第二十七章 決戦
L2コロニー、ディザイアでは今、戦争を終結すべく全ての戦力を集めていた。
それはハイウェルが指示したもので、あまりにも急な事だった。
急ではあったが戦力は終結し、MSが戦艦に積まれていく。
もちろんシセリア達のMSもワイバーンに搭載された。
ハイウェルが乗機のセクエンスも回収作業を終え、別の艦に搭載された。
上半身はセクエンスのままだが、下半身が全くの別物。
NJ−MSX1033−EX、セクエンス・リヴェル。
下半身は四足形の脚部となっていて、異形の神を思わせる。
半円型の下半身からXの字のように脚部が出ている。
その半円型の下半身はロイドのディフェニスから採取したM.O.Sの制御モジュール。
その中枢部には、捕らえられたロイドがいた。
十字架に貼り付けにされ、体中にコードが巻かれている。
これだけの機体をM.O.Sで制御するには一人では無理だ。
もう一人、パイロットの他にもう一人の人間が必要だ。
その任を、ロイドに押し付けた。
しかしこのシステム、もはやM.O.Sと呼ぶには程遠い。
別システムだ。
セクエンスが搭載されると、ハイウェルが叫んだ。
「全軍発進! 目標・・・・地球軍、月面基地!」
月へ向けて、ネオ・ジェレイドの大軍が侵攻を始めた。
月面ノースブレイド基地では、そんな動きをいち早く察知していた。
スティング達「ファントム・ペイン」には新型機が受領された。
スティングにはGAT−X401ディアブロ。
ステラにはMMS-X021.3ペルセイス。
アウルにはGAT−X405グランスが与えられた。
どれも最新鋭機で、その強さは折り紙つきだ。
そんなファントム・ペインの戦艦、ガーティ・ルーは今日が就任式を迎えたばかりの新鋭艦。
その艦長はイアン・リー中佐。
指揮官は出生など全て不詳のネオ・ロアノーク。
そんなネオに初めは皆、不信感を抱いていた。
しかし、彼のさばさばとした性格が功を奏したのか、暫くして皆はネオを慕い始めた。
「よーし、今から大きな戦いが始める! 皆、気を引き締めるように!」
ネオが士気を高めるように言う。
その横でイアンは燻し気にネオを見た。
全てのシステムチェックが終わり、ガーティ・ルーは発進した。
同時に他の戦艦もノースブレイド基地を出た。
その様子はもちろんファイナリィでも捉えていた。
第二戦闘配備が発令された。
「予測会敵地点の座標を入力! その座標につき次第MS隊は発進!」
リエンが指示を出し終え、マリューを廊下に呼んだ。
「何ですか、リエン艦長」
「頼みがある」
率直に言われ、マリューはリエンの頼みと言うやつを聞いた。
それを聞いたマリューはリエンに詰め寄った。
「正気ですか!? そんな事・・・・・・」
「ああ。こういうときに冗談は、言わないさ」
ファイナリィが動き出した。
会敵予測地点につくまで、MSの点検は念入りに行われた。
この戦闘は今後の未来を左右するもの。
戦場で動けなくなったら、死んでも死にきれない。
誰もが、気を引き締めていた。
それから一時間後。
未来を左右する戦闘は開始された。
ガーティ・ルーからディアブロ、ペルセイス、グランスが出撃する。
他の艦からダガーL、105ダガーが出撃した。
ネオ・ジェレイドの艦隊からはレイスについ先日ロールアウトを迎えた新型量産機、ソウルが初お披露目となった。
基本武装はビームライフルにビームサーベル、シールドと言ったシンプルなもの。
しかしその性能は高い。
次々と連合の機体を撃墜していく。
しかし、そんなソウルの前にスティングのディアブロが立ちふさがった。
ビームクローを展開させ、敵機を切り裂いていく。
遠くの敵に狙いを定め、内蔵型580ミリ複列位相エネルギー砲『ニーベルン』で葬る。
「アウル、調子はどうだ!?」
アウルのグランスの両肩に搭載されている150ミリレールガン「ブルード」が吼える。
その攻撃を運よく避けたレイスがグランスに接近する。
グランスの腰に装備されていたビームランス「ヴァレスティ」がレイスを貫いた。
そしてそのまま振り回し、敵をなぎ倒す。
アウルの好戦的な性格が、グランスと絶妙に合っているのだ。
と、ステラのペルセイスが一機、突出している。
注意を促すスティング。
ステラにはその注意は届いていない。
敵の格好の的になるペルセイス。
レイス、ソウルのビームライフルが火を噴いた。
その時、ペルセイスの右半身が光り輝いた。
ペルセイスに試験的に搭載された試作型光波装甲「エウリュノメ」が発動したのだ。
ビームを無効にし、機体へのダメージを抑えた。
エウリュノメを調整して、光り輝くランスを生成した。
ブリューナクと呼ばれるこの武器は高エネルギー光波槍と呼ばれている。
それが敵を捕らえ、瞬時に爆発させた。
左腕のビームライフルも放ち、ペルセイスは戦場を走った。
この時点で戦況は地球軍が有利だった。
その戦況をハイウェルはセクエンス・リヴェル運用艦ノーティラスから見届けていた。
あまり上手くないこの状況。
第二軍を出撃させる事を命じた。
第二軍にはシセリア達エースパイロットがいる。
彼女達の働きで戦況は大きく変わる。
ハイウェルはそう信じていた。
更に今回はハイウェルの側近、ヴェイグリートもMSで出撃する。
そのMSは
フリーダムのフレームを極秘入手し、ネオ・ジェレイドが開発した新鋭機。
スプリガンが戦場に現れ、ハイウェルに変わって指揮を執る。
すると、たちまち戦況は五分と五分になった。
彼とて、ハイウェルの傍にいただけではない。
ハイウェルの指揮の様子を、間近で学んでいたのだ。
今の彼はハイウェルに負けるとも劣らない指揮官になっているのだ。
戦況が不利になり、MSを次々投入する地球軍。
戦闘は混乱を極めていた。
混乱する戦闘の中、次々と破壊されていくMS。
そして散っていく命。
この戦いの末に待つものは本当に平和なのだろうか。
もしかしたら、平和なんてものは元々存在しないのではないだろうか。
平和を勝ち取ろうと、幾多の時を費やし、たどり着いた結果がこれだ。
平和とは幻想に過ぎないのだろうか。
そんなことはない。
誰かが、そんな事を叫んだような錯覚に襲われる。
「づああああああああああああ!!!」
ゼロのフォースが、エンスのカルマが地球軍のMSをテンポよく破壊していく。
「あいつはどこだ・・・・・・! イルミナは!!」
敵軍の中にイルミナを探す。
その目的の機体の姿が無い事を確かめると、手当たり次第にMSを破壊していく。
ツインビームライフルからビームが放たれ、二つの風穴が敵機の胴に開いた。
『ゼロ、落ち着きなさい!』
シセリアからの通信。
一旦手を止めるゼロ。
ちなみに極秘回線なのでハイウェルに知られる事も無い。
『私達の目的を実行するまで、派手に目立っては駄目よ』
「ちぃっ! 分かってるけど、殺らなきゃ、殺られるだろうが!」
『それを抑えてこそ、真のエースさ』
グリーテスが言う。
そういう彼のアブソリュートが敵を撃つ。
上手く両腕だけを破壊して、戦闘不能にしていく。
リエーナも頑張っている。
ドレッドノートはNJCを搭載しているので、エネルギー切れの心配は無い。
漆黒の宇宙に、大きな花火が浮かび上がってから既に二時間半。
真の主役が遅れてやってきた。
ファイナリィ小隊は今の状況を定め、戦闘中止を最優先事項としてMS隊を発進させた。
その中の一機、スパイラルにはリエンが乗っていた。
もちろんクルーは知らない。
知っているのはマリューだけだ。
「こんな戦争・・・・・・・・早く止めなくちゃ!」
イルミナが戦場に向う。
その横にはキラのフリーダム、アスランのイージスセカンドがついている。
『フエン、僕達がついていることを忘れないで!』
「キラさん・・・・・・・」
『俺達だって、気持ちは一緒だ・・・・・・。やれるな!』
「アスランさん・・・・・・・・。はい!」
ファイナリィからでたMSは宙域のMSの駆逐に当たった。
当然だが、地球軍側は驚いていた。
地球軍に属する艦が自分達を撃っているのだから。
ゼロは獲物をようやく見つけた。
すぐに全速力でイルミナに襲い掛かる。
イルミナも応戦し、ビームサーベルを抜く。
「今日こそ・・・・・・・・今日こそ、キサマを落としてやる! 死ねぇぇぇぇぇぇぇっ!!」
「・・・・・! その声は・・・・・・」
偶然だろう。
その偶然で入ってきた敵機のパイロットの声にフエンは驚いた。
そのMSのパイロットはゼロだった。
オーブで出会った、あの。
ということは。
フエンの脳裏に嫌な考えが浮かんだ。
「どうして、ゼロ! 君が!?」
『ん? フエンか・・・・・・・・。こんな所で会うとはな!!』
フォースが襲い掛かる。
手加減をしないフォースの猛攻にフエンはあせりを感じていた。
「止めてくれ! どうして・・・・・・・・!」
『甘いんだよ!!』
先ほどのシセリアの忠告もなんのその。
ゼロは自分の持てる技術全てを出している。
フエンもゼロの気持ちを買ったのか、手加減をしなくなった。
二機のMSの激しい戦闘。
そこへ。
一陣の光が割って入った。
アラートが鳴り、モニターの端に「ANKNOWN」と出る。
「新型・・・・・? 地球軍の!?」
それはディアブロ、スティング・オークレーだった。
ディアブロのニーベルンが再び放たれるが、フォースはいとも簡単に避けた。
だが、それは囮。
ディアブロの後方からもう一機、グランスが出現した。
「終わりだ!!」
アウルが叫び、グランスのヴァレスティが握られた。
そのグランスにイルミナはビームライフルを放った。
アウルの体は衝撃で揺さぶられた。
『どういうことだ、イルミナのパイロット!』
「駄目だ、殺しちゃ!」
フエンと言う事に気が付かないのか、ディアブロがビームクローでイルミナのシールドを斬った。
「この戦争はもう何の意味も無い! だから・・・・・・・・」
彼の機体のカメラアイが光った。
それはM.O.Sがフエンの気持ちをトレースしたからだ。
「もう・・・・・・やめろおおおおおおおおっ!!!」
ライフルを手放し、サーベルでディアブロの左腕を切る。
それだけで十分だった。
イルミナはスラスターを噴かしてどこかへ飛んでいった。
残されたゼロは呆然としていた。
敵であるはずのイルミナに助けられたことに。
何よりそのイルミナのパイロットがフエンだったことに。
戦闘中なのでテンションが上がっていてさほど気にしなかったが、改めて考えてみると、彼は知り合いを殺そうとした。
今も、今までも。
そしてこれからも。
イルミナがこの戦場にいる限り。
この戦争が終わらない限り。
彼はイルミナを追うだろう。
ゼロは密閉されたコクピットの中でただただひたすらに考えていた。
戦況を見ていたハイウェル。
何を思ったのかこんな指示を出した。
「全軍撤退させろ」
「は・・・・? しかし」
「命令だ。それと、全軍撤退し次第、セクエンス・リヴェルで俺が出る」
「りょ・・・・・了解しました!」
ネオ・ジェレイドのパイロット全員に撤退命令が出された。
誰もが戸惑っていた。
もちろんエースであるシセリア達もだ。
命令なので撤退を余儀なくされたが。
撤退していくネオ・ジェレイドのMSを見て、地球軍はここぞとばかりに艦隊殲滅に乗り出した。
もちろん、その先にあることを考えずに。
フエン達も地球軍のMSを追う。
「待ってください! 罠です、これは!」
「駄目だ・・・・・! あいつら聞こうとしない!」
「そんな・・・・・・。それじゃあ、彼らは?」
と、ネオ・ジェレイドの艦から一機のMSが出現した。
上半身はMS、セクエンスだ。
しかし下半身は半円状の下半身になっていて、Xの字を描くように四つの脚部が飛び出している。
その下半身だけで通常のMSほどの大きさがある。
セクエンス・リヴェルが不気味ともいえる巨体で地球軍艦隊のMSに迫る。
「MS、接近!」
「迎撃! MS隊、何をしている!!」
ダガー隊がビームライフルで迎撃するが、セクエンス・リヴェルの前方に謎のフィールドが出現し、ビームを無効にした。
光波防御帯、アルテミスの傘の応用兵器であるこのバリア。
セクエンス・リヴェルの右腕のビームキャノンが放たれる。
それは一撃で艦を沈めた。
脅威を感じたダガー隊は撤退した。
そんなダガー隊の周りを何かが囲んだ。
それは実に30基ものドラグーン・マイザー。
逃げる場所を失ったダガー隊は瞬殺された。
そしてセクエンス・リヴェル中央部のハッチが開いて、砲門がせり出した。
チャージを開始し、狙いを定める。
その砲門を見たマリューは叫んだ。
「いけない! 全機、散開して!」
言われてすぐに散開するが、遅かった。
「吹っ飛べ、雑魚どもが!!!」
破滅の光波が放たれた。
艦隊を巻き込んで突き進む光。
それは陽電子破城砲、エンド。
ローエングリンと同じ威力を持ちながらMS用に小型化された武装。
その威力と熱量から一門が限界ではあるが。
エンドの光が止み、残っている艦隊は少ない。
が、真の恐ろしさはこれからだった。
「見せてやる。セクエンス・リヴェルの真の力を!」
セクエンス・リヴェルから謎の力が始動した。
それを浴びたダガー隊の動きが止まった。
戦場が静まり返る。
「どうしたんだ・・・・・・一体?」
リエンが疑問を抱く。
刹那。
ダガー隊が同士討ちを始めた。
仲間同士で殺し合いを始め、散っていく機体。
セクエンス・リヴェルの本当の力。
ディフェニスからM.O.Sのデータを採取し、それを改良したシステム。
コンフューズ・システムと呼ばれるそのシステムはパイロットの脳に直接干渉して理性を吹き飛ばす。
それによりパイロットを狂戦士と化させる悪魔のシステム。
それはこの宙域一帯に広がっていた。
しかしファイナリィ小隊のパイロット、ファイナリィのクルーは何とも無いようだ。
それはそうだ。
このシステムの鍵はロイドなのだから。
彼はファイナリィ小隊と戦いたくないと思っている。
仲間を傷つけたくない一心が、フエン達をシステムから守ったのだ。
「ハハハハハハハハ! どうだ、ゴミが! この俺が! 世界の新しい覇者となる!!」
ハイウェルの高笑いが響く。
「そんなこと、させない!」
イルミナやヴァイオレントがセクエンス・リヴェルの前に立ちふさがった。
「ハッ! 愚かな・・・・・・・!」
ドラグーン・マイザーが放たれ、イルミナ達を四方八方から襲う。
何とか避けるイルミナ達。
が、セクエンス・リヴェルはNJCを搭載していて、エネルギー切れの問題が無い。
「全期一時帰艦して!」
マリューからの指令。
悔しいが、今の状態では絶対に勝てない。
セクエンス・リヴェルの巨体に背を向け、撤退するフエン達。
その目にはうっすらと涙が浮かんでいた。
帰艦したフエン達のテンションは低かった。
ブリッジクルーも集まってきた。
「あんなのに・・・・・勝てんのかよ・・・・・・・」
ラグナの一言が始まりだった。
誰もが思っているその思い。
人を操り、同士討ちさせ、どこから飛んでくるか判らないビーム。
終いには陽電子破城砲に光波防御帯。
もうあれはMSではない。
悪魔。
「でも、勝たなきゃ・・・・・・・・未来は無いよ」
キラが言う。
その声はどこか優しく、落ち着いていた。
「でも、どうやって!? あんな化け物に、勝てんのかよ! 俺たちは!」
ラグナの反論。
それから意見は真っ二つに分かれた
「確かに・・・・・・今回ばかりはどうしようもないかもな」
ヴァイスが、
「でも・・・・・・・あれをあのままにしていて良いの!?」
リィルが。
出てくる意見は皆違う。
「フエンはどう思う?」
「え?」
「お前の意見も聞きたい」
「俺は・・・・・・・・」
フエンは黙った。
そのまま暫くの時間が過ぎた。
「あのMSは強いと思います。勝てるかどうかも分かりません。でも、勝てないと言って逃げたくないです」
フエンの意見に皆が黙った。
「ま、お前らしいわ」
リエンが言う。
その顔に笑みが浮かんでいた。
集会を解散し、それぞれのするべきことをしていた。
MSの整備をする者。
己の集中力を高める者。
戦いの先に何があるのか考える者。
全ての答えはこの戦いにある。
(第二十七章 終)
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