AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する

第四話 その名はアルカナ

 青、それが第一印象のMSだった。
 一瞬、地球軍のあの忌々しい「ストライクダガー」かと思ったがその考えはすぐに取り消した。
 ザフトの製品をつくるイリュージョン社で地球軍のMSがある訳がない。
 第一、ストライクダガーとは色こそ近いが、外見が全く違う。
 後頭部は斜めに平たくなっているし、目もバイザーではなく、人間と同じような両目がある。
「…え…何よ、これ…。」
「MS…だね。これに乗ればここから逃げられるかも…。ちょっと待ってて。コクピット見てくる。アルナはそこのロッカーからパイロットスーツを探して着ておいて。宇宙に出るよ。」
「ええ!?着替えるって…ここで!?」
「他にどこで着替えるのさ。見やしないから早く済ませて。その格好で宇宙に出るのは危ないでしょう。」
「あ…危ないってそんなのあんただって…。」
「俺は機械だし。」
「〜〜〜〜〜……。」
 なにか文句を言いたそうだったがあきらめたのか、アルナはしぶしぶとロッカーへ向かった。
 その間にソウは目の前のMSのコクピットに向かう。この辺りはコロニーの中心部なのか、重力が無いので数メートル先のコクピットへも簡単に行けた。
 中は決して広いわけではないが、なんとか2人入れるだけの広さはあった。
 主電源らしきスイッチを押すと、コンピューターが起動し、OSの文字が現れた。

 GUNS
 UN−EQIPED
 NUCLEAR
 DRIVE
 ASSALT
 MOBILITY

「GUNS…UN−EQIPED……このMS、銃器一切無いってことか。」
 OSの文字の後、キーボードを叩きながらMSの性能を調べる。謎の機械を操る能力も手伝い、思ったより簡単に調べられた。その中で、気になる個所を見つけた。
 DUELS
 INVOCATION
 SUPPORTS
 CONTROL
「…ディスク…?『DUELの発動を助ける装置』…だよなこれ。…DUELってなんだ?」
 
「ソウ〜?着替え終わったよ〜。」
「うん?じゃあ、こっち来て。」
 ソウがコクピットに座ってから2分ほど経った時、パイロットスーツに着替え終わったアルナがコクピットまで来た。どうやらサイズの合うのが無かったらしく、妙にブカブカだ。右手にはヘルメットを持っている。
「あれ、ソウ、そのコード何?」
 見ると、ソウの機械になった右目側から、かなり太いコードが伸びていて、そのコードはコクピットに繋がっている。ソウの長い髪の毛でよく見えないが、赤い透明な右目を覆うプレートにコードがついている。
「このMSってどうも俺みたいなサイボーグの為の機体みたいで、OS調べてたらこうするってあったんだよ。」
「ふ〜ん…。変なの。で、どうなの?動かせる?」
 言いながら、アルナはソウの隣に屈んだ。コクピット内はキツキツだ。
「ん…、なんとか。でもこいつ、武器が全然無いんだよ。」
「ええ、そんなんで大丈夫なの?」
「脚は速いらしいから、逃げることくらいは…。行くよ。」
 そう言うと、ソウはMSの安全レバーを解除した。MSの両目が輝いた。
 その瞬間だった。
 ソウは自身とMSが一体にるような気がした。機体全体がまるで自分自身の体のように自由に動かせる。そしてソウはこの機体の名前を知った。というより、機体自身が教えてくれた(ような気がした)。
「アルカナ…。」
 それがこの機体の名称だった。IZ−X01A[アルカナ]、イリュージョン社がザフトの技術と自社の技術を組み合わせて造ったNJC搭載の最新鋭の試作MS。
 内蔵武器を持たず、PS装甲も持たないために火力も装甲も不安が残るが、核で得たエネルギーの殆どを機体自体に回し、DISCシステムによって(DUEL所持者限定だが)更に高次元の動きを可能にしたMS。更に、イリュージョン社特有の技術の、高出力のスラスターにより、重力下でも飛行はもちろん、地上からの大気圏離脱すらも可能となっている。
 脚が速いどころの話ではない。現存する全ての機動兵器の中で最も素早く、最も精密に動き、最も速い。
「……。」
 ソウはコードと謎の機械を使う力を通して伝えられる、その凄まじい性能にただ驚くだけだった。
「いたぞ!な!?あいつら、MSに乗っていやがる!」
「発進許すな!ここで捕まえるんだ!」
 突然、下のほうから騒々しい怒声が聞こえた。
 見ると、さっきソウ達が入ったドアから、数人のザフト兵が入ってきた。さっき倒した兵が応援を呼んだのだろう。
 ハッチがロックされ、機体をロックしているハンガーの解除もパスワードをかけられた。機体を動かすことができない。
「どうしよう…。」
 捕まった時のことを考えてなのか、アルナは顔を青ざめて怖がっているが、ソウは余裕だった。パスワードならなんとかできる。
 複雑なハズのパスワードは、瞬時に解除された。

「DUELって、あるだろ。」
 フィルモスは電話の相手に言った。
「地球軍の開発したGATシリーズとかいうやつのことですかな?」
 電話の相手、ルーグはそう切り返す。確かに、今日ではデュエルというとそっちの方が有名だ。今現在はザフトのパイロット、イザーク・ジュールの愛機。
「フンッ。とぼけるなよ。知ってるだろう。」
 フィルモスは鼻で笑うように言った。
 DUEL、今フィルモスが言ったのは
 Direct
 Utilizable
 Equipment
 Life
の略称だ。
 機械を自分の思うままに操る能力、それがDUELであり、ソウの謎の力の正体だ。
 まだ学会にも発表されていない、眉唾モノの能力だが、DUELは確実に存在し、フィルモスはこの力の研究をしている。
 まだ謎の多い力だが、わかっていることも多少はある。
 この能力はSEEDの突然変異によって起こるということ、その変異の条件は、自身が機械の体になること。ただし、変異の可能性は非常に稀だという。
 体のどの部分をどれだけ機械にすれば良いのかとか、どういった原理で機械のことがわかったり操ることができるのか、というのは、まだよくわかっていない。DUELの性質上、サンプルが少なすぎるのだ。
「そのDUELがどうかしましたか?」
「今日、DUELらしき能力を持ったアバターが逃亡したそうだ。」
 アバター、サイボーグ化したソウのことらしい。
「…はぁ。」
「まだ社内にはいるようだが、今のイリュージョン社の力じゃ、宇宙への脱走も時間の問題だ。それに本当にDUELが目覚めたのなら、アルカナに気付くかもしれねぇ。」
「……。」
 ルーグは静かに話を聴いている。
「そこで、だ。もしアバターがアルカナに乗って逃げたら、お前達にアバターとアルカナの性能の情報収集と捕獲を依頼したい。」
「情報収集と捕獲…ですか。」
「ああ。アルカナはともかく、アバターは絶対に壊すなよ。貴重なサンプルだ。まぁ、情報収集は無理にとは言わねぇが、採れたら採ってくれ。DISCの力も知りたいしな。報酬は弾む。」
「了解。その依頼、承りましょう。後で私がそちらに向かいますのでその時に報酬の話をするという形にさせていただきます。」
 商談成立。フィルモスは了解だと言って受話器を降ろした。

 パスワードを解除し、自由に動けるようにはなったが、ハッチはまだロックされている。
 ロックはどうも機械はあまり介していないようで、DUELでは開けられない。(最も、まだソウは自分の能力の名がDUELだとは知らないが)
 核エネルギーをありったけ使ってアルカナで体当たりでもすれば、そのうち開くかもしれないが…。
(それだと開く前に別の妨害が入りそうだし…、第一、機体が痛む。)
 せめて武器がなにかあれば、そう思った矢先、また、あの『謎の』声が聞こえた。
(左右の壁を壊せ!蹴れば壊せる!)
(!またあの声…!)
 妖しいことこの上ないが、ここまでその声はソウ達をここまで導いてくれた。そしてなんとなくだが、ソウはこの声の持ち主の正体に気付きかけていた。
「こうか…!」
 声の言う通りに、まずは右の壁に蹴りをいれた。そこはどうも武装パーツの装着の為の装置があったらしく、崩れた瓦礫からは、かなり大振りの剣が出てきた。
 その剣は10m以上は確実にあり、全体的にやや黒かがった、濃い青紫色をしていた。柄の部分の色は、もっと濃い色だ。すぐにキーボードを叩いて検索する。
「………あった…!名前は…『バオウ』か。」
 その剣で隣の壁に斬りつけた。今度はバオウこそではないが、またかなり大きな剣が出てきた。バオウとは違い、こっちは刃が綺麗な鋼色で、柄は金色だ。検索した結果、その剣は『フェニックス』という名前だった。
 右手にバオウ、左手にフェニックスを持ち、アルカナはその2本の剣でハッチを切り裂いた。三角形に切り開かれたハッチから、アルカナは宇宙に飛び出た。
 アルカナの性能をフルに使ってすぐにでも最高速度で逃げたかったが、レーダーを見た時にそれも不可能だなと悟った。
 すでに前方には多数の敵がいた。ローラシア級の戦艦が一隻とそこから発進したらしきジン10機とジンハイマニューバ5機、さらに後方のイリュージョン社からジン8機にシグー4機が追って来る。
 後方の敵が重突撃機銃を撃って来た。しかしアルカナの運動性なら難なくかわせる。鋭く動き回りながら弾を回避する。しかし、アルカナは堅牢な装甲は持っていない。全ての弾を避けきりながらどこかに逃げ切るのは難しい。アルカナの強みのスピードをフルに使えば、あるいはなんとかなるかもしれないが、その時に生じるGに果たしてアルナは耐えきれるのだろうか?それを考えるとどうしても逃げるのは躊躇ってしまう。
 なら戦って敵がいなくなってから悠々と逃げるしかない。確かに、アルカナは最新のMSである。やろうと思えば、ここにいる部隊を蹴散らすのも難しいことではない。しかし…。
(そうすると、俺は敵のパイロットを殺すことに……。)
 それがソウが戦うことの一番のネック―というか恐怖だった。所詮、ソウは体が人より(かなり)頑丈なだけのただの一般人だ。戦闘訓練も受けたことがある訳でもなく、(それでも戦うことは可能だが)ましてや、人を殺す覚悟なんて無い。人を殺めることが、ソウにとってただならぬ恐怖だった。
 しかし、戦場でそんな弱音は通用しなかった。
 考え込んでいたせいか、一瞬隙が出来てしまった。ジンハイマニューバが前方から重突撃機銃を撃ちながらこちらに猛スピードで突進していることに気付かなかった。
 はっと気付いた時には、もうスクリーンいっぱいにハイマニューバの全身が写っていた。重斬刀を片手で袈裟斬りの構えから振り降ろす。
「くっ…!」
重斬刀がコクピットを斬る寸前で、アルカナは急に仰向けになったかと思うと、左足で思いっきりハイマニューバの右手を蹴り上げた。重斬刀が宙に舞う。その間にアルカナは仰向けの体勢から一回転して元の体制に戻す。
 危なかった。あと数秒反応が遅かったら確実に死んでいた。しかし、これでよくわかった。躊躇っていたら自分が殺されると。
 すでにアルナの顔からは血の気が引いていて、顔が青くなっていた。余程怖かったのだろう。歯がしきりにカチカチと鳴っている。
 さっきの躊躇いへの反省と、もうアルナにこんな思いはさせたくないという思いが、ソウの闘争心を掻きたて、DUELが発動した。それに伴い、DISCも起動した。しかしまだ殺すことは躊躇われたままだった。
 アルカナが2本の剣を構える。さっき、蹴りを入れたハイマニューバの脚にバオウで斬りつける。金属と金属のぶつかる激しい音がしたかと思うと、ハイマニューバの脚はすっかり無くなっていた。 
 そこから、アルカナの壮絶な戦闘が始まった。
 フェニックスをブーメランのように投げた後、その行き先を見据えることもなく、すぐ別の敵機に向かっていった。対象にされたジンが重斬刀を構える暇も無く、その腕と脚をバオウの一閃で切り裂かれる。その後の一瞬の隙を狙おうとした別のジンが重突撃機銃を構えようとした瞬間、さっきのフェニックスが猛烈な速さで襲いかかる。アルカナを狙ったジンはフェニックスの体当たりで頭部を完全に破壊された。スピードを緩めずに戻ってきたフェニックスをアルカナが左手で掴む。
 急激に強くなったアルカナに恐れを成したか、他の敵は全機、重突撃機銃で攻撃を仕掛けた。アルカナの運動性なら避けきることも可能だったが、どういうわけか、アルカナはそこから動こうとしない。
 弾が全てアルカナに命中…したかに思えた。いや、確かに本当に全弾命中はしていた。しかし、アルカナは何か、赤く輝くまるでマントのようなものに包まれていて、それに弾は全て遮られていた。
 赤く輝くマントの正体は「ミラーフォース」、装甲の貧弱なアルカナ唯一の防御用の装備だ。ビームを帯状にし、マントのように機体を覆う。この兵器を展開すれば、ジン達の機銃の弾を無効にすることくらい造作も無い。
 ミラーフォースを解除したアルカナは、一気に敵機の群れへと突っ込む。呆気ないほどに次々と(コクピット以外を狙ってだが)破壊されていくザフトのMS。殆どのMSを動けなくしたところで、アルカナはどこかに逃げていった。アルカナをレーダーで追えなくなった後、ローラシア級から帰還を意味する信号弾が発射された。MSはほとんど破壊されてはいたが、幸運なことに死者は出なかった。

 ザフトの追っ手がいないことを確認し、ソウはやっと気を抜いた。無意識か意識してなのか、よくわからなかったが、多分向こうに死者はでなかったはず、コクピットを狙った記憶が無いことからそう思い、少し安心した。自分はまだ人は殺していないと。
 アルナは恐怖からか、これまでの疲労でか、気を失っていた。スースーと寝息のような呼吸音が聞こえ、とりあえずは無事なようでほっと胸を撫で下ろす。もしかしたらさっきの戦闘で無茶をして、アルナが怪我をしたのではないかと、気になっていたのだ。
 これからどうしようか、とりあえず地球に戻るべきだと思った。宇宙にいては、こんなせまいコクピットから出ることさえ出来ない。
 アルナを起こし、その旨を説明する。アルナはふと疑問に思った。
「でもこの機体、アルカナ…だったっけ?これで降りられるの?」
 確かに、普通のMSは降下用ポッドを使わないと地球には降りられない。途中で燃え尽きるのが目に見えている。
「大丈夫。なんかこの機体って元々宇宙と地上を行ったり来たりするように出来ているっぽくて、ミラーフォースを使えばなんとかなるって、カタログスペックにあったから。」
「ふ〜ん。じゃあ、早く降りちゃおうよ。いい加減ここから出たいよ。」
 いい加減、アルナもこの狭さにうんざりしていたようだ。
 決まりだ。ソウはアルナを自分の膝に座らせる。コクピット内で立ったまま降下は、ちょっと危なく思ったからだ。片腕でアルナをしっかり抱きかかえる。 
「しっかり掴まっててよ。」
 アルナは言われずともとばかりにソウの腕にガッシリとしがみついた。
 ソウはミラーフォースを調節し、機体をビームの膜ですっぽり覆った後、地球へと向かった。



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