最終章 光の中へ
フエンは目の前のそれと戦っていた。
もはやMSではないそれは、強大な力を持ってイルミナに襲い掛かる。
四方からドラグーン・マイザーがビームを放つ。
エース達との戦闘でかなりのドラグーン・マイザーが潰されたが、それでも10基以上は残っていた。
それではフエンは不利だ。
相手はNJC、オールレンジ攻撃、無敵の盾に、最強の力。
その全てを兼ね備えているため、勝つのは至難の技。
フエン一人ではどうにもならないかもしれない。
彼の額に汗がにじむ。
ビームをかいくぐり、何とか距離を保とうとする。
しかしドラグーン・マイザーはそんな事お構い無しに襲い掛かる。
が、イルミナのエネルギーゲージがじわじわと減っていく。
エネルギーの差はどうにもならない。
そこへ。
ビームが走った。
それは2時の方向から。
機種は、フリーダムと、ジャスティス・ブルーナイト。
そしてシャトルが二機。
シャトルはファイナリィへ向い、フリーダムとジャスティス・ブルーナイトがセクエンス・リヴェルの前に立つ。
「フエン! 待たせたな!」
「ラグナさん、キラさん!」
「フエン、やれるか!?」
ラグナが問う。
その問いにフエンは答えた。
「はい!」
「分かった・・・でも無理だけはするんじゃねぇぞ!!」
ジャスティス・ブルーナイトとフリーダムはシャトル護衛の任をまだ果たしていないため、その場を去った。
改めて相手を認識するが、その戦闘能力には大きな差がある。
セクエンス・リヴェルの激しい攻撃が続く。
イルミナの機動力では避けるにも限度がある。
雨のように注ぐビームをシールドを使いながら上手く防御し、スラスターを噴かして避けていく。
今のフエンの集中力は最大までに引き上げられていた。
以前キラがこんな事を言っていた。
時々自分の中で何かがはじけるような感覚になる。
その感覚になると頭の中がクリアになって、敵の動きがよく見えるようになる、と。
今のフエンはそれに近い感覚に陥っていた。
だが、一基のドラグーン・マイザーのビームがイルミナの右腕を貫いた。
爆発の衝撃でコクピットが大きく揺れ、モニターにもダメージが生じた。
動きの止まるイルミナ。
そこへ次々と襲い掛かるドラグーン・マイザー。
「このままじゃあ・・・・・・・・やられる・・・・・・!」
「トドメだ。落ちろ!」
エンドが放たれた。
フエンが叫んだ。
「させるかぁぁぁぁ!!」
飛び込んできたのは別の声。
そしてスパイラル。
スパイラルのビームキャノンを放つ。
それは光波防御帯の前では役に立たないが、けん制になら使える。
イルミナを抱えるスパイラルは一度ファイナリィに戻った。
自分の前にはもう敵はいない。
ハイウェルはセクエンス・リヴェルを地球へとむけた。
何故セクエンス・リヴェルにコンフューズ・システムが搭載されているのか。
本当の理由は地球にコンフューズ・システムを放ち、地球の住む人達同士で相打ちさせ、自分がその上に君臨しようと言うのだ。
そのセクエンス・リヴェルにヴェイグリートの乗るスプリガンが接近した。
「ハイウェル様、今こそ地球軍に総攻撃を!」
「ヴェイグリートか・・・・・・・・・お前はよくやってくれた」
「は・・・・・・?」
「俺からの最後のプレゼントだ。受け取れ!」
コンフューズ・システムがオンになり、ヴェイグリートは狂戦士と化した。
暴走したヴェイグリートはスプリガンを操り地球軍艦隊へ走っていった。
邪魔をする者がいなくなり、セクエンス・リヴェルが再び動き出した。
地球到達まで残り五時間。
ファイナリィ格納庫は慌しくなっていた。
イルミナの右腕をつけるための作業と、ネオ・ジェレイドのエース達のMSを収納する作業に追われている。
そのイルミナの両腕にバスターランチャーとメガ・ビーム・サーベルが付けられた。
胴体にはアンチ・ビーム・コーティングの施された、アーマーを追加し攻撃と共に防御も向上した。
それでもセクエンス・リヴェルには敵わない。
しかし性能差を埋めるのはパイロットの腕である。
いくらハイウェルがMS操縦が上手いとは言え、フエンは正規の軍人。
それも大戦を勝ち残ったパイロットだ。
「フエン・・・・・・・・」
サユがやってきた。
その顔には不安の色が浮かんでいる。
無理も無い。
自分の弟が本当に死ぬかもしれないのだ。
格納庫にいるデュライド達も不安だった。
正直地球軍とネオ・ジェレイド軍の戦闘を止めるだけでも厳しいのに、セクエンス・リヴェルなどと言う化け物までいるのだ。
生きて変える保障はない。
暫くの間、パイロットには休息が言い渡された。
それぞれの自室で休む・・・・・・・・・・訳にはいかなかった。
デュライドはメリーナから渡されたお守りをじっと見ていた。
『お願い・・・・・・・・絶対死なないで』
そんな彼女の切ない表情が脳裏に浮かんだ。
どこか抜けていて、危なっかしくて。
でもいつも自分のそばにいて。
デュライドは彼女に少なからず好意を抱いていた。
もっとも、向こうは完全にデュライドの事が好きなのだろう。
そんなデュライドの部屋の隣ではラグナが写真を見ていた。
そこには彼の家族が写っていてカメラに向って微笑んでいる。
ラグナはその写真を鞄の中にしまった。
元々、この地球軍に入ったのは自分の家族を殺したコーディネイターが憎かったから。
自分の同胞であるコーディネイターに裏切られ、ラグナは地球軍に入隊し、戦い抜いてきた。
大戦時は荒れていた自分だが、何故かこの隊に配属になってからその荒くれた性格が丸くなっていく気がしていた。
もちろん、入隊の目的を忘れたわけではない。
でも、フエン達と共に行動していくうちに復讐は何も得られない、と言う事に気づいた。
ラグナの部屋の向かいの部屋。
そこにはエメリアが座っていた。
思えばこの隊に配属されてかなりの時間が過ぎた。
愛機、ストライクブルーとこの隊に配属された時、彼女はなんてだらしない隊なのかしら。
そう思っていた。
また転属願いでも出そうかと本気で思っていたが、共に戦っていくうちにその考えは変わった。
腐りきった地球軍に比べ、彼らは自分達の意思をちゃんと持ち、それぞれが自分の持つ力を最大までに発揮できている。
彼女はやっとたどり着いたのだ。
本来自分がいるべき場所に。
軍隊なのに、軍隊のように堅苦しくは無い。
でも個人の意見が尊重され、持てる力を最大までに引き出せる。
ファイナリィ小隊とはそんな隊だ。
アストはうずくまっていた。
ディグニティのPシステム用のパーツもなんとか完成し、整備士が急いで取り付け作業に出てくれている。
眼を閉じると第十四機動隊の面々の顔が浮かぶ。
ナチュラル扱いしてくれない他の隊に比べて、第十四機動隊の面々は自分に対して大分優しかった。
今までの傷が少しずつ癒えていく気がした。
しかしその面々も、もうこの世にはいない。
この戦いが終われば、少しは楽になる。
そうしたら第十四機動隊の墓参りに行こう。
そして報告をしよう。
頑張ったと。
だからもう一度・・・・・・・・・・。
リエンはため息をついた。
彼がため息をつくのはとても珍しく、本当に悩んでいる時にしかため息をつかない。
その隣でミリアが言う。
「何ため息なんかついているのよ。がんばりなさいよ」
「分かってるさ・・・・・・・・でも」
「でも、何よ」
「もし俺が死んだらどうする?」
一瞬だがミリアは言葉を失った。
リエンがそんな事を言うとは思っていなかったから。
返答に迷うミリア。
「死んでも大丈夫よ。私が毎日お墓参りに行ってあげるから・・・・・」
「ミリア・・・・・・」
「でも・・・・・・・・死んじゃ・・・・・・・・・・いや」
ミリアの眼から大粒の涙が流れた。
時が来た。
パイロットは全員MSに乗り込んだ。
ここでフエンは先行する事になった。
セクエンス・リヴェルは自分にやらせてくれと、要望があったのだ。
どうしてフエンがそんなことを言ったのか、皆には分からない。
しかし、ここまで強く言ったフエンははじめてみる気がしたから、他のパイロット達はそれを許した。
「カタパルト、接続」
リィルの声で発進シークエンスが進む。
カタパルトハッチに乗り、イルミナのOSをチェックする。
そして。
「進路クリア! イルミナ、発進どうぞ!!」
「フエン・ミシマ、イルミナ、行きます!!」
カタパルトによっている皆が宇宙へと飛び出した。
他のMSはイルミナ発進から三十分後に地球軍艦隊とネオ・ジェレイド艦隊の両軍に戦闘中止を呼びかけるために向う。
もちろん武器は置いていく。
イルミナがセクエンス・リヴェルを捕らえた。
効果はなさないがバスターランチャーを放つ。
が、油断していたのだろう、光波防御帯を発生していなかった。
被弾するセクエンス・リヴェル。
向き直り、イルミナを捕捉する。
「ほぅ・・・・・・・・この機体に傷をつけたな・・・・?」
接近するセクエンス・リヴェル。
相変わらず並々ならぬ圧迫感を感じる。
だが今のフエンに恐れる暇などない。
スラスターを噴かす。
距離をとり、バスターランチャーを放つ。
すぐのそれをパージし、左腕のメガ・ビーム・サーベルを発生させた。
バスターランチャーをパージした分軽くなったイルミナが走る。
セクエンス・リヴェルのエンドをかいくぐる。
光波防御帯を発生させるが、それには弱点があった。
射撃攻撃は防げても、ビームサーベルなどによる近接攻撃は防げない。
メガ・ビーム・サーベルを光波防御帯が交わり、火花が散った。
一進一退の攻防が続いた。
その頃、地球軍艦隊とネオ・ジェレイド艦隊の戦闘は熾烈を極めていた。
ネオ・ジェレイド艦隊は総帥であるハイウェルが指示を出せず、艦隊は停滞していたものの、何人かの兵士の指揮力で何とかか持ちこたえていた。
そんなネオ・ジェレイド艦隊に地球群が迫る。
もはやこの戦争は何の意味もなさないのに。
戦況は既に有利と判断したネオは、スティング達を呼び戻した。
そしてミラージュコロイドを展開して、ガーティ・ルーは漆黒の中に消えた。
突然レーダーから友軍の艦が消えた事に驚いた地球軍の足並みが乱れ始めた。
そこへファイナリィ小隊が駆けつけた。
そのブリッジでマリューが国際救難チャンネルで両軍に呼びかけた。
「地球軍艦隊、及びネオ・ジェレイド艦隊に告ぎます! もはやこの戦争は意味を成さなくなりました!」
「何だ・・・・!? どういうことだ、マリュー・ラミアスよ!」
地球軍艦からの返信。
「この戦争はハイウェルによって仕組まれたものです! そのハイウェルももはや仲間を仲間と思わない・・・・・・・エゴの塊です! そんな奴の手のひらの上で私達は踊らされているのです!」
「しかしここで退くわけにはいかない! 敵が目の前にいるのだ!」
「敵を全て倒せば戦争は終わると言うものでもないでしょう!!」
マリューの声に士官が黙る。
「退くのも・・・・・・・・休戦するのも立派な作戦です」
それが響いたのか、地球軍艦隊は戦闘中止を申し出た。
対するネオ・ジェレイド艦隊はようやく自分達はハイウェルの手駒にしかすぎなかったと言う事に気が付いた。
ここに停戦が申し渡された。
意外にもあっさりしたので、マリューは気が抜けてしまった。
だが、それもこれもマリューの声がなかったら、おそらく続けていただろう。
あとはフエンの仕事だ。
マリューたちは見守る事にした。
イルミナ対セクエンス・リヴェルの戦闘は意外な事にほぼ互角だった。
セクエンス・リヴェルに攻撃を次々命中させていくイルミナ。
何故か光波防御帯を発生させていないセクエンス・リヴェル。
「発生させていない」のではない「発生できない」のだ。
突然光波防御帯のシステムがダウンし、使えなくなったのだ。
原因はロイドだった。
しかし、この状況でロイドを機体から外すと、機体のシステムの9割が使えなくなる。
それほどセクエンス・リヴェルと言うMSのシステムはロイドが鍵を握っていた。
光波防御帯が使えないのではセクエンス・リヴェルの性能は下がる。
イルミナのほうが小さく、小回りが利くのでセクエンス・リヴェルを奇襲する事もできる。
そしてここにきてハイウェルの集中力が切れ始めた。
「くそ・・・・・・・・・なんでこんな奴に・・・・・・!! この俺が・・・・・・・・・・・・!!」
「はあああああ!!」
メガ・ビーム・サーベルがセクエンス・リヴェルの左腕を切り落とした。
更に背中のドラグーンマイザーのポッドを切り落とす。
これでもうドラグーン・マイザーは使用できない。
無敵と思われたセクエンス・リヴェル。
だが実際はその強さは虚像。
全くの作り物。
ロイドを捕らえ、ロイドがいなければ何も出来ない。
「そうだ・・・・・・・・フエン。それでいい・・・・・・」
ロイドは一人つぶやいた。
システムの中枢を担う彼が気持ちを静めれば、システムはやがて止まる。
そして、自身の生命もやがて消える。
セクエンス・リヴェルのシステムの9割はロイドが鍵を握っていると先ほど述べた。
そのシステムを稼動させるだけの精神力は計り知れない。
そのためロイドにはもう、生きる気力が残されていなかった。
こうなったのも、全ては自分が元凶だ。
平和を望むあまり、この男と手を組んで、ネオ・ジェレイドを設立しむやみやたらに戦火を広げた。
その果ての結果だ。
罪を償うには丁度良い機会だ。
さあ、全てを終わりにしよう。
ロイドは覚悟を決めていた。
そんな外ではイルミナが押し始めていた。
セクエンス・リヴェルも応戦するが、ドラグーン・マイザーや光波防御帯が使用できない今、フエンにも十分勝機がある。
(フエン、全てを終わらせろ)
そんなロイドの声が聞こえ、全てを終わらせるための一撃を放つためにイルミナが走る。
光波防御帯も何もないセクエンス・リヴェルのコクピットで震えるハイウェル。
そして、ビーム刃が機体を貫いた。
「がぁっ!!」
そんな声を上げてハイウェルの体が分かれる。
しかし息はまだある。
ハイウェルの手が自爆スイッチに伸びる。
その様子をフエンは知らない。
思いっきりスイッチを押した。
セクエンス・リヴェルが爆発した。
核の動力を持つため、その爆発力は核爆弾と同等の威力を持つ。
イルミナも核の爆発に巻き込まれ、ロイドは焼死した。
ハイウェルも核の光に抱かれて、この世界ではないところへと旅立った。
その爆発は全ての艦から見て取れた。
サユが立ち上がり、リエンが驚愕した。
皆絶望的な気持ちだった。
ひとまずここに戦争は終結した。
多大な傷跡を残して・・・・・・。
数ヵ月後。
L4コロニー、アーモリー・ワン。
ZGMF−X24Sカオス、ZGMF−X88Sガイア、ZGMF−X31Sアビスが強奪された。
強奪犯の素性は明らかになっていない。
その場にいたオーブ連合首長国代表、カガリ・ユラ・アスハは護衛であるアレックス・ディノと共にアーモリー・ワンを訪れていた。
そこで彼女達はプラント最高評議会議長、ギルバート・デュランダルとの会談を予定していたのだが。
爆発が起こった。
アレックスはカガリを庇うように身を盾にした。
そして後方に横たわる緑色のMSを見つけた。
ZGMF−X1000、ザクウォーリアに乗り込むアレックスとカガリだが、そこへ強奪されたガイアが迫る。
ガイアのビームサーベルがザクウォーリアのビームアックスと交わるが、敵は三機。
後方よりカオスが迫り、ビームサーベルでザクウォーリアの右腕をなぎ払った。
トドメとばかりにサーベルを振り上げるカオス。
しかし。
「くぁ!!」
突然の衝撃がカオスを襲う。
その足元を何かが駆け抜けた。
それは青と白の戦闘機。
その後方には見慣れないパーツが飛行している。
戦闘機が変形をはじめ、パーツと合体していく。
一つは下半身に、一つは上半身となり戦闘機を包んだ。
最後のパーツが放たれ、背中に装着された。
暗いグレーの機体が見る見るうちに紅く染まっていく。
そして背中の対艦刀を二本とも抜き放ち、カオスを遠ざける。
それを連結させ、構えた。
「どうしてこんな事!!」
その機体―ZGMF−X56S/β、ソードインパルスのパイロットシン・アスカは叫んだ。
「また戦争がしたいのか! アンタ達は!!」
ソードインパルスが走った。
アーモリー・ワンでの強奪事件が勃発した時、地球。
日本の東京でサユは一人洗濯物をしていた。
今日も晴れていて実に洗濯物がよく乾く。
パタパタと洗濯物をはたく。
玄関のインターホンが鳴った。
すぐに玄関に向う。
扉を開け、サユは驚いた。
「ただいま、姉さん」
「機動戦士ガンダムSEED DOUBLE FACE FINAL 終」
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