〜第36章 二神、邂逅〜

全てのMSがその声に動きを止めた。
圧倒的な威圧感と力を持った、その薄紅色のMSの姿にまるでひれ伏すかのように。

「あれは・・・・パナマの!! 」
「ここまで追って来たってのか!? 」

エリスとティルの言葉にタケミナカタのMSパイロット達は全員その正体に気付いた。

「じゃあ、あれがスサノオを・・・・コウを殺そうとした、『イザナミ』か! 」
『どうやら、そのようですね。ディノ。』
「デュライドさん!! 」

デュライドの元に駆け寄ろうとするフエン。そして、それに続こうとエリス、ティル、ディノも駆けた。
しかし、カグヅチ、アフロディーテ、パニッシュメントがそれぞれ立ちふさがりその邪魔をする。

イオが、「ダメだよ〜!! 」
エレインが、「貴様らの相手は・・・」
ペルセポネが、「私たちよ? リトお嬢様には近づけさせないわ。」

それぞれにリトを守る。

フエンが、「どいてくれ、イオ!! 」
エリスが、「邪魔よ!! 『白薔薇』!! 」
ティルが、「このバラバラ分解野郎、どけよぉ!! 」
そして、ディノが、「ペルセェェェェ!!! 」

従神達を突破しようと激しく迫る。
その間もヴァイオレントとイザナミが睨みあう。
そして、リトがあきらめたようにつぶやいた。

「・・・答える気がないのなら、もういいわ。・・・あそこにいるんでしょう? 」

そう言うと、イザナミはディナ・エルスに向かって加速した。

「ま、待て!! 何を!!? 」

追いすがるヴァイオレント。

「・・・あのコロニーごと、コウを殺すわ・・!! 」
「な・・・させるかぁ!!! 」

ヴァイオレントが攻盾型ビームサーベル≪デュランダル≫のリミッターを解除した。ビームサーベルの刃が大きく広がり、≪エッケザックスモード≫となったビームサーベルの大光刃がイザナミに迫る。
しかし、イザナミはそれを受ける事はおろかかわそうとする気配すらなかったが、振り下ろされた≪デュランダル≫の大光刃は空しく空を斬った。
そして、イザナミの姿はヴァイオレントの背後に浮遊していた。あたかも居場所がすりかわったかのように。

これがイザナミの脅威の武装の一つ、空間転移システム≪アメノウキハシ≫の力であった。
これはイザナギの亜光速加速システム≪アメノトリフネ≫と同様、クロウリー・オセの開発した空間干渉技術を応用したものであり、非常に短距離ではあるが、自らの機体とパイロットを瞬間的に粒子化して別の場所に飛ばし、即座に元の形に再構築させる、いわばテレポート機能。

「あなたも邪魔をするのね! ・・・じゃあ、消えて!! 」

ビーム羽衣≪アマノマホロバ≫が唸りを上げる!
しかし、デュライドとて並みのパイロットではない。

「そう何度も、同じ攻撃を食らうとでもおもったか!! 」

右腕の≪デュランダル≫の大盾で4本の≪アマノマホロバ≫を器用に受けるヴァイオレント。
しかし、すべての羽衣を受けきった瞬間、≪デュランダル≫の盾はズタズタになって使い物にならなくなってしまう。

「な!! アンチビームコーティングされたこの『デュランダル』の盾をここまで斬り裂いただと!? なんて出力のビーム刃なんだ、あれは!! 」

次の瞬間、イザナミの強烈な蹴りによって、ヴァイオレントはその宙域から蹴り飛ばされた。

「わたしの邪魔をしないで! 殺さなきゃ・・・・・コウを!! あのコロニーごと!! 」

イザナミがディナ・エルスに急接近し、右手の主砲をそのコロニー外壁に構えた。コロニーからの 迎撃も、4本の≪アマノマホロバ≫がビームシールドとなってことごとくイザナミを守る。

『そうだ、リト。忌々しい『メンデル』の生き残りなど、この場で消し飛ばしてしまえ!! 』
「ええ、お父さん。シートさんのためにも、コウを・・・殺すわ。今度こそ!! 」

主砲を放とうとするイザナミ。しかし、その機体に衝撃が走る。
そして、次の瞬間イザナミの体が動かなくなった。

「何!? 何なのよ!! 」
『何をするのだ。返答次第では、許さんぞ・・・・・・・ペルセポネ!! 』

アフロディーテが放った敵機簡易制御システム≪テンプテーション≫の寄生ユニットがイザナミの体に取り付いたのだった。

「主神! お嬢様! 約束が違います。ディナ・エルスには手を出さないといったはずです!!」
「うるさいわね! 私は、コウを殺す!! それだけよ!! 」
『その通りだ、ペルセポネ・ディナ・シー。コウを殺し、タケミナカタを消す事が最大の目的。何にも代えて優先されるのだ。その他の事など大事の前の小事にすぎん。』
「それでは、イザナギはどうするのです!! 」
『なに、また作ればいい。データはあるのだからな・・・。今は脅威となる可能性があるものは排除するのみだ! ・・・・控えよ、ペルセポネ! 』
「そ、そんな!! 」
「や・・・やめろぉ!! 」

ペルセポネとデュライドの悲痛な声がこだまする。



なんだ・・・・・この光は?
大きくて。圧倒的で、禍々しくて、神々しくて・・・・・それでいて、悲しい光・・・。
その光に、皆が今にも飲まれそうだ・・・・。あれは・・・・。

「・・・リト・・・! 」
「どうした? コウ。」
「ブリフォー、頼みがある。」



「お願いです! もう一度、お考え直しください!! あそこには、関係のない多くの人たちが!! 」
『くどいぞ、ペルセポネ! それに関係ないという事はない。その内、この世に生を受けた全てのものが、私の所有物となる。ここで、我が大意のために消える事ができるという事が歴史の中で何にも変えがたい誇りとなる時代が来るのだから!! ・・・やりなさい、リト。』

取り付けられた≪テンプテーション≫のユニットが機能をダウンさせてポロリとイザナミから剥がれ落ちた。
そして、主砲に光が終結してゆく。

「いくわよ!! コオォォォォ!! 」

その時、宇宙(ソラ)を熾やす一筋の流星。
その姿に、その場にいた者が口々に叫んだ。

「「「「「「イザナギ!? 」」」」」」
「コウ・・・コウなのね? コオォォォ!!! 」

狙いをイザナギに変えたイザナミはその主砲、空間転移砲≪ヨモツヘグイ≫を撃ち放つ!
PSの施された超軽量結晶装甲ヴァナディースの驚異的なスピードで、その感情に任せた砲撃をかわすイザナギ。
かわした光は背後を漂っていた小隕石にぶつかり、その隕石の姿を跡形もなく消し飛ばす。
空間転移システム≪アメノウキハシ≫を応用したこのイザナミ最大の兵器は、被弾した敵機を即座に粒子化して再構築させずに四方に発散させるという『物質分解』を引き起こす驚異的な砲であった。
イザナミのコクピットに通信が入る。

「・・・・その赤い大きな光。イザナミ・・・・リトだね。」
「!! コウ! よくも抜け抜けと私の前に現れることができたものね!! この、人殺し!! 」
「待ってくれ、リト! シート先輩の事か!? だったら、話を・・」

コウの言葉を遮るように、≪アマノマホロバ≫がイザナギを包み込むように襲う。イザナギは左腕のエネルギー収束吸収防盾≪オノゴロ≫で何とかそれを防いだ。

「あなたは私の大切なものを全て奪ってゆくわ! 住む世界も、『愛する人』も、お父さんも、シートさんも!! あんたなんか死ぬべきなのよ!! 」
「・・・リト・・・。オレの命が欲しいなら、いくらでもあげるよ。それで気が済むなら好きに・・・」
「ふざけないで!! 私の大切なものを全部奪っておいて、あんたの命なんかじゃたりないわ!! そうよ・・・あんたの大事なもの全部奪ってやる! ・・・タケミナカタも、このコロニーも全部!!! 」
「リト! それだけは・・・・そんな事は、例えリトでも絶対にさせない!! 」
『そうさ、『リトちゃんのため』にも、止めるぞ! コウ! 』
『君に何が分かるのかね、アモン。』
『な・・・その声は、アーキオ・・・大佐!? 』

マクノールの声に衝撃を受けるアモンとコウ。

「・・・そうでしたね。イザナミにもMIHASHIRAシステムはあるんだ。・・・リトのナビゲーターはアーキオ大佐ということか!! 」
『それは少し違うな、コウ君。』
「? 」
『私は『ナビゲーター』などといったパイロットなしでは自立形成されない低レベルな存在ではない。私は、『神』だ。そう、完全なる自我を持つ永遠なる独立したAI、『御柱(ミハシラ)』とでも言っておこうか! 』
「『御柱!? 』」
「そうよ、お父さんは死ぬよりも前に自分の記憶をデータ化して有事に備えていたの。老いも病気もない、完全なる『神』、コトアマツカミの主神としてこの世界を導くために・・・。このイザナミとイザナギはそのための力。なのに、あんた達が奪った! シートさんを殺した、あんたが!! 」
『覚悟を決めたまえ、コウ、アモン。ここで君たちは果てるのだから! 』

「そ、そんな。アーキオ大佐が・・・コトアマツカミの、『主神』だなんて!!! 」
『くそ、なんてこった!! 』

コウとアモンは苦悩した。しかし、

「『それでも、みんなを殺させはしない!!! 』」

イザナギの3つのカメラアイが再び輝く。そして、追加された武装である背部に広がる8本の巨大刀剣に何者をも切り裂く青白い光が輝き出す。

「死ね! 「コウ!! 」『アモン!! 』」

 イザナミもそれに呼応するかのように3つのカメラアイを妖しく光らせ、4本の真紅のビーム羽衣を優雅に舞わせ始める。

 8本の高出力プラズマ収束剣≪ヤクサノイカズチ≫を展開させて、光の尾を輝かせる『熾天の流星』・イザナギ―コウ―と、美しきビーム羽衣≪アマノマホロバ≫を宇宙(ソラ)を覆うように広げ、その姿を溶かし込むかのように神出鬼没させる『天包の織姫』・イザナミ―リト―が宇宙の他の星々を凌ぐほどに輝き、ぶつかった。



「ペルセ! 一つ答えろ!! 」

ディノがアフロディーテに通信を送る。

「あのイザナミのナビゲーターは、本物なのか!? それとも・・・。」
「残念だけど、本物よ。というより、彼が私達のボスですもの。当然ね。彼の話した事が、全て真実よ。」
「・・・ちぃ! 厄介な事に!! だが、ペルセ! このままじゃディナ・エルスはイザナミが消す気でいるようだよ。逆恨みのためにね。いいのかい? それで。」
「あなたに心配されたくないわね!!! うっとうしいわよ!! 」

アフロディーテが再びツクヨミに襲い掛かった。

「・・・へぇ、キミでも怒り狂う事があるんだ? ・・・無様だね。」
『普段余裕を見せている人ほど、予想外の事に対面した時、弱いものです。』
「ほざくな、ガキども!!! あんた達に、私の何が分かる!!! 」
「さあ? 分かるのはキミがボクと同い年の『ふけ顔』だってことくらいさ・・・いくぞ、ペルセ!! 」

ツクヨミとアフロディーテが、

「『白薔薇』ァ!! どきなさい! 生意気なのよ!!! 」
「フン、下品な言葉を使うな。そのような人間の力など、知れたものよ!! 」
「オレがいることも忘れるなよ!? バラバラ女! 分解した瞬間全部撃ち落してやる!! 」

アマテラス、クラウディカデンツァとパニッシュメントが、

「フエン! 加勢する!! 」
「デュライドさん! 平気なんですか!? 」
「ああ、盾は使えないが、ビームサーベルならまだ使える! お前はエネルギー、大丈夫か? 」
「・・・もう、ほとんどありません。ヴァイオレントもでしょうね・・・でも!! 」
「あっれー? 今度は紫のがこっち来たの? 面倒だなぁ。・・・でも、お嬢さんもやる気まんまんみたいだし、俺も頑張っちゃおっかな!! いくよ、フエン、紫!! 」
「来い、イオ!! 」「・・・受けて立つ! 」

イルミナ、ヴァイオレントとカグヅチが、
再び激しい均衡状態の戦闘を繰り広げた。

そして、戦渦に飲まれるディナ・エルスの平和なはずの星海で、夫神と妻神もまた、激しくぶつかり合った。

「コオォォォ!!! 」
「リト!! 」

ビーム羽衣≪アマノマホロバ≫の全天を包み込むかのような斬撃を、イザナギは亜光速加速システム≪アメノトリフネ≫で回避する。
そして背部の8刃の≪ヤクサノイカヅチ≫を青白く輝かせ、正に目にも止まらぬ速さで駆け抜けて、流星の如くイザナミを切り裂いた。
否、切り裂いたのはイザナミのいた場所。
空間転移システム≪アメノウキハシ≫を起動させ、通常ありえない速度で迫るそれを、ありえないタイミングでかわしたのだった。
そして、瞬間的にイザナギの横にテレポートし、再び≪アマノマホロバ≫で襲い掛かる。

『ミコト』の戦いですら、この時代常軌を逸するほどのすさまじいものであったが、この2機の夫婦神の戦いは、正にその領域を何次元か飛び越えていた。
これが、ザフト、連合、ディナ・エルス、オーブ、そしてフジヤマ社の全てのデータの粋を集めて作り出された『プロジェクト・メオト』のDEM-Ωナンバー、イザナギとイザナミという究極のガンダムの力・・・。

一見互角の戦いに見えたそれは、MSを駆る者だけを見れば、圧倒的にイザナギの方が不利であった。
リトと戦う事に激しく心を引き裂かれそうになるコウと、変わり果てた尊敬する恩師との邂逅に動揺するナビゲーター・アモン。
まさか、主神がマクノールだったとは・・・! リトがイザナミに乗せられた事もこれで納得がいく。
彼女も、調整は受けていないといっても『メンデルズ・チルドレン』の一人なのだから!

「くそ!! くそぉぉぉ!!! アモンさん!! 」
『く、確かにどうすればいいかわからないな!! だが!! 』

キィィィィン!!

コウの心の瞳にアモンの種がはじけた。
今のコウは、その目が見えない。従って、リンクしたアモンの助けを借りてかろうじて敵の所在を確認しながら操縦していた。
その脳裏に映るのは、光の塊のみ。よく知る光と悪意や殺意を撒き散らす光を見極めて、コウはイザナギを流星に変えて戦っていたのだ。
逆に言えば、レーダーに映らないはずのツクヨミの姿もディノの光によって捉える事ができた。
そして、今SEEDの力によって感覚がさらに研ぎ澄まされたコウの脳裏に映ったのはさらに禍々しい憎悪の炎をたぎらせる巨人の姿だった。
イザナミの外見を目視するよりもはるかに禍々しいその炎の巨人の姿が表すリトの憎悪の心が、コウをより一掃苦しめる。
しかし!

「リト!! もう・・・やめてくれ!!! お願いだ!!!! 」
『アーキオ大佐!! 目を・・・目を覚ましてください!! 』

夫神に乗る彼らの必死の叫びを、妻神の2人は嘲笑した。

「・・・じゃあ、死になさいよ! あんたの大事なもの全部と一緒に!! 」
『逆だよ、アモン。わたしは目覚めたのだ・・・・この世界を統べる、真の至高なる存在として!! 』

キィィィィン!

リトの漆黒の瞳に輝いたのは、データ上に存在した憎しみの紅蓮の炎のような真紅のSEED。
全てを超えた2『柱』の神が、それぞれの異なる想いとともに宇宙を駆けた!



「このままじゃ、まずいな・・・。」
「ラウム! 通信をつなげ!! アレを・・。」
「でも、マルドゥーク!! アレは!! 」

ディナ・エルスのMSドックに付属する通信室で、グラーニャがマルドゥークの言葉を遮った。そして、続ける。

「アレを使ったら・・・・・・コウ君は!! 」
「・・・ラウム、通信をつないで。」

そう言ったのは、アリアだった。

「でも! アリア!! 」
「いいのよ、グラーニャ。イザナギには、あの子が自らの意思で乗ったのよ。どの道あの子がイザナギに乗り続けるのなら、避けられない道ですもの・・・・コウだって、覚悟はあるはずよ。私から話すから・・・。」

ラウムはイザナギに向けて通信回線をつないだ。

『コウ・・・よく聞きなさい。』
「! 母さん!? 」

イザナミとの悲痛な激戦を繰り広げていたイザナギに母の声が静かに響く。

『このままでは、皆やられてしまうのは時間の問題よ。基本的に永久動力を搭載している『ミコト』はともかくとして、バッテリー式の他の機体はエネルギーがそろそろ尽きるでしょう。そうなれば、均衡状態は崩れ、一気にこのディナ・エルスは落ちる事になります! 』
「く・・・でも、どうしようも・・! 」
『手はあるわ・・・。でも』

アリアは一瞬言葉を止めた。コウがその言葉を、促すように口を開く。
彼の『ハーフコーディネイター』としての直感が、何かを悟ったのかもしれない。

『・・・みんなを救えて、リトも助けられるのなら・・・・オレの命をかけるよ、母さん。』

息子のその言葉に、アリアは涙を堪えながら凛として言った。

「・・・では、今から言うコードをディスプレイに入力しなさい。そうすれば、あとはアモン君が教えてくれるはず! でも・・・長時間は使わないで! そのシステムは・・・。」
「分かったよ、母さん。大丈夫だから! 」

コウは強がりのような言葉を言いながら、イザナギを操縦をする片手間にアリアの言った入力コードを素早くキータッチする。

フィィィィィ・・・・・・・

イザナギの背部が、より一層輝きを増し始めた。
そして、

『行くぞ、コウ。覚悟はいいな。』
「ええ、アモンさん」

突然イザナギが≪アメノトリフネ≫を全開にしながら宇宙を駆け回った。
輝く背中からは無数に輝く大きな彗星の光の尾が舞い散り、たちまちその空域を光の欠片で埋め尽くす。
そして・・・

「『周囲展開型エネルギー生成永久動力『ヒイズルクニ』、発動!! 』」


イザナギの体が輝き始め、その機体内で莫大なエネルギーが生成されてゆく。
それは、ディナ・エルスで追加されたもう一つの力。
その動力は、エネルギー生成永久動力≪アマツクニ≫をベースに開発された、さらに高エネルギーを生み出す高動力であった。
流星の尾によって周囲に散布されたエネルギーフィールド展開チャフ≪ホシフルシルベ≫を媒介に、イザナギのエネルギーが稲妻のような光となって仲間の機体とつながった。
すると、

「え・・・エネルギーが・・・」
「・・・回復してゆく、だと!? 」

イルミナとヴァイオレントに力がみなぎる。

「それだけじゃない! 」
「この光、機体の出力をすべて向上させてくれていると言うの・・・!? 」
「す・・・すっげぇ!! これなら!! 」

そして、ツクヨミ、アマテラス、クラウディカデンツァにも通常の1.5倍近いパワーが漲り、コトアマツカミの3機を押し始めた。
そして、その源であるイザナギもイザナミを押す!

「な・・何よ。何なのよ!! 突然強くなって!!! あんたはぁぁぁ!!! 」
「もうやめよう!! リト!! オレは・・・・もうこれ以上君を傷つけたくない! 助けたいんだ!! 」
「勝手なことばかり言わないでよ!! だったら、死になさいって言ってるでしょう!! あんたの手で、あんたの大事なものを消して見せてよ!! そうじゃないと・・・・私の気持ちなんか分かんないわ、あんたなんかに!!! 」

・・・本当は、分かって欲しかったのだろう。今まで、ずっと・・・。
リトの言葉の一つ一つが、コウの心を鋭く抉り取ってゆく。

『・・・リト、撤退だ。引きなさい。』
「お父さん!? 私、まだ!! 」
『お前じゃない、従神共が押され始めている。イザナミはともかく、このままでは『苦戦』してしまうだろう・・・。帰って『体勢を整えよう』。いいね。』
「・・・はい、わかりました。コウ! 今度会ったときは、必ず私が殺してあげるから!! 覚悟しなさい!! エレイン、ペルセ、イオ、撤退よ! 続きなさい!! 」
「・・・了解しました。」
「ンフ。」
「え〜、面白いトコなのに・・。でも、ちょっとやばかったからいっか! 」

イザナミに付き従うように、3機のMSもその宙域から撤退して行った。

「勝った・・・のかしら? 」
『ああ、大勝利・・とはいかないかもしれないがな。なあ、ニコル。』
『ええ。とりあえず、『退けた』って事でしょうね。』
「フン! あの程度の敵なんか、ボク達の敵じゃないってことさ。」
「でも、イオは・・・彼らは、手強い敵でした。あれほどのMSとパイロットはザフト・連合の正規軍にだって数えるほどしかいないんじゃないかな。」
「・・・フエンの言うとおりだ。あの光がなければ、やられていたのはオレ達だったかもしれない。」
「そ、そうだ!! コウ先輩は!! 」

全員が目をやったその方向には、輝く装甲が鉛色に変わってゆくMSが動くことなく浮遊していた。

「「「「「『『『コウ!!!?? 』』』」」」」



「どういう事なんです? アリア博士。」

コウの眠るベッドを傍らに、タケミナカタのクルー達はアリアにこの『状況』の説明を求めた。
いくら、コウが病み上がりであるとはいってもタケミナカタでの医療カプセルとディナ・エルスでの療養によって目以外はほとんど通常生活に支障ないほどに回復していた。しかし、今回の昏睡状態は尋常ではない。コクピットを開けた他のパイロット達が見たものは、かつてのような壮絶な光景。
大量の吐血の海に顔をうずめて横たわる、コウの姿であった。

「あんな症状、ネブカドネザルでMIHASHIRAシステムを完成させる前以来の事ですよ!! 」
「そうよ!! あんなに・・・・酷い・・・・・。」

シュンとサユが涙ぐむ。
アリアが言った。

「それは、『ヒイズルクニ』の力を、解放したからよ。能力はさっき説明した通り。自機だけでなく、味方機だけをパイロットとナビゲーターが認識してエネルギー供給と通常以上の力を与える。・・・・でも、その代わり、複数の機体にリンクを張るこの感応システムは、パイロットの精神と肉体に激しく負担がかかる。」
「つまり、・・・完成する前のMIHASHIRAシステムに近いほどの負担ってことかい? アリア博士。」
「・・その通りよ、レヴィン君。いえ、それよりもさらに酷いかもしれないわね。これは、誰も試した事がない、机上の推論に過ぎないの。完成されたばかりのこの力も、パイロット主体で考えれば『欠陥』システムなのだから・・・。」

ユガ、ガルダ、ハウメアもそれを聞いて言った。

「そ・・そんなぁ、じゃあ、コウさんは・・! 」
「そりゃ酷すぎるぜ!! 」
「せや! ウチがそんなんやめさせたる!! 」

「・・いいんだよ、みんな。」

その声に、皆向き直った。
意識を取り戻したその盲目の少年はベッドから体を起こし、皆がいる『と思われる』方向に顔を向ける。
とっさに近くにいたエリスがその弱々しく震える体を支えた。

「いいんだ。あれに乗れるのは、今はオレとナターシャだけ・・。それならオレが乗るさ。それに、イザナギに乗って皆を守れるのなら、オレは大丈夫だから・・・。」
「でも、コウ! それじゃあ、あなたが。」
「エリス、君は何のために戦っているの? みんなは? 世界を救うため? 自分の立場を守るため? それとも、生きるため? 」

コウの質問に皆考えさせられた。

「・・それは、人それぞれだと思うんだ。理由は違っても、目的は同じ人間がここには集まっているんだろう? オレも同じだよ。例え目が見えなくても、命を削る事になろうとも・・・・やり抜きたい事は何にも変えてやり抜きたい! 」
「コウの・・・・やり抜きたい事って? 」

マヒルの言葉に、コウは微笑みながら答えた。

「世界がどうとかじゃなくて好きな人を守りたいんだ。・・・・ここにいる皆が好きだから、皆を守りきりたい。そして、リトを・・・助けたい。だから、それまではオレは絶対に死なないよ。」

それを聞いたディノが口を開く。

「なら、ボクもだ。ボクはあんたの分身なんだからね。あんたに死ぬような負担はかけさせないさ!」
「ディノだけじゃないわ。私たちだってそうよ。守るために戦っているんだから。コウ、あなたの事だって守ってみせる!! 」
 
エリスの言葉に皆頷き、改めて『タケミナカタ』の戦う理由をクルー達は再確認した。

大戦を終わらせるとか、世界を救いたいとか、そんな大それた事じゃなくてもいい。
ただ、大切な人たちや大切なものを『守る』為に集まった者たち。
それが、『タケミナカタ』のクルーなのだと!


「大変です!! アリア博士! ・・・ああ、皆さんも! ちょうど良かった!! 」

 その病室に、駆け込んできたのはブラウニーだった。

「国主が・・・ケット・ディナ・シーが、戻ってきたんです!! ・・・しかも単独で!! 」
「なんですって!? 」
「それで、タケミナカタのクルーに面会したいと!! 」
「!!! 」

全員、その言葉に衝撃を受けた。

とある大部屋で拘束されていたケットが、タケミナカタのクルー達を待っていた。
コウも彼のたっての希望で、車椅子に乗ってその場に駆けつけた― それを押すのはディノだった。
デュライドが珍しくいきり立って話しかける。

「ケットさん! あんたほどの人が、何故この国を裏切るような真似をしたんだ!! 」

そのピエロのようなメイクがすっかり落ちた男は、深々と頭を垂れて言った。

「・・・デュライド君、皆さん、本当にすまない。全部私の独断で行った事だ。ここでMSを作らせたことも、全て!! ・・・・だが、私は助けたかったのだよ、娘を・・・! 」
「・・・どういう事ですか、ケットさん。」

コウがその真意を問う。

「・・・娘は、ペルセポネは生まれながらに病を抱えているのだ。おそらく、後半年も生きられないだろう。・・・あの子は、このディナ・エルスで誕生した始めてのスーパーコーディネイターなのだ。」
「・・・・そ・・そんな! 」
「どういうことだ!? 」

デュライドやディノ、そして全員がそれに驚く。
ケットは語った。

メンデルから流れてきた者の持つとあるデータから、ここディナ・エルスでも一時スーパーコーディネイターの研究が行われていたのだった。
ディナ・エルスの技術とそのデータのおかげでさしたる失敗もなくその誕生はうまくいくはずだった。ケットの子供として・・・。
しかし、ケットは欲が出たのだろう。能力のみならず、スタイルなどの外見や声など、ありとあらゆるものを最高のものとして調整したのである。
生まれた子は、いうまでもなく玉のようにかわいい赤ちゃんであったが、彼女が3歳になったときに異変は判明した。
それは、先天性の特殊な白血病だった。
ドナーが見つからない限りは不治の病といわれた白血病も、現代の科学力では人工血液を使って血液の総入れ替えをする事によって直すことのできるものだったが、その特殊な白血病は何故かそれでも完治する事はなかった。しかも、年々急激に悪化してゆく上に老化の症状まで表れ始めた。
ペルセポネの体は、14歳にして既に20歳中盤の美しさとなっていたのはこのためであった。
方法はただ一つ。
当時の白血病を治す手法と同様の、適合する骨髄ドナーを見つける事だった。
しかし、それに当たるドナーは見つからず、診断された余命が残り半年。
何故なのだろうか、遺伝子治療の効果もさほどうまく表れず、半ばあきらめかけていたところに提案があった。
それは、ロンドの部下、シャクスからであった。
適合するドナーを知っている、というのだ。早速そのデータをもらい、確認すると確かに適合するという事がわかった。すぐにそのドナーの骨髄を提供して欲しいとケットは頼んだが、シャクスは条件を出した。
それが、MSの開発とコトアマツカミ主神への忠誠。
背に腹は代えられず、それをケットは受けたのだった。自分への戒めのためか、それとも逃避なのか、ピエロのような滑稽な格好をし、名を『ケットシー』と変えて。
彼の独特な「ヒッヒッヒ」という笑い声とあいまって、ケットシーはコトアマツカミの一人にふさわしい不気味さをかもし出していた。
しかし、・・・・。

「ヤツラは、このディナ・エルスを消そうとした!! MSさえ作れば手を出さないと約束していたというのに、だ。それだけではない。ヤツラは、娘に・・・いや、ペルセポネだけではない。『従神』と呼ばれるパイロットたちに、とんでもない事を施しいた事がわかったのだよ! 」
「とんでもない・・事? 」
「・・・・コトアマツカミの『従神』と呼ばれているのは全部で4人。・・・」

●オーブのロンド・ギナ・サハク所有、アストレイコスモフレーム パイロット:シャクス・モア・イソラ
●ザフトのオーソン・ホワイト所有、パニッシュメント パイロット:エレイン・ホワイト
●フジヤマ社のウズメ・フジヤマ所有、カグヅチ パイロット:イオ・アステリア
●ディナ・エルスのケットシー所有、アフロディーテ パイロット:ペルセポネ・ディナ・シー

その4人のパイロットの体には、あるものが埋め込まれていた。
それは、

「MIHASHIRAシステムだ・・・! 彼らは、MIHASHIRAシステムが人間に運用された初の人種、まさに『従神』とされてしまった!! 」
「シャクスも・・・・・そんな!!! 何てことを!! 」

マナが取り乱すのを、レヴィンが支えた。

「・・・確かに、まだ人間に埋め込んで運用するなんて早すぎるわ!! マクノール・・・なんて事を!! 」
「アリア博士、申し訳ない。私は、何もできず、いや何もせずに言いなりになっていたようだ・・・。恐らく、彼らは最初から娘を治してくれるつもりはなかったのだろう。娘を検体にされるだけだとも知らず、私は・・・! 」
「・・・母さん、今のMIHASHIRAシステムを体に埋め込むと、どんなことが考えられるの? 」
「コウ。・・・そうね、まず、ナビゲーターなしでも大きな負担なくその力を使えるようになるわ。でも、あなたたちなら分かるでしょうけど、周期的に偏頭痛に悩まされることになるでしょう。」
「取り外す事は、できないのかい? 母さん。」
「それは分からないわ、ディノ。診てみないことには・・・。でも、これも恐らくだけど脳に埋め込むには今の段階のMIHASHIRAシステムは大きすぎるから、体内のどこかにあるのでしょうね。」
「いえ、アリア。改良されていれば、話は別よ。脳に直接埋め込んだ方が、効率もいいもの。」
「そうね、グラーニャ。どちらにせよ、体内に埋め込まれているんだとしたら・・・・分かるでしょう?難しいとだけ、言っておくわ。」
「・・・・・でも、可能性が0なわけじゃないんだ。」

コウのその言葉に視線が集まる。

「なら、今度はこちらから行きましょう。できる限り、ペルセポネさんも、そしてシャクスさんも、フエンの友達も、オレは助けたい! ケットさん、コトアマツカミの本拠地はどこです? 」
「・・・・オーブの軌道エレベーター、アメノミハシラだ。」
「だそうですよ、マナさん? 」
「・・・え・・・コウ? 」
「何してるんです? シャクスさんを取り戻すんでしょう? 」

ユガが、「そうですよぉ! 」
マヒルが、「ビシッと頼むぜ! 」
ハウメアが、「せや、気張りや〜! 」
ガルダが、「燃えさせてくれ! 」
ティルが、「よっしゃあ! 」
エリスが、「どうしたの? 」
ディノが、「ほら、早くしなよ。」
フエンが、「頼みます。」
デュライドが、「フッ。」
レヴィンが、「クールにな! 」
シュンが、「艦長! 」
サユが、「どうぞっ! 」

そして、マナがニコリと微笑みながら、キッと精悍な表情を作って全員に檄を飛ばす!

「これより、タケミナカタはアメノミハシラに向かいます!! 恐らく、最後の決戦となるでしょう。でも!! 」

マナは一息おいて叫ぶ!!

「リトちゃんも、ペルセさんも、フエンの友達も、シャクスのバカも・・・みんな助けてコトアマツカミをぶっとばすわよ!! いいわね、みんな!!! 」
「「「「「「「「「「「「おー!!!! 」」」」」」」」」」」」

全員の心と目的、そして行くべき先が今一つになった。
目指すは、MIHASHIRAの神々の待つ軌道エレベーター・アメノミハシラ。
小さな島国から始まったこの小さな流れの最終決戦のときは、近い。

〜第37章へ続く〜


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