第二十七話  さくら寮と梅雨入り宣言

 6月8日、月曜日の夕方。

 この日、珍しく皆がそろい晩御飯を食べていた。

 テレビではフジテレビのスーパーニュースをやっている。

 その最後の天気予報のコーナー。

「あ、良純だ」

「本当だ。今日は良純の日なのねー」

 天気予報を読み上げる。

 その中で気になる発言が。

 梅雨入り。

 そう発言したのだ。

「あー、梅雨入りかー……」

 何故か暗い表情の真。

 毎年この季節は嫌になる。

 だるいし眠いし。

 何一つ良いことが無い。

 雨が大量に降るからといって、学校が休みになるわけでもない。

「うー、お洗濯物出来ないよー」

 風華がごねる。

 雨が降ることで洗濯物が溜まる。

 後々大変な事になりそうだ。

「ちょっと、早い所では明日早速大雨だって」

「大変ですねー」

「ふーかせんせー、醤油とってー」

「あ、はいはいー」

 いつものとりとめの無い会話だが。

 明日から梅雨入りと言う事を聞いた真にとって、鬱以外の何ものでもない。

 そんな感じだった。

***

 梅雨入りになるということ考えただけでもぐったりする真。

 部屋で横になっていた。

「あふー……」

 と、よく訳の分からない声を出してみたり。

 何故か部屋にいたレンをつついてみたり。

 やる気が起きない。

 明日は学園祭の出し物を決める会議があるというのに。

 仕方が無い。

 まだ夜の8時だが。

「寝るか」

 布団を敷き始めた。

***

 そして火曜日。

 この日、珍しく涼子が一番早くに目が覚め、リビングに顔を出した。

「ふあーあ……あふ。なーんか、目が覚めちゃったぁ〜」

 冷蔵庫の中を見る。
 
 牛乳や麦茶などがあったが。

「んー……コーラは無いのかー」

 するとひなたが起きてきた。

「あれ、涼子先輩? 早いですねぇ」

「あー、ひなちゃん。ちょっと目が覚めちゃってね。本当はもう一時間くらい寝てるつもりだったのに」

 現在6時30分。

 ちょっと早い。

「それにしても、外、凄い雨ですね。ザーザー降りですよ」

 そう言われ涼子がカーテンを捲る。

 たしかにバケツをひっくり返したような雨が降っていた。

 そこで涼子は気付いた。

 多分この雨で目が覚めたんだろう。

「今日、学校行くの大変そうですね。雨の日って濡れるからいやなんですよ」

「分かるわ、分かる。学校すらも行きたくなくなるのよ」

「ん〜、それはダメですけど……」

 そんな感じで話をしていたら、二階からぞろぞろと皆が起きてきた。

「あら? 姉さん、早いのね」

「まーね」

「……うにゅ」

「杏里、眠そうだな」

 亜貴が杏里をゆする。

 がくんがくんと体が揺れる。

「ねえ、塚原君は?」

「そういやぁ、遅いな……。いつもなら今頃起きてくるのに」

「ふーかせんせーも、いないよ?」

 塚原姉弟がそろって寝坊か。

「しょーがない。私が風華さんを起こしてくるわ」

 和日が風華を。

 沙耶が真を起こしに行く事に。

 ちょうどその時、電話が鳴り響いた。

「あ、俺が出る」

 亜貴が部屋を出る。

 気のせいか床がきしむ。

 さくら寮は木造。

 こういう梅雨時が一番厳しいのだ。

「はいー、さくら寮」

 そんな声が響く。

 二階への階段を歩いていく。

「全く……仕方の無い姉弟だわ」

「ま、私は風華さんだから良いけどぉー」

「……………どういう意味?」

「寝ぼけている時が男って一番危ないのよー」

「ちょっ、何姉さんみたいなこと言ってるの?!」

 そんなことは聞こえないのか、和日は風華の部屋に入った。

 沙耶は真の部屋の前に。

 入りづらい。

 と、いうのも真の部屋に入るのはこれが初めて。

 何を緊張しているのか。

「つっ……つかはらきゅーん」

 噛んだ。

「げほ、えほ! 塚原くん! 起きてるの!?」

 ガラリと勢い良く扉を開ける。

 すると、目の前には。

「き、きゃああああああああああああああああああああああああっ!!?」

 沙耶の叫び声が木霊した。

 どたどたと一階から姿を現わすひなたと杏里。

 沙耶は腰を抜かしたのかその場に座り込んでいる。

「どうしたの、沙耶?」

「沙耶……さん?」

「あああああああああ、あれ! あれ!」

 見るとそこには布団からはみ出し、うつぶせの真が。

 しかもよくよく見ると床には血が付着している。

「し、死んでるの?!」

「………それはないと思う」

 杏里が真の頬をぷにぷにとつつく。

 死後硬直が無い。

 何時死んだかによるが、今のところ死後硬直が無いことからまず死んでいない。

「何騒いでるのぉ〜……?」

 部屋から和日と風華が現れた。

 風華は眠そうに目をこすっているが……。

 だらしが無い。

「ふーかせんせー」

「ふ、ふゅーかしゃん!」

 何故沙耶がここまでテンパっているのかは分からないが。

 事情を説明する。

 沙耶の誇大された説明ではなく、ひなたの説明。

「ふーん、そうなの。簡単な事なのよー」

 腕をぐるぐる回しながら真の部屋に入り、彼の体を仰向けに回す。

「そぉーれ!」

 みぞおちに拳を下ろす。

「ぐぼっ?!」

 何か鈍い声がした。

 みぞおちを押さえ、悶え苦しむ真。

 それとは逆にまるで太陽のように明るい笑みを浮かべる風華。

「おきない時はこれで起きるのよぉー。はーい、しんちゃーん。おはよー」

「ん、おはよう」

 けろりとしている。

 良い感じに目も覚めたようだ。

「それにしても」

「だるいわぁ〜」

 二人そろってぐったりしている。

 雨の影響を受けているのだろうか。

 もそもそと着替えを済ませる。

 一階に降りたとき、亜貴が座っていた。

「で、さっきの電話なんだったの?」

「ああ、その事か」

 亜貴は手に持っていたメモを読み上げる。

「今日は大雨のため、緊急で学校は休み。だそうだ」

「な、なんだってー!?」

 既に制服に着替えている真達(風華除く)。

 朝から余計な手間が増えた。

 もう一度着替えなおす。

「それにしても休校ねぇ……。本当にてきとーだなぁ……」

「まあ、それがうちの学校ですから」

 仕方が無いのでテレビをつける。

 テレビのニュースでも大雨の事を放送していた。

 東京では未明から雨が降り始め、既に350ミリの雨量を記録しているとか。

 これにより河川が氾濫。

 各地で被害が出ている。

 幸いこの寮の近くに川は無い。

 だが、雨が酷いと言う事は。

「雨漏り、今年もあるのかなー……」

「雨漏りなんてあるの?」

「そっか。ふーかせんせー知らないんだっけ……。大雨だと雨漏りがするの」

 木造だから仕方が無いのだろうが。

 とりあえず大雨のおかげで学校は休みになった。

 何をしようにも雨で外に出ることが出来ない。

「仕方が無いなぁ〜」

 そう言うと風華が自室に戻り、何かを持ってきた。

「じゃーん!」

 そう言って持ってきたのは、トランプ。

「トランプよぉ〜」

「まあ、何もしないよりかマシか」

「何もしないよりマシとか言わないでよぉ〜。これでも結構迷ったんだからぁ〜」

 何を迷う必要があるのか。

 ちなみに候補としてウノと花札があがったという。

 どっちでも良いが。

「じゃあ何するの? ババ抜き? ポーカー?」

「だぁ〜め。どっちもお姉ちゃん弱いもん」

「何て自分勝手な……」

 結局の所何故かダウトをする事に。

 ダウトとは。

 1から13までを皆が順番で出し合う。

 出したカードが宣言したカードならばスルーし、嘘だと思ったら「ダウト!」と宣言。

 もしそのカードが「宣言した数字と同じカード」ならば「ダウト」と宣言した人がその場に出されたカードを全て受け取り。

 逆に「宣言した数字と違うカード」ならば「出した人」がその場に出されていたカードを全て受け取るというゲーム。

 案外心理戦になる事が多い。

 得意そうなのは亜貴や沙耶か。

 何はともあれ始めてみた。

 まずは真から。

「1!」

「ダウト!」

「早い!」

 宣言したのは何故か風華。

 カードをめくる。

 そこには「2」とかかれたトランプが。

『おぉー!』

 実を言うと風華の手札に1が3枚来ていた。

 確真が1を出す確立はまず無いと確信したのだろう。

 出した2のカードを手札に加えた。

 その後はひなた、杏里、亜貴、風華、沙耶、涼子と続いた。

 一巡したところで今のところ不利なのは意外なことに亜貴だった。

 亜貴の場合真っ直ぐすぎて分かりやすいのだ。

 さて2順目、真の番。

 現在の数は8。

 真の手札には8が一枚。

 そして場には6枚のトランプ。

 出すしかない。

「ダウ」

「にゃー」

 レンが真に突進する。

 手札がバラバラに飛び散る。

 皆それを凝視していた。

「ひどいー!」

***

 楽しいトランプの時間が終了した時、昼になっていた。

 雨もちょっとだが弱くなっている。

 今日の昼ごはんは冷やし中華。

 何もこんな涼しい日に食べなくても。

 冷やし中華をすする。

 まあたまにはこんな日があっても良いかなと、真は考えた。

 直後、ふとこんな事が頭をよぎる。

(待てよ……。大概俺たちってこんなにまったりしているんじゃないのか!?)

 それを言ったらお終いさ。


(第二十七話  完)


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