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第三十九話  真と語り手

 7月6日、月曜日。

 この日、真は豚の着ぐるみを着て歩いた昨日の疲れか眠気がピークに達していた。

 そんな状態でも学校は始まる。

「おはよー……あふー」

「ぃよう、真」

 早速出迎えたのは彼方。

 だが、どうにも様子がおかしい。

 よく見れば他の連中もだ。

 何かをこらえているようだが。

「っぶは! お前、バカじゃねーの!!」

「……何が」

「だって、今日から授業ないのに、カバンとか制服とか着てさー!」

 そんな彼方の言葉を理解するのに数秒。

 今日授業がない?

 何故に?

 真は記憶の糸を手繰ってみる。

「全然記憶にねぇ……」

「あれ? でも連絡網でいいんちょのところに行かなかった? ねぇ?」

「うん。私のところには来たよ」

 女子が次々に口にする連絡網と言う言葉。

 真のところには、来ていなかった。

「俺の前……」

「おばあちゃんが言ってた。人間は完璧じゃあない。忘れることもたまにはある、と。気にするな、塚原」

「お前か!?」

 天道に厳重注意を促した。

***

 授業がないのは学園祭の準備期間だからである。

 学園祭が終われば今度は期末テスト。

 なんともハードなスケジュールである。

 何しろ学園祭の準備とテスト勉強を一度にしなければならないからだ。

「じゃあ「ももたろう」の練習を始めようか」

「さんせー」

「で、配役の発表をします。ちなみに委員長である俺は一切かかわっていません」

「なんでー?」

「ひいきとか思われたら嫌だから。有馬さんに全てを託した」

 人それを丸投げと言う。

「では、発表しますね。まず主役の桃太郎ですが、彼方くん」

「アッー!」

「キャー! 彼方様ー、素敵ですわー!」

 そんな七海の声が響く。

 その後、お供の犬は瑞希。

 キジは総一、サルは新谷が勤めることになった。

 そして証明や部隊の移り変わり担当も発表された。

 そんな中での真の担当は。

「……村人A」

 RPGで町の入り口にいる「ここは〜の町です」というあのキャラクター。

 それに当てはまるのがこの役柄。

「……あ、え、うん不満はないよ。不満はないけど……」

「ダメ、かなぁ……?」

 遥が声を出す。

 ダメと言うことはない。

 丸投げをした自分にも責任はある。

 しかし考えもしなかった役だけに、あっけに取られた感じであるが。

「でもね、問題があるの」

「問題? これだけ上手く配置しといて問題なんて……」

「読み手がいないのよ」

 ようはナレーションである。

 ナレーションがいないと、出てくるキャラクターのセリフ全てが説明口調になってしまう。

 一人くらい回せなかったのか。

 意外と、配役は難しいのだ。

「何かこう、読むの大好きー! って人がいればいいんだけど……」

「読むのが大好きー……ねぇ」

 真が考える。

 そうしている間にも時間は過ぎていく。

「あ」

「なに?」

「一人いるわ。そういうのが得意そうな人」

 携帯を取り出した。

***

 教室の扉が空いた。

 真が携帯で呼びつけたのは。

「はろはろー」

「風華さん? ああ、風華さんって確か施設に……」

「そ。子供達に読み聞かせと貸していたんじゃないかなって思ってさ」

 風華が来るなり男子のテンションが右肩上がり。

 無邪気にはしゃいでいる。

「やーねー、男子って。ちょっと年上のおねーさんが来ればきゃーきゃーと騒いじゃって」

「ホントよねー」

「あ、キムタクだ」

「キャー、たくやー!」

「いねぇよ」

 ボコボコにされる彼方。

 彼方? ぼこぼこにしてやんよ。

 そんな感じだった。
 
 普通に考えてキムタクほどのスーパースターがこの学校にいるはずがない。

「おねーさま、これをどうぞ!」

「ありがとぉー」

「やったー、ほめられたー!」

「あっ、ずりぃぞ!」

「おねーさま、お茶が入りましたー」

「わーい」

 何か妙な空間が出来ていた。

***

「で、おねーちゃんは何をすれば良いの?」

「うん? 桃太郎の台本を読んでもらいたいんだ」

 台本も遥が書いてきた。

 まさに丸投げと言うやつで。

「ほら施設で子供達に読み聞かせとかしなかった?」

「施設ってなんの?」

「え? いや、施設って……」

 そこで思い出した。

 確か以前風華は施設のことを少しずつ忘れていっていると言っていた。

 人の脳の記憶量はそんなに大きくない。

「覚えてないの?」

「うー……、おぼろげにー……」

「そっか」

 あの施設で風華と再開した。

 それを忘れると言うのは、ちょっと残念でもあった。

 しかし風華は台本を真の手から受け取った。

「さ、気合入れて読むよー」

 台本をめくり、目を通していく。

「さて、本格的に演技の練習に入ろうと思います。これがコピーした台本なので、目を通してください」

 遥が台本を配っていく。

 ちなみに演技をする人と声を当てる人に分かれている。

 真は演技をするほうである。

 演技と言ってもただ端から端まで歩くだけだが。

 皆も気合入れて練習を始めている。

 あんなに嫌がっていた彼方も、若干乗り気である。

 七海に色々言われたのか、妙なテンションである。

「ももたろうさん、ももたろうさん、私を仲間にしてください」

 ちょうど犬が桃太郎の仲間になる場面のようだ。

 自分でも声を発しながら必至で演技している瑞希。

「ではこのきびだんごをあげましょう」

 若干棒読みだが彼方も頑張っている。

 しかし。

「………………………………」

 妙な沈黙。

 それはキジの役である総一。

「て、天道……何か言いながら演技をしたほうが」

「お前ごときが俺を仲間にするなんて一億年早い」

「いや、そうじゃなくて……」

「おばあちゃんが言っていた。俺が指揮下に入るんじゃない。お前が入れ」

 それは絶対に言っていない。

 彼方が何だか小さく見えてきた。

 次にサルを仲間にする場面。

「鬼は俺が全て倒す、倒してみせる!」

 妙な気合を入れる、それが新谷という男。

 間違ってる。

 絶対このももたろうは何かが間違っている。

***

 さて、昼がやってきた。

 一度寮に戻った風華が差し入れで5段重箱を持ってきた。

「いつの間に……」

 それを広げて皆で食べる。

「もう……食えん。つーかピンポイントで俺の好みに合わせてる重箱って言うのもなぁ……」

 腹が膨れた。

 午後からの練習は自由練習。

 各々の練習をするも良し。

 人の練習に付き合うも良し。

 とりあえず風華は寮に帰った。

 真もただ歩くだけなので、別に練習する必要もない。

 暇になると人は逃避したくなる。

 真は帰ろうとした。

「待て」

「なぁーっ」

 そんな情けない声を出す。

 彼方だ。

 彼方が引っ張っている。

「帰る前に手伝ってくれ」

「何を?」

「声当てだ。いや、簡単に叫べばいいからさ」

 と言うわけで。

「あーっ! ぎゃーっ! うわーっ!」

 叫んでみた。

「まあアレだ。お前の役が終わったら叫ぶほうにまわれ。な?」

 そんな風にまとめられた。

***

「はい、お疲れさまー」

 練習が終わったのは午後の3時。

 皆ぐったりしていた。

 そんなに気合入れて頑張っていたのかどうかと言われると分からないが。

「じゃあ明日も同じ時間に集まってください」

 遥が告げる。

 真は、壁際でぐったりしている。

「じゃーねー」

「ばいばいー」

 そんな声が聞こえる。

「じゃーねー、いいんちょ」

「あー、うん」

 女子に手を振る。

 で。

 教室のドアが開いた。

 顔を出したのは何故か風華。

「ふーねぇ? もう練習なら終わったよ?」

「あう、そうなんだ……。せっかくおやつ持ってきたのに……」

 中に入っておやつを広げる。

 かなりの量がある。

「皆で食べよーと思ったのに……」

「おい、テメ! いいんちょ! おねーさまを何泣かしてんだ!」

「……え? 今のって俺のせいなの!?」

「しんちゃん……」

 半泣きで見てくる。

 まずい。

 非常にまずい状況だ。

 とりあえずここは。

「何かお菓子ちょうだいよ」

「はい、ビックリマンチョコ(復刻版)」

「えー……」

 中に入っているシールを見てみる。

 ヘッドロココだった。

「うあ、レアシールじゃねぇか。何か嬉しいな」

 結構単純な真だった。


(第三十九話  完)


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