第六話 真と杏里
今日は木曜日。
周も半分を過ぎた。
今日と明日を乗り切れば休み。
そう思うと気が入ってくる。
「真ー」
「彼方。何だよ」
「冷たいよなぁ。なあ有馬さん?」
「う……うん」
珍しい2ショット。
普段は真・彼方、もしくは真・遥と言う組み合わせ。
まあその事は置いといて。
彼方に何の用か再度問う。
「今週の休み暇か?」
「何で?」
「俺達3人で出かけようと思って」
「3人? 2人じゃなくて?」
てっきり自慢しに来たのかと。
そんな感じに捕らえていたためかなり拍子抜けした。
「どこ行くんだよ。場所によっては断るかも」
「ゲーセンめぐり」
「行こうか、彼方。有馬さんもOK?」
「あ、うん」
塚原 真。
ゲーセンが好きな15歳。
***
授業は国語、数学、地理とこなし。
4時限目の化学。
だが。
「はい、皆聞いてくれ」
真が前に立つ。
何だかんだ言って真が前に立つと委員長として様になっているような気がする。
「4時限目の化学は、休みとの事です。なので自習を」
『やったーーーーーーーーーーっ!!』
「あー、皆、最後まで話を」
そんな事を無視してきゃんきゃん騒ぎ始める。
「あー、だからさー、聞いてくれないと……」
なおも真を無視して騒ぐ。
「うるせぇっ!!」
真が叫ぶ。
急に静まる教室。
「騒ぐなら騒いでもいいけど、せめて最後まで話を聞いてくれ……。ここに一枚のプリントがあります。これが今日の課題です。これを仕上げたら周りに迷惑をかけない程度の自由にして良いです。とのことで」
配り始める真。
こういう時の集中力と言うものは異常で。
プリントを皆黙々と解いていく。
次第にプリントを終わらせ、喋り出す者が出始めた。
彼方もその一人。
「真、出来たか?」
「あと少し……。…………出来た!」
真がプリントを前に出す。
後はそのプリントを授業の後に職員室に持っていくだけ。
「そういえば、今度ゲーセンいくって言ってたじゃねぇか」
「おう」
「何しに行くんだ? ほら有馬さんもいるし……」
「主に格ゲーだな」
「有馬さん、出来そうにないなぁ……」
「た……確かに」
有馬は見た感じゲームが苦手そう。
ゲーセンすらも行った事が無さそうだ。
ちなみに彼方は格ゲーが得意、真は苦手。
つまりは今週末のゲーセンめぐりは完全に彼方の趣味だった。
「まあ……楽しめるならどこでも良いけど……」
「だろ!? なぁ」
最後の「なぁ」は意味不明であるが。
「てか今ゲーセンにどんな格ゲーがあるんだよ? リサーチとかしてるのか?」
「もちろん。とりあえずKOFやギルティギアとかか」
「KOFねぇ……さっぱりだからな、最近は」
ゲーセンが好きとは言え、近頃ゲーセンから遠ざかっていた真。
そもそも受験のためにゲーセンに行かなかったのだ。
もうそんな物関係ないので行っても良いのであるが。
如何せんブランクがありすぎる。
「まあとりあえず日曜な」
「おう。つーわけで真、昼休みだ」
「お?」
「学食行くぞ」
***
今日も学食は大賑わい。
カウンターに行くまでが困難である。
そんな中、自動販売機に目がいく。
生徒が群がっている。
その一番後ろ。
ちょん、と立っている生徒が一人。
「杏里先輩?」
「どうした、真」
「あ、ちょっと先に行っていてくれ」
なんだか様子が変だった。
彼方を置いて、杏里のところへ。
思ったとおり。
彼女はジュースを買おうと並んでいたのだが、弾かれている。
彼女は真の先輩とは言えかなり小柄。
弾かれるのも分からないでもないが。
「……!」
「っと、危ない」
真が支える。
「大丈夫ですか?」
こく。
「ジュース、買おうとしてたんですか」
こくこく。
「どいてくださいって言えば良かったのに……」
ふるふる。
一言も発さない。
首を縦に振るか、横に振るか。
それだけで全て答えていた。
やっと生徒がどいた時、杏里はジュースを買うとさっさとどこかへ。
「何なんだ……?」
「真! 早く来いっての! 席取られるぞ!」
「お、おう!」
彼方が叫んでいるため、その席へ向う。
「なあ、さっきのも先輩か?」
「そ」
「て、ことは少なくとも1個か2個上か」
「1個上だ」
彼方が考え込む。
ここまで考え込む彼方は初めて見た。
「それにしても小柄な人だよな」
「確かに」
「もう少し成長してもいいと思うけど」
「…………」
真が口を空けたまま黙る。
彼方は不思議そうに真を見る。
「………何だよ」
「お前、今の発言はセクハラだぞ」
「なっ……何を! そう言う意味じゃねぇ! 背丈のことだ! バカ!」
「背丈?」
「そ。2年って言えば150の後半言っていても良いくらいなのに」
それもそうかもしれない。
杏里の背はどう見ても150前後。
かなり小さい。
そこまで気にする事でもないようだが。
しかし、彼女には理由が存在しているのだが。
今の彼に知る由もない。
***
さて、部活の練習が終わり寮に戻った時。
真は赤ペンが切れていることに気が付いた。
「すいません、ちょっとコンビニ行ってきます。赤ペンが切れちゃって……」
「あ、はい。気をつけてくださいね」
玄関で靴をはく真。
そこへ」
くい。
「を!?」
袖をひっぱられる。
杏里がいる。
「どうしたんですか、先輩」
「……………………」
何も言わない。
少し待ってみても言う気配がない。
「あの、そろそろ良いですか?」
「………」
何故か半泣きで袖を離す。
そしてとぼとぼと戻っていく。
何故か可哀相な事をしたと、自虐する。
「あーらら。いけないんだー」
「わ! 和日先輩!?」
どこから湧いて出たのか和日と涼子、沙耶が。
「ありゃあねぇ、杏里ちゃん。連れてって欲しかったのよ」
「どこにですか?」
「コンビニに決まってるじゃない」
涼子が人差し指を立てる。
「行ったでしょ? 彼女が寂しがりやだって」
「あー……」
「だからよ」
「何にしても、泣かせちゃったわねぇ。塚原君」
涼子と和日の猛攻の前にたじろぐ真。
そんな中救いの手が。
「気にしない方がいいわよ。どうでいつもの与太話だから」
「沙耶先輩……」
「ちょっと、与太話ってどういうことよ」
涼子と沙耶がにらみ合う。
悪い事をしたな。
真はそう思った。
中へ引き戻す。
「杏里先輩!」
「………?」
「一緒にコンビニ行きませんか?」
ややおいて。
こく。
杏里は頷いた。
どうやら涼子達の行っていた事は本当だったらしい。
彼女は寂しがりや。
誰かに構ってもらいたいのだ。
そして常に誰かと一緒にいたいと。
杏里と一緒に寮を出る。
その途中。
「杏里先輩、何か悩み事でもあるんですか?」
首をかしげる。
唐突過ぎたか。
「いや、先輩と話してもほとんど返してくれないから……。悩みでもあるのかなって思って……」
首を横に振る。
どうやらそうではないらしい。
なら別の理由?
真はそれを聞こうとしたが。
コンビニが見えてきた。
杏里はすぐに中に入る。
「…………何かあるんだろうな、きっと」
そしてその事を知るとき、事件が起きた。
(第六話 完)
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