第11章  道化師

 ワイバーンが出港準備をしている時、ハイウェルは地下工場にいた。
ここではMSが製造されている。
 皆レイスとは違い機体カラーは漆黒。
 だが武器などはレイスから流通しているため、そのバリエーションは広い。
 ハイウェルが辺りを見回し、行き交う兵士達を見る。
 兵士達はいそいそと作業を進めている。
 そしてハイウェルを見つけると敬礼して、一礼する。
「ふふ・・・・もうすぐだな、ロイド」
 完成しているMSもあり、それらは戦艦に搭載されていく。
 ハイウェルの瞳に何が写っているのだろう。
 彼が踵を返した時、地下工場内にサイレンが鳴り響いた。
 モニターにファイナリィの姿がある。
 全て計画通りに事が運んでいる。
 ハイウェルは地下工場をでた。
 
 同じ頃ファイナリィではMS隊が発進するところだった。
 前回はカガリが出撃できなかったが、今回はヴェルドが出撃できない。
 というのも、アウスレンダガーがもうMSとしての寿命を迎えていたからだ。
 ヴェルドの技量にアウスレンダガーのOSが追いつかず、更に敵MSは強力になる一方だ。
 暫くの間ヴェルドの出撃は見送りとなってしまった。
 ファイナリィからMSが発進し、ディザイアへ向かう。
 もしディザイアが陥落すれば、地球にいるネオ・ジェレイドの軍も活動を停止するはず。
 そう思っての出撃だったのだが、敵も流石に本腰を入れてフエン達を迎え撃つ。
「こいつら、次から次と・・・・・しつこいんだよ!!」
 ジャスティス・ブルーナイトのビームライフルが敵を撃つ。
 狙いはやはりコーディネイターのみ。
 ジャスティス・ブルーナイトがビームサーベルを抜き敵を切り刻む。
 その後方ではフェルが一斉射撃でレイスを駆逐する。
 爆煙にまぎれてレイスが飛び出すが、ビームサーベルで冷静に対処する。
「フエン君とデュライド君、キラ君達はディザイアへ! ここは俺達が押さえる!」
 アルフが言い、了解したフエン達はディザイアへ向かった。
 アルフ達が上手く押さえてくれているので、追撃する敵は少ない。
 それは一種の安心でもあり、一種の不安でもあった。
 案の定、ワイバーンが現れた。
 そして例の六機が発進してきた。
 こちらはイルミナ、ヴァイオレント、フリーダム、イージスセカンド、ストライクブルーIWSPの五機。
一機手に余る。
 突然ストナーがイルミナの前に立ちはだかった。
 所々が改修されている。
「こいつは俺が殺る! てめえら、手を出すんじゃねぇぞ!!」
 ビームサーベルを抜き、襲い掛かるストナー。
 イルミナはシールドで防ぎ、ストナーにビームライフルを撃つ。
 その様子を見ていた他のネオ・ジェレイドのメンバーもそれぞれの獲物を見つけ戦闘に入った。
 オルフェウスはヴァイオレントと、ドレッドノートはストライクブルーと、アブソリュートはイージスセカンドと、そしてミカエルはフリーダムとの戦闘になった。
 だがロイドの乗るディイフェニスは動いていない。
 どうも先ほどから妙な違和感を感じているのだ。
 気のせいだと思いロイドはイルミナに向かって駆けた。
 
 オルフェウスはフェザー型分離式統合制御高機動兵装群ネットワークシステムドラグーン「アステカ」を分離させ、ヴァイオレントに襲い掛かった。
 ありとあらゆる方向からのオールレンジ攻撃にデュライドは戸惑った。
 宇宙空間でのオールレンジ攻撃は非常に脅威だ。
 デュライドは持ち前のテクニックでヴァイオレントを駆りアステカからの攻撃をかわしていくが、それでも被弾はしてしまう。
 オルフェウスの300mm高加速レールガン「べレディア」が火を吹き、ヴァイオレントがそれを避ける。
 しかし、そこへアステカが回り込み攻撃をする。
 デュライドの額に脂汗が滲んでいた。
 これほどまでに追い詰められた事は無かったからだ。
「あの、浮いてるやつをどうにかしなくては・・・・・・・」
 どうにかしたいと思っても、アステカは非常に的確にヴァイオレントを狙ってくる。
 がむしゃらに攻撃をしようものなら格好の的になる。
 ヴァイオレントは窮地に立たされていた。
 その時、デュライドにとって最悪な出来事が起きた。
 オルフェウスが見る見るうちに姿を消していく。
 ネオ・ミラージュコロイド。
 ユニウス条約で軍事使用が禁止になったシステム「ミラージュコロイド」を強化したシステム。
 使用時間が延長されているため、長期戦になればなるほど威力を発揮する。
 レーダーに反応は無く、今オルフェウスは絶対的は力を発揮した。
 アステカによるオールレンジ攻撃、オルフェウス本体のネオ・ミラージュコロイド。
 デュライドの勝ち目は無いに等しい。
 が。
 デュライドは深呼吸をした。
 目を閉じ、気持ちを落ち着かせる。
 不意に後方から気配を感じた。
「そこだっ!」
 シールドに内蔵されているビームソード「デュランダル」のリミッタ−を開放する。
 瞬間、「エッケザックスモード」に移行し、何も無い空間に突っ込む。
 するとオルフェウスが姿を現した。
 すんでの所で避けられたが、姿を現すことには成功した。
 アステカからの猛攻を物ともせず、ヴァイオレントが疾走する。
 切りつけたが、それはオルフェウスの右腕だった。
「く・・・・・何なの・・・あのMSは、突然動きがよくなった」
 シセリアの口から苦悶の声が漏れる。
 敵MSはまだ戦闘を継続できる。
 こちらも何の問題も無い。
 ならばやることは一つだけ。
 オルフェウスのブースターが唸った。

 エメリアは目の前の光景を疑った。
 敵MSは自分と同じようなIWSPパックを背負っているのだ
 IWSPパックはその性能の高さから熟練したパイロットにしか扱えない代物。
 先手を打ってストライクブルーが「115ミリレールガン」を撃つが、避けられてしまった。
 敵も撃つが、撃ってきたのは115ミリレールガンでは無く、ビーム砲だった。
 エメリアは驚愕した。
 自分の扱うIWSPパックよりも高性能なものが目の前に存在しているからだ。
 リエーナ専用ドレッドノートのIWSPパックは、集束型高エネルギービーム砲MA−4Bネオフォルティスを二門、110mmレールガンも二門、ビームを展開できる専用9.1m対艦刀を二本と装備は充実している。
 更にエメリアの聞いた話だと目の前のMSはドレッドノートというザフトのプロトMSらしい。
 NJCを装備し無限の力を得ているためあのようなIWSPパックを易々と使用出来るのだ。
「そんな性能の差なんか・・・・・埋めてあげるわ!」
 腰にマウントしてあるビームライフルを撃つ。
 当然の如くかわされるが、それで良かった。
 攻撃と防御は一緒に出来ない。
 9.1m対艦刀でドレッドノートを斬る。
 しかし、PS装甲のため攻撃は無効化された。
 問題はそれだ。
 敵機はビームや実剣を豊富にそろえているが、ストライクブルーのIWSPパックは実弾系の武器しか搭載していない。
 そのため敵機がPS装甲あるいはTP装甲を搭載しているのなら、攻撃は全て無効化される。
 敵機からの攻撃が降り注ぐ。
 ストライクブルーは避けるものの、一発でも喰らえば撃墜される危険性が非常に高い。
「このままでは、撃墜されるのも時間の問題・・・・・か。ならば」
 不意にストライクブルーが止まった。
 敵の不可解な行動にリエーナの手が止まる。
「・・・・・・何」
「貴方に見せてあげるわ。エメリア・コーテリスの、「ブルー・オーキッド」の力をね!」
 腰からアーマーシュナイダーを取り出し、最大加速で懐に潜る。
 狙うはPS装甲で覆われていない関節部。
 旧式IWSPパックが新型IWSPパックに勝てるとしたら一つ。
 新型はビームなどを搭載しているためどうしても重くなってしまう。
 それに比べて実弾系統の武器を搭載している旧型IWSPパックは新型に比べて軽いため、加速性能で見れば旧型の方が上である。
 アーマーシュナイダーが両腕の付け根に深々と突き刺さる。
 火花が散り、ドレッドノートの両腕が力無く垂れた。
 更にエメリアは首にもアーマーシュナイダーを刺した。
 コクピットの中でリエーナが各系統のスイッチを操作するが、生きているのは脚部ブースターを背部ブースターくらいである。
 ドレッドノートがワイバーンに撤退していく。
 同時にストライクブルーのPS装甲も‘落ちた,。

「喰らええええっ!!」
 アブソリュートの肩部580o複列位相エネルギー砲”スキュラ”と、イージスセカンドのスキュラがぶつかり相殺する。
 イージスセカンドが腕からビームサーベルを発生させ、アブソリュートに切りかかる。
 だが敵もネオ・ジェレイドのエースパイロット、グリーテス。
 対ビームコーティングシールド兼2連装ビームライフル「ハーキュリー」で防ぎ、逆に腰部レールカノン「リュート」を撃つ。
 イージスセカンドが揺れ、態勢を崩した。
 今のレールガンはPS装甲を搭載しているとは言え、威力はかなりのものだった。
 アスランがゲージを見ると、削がれている。
 イージスセカンドをMS形態に変形させ、敵をかく乱させる。
 そして隙を見てビームライフルを放った。
「くっ・・・・やるじゃないか。でも、俺も負けない!」
 グリーテスは火器関係のレバーを操り、変則的な感覚でスキュラや高出力ビームカノン「オーフェン」、ハーキュリーを撃つ。
 イージスセカンドの機動性能をもってすれば、アブソリュートの直線的な攻撃は苦にならない。
 しかし。
「何だ!?」
 アスランはアラートが鳴り響き、レーダーを見た。
 アブソリュートがいつのまにかイージスセカンドの目の前にいる。
 急には止まれず、イージスセカンドはそのままアブソリュートに突っ込んだが、アブソリュートはイージスセカンドを受け止めていた。
 突然の事でアスランは焦り始めた。
 しかも、至近距離でアブソリュートのスキュラが輝いている。
 直撃したらまず助からない。
「させるかっ!!」
 ビームライフルのトリガーを引き、アブソリュートの注意をそらした。
 見事にアスランの賭けは当たり、アブソリュートは手を離した。
 同時に全速力でアブソリュートから離れ、MS形態になる。
 間一髪のところで敵から逃れたアスランだったが、依然危機は続いている。
 イージスセカンドには決め手となる武装が少ない。
 だが、そこは元ザフトの「赤」。
 性能の差なんか感じさせない戦い方で次第にアブソリュートを追い詰める。
 そして。
「うあああああああっ!!?」
 アブソリュートのハーキュリーが腕事もがれる。
 更に足からもビームサーベルを発生させ、連撃に継ぐ連撃をアブソリュートに浴びせる。
ファイナリィの一部クルーの間では「カトラスダンス」と呼ばれている。
 防御手段を失ったアブソリュート。
 そんな状況になったが、グリーテスは撤退しようとは思っていない。
 低彩度ビームナイフ「ミラージュシュナイダー」を取り出し、イージスセカンドを切り裂く。
 イージスセカンドの右腕が吹き飛んだ。
 PS装甲のゲージもレッドゾーンに差し掛かっている。
 仕方なく、踵を返すイージスセカンド。
 そこへ、
『あー、そのMSのパイロット、聞こえるか』
「何だ? 敵機からの通信だと」
 アスランは不安に思いながらも通信回線を開いた。
「何だ」
『お前強いな。また今度、戦おうぜ!』
 妙にテンションの高い男だと思い、アスランはファイナリィに帰艦した。
 そしてアブソリュートも被弾箇所を直すためにファイナリィに戻った。
 
 フリーダムが駆けている。
 敵はミカエル。
 ルプス・ビームライフルが火を吹くが、ミカエルの背部のウイングにより防がれてしまう。
 そのウイングにはアンチ・ビーム・コーティングが施されており、大抵のビーム攻撃は弾いてしまう。
 それならば。
 クスィフィアス・レール砲でミカエルを撃つ。
 少しでもダメージになればいいが、敵はPS装甲搭載MS。
 ダメージにはなるものの、威力は軽減される。
 アンチ・ビーム・コーティングの翼にPS装甲の本体。
 防御で言えば完璧に近いMSだ。
 しかしその分、攻撃がおざなりになっているようだが。
 火力の強いフリーダムが何れ勝つ。
 キラは冷静に敵の攻撃を見切っていた。
 そして、ラケルタ・ビームサーベルを抜いた。
「はああああああっ!!」
 ミカエルに切りかかる。
 が、ミカエルはソウルアライヴでビームサーベルを防ぎ、反撃に出た。
 前回の戦闘でキラはソウルアライヴがPS装甲では防げないことを知った。
 今度は間合いを取り、バラエーナ・収束プラズマビーム砲を放つ。
「避けられた!? ならば!」
 ミカエルをロックし、フルバーストモードになる。
 五つの砲身から光が走り、ミカエルに直撃した。
 いくら防御力が高いとは言え、フリーダムのフルバーストモードでの一斉射撃を喰らえばひとたまりも無い。
 キラの中に勝ちを確信したものが生まれたが、レーダーにはまだ反応がある。
 瞬間、凄まじいまでの熱量のビームが放たれた。
 フリーダムのコンピューターがその熱量をはじき出す。
 その熱量はバラエーナ・収束プラズマビーム砲のざっと1.5倍。
 ミカエル唯一の射撃武器「レクイエム」。
 口径こそは通常のライフルよりも小さいものの、威力を極限にまで高めているため、真正面から喰らえば計り知れない損害になる。
「まさかこの武器を使うとは・・・・・・思いませんでした」
 ミカエルから声が聞こえた。
 何時かの先頭で聞いたあの優しい少女の声。
 その声には殺意と言うものは皆無で、戦いを嫌っているようにも聞こえる。
 どうしてこんな少女が戦いを・・・・・・?
 キラは迷い始めた。
「でも、この武器を使わなければ・・・・・私は死んでしまう!」
 第二波が放たれる。
 迷っていたせいでキラの反応が遅れた。
 気付いた時には目の前にビームが迫っている。
 爆発。
 エンスは目の前の爆発を見て、踵を返した。
 刹那、アラートが鳴り響く。
 爆煙の中から現れたのはフリーダム。
 漂っているのはフリーダムのシールドだった。
 そんなキラの瞳にはSEEDの光が。
 常人では考えられない動きでミカエルを翻弄するフリーダム。
「やはり、強いですね・・・キラさん」
 ソウルアライヴの代わりに大型ビームサーベル「アース」を抜く。
 ラケルタ・ビームサーベルと交わり、ビームの粒子が飛び散る。
 フリーダムは胸部のピクウス76ミリ近接防御機関砲でミカエルを離そうとするが、なかなか離れない。
 どこまでも喰らい付いてくるミカエル。
 そんな見返るを振り払おうとフリーダムが動くが、ピッタリとマークされている。
 キラの顔に疲れの色が浮かび始めた。
 と、ミカエルに動きがあった。
 アースとソウルアライヴを同時に展開し、フリーダムに突っ込んだ。
 切っ先がフリーダムの頭部を破壊した、
 モニターが死に、キラの体が揺さぶられる。
 が、フリーダムが至近距離でルプス・ビームライフルを放ち、ミカエルの右腕をもぎ取る。
 続いて二発目が左足に命中した。
「駆動系統がやられた!? 火気官制もダメージ・・・。ワイバーン、エンス・パーシ帰艦します」
 ミカエルが右腕と左足から煙を噴いてワイバーンに帰艦する。
 フリーダムもサブカメラからの映像で何とかファイナリィに帰艦した。
 
 ミカエルも、アブソリュートもドレッドノートもワイバーンに帰艦していく。
 オルフェウスも一機のMSといまだ戦闘中である。
 ゼロは目の前の敵に執着していた。
 忌々しいMS。
 自分の愛機を二度も中破させた、倒すべきMS。
 ゼロのストナーは改修の際にプロペラントタンクを装備した。
 これにより、エネルギー容量が増え稼働時間が格段に上がった。
 更にそのエネルギーを武器にまわす事により、威力を高める効果もある。
 イルミナからビームライフルが発射され、それを避けるストナー。
 先ほどからイルミナは何回もビームライフルを放っているが、命中したのは数えるほどしかない。
 更に今のストナーにはロイドのディフェニスも援護についている。
負ける要素は一つも無い。
「はあああああっ!! 喰らえ!!」
 エネルギーチャージした30mm低エネルギーライフルは脅威だ。
 口径が小さく、発射されるビームも通常のものよりも小さいため見極めが難しいのだ。
 そこへディフェニスのディオガがミサイルを放つ。
 イーゲルシュテルンで迎撃するものの、他方向からのミサイルなのでイーゲルシュテルンが追いつかない。
 完全にフエンが押されていた。
 フエンの身に死の波が押しよせる。
 ストナーに苦し紛れのビームライフルを撃つ。
 だがこれもストナーの機動性の前に避けられていく。
 いくらフエンとは言え、やはり二対一では苦戦を強いられる。
 と、イルミナの左腕が吹き飛ばされた。
同時に防御手段を失った。
「しまった!」
「もらったああああ!!」
 ビームサーベルでイルミナに切りかかるストナー。
「させるか!」
 全てのブースターを全開にし、サーベルを避けた。
 しかし避けたところで不利には変わりが無い。
生きる時間が少し延びただけだ。
 フエンにはもう手が無かった。
 このまま戦ったところで勝てる保障は無い。
 もちろん生き延びれる保障も無い。
 不意に、フエンの頭にある言葉がよぎった。

俺はどこにも行かない、絶対姉さんを守る。いや、姉さんだけじゃない。この艦にいる皆を守るから――――――――。

 そう言ったのは誰だ?
 自分ではないか。
 そう。
 守らなければならない。
 サユを、大切な人々を。
 イルミナのカメラアイの光が変わった。
 その光景にロイドは震えた。
「まさか・・・・・いや、そんな事は無い。あのシステムは・・・・!」
 G.O.D.SYSTEM。
 その言葉がロイドの頭を駆け抜ける。
 通信回線をストナーに送るロイド。
「ゼロ! そのMSを早く撃墜するんだ!」
『ああっ!? どうして!』
 それが隙だった。
 目の前にイルミナが迫っていた。
 ゼロは絶叫した。
 ビームの刃が振り下ろされる。
 しかしそれはストナーを捉える事は無かった。
 イルミナの紅いカメラアイがストナーを睨んでいるように見えた。
『退け。もう君では勝てない!』
 退避勧告。
 それがゼロの耳に届く。
 敵の指示に従うのは屈辱的、彼のプライドが許さない。
 ゼロはイルミナを見た。
 先ほどとは打って変わって全てを切り裂く刃のような冷たい感じがするのだ。
 防御手段も無く、こちらが有利な事には代わりが無いのだが、ゼロは何故か攻撃する事ができない。
 これが本当の戦闘なのか。
 ゼロは絶叫して、ビームサーベルを手に突っ込んだ。
 ロイドが止めるが、そんな声はゼロの耳にはとど置かない。
「うああああああ! 死ね、死ね、死ね、死ねええええええええ!! うああああああああああっ!!」
 イルミナが動いた。
 ビームサーベルで両足を薙ぎ払われ、漂うストナー。
 爆発はしない。
 ゼロは生きていた。
 続いてディフェニスに狙いを定めるロイド。
 ロイドは恐怖した。
 大戦時、ロイドはブレイズに乗っていた。
 初めてG.O.D.SYSTEMを発動させた時、自分は暴走した。
 目の前にいるのは暴走はしていない。
 だが、異常な殺気で満ち溢れている。
 今、動いたらおそらく自分は死ぬ。
 ここで死んだら、今までの事が全て水の泡になってしまう。
 おかしい事にイルミナも動こうとしない。
こちらの様子をうかがっているのか。
 ロイドの胸が締め付けられる。
 レイスは全て破壊され、無傷で動けるのはディフェニスのみ。
 オルフェウスの識別反応も無い。
 ワイバーンに戻ったのだろう。
 戦局はロイドに不利となっていた。
 ファイナリィがイルミナのすぐ後方にいる。
 次の瞬間、両軍にとって思ってもいない事が起きた。
 突然レーダーに多数の熱源が現れたのだ。
 イルミナとディフェニスを取り囲むように黒いMSが現れた。
 それも一機や二機程度ではない、大部隊だ。
 今まで何故気付かなかったのか。
 ロイドはネオ・ジェレイド本部にいるリスティアを呼んだ。
 こんな指示を出した覚えは無い。
「リスティア、リスティア!!」
 代わりに答えたのは別の人物だった。
『よう、ロイド』
「ハイウェル! リスティアはどうした!」
 するとハイウェルが笑い始めた。
 その様子にロイドは不信感を抱いた。
 通信は全周波数でディザイア宙域に放送されているため、ファイナリィの内部でもその内容が聞き取れた。
「答えろ、ハイウェル!」
『・・・・・・・・・やれやれ、まだ気付かないのか』
 一斉にライフルを上げる黒いMS達。
 その目の前にいるのネオ・ジェレイドの総帥だと言うのに。
「どういう事だ、これは」
『いいか、よく聞けよ。ネオ・ジェレイドは、俺が貰う。お前の時代は終わりだ』
「なっ・・・・・・ふざけるな! そんな事をしても兵がついて来なければ組織など・・・・・・・・」
 言葉が途切れる。
 そこから先は口にすることが出来なかった。
 目の前の現実を受け入れられない。
『言えないのか? なら俺が言ってやる。ロイド、お前の目の前にいる奴らは俺についてきてくれる奴らだ』
 所詮、ネオ・ジェレイドは寄せ集めの組織。
 意見の食い違いは恐ろしく大きく、ロイドの考えに批判的な兵もいる。
 黒いMSのパイロット達はそんな兵士なのだろう。
 意識が呆然となっているロイドに尚もハイウェルが続ける。
『そうそう、ワイバーンのクルーも俺についてきてくれる兵達だ。今ごろワイバーンはジャックされてるだろうな』
 完全に戦意喪失したロイド。
 ハイウェルがMSパイロットに指示を出す。
『さあ、殺せ。目の前にいる奴らを!!』
 黒いMSが動き、ディフェニスとイルミナに襲い掛かる。
 イルミナがディフェニスを守るように動き、黒いMSを撃破していく。
 ロイドの方は動く気配が無い。
 無防備なディフェニスに襲い掛かる黒いMS。
 流石にイルミナ一機ではどうしようもない。
 そんなMS達に緑色の閃光が迸り、破壊していく。
 ファイナリィのギガノフリートだ。
『フエン、一度帰艦しろ! この戦力差では無理だ!』
「でも・・・・」
『命令だ!!』
 いつもよりも厳しいリエンの声。
 その言葉の後にリエンは付け足した。
『・・・・・ロイドも連れて来い。共に逃げる』
「了解!」
 イルミナに引き連れられディフェニスがファイナリィに着艦する。
 二機が着艦するのを見計らい、ファイナリィはディザイア宙域を抜け出した。
「機関最大! イーゲルシュテルン、バリアントは後方迎撃に使え! ディザイア宙域を離脱する!」
 ファイナリィが離脱した。
 暫くしても敵MSは追ってこない。
 完全に振り切ったようだ。
 
 ロイドは道化だった。
 全てはハイウェルの仕組んだ、作戦だった。
 ネオ・ジェレイドをここまで育てたロイドはハイウェルにとってもう必要が無い。
 だから、ハイウェルはロイドを殺そうとした。
 黒いMSはミラージュコロイドを装備していた。
 そのせいでレーダーに反応しなかったのだ。
 ロイドを乗せ、ファイナリィは一度月面ノースブレイド基地へ向かった。




 (第十一章  終)



   
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