第十九話  真と中間テスト1日目

 ついにやってきた。

 高校に入って初めての中間テストが。

 中学と違って赤点を取れば追試、成績に響く。

 特に地理だけは阻止したい。

 ただでさえ平常点が低そうなのだから。

 席は公平に番号順に並び替え、テストは50分。

 休み時間は長めに15分。

 今日は3教化をこなして終わりとなる。

 ちなみに今日は5月17日の金曜日。

 明日は2連休なのでまた風華に勉強を教えてもらう事にしよう。

 真はまとめたノートを見ていた。

 風華印のポイント部分を見ていく。

 まさか、これが全て外れると言う事は無いだろうか。

 そんな悪い考えが浮かぶ。

「まさかねぇ」

 あるわけが無い。

 そう自分に言い聞かせる。

 午前9時。

 教室に先生が入ってくる。

 慌しく席に座る生徒達。

 ちなみにテスト時のルールとして。

 カンニングをした者は全教科0点となる。

 携帯電話は切ること。

 机の中は空にし、前後を逆にする事。

 この3か条は鉄則。

 最初に解答用紙が配られる。

 まだ表にしてはいけない。

 そしてすぐに問題が配られる。

 こちらも合図があるまで見てはいけない。

「それではー、始め!」

 一斉に開かれるテスト用紙。

 まずは名前を書く。

 後に回すと忘れる危険性が高いから。

 さて、ここからは真が実際に解いている問題を見てみることに。

問1)、次の県の県庁所在地を答えよ(各2点)

(1) 山梨県

(2) 東京都

(3) 大阪府

(4) 神奈川県

(5) 沖縄県

「んー……甲府市、新宿区? 大阪市に神奈川市、那覇市……」

 ちなみに神奈川市ではなく横浜市が正解なのだが。

 この時点で既に彼はつまづいていた。

 その後は順調に問題を解いていった。

問4)以下の言葉の意味を説明せよ。(各5点)

(1)北九州工業地帯

(2)シラス台地

(3)バミューダトライアングル

「(3)は関係ないんじゃないか?」

 そうは思っても設問なので問いていく。

 が、書けない。

 思った以上にかけていない。

 この問題は5点。

 確実に抑えないと痛い。

 そうは言え既に問題も時間も少ない。

 がむしゃらになって問題を解いていく。

 考えている暇など無い。

 直感に全てを任せる。

 とにかく赤点にならなければいいんだ。

***

「ぶへぇ〜……」

 テスト終了後の真のコンディションは最悪だった。

 正誤が気になってしょうがなかったが。

 しかし、そのまま次のテストを受けるわけにはいかない。

 気持ちを切り替え、次の古典に挑む。

 が、生憎古典は作者のおつむが足りないので省略をする事に。

 本日のテストは古典で終了。

 次のテストは週明けの月曜日に。

 土日も勉強でつぶれそうだが、一つの山である地理を越えたことで少し余裕が生まれてきた。

 早速寮に帰る。

 今日は何を勉強しようかしら。
 
 化学?

 生物?

 現代文?

 やることが多すぎた。

***

 さて、時間はさかのぼり真達が一時間目のテストを受けている時。

 寮では風華が洗濯をしていた。

「ふんふんふ〜ん」

 鼻歌を歌いながら、洗濯物を干していく。

「今日もいい天気〜」

 と、なにやら草むらががさがさ音を立てている。

 もしかして泥棒。

 そう思った風華は近くにあった気の棒を手にする。

 静かに近づく風華。

 そろりそろりと。

 だが、草むらから出てきたのは。

「にゃー」

「………」

「にゃー」

 ネコだった。

 そのネコを抱いて寮の中へ。

「かーわーいーーーーーーーーーーーーーーー!!」

 そんな声が響き渡った。

 その後も拾った猫で遊んでいた風華。

 時間はあっという間に過ぎていき、

「ただいまー」

 誰か帰ってきた。

「何してるの、ふーねえ」

 真だった。

 彼は風華が抱いている物に注目した。

 猫。

 真っ白で小さなネコがそこにいる。

「じゃーん、拾ったのよ!」

「へぇ、ネコか。可愛いなぁ」

「にゃー」

 しかし問題が。

 寮で動物を飼ってもよいものなのだろうか。

 そんな規則は聞いた事ないし、おそらくこの学校の事だ。

 飼うのも自由、と言うことになっていそうだ。

 が、さくら寮はあいにく木造。

 ネコの爪とぎで傷ついたらどうするのか。

 飼うには問題が山積みだった。

 それにしても人懐っこい猫。

 程よくしてひなた達も帰って来て、皆に訊ねた。

「猫ねぇ……。飼っても良いってことにはなってるけど、飼育とか大変だしね」

「でも風華さんがいればその心配も無いんじゃないの、姉さん」

 風華は日中寮にいる。

 飼育には何も困った事は無い。

 その猫は風華の足元にいる。

「でも、和みますね」

「……うん」

「まあ迷惑をかけなければ飼ってもいいと思うけどな、俺」

 他の皆も亜貴の意見とほぼ同じだった。

「さて、次は名前ね」

「そっか。名前を決めてやらなきゃな」

「それだったらもう決めてるよ?

 風華が言う。

 この猫の名前は。

「レン、レンちゃん」

「何故に?」

「ん、何となく」

 それでもレンと言う名前は響きが良い。

「レンちゃーん」

「にゃーにゃー」

 何故か意思疎通が出来ている風華とレン。

 似た物同士、と言うことか。

***

 その後、昼食を食べたあと少し休んで勉強に取り掛かった。

 そんな真の部屋に、レンが迷い込んできた。

 とことこと歩いて真の下に。

「どうした?」

「にー」

 レンは胡坐をかいていた真の足の上に丸くなって座った。

「……なに?」

「にー……」

 そのまま眠りに付いたレン。

 どうしたものか、このままだと勉強にならない。

「ふーねえ、ちゃんと見張っとけよ……」

 そうは言っても猫は猫。

 怒るに怒れない。

「仕方ないか……」

 レンの頭を撫でてやる。

 もの凄く嬉しそうに懐いてくる。

 ここまで懐かれるともはや勉強どころではない。

 ノートを閉じ、レンと遊んでやる事に。

「レーン、レンレンレンー」

「にゃー」

「うは、可愛い」

 完全に和んでしまった。

 今日は勉強する気にはなれない。

 土日で頑張るしかない。

 レンと戯れる真だが、扉から涼子が除いていたのは言うまでも無い。

***
 
 その日の夜。

「レンちゃーん? あれぇー、おかしいなぁ……」

 風華がレンを探していた。

 一応自分の部屋に置いておかないと、他の皆に迷惑をかけることになる。

「うにゅー、どこぉー?」

 真の部屋をのぞく。

 いた。

 真が布団を敷いて寝ているが、一緒に潜って眠っている。

「……さて、寝ようっと」

 風華は静かに部屋を出た。


(第十九話  完)


   トップへ