第十六章 戦いの果てに
ロイド達が敵基地から戻ってきて二日が過ぎた。
敵も何の動きも見せずに二日は平和な時が流れていた。
この二日、様々な事があった。
まずはエメリアの乗機、ストライクブルーの改修。
主に腰部サイドアーマー、足、武装の変化。
ビームライフルを威力の高い物に変更。
アーマーシュナイダーの代わりに、I.W.S.Pパックに搭載されていた9.1メートル特殊合金製対艦刀を腰部に移植。
総合的な戦闘能力はこれにより高くなったといえる。
その腰部サイドアーマーは大気圏内、外を問わず常に一定の能力を発揮できる安定したスラスターを兼ねている。
もちろん今までどおりI.W.S.Pパックは装備できる。
改修された際に「ネオ・ストライクブルー」と言う名が候補に上がったが、エメリアは名を変更するつもりはないときっぱりと断った。
次にレジスタンスの戦力の強化。
ファイナリィの中にロイドの以前の乗機、エルフィアが残っていた。
高いスペックを誇る機体だけにこのまま眠らせておくにはいささか勿体無い。
かといってファイナリィのMSパイロットにはそれぞれの機体がある。
そこでレジスタンスのクレイ・シンドーに渡された。
ラユルもリースも乗りたがっていたが、高い戦闘能力を誇るクレイが適任だろうと言う事でクレイの乗機になった。
フエンはイルミナの調整をしていた。
地球では思うようにイルミナを動かす事が出来ないので、キラに教わりながらイルミナの地上適正を高めている。
他のパイロットも自機のOS書き換えに取り掛かっている。
だがそれは人それぞれスピードに個人差が出てしまう。
このままでは出撃できる機体が限られてしまう。
「ふぅ」
フエンが一息ついた。
ラダーを使って降りる。
長時間モニターを見続けていたせいか、目が疲れたようだ。
休憩とばかりに飲み物を貰い、辺りを見回す。
慌ただしく動いているファイナリィのクルーやレジスタンスのメンバー。
これも何時襲撃されても良いようにするための基本的な事だ。
しかし、レジスタンスは良くここまで持ちこたえたものだ。
北欧紛争の時もそうだが、レジスタンスの戦力は敵に比べて明らかに少ない。
凄いと、フエンは正直に思った。
「あ、フエン君」
「ラユル・・・さん?」
ラユルがフエンに声をかける。
その後方、遅れること数秒、ロイドが歩いてきた。
ロイドの顔はどこか暗かった。
敵基地から帰ってきてからこんな調子なのだ。
ラユルは自分の機体についてぺらぺらと話し始めた。
ラユル、リースの乗機はジンハイマニューバ。
今はもう旧型の機体になりつつあるが一部のパイロットの間では今も尚使用されたいる傑作機だ。
ところどころ被弾の跡がある。
だがこれらの跡は勲章である。
今まで自分の信じる未来のために必死で戦ってきた、生きた証。
「あれ? でも北欧紛争時はカスタム系の機体じゃなかったっけ?」
「そうなのよ。カスタム系の機体ね、この間大破しちゃって・・・・・。使い物にならなくなったんだけど、ある人が私達に遣してくれてね」
ある人というのが気になる。
訊ねてみても「秘密」と言われてそれ以上知る事が出来ない。
気にはなるがそれ以上は聞かない事にする。
ラユルはしつこいのが嫌いだからだ。
それぞれの作業も早い者は終了し、遅い者は終わらずに時計は午後を指していた。
今のところ何もなく、ファイナリィブリッジではヴァイスとリィルがヘッドホンをして、索敵を行っている。
「はぁ〜あ、何もないわね」
「そうだな」
「ね、ね。ヴァイスさ、この船の中で誰か気になっている人でもいるの?」
「なっ・・・!? 何を突然!!」
思いっきり声が裏返る。
動揺するヴァイス。
リィルはにやりと笑うと、耳打ちする。
「誰にも言わないから。ね?」
「・・・・・・・・・・・・・」
耳まで赤くなるヴァイスとは対照的にリィルは面白そうに見ている。
やがて意を決したのかヴァイスが口を開いた。
「それは・・・・・」
「それは?」
「そ・・・・それはだな」
が。
突如サイレンが鳴り響いた。
慌てた二人はモニターを見る。
多くの熱源がこのベースに向かって侵攻している。
放送で敵が接近している事を知らせる。
ブリッジにリエン、マリュー、ミリアが入り、その他のブリッジ要員も所定の場所につく。
「エンジン機動! ファイナリィ、発進する! 発進と同時に各MSは発進するように伝えろ!」
リィルが放送する。
さっきの話が最後まで聞けるのはどうやらもう少し先のようである。
ファイナリィがベースから出る。
敵の数はベルゼブが三十、陸上戦艦が四と言う大部隊。
ファイナリィの三つのハッチが開く。
「フエン・ミシマ、イルミナwithゼオ・ブースター、行きます!!」
地上での機動性確保のためにゼオ・ブースターを装備したイルミナが飛び出す。
続いてストライクブルー。
今回I.W.S.Pパックは調整が間に合わず、装備していない。
デュライドのバイオレントとロイドのディフェニスが発進した。
「キラ・ヤマト、フリーダム、行きます!」
キラのフリーダムが出撃した。
レジスタンスからはジンハイマニューバーが二機とクレイの駆るエルフィアが出た。
敵はフエン達を見るなり総攻撃を仕掛けてきた。
器用に避けるフエン達。
各機散開して敵MS掃討にあたる。
フエンはデュライドと共にファイナリィの進路を確保するために中央の敵を倒していく。
中央の敵は数が多く、苦労している。
「邪魔だ!」
デュライドの気合と共にビームソード「デュランダル」が唸る。
なす術もなく散る敵機。
そんなヴァイオレントの元に敵機が束で襲い掛かる。
敵機にビームが降り注ぐ。
イルミナのビームライフルだ。
今のフエンはかなりのやる気がみなぎっている。
そのやる気をM.O.Sがトレースしたのだ。
「一気にいくぞ! フエン!」
「はい!」
見事なコンビネーションで撃破していく二機のMS。
右舷ではストライクブルーとフリーダムがファイナリィに近づけまいと奮闘している。
ストライクブルーの9.1メートル特殊合金製対艦刀が敵MSの腕を紙のように切り裂いた。
続いてビームライフルを放ち、近づこうとしていた敵機の胴体に風穴を開けた。
フリーダムは相変わらずの強さで敵を翻弄している。
敵機も攻撃をしているが、フリーダムの機動性の前に攻撃がまるであたらない。
キラの目の前のディスプレイを持ち上がり、複数の敵機をロックする。
まばゆい光が溢れ、敵機の頭部や腕、脚部のみを破壊していく。
ラケルタ・ビームサーベルを抜き放ち、敵MSの頭部目掛けて投げる。
「はあああっ!!」
ビームライフルを割り、二つの砲にする。
そしてベルゼブの群れの中心目掛けてトリガーを引く。
爆発が爆発を誘い、物凄い連鎖で敵機が爆散していく。
それをラユルはモニター越しに見ていた。
「すごい・・・」
『ラユル! 右だ!』
リースが叫ぶ。
後方に下がり何事かと思うラユル。
すぐ目の前をビームが掠っていく。
いつのまにかファイナリィのMSの戦い方に見入ってしまっていた。
気を取り直し重斬刀を構える。
ベルゼブもビームサーベルを抜き、襲い掛かる。
寸での所で避け、カウンターでベルゼブを斬る。
リースも突撃機銃でベルゼブを撃つ。
高速発射されるたまの前に見る見るうちに敵の装甲は剥がれ、爆発した。
そんな中、ロイドとクレイのコンビは陸上戦艦の相手をしていた。
護衛のために甲板にいたMSを蹴散らし、ありったけの武装を叩き込む。
これによりますは一隻の戦艦を沈めることになった。
これ以上の被害をこうむる事は出来ないと考えたのかベルゼブの群れが二機に襲い掛かる。
「任せろ!」
ディフェニスが「カタストロフ」を構える。
発射と同時に機体が僅かに後方へと反動で下がった。
光芒の中にベルゼブが消えていく。
『相変わらず凄い技術だな・・・・・・。俺も負けてらんね!』
エルフィアのビームサーベルを抜く。
一閃しベルゼブが爆発する。
二機は二隻目の戦艦を沈めにかかった。
ロストはこの現状を基地から見ていた。
基地から約一キロの地点で戦闘が行われている。
基地の外にもベルゼブの残骸が飛んできている。
司令室では悲痛な報告ばかりが入ってきている。
「第二機動軍、半数を撃破!」
「第四中軍は・・・・・・・全滅か!?」
ロストはそれらの報告に耳を傾けていた。
そしてジャックに告げた。
「ジャック、ここは任せたよ。私も出る」
「隊長・・・・・・!」
「ゼクファーナを用意しろ!」
「・・・・・・・・御武運を」
ロストはノーマルスーツに着替え、ヘルメットを手に格納庫へ向かう。
ゼクファーナの調子は良好。
OSを立ち上げる。
機動音と共にゼクファーナのモノアイに光が灯る。
ハッチが開く。
この戦いで答えが出れば良いのだが。
「ロスト・ベルファーレ、ゼクファーナ、出る!」
紫の機体が出撃した。
戦況はレジスタンス側が圧倒的に有利だった。
しかしストライクブルー、エルフィア、ジンハイマニューバー二機はエネルギー切れのため撤退した。
残っているのはイルミナ、ヴァイオレント、フリーダム、エルフィア、ディフェニスの五機。
敵戦力も残り少ない。
このまま行けば・・・・・・。
『皆、気を付けて! 新たな敵機を確認したわ!』
リィルから通信が入る。
確かにレーダーには新たな敵機を知らせる光点が映っている。
その機体の工学映像がコクピット内に映された。
「あの機体は・・・・! ロスト・・・・!」
ゼクファーナは対艦刀「ダブルフェイス」を抜き、五機に襲い掛かった。
凄まじいまでの剣舞の前に五機は追い詰められていく。
しかもベルゼブはまだ数機残っているし、陸上戦艦も三隻残っている。
「皆、ここは俺に任せてくれ」
「ロイドさん?」
「あいつと・・・・・・・けりをつける!」
ディフェニスが走る。
残された四機はベルゼブと戦艦に向かった。
ディフェニスは腰のビームサーベルを抜いた。
ゼクファーナもダブルフェイスで防ぐ。
二本の対艦刀の前にディフェニスは押され気味だ。
鍔迫り合いが続く。
「聞こえるか、ロスト!」
「ロイド・・・・・!」
戦闘モードのロストはロイドからの通信に僅かに耳を傾けた。
「今からでも遅くない! 降伏を」
「するかよ! この戦いで、俺は答えを見つけるんだ!」
ゼクファーナのビームライフルが走る。
その弾道を見切ると、ロイドは巧みに操作してスラスターで攻撃を回避していく。
ロストの言った答え。
そう言えばロストは自分が総帥の時からそんな事を言っていたという事を思い出した。
いつも答えが見つからないと言っていた。
その答えと言うものがなんなのかはロストにしか分からない。
この戦いで答えを見つけると、彼は言った。
この戦いは彼にとってそんなにも大事な戦いなのか。
ロイドには分からなかった。
「答えなんて・・・・・・・戦争の中で見つけるな!!」
カタストロフを構える。
しかし、ゼクファーナのビームライフルにより発射までの少しの時間を見切られ、破壊された。
カタストロフは内部構造が非常に複雑でネオ・ジェレイドの限られた整備士にしか直せない。
破壊されればその整備しに頼むしか再現方法はない。
つまり、今の新地球連合軍の技術・資材では破壊されたが最後、復元が出来ない。
もう一方のカタストロフを発射するも、見切られ破壊された。
両方のカタストロフが破壊され、残された武装はビームライフルとサーベルのみ。
自然と額に脂汗が滲む。
それでもロイドは諦めなかった。
ロストはきっと自分の話を聞いてくれる。
そう信じていた。
だが現実は甘くはない。
ロストはロイドの話を聞かずに、ただ目の前の敵を倒す事にのみ集中している。
「これで、落ちろ!!」
ビームが放たれる。
避け損ねたディフェニスの左腕がもがれた。
「くっ・・・・!」
ダブルフェイスがディフェニスの喉元に当てられる。
『どうする? 続けるか、終わりにするか!?』
「ロスト・・・・最後に言ってやる。戦争の中では答えは見つからない。絶対に!」
イルミナのビームサーベルが最後のベルゼブを吹き飛ばした。
真っ二つに分けられたMSの体が飛び散り、基地に衝突した。
司令室でジャック達は衝突による揺れに絶えていた。
何とか体勢を立て直すが、戦局は既に決定している。
素直に降伏をするしかない。
だが、ここに来て最悪の事態が起きた。
衝突の衝撃により地下にあった爆破物が機動を始めた。
それを察知したのかオペレーターの一人が叫んだが間に合わず、爆発が起きた。
司令室が爆発にのまれた。
「何だ!? ジャック、応答しろ! ジャック!」
帰ってくるのはノイズ。
見ると基地は爆炎に包まれていた。
イルミナ達が基地より離れている。
『ロイドさんも早く撤退を! このままではあの基地は大爆発を起こします!』
フエンに言われて撤退しようとしたが、ディフェニスは動かない。
ロイドは迷っていた。
このままロストを見過ごして撤退するわけには行かない。
そのロストは呆然として燃え盛る炎に包まれた基地を見ている。
もはや戦う気力はなくなっている。
ディフェニスをゼクファーナに近づけた。
「行こう、俺たちと一緒に」
『・・・・・・・・・』
反応は、ない。
ロイドは再度話し掛けた。
「お前は生きなきゃならないんだ。あいつらの分まで」
『それは・・・・出来ない』
ゼクファーナの手からダブルフェイスが手放された。
二本の剣が地面に刺さる。
『そのダブルフェイスは、ロイド、お前に託す。お前ならばもう一度、ネオ・ジェレイドを良い方へと導けるはずだ』
「ロスト・・・?」
『答えを・・・・・・・・見つけた』
それだけ言うとゼクファーナは燃え盛る基地に足を運んだ。
ロイドの止める声も耳に入れずに。
再度ロストに止めるよう叫んだ。
だが。
基地が大爆発をおこした。
もちろんゼクファーナは助からない。
黒煙が立ち上り、空を包む。
ロイドは、泣いた。
ここではないどこかへ向かったロストに聞こえる位の声で。
涙が頬を伝った。
地球、大気圏外。
ネオ・ジェレイド巡洋艦ワイバーンがそこにいた。
ハイウェルがブリッジで何か指示をしている。
その他にはシセリアやグリーテスと言ったエースパイロット達が乗船していた。
「大気圏突入フェイズT始動。ワイバーンはこれより大気圏突入を試みる」
ワイバーンの船体が突入時の摩擦で赤く染まる。
小刻みに揺れるワイバーン。
暫くすると突入フェイズは次段階へ移行。
順調に大気圏内を進んでいる。
数分の後、ワイバーンはその姿を現した。
無事に大気圏突入を果たしたのだ。
「進路はいかがなさいましょう、ハイウェル様」
副官、ヴェイグリートが訊ねる。
「そうだな・・・・・・・・。予定通りオーブヘ向かえ」
「了解」
ロイドが託されたものは大きく、また、失ったものも大きい。
新たな力を手に入れ、その力をどう生かすのか。
そして地球に現れた翼竜の名を冠する戦艦が、再び混乱を巻き起こす。
全ては、オーブで。
(第十六章 終)
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