〜第30章 慟哭の予兆〜
「・・・ブリフォー。」
「・・・そんな。」
スサノオとアマテラス、クラウディカデンツァとファーブニルが激戦を繰り広げている頃、別の空域では連合の2機のガンダムと3つ首のピンクの魔犬が、生まれ変わった蒼い魔王と睨み合っていた。
「メイズ、メリィ。言ったはずだな。今度会うときはお互い敵同士かもしれないと。今頃コウと戦っているエリスも、既に覚悟を決めている。それがおまえ達の選んだ道ならば、お前たちも自分の進むべき道を・・・・迷うな! 」
かつての友ブリフォーとエリスの言葉と決意がメイズとメリリムの心を刺す。
そして、おもむろに、優しい口調で話しかけたのはフルーシェだった。
「・・・ちゃんとお風呂には、入ってますの? 」
ブリフォーも、かみ締めるようにゆっくりと答える。
「・・・ああ、毎日な。」
「そうですの・・・。行きますわよ、ブリフォー。」
「ああ、来い! フルーシェ!! ・・・そして、メイズ、メリィ!! 」
パワーアップした蒼い魔王との決戦が始まろうとしていた。
その新しい魔王ザナドゥ・ヒュドラスは背部のウイングはなくなってはいるが、その代わり4本のマニュピレーターが付き、先端にはビーム砲内臓ヒートクロー≪リュウジン≫が付属していた。
いや、実はそれも違った。
両手足と、背部の4本のマニュピレーターに付けられた計8個のそれは、グラシャラボラス内臓ヒートクロウ≪シンリュウ≫であった。
そして、最大の特徴はその動力。
8つの発射口からグラシャラボラスを何度撃っても今の魔王のエネルギーは尽きる事がない。
月の神・ツクヨミと同じエネルギー生成永久動力≪アマツクニ≫を内蔵した今のザナドゥ・ヒュドラスは、まさに魔王を超えた蒼き魔神であった。
「メイズは、下がってて! ・・・私がやるわ! 」
グングニールを止めるために第3の特殊兵装・空間歪曲砲≪フラガラッハ≫を放った事で、エネルギーを使い尽くしてトランスフェイズが既にダウンしていたマステマを庇うように、メリリムのイカロスが空を舞う。
その機影は、2つ。
背部の切り離した操作型独立リフターユニット≪フォーリングエンジェル≫と、強襲形態≪アイオーン≫となったイカロスの2機が、フェザー型炸裂弾機銃≪ニードルフェザー≫を連射しながらザナドゥ・ヒュドラスに迫る。
華麗に舞うその2機の天使に翻弄されるかのように微動だにしない蒼き魔神。
しかし・・・。
「・・・メリィ。早いだけ、小手先だけの機体ではオレの魔神には届かないぞ!! 」
ザナドゥ・ヒュドラスの両手足と背部の4本のマニュピレーターのグラシャラボラス内臓ヒートクロウ≪シンリュウ≫のモノアイが激しく動き、堕天使・イカロスの2つの機影を正確に捉える。そして・・・。
「落ちろ、堕天使!!! 」
グラシャラボラスの八つの龍の咆哮がイカロスを一斉に襲う。
その魔神の砲撃を華麗にかわす2機の堕天使。
しかし、メリリムの飛行の癖はブリフォーに読みきられていた。一つの光線をかわすとそこにまた別の光線があり、それをかわすとそこにも・・・。
ブリフォーが彼女の回避方向を予測して繰り出された砲撃によって、グラシャラボラスの2本の光が≪アイオーン≫と≪フォーリングエンジェル≫にそれぞれ被弾する。
両機共になんとかかする程度で避け流す事ができたが、その両方ともが飛行に必要なエンジンに当たり、煙を上げながら2機は落下して行く。
「きゃあああああ!! 」
「メリィ!! 」
フルーシェのガルゥ・ビューティフルが滑空し、落下する≪アイオーン≫(イカロス)を空中で何とか捕まえる。
それによって我を取り戻したメリリムが、同じく落下してゆく≪フォーリングエンジェル≫をなんとか空中制御し、墜落をまぬがれる。
しかし、恐らくブリフォーの計算なのであろう。動力部に損傷を受けた2機のイカロスはまだ通常の飛行は出来るものの、高速飛行は困難となっていた。
掠っただけだというのに、≪グラシャラボラス≫のその威力は以前にも増してすさまじい。
仕方なく、≪フォーリングエンジェル≫を背部に戻し、MS形態となって出力の落ちた飛行動力を補うメリリム。
「今度は、わたくしの番ですわ!! 」
フルーシェのガルゥ・ビューティフルが、背部多連式ビーム散弾ミサイルポッド≪タスラマード≫をザナドゥ・ヒュドラスに放って弾幕を作り、その背部に回り込むように飛翔して、火炎放射、ビーム、ヒートロッドの3種の攻撃を3つ首から放った。
「言ったはずだぞ! このオレには小手先の技は通じんと!! 」
後ろすら振り向こうとしないザナドゥの背部で、4本のマニュピレーターが不気味にうねり、その先に付く竜のモノアイが迫り来る3種の攻撃を捉える。
そこから再び発射された4本のグラシャラボラスの光線が、炎を裂き、ビームをかき消し、ヒートロッドを焼き尽くす。
見事にそれぞれの攻撃を貫いた4本の光は、威嚇するかのようにガルゥの三つの頭部の首輪にかすり、その鋭い棘を削り落とした。
蒼き魔神と脅威の光を放つ八つの竜、計9つのモノアイが冷や汗を流すイカロス、ガルゥ・ビューティフル、そして少しはなれたところで待機するマステマを一瞥し、言った。
「・・・遊びと挨拶はこれまでだ。次は・・・必ず当てる! ・・・・それでもやるならかかって来い! 全力で相手をしてやる!! 」
「愚問ですわ。MSを動けなくして皆殺しにするような連中を前に、わたくし達は断じて引きません!! 」
ガルゥ・ビューティフルのビームファング≪シュトラーフェ・ファング≫の光刃が輝き、
「・・・・・悪いが、ブリフォー。オレもフルーシェと同意見だ。」
エネルギーの尽きたマステマが両腕の特殊攻盾システム≪ジェミナルトリニティス≫に付随した重刎腕斧≪アンフィスバエナ≫を構え、
「私もです。ザフトがこんな事をするなんて・・・こんな殺戮、絶対に許せない!! 」
イカロスが翼を広げながら両腕に持つビームランス≪ロンギヌス≫の矛先をザナドゥに向ける。
3人の決意を聞き、蒼き魔神のモノアイがさらに真っ赤に輝いた。
「ザフトにはザフトの考えあっての事・・・。ならば、・・・・・ここで果てろ。せめて、オレの手でパナマの土にしてやる! 」
自らに言い聞かせるように、そして揺らぐ事や引き返す事の出来ないように、ブリフォーは言い放つ。
ブリフォーにも分かっているのだ。このザフトの暴挙が。
しかし、プラントを、故郷を想う気持ちが彼の体を突き動かした。
そして蒼き魔神は3機に襲い掛かる。
メイズ、メリリム、ブリフォー、そしてフルーシェ。
友との命を駆けた悲しき戦いがパナマの空に衝撃を走らせる。
そして、別の空でも壮絶な戦いが繰り広げられていた。
その空を揺るがすは、怪しく輝く金色の月神と、清楚に輝く銀色の月の女神。
「月の神は一つで充分。・・・引かないならさっさと落ちろぉ!!! 」
ディノが叫び、11.14メートル級シャムシール型重力刀≪ミカヅキ≫を2本とも≪フェンリル≫に変形している月式に投擲する。
紫色の奇跡を描く2本の重力刀が加速して≪フェンリル≫に迫るが、≪フェンリル≫は7基の量子通信型重力場展開ビット≪トラベリングプラネット≫を足場にしながら、大地を蹴るかのように空中を高速で駆け回り、それを回避する。
そして再び、両肩の大型ヒートブレードを正面に向けてツクヨミに迫る。
しかし、先ほどとは違い一直線には飛翔せず、翻弄するかのように縦横無尽に空を駆けながら。
そして、ディノの一瞬の隙を付いてツクヨミの背部から≪フェンリル≫のヒートブレードが振り下ろされる。
「・・・かかったな! ナターシャ!! 」
しかし、ツクヨミは狙い済ましていたかのように重力場発生装置≪ヤタノカガミ≫を起動させた。
紫色の光の結界に突っ込んだ≪フェンリル≫は、その強力な重力場の斥力によって機体ごと上空に跳ね飛ばされる。
そして、背を向ける≪フェンリル≫にツクヨミは48ミリ超重力圧射砲≪ツキノイシ≫2門を構え発射する。
≪トラベリングプラネット≫を戻す暇もなく、後ろから高速の重力の弾丸を放たれた≪フェンリル≫はそのまま逃げるように加速し、2本の大型ヒートブレードのちょうど裏側に発射口を2門搭載している高速連射型ビームアロー≪アマノハバヤ≫を背後に連射させて迎撃を試みる。
しかし、重力によって圧射された2つの月の隕石はそのビームの直撃をものともせずに≪フェンリル≫の両後足に被弾し、爆砕させる。
「きゃああ!! 」
月式に衝撃が走り、その動きが止まる。
「・・・終わりだよ。ナターシャ・・・・。」
そして、動きを止めた≪フェンリル≫に先ほどかわした≪ミカヅキ≫の重力刀が弧を描くように飛来する。
≪フェンリル≫はそのままなす術もなく両前足が斬りおとされてしまう。
そして、2本の≪ミカヅキ≫はそのままツクヨミの手元に戻った。
それは正に、ディノの見事な攻撃であった。
≪トラベリングプラネット≫を使って、空中を不規則に駆け回る≪フェンリル≫を捉えるのは困難な事である。
さらに高速で飛び回る≪トラベリングプラネット≫を破壊するという事も。
だが、蹴り足さえ奪う事が出来ればその力を奪う事が出来る。
空を走る事が出来なくなった月式は、強襲形態≪フェンリル≫からMS形態にその姿を戻す。
ナターシャの額には汗がにじみ、手が小刻みに震えている。
彼女の実戦経験といえば、シャクスのいたオーブから脱出した時に少しだけ。しかも、その時はコウに助けてもらっているし、それは昨夜の事。
如何にナターシャが初見で何でも乗りこなせる特殊技能を持っているとはいえ、MSでの『戦闘』ははじめての少女である。
今更ながら、コウの言った言葉やフルーシェの言った覚悟の意味が分かり始める。
「・・・でも、私だって・・・・コウさんや、お姉ちゃんが戦っているように・・・絶対に引けません!!! 」
ナターシャは月式のビームサーベルを抜き、両肩にも搭載されている計4門の高速連射型ビームアロー≪アマノハバヤ≫を連射させながら果敢にもツクヨミに向かって空を駆けた。
「・・・果敢と無謀は違うよ、ナターシャ。」
2本の≪ミカヅキ≫を構え、その闇雲の光の矢をことごとくかわすツクヨミ。
そして、月式のビームサーベルは届くことなく重力の刃の斬撃が、月式の両肩ごと≪アマノハバヤ≫の発射口と背部の大型ヒートサーベルを破壊する。
武器を壊され両腕が機動不全になった今の月式には、もはや戦う術は残っていなかった。
それでも、だらりと垂れ下がった両腕のままツクヨミに向き直る月式。
「ふうっ、ふうっ、わたし・・・はっ・・・負けられない・・・こんなところで・・・まだ、先生にも・・・コウさんにも・・・まだっ! 」
開きっぱなしの通信回線から聞こえるナターシャの震える声を聞き、ディノが言い放つ。
「もう充分だろう! ・・・ここは引け! 」
「い、いやよ!! 私は・・」
「ボクも嫌なんだ!! 」
ディノの叫びがナターシャの声を掻き消した。
「確かに、ボクはキミとコウ、そしてキミの姉・フルーシェ・メディールの抹殺を命じられてきた。・・こればかりはボクにもどうしようもない事だ。でも・・・。」
ディノがそんな事を言ったのは初めての事だったのだろう。
一瞬言う事を躊躇しながらも、振り絞るかのように言葉を放つ。
「・・・・キミは殺したくない。・・・頼むから逃げてくれ。キミは・・・ボクが仕留めた事にしておくから・・・!! 」
「ディノ・・・。」
ディノの意外な言葉にナターシャも冷静さを取り戻す。
そして、2人の瞳が2機の月の神のカメラアイ越しに交錯する。
「さあ、行けよ・・。」
『ダメよ。』
ディノの言葉を否定したのは彼のナビゲーター。
アリア・クシナダだった。
「か、母さん! いいんだ! これはボクが決めた事なんだ!! 」
『ディノは母さんの事が嫌いになってしまったの? 』
その言葉にディノの心が大きく揺らぐ。
「そうじゃないさ! でも、あの子は!! 」
『そう、あの子は邪魔なのよ。私とディノの邪魔をする悪い子なの。悪い子は・・・・消さなきゃね? 』
「か・・・母さん。」
ディノとアリアの会話を聞いていたナターシャが叫ぶ。
「ディノ! コウさんも言ってたじゃない! そのお母さんは偽者だって! ・・・私と戦うかどうかなんてどうでもいいわ! でも・・・よく考えて!! 」
「ナ・・ナターシャ。ボ、ボクは・・・。」
『仕方がないわね。ディノ、また『ママ』が代わりにやってあげるわね・・・! 』
迷うディノに見かねたその冷徹なナビゲーターの言葉に反応し、ツクヨミのカメラアイが真っ赤に染まる。
『死になさい! ナターシャ・メディール!! 』
右腕の≪ミカヅキ≫が唸りを上げ月式のコクピットに向かって突き出される。
とっさに右側に体をよじりその突きを紙一重でかわす月式だったが、その右側からもう一本の≪ミカヅキ≫が真横から迫り、月式の右腕を斬りおとして胴体に食い込もうとしていた。
「!!! 」
ナターシャの口から声にならない悲鳴が漏れる。
「やめろぉぉ!!!!!! 」
ピタ。
ディノの叫びと共にツクヨミはその動きを止めた。
月式の腹部に切り込んだ重力刀は月式のコクピットの形を大きく歪めている。
そして、MIHASHIRAシステムを再び強制終了させたディノは激しい頭痛と吐き気に襲われながらも通信を送り続ける。もはや、自分の痛みなどどうでもいい事だった。
「ナターシャ!! ナターシャ!! 返事をしてくれ!! おい!! 」
コクピットからは何の反応もなく、月式も空中でツクヨミに支えられたまま微動だにしない。
「ウ・・・ウソだろ! おい! ・・・ナターシャ!!!! ずるいぞ! キミは、ボクの心の中にばかり入ってきて!! ボクは、ボクは・・・・・!!」
ディノがそう言いかけた時だった。
かすかだが、月式のコクピットからノイズのような音が聞こえる。
ゆっくりと弱々しくはあるが、それは明らかに想い人の声。
『ディ・・・ノ・・・・私・・・だい・・・じょ・・ぶ・・・。』
「ナターシャ! ・・・・・・よかった! ・・・全く、キミといると僕がボクじゃなくなるようだよ・・・。」
胸をなでおろし、安堵するディノ。
その時だった。ツクヨミと月式の前に2機のMSが飛来する。
それは、連合のものでもザフトのものでもない機体。
いや、正確にはそのどちらにも『所属していない』機体だった・・・。
その2機の姿に、ディノは驚きの声をあげた。
「何しに来たんだ! ・・・・そんなにヤツラはボクが信用ならないというのか!! 」
ディノの怒号に答えたのは言葉ではなかった。
一機のMSの体のフレームがまばゆく輝き、そこからツクヨミと月式に向かってビームの強力な光がほとばしる!
味方からの思わぬ攻撃にかわす事も出来ず、ただ月式を庇うようにしながらツクヨミはそのビームをもろに浴びた。
「・・な、何をするんだ! ・・・シャクス!! 」
そのディノの呼んだ名に、ナターシャは驚いた。
「シャクス・・・先生!? 」
口を開いたシャクスの声はとても冷たい口調だった。
「・・・ディノ。あなたは命令に背き、『ナターシャ・メディール』を逃がそうとしたでしょう? 」
「そ・・それは!! ・・・それに、あんただって・・・」
「そうそう、そんな『欠陥品』の坊やは、要らないわ? ・・・・ンフフフ。」
「・・・・ぺ・・ぺルセポネ・・・? どうしてキミがここに!? 」
ディノの言葉を遮ったのは、もう一機に乗っていたオーラルで分かれたはずのペルセポネ・ディナ・シーだった。
そして、それだけではなかった。
「あら、あなたと顔を合わせるのは北欧が最初だけれど・・・・もっと以前から一緒にいててよ? 私達。・・・ンフフフ、わかるかしら? 『私のかわいいディノ』。」
「・・・・ま・・さか。ナビゲーターの・・・母さんは・・・・・キミが・・・・!? 」
ディノの心に大きな衝撃が走る。
「ご名答。いい子ね、ディノ。でも、言ったでしょう? 使えない欠陥品は『ママ』、要らないって。」
「ふ、ふざけるなぁ!! どうりで・・・クロウリーおじいちゃんの事を『ドクター・オセ』と言ったり・・・それに母さんは自分の事を『ママ』なんて・・・・呼ばない!! 」
震える声で悔しそうに叫ぶディノ。
それを聞いていたナターシャがやっと回復してきた通信で叫んだ。
「シャクス先生! 私を殺したいのなら私だけやればいいでしょう! それに・・・・これじゃあディノが可愛そう・・・あんまりよ!! 」
「ええ、もちろんやらせてもらいますよ、ナターシャ。・・・それと、私を先生とは呼ぶな。虫唾が走るよ。」
「! 」
「ンフフ、嫌われちゃったわねぇ、お姫様? でもご安心なさい。寂しくないように王子様と一緒に逝かせてあげるから・・・! 」
ペルセポネがそう言った瞬間、月式のカメラアイが真っ赤に輝き、ツクヨミに体当たりを仕掛けてそのまま地上へと加速して行った。
「ナ、ナターシャ! 何を!! 」
「・・・違うの! 私、何もしてない! 勝手に・・・月式が!! 」
月式のコクピットにアラームの音が鳴り響く。
それは、あきらかに動力のオーバーヒートの音。
しかし、その動力はリミッターが解除されており、限界を超えて加熱されてゆく。
そして、2機の月の神はそのまま地上の森の中に突っ込んだ。
「・・・・2人仲良く、お星様になりなさいな? 」
ドォォォォォォォン!!
そして、なす術なく2機から大きな光と轟音が上がった。
「ンフフ、所詮は旧式。他愛のないものね。」
「・・・そんな事はありませんよ。ミコトは間違いなくいい機体です。」
「あら? シャクス。アマテラスに乗れなかった事をそんなに根に持っているのかしら? 」
「・・・私にはこの『コスモフレーム』がふさわしい。・・・さて、野暮用は済みました。本当の目的を果たしに行きましょう。ペルセ。」
「ええ、そうね。でも、わたしの新しいピンクちゃん『アフロディーテ』もまだ遊び足りないみたいだし・・。いいかしら?」
そう言うと2機のMSは別の空へと飛び立っていった。
「おおおおお!!! 」
「はああああ!! 」
2機の風と太陽のミコトの戦いも、壮絶なるものとなっていた。
お互いの攻撃は一歩も譲らず、その空に無数の光と衝撃を走らせる。
『この黄昏の魔弾を・・・くらいなぁ!!! 』
アマテラスのナビゲーター・ミゲルの繰り出すナビゲーター制御型ビームプロミネンスユニット≪タカマガハラ≫が唸りをあげてスサノオに迫る。
スサノオはコウの得意とする後の先の呼吸を使って、それを見切って9.98 m対 PS 超高熱空斬剣≪ ツムハノタチ ≫で器用に後方に受け流し、同時に左手の竜巻発生装置≪テング≫を全開にしてトルネードをアマテラスに叩き込む。
「落ちろぉ! エリス・アリオーシュ! 」
「甘いわね! コウ・クシナダァ! 」
脚部装着型空中飛行ユニット≪ハチノヒレ≫を全開にしながらアマテラスはその場に微動だにせずに軋む機体を何とか制御し、そのまま攻防兵装システム≪トクサノカンダカラ≫から抜き取った高エネルギー収束火線ライフル≪マカルカエシノタマ≫の光線と対装甲ビーム散弾砲≪チガエシノタマ≫の光雨を同時に発射する。
『コウ! かわしてたら、追い討ちを食うぞ! 一気に行く! 』
キィィィィン!
スサノオのナビゲーター・アモンのSEEDがはじけ、スサノオの機体がアマテラス目掛けて音速近くに加速する。
そして、スサノオは数発の被弾を受けながらも無数のビームの弾幕を掻い潜るように飛翔し、そのまま一気にアマテラス目掛けて≪ツムハノタチ≫を振り下ろした。
「そんな攻撃で・・・私を落とせるとでも思ったの!! 」
キィィィィン!
エリスの瞳にもMIHASHIRAシステムに蓄積されたデータの中からSEEDの光が輝いた。
誰のものなのだろう。その種の色は、オレンジ色。
スサノオの≪ツムハノタチ≫とアマテラスの高出力ビームブレード≪ヤツカ≫が空中で轟音と共にぶつかり、空を震わせる。
今まで、何度こうやってぶつかってきただろう。
正に、運命の悪戯としか言いようのない出会いを果たした少年と少女をつないできたその一つの感情とは、憎しみ。
父と平穏な生活を奪われた大きな怒りと、友を帰らぬ人にされた激しい悲しみが彼と彼女を烈火の如く戦わせた。
共に戦うはずだった2機のミコトを、文字通り鬼神に変えて。
しかし、今の二人は違った。
エリスはJOSH-Aでの戦いで、自分のすべき戦いは大切な者を守るためのものだと気付いた。失った人たちや守れなかった者のためにも、今自分が守りたい人たちや国のために、力を使いたい。
それを気付かせてくれたのは、優秀とはいえない臨時の部下たち。彼らの放つ優しい虹色の光がエリスの憎しみの炎を消し、決意の光へと変えてくれた。
「・・・ヴェルド、アルフ、エイス、アイリ・・・! 道は違えちゃったけど、あなた達に教えられたように・・・・・私は負けないわ!!! 私の守るべきもののために・・・・ザフトとプラントのために!! 」
コウもまた、この旅を通じて大きく成長していた。
怒りに任せて命を削るような戦いをした事もあった。
だが、それをしかってくれた人がいた。支えてくれた仲間がいた。
悲しいときには頼る事ができ、そして自分のような軍人としては素人の人間を頼ってくれる。信じてくれる。
いつの間にか自分と両親の真実を知るために乗船したその艦は、コウが一番守りたいものへと変わっていた。
コウの戦う目的もまた、エリス同様変わっていたのだった。
しかし、今のコウとエリスでは決定的に違う点があった。
それは、決意を揺らがせる心の混乱。
そう、先ほどのエリスの言葉であった。
父とマクノールを殺したのは彼女じゃない・・・。なら、誰が!
そして、リューグゥでのその記憶が、再びコウの心の傷を大きくえぐる。
一番守りたかった艦以上に・・・・本当にオレが守らなきゃいけなかったのは・・・!!
リト・・・・・。
『コウ! 集中しろ!! 』
「! 」
アモンの言葉にコウが気付いたときには、≪ツムハノタチ≫はかなり押されており、≪ヤツカ≫の光刃がスサノオの右側の耳元に食い込みかけていた。
「くぅ!! 」
とっさに諸手に握っていた≪ツムハノタチ≫から左手を離し、アマテラス目掛けて竜巻を放つスサノオ。
しかし、片手握りになった事でアマテラスのパワーに押し切られ、≪ヤツカ≫がスサノオを押し飛ばすように振り下ろされる。
スサノオの右耳の部分は切り壊され、肩も少し損傷を受ける。そして、竜巻は上空に逸れアマテラスにはあたる事はなかったが、それはコウの計算どおりであった。
その竜巻の勢いと振り下ろされる≪ヤツカ≫の力を利用してスサノオは急速下降をし、その危機一髪の膠着状態を脱出した。
『コウ! さっきのヤツの言葉は気にするな! それと・・・リトちゃんの事も、今は・・』
「分かってますよ!! そんな事ぉぉぉ!!! 」
MIHASHIRAシステムを全開にしている事で、お互いの意識を共有しているため文字通り考えていた事を見透かされたコウは、行き場のない感情をぶちまけるかのようにそのまま上空にいるアマテラスに≪ツムハノタチ≫を振り上げる。
超高熱の空気の斬撃が、アマテラスに向かって唸りを上げて立ち上る!
『エリス! 喰らわせてやりな! 』
「ええ! 受けとりなさい!!! 紅蓮の光球!! 」
見ると、先ほど受け流された≪タカマガハラ≫がアマテラスの手に戻っており、アマテラスは力の限りそのビームプロミネンスの塊をスサノオ目掛けて投げつけた!
高熱の斬撃も≪タカマガハラ≫の勢いを少しは止めるものの、太陽のビームプロミネンスによる超高熱にかき消されてしまう。
そして、そのまま黄昏の魔弾がスサノオに再び迫る。
剣を振り上げた直後のスサノオは先ほどのように器用にその太陽を受け流す事は出来ず、なんとか刀身を使ってその直撃をまぬがれた。
太陽の光に機体をジリジリと焦がされながら、そのまま押されるようにして落下するスサノオ。
そして、そのアマテラスが対艦バズーカ砲≪イクタマ≫と高出力ビームライフル≪タルタマ≫を構えながら、身動きの取れないスサノオの横に並んで追走する。
「これで・・・終わりよ、白いミコト! いえ、・・・コウ・クシナダ!! 」
スサノオに艦をも沈めるバズーカのミサイルと発砲金属を軽々貫くビームの光が放たれる。
『コウ! やってみろ! 今お前の思ったことを!! 』
「! ・・・はい、アモンさん!! 」
なんと、コウのスサノオは空戦型背部換装パック≪ヤクモ≫のバーニアを逆噴出させてさらに地面に向かって落下加速し、アマテラスを振り切ってミサイルとビームをかわす。
『だが、そのまま地面に叩きつけてやる!! 落ちろ!! 』
ミゲルの操る≪タカマガハラ≫もスサノオを大地に押しつぶそうと加速する。
そして、スサノオの機体が大地に叩きつけられようとしたその時だった。
「今だ! 」
コウの駆るスサノオは体を左側に回転しながら≪ツムハノタチ≫で≪タカマガハラ≫を受け流そうとする。
そんな事は百も承知のミゲルはそうはさせまいと軌道修正をはかるが、回転時にスサノオの放った古武術を思わせる右足の強烈な蹴りが≪タカマガハラ≫に炸裂し、そのまま大地に叩きつけられた。
ドォォォォ!!!!!!
轟音と共にあたり一面に爆煙が立ちこめる。
『な、何ィィィ!!? 』
「あの体勢とタイミングから・・・・なんてヤツなの!? 」
驚くエリス達が隙を見せたその一瞬の事だった。
爆煙の中からその煙を斬る様にして斬撃が飛来する。
必死でかわすアマテラスだったが、それはおとりだった。死角から右足を失ったスサノオが飛び出し、すれ違いざまに≪ツムハノタチ≫をアマテラスに斬りつけ、アマテラスの肩ごと左腕が宙を舞った。
「く・・・しくじった! コクピットを狙ったのに・・・ちくしょう!! 」
『コ・・コウ・・・・。いや、今はそれでいい。・・・・迷えば負ける。ヤツラはそれだけ強い。だが・・。』
感情がおかしくなりかけて興奮するコウにアモンはどう声をかけるべきか迷っていた。
「・・・つ、強いわ・・・・。彼ら。でも、こんな所で負けられない!! 今日こそ決着をつける!! 」
『そうさ、アマテラスの真の力・・見せてやろうぜ!! 』
それぞれの異なる想いを胸に、風と太陽の神の戦いは、最終局面へと突入してゆく。
「やるな! コウ先輩!! ・・・オレだって!! 」
スサノオとアマテラスが激戦を繰り広げているそのすぐ近くの空域ではティルのクラウディカデンツァとセフィのファーブニルが戦っていた。
両機とも損傷はあるもののファーブニルの損傷はすこぶる酷く、左のヒートフィンガー≪ノーアトゥーン≫と6基の≪ヘイズルーン≫のみであった。
いや、その頼みの≪ヘイズルーン≫も、もう残り2基・・・。
なんと、クラウディカデンツァの2丁拳銃型高出力ビームガン≪ワイルドウェスト≫が高速で飛翔する≪ヘイズルーン≫を見事に貫いていたのである。
ヴァナディース装甲の超軽量ユニットを捉えるその射撃は、まさに天性の才能と言えるものだった。
セフィの額にも汗がにじむ。損傷もそうだが、このグレーのMSのパイロットとは相性が悪いらしい。
「私は・・・こんな所で。・・・ロイド・エスコール・・・! 」
セフィが一瞬見せたその隙をつき、クラウディカデンツァが一気に懐にもぐりこんだ。
そして、右腕の内蔵型ビームサーベルをファーブニルに振り下ろす。
ガァァァァ!!!
「きゃあああ!! 」
かろうじて直撃はかわすファーブニルだったが、コクピットハッチが切り裂かれあわやところまで刃がかすめた。
クラウディカデンツァのカメラアイが、その隙間からパイロットの顔を捉える。
「・・・・あれは・・・・・ロイド!? うわああああああ!! 」
その瞬間だった。
クラウディカデンツァのバックパックが爆発し、まっさかさまに地面の森の中に落下してゆく。
それをしばらく見つめると、セフィのファーブニルはおもむろにその空域を離れて飛び去った。そして、つぶやく。
「・・・・私は・・・・私は何もしてない!! それに・・なんで勝手に飛んでいるの!!! 」
ドォォォン!!
コウにはその轟音の方向で起こった事が目に入っていた。
「ティル!!! 」
「! もらったわ!!! これで最後よ、コウ・クシナダ!!! 「落ちなさい」『落ちろ』!!! 」
ティルに気を取られたスサノオの背後から≪タカマガハラ≫が迫る!
「え・・・・」
『ダ・・・ダメだ! 回避できな・・・』
ズアァァァァァ!!!!!!
しかし、その絶望の太陽はスサノオに被弾する直前に跡形もなく消え去った。
その驚異的な破壊の光を放った先にいたのは・・・。
薄紅色に輝く装甲を持つ見たことのないMS。
どことなくミコトを凌ぐほどの神々しさを秘めたそのMSは3つのカメラアイでスサノオを睨みつける。
「・・・・・・殺す。」
おもむろに向けられた殺意の言葉にコウとエリスは新たな戦慄の予兆を感じていた。
〜第31章に続く〜
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