第二十一話  真と中間テスト3日目

 さて、ようやく中間テストも三日目。

 自然と気合が入っていた。

「なんか一ヶ月くらいずっとテストを受けていたような気がするなぁ」

 実際この3話を書き終えるのに1ヶ月かかっているわけだが。

 何にしろ今日で終わりなのだ。

 気を引き締めていかないと。

 早速歴史の教科書を……。

「あん?」

 教科書を。

「……ぉ?」

 教科書を。

「………」

 どうやら忘れてしまったようだ。

 急な腹痛が真を襲った。

 どうしたものか。

 教科書の大事な所に線を引いているのだ。

 仕方がない。

 ノートを見るしかない。

 幸いノートは鞄の中に入っていた。

 これでノートも忘れていたらどうしようかと。

「危ない危ない……。あー……いたた」

 ノートを見返す。

 歴史といっても人類の起源などかなり最初の方である。

 と、ふとノートに何かが書かれている。

「ポイント? それぞれの文明は覚えておく事ー? ……ふーねえか」

 それぞれの文明。

 黄河文明、メソポタミア文明、エジプト文明、インダス文明の4つ。

 確実にテストに出ると風華は予想したのだろう。

 覚えて損はない。

 さて、歴史のテストが始まった。

 何だか今回は調子が良い。

 スラスラと解けていく。

(おお、なんだか良い感じじゃないか!)

 そんな調子なので歴史のテストは省略を。

***

 2時間目は化学。

 予想通り元素記号の問題が出てきた。

 ここまでよく出来ると逆に怖くなってくる。

(うはは、何だか楽しいなぁ)

 だがこのときの真はまだ知らない。

 この後に地獄が待っているとは。

 それは3時間目の生物の時間。

 これでテストも終わりと思うと自然と気合が入る。

 いつもよりも入念にノートを見直す。

「よう、何か今日は調子いいみたいだな」

「任せろ、彼方。今の俺なら何だって」

「できねぇだろ」

 妙にテンションが高くなる。

 それもこれもテストが終わるからだ。

 長い。

 長かった。

 さて、先生が入ってきた。

 気合がみなぎってくる。

「ふおぉぉぉぉ……!」

 わけの分からない気合をいれ、いざ最終決戦へ。

 やはりと言うか何と言うか、今日の真は調子がよかった。

 繰り出される問題を次々解いていく。

 今日だけで見れば、この3教科はかなりの点数が期待できるだろう。

 そんな中取り組む最終問題。

 もう何でもどんと来い!

 そんな心持ちで問題を読む。

問5)モンシロチョウの成長過程を描け。

「……何?」

問5)モンシロチョウの成長過程を描け。

「……目、悪くなったかな?」

 描け?
 
 何を?

 絵を?

「無理を言うなー……」

 頭を抱えた真。

 塚原の血を引く人間はどう言うわけか絵がもの凄く下手なのである。

 それは真も、彼の姉である風華も例外でなく。

 なんと言っても真が犬を描いても誰も犬とは答えない。

 何故美術のテストでもないのに絵を描かなければならないのか。

 とにかく描かなければ。

 描かなければ。

 描かなければ………。

  (塚原 真  作)

 絵心がある無いの問題以前の絵となってしまった。

 ちなみに作者もテストが終わると問題用紙の空白のスペースに絵を描いていた。

 まずい。

 流石にこれでは点数がもらえない。

 この問題の点数は20点。

 大きい、大きすぎる。

 もう少しまともに描かなければ。

 頑張れ、頑張れ俺。

 20点は大きい。

 自分のもてる力を全て出し切るんだ。

 そうしなければ。

 そうしなければ!



 これはダメかと思った。

***

 さて、これで全てのテストが終了したわけだが。

 どうにも不安が残る内容だったことは否めない。

 午後は久しぶりの部活。

 とは言え、正午。

 寮に戻るのも微妙な時間。

 と、言うわけで何かとイベントの多い学食へ向かう事に。

 学食はテスト終わりの生徒で溢れていた。

 皆帰るのが面倒なのか、学食でパーティ並みに盛り上がっている生徒までいる。

 真も学食で一番高いスペシャルスタミナボリュームカツ丼を頼む事に。

 この料理だけは未知の領域。

 何せ学食でも破格の1050円(税込)なのだから。

 他の物が平均350円。

 そう考えると、やはり豪華すぎる。

 SSBカツ丼をお盆に乗せ、椅子に座る。

 今日は何だか静かに昼食を終えられそうだ。

「いただきます」

 割り箸を割る。

 それを食べていく。

 ソース味が濃い。

 そして何故か下から「ご飯・カツ・ご飯・キャベツ・カツ」の順で盛られている。

 もの凄いボリュームである。

 パクパクと食べていき、何か物足りない事に気づいた。

「うぅむ、慣れって怖いなぁ……」

 そう、ここらでひなたや涼子達が来てドンチャン騒ぎをしてくれたほうが何だか落ち着いてしまう自分がいた。

 さくら寮に入って早1ヶ月が過ぎ。

 SSBカツ丼を口の中に流し込み。

 食器を戻して。

 さて、部活に行くか。

***

 さて、どの部活にも必ず試合と言うものがある。

 弓道部も例外でなく、6月の半ばに関東大会の地区予選が控えていた。

「つーわけだ。2、3年生は今日から関東大会地区予選に向けての練習のためにあまり1年の練習を見てやることは出来ない。各々、やる時はやって遊ぶ時は遊ぶように」

 部長にそう言われる。

 やる時はやれというのはわかるが、遊ぶ時に遊べというのは些か間違っているような気がした。

 そう言うときは休む時は休めではないのかと。

 とは言え、道場から真達一年生が練習している空き地は丸見え。

 あまりサボる事はできない。

 とりあえず今まで教わった事を復習で。

 時々矢を取りに入り、時々休んで話を膨らませる。

 何だか和む。

 まさか寮以外の部活で和む事になるとは。

「おーい、今から合わせをするから並べー」

 道場のほうから声がしてきた。

 気が付くと既に午後2:10分。

 部活終了は午後3:30分。

 合わせをしてもおかしくない時間となっていた。

 合わせが始まった。

 皆が皆真剣に弓をひき、矢を放っていく。

 途中で声が小さいと注意され、部長が矢を全て命中させ喜び。

 部内の雰囲気は確かに今度の試合に向けられていた。

 これが高校の部活。

 本当の、部活。

「はい、おつかれー」

 午後3:30分、部活が終了した。

 真達は道場のゴミ捨て、掃除をして帰ることにした。

「ひなた先輩はどうするんです?」

「私は残って練習をしていきます。帰るのは……もうちょっとしてからです」

「分かりましたー。それじゃあ、お先に失礼します」

「あ、はい!」

 真は同情をあとにし、正門を越えた。

「どっかーーーーーーーーーーん!」

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 突如背後からの衝撃に真は顔から倒れた。

「いったぁぁぁ……。一体何が」

「ダメよ、かっちゃん。ここは追い討ちで」

 背中に乗られ、首を上に持ち上げられる。

 キャメルクラッチだ。

「ぎぃやあああああああああああああああああああっ!! 痛い痛い痛い! 涼子……先輩!」

「ふふん、参ったか」

「参ったかー」

 ああ、もうこの人たちは。

 最近大人しかったと思ったら。

 どうも最近大人しかった反動のようである。

 涼子は締めていた力を緩める。

「帰るんでしょ? しょうがないなぁ、一緒に帰ってあげるか」

「いや、結構です」

 即答する。
 
 まあ相手が聴くはずが無いが。

「あー、重い。これ、よろ〜」

 和日が手に持っていた荷物を真に渡す。

 ついでとばかりに涼子からも荷物が。

 勘弁してくれと。

 真は心から願った。

***

 寮に戻った時、やはりと言うか何と言うか。

 風華は居間でごろごろしながらテレビを見ていた。

 主演は木村拓哉、ドラマの名前は「HERO」。

 検事をテーマにしたドラマだった。

「ヨロシコ〜」

「にゃー」

 何の冗談かと。

 影響されすぎだ。

 涼子と和日は冷蔵庫からカルピスを取り出して飲んでいる。

 テストが終わってほっとしたのは真だけではないらしい。

 これで暫くはのんびり出来そうだ。

 そう、暫くは――――――――――――――。


(第二十一話  完)


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