第二十五章 脱出戦
フエンたちが監禁され、既に三日が過ぎていた。
用意された部屋で無駄に時間を過ごしていたが、ついに我慢の限界となった。
リエンはクルーを集めてこんな提案をした。
ここを抜ける。
つまり脱走だ。
それにはクルーも賛成した。
しかし、どうやって?
その方法が難しすぎる。
まずこの部屋の入り口には兵士が二人、銃を持って見張っている。
仮に出れたとしてもこの部屋から格納庫までは距離がある。
行くまでに捕まってしまう。
「で、どうするんだよ」
リエンらしく、そこから先は考えていなかった。
全員が固まる。
提案したものの、方法が無いのでは。
「やっぱり、正面突破でもする?」
エメリアが言う。
彼女にしては珍しく力押しの提案だ。
それしか方法が無いのなら、仕方が無いのだが。
そんな話し合いをしていると、誰かがドアをノックした。
ドアに一番近いフエンが向かうことに。
ドアの向こうにはスティングとステラがいた。
「あ。えと・・・スティング?」
「ああ。ほら、メシだ」
「ありがとう・・・。でも、どうして?」
「ネオに・・・・言われたから」
「・・・・・・・・・・ネオ?」
聞きなれない人の名を聞いてフエンの眉間にしわが生じた。
で、どうやら言ってはいけない事だったらしくスティングが肘でステラをつつく。
別段何をするでもなく、ステラはボーっと立っていた。
「それじゃ。俺達は仕事があるから」
「あ、ちょっと」
「あん?」
ファイナリィは?
そう聞こうと思ったが声が出なくなった。
今ここで知られるわけには行かない。
いや、いい、と言って。
二人は廊下の向こうに消えた。
食事を運ぶフエン。
それを食べるクルーは活気がなかった。
まさか友軍に監禁されるとは思ってなかったし。
こんな事を誰が想像しただろう。
食事を終え、トレーなどを全て外に出す。
さあ、どうするか。
これからが大変だ。
入念に打ち合わせをする。
ここで失敗したら反逆罪とかになって殺されてしまう。
失敗するわけにはいかない。
一度きりのチャンスを、生かせるかどうか。
それは彼らの腕にかかっていた。
既に時計は夜中の2時をさしていた。
やはりこの場合、エメリアの言った正面突破しかなさそうだ。
そこで邪魔になるのはドアの前に立っている兵士二名。
こいつらをどかす必要がある。
まずはロイドが向う。
内側からドアをノックして。
兵士が銃を構えて中に入ってくる。
「何だ?」
「・・・・・・・・悪いな」
チョップを叩き込み、兵士を気絶させる。
それを見たもう一人の兵士が銃を構える。
銃を放つ前にロイドがもう一回チョップで眠らせた。
二人の銃を取り上げ、拳銃も取る。
「悪いな。チョップには多少の自信があるんだ」
そういって銃を渡す。
これから先は分かれての行動になる。
最終的に落ち合う場所はファイナリィ。
それまで誰も欠けてはならない。
兵士を縛り上げて、人がこない事を確認して。
全員が別方向へ走った。
ちなみに大まかなペアはリエンとミリア、マリュー。
キラとアスラン。
リィルとヴァイス、フエンとサユ。
ロイドとエメリア。
デュライドとラグナ、アスト。
すぐに他の兵士達にばれてノースブレイド基地は大騒ぎとなった。
「向こうに行ったぞ!!」
「そっちに逃げた!!」
ものすごい騒ぎ。
それは当然ジブリールの耳にも入っていた。
なんとしても捕らえるように、と命令を下した。
今、ここで野望を費えさせるわけにはいかない。
ジブリールは苛立った。
キラとアスランは廊下の角で兵士の攻撃をやり過ごしていた。
二人ともコーディネイターなので兵士達が勝てるとは思えない。
しかし向こうは数に物を言わしている。
銃弾が止むことなく走り、二人は抜け出るタイミングをつかめないでいた。
が、少しだけ銃弾が緩んでいる。
キラ達の並外れた動体視力だからこそ分かりえる事。
すぐに応戦して銃を撃つ。
あくまで威嚇なので命中はさせない。
兵士達が当たるまいと廊下の端によける。
それを二人は待っていた。
息を合わせ、同時に出る。
走っている間も銃を撃ち、反撃する余地を与えない。
懐にもぐりこんで兵士達を気絶させていく。
弾をできるだけ奪い、これからに備える。
とりあえずこれで当面の弾は確保できた。
二人はファイナリィへと急いだ。
そんな中、ロイドはエメリアをかばうように銃を撃っていた。
エメリアは左腕を押さえている。
逃げる途中で被弾したのだ。
何とか銃を撃とうとエメリアは構えるが、痛さで狙いが付けられない。
ロイドががんばっている。
撃っては角に引っ込み、撃っては角に引っ込み。
それを繰り返していた。
「逃げるぞ!」
エメリアの手を引くロイド。
そのまま二人は走り、兵士をまいた。
何とか兵士がいないところまで逃げ、 一息つく。
格納庫までだいぶ近づいている。
もう少しだ。
そんな事を言おうとした時、ロイドは人の気配を察した。
「危ないっ!!」
銃声が響いた。
フエンは参っていた。
銃を使ったことがなく、サユも守らなくてはならないからだ。
とりあえず今は逃げているが、いざとなれば銃を使わなければならない。
だが、もしサユが怪我をしたら。
いや、そんな事を考えている場合ではない。
今は走らなくてはならない。
生きてファイナリィにたどり着かなければ。
二人は必死で走った。
そして、兵士と会った。
向こうが先に撃ち、フエンたちは一目散に逃げた。
「反撃して!」
サユが叫んだ。
フエンはサユの言った事を少し理解できなかった。
だが、反射的に銃を抜いていた自分がいた。
そして引き金を引いた。
反動で手がしびれたが、気にしている暇などない。
向こうは驚いているらしく攻撃の手が緩んだ。
ファイナリィへ向う途中、二人はデュライド達と合流した。
もちろん、兵士達付きで。
「こうなったら・・・・・・フエン、行くぞ!」
「え・・・・はい!!」
やや自信なさ気だったが走るフエン。
こういう場合、奇策が功を奏する場合がある。
走って兵士達に脚をかけて転倒させていく。
そんなフエンを捕まえようと手を伸ばすが、デュライドの蹴りが見事に命中。
この二人に勝てないと分かったら、サユたちを襲う兵士達。
だがラグナとアストがそこは頑張り、兵士を気絶させていく。
「フエン、デュライド、早く!」
アストが叫び、五人はその場を後にした。
フエン達は無事、ファイナリィにたどり着いた。
少し遅れて、ロイドとエメリアが。
最後にリエン達がやってきた。
艦内の兵達を全て追い出し、ブリッジに入る。
その際に第一戦闘配備を発令した。
「ファイナリィ起動!」
ファイナリィのブースターが唸り、少しずつ前に進む。
「ギガノフリート、起動! 照準、前方シャッター!!」
主砲「ギガノフリート」がせり出し、エネルギーを溜める。
「てーーーっ!!」
ビームが放たれ、シャッターが吹き飛んだ。
ファイナリィがノースブレイド基地を飛び出し、宇宙に姿を現した。
そのころ、MS格納庫にいたフエンは変化したイルミナの姿に驚いた。
以前よりも洗練され、背中には宇宙での機動性を上げるための大型のスラスターがついている。
そのためビームサーベルは腰に装着されている。
OS等は以前のままなのでフエンにとっては慣れ親しんだ機体となった。
ファイナリィが出てすぐにノースブレイド基地からMSが出撃してきた。
105ダガーに新たな量産機ダガーLがファイナリィを追う。
ファイナリィからもイルミナ達が発進した。
「やれるな、フエン!」
「はい!!」
新たな力を手に入れたイルミナの背部大型ブースターが火を噴いて急激な加速を生み出した。
もちろんフエンにも加速による衝撃が生じているが、弱音を吐いている時ではない。
戦闘が開始され、相手のMSが破壊されていく。
そんな中、105ダガーの中でも3機だけは他のMSとは違った。
操縦の腕がまるで他のパイロットとは違う。
その相手に皆が驚愕した。
ナチュラルのものではない。
では何なのか。
コーディネイター、もしくはブーステッドマン。
そのどちらかだ。
「こいつら・・・・・・上手い!!」
ロイドが言う。
相手の105ダガーはエールストライカーを装備している。
機動性能が高いが、ディフェニスの相手ではないと思っていたが。
丸きりの互角と言う事態にロイドは苛立っていた。
相手のMSのパイロット、スティング・オークレーは相手のMSを冷静に分析していた。
「あのMSは近接先頭に特化していると聞いたが・・・・・仕掛けてみる!!」
ビームサーベルが交わる。
「アウル! そっちはどうだ!!」
ランチャーストライカー装備の105ダガーのパイロット、アウル・ニーダはエメリアのストライクブルーと戦闘中だった。
「うるせぇ! 今話しかけんな!」
ストライクと正式量産機である105ダガーの戦い。
エメリアはその類まれなる腕でアウルの105ダガーを翻弄していく。
ビームライフルと超高インパルス砲「アグニ」のビームが正面からぶつかる。
だが、アグニは反動がありすぎるため105ダガーの反応が遅れた。
そこへストライクブルーの対艦刀が105ダガーの脚部を薙ぐ。
「ちぃっ! このパイロット・・・・強いじゃねぇか! ちくしょう、ネオの奴! 何がすぐ終わるだよ!」
「戦闘中にぺらぺらと・・・・・話している余裕があるのかしら!?」
ストライクブルーが怒涛の攻撃を繰り出す。
そこへ、ソードストライカーを装備した105ダガーが援護に来た。
「・・・・・・・・やらせない!」
ステラ・ルーシェのその目は少女のあどけなさが無い。
完全に相手を殺す眼だ。
「エメリアさん、すいません!」
アストのディグニティがどうやらステラの105ダガーと戦っていたのだが、逃げられたと言う事だ。
その後方からラグナのジャスティス・ブルーナイトが駆けつける。
「おい、無茶をするなよ。あいつらは強いんだから」
「分かっているさ、ラグナ。・・・・・・・さっき少しは油断したけど」
二機が105ダガーに迫る。
二人とも腕の立つパイロットであるが、それだけステラが強いと言う事だ。
そんな三機をMS隊が押さえているが、ファイナリィに他のMSが迫る。
ヴェルド達が亡くなった今、戦力不足は否めない。
ファイナリィの性能は高いため暫くは大丈夫そうだ。
だがビームが掠ればその分だけ廃熱に時間がかかる。
さらにギガノフリートを放つが、容易に避けられる。
何とかこの宙域を離脱しなければならない。
それにはこの包囲網を脱しなければ。
「!? レーダーに新たな機影!」
「どこからだ!」
「待ってください・・・・・・。ち・・・・地球からです!」
見ると地球から一隻の戦艦が昇ってくる。
それはワイバーンだ。
そのワイバーンからもMSが発進してくる。
あの五機に、新たな一機。
ネオ・ジェレイドを交えての脱出戦と化した。
当然、地球軍はファイナリィ小隊とネオ・ジェレイドのどちらを狙えばいいか分からず動きが止まった。
それはスティング達も一緒だ。
「おい、スティング! どっちを狙えばいいんだよ!」
「俺が知るかよ!? くそ・・・・・・上層部は何をしてやがる!」
こうしている間にもネオ・ジェレイドの五機のMSにダガー隊がやられていく。
その最中、一機のMSがディフェニスに近づいた。
「なんだ、この機体・・・・・。見た事がない」
「ふふ・・・・・久しぶりだなロイド」
その声にロイドははっとなった。
目の前にいるMSに乗っているのは、ハイウェル。
自分が一番信じていたのだが、裏切られた。
目の前の男に。
ロイドは怒りに任せて突進した。
ダブルフェイスをグランエッジ・モードが宙を斬る。
ハイウェルのMS、セクエンスが機体各部から「ドラグーン・マイザー」を放った。
あらゆる所から襲い掛かるビームの嵐にロイドの額に汗がにじむ。
ドラグーン・マイザーは機体による遠隔操作のため、動きがやや単調だ。
ロイドが目の前の機体をにらむ。
ダブルフェイスを分割し、連撃を浴びせるがセクエンスはそれを全て防いでいる。
あせるロイドとは裏ならにハイウェルはうっすらと笑みを浮かべている。
不意にセクエンスのフィウス・ビームサーベルがダブルフェイスを弾いた。
そしてディフェニスの左腕を薙ぎ、続けて右腕を薙いだ。
更に執拗に攻撃を浴びせるセクエンス。
そのためディフェニスはボロボロになった。
「ロイド!?」
思わずリエンが叫んだ。
四肢をもがれたディフェニスにセクエンスが迫る。
そしてオルフェウスが支えるようにディフェニスを持つ。
そのままワイバーンへディフェニスは連行された。
「ロイド機、捕獲されました!」
ヴァイスが悲痛な声で叫ぶ。
愕然となるリエン。
そのことは戦場に出ているフエンたちにも知らされた。
すぐにフエンがイルミナを走らせた。
今のイルミナの加速力ならば十分間に合う。
が、そんなイルミナの前にアブソリュート、ドレッドノート、カルマ、フォースが立ちふさがる。
いくら改修されたイルミナでも、四機相手では不利すぎる。
そんな四機に阻まれて、何もできないままフエンはワイバーンへ連れ去られるディフェニスを見ていた。
ディフェニスがワイバーンにつくと、目の前の四機のMSも帰艦していった。
地球軍のMSは既にスティング達の三機と、運よく攻撃を免れた数機のみ。
もはや双方に戦う力は残っていない。
ワイバーンが動き始めた。
何もできなかった。
フエンはそんな自分を責めていた。
ディフェニスを格納したワイバーン。
ロイドはすぐに気絶させられ、ハイウェルはセクエンスを見た。
「これで揃った・・・。全てが! ふふ・・・・・ははははは・・・・・。これで世界は俺のものになる・・・・・・!」
セクエンスは機体の各所にハードポイントが設けられている。
これからセクエンスはディザイアで改修を受ける。
これによりセクエンスは完全となる。
今までのセクエンスは半分の完成度。
改修を受けたセクエンスならば、この世界は確実にハイウェルのものとなる。
悪魔の鼓動が、始まった。
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