第二十八章 潜入、ディザイア
連合軍艦隊のネオ・ジェレイド艦隊への攻撃が開始された。
再び宇宙に広がる炎。
さまざまな機体が交差し、その役目を全うしていく。
そんな中、スティング、アウル、ステラの三人も戦闘で敵MSをなぎ払っていた。
「ったく、こんな戦い、こっちの負けだっつーの」
「そういうな、アウル。ま、あのでかいMSが出て来ればそうかも知れないが、通常戦闘で俺たちが負けるはずが無い。なぁ、ステラ?」
「いえあああああっ!!」
スティングからの問いを無視して、ステラは敵を倒している。
既に最適化と呼ばれる処置を施されているためステラの身体能力は他の一般兵など比にならない。
スティングもアウルもこの戦いのシステムを悟っていた。
あのでかいMSが出て来ればまず勝てない。
だったらその前に全てを叩き潰す。
もし、仮にでてきたとしても旗艦を潰せばすむ事。
そのための、自分達なのだ。
三人の奮戦をネオはガーティ・ルーのブリッジで見ていた。
仮面で覆われているため素顔は分からないが、口元がゆがんでいる。
「おうおう、やるねぇ、あの三人」
「は・・・・?」
隣にいたイアンが少し疑問系で声を出した。
飄々として、ネオは言う。
「やっぱり、あいつらはああでなくっちゃな」
今もまたアウルのグランスが敵機を二機倒した。
強化処置を施した彼ら三人に勝てるパイロットが、ネオ・ジェレイドにいるとは考えられない。
ネオは、仮面の下で何を考えているのか。
それは分からない。
地球軍の攻撃が開始されたのとの知らせはファイナリィにも届いた。
すぐに出ようとするが、リエンがそれを許さなかった。
「今行っても混戦になる。もう少し、時を待つんだ」
「でも・・・・・・・・」
フエンが言う。
何時になくやる気のフエンだが、混戦時ほど怖い戦場は無い。
死んでしまったら元も子もないから。
「もう少し待つんだ。そうすれば、必ず動くチャンスがある」
『そうだ、もう少し待て』
辺りに聞き覚えのある声が響いた。
それはロイドのものだ。
皆が辺りを見回すが、当然ロイドは敵の手中にある。
一体どういうことか。
『俺は今、セクエンス・リヴェルのシステムを利用して話しかけている。正直これもそう長くは話せない。率直に言おう。ディザイアにいる奴らを助けてくれ』
ディザイアにいる奴らとはロイドの側近のリスティア以下、いわゆるロイド派と呼ばれる人間達。
ハイウェルに捕らえられているのだと言う。
ロイドは今、セクエンス・リヴェルのコンフューズ・システムの中にいるために行動ができない。
かといって仲間のシセリア達を動かせばたちまち反逆で捕まってしまう。
そこでファイナリィ小隊に頼むのだと言う。
人の良いリエン達はそれを引き受けた。
『ありがとう・・・・・・・。みん』
全てを言い終える前に、ロイドの声が途切れた。
長くは無いと言っていたので、あれくらいが限度なのだろう。
早速誰が行くかを話し合った。
L2宙域までは二日かかる。
それまでに往復分のエネルギーが必要となる。
更に戦闘になった場合のことを考えるとよほどのエネルギーが無いと、行動は無理だ。
そんな時に上げられたのがフリーダムとジャスティス・ブルーナイト。
この二機はNJCを搭載しているためにエネルギー効率は非常に高い。
おそらく往復分と少しの戦闘を行う程度のエネルギーはあるはずだ。
あとはシャトルを数機を用意した。
即座にキラとラグナが機体に乗り込む。
『いいか、目的はあくまでロイドの仲間の救出だ。無駄な戦闘は省け』
「了解!」
「ハッ! 分かってるさ。やってやるぜ!」
『カタパルト接続。フリーダム、ジャスティス・ブルーナイト、発進どうぞ!』
サユの声が響く。
カタパルトで押し出された力のまま、いわゆる「サイレント・ラン」で進む。
熱源を察知されにくくするため、PS装甲をオフにしている。
ちなみにシャトルのパイロットはエメリアとアスト。
戦闘中域を避けて進むフリーダムとジャスティス・ブルーナイト。
エメリアもアストも緊張している。
シャトルにはMAやMSのように武装が搭載されていない。
そのためパイロットの本当の技量が試される。
ちなみに何故、エメリアとアストかというと。
それは決める時の事。
「俺は無理ですよ。シャトルなんて操縦した事無いですもん」
「ええ!? フエン、そうだったのぉ!?」
「俺はシャトルの操縦できるが・・・・・」
「アスランも出来るよね?」
「まあ、一応は」
「私もシャトルくらいは乗れるわよ」
「俺も」
「ま、俺はジャスティス・ブルーナイトででるから乗れないけど」
「で、どうするんだよ、結局は」
「ジャンケンでいいんじゃないですか?」
「おお、良いなフエン、それ」
(えぇーーーー・・・・・・・・・・?)
で、ジャンケンで負けたのがこの二人。
重要な時に適当なのがファイナリィ小隊。
エメリアは心底沈んでいた。
思えば思うほど理不尽だと。
エメリアは大きなため息をついた。
その頃戦局は大きく動いていた。
セクエンス・リヴェルが登場した事で、地球軍は大きく不利になった。
今の地球軍の戦力ではセクエンス・リヴェルを止められない。
スティング達でも勝てるかどうか分からない。
フエン達も出撃しようとした。
しかしリエンが許さなかった。
「落ち着け。今はキラ達が戻るまで待つんだ!」
「でも、あのままじゃ地球軍は・・・・」
このまま見過ごしたら地球軍は壊滅するかもしれない。
しかい、無駄に戦火を広げてこちらが不利になりそうなのだ。
セクエンス・リヴェルは今までの敵とは違う。
そのことを十分頭の中においておかなければならない。
悔しそうにうつむくフエン。
いや、フエンだけではない。
他の皆も出撃したかった。
とにかく最低でも二日。
それだけは待たなければならない。
それからの戦況は酷いの一言だった。
セクエンス・リヴェルの圧倒的な力の前に地球軍のMSは成す術がなかった。
ディアブロ・グランス・ペルセイスの三機はまだ稼動しているが、いつ落とされるか分からない。
ガーティ・ルーに帰還した三人。
早速「最適化」の処置を受ける。
ゆりかごの中で眠る三人をネオはじっと見ていた。
「・・・・・・・・・」
「どうなされました?」
「俺が出る」
「大佐!?」
「エグザスを用意させろ」
「・・・・・・・は!」
専用MA、エグザスに乗り込み出撃するネオ。
本当に何を考えているのか分からない。
セクエンス・リヴェルに果敢に挑むエグザス。
有線制御の特殊オールレンジ攻撃兵器で四方から撃つ。
しかし光波防御対の前にオールレンジ攻撃も意味をなさない。
「ちぃ。やるじゃないの、敵さんも! だが、これなら!」
接近するエグザス。
超至近距離で2門のレールガンを撃つ。
至近距離でならば少しは効果がある。
更にエグザスの機動性なら攻撃後に高速離脱も出来る。
ヒット&アウェイの戦法でセクエンス・リヴェルを翻弄する。
「・・・・・・この、蚊トンボがぁ!!」
ドラグーン・マイザーがエグザスを狙う。
そのドラグーン・マイザーに特殊オールレンジ攻撃を命中させていく。
その戦いは他のパイロットからすれば特異なものだ。
ネオは本物の空間認識能力の持ち主。
それに対してハイウェルはその能力を持ち合わせていない。
そのハンデはじわじわと現れていった。
セクエンス・リヴェルが押され始めたのだ。
MAに最強のMSが押されている。
眼を疑わずにはいられない。
しかしやはりMAとMSでは性能が違いすぎる。
押しているとはいえセクエンス・リヴェルにはその戦況をいくらでもひっくり返せるほどの武装を搭載している。
その一つ、陽電子破城砲エンドがエグザスの右舷を掠める。
機体から火花が散り、コクピットにはアラームが耳を劈くほどの音量で鳴り響いている。
「くそ! ここまでか・・・・・! ガーティ・ルー、エグザス帰艦するぞ!」
「ふふ・・・・・・・はははははははははっ!!!」
「ハイウェル様、今のうちに総攻撃を!」
ヴェイグリートがハイウェルに言う。
だが、返ってきたのは思わぬ答え。
「・・・・・・・ふん!」
セクエンス・リヴェルのドラグーン・マイザーがヴェイグリートのスプリガンを撃つ。
右腕、左足を吹き飛ばされ、頭部を破壊された。
その光景にネオ・ジェレイドの兵士達は声を失った。
「もう俺には・・・・・・組織など必要ない。もともとこの組織は俺の踏み台・・・・。絶対なる力を手に入れた今、貴様らクズに付き合う必要は無い。今すぐ消えてもらおうか」
エンドが再チャージを始めた。
「さあ、消えろ!」
そこへ、一陣の光が走った。
それはオルフェウスの高圧縮プラズマ砲「メテオ」だった。
オルフェウスの他にドレッドノート、アブソリュート、フォース、カルマもいる。
エース全員がハイウェルを裏切った。
「やっぱり、あんた間違ってるよ!」
シセリアが叫ぶ。
間違いを知っていて、それでも間違った道を突き進んだ自分達が恥ずかしくてたまらなかった。
でもそれとても・・・・・。
「あんたを止めてみせる!」
シセリアが言い終わるとすぐに五機のMSは散開した。
オルフェウスのフェザー型分離式統合制御高機動兵装群ネットワークシステムドラグーン「アステカ」とドラグーン・マイザーが激突する。
その後ろからリエーナのドレッドノートのネオ・フォルティスと110ミリレールガンを撃つ。
それを光波防御帯で防ぐ。
しかしその懐にはゼロのフォースが潜り込み、ビームサーベルで斬りつける。
光波防御帯は遠距離攻撃こそ防げるが、ビーム斬撃などの近接攻撃は防ぎきれない。
セクエンス・リヴェルが戦場に出て初めて傷を負った。
「この・・・・・!」
セクエンスのビームキャノンがフォースに向う。
そのビームを打ち消すように肩部580o複列位相エネルギー砲「スキュラ」と高出力ビームカノン「オーフェン」を放つ。
自らのMSよりも旧式のMSの攻撃により攻撃が相殺されるとは。
ハイウェルの計算が狂いつつあった。
だが、負けたわけではない。
三度目のエンドを撃つ。
既に砲身が限界に達しようとしていた。
その終焉の光を一機のMSが防いだ。
カルマだ。
カルマの防御フィールド「エクステンション・シールド」がエンドを防ぐ。
エンスの体を陽電子が襲う。
「く・・・・・・・・きゃああああああああああ!!!」
「エンス!」
エクステンション・シールドが消滅した。
エンドも消滅し、一難去った。
ゼロが叫ぶ。
エンスからの応答を聞くと、安堵のため息をついた。
無事なMSは四機。
が、フォースはカルマをかばっているので、実質三機。
数字上はシセリア達が有利だが、果たして。
戦闘中域を離脱したキラ達は全速力でディザイアへ向かった。
その間戦闘もなく、事は順調に運んでいた。
だが、ディザイア中域に差し掛かるや否や、敵MSが襲い掛かってきた。
無駄な戦闘は避けなければならない。
フリーダムのフルバーストが敵MSを全て行動不能にさせる。
そのままディザイアへ進入し、対空機銃を潰す。
するとディザイア内にMSが出撃し、こちらの迎撃に当たる。
シャトルを隠し、フリーダムとジャスティス・ブルーナイトが敵の駆逐を行う。
「エメリアさんたちは地下牢へ! ここは僕達が!」
「分かったわ。気をつけて!」
銃を手に走るエメリアとアスト。
MSがそれを追うがジャスティス・ブルーナイトのビームサーベルライフル「セイバー」によって切り裂かれる。
地下牢へ向かう階段を降りる二人。
その前に兵士が立ちはだかり、銃を乱射してくる。
角に隠れ、隙をうかがう二人だが、弾は止みそうに無い。
少々危険だが、アストは手榴弾を投げた。
爆発し、兵士が倒れている横を通り、先を急ぐ。
「どう? いる?」
「ええ、わんさか」
先ほどの騒ぎで兵士がうろつき始めている。
まあMSが侵入した時点で騒いでいるのは当たり前だが。
走る二人。
それを見つけ、銃を撃つ兵士達。
弾丸をかいくぐり、接近し相手兵士を気絶させる。
兵士を気絶させ、地下牢を発見した。
その中にはネオ・ジェレイドの軍服を着た兵士が数名牢の中にいた。
エメリアとアストを見てざわめく兵士。
「離れて!」
そういって錠を撃つ。
牢の扉が開いて中にいた兵士のうち、女性の兵士が話しかける。
「どうして私達を・・・・・・?」
「ロイドに言われたのよ。リスティア達を助けてやってくれって」
「ロイド様に・・・・・・・・? でも、今ロイド様は・・・・」
リスティアがためらう。
助けてくれたとはいえ、敵兵にぽろぽろと話していいのだろうか。
その気持ちがあったが。
「セクエンス・リヴェルのシステムと同化しているはず・・・・・・・・」
ロイドがセクエンス・リヴェルのコンフューズ・システムの鍵となっている事は知っていた。
それでも改めて聞くと身の毛がよだつ。
急いで外にでる。
シャトルに乗り込み、キラ達に救出した事を伝える。
すぐに脱出するための進路を確保する。
港を抜け、ディザイアをでる。
リスティア達が逃げ出した事は、ハイウェルに伝えられた。
しかし、既に閉じ込めている価値も無くなったのでそれほど驚きもしなかった。
全速力でファイナリィに戻る。
再び戦場。
そこではシセリア達の機体が無残にもやられていた。
あまりの強さにシセリア達エースでもこの様だ。
もはや仲間も何も関係ないハイウェルは地球軍、ネオ・ジェレイド軍全てを破壊し始めた。
その光景にフエン達は我慢ができなくなった。
それでもリエンは出撃指示を出さない。
命令を無視して出撃しようとするフエン。
彼の眼には怒りが宿っていた。
そんなフエンにリエンは平手打ちをした。
「怒りに任せて動くな!」
彼の声が格納庫に響く。
しかしこうして動かずにいる間にも、セクエンス・リヴェルは邪魔なものを破壊している。
これはもう戦争ではない。
奴が敵味方関係なく殺すと言うのなら、フエン達は敵味方関係なく守る。
それが今のフエン達にできること。
その時、艦内にアラームが張り響いた。
セクエンス・リヴェルがファイナリィに接近中だというのだ。
MS隊は展開していない。
艦の対応も間に合っていない。
被弾したのだろう、艦全体が揺れた。
「終わりだ。落ちろ!」
ビームキャノンに光が集まり、ハイウェルは勝利を確信した。
が、ビームキャノンが作動しない。
それどころか、セクエンス・リヴェルの機能が停止している。
何が起きたのか、彼には分からない。
それはセクエンス・リヴェルの下半身、コントロールスフィアの中。
ロイドは十字架に貼り付けにされ、全身にコードが巻かれ、頭部には精神を感知する機械を取り付けられている。
このMS、M.O.Sを元にしているだけあって「使用者」の意思によって性能が変化する。
このシステムの使用者はハイウェルではない。
ロイドだ。
だからロイドが止めろと願えば、システムはダウンする。
が、反面。
稼動していたものを急に止めさせるのにはかなりのエネルギーが必要になる。
そのエネルギーを溜めるために、今までロイドはずっと黙っていた。
「好きには・・・・・・・・させんさ」
「ええい、ロイドか! すぐにシステムの復旧をしなければ・・・・・・・・!」
スイッチを押すハイウェル。
起動には時間がかかる。
そんなセクエンスの元に半壊したエース達の機体が立ちはだかる。
ブリッジにいたクルーは信じられなかった。
今まで敵を思っていたものたちが自分達を助けてくれるだなんて。
行動不可に陥ったセクエンス・リヴェルに挑む。
シセリアもリエーナも、グリーテスもゼロもエンスも
もうこの戦争はどうでも良かった。
こんな男の手のひらの上で動いていたと思うと、自分が情けなくなり、自分が惨めになる。
だから、これがせめてもの罪滅ぼし。
そんな思いが全員の心の中にあった。
走る機体。
シセリア達は死ぬ気だった。
もう、思い残す事など無い。
ファイナリィ小隊に全てを託して。
特攻した。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!」
戦場に、光が舞い降りた。
猛スピードで駆け抜け、オルフェウス達を抜き去った。
それはイルミナ。
後方からはヴァイオレント、イージスセカンド、バスターダガー、 スパイラルが駆けつける。
「君達をファイナリィへ連れて行く」
リエンが言う。
というよりも言い方がまずい。
「私達は!」
「言いたい事は分かっている。敵艦に用になるのは君達のプライドを傷つけることになるかもしれない。でも、そんな事を言っている時ではないことくらい、気づいているはずだが?」
「く・・・・・・」
『ここは従ったほうがいいんじゃない? シセリア』
グリーテスが軽い調子で言う。
他の機体の損傷も激しい。
分かった。
そう短く言うとシセリア達は機体をファイナリィへと向けた。
一人、セクエンス・リヴェルと対峙するフエン。
大きい。
自分がどうしようもなく小さく、惨めに見える。
でも。
フエンの眼に光が宿る。
勝たなければならない。
負けたら、全てが終わる。
イルミナのスラスターが火を噴いた。
(第二十八章 終)
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