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第二話 苦渋の選択

目が覚めると、ソウはジープの荷台に仰向けに寝かされていた。
 初夏の朝の清清しい太陽がソウの目を眩ませる。
 ソウは仰向けのまま、まだ目覚めきらない頭を無理やり叩き起こしながらここまでの記憶をたどっていた。
 このジープは…確かさっきのフィルモスとかいう奴が乗っていたジープだよな…。で、あのギドーとかいう奴と戦って…勝って、気絶して…? あれ、なんで戦ったんだっけ?……―アルナ!
 ガバッと起きあがり、車内を見渡す。(といっても屋根も無い小さなジープの車内だが)
 すると荷台の前側、後部座席に横になって眠っているアルナを見つけた。とりあえず一安心。
「おう、もうお目覚めか。早いねぇ〜、若いのは。」
 助手席に座っているフィルモスが陽気な返事をかける。
「はぁ…。」
 気の無い返事を返すソウ。この状況では若さはあまり関係無いよな、と頭の中でツッコむ。
「なんだなんだ、随分と気の無い返事だなぁ。」
「…はぁ…。」
 また気の無い返事を返しながら、ソウおかしなことに気付いた。
 このジープにはさっき、運転手、フィルモス、そしてギドーが乗っていたハズだ。
 しかし、今のジープにはギドーが居ない。
「あの。」
「んん?」
「さっき俺と戦った人は…?」
「ああ、ギドーのことか。あいつならあのまま放っておいた。」
 …………はぁ?
「え?放って…?なんで…。」
「何でって、君らを乗せた時点で満員だったから。」
「……。てか放っておいて大丈夫なんですか?」
「大丈夫だよ。別にただの軽い脳震盪だし。放って置いたって直に起きて基地に帰ってくるだろうよ。
 大体、あいつをこの車に乗せたく無ぇし。」
 この男はそんなにあいつが嫌いだったのか。(最もソウも自分を殺そうとした人と一緒なのは嫌だが)
 それにしてもなかなか酷い人だ。嫌いだからという理由で自分の部下を見捨て……ん?
 あれ、ギドーはフィルモスの部下なのか?どうもフィルモスの服装からして地球軍とは思えない。
「あの、あなたって地球軍の人なんですか?」
「いや。俺はただの地球軍に協力している会社の社員だよ。ちょっとばかし権力があるけど。
 インダストリアル社って知ってるか?俺はそこの人間だ。」 
 インダストリアル社とは、MSやさまざまな兵器を開発、製造をする、要は軍事産業を主にする会社だ。
 この会社の技術力はなかなか高く、どうやら最近有名なGATシリーズの開発にも協力していたようだ。
 しかし、なんであの会社の人間がこんなところに…?
「お、もうそろそろ着くぞ。」
 フィルモスがどことなく愉快そうにそう言った。

 着いた建物はこの町の病院ではなかった。戦闘で建物が壊れてできた土地にいくつものテントとコンテナトラック、キャンピングカーが立ち並んでいた。ソウはまだ眠っているアルナを腕で抱きかかえながら
「……!病院じゃないじゃないですか…!」
 フィルモスに突っかかるが
「さっき言っただろう?病院はコーディネーターを診ちゃくれねえって。
 それに、ここでもあの病院と同じかそれ以上の設備があるからなんの問題も無ぇよ。」
 確かに、ここにあるコンテナトラックには相当な医療器具が揃っている。あの病院以上の設備というのもうなづける。
 しかし、妙な話だ。
 インダストリアル社は本来、軍事産業の会社だ。それがなぜこんなにも高性能な医療機材を揃えているのだろう?
「ここの設備がスゴイのはわかりました。けど…。」
「んん?」
「なんであなたは俺らみたいな一般人、それもコーディネーターを助けたりするんですか。ただの慈善行為ですか。」
 フィルモスはやれやれ、とうとう聞かれたか、という風に頭を掻きあげた。
「いいだろう。お前の質問に答えてやる。ついでに、さっきお前とギドーを戦わせた理由もな。」

 アルナをトラック内の処置室に運んだ後、ソウとフィルモスは野外テントの椅子に腰掛け、話を始めた。
「そもそも俺らの会社が兵器を作っていることは知っているな。でだ、最近、うちの会社は戦闘機とかMSとかとは違う兵器の開発をしたんだ。それが、生物兵器だ。」 
 生物兵器。核兵器、化学兵器と並ぶ非人道的な大量殺戮兵器だ。
「で、作ってはみたものの、実験ではナチュラルには効果は高かったんだが、どうにもコーディネーターにはイマイチな結果でな、今回の戦闘で本当にわずかだが試されたんだ。サンプルを採るためにな。
ここの施設もそのサンプル体を回収、研究するためにある。
 おそらくアルナはさっき見た限りでは、その時に使われたウイルス、『ブラックダスト』だろう。」
「!!それでアルナは大丈夫なんですか!?」
「さあな。ただ、あれはコーディネーターには効きづらいし、症状も割と軽かったし、大丈夫だろう。まああのまま放っておいたら流石にまずかったが。それに、治すってさっき約束しちまったしな。」
 ほっと胸を撫で下ろす。
「『ブラックダスト』は主に二つの症状がある。まぁ、それは実際に症状を間近で見ていたお前ならわかるよな?」
 おそらく 1、血の固まりが遅い、 2、高熱 の二つだろう。実際に殺すのは高熱なのだろうが、大量出血で動けなくさせたり、あるいは失血症で死ぬ可能性もあったのだろう。
「それともう一つ、さっきお前とギドーを戦わせた理由なんだが、実はうちの会社は生物兵器ともう一つ、開発中の兵器がある。それは人の体に機械のパーツを使い、コーディネーターやブーステッドマン以上の身体能力を身につける、要は人をサイボーグ化させるというものだ。」
 どうもおかしな話になってきた。もしかしたら…。
「ちょっと待ってください。もしかしてそのサイボーグになる人間って…。」
「察しが良いな。そう、お前に是非、サイボーグになって欲しい。さっきのケンカの腕、お前なら充分に素質がありそうだ。」
 なんとなく、話の感じで察しがついた。が、
「……断ったらアルナの治療を放棄する、ってことですか…?」
「アルナはお前がなんと言おうがちゃんと完治させる。だが、お前は決して断ることはできないぜ。」
「…………。」
「アルナはちゃんと治す。お前の断りも了承したとする。だが、お前はそれからどうやって生きるんだ?
 ここはもう地球軍管轄の地域だ。お前らコーディネーターはもうここにはいられないんだ。
 仮にこの施設をでても、すぐに地球軍に見つかって殺されて、THE・ENDだぞ。」
 目の前に現実が叩き付けられる。八方塞り、四面楚歌。ソウ達はここ以外にもう頼れるところは無い。
「だがお前がサイボーグ化になると言えば、アルナをプラントへ保護させる。機械化したお前はザフト軍に入って活躍する。それならお前らは生きていけるが。」
 過酷だ。これではソウとアルナはもう死んだも同然ではないか。このフィルモスという男を頼る以外、二人は生きていけない。いや、それでは駄目だ。それではあのアルナを護るという約束を破ってしまう。もうアルナ以外、何もかも無くしてしまったソウが生きる理由は無い。そんなことなら…。
「わかりました。サイボーグでもなんでも協力します。だから…アルナを…アルナを助けてください…!」
 苦渋の選択だった。

 C、E71、6月22日、ソウとほぼ病が治ったアルナは、ザフトの基地であるビクトリア基地のマスドライバーによって打ち上げられたシャトルに乗っていた。
「あの。」
「んん?」
 ソウが前に座っているフィルモスに話し掛ける。このシャトルはインダストリアル社が貸しきっているらしく、そう達3人と操縦士達以外は誰も乗っていない。
「ここってザフトですよね?」
「そうだよ。それが?」
「この間は地球軍に協力していたのに、なんで今度はザフトにいるんですか。それに、この間質問し忘れたけど、なんで俺はザフトに入れるんですか。おかしいでしょう。」
「ああ、インダストリアル社はイリュージョン社って名前でザフトとも関係があるんだよ。てか、ジンの動作とかOSなんかはうちの会社が原案作ってたんだぜ。すげぇだろ。」
 確かにすごい。いろいろと。
「あの〜…。」
 今度はアルナが質問をする。この間が嘘みたいに元気だ。
「私達ってこれからどこにいくんですか?」
「宇宙にある本社。そこでアルナちゃんは数日間の最後の検査を受ける。で、さっき言った通り、ソウはコーディネーターからサイボーグにクラスアップ!するわけ。」
 妙にノリノリにフィルモスが答える。実はソウのサイボーグ化手術の執刀がフィルモスで、それが楽しみなのだ。
「……ごめんね、ソウ。」
「いや、なんで謝るの。」
「だって、あたしのでいで、あたしがあんな熱だしたりなんかしなければそんな…、ロボットになんかならなくてよかったかもしれないのに…。」
「いいんだよ。別に。アルナが気にすることないよ。」
「でも…。」
「だから大丈夫だってば。だから元気だしてよ。ね?」
「うん…。ロボットになっちゃっても、また会えるんだよね?」
「そのはずだよ。確か。ですよね?」
「多分な。ザフトはそのへんの規律とか厳しいわけでもないし、また会えるだろ。」
 シャトルはインダストリアル社(またはイリュージョン社)の本社のコロニーに近づいていた。

(第二話  完)


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