第十三章 ネオ・ジェレイド侵攻

 ファイナリィが地球に降りた。
 ハイウェルにとってこれは計算内のことだった。
 追い詰めれば逃げるために地球へと降りる。
 全軍をディザイアへ召集し、ハイウェルは次なる作戦を練っていた。
 ファイナリィは地球にいるネオ・ジェレイドの部隊に任せる事にした。
 今この宇宙でネオ・ジェレイドに敵う勢力などいない。
 あるとしたら・・・・・。
「――――――プラントか」
 ハイウェルが口を開く。
 そう。
 このネオ・ジェレイドに今のところ宇宙で敵う勢力と言えばプラントくらいだ。
 そのプラントは最近では動いていないものの、その内行動開始するとハイウェルは睨んだ。
 そうなれば、脅威になるのは必死だ。
 出る杭は叩かねばならない。
 彼の望む未来実現のためにも。
 その時、内線電話が鳴った。
「俺だ」
『ハイウェル様、以前プラントへ忍ばせておいた工作員からの報告がありました』
 思わず口元に笑みが浮かぶ。
 なんとも良いタイミングだ。
 ハイウェルは電話の向こうの相手に自分の部屋に来るように行った。
 数分おいて、兵士が入る。
「失礼します」
「で、報告とは?」
「はい。現在、プラントの一つ「アーモリー・ワン」において新型MSが開発中との事です」
 新型。
 これでプラント進軍のキッカケが出来た。
 内線電話で全軍に通達した。
『ハイウェル・ノースだ! ただ今よりL4宙域にあるプラント、アーモリー・ワンへ進撃する。MS隊、第三、第七、第十二班は直ちに出撃準備にかかれ!』
 突然のハイウェルからの出撃命令。
 彼も部屋を出てMS隊第三班に同行した。
 戦艦三隻がL4宙域目指してディザイアを出た。
 L2からL4までは少々時間がかかる。
 ハイウェルの手元にはMSのマニュアルがある。
 今回彼もMSに乗り込み出るつもりでいた。
 整備士から特別にチューンされたレイスを預かり、そのスペックを頭に入れている。
 ハイウェルのレイスは通常のものよりも攻撃性を高めている。
 ビームマシンガン用のマガジンは通常のレイスなら二つ携行出来るが、ハイウェルのレイスはそれよりも二つ多い。
 ビームソードも二振り装備し、機体の額には75ミリ自動バルカン砲塔システム「ヴェイパーシュテルン」を二門装備。
 レーダー機能を高めるためにブレードアンテナも備えてある。
 とても量産機から派生したものとは思えないスペックだ。
 これから起こる宴を頭の中で描き、マニュアルをしまった。

 L4プラント、アーモリー・ワン。
 ここに彼がいた。
 端整な顔立ち、短く切りそろえたシルバーの髪。
 そして、切り裂くような鋭い眼。
 イザーク・ジュールは白服を纏っていた。
 戦後、プラント復興に多大な支援をし、さらに指揮官として彼の部隊をまとめていた。
 その功績をたたえて晴れて彼は指揮官のみが着用を許された白服に袖を通した。
 今、イザークが見ているのは一機のMSだった。
 「セカンドステージ」と呼ばれるザフト製のMSの一機。
 他にも四機あるがそちらの方は大方完成していた。
 その四機の名は、セイバー、アビス、カオス、ガイア。
 そして今組まれているのがZGMF−X56Sインパルスである。
 これのパイロットはもう決まっており、イザークが乗るわけではない。
 だが、イザークは分からなかった。
 あの議長の考えている事が。
 現在、プラント最高評議会議長はギルバート・デュランダル。
 彼は故シーゲル・クラインの意思を重く尊重している。
 しかしこうして新型MSの開発に乗り出すとは・・・・。
 前からつかみ所の無い人物だとイザークは思っていた。
 そんな事を考えていると、イザークの後方が騒がしい。
「何をしているんだ、お前達は」
 イザークが声をかける。
 騒いでいたのは技師だった。
 話の発端を聞くイザーク。
 今回のこの「セカンドステージ」MSはインパルス以外、可変する使用になっている。
 インパルスはその四機とは違い、汎用性と地形対応性能を高めようとした結果、あのGAT−X105ストライクと同じ様に装備の換装が出来るようになった。
 問題はそこではない。
 このインパルスと言うMS、MSが三つのパーツに分かれる使用になっている。
 上半身は「チェストフライヤー」、下半身は「レッグフライヤー」、そして中枢部分は小型戦闘機「コア・スプレンダー」へと分かれる。
 その使用は完成すれば確かに画期的だ。
 技師の話では、その合体システムが上手くいかないのだという。
 イザークは頭が痛くなりそうだった。
 他の四機は完成はおろか、カオスとガイアはテスト運用の段階に入っていると言うのに。
 このままテストの結果も得られないまま、実用化するのは心許ない。
 そんなイザークの心配を少し軽くする事実が発覚した。
 それはインパルスのプロトタイプの存在である。
 プロトタイプインパルス(以下PTインパルス)。
 形式番号、ZGMF−X56S−PTのこの機体。
 インパルスの特徴である「分離・合体」こそ出来ないものの、テストをする性能には申し分ない。
 このPTインパルス、都合により装備換装じにインパルスの機体カラーが変わるVPS装甲と、エネルギーを母艦から送電し母艦が沈まない限り事実上エネルギー切れの心配の無い特殊システム「デュートリオンビーム送電システム」を搭載していないため、PS装甲とパワーエクステンダー型バッテリーを搭載している。
 イザークが言った。
「このPTインパルス、俺が乗る」
「ええっ!?」
 技師がざわめく。
 だがイザークは眉一つ動かさない。
「どれだけの性能が出るか、知りたくないか?」
「それは知れたらいいですけど、まさかジュール隊長が乗るとは・・・・」
「―――――――――不満か?」
 突き刺さるようなイザークの視線。
 技師の目が泳ぐ。
 もはや断れない。
 断ったら何をされるか・・・・・考えただけでも寒気がする。
 やむを得ずイザークが乗る事を許した技師たち。
 満足そうに立ち去るイザーク。
 技師達の頭ががっくりと垂れた。
「イザークー! イザークどこだー!?」
 大声で技師達の前を通り過ぎる一人の男。
「ああ、お前達。イザーク知らね?」
「ジュール隊長ならさっき向こうへ・・・・・・」
「サンキュー」
 男はそう言って足早に立ち去った。
 男がイザークに追いついたのは、それから暫くしてからだった。
「イザーク!」
「ん?」
 イザークが振り向く。
 そこには息を切らした男―ディアッカ・エルスマンの姿がある。
 現在ディアッカの軍服は緑。
 一般兵と同じ軍服だ。
 何があったかは知らないが、元「赤」のディアッカにとっては屈辱的だった。
 しかし、周りの反応は意外と良く、本人も気に入り始めていた。
「何か用か?」
「用かじゃねえよ。緊急集合だってさ」
 一瞬にしてイザークの目つきが変わる。
 元々鋭い目つきなのだが、さらに鋭くなる。
 緊急集合をかけられたザフト兵たちは内容を聞いていた。
 内容はネオ・ジェレイドの艦隊がこのアーモリー・ワンに接近しているとの事。
 何が目的かはまだはっきりとしていないものの、戦闘は避けられない。
 各自の準備に移る。
 ZGMF-1000ザクウォーリアにガナーザクウォーリア、ジン、シグー、ゲイツRが発進準備を進めていた。
 ディアッカはガナーザクウォーリアのOSを立ち上げ、システムをチェックする。
 ディアッカには戦後、ガナーザクウォーリアが支給された。
 しかも一番早くに生産されたものだ。
 肩には「01」のマーキングが施されている。
 ガナーザクウォーリアは砲撃戦用パック「ガナーウィザード」を装備したザクウォーリア。
 ディアッカの射撃能力は高いため、上層部が支給したのだ。
 主な装備は高エネルギー長射程ビーム砲「M1500オルトロス」。
 そして背部には大容量エネルギータンクを装備している。
 彼は今、何を思っているのだろうか。

 待機中のMS全機に指令がくだった。
 レーダーがネオ・ジェレイドの艦隊を捉えたのだ。
 出撃するザフトのMS達。
 アーモリー・ワンの宙域にMSが展開した。
 その中で一機、他とは違うMSの姿があった。
 イザーク・ジュール乗機、PTインパルスだ。
 その手には大型の専用ビームライフルが握られている。
 ジュール隊がPTインパルスを中心に広がる。
 いくらネオ・ジェレイドが大きな組織になっうているとは言え、こちらは正規軍。
向こうが勝つ確立は無いに等しい。
「待機中のMSに告ぐ! ブルーデルタ11・マークブラボー・チャーリーに艦隊を捉えた! 奴らに我らの力を見せてやれ! 各機、攻撃に移れ!」
 MSが動く。
 敵艦からもMSが発進した。
 連合のダガー系統のMSでも、ザフトのジン系統のMSでもない、完全オリジナルのMS。
 その戦闘能力は高い。
 ネオ・ジェレイドのMS、レイスのビームマシンガンが火を吹く。
 ばら撒かれたビームがジンを、シグーを貫く。
「ぐわあああああ!」
 爆発するジン。
 思ったよりも敵のMSは手ごわい。
 やや押され気味だったザフト軍だが、一際頑張るMSが。
 ガナーザクウォーリア、ディアッカである。
 オルトロスがレイスを何機か巻き込み、宇宙を走る。
 レイスが近接戦闘を仕掛けた。
 ガナーザクウォーリアのビームトマホークがそれを防ぐ。
 そこへ一陣の光が。
 PTインパルスのビームライフルがレイスを吹き飛ばす。
「サンキュ、イザーク」
『気を抜くと、すぐにやられるぞ! 行くぞ、ディアッカ!』
 スピーカーから流れる勇ましいイザークの声。
 ディアッカは少し安心した。
 ガナーザクウォーリアのオルトロスで牽制し、PTインパルスのヴァジュラ・ビームサーベルが切り裂く。
 他のパイロット達もようやく調子が出てきたのか、レイスを撃破している。
 順調に行けば、アーモリー・ワンは守り通すことが出来る。
 敵艦から新たな機体が発進した。
 蒼い機体カラーのレイス。
 それはエースパイロットの証。
 そのレイスはかなりのチューンが施されており、ゲイツRの攻撃をいとも簡単に避け、反撃をした。
 蒼いレイスの戦闘力は高い。
 今も二機のシグーを撃墜した。
 ほかのパイロットとは比べ物にならない。
 圧倒的に不利だった。
「えぇい、何なんだ! あのMSは!」
 イザークのPTインパルスがブースターを噴かし、蒼いレイスに接近する。
 ヴァジュラ・ビームサーベルを二本抜き、連撃を浴びせる。
 元来、イザークは接近戦が得意だった。
 敵機もPTインパルスの連撃に耐えられずに後方に下がるが、イザークの攻撃は罠だった。
 後方に下がった時、蒼いレイスの下半身が吹き飛ぶ。
「グゥレイトォ!」
 思わず叫ぶディアッカ。
 
「ちっ・・・・・・・・やってくれる!」
 蒼いレイスのコクピットの中でハイウェルが毒付く。
 モニターを見ても序盤はこちらが有利だったが、今では五分と五分。
 しかも相手は正規軍。
 ちゃんとフォーメーションも取れているし、何より先ほど自分に戦いを挑んできた機体の性能は高い。
 ハイウェルがオケアニスに帰艦した。
 状況を聞くと、現在ネオ・ジェレイド軍のMSは45パーセントが撃破されているとのこと。
 ハイウェルはいまだ戦闘を続行させる気でいた。
 彼にはまだ指導者は早すぎる。
 誰もがそれを感じていた。
 が。
「全軍撤退せよ」
 ハイウェルの目が見開かれた。
 その視線の先には副官、ヴェイグリート・シュタイゼンがいる。
 ヴェイグリートはそれだけ言って、通信機を置いた。
「貴様、どういうつもりだ!?」
「今ここで、戦力を減らすわけにもいかないでしょう?」
 ヴェイグリートの言う通りだ。
 今ここでこれ以上の戦力を削ぐと、後々辛くなる。
 だが、ハイウェルは納得しないようだ。
 指令の通りにネオ・ジェレイドのMSがそれぞれの母艦に帰艦している。
 ハイウェルの思惑とは違う結果となった。
 撤退していく敵艦を見つめるザフト軍。
 アーモリー・ワン宙域にはMSが残骸となって漂っている。
 これが、アーモリー・ワン宙域での初めての戦闘だったという。

 その頃地球、新地球連合軍パナマ基地ではロイドの件でリエンが呼ばれていた。
 会議室にはギルスを初めとする新地球連合軍の上層部の面々が集まっていた。
 流石のリエンも緊張しているようだ。
「で、君はロイド・エスコールを原隊に復帰させたいと?」
「はい」
 暫く話し合う上層部の面々。
 その顔は明らかに渋っている。
 嫌なら嫌とはっきり言えよ。
 リエンは心の中で言った。
 ギルスが口を開いた。
「ロイド・エスコールはネオ・ジェレイドの元総帥。今さら原隊に復帰させるなど、到底出来ない話だ」
「しかし!」
「まあ、落ち着け。そこで彼にはもう一度新地球連合軍に入隊してもらう。そうすれば、再び貴官らと共に行動できると思うのだが?」
 リエンの顔が明るくなる。
 それはとてもうれしいことだった。
 だが、とギルスが付けた。
「一つ条件がある」
「条件・・・・・・・ですか?」
 ギルスが出した条件とは、リエン達の隊で北欧へ向かってもらうことだった。
 北欧には小規模だが新地球連合軍の基地があった。
 その基地がつい先日、ネオ・ジェレイドの強襲を受け占拠されたという。
 その基地の奪還をして欲しいとの事だった。
「分かりました。北欧へ向かいます」
 リエンが快く引き受け、部屋を出た。
 廊下を歩いていてリエンはふと思った。
 本当に基地の奪還が目的なのだろうか。
 その他にも何か目的があるのではないかと、リエンは考えた。
「ま、いっか」
 自分に言い聞かせるリエン。
 彼は本当に適当な男である。

 (第十三章  終)


   トップへ