第七話 真と彼方と遥のゲーセンめぐり
日曜日がやってきた。
今日はゲーセンめぐりの日。
真が靴をはく。
「それじゃあ夕方には帰ってくるので」
「はい、気をつけてくださいね」
ひなたの見送りで寮を出る。
資金も持った。
待ち合わせは10時。
現在9時50分。
場所は駅。
「………間にあわねぇな、こりゃ」
遅くまで起きていたから寝坊をする。
最低でも9時には起きておくべきだった。
しかし、彼が目を覚ましたのは9時20分。
どうしたものか。
とにかく走る。
走る走る。
駅に着いたのは待ち合わせより5分少々過ぎた時の事。
「悪い、遅れた」
「5分オーバー。つーわけで、100円くれ」
「意味が分からん」
危うく無駄金を取られそうになる。
そこで気が付いた。
彼方はいるが、遥がいない。
「有馬さんは?」
「まだ来てない」
と、向こうから走ってくる人影が。
遥だった。
「ごめんなさい……寝坊しちゃって」
どこかで聞いたような話である。
「じゃ行くか」
「待て。彼女にはたからないのか?」
「うん。だって女から金取るほど落ちぶれちゃいないし」
「男なら良いのかよ………」
「お前ならな」
なにやら不服な響きを感じ取った。
***
まず一軒目。
クレーンゲームが多い店だった。
真も彼方もクレーンゲームは苦手だった。
ただ、目当ての格闘ゲームも何台かおいてあるが。
「古っ! いつゲーセンに置かれたやつだよ……6年前……か」
現在2005年。
1999年に置かれたゲームがまだ稼動している。
「真、対戦しようぜ」
「は? まだこれからゲーセンめぐりするんだろ? ここで100円使う事も無いじゃないか」
「良いから良いから。ほら、お前2Pな」
あれよあれよと言ううちに話が進んでいく。
真が選んだのは主人公っぽい外見のキャラクター。
彼方が選んだのはパワータイプと一目で分かるような筋肉隆々のキャラクター。
『ラウンド1! ファイッ!』
一本目が始まる。
コマンド表などはゲーム機に貼り付けてあるのでそれを見て出していく。
「げ……操作性悪いなぁ。全然つながらない……」
何しろ6年前の代物。
レバーを動かすものの、中々手ごたえが無い。
結局一本目は真の負け。
続く二本目も勝てる気がしなかった。
「あー……やっぱ負けた」
「はっはっは! ほい、100円」
「お前はどうしてそんなに100円に執着する?」
「罰金だよ罰金」
冗談であるが。
彼らがゲームに夢中になっている頃。
遥はクレーンゲームをしていた。
「うー、アームの力が弱いよ……」
クレーンゲームのアームの力が弱いと景品を掴んでもすぐに落としてしまう。
それでも彼女は景品を何個か取っていた。
そう、彼女はクレーンゲームが好きだった。
好きと言うか得意な物だった
「お待たせ、有馬さん」
「あ、話しかけないでくれますか。これ取ったら……」
集中しているようだ。
いつもの彼女からは想像できない。
「はいこれ、あげます」
余分に取ってしまったという巨大な熊のぬいぐるみを差し出す遥。
男の真が持つと何だか、微妙な絵になるのは言うまでも無い。
「じゃあ次ぎ行こうぜ、次」
半ばゲーセンめぐりなど冗談だと、真は思っていたが。
彼方の今の様子から察するに、本当に今日はめぐるらしい。
金がなくなっても知らない。
心の中でひっそりといって見る真だった。
***
昼ごろ。
真達は適当に昼食を済ませ、あるゲーセンに。
そこには真と彼方が楽しめそうな格闘ゲームが多数稼動していた。
純粋な格闘ゲームから、ロボットもの。
なかには多数で参加するバトルロイヤル型の格闘ゲームもある。
「真、これだこれ。これやろうぜ」
「KOF? 最近やってないからなぁ……」
「ごちゃごちゃ言うな。ほら、座れ!」
KOF。
3人1組で戦う格闘ゲーム。
真も昔はKOFをプレイしていたが。
最近はまるっきりご無沙汰だった。
久方ぶり。
それが何を意味しているか。
「うぁ、負けた……」
キャンセル、その他諸々の行動が全然出来なくなっている。
「もっかいやるか?」
「当たり前だ。負けたまま帰るのは、癪に障るからな」
再びキャラを選ぶ。
真の選んだキャラは「K'、ウィップ、クーラ」の3人。
中々使いやすいK'とクーラに加えてリーチの長いウィップを選択。
先発はK'。
かつてK'は真の持ちキャラだっただけに、ここで3人抜きをしてみせたい。
勘が戻りつつあるのか。
真の操るK'は順調に体力を奪っていく。
数分後。
決着がついた。
今度は真が勝ち、彼方が負けた。
「うー……まだまだか。やっぱ2年のブランクは大きいな」
「それでも勝ったんだもんな。俺に」
「何だよ、引っかかる言い方だな」
二人は台を後に、遥を探した。
またクレーンゲームでもしているのだろうか。
違った。
彼女は太鼓を叩いていた。
そう、太鼓の達人。
画面には既に100コンボの文字が。
しかも彼女はノリノリ。
「もしかして有馬さんって」
「ゲーマー……だよな、あれじゃ」
「ふぅー、楽しかった」
満面の笑みで合流する彼女。
惚れ惚れするような笑顔。
出かける前真には気になっていることがあった。
もしかしたら今日のこのゲーセンめぐり、遥は楽しめないんじゃないかと。
そんな事はなかった。
もしかしたら彼女が一番楽しんでいるのではないだろうか。
そんな気さえ生まれてきた。
それからも何度かゲームをしたり、話したり。
結局の所ゲーセンめぐりと言うよりはただの友達と出かけただけになってしまったのだが。
「今日は楽しかったですね」
「そ……そう。良かったね」
「はい!」
気のせいか。
彼女が別人に見えてしまう。
「それでは私はここで」
「ん?」
「これからどこか行くのか?」
「ええ、ちょっと」
遥と別れ、二人は岐路に着いた。
気が付けば既に4時半。
寮に帰る頃には4時50分を過ぎていた。
***
「いたたたたたたたたたっ!!」
帰るなり和日につねられる。
「お土産は?」
「無いですよ、そんなの」
「じゃあ、その大きなくまのぬいぐるみは何よ」
遥がくれたぬいぐるみである。
そう説明する。
「………ふっ」
鼻で笑う和日。
何を勘違いしているのか。
「それで、楽しかったの?」
涼子が声をかける。
沙耶、亜貴も興味があるようだ。
「ええ、まあ。ただ」
「ただ、何?」
「人の隠れた部分が見えたなぁ……って」
「…………」
「でも」
ひなたが言う。
「楽しかったのなら、良い思い出ですよね」
その言葉に真も微笑む。
確かに楽しかった。
そして隠れた発見も出来た。
それだけでも、今日はとても良い日になった。
「さ、今から夕飯の手伝いするわよ、塚原君」
「はぇ!? 俺……ですか」
「当たり前でしょ。ほら」
涼子に無理やり連れられる真。
今日の夕飯は何だろう。
そんな事が頭をよぎった。
(第七話 完)
トップへ