〜最終章 常しえの誓い〜

「あああああああああああ!!! 」

イザナミのコクピットは凄惨な光景であった。
周囲吸収型エネルギー生成永久動力≪ヨミノクニ≫を惜しむことなく全開で発動した事で、パイロットであるリトの体には大きな負担が絶え間なくかかり続けていた。すでに、パイロットスーツのヘルメットの中は、吐血で真っ赤に染まっている。

「リトォォォォ!!! やめろ・・やめてくれ、シートォォォ!!! 」

精神が同調しているコウの中にリトの心が流れ込んでくる。
その苦しみも。今までの、辛さも、切なさも・・・。
そして、本当はコウに助けてもらいたかったことも・・・。

リトの中にもコウの心が流れ込んでくる。
離れていても、今までリトのことを忘れたことも、想わなかった日も一日だってないことを。コウがどれだけの決意で今までミコトに乗り続けていたか、その苦しみを・・・。
そして、今も自分のために戦おうとしてくれていることも・・・。

やっと通じ合うことが出来、それによってより一層自分自身を攻め立て苦しむ二人を感じて一人の男・・・いや、『神』が嘲笑する。

「ハーッハッハッハッハッハ!!! いい様だな、リト、コウ!! 己の存在を思い知り、苦しむがいい!!! その苦しみが、イザナミに力を与えてくれるんだからな!! 」

エネルギーがどんどん蓄えられるイザナミ。

「シートさん!! 」

そこに来たのは、アフロディーテ。病を抱える『ディナ・エルスの聖女』、ペルセポネ・ディナ・シーだった。

「シートさん!! 私、助けに来たわ!! 」
『助けに・・・だと? 』
「ええ、だって頭痛がして・・・シートさんが呼んでるって!! 」

普段の大人びた雰囲気の彼女はそこにはいなかった。必死にシートに話をする彼女は、年相応の14歳の少女の姿だった。

『・・・愚かだな、ペルセポネ。・・・愚かな女は嫌いなんだよ、オレは!! 』
「え・・・・・だって・・・・私とシートさんは・・。」
『もうオレはお前とは違う! 永遠の魂と永遠の肉体を持ったのだ!! 欠陥品であるお前に、オレの伴侶などが務まるとでも思ったか!!! 身の程を知るがいい!!! 』

輝くイザナミがアフロディーテの背後に現れる。
そして、4本のビーム羽衣≪アマノマホロバ≫が宇宙を舞う!

『オレのために尽くしたいのなら、ここで死ね。目障りだ! 』
「ぺ・・ペルセ・・・に・・逃げ・・・てぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!! 」

リトの叫びも空しく、≪アマノマホロバ≫が振り下ろされた。

「・・・・・・勝手なこと言ってくれわるね、あなた。」
「まったく、胸クソ悪いったらないぜ! 」
「ホント・・・目障りなのはあんただよ、『主神』!! 」

そこには、アフロディーテを守るように飛来した3機の姿があった。
太陽、嵐、月の力を司る日本神話の三貴神の化身。
東アジアガンダム『ミコト』の名を持つその3機は、それぞれの盾となるエネルギー拡散反鏡盾≪オキツカガミ≫と試作型反重力フィールド発生装置≪ヤタノカガミ≫を展開させて立ちふさがっていた。

『ほう、いまさらミコトが3機やってくるとはな。『従神』どもは死んだかな。』
「他の奴らは知らないけど、シャクスはあんたを見限ったよ! シート・ブルーノ。いや、シート・ロア・イソラ!! 」
「ディノ!! それは本当か!!? 」
「ああ、・・・それより、なんて様だい? 」
「本当だな。コウ。」
「全くね・・。でも!! 私たちが来たからには、あなたに負担ばかりかけさせはしないわ!! 」

3機のミコトのカメラアイが輝く!

『ほう、そんなに死に急ぎたいなら先に逝かせてくれよう。その方が、コウの苦しみも増すだろう。・・・コウの愛するリトの手によって、ここで果てろ!! 東アジアガンダムども!! 』
「ペルセ!! 君はさがってろ、ここはボク達がやる!! いくよ、エリス、ブリフォー!! 」
「「了解!! 」」

アマテラスが宇宙を焦がす!!
攻防兵装システム≪トクサノカンダカラ≫の10種の神器から対艦バズーカ砲≪イクタマ≫と高エネルギー収束火線ライフル≪マカルカエシノタマ≫を抜き取り、イザナミに撃ち放つ!!

スサノオ・ルージュが宇宙を裂く!!
竜巻発生装置≪テング≫を左腕から全開にして宇宙空間にもかかわらず巨大なトルネードを発生させ、赤熱した9.98m対PS超高熱空斬剣≪ツムハノタチ≫の超高熱の空斬をイザナミに浴びせかける!!

ツクヨミが宇宙を舞う!!
2本の11.14メートル級シャムシール型重力刀≪ミカヅキ≫をブーメランのように投擲し、48ミリ超重力圧射砲≪ツキノイシ≫の重力隕石弾がイザナミを襲う!!

それは、即席チームとは思えない絶妙のタイミングだった。
しかし、

『・・確かにすごいな。部下に欲しいくらいだ。・・・だが!! 』

アマテラス達が攻撃を仕掛けた武装が突然爆発しだした。
機体にも激しい損傷を受ける3機のミコト。

「きゃああ!! 」「ぐあああ!! 」「・・くっ!!! 」
『残念だったな。『ヨミノクニ』を起動させ、ウィルス展開チャフ『シスルシルベ』を展開している以上、お前たちに勝ち目など万に一つもないのだよ。チャフを伝って起動させた兵器暴発ウィルス『ツクモガミ』の味・・・なかなかだろう? 』

触れることすらせずに3機を圧倒するイザナミ。そして、

『さあ、死ぬがいい!! 』

イザナミの≪アマノマホロバ≫が天を包み、ミコトを襲う!!

「ここまでね・・・。でも。」
「ああ、悔いはないさ。一瞬でもコウを守って死ねたんだから。」
「フン・・・・ボクも本当に丸くなったものだよ。・・ナターシャ・・・元気で。」

「エリス、ブリフォー、ディノォォ!!! 」

その時、4つ、いや5つの声が響いた。

『簡単にあきらめるな! コウ!! 』
『そうだぜ、お前は最強の男だろう!? 』
『そのためなら、わたくしたちは!! 』
『いくらでも力をお貸ししましょう!! 』
『・・・リトを頼むぞ。コウ! 』

イザナギの体が輝き始める。そして、空間を超え、時をも越えて熾天の流星が駆け巡る!!
イザナミも、その動きに激しく動揺して動きを止める。

『ば・・ばかな! 動ける・・・はずが!!!! 』

そして、ミコトたちも・・・

「これは・・」
「力が・・・・」
「漲っていく・・・!!」

イザナギの周囲展開型エネルギー生成永久動力≪ヒイズルクニ≫が発動し、イザナミの≪ヨミノクニ≫の効果を打ち消してゆく。いや、それ以上に力を与えていった!



それは、全ての宙域を包み込む光。

「隙あり!! 沈みなさい!! タケミナカタ!!! 」

アザゼルの主砲がタケミナカタの艦橋に迫る!!

「回避ぃ!!! 」
「間・・・間に合いません!! 」

シュンが、サユが、ガルダが、ハウメアが、レヴィンが、ユガが、メンデルの科学者達が声にならない声を口にする。

そして、マナが

・・・シャクス・・・

バチィィィィ!!!!

その主砲の光は、艦橋の目の前で止められていた。正面にある姿は、フレームからまばゆい光を放つ一機のMS。

「私に出来る事は・・・やはりこれくらいでしょう。・・・マナさん、みんな・・・・本当に・・・・」
「シャクス!!!! いやああああああああああ!!!! 」

マナの叫びがブリッジに響く!

「・・・死なせませんよ!!! 行ったはずです!! 」

≪ヤタノカガミ≫を前面に展開させた月式がコスモフレームに加勢する。

ロウが、「そうだぜ!! 勝手に死ぬなんてのは、卑怯だと思うぜ!! 」
ガイが、「・・・同感だ。」
イライジャが、「生きてみせろ! 」
ティルが、「そっすよ、『ラジエル大尉』? 」

エネルギーの尽きたレッドフレームとブルーフレーム、イライジャ専用ジン、ヴェルヌ35Aを脱ぎ捨てたクラウディカデンツァがアンチビームコーティングシールドでさらに周囲を取り囲む!

メイズが、「守るべき人を守らずに逝くのは・・・オレは認めない!! 」
メリリムが、「そうです!! 残された人の事を考えてください!! 」
フエンが、「あきらめちゃダメです!!」
デュライドが、「・・・まだ、いけるさ!!」

そして、同じくエネルギーの尽きたマステマが大盾を構え、イカロスが後ろからそれを支え、イルミナとヴァイオレントもシールドを構える!!

「みなさん!! 離れなさい!! このままでは・・・全員! 」
「「「「「断る!! 」」」」」

この時、熾天の光が舞い降りた。
10機のMSに力がみなぎってゆく。

「「「「「「うおおおおおおおおおお!!! 」」」」」」

ドォォォォォン!!

奇跡が起こった。主砲を食い止めた10機のMSは・・・・全機共に無事。
そして、

「今よ、主砲用意!! 目標敵母艦!! 『ローエングリン』、てぇ!! 」
「とどめだ!! クールに喰らえ、『神もどき』!! 」

マナの号令と共に、4本の真紅の火線がその銀色の敵艦・アザゼルを撃ち抜いた!!

「そん・・な・・私はまだ・・・これからも研究をぉォォ!!!!! 」

ドガァァァァァァァァァァァァァン!!!!!

大爆発と共に、コトアマツカミの一人、フジヤマ社社長ウズメ・フジヤマ、死亡。
メンデルにいた頃から人を超える存在を研究し続けることだけを糧にアリアたちを縛り付けていた呪縛が、今消えた。

そして、『そのMS』に通信が入った。それはサユのものではなかった。

『シャクス・・。』
「・・・マナさん。私は・・・」
『さっきのナターシャ達との通信なら、ガルダから聞いてるわ。そんな事より・・・・』

マナは一息ついてから言った。

『・・・お帰りなさい、シャクス。』
「・・・ただいま、マナ。」

クルー達は歓喜の声をあげた。しかし、シャクスが皆に檄を飛ばす。

「みんな、気を引き締めなさい!! まだ、モビルドールのオオキミが残っています!!! 」

マナも言う。

「それに、コウはまだ戦っているのよ!! ここを突破して急いで・・」

全員の声が揃った。

「「「「「「「「「「「「「「「「コウの元へ!!! 」」」」」」」」」」」」」」」

全員が最後の奮闘を繰り広げた。



「くそ・・人形のくせに、生意気なのよ!!! 」
「どけぇぇぇぇ!!!! この蒼竜の咆哮で!! 」
「この・・・人真似軍団がァァァ!! ボクのツクヨミをなめるなぁ!! 」

そのころ、3機のミコトたちは突如飛来した無数のオオキミ達を残りの武装を使って相手にしていた。同じ兵器を持つバイザーアイの偽者の群れを必死に相手する3人。

「こんな事をしている間にも・・・コウは!!! 」


「シートォォォ!!!! 」

キィィィィィ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!

それは、ナビゲーター達の一つとなった想いの力だった!
SEEDを超えるほどの大いなるダブルフェイスの力がコウの体に漲り、イザナギを流星へと変える!!

『ハーッハッハッハッハ!!! お前に出来るのか? オレを殺すという事はイザナミを破壊するという事!! つまり、リトを殺す事になるんだぞ!! 』

コウは何も答えず、両肩の2本の偏光型ビームブレード≪フル≫を抜き、光の2刀を作り出す。

今、リトとコウは意識を共有し、一つになっていた。

・・・・・コウ・・・もういいの・・・・来て・・・・・・・。
・・・・・リト・・・ごめんね・・・・オレもすぐ逝くから・・・・。

イザナミの≪アマノマホロバ≫を掻い潜り、イザナギの≪フル≫が最愛の人の元へと突き刺さる!!

時が・・・・止まった。

いや、そう思えるほど静かだった。
二つの夫婦神はカメラアイの光を失い、装甲も鉛色に戻っている。

アモンの声だった。

『これが、オレ達ができる最後の贈り物だ。受け取ってくれ、コウ!』

ビームサーベルの光が消えた状態でコクピットに押し当てられていた≪フル≫がどかされるようにイザナミのコクピットハッチが開く。そして、イザナギも・・・。

一人の少女が今、宇宙(ソラ)に押し出されるようにして少年の下へと舞った。

ハッチが閉じ、急速に空気が充填されてゆくイザナギのコクピットの中で、2人はヘルメットを取る。
目が見えず、探るようにリトの頬を探るコウの手をリトは握り締めた。
そして、2人は口付けをかわした。熱く、深く・・・・。
システムで通じ合っていた2人に言葉は不要だった。だが、抱き合いながらリトがあえて言った。

「ごめんね・・本当に・・・ごめんね、コウ。」
「わかってる。・・・・・・・もう離さないから、この先もずっと・・・一緒だから!! 」

『・・・そろそろ、お別れの時間だな。』
「アモンさん? 」
『オレ達ナビゲーターは、イザナギのコントロール解除、そしてリトちゃんを助けるためにシステム容量を使い尽くした・・・。もうそろそろダウンして、二度と起動する事もないだろう。』

ミゲルが、
『そうなれば、イザナミもまた動き出す。』

ニコルが、
『だから、気をつけて下さい。その時は、ダブルフェイスは一切使えませんから。』

そして、フルーシェが、
『それでも、コウなら大丈夫ですわよね? 』

「そ・・・そんな!! オレ達のために・・・!! 」

そして、最後の5人目のナビゲーターが言った。

『そんな顔をするものではないぞ、コウ。』
「あなたは・・・アーキオ大佐!!? 」
「お父さん!? 」
『リト、お前には辛い目にあわせてしまったようだね。本当にすまない。・・・コウ。娘を・・・頼むよ。』
「はい・・・。アーキオ・・・いえ、マクノールさん。」
「・・・ありがとう、お父さん。」

最後にアモンが告げた。

『そういう事だ、コウ! ま、達者にやれよ!! なに、オレがいなくてもリトちゃんがそばにいるんだから・・・・・簡単さ!! 』
「アモンさん!!! ありがとう・・・・ございましたッ!!!! 」

シュウゥゥゥゥ・・・・。

光に包まれるかのように、その声が遠ざかってゆく。
その光は、他の者の元へも・・・。

『エリス、強く生きるんだぜ。オレはいつでもお前を見ててやるからさ。』
「いや・・・嫌よミゲル!!! そんなの!!! 私、あなたの事・・・・こんなにも愛しているのに!!! 」
『嬉しいぜ、エリス・・・それにしても、最後まで、女泣かせだな・・・・オ・・・・レは・・・』

『お別れですね、ディノ。』
「・・・フン。最初から・・・・・こんな日が来るんじゃないかって思ってたさ。」
『フフ・・・お気持ちはその潤んだ表情で充分です。いつでも強気のディノで、いて・・・くださ・・いね・・』

『・・・ブリフォー、さよならですわ。』
「フルーシェ! オレは!!! 」
『・・わたくしが目覚める事は、多分ないでしょうけど・・・・いつかまた・・会いましょう。』
「待ってるから!!! 何年、何十年でも!! お前とまた話せるようになるまで、いつまででもお前を愛して待ち続けるから!!! 」
『うれ・・しい・・で・・・すわ・・・・・・。』

そして、タケミナカタのブリッジでも・・・。
『マナ。頑張れよ。なに、お前ならきっと平気さ。』
「お兄ちゃん!! 行かないで!! 」
『オレが逝っても、シャクスがいるだろう? 』
「アモン、私は・・・。」
『・・気にするな、シャクス。あ、いや、気にしろ! 一生気にして、マナを幸せにしてやってくれ! ・・・簡単だろ? 』
「アモン・・。」「お兄ちゃん。」
「「「「アモンさん!! 」」」」
『それじゃ、みんな・・・・達者で・・・な・・・・・。』



今、MIHASHIRAシステムが完全にダウンした。
しかし、襲い掛かるはずの副作用は・・・・ない。
それどころか、アマテラス、スサノオ・ルージュ、ツクヨミ、そしてイザナギの元に力が漲る!!

「・・・おのれ、マクノール!! おのれ、ナビゲーターども!! 機械の分際で最後までオレの邪魔を!! こうなったら未完成だがオオキミ同様、イザナミをモビルドール化してくれる!! 今度こそコウとリトに、死を!!! かかれ、オオキミ!! 全てを破壊しつくせ!! 」


「機械の分際で・・・ですってぇ!!! ミゲルとあなたは違うわ!! ・・・・ふざけないでよ!!! 」
「・・・性懲りもなく、まだ壊したりないのか!! フルーシェの仇だ!!! 」
「・・・あいつは・・ニコルは平和を心から望んでいたよ。なら! あんたの野望は絶対ここで食い止めてみせる!! 」

3機のミコトがオオキミ達を次々と凪いで行く!!
そして、

「コウ!! ダメよ!! 目を開けちゃあ!! また見えなくなっちゃうわ!!! 」
「・・・でもリト、ダブルフェイスがダウンした以上、そうしないとイザナギを操縦できない。」
「私が、コウの目になる!! 」

コウの膝の上に乗るリトの手が操縦桿を掴むコウの手の上に重なる。

「・・・・そうだね。行こう、リト!! 」
「ええ、コウ!! 」

「「おおおおおおおおおおおおおお!!!!! 」」

そして、背部に展開されていた8本の高出力プラズマ収束剣≪ヤクサノイカズチ≫が今、イザナギの右腕に装着される。
その超収束ナックルブレード≪テンチカイビャク≫を右腕に、宇宙に一際輝く熾天の流星が流れた!

「・・・こしゃくなぁぁぁ!!! この『ヨモツヘグイ』で跡形も無く消し飛ばしてくれる!!! 」

そして、イザナミの防ぐ手立てのない最凶の砲である空間転移砲≪ヨモツヘグイ≫に粒子化の光が輝き出す!!!

「「シートォォォォ!!!! 」」
「コオォォ、リトォォォォ!!! 」


今度は本当に時が止まる。
そこには真っ白な光。
その中には、3人の少年、少女が立っていた。

『・・・・敵わなかったな。やはり。』
『・・・止められなかったんですか? どうしても。』
『ああ。・・すまなかったな、コウ、リト。』
『シートさん・・・・。』
『知っていたんだがな・・・。結局はオレの心の弱さとエゴだったと言う事も・・・。本当は、コウ。お前もオレと同じように・・・。いや、なんでもない。』
『・・・・関係ないですよ。オレだって、忘れていたんですから。メンデルでの事も、イドという名も・・・。もしかしたら、オレだって・・・。』
『! 知っていたのか? お前・・・。』
『ディナ・エルスで目覚める前に、夢を見ました。実はその時に思い出していました・・・。その時は心がばらばらになりそうでしたけど、このペンダントがオレをここまで支え、奮い立たせてくれたんです。』
『それ・・・私が・・・あげた? 』

コウは微笑み、リトの肩に手を回す。

『ありがとう、リト。』
『コウ・・・。』

シートが後ろに背を向けてコウに言った。

『なあ、コウ。もし、違う出会い方をしていたら、オレ達は親友になれたと思うか? 』
『・・・・いえ。』
『コウ?・・・』

リトの言葉を遮ってコウは言った。

『シート先輩は、オレの尊敬する先輩であり、古武術のライバル・・・そして、もう既に親友ですから。』
『・・・本当に・・すまなかったな・・・2人とも・・・でも・・オレにはもう・・・。すまない。』
『いいんですよ、シート先輩。一緒に・・・行きましょう。』
『そうよ、シートさん。また三人一緒に・・・・・』

アメノミハシラの宙域に、一筋の閃光が走った。
それは後に伝えられる事もない、一つの戦いの終焉の光・・・・・。



それから程なくして、ザフトの軍事衛星ボアズが陥落する。地球軍の核兵器によるものであった。
そして、プラント・地球間の戦争はさらに壮絶なものとなってゆく。
再び放たれた核。そして、脅威の兵器ジェネシス。
ジェネシスの光は月面のプトレマイオス基地を焼き払い、裏側に位置していたノースブレイド基地にも多大なダメージを与えた。
ちょうどヤキン・ドゥーエ近辺で護衛艦セレネに乗艦して交戦中だったフエン・ミシマ、デュライド・アザーヴェルグらはその難を逃れたが、新造戦艦を守るために基地に残りその防御策をギリギリまで行っていたノースブレイド統括のアガレス・セクンダディは戦死する。過去の罪を洗うかのように、未来を担う少年たちにその希望を託して・・・。

キラ・ヤマト、ロイド・エスコールらの所属するアークエンジェル、ミストラル、エターナル、クサナギの4隻同盟の活躍もあり、CE71.9月27日。
戦争は終戦を迎える。

それが、本当の平和であるのか、はたまた偽りの時間なのかは分からなかったが、平和を望む全ての人たちにとってそれは紛れもなく朗報であった。



そして、ここ月面のノースブレイド基地では新しく配属となる新入りの噂で持ちきりだった。

「今度配属になるの、女の子なんだってさ。なんでもすごくかわいいらしいぞ。」
「ばか、お前なんかより全然階級上だぞ。なんでも、大戦時に活躍したらしくてパイロットでもないのに『中尉』らしいぞ。」
「本当か!? だって、聞いた話じゃまだ十台後半だって・・・。」
「こんにちはっ!! はじめまして、今度ノースブレイドに配属になったサユ・ミシマ『中尉』です! よろしくね。」
「「は、はっ!! よろしくお願いします!! 」」

噂の美少女中尉にいきなり挨拶をされ、おどろく兵たち。

「! 姉さん! 」
「フエン!! 私もやっと来れたわ、月基地に。これからよろしくね。」
「うん、よろしく、姉さん。」
「でも、行きたかったな、私も。」
「う〜ん、事後処理とか新地球連合軍の新体制の整理とかで休暇ももうそんなに取れなそうだからね。今回は我慢しなきゃ。」
「うん。でも月基地に来れて嬉しいからいいんだ。ところで、デュライド君は? 」
「う・・・・・えっと・・任務で・・・・ディナ・エルスに・・・。」

それを聞いたサユが烈火のごとく騒ぎ出した。

「えー、ひっどーい!! ずるいじゃないの!!! デュライド君だけ!! 」
「い、いや、本当に任務なんだよ。ファイナリィ小隊の初任務なんだ。」
「・・・・・はあ、ま、いいわ。せっかくだからついでに羽伸ばしてくればいいんじゃない? デュライド君も。それよりフエン! 基地案内してよ!! 」
「うん、みんなにも紹介したいしね。いこうか、姉さん。」

月基地の姉弟は歩き出した。サユが基地内の心のオアシスとなるのにそう時間はかからないだろう。



東アジア共和国の領海。そこの海上に一隻の艦が巡回をしていた。その装甲は太陽の照り返しを受けてまぶしいほど鮮やかな金色に輝いている。
陸海空兼用小型輸送戦艦・スローンであった。
そのブリッジに聞きなれた大声が響き渡る。

「レヴィン『艦長』!」
「どうした? シュン。」
「異常、全ーーーーっくありません!! 」
「アホか!! そんな報告してどうする!!! 」
「いや、暇だったもので。」

レヴィン・ハーゲンティ『少佐』。
今の彼は『新』地球連合軍第31東アジア守備艦隊の独立護衛艦として運用されているスローンの艦長だった。
そして、オペレーターはシュン・スメラギ『中尉』。そして、

「レヴィンさぁん、いい天気ですよねぇ。眠くなってきた。ふああああ。」
「ほんとだよなあ! なあレヴィン、甲板で一杯やろうぜ!! 」
「あ、それいっすねぇ!!オレ、クラウディカデンツァで腹踊りでも披露しましょうか?」
「ユガ! ガルダ! ティル! おまえらなあ!! 」

ユガ・シャクティ『少尉』
ガルダ・サンジュマー『少尉』
ティル・ナ・ノーグ『中尉』

ユガとガルダも新しく新地球連合軍に所属し、レヴィンの部下として働いていたのであった。そして、ティルはこの部隊のMS部隊長。しかし、レヴィンへの対応は相変わらずで・・・。
そんな3人に、レヴィンが言った。

「・・・でも、そうだな。本当はオレ達もディナ・エルスに行きたかったが、こんな平和な海で巡洋だもんな。・・・・クールに飲むか!? 」
「酒はダメであります!! 艦長!! しかぁし!!!花見ならぬ、『海見』なら問題ありません!! 」
「よく言った! シュン!! それでは半減休息!! 総員甲板にて海でも見ながらメシだ!! 」
「「「「了解!! 」」」」

東アジアの海は、今日も快晴。



オーブの軌道エレベーター、アメノミハシラ。
そこでは、弟ロンド・ギナ・サハクの罪を償うために五大氏族としての公務を影ながらこなすロンド・ミナ・サハクの姿があった。そして、もう一つの氏族・イソラのあの男も・・・。

「シャクスさま! ちょっとええか? 」
「ハウメアさん。その『さま』はよして下さい。私は『元』イソラの人間ですが、今は違うのですから。今の私は、『シャクス・ラジエル』です。」

あの戦いの後、アリア、グラーニャ、ラウムの決死の手術によって、彼の体からはMIHASHIRAシステム『従神』は取り除かれていた。幸い、脳に埋め込まれていたのではなく、額の辺りにめり込む形で付いていた事も、手術成功の要因だった。
病み上がりの体ではあったが、いてもたってもいられずにシャクスは仕事に勤しんでいたのだ。

「せやったな、堪忍! あ、そうや、マナ姉さんが探しとったで! 」
「マナが? 」
「あ!! ここにいたの!? シャクス!! 」

そこにちょうどマナが現れた。もう彼女は地球連合軍には所属していない。彼女の名は、『マナ・ラジエル』。シャクスの妻である。

「シャクス!! もうそろそろ出ないと間に合わないわよ!! 」
「ああ、もうそんな時間でしたか。すみません。」
「すみませんじゃないわよ!! ほら、また寝癖!! 直さなきゃ!! あ、シャツもはみ出てる!! もう!! 」

完全にマナの尻に敷かれているシャクスを見てハウメアは笑った。

「ほな、急ぎましょ! シャクス『さま』、マナ姉さん! ・・・それはそうと、あいつは本当に行ったん? 」
「ええ、行きましたよ。それはもう、飛んで行きました。」
「それはそうでしょうね。・・・今頃どやされてるんじゃない? 」
「そうかも、ですねぇ。怒らせると怖いですから。」



「・・・なんでかな。ここに来てしまったよ。」

紅海の近くの砂漠にある古ぼけた廃墟。
その砂にうずもれた廃棄施設の前で、一人の少年が感慨にふけっていた。
ディノ・クシナダ。

コトアマツカミとの戦いの後、突如姿をくらましていた彼が一人旅の途中で立ち寄ったその場所は、ネブカドネザル。
その場所は、彼にとって母との思い出の場所。そして、初めてアイツと出会った場所。

「・・・さあ、行こうかな。」

施設を背にして再び砂漠を歩き出すディノ。そこに、一台の砂上バイクが爆走してきた。
そのバイクはブレーキをディノの目の前で踏んで、思いっきり砂埃をディノにかける。

「っぺっぺっ!! な・・なにするんだ・・あんたは!!! 危ないじゃな・・・・」

ヘルメットを取ったその少女は肩口より少し伸びた銀色の髪をたなびかせながら言った。

「わざとです・・・! 」
「ナターシャ・・・なんで、ここに!? 」
「先生が教えてくれました。あなたがここに行くだろうって。あなたこそ、何で勝手にいなくなったりしたんです!!? 」
「・・・シャクスに師事して学ぶには、ボクは邪魔だと・・」

言葉を遮るように、ディノに何かが投げつけられる。受け取ったディノがみたものは、ヘルメット。

「・・・後ろに乗ってください。どこまででも・・・一緒に行きますから。」
「ナターシャ・・・・。フン、こういうのは普通逆だぞ! だったら、ボクが運転する! 」
「ダメです。私のほうがうまいですから。」
「おい、ボクを誰だと思っている? ボクだってバイクの運転くらい・・」
「ダメです! 」
「・・・・わ・・・わかったよ。」

銀髪の少女と白髪の少年はその砂漠を共に走る。その2人旅はどこまで続くのか、それは誰にも分からない。ただ、今は幸せをかみ締める2人がそこにはいた。



「これより、F.A.I.T.Hの徽章を授与する! エリス・アリオーシュ特務兵! 」
「はっ。」

その壇上には、4人の青いザフト軍服を来た兵士達の姿があった。コトアマツカミとの戦いの後、エリス、ブリフォー、メイズ、メリリムの4人はオーソンとともにプラントにシャトルで戻っていた。愛機であったMSはディナ・エルスに置いて来たために乗機は失っていたが、プラント評議員であるオーソンの計らいで再びエリスを隊長として青服部隊を結成。真っ青に染められたボディと両肩をそれぞれのパーソナルカラーに染めたゲイツを駆る4人の青服たちの活躍はヤキン・ドゥーエ攻防戦でも抜きん出ており、今回正式に特務隊F.A.I.T.Hの徽章を授与されたのである。
しかし、その配属先はやはり地球。青服である以上はそれが当然であると4人が望んだ事であった。

「・・・エリス、ブリフォーはどうした? 」
「ああ、ブリフォーなら式が終わったとたんにすっ飛んで行ったわよ? 」
「ふふっ、そうでしたね。ブリフォーらしいわ。ね、メイズ。」
「・・・フッ。」

 微笑む3人。

「・・エリス、今日の地球行きの便がまだあるらしいのだが、お前はどうする? 」
「私は明日の早朝の便で行くわ。・・・・行きたいところもあるから・・。」
「そう言うと思ったよ。実は、オレ達もな・・・。車を既に用意してる。」


3人は車を走らせてあるところに向かった。付いたときは既に日暮れ。
黄昏色に染まったその空の下、メイズとメリリムが一つの場所に立ち止まり、花を添えた。
足元の石碑には名前が刻まれている。

エレイン・ホワイト

「・・・エレイン。お前のおかげで、オレ達はこうして生きていられる。お前が思い描いた理想の世界を作る事はできないかも知れないけど、それでもこの平和が続くようにオレは頑張るつもりだ。青服を纏う、F.A.I.T.Hとして。」
「・・・あなたの分も、私がこの人を支えます。だから、心配しないで下さいね。」

メイズとメリリムが見つめ合う。

「・・・行こうか、メリィ。」
「はい、メイズ。」

メイズとメリリムの2人は手を握りながら歩き出し、その場を後にした。


エリスもまた、花束を持って立っていた。

ダヌー・モリガン
ノイッシュ・フリール
ディラン・ノーグ

カルラ・オーウェン

ミゲル・アイマン

感慨深く、それぞれの墓標に花を添えるエリス。

「・・・みんな・・・私は・・・。」
「・・・トリトニア、ケイトウ、ジニア、・・・それにひまわりか。オレンジ色の花ばかり、めずらしいな。」
「・・・え・・・・・。」

その聞きなれた愛しい人の声を聞き、エリスが振り返る。
しかし、そこにいたのは別の人間。
驚くようなエリスの顔を見たその青年は、あわてて謝った。

「いや、すまない。驚かせるつもりはなかったんだが、その花を供える人間なんて珍しくて、つい・・・な。」

よく見ると全く同じ花をその青年も持っていた。
エリスの視線に気付いた青年が言う。

「・・オレは大戦時、ホーキンス隊の所属でね。・・仲間も何人も失った。この色はオレが好きな色なのさ。だから、オレが来た証にこのオレンジの花を供えてやろうと思ってな。」
「・・・そう。私も好きよ、この色。」
「そうか。・・・特にひまわりはいい。墓に供えるには、と思うやつもいるだろうが・・・なんていうか太陽のように明るい気持ちになるからな。」
「太陽の・・・ように。」
「・・・大事な人が、死んだのか? 」
「・・・ええ。でも、もう大丈夫よ。」

そして、エリスはその場を後にする。

「・・・オレの名前はハイネ・ヴェステンフルス。・・・・あんたは? 」

エリスは振り返って言った。黄昏色に輝く夕日を背負って。

「私の名前は、エリス・アリオーシュ! 青服隊長、『黄昏の女神』よ! 」

その藤色の髪とオレンジの瞳を持つ少女は微笑んだ。今度は自分が太陽のような女になろうと。彼女にとって、愛したミゲルがそうであったように。



ディナ・エルスでは、国主であるケットが公務に勤しんでいた。彼は辞職を申し出たのだが、下手に事をバラして国民の不安を煽るよりは次の選挙までは暫定的に公務を勤め上げるべきと首脳陣に提案されたためであった。実はそれだけケットの手腕と信頼は厚かった。
そのため、国民は彼がコトアマツカミであった事も知らない。いや、そんな組織との戦いがあった事さえ・・・。

ケット同様、公務に勤しむ少女がいた。若干14歳のその少女はディナ・エルスでは『聖女』と呼ばれ、プラントのラクス・クラインに勝るとも劣らぬカリスマを誇っていた。
手術が成功し、彼女を苦しめる病も、そして『従神』の力ももうない。

これにより、MIHASHIRAシステムはこの世から全て消える事となる。地上やプラントなどに残っていたデータも、どういうわけか綺麗さっぱり消えてしまっていたのである。恐らく、シートが事前にウィルスを送り込んで消去していたためであろう。

償いの為にザフトを辞めて公務に勤しむ彼女だったが、心の中にはぽっかりと大きな穴が開いていた。

「・・・大丈夫か? ペルセ。」
「元気ないみたいね〜、ペルセちゃん。」
「! デュライドお兄ちゃん、メリーナお姉ちゃん。・・大丈夫よ、もう。体の方だってこの通り! 」

無理して大人っぽくみせていたペルセポネはもういない。本来の年相応の可愛らしい口調に戻っていた。

「・・・体はよくても、心の傷は時間がかかる。あまり、無理はするな。」
「お兄ちゃん・・・。うん、ありがとう。でも、本当に大丈夫だから。それに、働いている方が・・・・忘れられるから。」
「ペルセちゃん・・・・。」

メリーナの瞳が潤み出す。

「それより、お兄ちゃん、お姉ちゃん、そろそろ時間よ。行かないと! 」
「ああ、そうだったな。行こうか。」

デュライドたち、そして、他の仲間達が向かった先・・・・そこには・・・。

「・・・ご心配、おかけしましたわ。みなさん。」
「「「「「「「退院、おめでとう! フルーシェ!! 」」」」」」

ブリフォーとフルーシェが抱き合う中、デュライド、メリーナ、ペルセポネ、マナ、シャクス、ハウメアが祝福した。

あの戦いの後程なくしてフルーシェは奇跡的に意識を取り戻したのだった。後遺症は・・・あった。後遺症というべきなのかどうか・・・・しかし、それはいい後遺症。
何故だか原因は不明であるが、MIHASHIRAシステムのAIのフルーシェの記憶を持っていたのだった。目覚めたフルーシェは最後のブリフォーの言葉を思い出し、本当に嬉しくて声をあげて泣いたという。

「全く・・・おまえはさあ!! 」
「なんですの? ブリフォー。」
「・・・・愛してる、フルーシェ。」
「・・・わたくしも、ですわ。」

ハウメアが、「ヒューヒュー!!! よっ、ご両人!! ほんま、よかったなあ! 」
マナが、「本当ね、フルーシェ。退院おめでとう。」
シャクスが、「フルーシェさん・・・本当によかった・・! 」
ペルセポネが、「あなたは命の恩人です。幸せになってくださいね。」
メリーナが、「・・・・いいなあ。」

といいながらデュライドをちらっと見つめた。
デュライドはオホンと咳払いをしながらメリーナの肩に無言で手を回す。

「デュライド〜。」

メリーナも幸せそうに微笑んだ。

「みなさん、今日は本当にありがとうございます。わたくし、本当に嬉しいですわ。」
「今日は事情があってこの場に来れなかったみんなも、きっと喜んでいるわよ。ディノもナターシャも・・・」
「せや! レヴィン、シュン、ガルダ、ティルも・・。」
「・・・フエンとサユも。」
「エリス、メイズ、メリィも、きっとな! 」
「そうですねぇ・・・・・。彼らもきっと・・・。」

シャクスの言葉に全員が空を見つめる。
はるか彼方のソラを・・・・
そしてブリフォーが言葉をつなげた。

「・・あんな事に・・・・なるなんてな。あいつらが・・・・。」





「・・そうか、じゃあ、いいものやるよ。こっちのデッキだ、来いよ! 」

逆立った髪の少年に誘われて、フリージャーナリストのその少年はついて行った。そこにあったものに、ジャーナリスト・ジェス・リブルは驚愕した。
誘った少年、ロウ・ギュールは言う。

「『アストレイアウトフレーム』規格外のマシンだぜ!! おい、8! お前地球に残りたがっていたな! 」

ロウが声をかけるとその8と呼ばれたメカのディスプレイに返事が表示された。

『ストライキ中! そうだ!! 火星なんぞにいけるか。』
「暫くこの兄ちゃんに付き合って地球圏をみて回るってのはどうだ? 」
『それなら構わんぞ! 』

そのやり取りに、ジェスが口を挟む。

「MSのサポートコンピューターか? 」
「おいおい、8はモノじゃない。こいつの意思でお前に力を貸してくれるのさ。口は悪いし、頑固だけどな! 」

再びディスプレイに文字が表示される。

『よろしくな! 』

ジェスも答えた。

「よ・・よろしく、8。・・でも、ロウ。いいのか? こんなにしてもらって。」
「気がひけるなら貸すことにするよ。どうせすぐに帰ってくるさ。」

その時、少女の声がデッキに響いた。

「ロウ〜〜〜そろそろ行かないと! リーアムとプロフェッサーはシャトルに移ったよ! 」
「おう! キサト! 」
「その子も火星に行くのか? 」

ジェスの問いに、キサトはロウの腕に組み付いてのろけながら答えた。

「離れ離れになんてなれないよ♪ 」
「付いてくるって、うるさくてな。それにジョージも一緒だし。」
「そうか。なあ、ロウ。もう一つ聞いてもいいか? 」
「ん? 」
「あれは? 」

ジェスが指差したところにはもう一機の新型らしきMSの姿があった。
ロウは自慢げに答える。

「ああ、あれか。あれはオレとキサトが仕上げた傑作さ。・・・火星に一緒に行くオレの親友が乗るんだ。新型ブロンズフレーム・・・さしずめ*(アスタリスク)アストレイさ。」
「違うでしょ、ロウ。2人の苗字をとって呼ぶ事になったんじゃない! あ、噂をすれば影! こっちに来たみたいよ、『2人』! 」

ジェスが見たのは手をつなぎ仲むつまじく並んで歩く黒髪の少年と少女。
少女の瞳は輝く宝石のような黒い瞳。
そして、少年の瞳は青い虹彩に真紅の瞳孔を宿した不思議な色をしていた。ジェスは今ままでに一度だけそれと同じような輝きの眼を見たことがあった。それは恐らく、最高技術で作られた義眼。

「ジェス! アレのパイロットはあいつさ!! な! 」
「ロウ。パイロットって行っても、火星に行くための護衛用。念のため、だろう? オレはMS操縦は素人同然だよ。」
「そんなのオレだって同じさ。このジャーナリストのジェスだってな! 」
「オレはジェス・リブル。よろしく・・えっと。」

その黒髪の少年と少女は名乗った。

「コウ・クシナダです。」
「リト・『クシナダ』です。」
「コウ君とリトちゃんはね、学生なのに結婚しちゃったんだよ!! いいよね〜。」

キサトの言葉に照れる2人。そして、コウがジェスに言った。

「せっかくだから、新婚旅行に行こうと思ってね。そんなときにロウに誘われたんだ。一緒に火星に行かないかって。ね、リト。」
「うん。せっかくだし、ついでに来年の4月まで休学しようって事になったの。」

そんな2人にロウが言う。

「おまえも重症の病み上がりで結婚して新婚旅行だなんて、随分王道を外れてるよなぁ。」

コウがそれに返した。

「それならジェネシスで火星に行こうっていう君の方がよっぽど王道を外れてぶっ飛んでるさ。」
「はは、どっちもどっちだな! 」

ジェスが言い、みんな笑った。

「じゃあ、気をつけてな。ロウ、コウ、キサト、リト。」
「君もね。ジェス。」

ジェスはコウ達と握手をし、去り際に思い出したかのように手持ちのカメラでシャッターを切った。ジャーナリストとしてではなく、この素晴らしい出会いの記念として。
そして、リ・ホームのハッチからアウトフレームが発進した。

「よし、発進シークエンスカウントダウン! 」
「ビーム発射角調整、コンマ7! 」
「照準合わせよし! 」
「ジェネシスαレーザー発信機へのパワー充填急げ。ライトクラフト・プロパルジョン・システム、チェック!! 」

ジョージ、ロウ、キサトの発射準備確認の元、リ・ホームのカウントダウンが開始される。

10,9,8,7,・・・

「4月までに帰れるかな、コウ。」
「もし帰れなくても、リトがいればオレはどこまでも行けるよ。」
「うん。・・・ずっと・・・一緒だよ、コウ。」
「ああ。ずっと・・リトのそばにいるから。」

・・・3,2,1,0!!

「リ・ホーム、火星に向けて発進だぜ!! 」

今宇宙に新たな冒険の光が走る。


その昔、日本神話の時代に伊耶那岐(イザナギ)と伊耶那美(イザナミ)という2柱の夫婦神がいた。彼らは日本となる多くの国を生み、風、水、海、山、草などの神々を次々と誕生させた。しかし、イザナミは自らの生んだホノカグツチの炎によって命を失ってしまう。
あきらめきれないイザナギは黄泉の国からイザナミを連れ帰ろうとするが、約束を破って黄泉の国を抜けるまで見てはならないイザナミの顔を見てしまう。
怒ったイザナミはイザナギを憎んで追った。黄泉平坂(よもつひらさか)まで逃げたイザナギは巨大な岩でそれを塞いでしまう。

岩を挟んで、イザナミが言う。
「あなたの国の人間を、私は1日1000人殺しましょう。」

それ聞いたイザナギはこう言った。
「ならば私は1日に1500の産屋を建てるとしよう。」

こうして、『死』という概念が生まれたといわれている。

だが、あの二人は違う。
コウは逃げずに、リトを受け止めたのだから。
この現代のイザナギ、イザナミが紡いでゆく本当の物語はここから始まるのだ。
そして、大いなる流れとは別に流れていった、その小さな流れの物語の名は・・・。

機動戦士ガンダムSEED DOUBLE FACE ASTRAY





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