第三十六話 真と学園祭の出し物会議
6月23日、火曜日。
この日、国語の時間を利用して学園祭の出し物を決めることになった。
ちなみに学園祭は7月の半ば。
もう1ヶ月とない。
「えー、今からー、学園祭の出し物を決めたいと思いますー」
真が言う。
だが、一向にクラスの皆が静まる気配はない。
静かにー、と何度も言う。
だが、聞かない。
「えぇい! 静かに! しーずーかーにー!」
何か変なキャラになった。
その後に、真由から注意点があった。
まず、各クラスで模擬店を出すことができるが、一年生はそれができなくなったという。
それも今年から。
実は昨年、一年生―ようは今の2年生がとある事件を起こしてしまった。
そのせいで今年から一年生の模擬店の出店は禁止されてしまったのだ。
しかしながらこのクラスがまともな店を出せるかどうかと言えば微妙なところだが。
「そういうわけで、学園祭の際はこの教室は空くことになります」
「はい、しつもーん」
「ん、加々美くん」
「空いた教室、どうするんスか?」
空いた教室は生徒の荷物置き場に使われる、と真由が説明した。
もちろんこの教室の生徒の、だが。
「それでは20分ほど話し合ってください。その後それぞれのグループに紙を渡すので、出た案を書いてください」
で、会議が始まった。
***
真と遥、彼方と七海、瑞希のいつもの5人。
話し合う。
「やっぱ出し物って言ったら、ねぇ?」
「うん?」
彼方が同意を求めてきた。
「出し物って言ったら劇だろう!」
「あー、うん。そうだね」
「あれー……?」
思いのほか微妙な反応。
彼方が首をかしげる。
別に変なことを言った覚えはないのに。
「まあ百歩譲って劇をするにしても、だ」
「いや、譲らないでくれ。結構まともなこと言ったのよ? 俺」
「何をするかによるよな……」
そこで挙手をした人間が一人。
七海だ。
七海のキャラから言ってきっと「ベルばら」とか言い出すんじゃないかと、内心ひやひやし始める。
そんなもの、世の高校生に出来るだろうか。
いや、出来るわけがない。
「おお、きれいな挙手だなぁ」
「そんなことどうでも良いですわ、下僕のくせに」
「…………」
真がへこんだ。
遥があわあわと慌てる。
「で、で、何なの、鈴原さん」
その間、瑞希が進めることに。
「ももたろうなんかどうです?」
「っ!?」
そこでなぜか驚いたのは彼方。
「もちろん主役は彼方様ですわ」
「ちょ、おま! 待て! 待て待て待て! ももたろうはダメだ!」
「……何でですの?」
「とにかくダメだ! 俺が主役のももたろうはダメ! 何となくダメな気がするからダメ!」
この慌てよう。
見ていて面白い。
結局最後まで彼方の反発にあって、「ももたろう」という意見は取り消しになってしまった。
しかしその後も会議は遅々として進まず。
ほかのグループの会議も進んでいないようだ。
「しかしなぁ、本当に劇以外やるものねぇぞ?」
「ミュージカルとかは?」
「無理だろう……」
そんな声がちらほらと聞こえてくる。
他のグループはどうしているかというと。
***
「なあ、天道。何かやりたいこととかねぇのか?」
「ないな」
「相変わらず乾いてるなぁ……」
天道と加々美が話し合っている。
天道 総一と加々美 新谷。
この二人、実は正反対だがなぜかいつも一緒にいる。
ちなみに新谷は野球部、総一は家庭科部だったりするのだが。
「よし! じゃあ俺が主役の仮面ライダー加々美を……」
「やめろ、恥さらしが」
ちなみに現在テレビで放送されている仮面ライダーは響鬼。
まさか一年後、彼らと似た男たちが主役のライダーが放送するとは思っているまい。
新谷は筋金入りの仮面ライダー馬鹿だったりする。
でなければこんな提案をする男はいない。
しかしながら、この後紙に書いて提出をしなければならないのは事実。
まさか白紙で出すわけにもいかない。
「そう言えば、剣二や影山先輩たちは何をするんだろうな?」
「俺が知るとでも?」
「……だよな」
不毛な会議になりかけていた。
***
そろそろ20分が経過しようとしていた。
真と遥が各グループに紙を配る。
これで大人しく決まればいいが。
紙を収集後、黒板に書かれた案を書き出していく。
一枚目。
黒板に書かれたのは「ももたろう」。
ああ、うちのグループだよ、これ。
真は心の中で呟いた。
ごめんな、彼方。
でも、きっとおいしい役だと思うぞ。
2枚目。
黒板に書かれたのは合唱。
別段悪くはない。
むしろ普通すぎて、皆がやるかどうか。
ちなみに曲の指定も書いてある。
夢色チェイサー、ドラグナーか。
いや、むしろアウトだろう、これは。
そこは黒板には書かないでおいた。
3枚目。
真たちと同じで劇のようだが。
タイトル、「電車男」。
思わず黒板に書く手が止まる。
これは思わぬ伏兵がいたものだ。
まさか今巷で話題の電車男を学芸会でやってみようと考える人間がこの中にいるとは。
でも、ちょっと良いかもしれない。
真の中では一番やってみたい劇だが。
4枚目。
特になし。
うん、まあそれも一つの選択肢だと思うが。
それを黒板に書いたとき、教室中から失笑が漏れた。
最後の5枚目。
フードファイト。
誰だよ、こんな国から危険指定されて一時期テレビなどでも放送禁止になったようなことをしてみようと考えたやつは。
だいたい、それだけの食料をどうするのか。
まあ、却下だろう。
「と、いうわけで5つの案が出ましたが……さすがに4つ目は無しということで」
4つ目の案を消す。
残った4つの案のうちどれにするか投票で決めることに。
生徒全員に紙が配られ、何をやりたいかを書いていく。
これで合唱(夢色チェイサー)だったら泣くが。
集計した紙を開き、結果を黒板に書いていく。
意外なことに電車男が人気だ。
そこまでしてしたいのか、電車男。
で、すべての紙を開き終えた。
結果は。
「えー……見て分かると思いますが、結果はももたろうになりました」
途中までは電車男が頭ひとつぬきんでていたが。
何しろ中盤〜後半にかけての票の集まり方がすごかった。
「また後日、練習や配役などを決めたいと思います」
そういって彼方を見る。
へこんでいた。
***
今日の部活は何だか早めに終了した。
こういう日は早く帰ってテレビを見るに限る。
さっさと寮に戻る。
リビングには風華が床に寝転がってせんべいを食べていた。
到底女とは思えない。
「ただいま」
「んー、おかえりー」
ひらひらと手を振る。
ひなたは、まだ残って練習をしている。
涼子たちもいない。
「しんちゃん、おやつ食べるぅー?」
「おやつ? 珍しいね、ふーねぇがくれるなんて」
そういって出されたのは「たまごボーロ」だった。
「今日ねぇ、買ってきたのよ。好きでしょ、しんちゃん」
「大好きですとも」
そういうとぼりぼりとたまごボーロを食べ始めた。
昔から真はたまごボーロが好きだった。
ひょいひょいと、食べていく。
手軽に食べられるから好きなのだ。
「それにしても今日は早かったねぇ〜。サボり?」
「サボってないよ。部活が早く終わっただけさ」
「ふ〜ん」
姉弟そろってたまごボーロを貪る。
なにか奇妙な光景である。
そんなこんなでたまごボーロを食べ、夕方のニュースを見ているとひなたが帰ってきた。
「あら、おかえりー」
「あ、ただいまです」
ひなたがかばんを置く。
そこで、真はひなたに尋ねた。
「そういえばひなた先輩」
「はい?」
「去年の学園祭で何かあったんですか?」
「何か……と言いますと?」
「いえ、1年生が模擬店を出すことができないと真由先生から聞いて……」
真の言葉にひなたが答える。
彼女が言うにはこうだ。
とあるクラスが模擬店を出した。
その模擬店では焼きそばを販売していた。
しかし、午後になるとその焼きそば店の前でケンカが起きてしまった。
その時、一方の生徒が相手を殴って吹き飛ばし、焼きそばの屋台は倒れてしまった。
そのまま火事となり、一年生の模擬店への出店は今年から禁止されたのだ。
「そういうことがあったんですか……」
「ちなみに一年生は無理ですが、寮でなら出すことができるんですよ?」
「そうなんですか?」
これは知らなかった。
「ええ。去年とか大変だったんです。亜貴さんのプラモデルを射的の景品にして……」
「はぁっ?!」
「涼子さんの提案なんですけどね」
「あの人は……。亜貴先輩、泣いてたでしょ?」
「それはもう」
考えただけでも涙が出てくる。
今年も同じようなことをするのだろうか。
***
さて、その日の夜。
晩御飯の話題はやはり、学園祭についてだった。
「でさー、今年はどうするよ? また射的にする?」
そう言ったのは涼子で。
亜貴はトラウマだろうか、ガタガタと震えていた。
どうやら去年、本当に酷い目にあったらしい。
「まあ今年は風華さんがいるから、普通に飲食系かしらね」
「うん、任せておいてー」
どうやら風華も刈り出すようで。
「飲食計だったら早めに許可を出しておいたほうがいいわね。一回真由先生に寮に来てもらいましょう」
「? 何でですか?」
「何、塚原、お前知らないのかよ。真由先生、この寮の担当教師だぞ?」
初耳だった。
「出なければ初めて会ったお前にさくら寮はどうか、なんて聞かないと思うぞ?」
そう言われると、納得できるが。
それにしても担当教師ならばもう少しこの寮に足を運んでもいいじゃないか。
意外とあの人はそういうところが適当、なのか。
「ま、何にせよ。今年もがんばろー! 目標5万円ね!」
「何をもってして5万なんだろう……」
そしてまた打ち上げでレストランにでも行くのだろうか。
真はそう考えた。
(第三十六話 完)
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