〜第39章 語られぬ戦い〜
そこには、2人の人間の駆る2つの人間ならざるものが対峙していた。
かつて、共に励み、遊び、悲しみ、笑い、そして愛し合った黒髪の少年と少女。
しかし、今の彼らの間にひしめく思いは、果て無き憎悪と底知れぬ悲しみ。
憎悪に取り付かれたその少女が口を開いた。
「今日で終わりよ、コウ。あなたを殺して・・・・あなたの大切なものも全部奪って、私は楽になるの。」
「・・・リト、そんな事はさせないよ。それに、オレの命もまだあげられない。」
「何よ! この前と言ってる事が違うじゃない!! 」
「ごめんね、リト。でも、君を救うまではオレは死ねない! 君を、コトアマツカミから取り戻すまでは!! 」
「何を勝手な事を言ってるの!!? 私にとって、今はお父さんが唯一の大事な人なのに・・・・あんたはそれすらも私から奪おうと言うの!!!!? 」
「それでも、アーキオ大佐の・・・いや、コトアマツカミのやろうとしている事は間違っているんだ!! だから、絶対に君をそのイザナミから連れて帰る!! その後でなら、いくらでも償うよ。だから・・・」
『醜いな、コウ。失望したよ私は。そんな事で気持ちが揺らぐほどリトが弱い娘だとでも思ったのかね? リトは自らの意思で私の理想実現のために進んで協力してくれているのだよ。君の物差しで計るのは止めて貰おうか。』
『御柱』となった主神・マクノールの言葉にコウは押し黙る。
しかし、アモンが吼える。
『醜いのはどっちだ! そうまでして生にしがみつき、世界を巻き込んで自分の欲望を達成したいんですか!! 一人娘のリトちゃんまで巻き込んで!!! 』
『・・・アモン。君はもう少し利口な人間だと思っていたのだが、買い被りだったようだね。愚鈍は好かんのだ。コウと共にもう一度逝きたまえ。・・・・・リト。』
「はい、お父さん。コウ、最期の時よ・・・・リト・アーキオ、参ります・・・! 」
古武術の試合然として名乗りを上げるリト。
そして、コウも呼応する。
「君は絶対つれて帰る! ・・・・コウ・クシナダ、参る・・・! 」
愛を失った夫婦神、イザナギとイザナミの3つのカメラアイが今、激しく輝いた。
「さあ、やろうか〜! フエン。」
「イオ・・・・どうしても戻ってくるつもりはないのか? 」
フエンの質問に嘲笑を返すイオ。
「答えるまでもないじゃん! ・・・こんなに楽しいのにさぁ!! 」
その答えに、フエンとデュライドが決意で答えた。
「なら、オレも全力で行くよ、イオ。そして、目を覚まさせてやる!! 」
「・・・・道を踏み外した者には、きつい仕置きが必要だからな・・!! 」
「じゃあ、かかって来なよ!! フエン!! 紫の!! 」
カグヅチの胸部2連型複列位相エネルギー砲≪ホノカグラ≫が開戦の唸りを上げた!
その二つの光をすり抜けるかのように、イルミナとヴァイオレントがカグヅチに迫る。
「・・・斬る!! 」
ヴァイオレントが攻盾型ビームサーベル≪デュランダル≫のリミッターをはずし、≪エッケザックスモード≫の大光刃を形成する。
「はあああああああ!!!! 」
フエンの勇気の力にイルミナが呼応し、そのカメラアイを真紅に染めながら通常をはるかに上回る力に目覚めた。そして、その無限の力を持つ勇者のビームサーベルが一際大きく輝いた。
「あははは!! おっもしれぇぇぇぇぇぇ!!!!! 」
キィィ・・・・キィィィィン!!
『紅炎の神童』イオ・アステリアの両の瞳に赤と黒の二つの種が別々にはじける!
カグヅチは振り下ろされる≪デュランダル≫の刃を紙一重でかわし、左腕の腕部内蔵型ビームプロミネンス放射装置≪ホムラノトイキ≫を浴びせかける。
≪デュランダル≫を振り切った直後で盾を構えられないヴァイオレントに襲い掛かるビームの炎。 しかし、M.O.Sを全開にしたイルミナが素早く駆けつけ、アンチビームコーティングシールドでそれを防ぎながらそのまま突っ込み、カグヅチにビームサーベルを斬りつける。
そして、素早く背後に回りこんだヴァイオレントの≪デュランダル≫が絶妙なタイミングで挟み込みをかけた。
「「月の双撃、受けてみろ!! 」」
カグヅチもたまらずアンチビームコーティングシールドでイルミナのビームサーベルを受ける。そして、隙だらけになる背部にヴァイオレントが迫った。
しかし、イオは焦ることなくカグヅチの両肩の50連装誘導プラズマ砲≪ヤオオロチ≫を背後に発射させてヴァイオレントに狙い撃ちをかけた
何とか50匹の光の蛇を≪デュランダル≫の盾で防ぎながらかわしてゆくヴァイオレント。カグヅチは斬りつけるイルミナとヴァイオレントを見事に同時に相手をしていた。
それは、MIHASHIRAシステムを埋め込まれ、ダブルSEEDの力を発現させた新人類、『従神』の力であった。
だが、フエンの力も負けてはいなかった。
彼の心が生む莫大な可能性と無限の力が、シールドを構えるカグヅチをビームサーベルで押しとばす!!
「くっ・・・・この、痛いじゃないか!!!! 」
後ろに弾き飛ばされたカグヅチが、飛ばされ様に胸部2連型複列位相エネルギー砲≪ホノカグラ≫を発射した。
「はああああああ!!! 」
しかし、イルミナのビームライフルの的確かつ高速の超射撃が、見事に発射口に命中してその力をそぐ。そして、
「・・・チェックメイトだ!! 」
ヴァイオレントの≪デュランダル≫の大光刃がカグヅチの体を薙いだ!
「・・・な・・・に!? 」
薙いだはずのカグヅチの体。しかし、それは済んでのところでかわされていた。
「ちょろちょろ、うざいな!! 紫の!! 」
ダブルSEEDの超反応で斬撃をかわしたカグヅチから、ヴァイオレントの背部に≪ホムラノトイキ≫が浴びせかけられる。
「・・・・ぐあああ!!!!! 」
何とか、直撃を避けようと試みたデュライドだったが、広範囲に広がるビームプロミネンスをかわしきる事はできずに被弾し、左足と左手を焼き落とされ、さらにボディにもビームのダメージを受けてしまう。
「! デュライドさん!! 」
「・・大丈夫だ、フエン。それより、見ろ! 」
デュライドに促されてフエンが見ると、そこには先ほど≪デュランダル≫をかわし切れずに右腕を切り裂かれていたカグヅチの姿があった。
「・・・これで、ヤツの武装は両肩の誘導プラズマ砲と左手のビームプロミネンス、そして炸裂弾型の機雷のみ・・・。少しずつだが、このままいけば必ず勝てる・・! 」
「はい! デュライドさん!! イオ、そういうことだ・・・。だから、もう・・・」
押す月の使者達が、カグヅチを睨みつける。
しかし、そんな2人の姿を見てイオは失笑した。
「あはははは、悲しいね、フエン。それに、デュライドってヒト? 俺の武装を一つ二つ消したからって、俺に勝てるだって? ・・・無知って怖いな〜。昔のよしみで教えてあげるよ。俺にはね、『人間』じゃあ勝てないんだ。『従神』である俺にはさ・・・! 見せてあげるよ、人の力の限界、そして神の力との差を!! 」
カグヅチの両肩が大きく広がり、50連装誘導プラズマ砲≪ヤオオロチ≫が一斉に発射された。しかし、その50匹の光の蛇達は今までのものとは何か違う。それは・・。
「・・・くっ、かわそうとしても・・・・この誘導プラズマ砲・・・どこまでも付いて来る、だと!!? 」
「・・・なら、盾で!! ダメだ!! この光の蛇、盾もよけるように飛んで・・・・・受け切れない!! 」
閃光の剣士の名を持つデュライドも、そしてM.O.Sの力を使うフエンですらその意思を持ったかのような蛇の群れをかわす事はおろか防ぎきる事もできなかった。
これは、従神の力。超越した直感により、イルミナとヴァイオレントの回避・防御のパターンを全て的確に先読みして発射し、曲謝させるタイミングや角度を全てコントロールしたのであった。
「あーっはっはっはっはっは!!! さあ、逃げなよ!? この鬼ごっこをもっと盛り上げてくれ! 絶対に勝つ事のできない鬼ごっこをね!!! 」
「ぐ・・・ああああああ!!! 」
「うわあああああああ!! 」
燃え盛る紅炎の神・カグヅチが、月の使者に絶望の雨を降らせる。
「メイズ・アルヴィース。決着をつけようか。私とお前の・・・・全てにな!! 」
「エレイン。オレはお前に償いきれないほどの仕打ちをしてしまったのかもしれない。お前をそうしたのは、オレの責任だろう。だが、今のお前を止めるのもオレの使命だ。絶対にお前を連れて帰る! 」
「勝手もそこまで行くと小気味いいな、メイズ!! 私の至高の世界への旅立ちのために、ここで果てろ!! 」
エレインの言葉にメリリムが叫んだ。
「この・・・わからずや!!! メイズがどんな気持ちであなたを救おうとしているか分からないの!? あなただって、メイズの事を愛していたんでしょう!? 」
「・・・なるほどな。後釜に選んだのはその娘か。たしか、臆病者のメリリム・ミュリン。緑服にしかなれなかった堕ちこぼれの愚女・・・。評議員の娘で赤服の私では重すぎたお前には、ちょうどいいな、メイズ。まとめてあの世に送ってやるよ!!! 」
パニッシュメントが機体分裂機構≪アスモデウス≫を発動させてその体を12のユニットに分裂させた。
キィィィ・・・キィィィィィン!!
そして、エレインの瞳に白と黒のSEEDの光がそれぞれにはじける。
「・・・メリィは・・・・最高のパートナーだ!! 2人でお前を・・・止めて見せる!!! いくぞ、メリィ!! 」
「はい、メイズ!! 」
マステマが特殊攻盾システム≪ジェミナルトリニティス≫から特殊兵装≪ファントム・ドラグーン≫を展開させ、無数の分身を作り出す。
そして、イカロスが操作型独立リフターユニット≪フォーリングエンジェル≫を切り離し、
強襲形態変形機構≪アイオーン≫に変形しながら2機の天使となって飛翔する。
「この前のノースブレイドで既に分かったはずだ! おまえ達のその機体では私の『アスモデウス』は破れはしないと!! 」
≪アスモデウス≫の12基からバラエーナ・プラズマ収束ビーム砲改とクスィフィアスレール砲改がマステマ、イカロスに迸る。
しかし!!
ノースブレイドで急速加速装置≪テーセウス≫を追加装着したイカロスの2基はさらに加速し、その砲撃を見事にすり抜ける。
そして、マステマは自機とドラグーンの周囲の空間に新型のコロイドを散布した。自機の全方位を覆うエネルギー偏光反射フィールド≪ゲシュマイディッヒリフレクター≫によって、放たれたビーム砲とレール砲の光は、そのままはじき返される。
それと同時に、マステマの胸部連射型誘導プラズマ弾≪ヴェズルフェルニル≫と≪ファントムドラグーン≫のビーム弾、そしてイカロスの2基から迸る短距離プラズマ砲 ≪アフラマズダ ≫とフェザー型炸裂弾機銃≪ニードルフェザー≫の雨がパニッシュメントの12基のうちの2基に集中して襲い掛かった。
2基の≪アスモデウス≫は各部内蔵型ビームサイズ≪タルタロス≫をシールドのように展開させてその攻撃の嵐を防ごうと試みるが、あまりの集中砲火によって防ぎきれすに爆砕した。
「・・・どうだ、エレイン! オレ達も少しずつだがお前を追い詰めるだけの力はある。」
「だから、もうあきらめて下さい。私たちと一緒に、帰りましょう。今ならまだ、間に合います! 」
「・・・・メイズ、そしてメリリム・ミュリン。お前たち・・・。」
再び合体させたパニッシュメントは右腕と左足を失っていた。
そのコクピットの中でエレインは俯き、そして悲しそうな顔で言った。
「ずれている。」
「・・・何? 」
「何もわかっていないようだな。お前たちは!! 私の夢も、望みも、力もだ!!! 」
処刑の名を持つその純白の悪魔から各部内蔵型ビームサイズ≪タルタロス≫の死神の鎌が一斉に生成される。
「生か死か!! それがお前たちと私を分ける決定的な運命だ!!! 」
そして、再び悪魔王≪アスモデウス≫が発動し、残り10基のユニットが舞い始めた。
いや、その舞いは死の宣告。
12基全ての死神の鎌が飛翔する≪フォーリングエンジェル≫目掛けて飛んでいった。
メリリムが急速加速装置≪テーセウス≫を起動する前にその高速飛翔するビームサイズが突き刺さり、≪フォーリングエンジェル≫は爆砕される。
そして、今度はイカロス本体に向かって群れを成しながら飛行した。
≪テーセウス≫を発動させ、激しいGに耐えながらも≪アイオーン≫となったイカロスを操るメリリム。その動きはさすがに10基の≪アスモデウス≫も捉えきれなくなる。
「・・・ごめんなさい、エレインさん。少し、我慢して!! 」
高速で迫る≪アイオーン≫が両腕にビームランス≪ロンギヌス≫を構えてさらに加速する。
急激なGに血を吐きながらメリリムは舞った!
そして、
ガキィィィ!!!
10基の≪アスモデウス≫の内、ボディにあたるユニットに体当たりをくらわしてくっつき、≪ロンギヌス≫の刃を付きたてた。
「チェックメイトです、エレインさん。もうあきらめて他のユニットの動きを止めてください! ・・・・帰りましょう、私たちと・・。」
メリリムの言葉に答えたのはボディーユニットから発射されたワイヤーであった。
そのワイヤーがボディーユニットごと絡まるようにイカロスに巻きつき、その動きを封じる。
「フフフフフフ!! 残念だったな、メリリム・ミュリン!! 私のパニッシュメントのコクピットと動力は全てこの異型の頭部にあるのだ!!! 冥土の土産にボディはくれてやる!! 死ねぇ!!!! 」
残り9基のユニットが、自らのボディユニットに絡まるイカロスに向けてバラエーナ・プラズマ収束ビーム砲改とクスィフィアスレール砲改を構え、そして・・・
「・・・・メイズ・・・・、私・・」
「メ・・・メリィィィ!!!!!!! 」
メイズの叫びが、その宇宙を悲痛な色に変えた。
「おい、やめるんだ!! こんな事をして、何になる!!! 」
『そうですわ!! あなたは助かるんですのよ!? わたくしの骨髄を移植すれば!! 』
スサノオ・ルージュからの必死の呼びかけに、その妖艶なる薄幸の美少女はこう答える。
「そんな事はたいした問題じゃなくってよ。ブリフォー・バールゼフォン、『お姫様』のお姉さん。・・・私は今、もっと大事な事をしているのよ。」
美少女の真剣な言葉に、黄昏の女神達が言葉をかける。
「それが何なのか。そんなことを聞くつもりはないわ。でもね、ペルセポネ。あなたの事を頼まれているのよ。デュライドやメリーナちゃん、ケットさん。それだけじゃなく、ディナ・エルスの多くの人たちからね!!! 」
『そうさ。それだけお前は大切に思われ、望まれているんだぞ。・・・生きて欲しいと!! 』
「・・・ンフフ、ありがたい事ね。少し前の私なら、揺らいだかもしれないわね。でも・・・!!! 」
アフロディーテから内部振動増幅破壊弾≪ティンカーベル≫が連射される。
「今の私には・・・私自身やディナ・エルスのみんなよりも大切なものがあるのよ!!! 」
キィィ・・・キィィィィン!!
ペルセポネの瞳にピンクと黒のSEEDの光がそれぞれはじけた。
「くっ! ならば、オレ達も!! 」
『全力で!! 』
「あなたを!! 」
『止めて見せる!! 』
キィィィィン!!
かつて、リューグゥやアフリカで死闘を繰り広げた2機の東アジアガンダム『ミコト』、嵐の神スサノオ・ルージュと太陽の女神アマテラスのダブルフェイスが完全起動し、仮初めのSEEDの力を借り受ける。
≪ティンカーベル≫をかわし、スサノオ・ルージュが宇宙戦型背部換装パック≪ゲツト≫を全開させ、9.98m対PS超高熱空斬剣≪ツムハノタチ≫を構えてアフロディーテに飛翔する。
それと連携するかのように高出力ビームブレード≪ヤツカ≫を構えたアマテラスと、ナビゲーター制御型ビームプロミネンスユニット≪タカマガハラ≫が挟み込みをかけた。
3方向から迫る、ザフト士官学校同期の3人が見せる連携の軌跡は、アフロディーテの逃げ場を完全に遮っていた。しかし、アフロディーテは回転し、舞を踊るかのように的確に≪ティンカーベル≫の振動弾をスサノオ・ルージュ達に連続発射し、牽制をかける。
『こんな攻撃で!!! 』
その弾を交わしながら真っ先にアフロディーテのもとに到達した≪タカマガハラ≫のビームプロミネンスが燃え盛る。
何とかかわしたものの、装甲が大きく焼け爛れるアフロディーテ。
そして、
「聞き分けのないヤツには、きつい仕置きをしてやる!! 」
スサノオ・ルージュの≪ツムハノタチ≫の超高熱空斬がアフロディーテ目掛けて振り下ろされた。
ガキィィィ!!!
それをアフロディーテの超振動子内蔵盾≪アテナ≫が受け止める。
『! ブリフォー!! 離れなさい!! 』
フルーシェの声によって超高速で振動をはじめる≪アテナ≫の破壊振動から、済んでのところで刀を盾から放すスサノオ・ルージュ。
「・・・逃がしはしないわ!!! 受けなさい、死の抱擁を!!! 」
追いすがりスサノオ・ルージュに抱きついたアフロディーテが≪アテナ≫と振動子フィンガー≪エロス≫を全開にして超振動を引き起こす!
「「ぐああああああ!!! 」『きゃあああああああ!! 』」
「くぅぅぅ・・・このまま・・・抱き壊してやるわ!!! 」
自分の機体にも相当の衝撃を走らせながら、アフロディーテの死の抱擁がスサノオ・ルージュを苦しめる。
「14の女の子が、死の抱擁なんて・・・・・あと4、5年は早いわよ!!! 」
太陽の女神が宇宙を燃やすように駆ける!
アマテラスが対艦バズーカ砲≪イクタマ≫を≪アテナ≫に放ち機能を停止させ、高出力ビームブレード≪ヤツカ≫を振ってアフロディーテの両掌の≪エロス≫を斬りおとした。
「・はあ、はあ、・・く、おのれ! エリス・アリオーシュ!!! 」
苦しみながら言うペルセポネ。そして、
「自分の命を軽んじるような戦い方で・・!!! 」
『わたくし達、ミコトの力を凌げるとでもお思いになりましたの!? 』
「「控えろ!! 」『お控えなさい!! 』」
スサノオ・ルージュの≪ツムハノタチ≫の空斬が今度こそアフロディーテの≪アテナ≫に切りかかる!
しかし、それを防いだのは・・・・・・・≪タカマガハラ≫!!
『ミゲル!! 何していますの!!? ・・・まさか! 』
見ると、アマテラスのカメラアイが真っ赤に輝いている。
隙を付いたアフロディーテがアマテラスに敵機簡易制御システム≪テンプテーション≫取り付けたのだった。
『・・・・・・グ・・・から・・だ・・が・・・・・引き裂かれそ・・・だ。』
「ミゲル!! しっかりして!! 機体のコントロールが・・・ええい!! 」
「エリス!!! くそ、迂闊だった!! 」
「・・・私のアフロディーテは他の従神と比べれば差ほど高い戦闘力は持ってないの。さあ、殺し合いなさい!! そのコ達(ミコト)にリューグゥやネブカドネザル、そしてパナマでの決着をつけさせて上げなさいな!!! 」
「・・く、エリス、ミゲル!!! 」
「ブリフォー、フルーシェ!!! ・・・・くそ!! 私は!!! 」
風と太陽の神々の最後の戦いが強制的に始まった。
光り輝くガンダムアストレイと、金と銀の月の神がその宙域で無数のきらめきを描いていた。
しかし、2人の少年少女は肩で息をし、既に疲弊しきっている。
全天に向けて放射される攻防一体の戦陣といえる高出力拡散ビーム放射装甲≪シャイニングフレーム≫を防ぐ唯一の方法は、試作型反重力フィールド発生装置≪ヤタノカガミ≫を展開させてその光の中に飛び込み、ビーム放出完了の直後に攻撃をかける以外方法がなかった。
しかし、コスモフレームもそれくらいは百も承知であり、巧みにそれをかわしたり、シャクスが『おまけ』として開発した10連装超振動子内臓ミサイルランチャー防盾≪エクセレント≫の振動子弾丸でツクヨミ、月式を迎撃して近づかせなかった。
「・・・ナターシャ、ディノ。無駄だという事が分からないのですか?あなた達の『ヤタノカガミ』は常に展開した状態でいる事ができない。私の『シャイニングフレーム』もそうですが、ある程度の連射ができる分こちらの方が優れているのです。その隙を付くのはあなた達の実力では不可能でしょう。」
『・・・悔しいですが、返す言葉もありませんね・・。』
「はあ、はあ、はあ、そんな事・・・・分かっているさ、ニコル。」
「・・ふう、ふう、それでも・・・私・・いえ、私達は・・・シャクス『先生』!! あなたを連れて帰ります!! マナさんのためにも!! 」
『先生』と『マナ』という言葉にシャクスは少しだけ反応を見せる。
しかし、その口調はあくまでも冷たい。
「・・・それならあなたが心配する必要はありませんよ。マナさん達もすぐに消えるのですから。。」
「!! ・・・・マナさん達にまで、何をしようというの!!? 先生ぇぇぇぇ!!! 」
「別に。どちらにせよこの宙域にいる者は消すだけという事です・・・・・来なさい、ナターシャ!! 」
迫る月式を悲しみの色を湛えるコスモフレームが迎え撃った。
「『ゴッドフリート』、1番2番、『ローエングリン』1番から4番、てぇ!! 」
「喰らいやがれ!!! 」
アメノミハシラに一番近い宙域では、イズモ級戦艦とエターナル級戦艦の2つの艦が激しい対艦戦闘を繰り広げていた。
それを取り巻く無数のM1Aアストレイ、ソードカラミティ、レイダーをクラウディカデンツァと レッドフレームが必死に食い止める。
タケミナカタの主砲の火線が宇宙を走る。レヴィンの的確な狙いが、何機かのM1Aアストレイを撃墜しながら敵艦に迫る。
エターナル級2番艦、アザゼルに。
「この程度の攻撃なら、読めるわね。回避するわ。」
ブリッジにはコトアマツカミの2人の人影。
艦長席らしき場所に座るのはオーソン・ホワイト。そして、その背後の指揮官席に座るのはウズメ・フジヤマだった。
その2人以外は、もぬけの殻。ほとんどをMIHASHIRAシステムによって制御されたアザゼルを操るのはそれでも充分な事だった。
「・・・操縦は任せていいかね、ウズメ。」
「ええ。どうかした? 」
「なに、私も出ようかと思ってね。ロンドも既にスタンバイしているようだし。」
「ふふ、中立派議員とはよく言ったものね、オーソン。」
「・・・私のモノは従神ほど優れたものではないが、『アレ』の試験がてら行って来る。」
「なら、私も勝手にやらせてもらうわ。食らいなさい、タケミナカタ。」
アザゼルから無数の小型ビーム砲と強力な単装主砲がタケミナカタに襲い掛かる。
「回避!!! 」
「ええええい!!! 」
ユガの見事な操縦は、その火線の光をかわし体勢を整える。
しかし、そこに迫る強襲形態のレイダーの群れ。
「イーゲルシュテルン、ヘルダート全門発射!! 」
「その程度の襲撃で、甘いんちゃうか!!! 」
ハウメアが放った無数の弾幕がレイダーを落とし、敵の攻撃を防ぐ。
それを掻い潜って近づいてきたソードカラミティの群れも、一瞬その動きを止めた。
「特製の簡易戦闘情報ジャミングEMPだ!! びっくりしただろう!? 」
ガルダの電子攻撃で瞬間的にカメラアイが停止したことに動揺するソードカラミティの群れの隙をつき、レッドフレームとクラウディカデンツァがそれぞれ迫り、撃墜してゆく。
「ティル! ロウ! 助かったわ!!!どんどんお願いねっ! 」
「へへっ、任してください、サユさん!! まだまだやりますよぉ!! 」
「ああ、結構きついが、ま、なんとかなりそうだしな、8? 」
『この連携なら大丈夫! ノープロブレム! 一気に叩け!! 』
たった2機のMSと1隻の戦艦に、アメノミハシラの全軍が翻弄されていた。いや、むしろたじろぎ、その足並みを乱し始めていた。
「こんなやつら・・勝てないぜ!!! 」
逃げ出そうとした一機のM1Aアストレイの首が飛ぶ。
「艦長! 新しい敵MSの機影確認!! 2機です!! 」
シュンの報告と共に、その宙域にミラージュコロイドを解除したアストレイゴールドフレーム天が現れた。そして、ロウのレッドフレームと対峙する。
「弱卒は未来のオーブには不要! 逃げ出したいのなら屍となって逝くがよい!! 」
「! あの黒いMSは・・・ゴールドフレーム!? ギガフロートの時よりさらに形が変わってやがる。」
「これは、これはプロト02とは・・。正に一石二鳥とはこの事か・・・。アストレイは一体だけ存在すればよい!! ラストダンスの時間だ!! 」
「このぉ!!! 」
2機のアストレイが、激しくぶつかり合う!
「ロウさん!! 」
駆けつけようとするクラウディカデンツァの元に、巨大な影が飛来した。
それは、アザゼルに搭載されていたミーティア改の異名を持つ多目的飛行モジュール、ヴェルヌ35Aと合体したゲイツであった。プラントのヴェルヌ設計局で開発されたこのモジュールは、他の機体との結合規格が統一された事によって、既存のジンやシグー、ゲイツなどのMSにも合体でき、火力、機動力、運用時間などの面で最新機に匹敵する性能を与える。
「君の相手は私がしよう。コトアマツカミの一人、オーソン・ホワイトがね。」
「く・・なんだ、このデカブツ!! 邪魔なんだよ!!! 」
カラーズのグレーの飛行MSと、プラントのグレーの飛行モジュールが戦乱の宇宙(ソラ)を駆ける!
「みんな!! 新手が来たようだけど、ここで踏ん張るのよ!!! 」
「「「「「「おお!! 」」」」」」
マナの檄と指示の元、タケミナカタもまた、最後の激しい戦いを繰り広げた。
少年は、守る事ができなかった。
自分の事で精一杯になっていた彼には、彼女の悲痛な叫びが届かなかった。
少女は、守って欲しかった。
必死に父の死の悲しみや汚い軍の裏側の人間模様を見ながらも必死に耐えた。でも、そばに彼はいなかった。いてくれたのは、親しい先輩。・・そして、その先輩も・・・もう。
「コオォォォォ!!!! 」
「リトォォォォ!!!! 」
ビーム羽衣≪アマノマホロバ≫と、偏光型ビームブレード≪フル≫が唸りをあげてぶつかり合う。
エネルギー吸収変換防盾≪オノゴロ≫でそれを防ぎながら空間を駆ける2機の夫婦神。
隙を付いて≪フル≫をイザナミの左腕に振り下ろすイザナギ。
ギィィィィン!!!
エネルギー吸収変換防盾≪オノゴロ≫でイザナミはそれを受け止める。
そして、コクピット目掛けて襲い掛かるイザナミの4本の≪アマノマホロバ≫をイザナギもまた、エネルギー吸収変換防盾≪オノゴロ≫で受け止めた。すさまじいエネルギー流が迸り、輝く2機。
「リト、もう・・もうやめてくれ!!! 」
「うるさぁぁぁぁい!! もう、聞き飽きたわ!! そんな台詞!! 私を見捨てて、私の全てを奪った・・・シートさんを殺したあんたはぁ!! 死ぬ以外ないのよぉぉ!!! 」
「確かに!! 確かに、オレのせいでシート先輩は殺された!!! でも、・・・!! 」
「嘘をつかないで!!! あなたが殺したのよ!! シート先輩も・・お父さんも!!! 」
「リ・・リト。」
ひるむコウのイザナギが押され始める。
『それは違うぞ!! リトちゃん!! コウは・・・』
『娘に気安く話しかけないでくれるかね、アモン。AIの分際で、知ったような事を言いおって。』
『マクノール!!! あんた、リトちゃんに何を吹き込んだ!!! 』
『真実を語っただけだ。』
『違う!!! あんたも、シート・ブルーノも、コウが殺したんじゃない!!! シート・ブルーノを殺したのはむしろあんた達じゃないか!! 』
『いや、コウが殺したのだ!! コウが引き金を引いたのだ!! せっかく、オーブでかわいい後輩の為に助けに行ってくれたというのに。自分の立場も省みず、こんな横暴なやり方は気に食わないと言ってな!! それなのにその彼を裏切り引き金を引いたのは、お前だ! コウ!! 』
「そうよ!! 死ね、コウ!!! 」
コウの心に衝撃が走る。
そして、イザナミは今まで貯めていたエネルギーを解放させて至近距離から胸部エネルギー砲発生型結晶装甲≪アメノヌボコ≫を発射した!!
しかし、イザナギも同じく≪アメノヌボコ≫を発射し、その光の矛がぶつかり合って爆発する!
多少の被弾を受けながら距離をとる2機。
『往生際が悪いな、コウ。リトのためにも死んでくれないか? 』
冷たく提案をするマクノールに、コウが逆に問う。
「・・・何故知ってる。」
『うん? 』
「なんでシート先輩がオーブで『こんな横暴なやり方は気に食わない』と言ったことを知ってるんだ!!! いくらあんたがリトと記憶を共有しているといっても、今の台詞はオレとティル・・・そしてシート先輩本人しか知らないはずだ!! 答えろ、マクノール・アーキオ!!! 」
『ハーッハッハッハッ。何を言い出すのかと思えば・・』
マクノールの言葉を遮るように、アモンが続ける。
『・・いや、アーキオ大佐はそんな笑い方はしない! 大笑いするときは息を吸い込むようにして『ヒキ笑い』するのさ!!! リトちゃんも知っているだろう? 』
「・・・・・お父・・・・さん? 」
リトの心にも迷いが生じた。
それが、スイッチとなった。
イザナギとイザナミの頭部に輝く光の輪が浮かび上がる。
そして、2機の動きが完全に停止する。いや、動けなくなったのは・・・
「何? これ・・・体が・・なんで!? 」
「コントロールが・・・いや、体が動かない!! アモンさん!!? 」
『ぐあ・・・・これは・・・まさか・・・!! 』
『ハーッハッハッハッハッ、それはそうだろう。高感度通信リンクシステム『シンタク』を発動させたのだから。』
「お父さん!! どういう・・・」
『まだ分からないのか? ・・・・『オレだよ、リト』。』
その声が、マクノールのものから若い声に変わった。
「信じたくはないけど・・・。」
『やはりお前か・・・。』
「『シート・ブルーノ!!! 』」
〜第40章に続く〜
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