〜第31章 コトアマツカミ〜

「ええええええい!! 」
「無駄だァ!!! 」

メリリムの駆るイカロスのビームランス≪ロンギヌス≫とブリフォーのザナドゥ・ヒュドラスの右腕のグラシャラボラス内臓ヒートクロウ≪シンリュウ≫の赤熱した爪がぶつかり合う。

「・・・食らえ!! 」
「お控えなさい、ブリフォー!! 」

そして、ザナドゥの背後からメイズのマステマの重刎腕斧≪アンフィスバエナ≫とフルーシェのガルゥ・ビューティフルの3対の高出力ビームファング≪シュトラーフェ・ファング≫が同時に襲い掛かる。
そして、イカロスの両肩の翼の先のフェザー型炸裂弾機銃≪ニードルフェザー≫がとザナドゥの方に向けられた。

「小手先は通じんと言ったが・・・・・残念だったな。生半可な正攻法も、オレには通用しないぞ! 」

ザナドゥ・ヒュドラスの九つのモノアイがそれぞれ光り、6本の光線が放たれる。
ザナドゥの両足のレールガン≪グラシャラボラス≫がイカロスの両足を、2本のマニュピレーターの≪グラシャラボラス≫が両肩の≪ニードルフェザー≫の翼型発射口をそれぞれ破壊する。
そして、残る2本のマニュピレーターはぐるりと後ろを向き、マステマ、ガルゥ・ビューティフルをそれぞれ迎撃して近づけさせない。

「メリィ、すまない・・! 」

ザナドゥ・ヒュドラスの残る左腕の≪シンリュウ≫が赤熱し始め、イカロスのコクピットに向けて構えられる。

「や・・・やめろ!!!! ブリフォォォォ!!!! 」

TPが既にダウンしているマステマが烈火のごとく再びその蒼き魔神に向かって飛翔する。しかし。

「無駄だよ。メイズ。」

4本のマニュピレーターの竜の頭が一直線に飛ぶマステマの正面に向けられる。

「メイズゥ!! 来ちゃダメェェェ!!!! 」
「ブリフォォォ!!! メリィ!!!!!! 」
「・・・メイズ、メリィ。せめて最後まで一緒に・・・逝ってくれぇぇぇ! 」

3人の悲痛な叫びがその空にこだまする。

「ダメ・・・・ダメですわ! ブリフォー・・・そんな。友達同士で殺しあうなんて・・・。」

フルーシェの心臓の鼓動が早くなる。
それとは裏腹に、彼女以外の全ての時が止まったかのように全ての動きが鮮明に見える。

「そんな事、あなたにさせませんわよ! ブリフォー!! 」

キィィィィィン!!

フルーシェの金の瞳に、黄金に輝く種がはじける。
そして・・・
メイズを狙うマニュピレーターの≪シンリュウ≫はグラシャラボラス発射寸前で全て ガルゥ・ビューティフルの中央の頭のビームライフルに狙撃され、誘爆を引き起こす。

「な、なんだと!! 」

そして、ガルゥ・ビューティフルは動揺したブリフォーの隙を付いて、ザナドゥ・ヒュドラスの背部から首筋に向かって中央の頭の≪シュトラーフェ・ファング≫の牙を突き立てた。
そのまま2機は大地まで滑空し、ザナドゥの足が地面に着地する。
まるで、戦闘を終わらせようとするかのように静かに・・・。

「・・・フルー・・シェ? 」「フルーシェちゃん!? 」

そのあまりの神業に、メイズとメリリムも驚愕する。
それは、正に覚醒のときだった。
失敗作としていい意味での廃棄同然だったフルーシェのスーパーコーディネイターとしての力が今、目覚め始めたのである。

背部の武器を失い、≪シュトラーフェ・ファング≫によってその機体を軋ませるザナドゥ・ヒュドラスに、フルーシェからの通信が入る。

「もうお止めなさい! ブリフォー! こんな戦い、もう無意味ですわ!! 」
「フ・・フルーシェ! 」
「だって、そうでしょう! こんな・・・パナマを攻撃して、一方的に・・。」
「それは、こっちだって同じだ!! 連合の卑劣な策略のせいで、アラスカでどれだけの犠牲があったと思う! 正々堂々と戦ったならまだ分かるが・・・それを先にやったのはお前たちだ!! 」
「じゃあ、あなたはやられたらやり返すと言うんですの!! そんなの! 」
「違うさ!! ・・・・それは、違う! 」

フルーシェの聞いたその言葉の答えは・・・。

「オレは、プラントで生まれ育った。エリスもオレも、プラントを愛しているんだ! 守りたいんだ! ・・だからこんな戦争は早く終わらせたい!! そのための作戦なら、オレみたいなヤツの手が汚れるくらいでこの戦争が終わるのなら、オレは!!! 」
「嫌ですわ!!! 」
「・・・な。」

ブリフォーの想いの叫びを、フルーシェの想いの声が覆い消す。

「わたくしはそんなの嫌ですわ!! わたくしだって、・・・実はコーディネイターですわ!! しかも、メンデルで実験体として作られた上に失敗作とされたまがい物の!! 」
「!! 」
「・・知った時は自分の存在が許せませんでした。だから、反コーディネイターのブルーコスモスに加わってその怒りをコーディネイターにぶつけもしましたわ!!でも・・!!」

フルーシェは震えながらも芯の通った美しい声で言う。

「コーディネイターだろうが、ナチュラルだろうが、そんな事は関係なかった!! 大切なのは、大切な人達がいるかどうか。知り合い、分かり合えるかどうかですわ!! ・・・わたくしは、・・・・あなたを守りたい。もっともっと、知り合いたい!!! わたくしは・・・・あなたが!!! 」
「フ・・・・フルーシェ・・」

その時だった。はるか彼方の空から、高速でフルーシェ達に接近する機影があった。
その姿は今にも爆発しそうなほどにオーバーヒートしている事が人目で分かるほどに赤熱している。そのモノアイも。

「はあ、はあ、はあ、この・・ままじゃ・・・逃げ・・なきゃ。」

そのコントロール不能になった赤熱したファーブニルのコクピットから、息絶え絶えのセフィはクラウディカデンツァのビームサーベルが切り裂いたコクピットハッチの切れ目から何とか外に脱出した。
低空を滑空していたのでパイロットスーツのエマージェンシー用バックパックをふかしながらなんとか森の中へと下りていった。
そして、乗り手を失ったファーブニルはそんな事はお構いなしに大地に立つザナドゥの正面に向かって突き進む。

「愛しい人も一緒に逝けば、寂しくないでしょう? ・・・ンフフフ。」

一瞬の出来事だった。
メイズも、メリリムも、ブリフォーも、その高速で迫るファーブニルの特攻に微動だにできない。
しかし、ガルゥ・ビューティフルが噛み付いていたザナドゥ・ヒュドラスを右上空の空に向かって振り飛ばす。
そして、ファーブニルとガルゥ・ビューティフルが接触した。

「フ、フルーシェ!! 」
「ブリフォー・・・わたくし・・・・・あなたの事が・・・・。」

そして、青き清浄なる乙女の駆るピンクの魔犬が大きな光に包まれる。




その頃、アマテラスとスサノオは大地に足をおろし、突然飛来した謎のMSと対峙していた。

エリスとミゲルが、
「なんなの・・・こいつは!? 」
『さあね・・・。だが、識別コードはザフトのものじゃない。連合の新型か!? 』

コウトアモンが、
「・・・なんだ、一体!? ザフトの新手か!!? 」
『いや、どうやら違いそうだぜ? 敵さん達も動揺してるみたいだし。・・・でも、やばそうなヤツだな、アレは・・・。』

すると、その薄紅色の謎のMSの3つのカメラアイが黄金に輝き、両肩から2本ずつビームサーベルのようなものが噴出された。
いや、それはサーベルというよりも・・・羽衣。
そのMSは4本のビームの刃を羽衣の如く緩やかになびかせながら両手を広げて再び足を宙に浮かす。
その姿は、2機の神『ミコト』を圧倒するかのように神々しく、威圧感を感じさせる。

『・・・殺す! 』

その意思を表現した言葉が、スサノオとアマテラスのコクピットに響いた。

「よくは知らないけど・・・・私とコウ・クシナダの戦いの邪魔をしないで!! 」
『そうだぜ! 外野はすっこんでな!! 』

アマテラスは、高エネルギー収束火線ライフル≪マカルカエシノタマ≫と対艦バズーカ砲≪イクタマ≫をそのMSに放ち、すぐさま脚部装着型陸上高速移動ユニット≪クサグサノモノノヒレ≫を装着し、両腕に高出力ビームサーベル≪ヤツカ≫に持ち替えて爆走した。

しかし、そのMSは避けるどころか微動だにせずに左手の宝石のような美しい輝きを放つ盾でその実体弾と火線の両方を難なく受け止めた。
さらに、迫り来るアマテラスの体は4本のビーム羽衣によっていとも簡単に両手足を斬りおとされる。
仮にも、SEEDの恩恵を受けた今のエリスを、赤子のように・・・。

『・・・邪魔! 』

そして、手足をもがれて横たわる太陽神にそのMSは右腕についた大型の砲らしきものを構えた。
恐らくこれが、先ほどアマテラスのナビゲーター制御型ビームプロミネンスユニット≪タカマガハラ≫を消滅させたものであるということは、エリスにも、ミゲルにも、そしてコウ、アモンにも容易に想像できる事であった。
その砲身の先端に光が集まり始める。

「や・・・やめろぉぉぉぉ!!!!! 」

右足を失っていたスサノオが、空戦型換装パック≪ヤクモ≫を吹かせながらアマテラスを狙うそのMSの背後から迫る!
そして、≪ツムハノタチ≫を脳天へ向かって振り下ろした。

ギィィィィン!

しかし、その斬撃は空しく空を裂き、大地へと埋まる。
必勝のタイミングであったはずだった。
しかし、その薄紅色のMSの姿は・・・・剣を振り下ろし、大地に突き刺した状態のスサノオの真横にあった。
そして、輝きを増す砲身がコウの方に向いている。
そのスサノオのコクピットに、薄紅色のMSから通信が入る。

『・・・許さない・・。あんたは絶対、許さないからァァァァ!!! 』
「・・・・え・・・・・・・・・リ・・・・・・・? 」

巨大な光がスサノオを包み込む。


パナマの大地に2つの大きな光が轟音を上げて立ち上った。

「コウ・クシナダァァァァァ!!!! 」
「フルーシェェェェェェ!!!!!! 」

エリスとブリフォーの叫びがパナマの別々の空に響き渡る。


そして、その薄紅色のMSのコクピットにこだまするパイロットとナビゲーターの2つの声。

『・・よくやったぞ。『リト』。・・・だが、良かったのか? 』
「ええ、お父さん。シート先輩を殺したアイツ殺せたんだもの。私はすっきりしているわ。」
『そうか・・・・では、アレを捕獲しに行こうか。』
「はい。」

リトの駆るその薄紅色のMSは空の彼方へとその姿を消していった。


『ペルセ。終わったなら、早く来なさい。こっちはついでなのです。このままでは逃げられます。』
「ンフフ。分かったわ、シャクス。でもこれで、メンデルのメディール姉妹と裏切り者のディノ、心変わりのブリフォーもデリートできたわね。イイ仕事、したかしら? 多分ディノの元の『ハーフ』も、リトお嬢様が・・。」

ツクヨミ、月式、ファーブニルをコントロールしていたペルセポネのアフロディーテはミラージュコロイドを解除してシャクスとリトの向かうその空に消えていった。

「フルーシェ!! フルーシェェ!!! 」

MSを降りたブリフォー、メイズ、メリリムが、ガルゥ・ビューティフルの方へ駆け寄った。
ファーブニルの爆発が不完全だったのだろうか、何とかガルゥの機体はその原形をとどめている。しかし、その焼け焦げた姿に3人は絶句した。
ブリフォーはそれでもその熱くなった機体に体を焦がしながらもよじ登り、エマージェンシーシャッターの下りたコクピットハッチを無理矢理こじ開ける。

そこには・・・。

「フルーシェ・・・・・・フルーシェ!!! 」

ものすごい熱気を帯びたコクピットに横たわるフルーシェの体をブリフォーは抱きかかえて外に連れ出し、地面の上にそっと寝かせた。
パイロットスーツは焼け焦げているが、さすがに耐熱処理がされているだけあってなんとかフルーシェのその身を守っていた。
しかし、ヘルメットを取ったフルーシェの顔には生気はなく、高熱によりところどころに火傷が出来ている。
だが・・・・。

「まだ、息はある・・・! 」

メイズのその言葉に、ブリフォーとメリリムは涙をこぼす。
その時だった。

『フルーシェ! メイズさん! メリィちゃん! 無事ですか!!? 』


サユの声と共に、スローンがその場に飛来した。
状況を話し、フルーシェとともにスローンに乗り込むブリフォー達。
あまりに最悪な状況に、スローンのクルー達の顔も蒼白になった。

マナが、「シュン!! 早く!! 水と氷を!!! 」
シュンが、「わ、わかりました!! 」
サユが、「服を脱がさなきゃ・・・皮膚とくっついてるかも! メリィちゃん、手伝って! 」
メリリムが、「で、でも動かさないほうが良かったりしない? サユちゃん! 」
レヴィンが、「てめぇ! ブリフォー!! お前・・・なんで!! フルーシェはなあ!! 」
ユガが、「や、やめてくださいよ、レヴィンさん! 今はそんな場合じゃ!! 」
メイズが、「・・・ブリフォー。」
そして、ブリフォーが・・・・。

「フルーシェ・・・オレは・・・オレも、お前の事が・・・! だから、頑張れ、フルーシェ。まだ・・・死ぬなぁ!! 」

フルーシェの真っ赤になった掌を握り締め、大粒の涙をこぼす。
その時、そのあわただしい医務室に警報の音が鳴り響いた。
マナ、レヴィンが急いでブリッジに戻ると、そこには一つの通信が入っていた。

『スローン! 聞こえるか! 聞こえるなら応答せよ! 』
「私はスローン艦長、地球連合軍第49独立特命部隊所属、マナ・サタナキアです。・・・そちらの所属をお聞かせ願いたい。」
『よかった! まだ無事でしたね!! オレッス。パナマ訓練生のティル・ナ・ノーグです。』
「ティル! 無事だったのね!? 実はこっちは大変な事に!! 」
『・・え! フルーシェさんが!! そんな!! ・・なら、急いでこっちに合流してください!! こっちには医者がいますから!! 実は、こっちも・・・。いえ、話は後です! あまり長居は出来ないそうです! この場所に至急艦を! 』
「ちょっと、ティル! どういう事!! ・・・・切れた・・・。もう!! 」
「マナ姉! 迷ってる暇ねェゼ! 医者がいるんなら、診てもらわねぇと!! 」
「ええ、レヴィン! 至急指示のあったポイントに急いで! 」

スローンは全速力でそのポイントを目指し飛行した。
そこは、パナマから少し離れた海上であった。指定ポイントに到着すると、海面に大きな機影が浮上し始める。
それは、オーブ製の戦艦だった。
しかも恐らくそれは・・・。

「おいおいおい、ありゃ『イズモ』じゃねぇか! 」
「『イズモ』!? イズモって、オーブの宇宙戦艦でしたよね、レヴィンさん。」

レヴィンとユガの言葉を聞いて、ブリッジにいたシュンとマナも首をかしげる。
そこに通信が入る。

『早く! 急いで乗り移ってください! スローンは真横につけて牽引してくれるそうです!! こっちも狙われてるんで、早く!! 』
「ティル! ・・・なんだか分からないけど、了解よ! スローン、着水!! 」

そのイズモ級宇宙戦艦の横にスローンを付けたクルー達は、瀕死のフルーシェとともにその謎の艦に乗り移った。
そして、2艦は深海へとその姿を隠してゆく。

「マナさん! こっちです! フルーシェさんを早く!! 」

中ではティルの誘導で医務室らしきところへとフルーシェが運び込まれた。
中では白衣を着た女性がその到着を待っていた。

「フルーシェ! ・・・こんな・・・・・ごめんなさいね。私達のせいで・・・。」

フルーシェと同じその金髪の女性は涙を浮かべながらもきっと歯を食いしばり、目に入ったサユとメリリムに助手を頼んで処置を始めた。

「あの船医さんは? 」
「・・グラーニャ先生。・・・フルーシェさんとナターシャちゃんの実のお母さんだそうです。」
「「「「「ええ!!? 」」」」」

ティルの言葉に驚くスローンのクルー達。
そして、別のベッドに横になっていた白髪の少年がおもむろに体を起こして話をつないだ。

「そうさ。そして、この艦はイズモ級3番艦『タケミナカタ』。・・・『コトアマツカミ』が『プロジェクト・メオト』の運用艦として使おうとしていたものさ。」
「てめぇは、北欧の!! 」

 レヴィン食いかかる。

「・・キミか。北欧では、すまなかったね。聞いているかもしれないけどボクの名は、ディノ・クシナダ。・・・・パナマではナターシャと戦っていた。」
「てぇぇぇぇめぇ!!! ナターシャは無事なんだろうな!! おい!! 」

 胸倉を掴むレヴィンにディノは目線で奥のベッドに目を向ける。
 そこには、静かに眠るナターシャの姿が・・・。

「彼女は大丈夫さ。気を失ってはいるけど、目立ってひどい怪我もない。ボクが一世一代の大芝居を打ったからね・・・。」

 パナマで、制御不能の月式に森の中に押し込まれた時のことである。
月式の爆発寸前に、ディノはツクヨミの戦闘情報ジャミングシステム≪ツキノミチカケ≫を部分的に展開させて月式の通信機能を麻痺させた。
それによって外部からの通信も不可能となった月式は、外部操作によって解除されていた動力のリミッターが元に戻り、なんとか爆発はまぬがれたのであった。
そして、月式は自らの兵器≪ツキノイシ≫と両足を斬りおとし、偽の大爆発を起こしたのである。
自分達が、ペルセポネの思惑通り爆死したと思わせるために。
そして、その後コウの元へと駆けつけたディノは、エリス達と共にそこにいたグラーニャの戦闘機に誘導されこの艦に合流したのである。

「・・・じゃあ、コウもここにいるんだね!! 」

シュンのその問いに答えたのは、後からその医務室に入ってきた藤色の髪の女性であった。

「・・・ええ、いるわ。・・・でも・・・。」
「エリス! ・・・どういうことだ? ・・・まさか! 」

メイズの言葉にエリスの顔がにわかに曇る。

「こっちよ。彼に会いたいなら、付いてきて・・。」

そういうと、エリスはマナ、レヴィン、シュン、メイズ、ブリフォーを連れて隣の部屋に入っていった。ディノとティルもそれについてゆく。
そこでみたものは・・・。

マナが、「・・コウ。そんな・・・。」
レヴィンが、「・・・なんで、何でお前が!! 」
シュンが、「コ・・コウ!!! ち、ちくしょう! 」
メイズが、「・・・・くそ! 」
ブリフォーが、
「・・・・なんだよ! お前・・・オレとやったときはあんなに強かったじゃないか! なのに・・・・・何でそんな姿に!!! 」

ある水溶液に満たされたカプセルのようなものに入れられたコウの体は酷いものであった。
その体には、数え切れないほどの傷と火傷の跡が残っている。

「・・体の傷はまだいいんだ。・・・実は、コウは両目を失ってる。」
「「「「「!!! 」」」」」

ディノの言葉に全員が言葉にならない声をあげた。

そして、エリスとティルが事の顛末を話し始める。
あの、薄紅色のMSから光線が放たれた時、機体を引きずるようにして駆けつけたティルが胸部580ミリ複列位相砲≪スキュラ≫を放ち、スサノオに向く薄紅色のMSの砲身を少しだけそらしたのであった。それによって直撃は免れたものの、スサノオは大破。
薄紅色のMSが去った後、エリスとティルがコクピットを開いた時は、砕けたヘルメットのガラスと眼鏡が両目に突き刺さり顔中血まみれの無残なものであった。
そこに来たのがグラーニャであり、事情を説明して後から駆けつけたディノと共にこのタケミナカタに入ったのである。

「そのMSは、さっきも言った『コトアマツカミ』の『プロジェクト・メオト』の核となる2機のMSの内の一機・・・いや、一『柱』、DEM-ΩβMi イザナミ。」
「・・・それは、ブリッジでお話しましょう。いいわね、ディノ。」

そう言ったのは、処置を終えフルーシェをコウと同じくカプセルに入れるために入ってきたグラーニャであった。

フルーシェをカプセルに収容した後で、グラーニャはタケミナカタのブリッジに全員を集めた。
何人かの既存のクルーもいるそのブリッジは、スローンのそれと比べるとかなり大きいものであった。
そして、グラーニヤが皆に話を始める。

「まず、怪我人の容態から話すわね。結論から言うとコウとナターシャは命に別状はないわ。ナターシャはディノの言うとおり眠っているだけ。コウは、見たとおりの状態だけどじきに意識を取り戻すでしょう。でも・・・フルーシェは、現段階では何とも言えないわ。」
「どういうことだ!! 」

ブリフォーがグラーニャに食いつく。

「・・・高熱で、脳にも損傷が見られるようなの。ここじゃあ完璧な処置が出来ないからわからないけど・・・。一命を取り留めてもなんらかの後遺症が残るか、最悪・・・・植物状態・・・。」
「そ、そんなっ! ひどすぎる!! 」
「・・そこで、まず、この艦で『ディナ・エルス』に向かおうと思うの。」

グラーニャの言った言葉にメリリムとメイズが反応した。

「ディ、ディナ・エルスって中立の宇宙コロニーですよね? ・・・まさか、宇宙に行くんですか!? 」
「ディナ・エルス・・・・そうか、あそこならプラントに匹敵する技術がある。恐らく医術も・・・。」
「そうよ。あそこならフルーシェに完璧な処置も出来るし、時間がかかるかもしれないけどコウの失った目だって最新の義眼で補えるかもしれない。」
「よっしゃ! 早速行こうぜ!! なあ、マナ姉!! 」
「レ、レヴィン! その前に、これがどういうことなのか、説明いただきたいわ。・・メディール博士、でしたかしら? 」

マナの質問に、本題を切り出すかのようにグラーニャが話し始める。

「そうね。改めてはじめまして。私はグラーニャ・メディール。フルーシェとナターシャの母であり、コウ君の母・アリアやアクタイオンのクロウリーとともに『ミコト』のMIHASHIRAシステムを開発した者の一人よ。」

知らないものの方が多く、その驚愕の事実にみな呆然とする。そして、アリアは淡々と話を進めていった。


それは、ちょうど東アジアガンダム『ミコト』の3機目・ツクヨミが完成した頃の事であった。
北欧の街、ヴィグリードをザフト北欧方面軍オーラルが襲い、その街を占拠してしまう。
そんな最中、グラーニャと夫・ラウムの元に数人の黒づくめの男が押しかけてきた。
男たちは有無を言わさず2人をさらい、向かった先は宇宙。
そこは、意外にもオーブ連合首長国の軌道エレベーター『アメノミハシラ』であった。
そこで、メディール夫婦は長髪の双子に遭遇する。

ロンド・ギナ・サハクとロンド・ミナ・サハクであった。

2人は、クロウリーに勝るとも劣らない技術を誇る電子工学博士であるラウムと、MIHASHIRAシステムのソフトウェアのプロフェッショナルであるグラーニャに新型の人型兵器の開発を要求した。
その2機とは、地上と宇宙の全ての技術を注ぎ込まれた機体であり、あたかも意識を共有するかのように2機で1機の連携を可能とする『ミコト』を越える神の如き機体。

もちろん、夫婦はサハクの双子の話を断った。
しかし、彼らはグラーニャ達に人質を突きつけてきたのである。それは、彼女の一人娘、ナターシャであった。
東アジアの『リューグゥ』にいる彼女の側には、サハクの手のものが常に付いていたのだった。そう、シャクスである。
仕方なく2人はその開発に着手するが、データなどは続々集まってもアメノミハシラの設備ではその開発にも限界があった。
そこでロンドの仲間・ケットシーの提案で、2人はディナ・エルスに向かわされ、そこで2機の神を超える神のMSの開発をしたのである。
完成した2機のMSにはディナ・エルスの型式番号とオーブの地名に由来した名が与えられた。

一機が、コウを撃ったDEM-ΩβMiイザナミ。
そしてもう一機が、イザナミと対を成すMS、DEM-ΩαMi イザナギ。

「シャクスが!? そんな!!! 」
「気持ちは分かるけどね、お姉さん。シャクスはオーブの人間。五大氏族の一人さ。」

ディノの言葉に再びクルー達は驚く。

「そう、でも彼らはオーブでも連合でもザフトでもない。ただ淡々とこの世界の派遣を狙っている、別の組織・・・・。『コトアマツカミ』!! 」
「コトアマツ・・カミ!? 」

エリスの言葉をグラーニャがつなげる。

組織とはいっても、コトアマツカミとは5人の幹部とその部下という非常に少数で構成されたものであった。
『主神』と呼ばれる男を筆頭に、

ザフトのオーソン・ホワイト
ディナ・エルスのケットシー
オーブのロンド・ギナ・サハク
そして、ディノ

そして、完成したイザナギ・イザナミは、2機専用の運用艦として同じくディナ・エルスで製造されていたイズモ級3番艦タケミナカタに乗せられ、島国オーブの最果てにあるイソラ家の秘密の研究所に降り立ったのであった。
そこには、主神をのぞくコトアマツカミ4人の専属MSが既にスタンバイしていた。
ペルセポネのアフロディーテや、シャクスのアストレイコスモフレームなどがそれにあたった。

その集結は破滅への序曲。
イザナギとイザナギという究極の力と連携をもつ2機の夫婦神を使って、世界の派遣を奪うプロジェクト、『プロジェクト・メオト』を開始するために。

しかし、様子を察したグラーニャがオーブのトダカと結託し、意を決してこのタケミナカタで脱出を図ったのである。
それにディノが口を挟む。

「・・・ボクは、裏切られたのさ。まあ、当然だよね。ボクだけは主神に忠誠を誓ってはいなかった。ある条件の下、共闘していたに過ぎないんだから。」
「条件? なんだよそりゃ! 」
「・・・母さんの・・・アリア・クシナダの死の真相を、教えてもらうという条件さ! でも・・・!!! 」

ディノが唇をかみ締め、俯く。
そしてグラーニャが言った。

「彼女は、アリアは生きているわ。いま、私の夫ラウムと共にディナ・エルスにいる! 」

アリアもまた、ネブカドネザルの研究所から連れ去られていたのである。
ディノが、黒服の受領のために一度プラント本国に戻っていた隙を狙っての事であった。
ネブカドネザルに戻ったディノは、廃墟と化した研究所でアリアが連合の人間に襲撃されて殺されたと告げられる。
告げた人間はロンド・ギナ・サハクであった。
そして、その真犯人を知りたいのなら協力をするように要求してきた。
全てを失ったような絶望にさいなまれたディノは、二つ返事でそれを了承する。
ザフトのF.A.I.T.Hの地位を利用して・・・。
そして、いつしかツクヨミに宿る仮の母の言いなりになるようになっていた。
自分のオリジナルである同じ遺伝子を持つ『兄』を恨み、周囲の人間の全てを疎んだ。

「でも! ボクの今までしてきた事は・・・一体なんだったんだ!!! ペルセの言いなりになってコウを恨み! ・・彼女を、ナターシャまで傷つけて・・・ボクは!! 」

ディノの告白に皆がシーンとしずまる。

そして、グラーニャが本題を切り出した。

「・・・逃げてきたときに、私はこの艦と一緒に奴らの大事なものを奪ってきたわ。プロジェクト・メオトの一機、イザナギをね。だから、これをもってまずディナ・エルスに行きたいの。このイザナギにはまだ完成されていない真の力がある。それをディナ・エルスに取りに行く。・・強力なMSを要するコトアマツカミを止める為にも!! 」
「ですが、メディール博士!! ディナ・エルスにもコトアマツカミの手のものがいると、先ほどお聞きしましたが! 」
「・・シュン君だったわね。それは、大丈夫よ。開発が終わった今のディナ・エルスはコトアマツカミの手を離れています。ケットシーは食えない男だけど、あそこを巻き込もうとは考えていないみたいでね。」
「・・・・・・だが、どうやって宇宙に行くつもりだ? マスドライバーは・・・。」
「メイズの言うとおりだ! 今この艦を飛ばせるマスドライバーがあるとすれば、ザフトが制圧しているビクトリアかオーブのカグヤだけ。どちらも、行けばただじゃすまないはず! 」
「あと、ギガフロートがありますけど、アレは動くから今この時勢でどこにあるのか・・・。」

メイズとブリフォー、メリリムの心配をかき消したのは、一つの通信だった。

『がっはっはっはっは! 心配すんな! 手は打ってあるさ! 』
「ザ、ザガン先生ぇ!? 」
『おう! 久しぶりだな、サユ。それに皆の衆。』
「マスター! あんた、どうやってこんなところまで通信送ってんだよ!? 」
『ああ? 細かい事は気にすんなぃ! みみっちい! それより、マスドライバーはもうひとつあんだろうが!! 』

バルバトスの言葉に、第49度独立特命部隊の面々が声をそろえて叫んだ。

「「「「まさか、リューグゥ!!!? 」」」」
『ご名答!!! さすがは、愛弟子たち! 理解が早いねぇ!! 』
「ちょっと待って! リューグゥは私たちが破壊して・・・!! 」
「そうだ! あそこまで破壊したのに、そんな短期間で直るものか! 」
「・・・・・。」

エリス、ブリフォー、メイズがモニターのバルバトスに食いついた。
バルバトスはニカッと笑いながら答える。

『べらんめぇ! 連合をなめるなよ、ザフトの諸君。もうかんっぺきに修復して完成してるぜ! ・・・バレたら大変だから極秘事項だがな。・・・ケインの設計なんだ! そう簡単に頓挫させてたまるかよ! 』

サユが、「す、すっご〜い! さすが、先生ぇ!! 」
シュンが、「頼りになりますです!! 」
レヴィンが、「おいおいおい、スーパークールだぜ!! マスター!! 」
そして、マナが、「さすがは、ザガン准将ですね。御見それしました。」

『当然よ!! ヒヨッコども! 話はグラーニャから聞いた! バルバトス・ザガン准将の名において、お前たちに指令を下す! 今より第49独立特命部隊は一時連合軍を離れ、そのタケミナカタに乗艦! そして、コトアマツカミとかっていうクズどもを叩き潰せ!! 』
「「「「了解!! 」」」」

『で、お前さんたちはどうする? 』

バルバトスが向いた先にいたのは元ザフトと現ザフトの面々。

エリスが、「私たちだって、そんなとんでもないヤツラをほっとけないわ。」
ブリフォーが、「・・・オレはフルーシェを治したい。だから、行くさ!! 」
メイズが、「・・・オレも、本当に進むべき道を見つけたかもな・・。」
メリリムが、「元青服の4人が揃えば・・・誰だろうと負けませんよ! 」
それぞれに乗艦の意を示す。

そして、ディノも。

「・・・贖罪にも何にもならないし、そんな事をするつもりは無いけど。・・・でも、コウが起きるまでは付き合ってやるさ。代わりにね。」

目的を一つにした新たなクルー達に、グラーニャが言う。

「では艦長はマナさん、お願いね。」
「私が・・・ですか!? 」
「私は、ただの科学者。この席ではなくて医務室のほうがあっているわ。ほら、号令を! 」

マナが艦長席に着き、それぞれが新しい艦の配置に付いた。
慣れない操縦をしていた既存クルーの代わりに操舵輪を握るのは、もちろんレヴィン。
そして、マナの声がブリッジに響き渡る。

「イズモ級3番艦『タケミナカタ』!! 発進します! 目標は、東アジア領海、海上軍事都市『リューグゥ』!!! 行くわよ、みんな!! 」
「「「「「「「「「「おお!!!! 」」」」」」」」」」

新たな使命を果たすため、そして大切な友を救うためにタケミナカタは一路リューグゥへと向かう。
この物語の、始まりの場所へと・・。

〜第32章に続く〜


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