第二十話  真と中間テスト2日目。

 5月20日、週明けの月曜日。

 今日のテストは現代文と数学。

 どちらもそれなりには成績が取れるであろう教化。

 ただ地理のときのように頭が回らなくなるという恐れも。

 土日と急き込んで勉強をしたので大丈夫だとは思うが。

 ちなみに土日の話がないのはただ単に書くことがないからと言う作者側の都合があるのだが。

 現代文の特徴として、最初の問題は漢字問題が出る。

 これは確定である。

 次は教科書の読み物の抜粋などが3問ほど。

 これで計100点である。

 何とかなるだろうか。

「あーあ、日曜の時にふーねえとレンと涼子さんに邪魔をされなければ……」
 
 思い出しただけでも胃痛がしてきた。

 どんな仕打ちを受けたは触れないが。

「ぃよう! 真!」

「………」

 遠い目で彼方を見る。

 何か抜け殻のような真。

 彼方も不審に思った。

「どうした、テンションが低いぞ」

「いや、察しろよ」

「無理言うな」

 珍しく真がボケ、彼方が突っ込みにまわっている。

 現代文も数学も決して苦手な教化ではない。

 しかしそれでもテストとなると妙な緊張感がある。

 そのせいで度忘れをしてしまう事も。

「あーあ……」

 本日二回目の「あーあ……」。

 ため息を漏らした。

「ま、やるしかねぇだろうな」

「分かってる、そんな事」

 分かっている。

 分かっているけど。

「………分かんねぇ」

 現在第三問目。

 問題は「ハロルド(主人公)はアルベルト(親友)に対して何を伝えたかったのか、20字以内(句読点除く)で述べよ」と言う問題。

 ハロルドがアルベルトに対して何を伝えたかったのかなんて真には分からない。

 しかし何か書かなければ。

 何か書けば当っているかもしれない。

 何か。

 何か書くんだ。

 で、書いたのが。

「お前のマンガを盗んだのは俺だったんだよ。」

 これはダメだ。

 盗んで盗みっぱなしは良くない。

 返せよ、ハロルド。

 ちなみに第一問目は漢字問題。

 こんな漢字の問題が出た。

問1)「」内の片仮名漢字に直せ。

(1)「シバラ」く

(2)絵を「トウサク」した

(3)自転車の「トウナン」届けを出した

(4)「タイシン」強度問題

(5)「フンシャ」した

(6)「セイミツ」に作る

(7)MSを「ゴウダツ」する

(8)「カクダントウ」を放つ

(9)「トッカン」する

(10)周囲を「サクテキ」する

「……7と8は確実に先生の趣味だろ………」

 ちなみに答えはまた後で。

 と、先ほど真が苦戦していた問題はあの答えのまま放置されていた。

 その後もさくさく問題を解いていったが、ここでちょっとした勘違いが。

「おかしい……。答えが当てはまらない」

 真が答えを解答用紙に書こうとしたところ、何故か合わないのだ。

 何故か。

 悩む真。

 答えは簡単。

 解答欄がずれていたから。

 頭を抱える。

 一番やってはいけないことをやってしまった。

 これが一番テストの中で痛い。

 直すのに時間は喰うし、また問題は解きなおしで良い事がない。

 このままだと赤点は確実。

 ならば直せるところまで直すしかない。

 真は、最後の戦いに出た。

***

 真っ白に燃え尽きた。

 真っ白に。

 真は机に突っ伏していた。

 あの後何とか解答の修正は出来たものの、若干の不安を覚えていた。

「こりゃあ次の数学も危ないかなー……」

***

 危なかった。

 現在第4問目、連立方程式に取り組んでいた。

 まあ今回の数学のテストは中学の時の復讐のような物。

 高をくくって取り組んだのだがこれが意外と難しかった。

 これなら、もっと前からやっておけばよかったと。

 だいぶ後悔していた。

 しかしながらそれでも全体の7割は埋めていた。

 これで全て正解していれば赤点どころか上位を狙える可能性がある。

 取らぬ狸の皮算用であるが。

 自信が無いとは言え、ちょっと結果が楽しみな真でもあった。

 2日目のテストも終了し、帰ろうとしていた。

「真ー、帰ろうぜー」

「おう」

「で、どうだったよ。テストは」

「だーめだな、ありゃ。さっぱりだ」

 数学はそうでもなかったが、なんだか全体的に悪いような気がしてきた。

 まあ明日でテストも終わるので、気を引き締めないといけない。

 何せ明日は3教化もあるのだから。

 確か、化学と生物、古典だったか。

 一まとめで「理科」とか「国語」としてくれれば楽なのに。

 誰もがそう思うだろう。

 まあ学校側にも色々と理由があるのだろうが。

「じゃあ俺はここでな」

「おう、じゃあな」

 彼方と別れ、真っ直ぐ寮に戻る。

 今日は本気で勉強をしなければ。

 何せ3教科もあるのだから。

「ただいまー」

 が、返事がない。

 もう一度言ってみても返事がない。

 この時間―昼間―ならば風華がいるはずなのだが。

 というかレンも出てこないのが気になるところ。

「……いないのか?」

 いや、いるにはいた。

 風華とレンがいた。

 居間にいた。

 しかし。

「あん? 寝てるのか、二人して」

 正確には一人と一匹だが。

 風華は机に突っ伏して。

 レンはそんな風華の頭の上で。

 どこか奇妙な構図。

 疲れたのか、ぐっすりと寝ている。

 足元には洗濯籠が置いてある。

 起こしてはまずいか。

 真は静かに部屋に戻った。

 まだ12時前。

 勉強の支度をしておく。

 まずは化学。

 今回は元素記号が全ての要となっている。

 次に生物。

 確かトンボの成長過程がどうのこうの。

 そして歴史。

 参考集から大半が出題されるため、それを勉強すれば。

 なんだか明日終わるとなると、とたんにやる気が出てきた。

 まだ風華も起きそうにない。

 ちょっとだけ勉強をする事にする。

「すいへーりーべぼくのふねー」

 授業の時に先生が言っていた実に有名な暗記方法。

 正式には以下の通りである。

[水兵リーベ、僕の船。なんと間があるシップスクラークか]

 無理やりなこじつけだがこれが意外と効果があったりする。

 まあ20分と言うのはあっという間で。

 少し本気で勉強をしたら20分など過ぎていた。

「あー、もう20分過ぎたか。喉が渇いた……」

 下に降りる。

 つい20分前まで眠っていた風華が起き、昼食を作っていた。

「しんちゃん。帰ってたんだ」

「ふーねえが寝てる間にね。んで、ちょっと勉強してた」

「ん。えらいえらい」

 そう言うと頭を撫でられた。

「ひなた先輩達は?」

「えとねー。2年生のひなたちゃんたちは修学旅行の集まり、涼子ちゃんは進路相談。だってー」

「なるほど」

 つまるところ今ここには真と風華、レンしかいないことになる。

 昼食はカレー。

 ついこの間カレー戦争があったばかりなのに。

 ちなみに、今回のカレーはブレンドカレー。

 バーモントの中辛とこくまろの甘口のブレンド。

 比率は「バーモント:こくまろ」が「4:6」。

 甘辛いカレーとなっていた。

 じゃがいも、にんじんはぶつ切り。

 タマネギはただひん剥いただけ。

 肉は大きさがまちまち。

 だがこれが良い。

 本当に食べたと言う気がするカレー。

「ごちそうさま」

「食器は流しに入れておいていーよ? 洗うからー」

 そう言われ、本当に流しにおいておいた。

「………そこは「俺がやるよー」とか言って欲しかったなぁー」

「ん?」

「何でもないでーす」

「そうそうふーねえ」

 真が居間を出るときに振り返る。

 人差し指を立て、注意を促す。

「今日の勉強、ちょっと邪魔したら許さないよ?」

「ふぇ」

「何せ明日は3教科だからさー……。邪魔したら絶交しちゃうかも」

 いつになく黒い真。

 風華も半泣きである。

「いやだー! 絶交いやー!」

「じゃあ大人しくしててよ?」

「分かった……」

 大人しくなった風華を見て、ちょっと言い過ぎたかと後悔した。

 いやいや、これくらいが丁度良いのだ。

 部屋に篭り、勉強を再開する。

 すると部屋のドアの向こう、つまりは廊下で何か鳴いている。

「にゃーにゃー」

 レンだ。

 何故だろう。

 体がうずうずしてきた。

「にゃーにゃーにゃー」

「……ああ、ダメだダメだ! 今ここでレンと戯れたら……」

 そう言いつつも何故か真は扉の前へ。

 ゆっくりと扉に手をかけるが。

「だめー。しんちゃんの邪魔をしたら絶交されちゃうよー」

「にゃー」

 レンの泣き声が遠ざかっていく。

 扉の前でがっくりとうな垂れる真。
 
 でもこれで良いんだ。

 これで。

***

 夕方。

 ひなた達が帰ってきた。

 一気に騒がしくなるさくら寮。

 今まで勉強していて正解だった。

 何とかこの4時間ほどで明日の3教科のまとめに入る事ができた。

 明日のテストが微妙に楽しみになってきた真だった。


(第二十話  完)


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