〜第40章 それぞれの真理〜

「シー・・ト・・・・さん? ・・え・・・・なに・・・なにが・・・。」

混乱するリトにシートが言い放つ。

『カレッジの時からそうだったが、とろい女だな、お前は。・・・簡単に言ってやろうか? 騙されていたんだよ、お前は!! 』
「・・・・・そん・・・な・・・お! ・お父さんは・・・!? 」
『ついでだから教えてやる、あの日リューグゥでマクノールとケインを殺したのもこのオレ。さらにいえば、オレの正体を見抜いたミコト・アーキオを殺したのもな!! そしてオーブでコウの目の前でオレを部下に殺させたのも全て計画さ。リト、それにコウ! お前達を苦しめ、利用するためのな!!! 』
「いや・・・・・・・嘘よ。嘘って言ってよぉ!! 」

泣き叫ぶリト。そして、怒りをあらわにするコウが叫んだ。

「一体何のために・・・なんでこんな事をするんだ!!! あなたは!!! 」
『・・・許せないじゃないか。』

シートは静かに、そして冷たく言い放った。

『あの、メンデルの施設で生まれた者、関わる者・・・その全てがな!!! オレはあの施設のせいで、弄ばれてこの世に生を受けたのだぞ!!! マクノール・アーキオのクローンとして!!! 』
「「『!!! 』」」

コウ、リト、アモンの心に衝撃が走った。
そう、シートもメンデルズチルドレンの一人だったのだ。

「しかも、オレは散々弄ばれた挙句の果に失敗作として廃棄されたのさ。テロメアの周期が短くて長くは生きられない失敗作としてな!!! 見せてやるよ、オレの記憶を!!! 」

高感度通信リンクシステム≪シンタク≫によってつながったイザナギとイザナミに乗るコウとリトの脳裏にシートの記憶が入り込む。

メンデルで辛い実験をされて廃棄された後の記憶も・・・。

廃棄されたシートはあるところに引き取られた。それは、オーブのイソラ家。クローン技術に関心を持っていたイソラはシートを引き取って養子としたのであった。
『シート・ロア・イソラ』となったシートを待っていたのは、更なる実験の日々だった。人間として生きる事が許されないのなら、いっそ死んでしまおうか。
そう思ったこともあったが、たった一つのことがシートを生きながらえさせた。
それが、兄弟達のこと。正確には兄弟ではないが、メンデルで同じように検体として誕生した他の子供達のことを糧にして生き延びていった。
しかし、彼以外の人間のほとんどが何不自由なく普通に生活していると言う事を知ってしまう。
コウ、フルーシェ、ナターシャ、リト、ロイド、キラ。
ディノやカナード、セフィは同じように検体として―もしくはそれに近い―生活をしているというのに、ヤツラは・・・・。
その時、幼いシートの中で何かが音を立てて壊れた。
そして、イソラ家は謎の惨殺事件によって断絶する事になる。
生き残りはシートと義兄のシャクスのみだった。

『メンデルの罪を誰も裁かないならオレが裁く。そして、メンデルの宿命を背負うことなく生きているメンデルズチルドレンどもも、それを許すこの世界も・・・・みんな消してやる!!! 』

当時たった5歳の少年の言葉 ―マクノールの声であったが― に騙され、オーソンとロンドは部下となった。そして、メンデルのユーレン・ヒビキの右腕であったウズメは、自分をトップとしたさらなる自由な実験と研究の為にあえてその傘下に加わる。その最初の仕事がメンデル襲撃であった。

そして、工業カレッジでコウとリトを同じサークルに勧誘したのも計画だった。2人を愛し合わせどん底に叩き落し、そして殺し合わせる。そんな下卑た計画の元での事だった。
それだけ、シートは特にリトが許せなかった。
自分が生まれた事で、普通のナチュラルとして生を受けて両親と暮らすリトが!
オレは・・・リト・アーキオの身代わりじゃない!!!

「・・・そんな・・・シートさん・・・・。私は・・。」
「コウを憎ませ、殺させてから真実をぶちまけるつもりだったが、もうどうでもいい。充分ショックだったろう? 本当に愛してくれた男を殺そうとしたこの数週間。そして、自分の父のクローンの偽りの愛に全てを捧げてきた愚かな自分に!!! 」
「わ・・・私は・・ああ・・いやあああああああああああ!!!! 」

リトが大きな声をあげて涙を流す。それを見てシートは高らかに笑った。

「シートォォォォォォ!!!!!!! 」

コウが怒りながらイザナギを動かそうとするが、それどころか体が動かない。

『無駄だよ、コウ。動けまい? ・・・これこそが、真の『プロジェクト・メオト』!!! イザナギとイザナミ、そしてコウ・クシナダとリト・アーキオの真のあるべき姿だ!! 』
「な・・・どういうことだ!!!? 」
「『プロジェクト・メオト』とは、新たな神の世界などを作るためのものじゃない。目的は大きく二つ。一つは、オレの体を作る事!! もう一つはメンデルズチルドレンを生かすこの世界を消す事だ!! メンデルズチルドレン自身の体を使ってな!! 」

テロメアの周期が短く、余命いくばくもなかったシートが一番先に考え欲するもの。それは、永久に朽ち果てる事のない健康な体。
シートはそのために自分の全記憶をMIHASHIRAシステムに埋め込み、『御柱』としてAIになる事を選んだのである。その器となる体は世界を滅ぼす事のできるような強力なMS。
しかし、MIHASHIRAシステムには致命的な欠点があった。現段階ではMSの繊細かつ完璧な操縦はナビゲーターだけでは不可能だったのである。それを伝達する意識と体が必要だった。そこで、考え出されたのが『プロジェクト・メオト』であった。
シートが支配できる2神の究極のMSを作る事。そして、完全に意識を共有した2機で1つの絶対の破壊神の操縦をつかさどるパーツとして2人のパイロットを人柱とする。いや、MIHASHIRAシステムのダメージを受ける以上は、むしろ消耗パーツという方が正しいだろう。
この2機にコウとリトを乗せる為のパイロットロックが、メンデルズチルドレン以外の人間の搭乗拒否だったのである。

今正に、コウとリトは夫婦神の『人柱』として、シートに支配されていた。
意識を共有するコウ、リトの2人は、今究極の破壊神となったのである。

「・・・さあ、フィナーレと行こうか。まずはこの宙域にいる邪魔な人間全てを『食らってくれる』!! 」

イザナミの背部が、輝き出す。
否、その輝きは暗黒の闇。
イザナミは空間転移システム≪アメノウキハシ≫を全開にしてその宙域を次々と転移し、無数の暗 黒の欠片をばら撒いていった。

『周囲吸収型エネルギー生成永久動力『ヨミノクニ』、発動!!! 』

イザナミの体が輝きだし、暗黒の欠片・ウィルス展開チャフ≪シスルシルベ≫を伝って稲妻が全天に駆け巡った!



「マナ艦長!! 何らかのウィルスが散布されてるぜ!! ・・・な・・これは・・艦のエネルギーが急速に奪われている!!? 」
「な、なんですって!? 」

≪ヨミノクニ≫とつながったその宙域『全て』のMS・戦艦から大量のエネルギーが放出されてゆき、イザナミの元へと吸い取られてゆく。
それは、他のコトアマツカミや従神達のMSも例外ではなく・・・。

そこではレッドフレームと対峙するゴールドフレーム天が動揺を見せていた。

「くぅぅぅ!! 主神!! これは一体、どういうことです!!! 何故!!!? 」
「裏切られたんだろ。悪党の末路なんて、そんなものだぜ。ロンド! 」
「ええい、五月蝿いわ!! エネルギーが吸われてゆく上に刀を私に折られたお前に、何が分かる!! 死ね!! 」

やり場のない怒りに燃えるゴールドフレーム天が満身創痍のレッドフレームに迫る。

「オレはアンタを認めねぇ!! だから、負けられねぇんだ!! だが、どうする・・・どうしたらいいんだ・・。」
「戦う気力がある限り、負けたとは言えない!! 」
「!! アンタは・・・」

レッドフレームの元に駆けつけたのは・・・

「ブルーフレーム!! 叢雲劾っ!! 」
「ロウ・ギュール、お前の信念を貫け! お前の作ったタクティカルアームズ!! これを使え!! 」

ブルーフレームの背部に背負う翼型のユニットが、巨大な刀剣型の武器となり、レッドフレームに託される。

「よっしゃああ!!! 」
「こけおどしが!! プロト03ともどもここで散れ!!! 」

レッドフレームのタクティカルアームズとゴールドフレームの≪マガノイクタチ≫が激突する!
そして、

斬!!

ゴールドフレームをレッドフレームが斬りつけた。

「ばかな、右腕が・・動かないだと!? ありえん!! そんな・・私は・・・この世界を統べる主神のぉぉぉ!!! 」
「残念だったな・・・・。」

そして、ブルーフレームのアーマーシュナイダーがゴールドフレームのコクピットに突き刺さった。

「がはっ・・・・・主・・・神・・・・。」

コトアマツカミの一人、オーブ五大氏族サハク家当主、ロンド・ギナ・サハク、死亡。
主神の裏切りと愛機の裏切りにより、彼は悲しい最期を遂げた。

「ガイ! 」
「敵は倒せるときに倒す。それが傭兵のやり方だ。それに、失われた幻想にとらわれたあいつは今までで以上に危険なものになるだろう。守るためには非情な決断も必要だ。・・・甘いお前には、それでも認められないことかもしれんがな、ロウ・ギュール。」
「・・・いや、助かったぜ。お前が来なきゃ、やられてた。あの黒い欠片のせいで、もうエネルギーが底を付いちまったみたいだ。ビームの一つも撃てやしないぜ。」
「・・フ、何。地球軍、バルバトス・ザガンの依頼、任務だからな。オレのブルーフレームの燃料も底を付きかけているが、交戦しているイライジャ達とあのイズモ級戦艦が心配だ。それに、じっとしててもエネルギーは放出されているようだ。戻るぞ、ロウ! 」
「ああ!!」

2機のプロトアストレイは、エネルギーを失いながらも母艦へと駆けた。



「・・・シートが最後の仕上げに入ったようね。じゃあ、こっちも『出そう』かしらね。」

ウズメの言葉と共に、エターナル級2番艦アザゼルのカタパルトハッチから無数の黒い影が宇宙へと投げ出される。
その投げ出された影は、機械的な動きで次々とM1Aアストレイやレイダーまでもを撃墜していった。

「・・・メンデルでユーレンの元にいた時から研究に研究を重ねてきた。そしてフジヤマ社の元社長をたぶらかし、フジヤマ社をのっとって作り上げた私の最高傑作、モビルドール『オオキミ』! まだ、人間の操縦には全然叶わないけど、いつかは完全なるシートの体になる機体よ。これは量産型だけどね!! 」

人が乗らずにMIHASHIRAシステムが運用する実験型無人MS、モビルドール。
そのモビルドール・オオキミの群れが今度はタケミナカタに迫る!
バイザーアイを採用したその漆黒の機体の姿は・・・

「艦長! 敵艦からMS発進!! 数・・・5・・・・50!? どうやって乗ってたんだ?? 」
「しかも・・光学映像見てみい!! あの姿・・」
「・・黒いス・・・スサノオ!? 」

よく見るとスサノオだけでなく、バイザーアイのアマテラス、ツクヨミ、カグヅチの4種類のオオキミが存在していた。
武装はもちろん・・・・・・ミコトと同じ!

数機のオオキミから放たれた≪ツムハノタチ≫の超高熱空斬がクラウディカデンツァ、イライジャ専用ジンに襲い掛かる。
それは、彼らと交戦中だったオーソンのヴェルヌ35A装着ゲイツにも同様に。

「何をするのだ!! ウズメ!! 」
「オーソン。もう神様ごっこはお開きよ。シートの本当の野望が幕を開けた今、あなたは本当の邪魔者なのよ。利用価値のある従神と違ってね。」
「なんだと!!!? 争いのない真なる神の世界を共に作り上げてゆこうと誓ったではないか!! 」
「ああ、あれは嘘ね。・・・主神の・・いえ、『主神を語っていた』シートの願いは世界の滅亡。そして、リトとイド・・・その他のメンデルズチルドレンの消去ですもの。・・・私のオオキミの糧におなりなさい! 」
「私は・・・そ、そんな・・・・。」

平和な理想世界を作っていけるのだと信じていた。それをなせる主神の元で働ける事を、彼は誇りに思っていたのだ。それなのに・・・。
裏切られ、世界を救うどころか消そうとする者に加担してきた自分にオーソンは絶望していた。
その隙を付いて、3機のオオキミが竜巻発生装置≪テング≫をゲイツに放った。

「ぐああああああ!!! 」

ゲイツが吹き飛ばされ、ヴェルヌ35Aから引き剥がされる。そこに、別のオオキミが11.14メートル級シャムシール型重力刀≪ミカヅキ≫を2本構え、その重力の刃をオーソンのゲイツに振り下ろす!!

ドォォォォン!!!

轟音と共に消し飛んだのは、そのオオキミ。
クラウディカデンツァの胸部580ミリ複列位相砲≪スキュラ≫の光が貫いたのである。

「おっさん!! 何ぼ〜っとしてんだ!! 死にたいのか!! 」
「君・・・私は敵だぞ・・!! 何故助けた!! 」
「うるさい!! オレ達は決めてるんだよ!! 救える命は救うってな!! 戦う気がないんなら、どっかいってろ!! このユニット、借りるぜ!! 」

ヴェルヌ35Aをクラウディカデンツァが装着して、強力な火力とエネルギーを補給した。
ミーティア改の異名を持つその飛行モジュールから無数の火線が迸り空域のオオキミ達をことごとく破壊してゆく!

「ひるまず、ティルに続くのよ!! エネルギーが尽きる前に、全機落とします!! 目標、黒い敵MSをかすめながら敵母艦!! 『ローエングリン』、てぇ!! 」

アザゼルに向けてタケミナカタの主砲が放たれる。

「エネルギーを奪われもはや風前の灯の癖に、こしゃくな!! アザゼルの主砲を食らうがいい!! 」

アザゼルからも単装の強力な主砲がタケミナカタに向けて発射された。

「で、あんたはどうするんだ。」

損壊したゲイツを支えながらガイとともに駆けつけてくれていたイライジャがオーソンに聞いた。

「・・・今からでは、遅いだろうな・・・・。だが、罪は必ず償おう。私は・・大きな過ちを犯してしまったようだ・・・。」
「・・なら、タケミナカタに乗せてもらおう。あんたのゲイツじゃ戦闘はもう無理だ。」

コトアマツカミの一人、プラント評議員の一人オーソン・ホワイト。
彼の理想郷の夢は主神の裏切りによりもろくも崩れ去り、戦線を離脱。



「・・・一体どうしたというんだ? 」
「イオ!! 」

フエンとデュライドはカグヅチの降らした蛇の群れ・50連装誘導プラズマ砲≪ヤオオロチ≫を何とかしのいでいた。いや、途中から明らかに蛇の群れの動きが鈍ったのだった。それがなければ今頃は・・・。

「ぐぅぅ!!! 頭が・・・頭が割れるように・・・・痛いぃぃぃ!!!!!! 」

突然襲ってくる頭痛がイオの動きを止めていたのである。そして、

「・・・フエン! 気付いているか? 」
「はい! ・・・エネルギーが・・どんどん減っている!! いや、放出されているのか!? 」
「ちっくしょおぉぉぉ!!!! 何なんだよ、この頭痛はァァァ!!! 」

≪ヨミノクニ≫はMSだけでなく、MIHASHIRAシステムにも影響を及ぼしていた。それゆえ、『従神』である彼にとって、≪ヨミノクニ≫の発動は筆舌しがたい苦痛を伴うのであった。
追い討ちをかけるかのように漆黒の機械人形達がその場に飛来する。
そして、一斉に砲撃を開始し始めた。・・・・・カグヅチにまでも!

「ぐわあああ!! な・・なんだこいつらぁ!! 邪魔を!!」
「・・・黒い・・ミコトだと!? 」
「・・・イオ!!! 逃げろ!! 」

ヴァイオレントとイルミナはオオキミの機械的な攻撃を難なくかわしながら迎撃したが、頭痛に苦しみ我を忘れかけているカグヅチは動きものろく、その攻撃もオオキミにはかすらなかった。それどころか次々にオオキミの≪テング≫や≪タルタマ≫、≪ツキノイシ≫を被弾してゆく。

「お前らぁ・・・・・・やめろぉぉぉぉ!!!!! 」

イルミナのカメラアイが今まで以上に一際強く輝いた。

「・・・加勢するぞ、フエン!! 」

そして、並走するようにヴァイオレントも加速する。

「「はああああああああああ!!!! 」」

2機の月の使者達がその宙域のオオキミたちを次々に撃墜してゆく。
イルミナのビームサーベルが!ヴァイオレントの≪デュランダル≫が!!無数の爆発の光が瞬く間にその宙域を埋め尽くした。
これが、真の勇者達の『想い』の力。

イルミナとヴァイオレントがカグヅチに近づいて通信を送る。

「イオ! 大丈夫かい? 」
「・・・おまえは、どうやら裏切られたようだな。イオ・アステリア。」
「イオ、帰ろう。オレ達と一緒に。今ならまだ・・」

その時、カグヅチの両肩が大きく広がった。

「隙ありィィィ!!! 死ね・・フエ」

ドォォォォォン!!

その瞬間カグヅチは≪エッケザックスモード≫の≪デュランダル≫によって斬り捨てられ爆砕した。

「デュ・・・デュライドさん!!!! なんで!!!! 」
「・・・オレを恨め、フエン。」

デュライドの言葉にフエンは驚く。

「お前を助けるためとはいえ、オレが今した事はお前の友人を討ったという事。むしろ、恨まれた方が・・・楽かもしれん。」
「・・・いえ、ありがとうございました。すみません。本当は・・・・オレが・・・。」

フエンの瞳から一筋の雫が伝う。

シュゥゥゥ。

ちょうどその時、イルミナのPSとヴァイオレントのTPがダウンした。

「エネルギーも尽きたようだな・・・。だが、」
「ええ、もちろんです。みんなを・・姉さんを助けに行かないと!! 」

2機の月の使者たちはその宙域を後にした。

「・・・・・さようなら、イオ。」

コトアマツカミ、『従神』の一人、『紅炎の神童』イオ・アステリア、死亡。
彼は最後までフエンとの戦いにこだわった。自分の生きる事よりも、コトアマツカミの裏切りよりも今の戦いを優先したのだった。彼はそういう意味では、悔いはなかっただろう。


「・・・私、生きてる?」
「・・・エレイン!これで分かっただろう!!」

ボディパーツごとメリリムのイカロスを撃ち抜こうとしていたエレインの手は止まっていた。マステマも、ワイヤーにからめとられたイカロスも既にTPがダウンしている。
激しい頭痛と裏切られた事に苦しめられるエレイン。

「く・・・・私は今まで、何のために!! 」
「・・・今からでもまだ間に合うさ。オレ達と一緒に行こう!! 」
「そうです! きっとみんなも温かく迎えてくれるはずです。いきましょう、エレインさん。」
「・・・・こんな事をした・・私でもいいというのか・・・・? 」
「「もちろんだ」「もちろんです」!! 」

エレインの瞳が潤み始める。
しかし、

ズガァ!

無数の砲撃が、パニッシュメントの各パーツを襲う。

「エレイン!! 大丈夫か!? 」
「・・く・・ああ、なんとかな。だが、これは・・? 」
「・・黒い・・・ミコト!? 」

無数のオオキミ達がここにも例外なく飛来していた。囲まれる3機。エネルギーが底を突いたマステマ、イカロスと激しい頭痛に襲われるパニッシュメントにとって圧倒的に不利な状況であった。
そして、エレインが突然意外な言葉を口にする。

「・・・フフフ、やはり甘ちゃんのお前たちと共に行くなど、ごめんだな。」
「エレイン! 何を言って・・・」

その瞬間、パニッシュメントの右腕がマステマの首元を掴み、ボディパーツのワイヤーが絡まったイカロスともども吹き飛ばされた。 

「ぐあ!! 」「きゃあ!! 」

 マステマとイカロスはそのままその宙域から遠ざけられてゆく。

「・・・メイズ。今度こそその子を・・・・幸せにしてあげなさい・・・・・・。」

エレインの指が、一つのスイッチを押した。

ドォォォォォォォォォン!!!!!!

それは、自機の核エンジンを暴走させる自爆装置だった。その宙域に広がる光が、オオキミたちを一瞬の内に飲み込んでゆく。

「エ・・・・エレイーーーーーーン!!!! 」
「エレイン・・・さん。なんで・・そんなぁ!! 」

コトアマツカミ、『従神』の一人、『白薔薇』エレイン・ホワイト、死亡。
過ちに気付き、最後に愛する心を取り戻した彼女は今、満たされながら天へと昇った。

「オレは・・・・守れなかった・・・あいつを!!! 」
「メイズ・・・・でも・・・まだ私たちには守らなきゃいけないものがあるはずです!! エレインさんの分まで!!! 」
「・・・そうだな・・・。行こう、タケミナカタのところへ! 付いてきてくれるな、メリィ。」
「はい。メイズと一緒なら!! 」

悲しみに暮れる時すら与えられずに二人は仲間の元へと駆けた。



「ぐ・・・・始まったようですね。シートの計画が・・・! 」
「先生!!? 」
「どういう事だ、シャクス! 」

苦しみだし動きが鈍くなるコスモフレームに月式とツクヨミが駆けつける。

「フフ・・いいでしょう。どちらにせよ始まったのならお教えしましょう。私の・・・・イソラの大罪を! 」
「・・イソラの・・・大罪? 」

CE54−。
シャクスが12歳の時の事だった。突然イソラ家に養子が入ってきた。
シート・ロア・イソラ。イソラの名を与えられたその4歳の少年はシャクスの義弟となった。オーブでは五大氏族以外首長になる事は出来ないという掟があった。かといって、血縁のものだけが首長を治めてゆくのでは向かない人間も必ず出てくるし、断絶だってありうる。そこで、養子などにした子供に跡を継がせるということも多々ある事だった。
シャクスは、イソラ家のたった一人の長男だった。そして、彼もオーブの為に父の後をついで立派な首長になる事が夢だった。
それなのに・・・・。
シャクスはシートの事を憎んだ。シートが自分より優秀であると父に見初められて連れてこられたと考えたからであった。
シャクスは普段無口なシートを事あるごとにいじめたのである。いや、彼にいじめているという意識はなかった。ただ彼の態度がそうシートに感じさせるほど冷たいものだったのである。
しかし、その感情は一変する。偶然父の部屋で見つけたデータにシャクスは驚いた。それは、詳細な人体実験のデータ。
シートのものだった。
シャクスは同じ家にいるというのにシートの姿をあまり見かけていなかった。自分と同じくどこかの学校に通っているものと思っていたのだが、シャクスが見かけない時間のほとんどはシートは実験の為に『使われて』いたのだった。
シャクスは激しく動揺する。自分の今までの仕打ちも、父の・・・いや、イソラ家のやっていることにも。

そして、その一年後。
イソラ家は滅亡する。容疑者は2名。しかし、その2名がその生き残りだった。シャクスとシートである。兄弟の追及も及ばず、謎の大量殺人事件とされたその事件は謎を残したまま迷宮入りとなった。それから程なくして、メンデルも襲撃される事になる。
その真相は・・・。

「・・シートが父や母を殺したのです。たった5歳の少年でしたが彼もかなりのコーディネイトが施されたスーパークローンです。突然人が変わったように、屋敷の人間を皆殺しにしました。そして、その時外出していた私が帰った時に、私はその現場の偽装工作を手伝いました。」
「な・・なんでです!!? 」
「シートの受けた仕打ちと、イソラの罪を償うためです。その懺悔のためなら私は弟に協力を惜しみませんでした。弟の心が少しでも晴れるというなら。」

その後、シートは行方不明となり、シャクスもイソラ再興を放棄したまま名をシャクス・ラジエルと変えて地球軍に志願する。そこなら人の為に働けて、そして死ねると思ったためである。
士官学校を卒業したシャクスは、フジヤマ社建設のリューグゥに派遣される。そこで、運命の再会を果たした。

『・・・久しぶりだな、シャクス兄さん。』
『・・・シート・・なのか? お前、今までどこに! 』
『そんな事はどうでもいいのさ。それより、手を貸してくれないか。断る事はできないよな。あんたたちのしでかした罪はそれほど軽いものじゃないんだから。』
『・・・・何をする気だ。』
『さすが兄さん。話が分かる・・・・。』


「・・・そこから先はあなた達の知っている通りです。・・そして、アモンの戦闘機に不具合を生じさせたのも・・・・この私! 」
「「!! 」」
「全ては、ミコトを手にし、シートの野望、世界の破滅とメンデルズチルドレンの抹殺を叶える為に!! 」

シャクスの告白にナターシャとディノは驚愕した。

「そんな・・・だからといって、弟の言いなりになって生きてきたと言うのかい、シャクス!! 」
『ディノの・・・・・言うとおりです。そんなものは、・・・・懺悔にも何にもなりはし・・ない。』

ディノと≪ヨミノクニ≫の影響で苦しむニコルが口にした。しかし、

「わかっているさ、そんな事は!!! 」

シャクスは吼えた。

「分かっているとも。それでも・・・・私は!!! 」
「・・・なら、私が止めてあげます。」

ナターシャが静かに言った。

「先生の気持ちは分かります。私はお姉ちゃんが出生の事で苦しんで、家出までした事をつい最近まで知りませんでした。力にも・・・なれなかった。だからもし、私が先生と同じ立場なら同じ事をしたかもしれません。・・・・でも、過ちは過ちです。」
「・・・そうですね。なら、私はあなたを向かい討ちましょう。過ちを貫き、そして私が死ぬ事でイソラの血縁を絶やすためにも!! 」
「私がそんな事はさせません!! 絶対に!! 」
「ボクにも手伝わせてもらうよ。ボクもバカな兄貴をもっている・・・・同じ気持ちだからね。」
「来い! ナターシャ、ディノ!! 」
「「はい!! 」「ああ!! 」」

激しい頭痛に襲われて動きがすこぶる鈍るコスモフレームに強襲型MA変形機構≪フェンリル≫となった月式と、2本の11.14メートル級シャムシール型重力刀≪ミカヅキ≫を構えたツクヨミがそれぞれ迫る。

「無駄だァ!!! 」

コスモフレームの宇宙色のフレームからまばゆい光が迸る!!
最強の≪シャイニングフレーム≫の光が、2機の月の神を向かい討ち、飲み込もうと迫る!!

「ナターシャ!! ボクの後ろにつけ!! 」
「ディノ! ・・・はい!! 」

「ナターシャは命に代えてもボクが守る!!! 」
『当然で・・・す!! さあ、行きますよ!!! 』

ツクヨミの体から正面のコスモフレームの方向に向かって試作型反重力フィールド発生装置≪ヤタノカガミ≫が展開された。
そして、ビーム流をものともせずに突き進む。
ビーム流が止むと共に、ツクヨミの≪ヤタノカガミ≫もダウンした。
しかし、すぐさま2陣目の≪シャイニングフレーム≫が放たれる!

「いけぇ!! ナターシャ!! 」
「はい!!!! 」

ツクヨミの影から≪ヤタノカガミ≫を展開した≪フェンリル≫が飛び出し、ビーム流の中に両肩の大型ヒートブレードを構えて飛び込んでゆく。

「先生ぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!! 」
「ナターシャァァァァァ!!!!! 」

ズガァァァァァ!!!!

ナターシャの想いが、コスモフレームを貫いた。
しかし、貫いたのはコスモフレームの両腕。
接触するコスモフレームと月式。そして、頭痛で脂汗を流すシャクスが話しかけた。

「・・・本当に立派になりましたね。もう、私の教えることも・・・ないでしょう。」
「そんな事ありません!! 私は、先生にもっとたくさんのことを教わりたい!! だから!! 」
「無理ですよ・・・私の手は・・汚れすぎた。体も・・心も・・・全て。」
「それでも!!! 先生の帰りを信じて待っている人がいるんです!! 先生を・・・愛している人が!! 」
「・・・マナさん・・・・。私は、アモンを・・・彼女の最愛の兄を・・・親友を、この手にかけたのですよ。死ぬ以外の償いなど・・。」
「なら、私も死にます!! 」
「ナターシャ・・・? 」
「先生が帰らないというなら、私も今ここで死にます!! 絶対に!! 」

ナターシャのその強く・・そして思いのこもった言葉を聞いて、シャクスの頬に一筋の雫が伝う。

「・・・やれやれ、暫く見ないうちに、随分と我がままになりましたねぇ。」
「・・・はい。ディノのせいです。多分。」
「心外だな。いつボクがわがままなことを言った!? 」
「「『いつもでしょう? 』」」

ナターシャ、シャクス、そして苦しむニコルからも突っ込まれるディノ。

「・・う・・・まあいい。それより、2人はタケミナカタへ戻れ! 」
「! ディノは!? 」
「・・・『兄さん』が多分苦戦してるのさ。・・・世話の焼ける兄弟を持つと、苦労する。艦は頼むぞ、二人とも!! いけるかい? ニコル。」
『ええ・・・なんとか。』

ツクヨミはイザナギの元へ、そして月式とコスモフレームはタケミナカタの元へと駆けた。



「そんな・・・・なんでよぉぉ!! 」

ペルセポネは激しく動揺していた。
頭を襲う頭痛などは気にも留めないかのように。
アマテラスを縛っていた≪テンプテーション≫のコントロールも今は解除されていた。
≪ヨミノクニ≫にエネルギーを吸収された寄生ユニットが剥がれ落ちたのである。

「シートさんが・・・私を、裏切ったというの!!!? 」

そして、エリス達も

「フルーシェ! 大丈夫か!? 」
『・・く・・・大丈夫・・・ですわ・・・。でも』
『どうやら・・エネルギーを吸われているみたいだな。ミコトは基本的には永久動力・・・だが、オレ達AIには堪えるみたいだ。』
「ミゲル!! くそ・・・コントロールは解けたみたいだけど、なんなのよ!! 一体!! 」

苦しみを振り払うかのように、ペルセポネは言い放った。

「そうよ、シートさんが私を裏切るはずはないわ。これは、私に来いってことね。今・・・今行くわ、シートさん。私と同じ・・・・生まれながらの病を持つあなたを愛せるのは、私だけなんだから!!! 」

そう言うと、アフロディーテはイザナミの元へと飛び去っていった。

「あ・・・ペルセポネ!! どこへ行く!!? 」
「ブリフォー! 追いましょう!! この黒い欠片、多分・・・!! 」
「ああ! イザナミの仕業だろうな。イザナギの『ホシフルシルベ』、『ヒイズルクニ』の力に似ている! フルーシェ、ミゲル! 少し我慢しててくれよ!! 」
『当然・・ですわ。コウ・・を・・・』
『覚悟を・・決めて・・・構わずに行け! 』

2機のミコトもまた、イザナギの元へと駆けて行った。
今、神々の戦いの最終章の幕が開ける!

〜最終章へ続く〜



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