていない。
 ネオ・ジェレイドと対等に戦えるのはリエン達新地球連合軍特殊部隊「ローレンス」のメンバー。
 何が何なのか分からなくなっていた。
 仲間だと思っていた者が急に敵になるなんて。
 この世の中何が起こるか分からないとは言われていたものの、いざ起きてしまうとやはり割り切るのは難しい。
 難しいものだ、この世は。

 ミストラル食堂。
 ここでは今フエンとエメリアの歓迎会が開かれていた。
 コックが腕によりをかけて料理を振る舞い、新しい仲間を迎え入れていた。
 当然主役はフエンとエメリアなのだが・・・・その二人よりもはしゃいでいる者が約一名。
「じゃんじゃん食え!! どんどん持って来い!! あーーーはっはっはっはっはーーーーー!!」
「ヴェルドさん・・・・・」
「バカかこいつは」
 ヴェルドだ。
 テンションが上がりに上がって暴走したのだ。
 ヴェルドは良いかもしれないが、周りの皆はついていけてない。
 ヴェルドの暴走を横目で見ながら、エメリアがエイスに耳打ちをした。
「ねえ、いつもこんななの?」
「いえ、いつもはこれよりも大人しいんですよ。今日は特別です」
 エイスはそう言って料理をつまむ。
 アークエンジェル、ミストラルを合わせても女性のパイロットはエイスとエメリアのみ。
そう言った意味でエメリアはエイスに親近感を抱いていた。
 ミストラル。
 その名に「霧」を冠する戦艦。
 エメリアは戦艦の中でこれほどまでに居心地の良い戦艦を見た事がない。
 どんな形であれ、この戦艦はエメリアの今の居場所。
「まったく、ここのクルーはホントにお気楽なんだから・・・・・・。ね、エイス」
「え?」
「・・・・・ま、いいわ」
 もう一人の主役、フエンは。
 よったアルフに酒を飲まされていた。
「んぐぐぐぐぐぐぐぐぐぐっ!!?」
 アルフは有無を言わさず飲ませている。
 酒が入るとアルフの性格は途端に暴走する。
 それがヴェルドよりもたちが悪いのだからどうにもならない。
 そんな食堂にミリアが通りかかった。
 リエンはマリューと話し合いの最中なので、話し相手がいない。
 一行はミリアに気付いていない。
ただバカ騒ぎをしているだけ。
 そんなだらけた一行にミリアの怒りが爆発した。
「なにやってるんですか!!!」
 時間の止まる一行。
 ミリアが接近する。
 アルフの手の酒を奪い、シンクに流し捨てた。
「ああもう、フエン君はお酒飲んでるし・・・ヴェルドさんは暴走してるし・・・・・。歓迎をするのは良いですけど、程ほどにしておかないと支障をきたしますよ!?」
 なんだか愚痴のように聞こえる説教をしてミリアは料理をつまみ出した。
 今の今まで眉間にしわの寄っていた顔が見る見るうちに綻ぶ。
 料理の上手さに感動したらしい。
 その後、ミリアは愚痴をこぼし始めた。
 終いには泣き出し、手がつけられない状況になった。

 こうして、それぞれの時間は過ぎた。
 ギガ・フロート到着まで残り二日

 (第三章  終)


 
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