〜第3章 鬼神の代償〜
「あれは・・・・。」
「スサノオ・・・!?」
マナとシャクスはそのミコトの名を呼んだ。
「・・もしかして連合の!?」
「・・・あれが『ミコト』・・・?」
「ちっ、エリスの奴、まさか、失敗したのか!?」
カルラ、メイズ、ブリフォーもその姿に釘付けになった。
「まさか・・・コウ・・君?」
そして、様々なパイロットをみてきたアイリーンでもその光景は驚愕に値するものだった。
「おおおおおおおお!!!!」
怒りの炎に焦がされながら、コウの駆るスサノオはグーンめがけて天を駆け、
空気(中の成分)をエネルギーに変換する新型エネルギー生成装置≪トコヨノクニ≫は、その無限の力を発揮し始めた。
赤銅色のフレームが輝き、エネルギーが充填される。
コウは右肩背部にある9.98m対PS超高熱空斬剣≪ツムハノタチ≫を抜き、グーンに切りかかる。
「う・・・うわぁぁぁぁ!!!」
「ディ、ディラン!・・・ぐあああ!!」
「く!!エリスさん・・・・御武運を!!!」
空中に放り出された3機のグーンは陸にあげられた魚の如く無防備であり、赤熱の光りを宿す≪ツムハノタチ≫の前に為すすべもなく次々と切り捨てられた。
そして、海上に飛び出したコウの目にカルラ達と金色の輸送戦艦スローンの姿が映りこむ。
「あれは、シャクスさん達の・・・ザフトォォォ、おまえらまた!!!!」
スサノオは最後のグーンを空中で蹴り、同時にブースターを全開にしてスローンを取り囲む3機めがけて迫る。
その鬼気迫るプレッシャーを無意識のうちにブリフォー達は感じていた。
『こいつはヤバイ』と。
「メイズ、カルラ!『リトルジパング』と『青いの』は後回しだ!見たところ恐らく奴は飛べない!オレが標的になるからお前ら空中からヤツを叩け!!」
「・・・了解。」
「くくっ、おもしれぇー!!!」
ツヴァイはブルーセイヴァーに背後から接触して海面に投げ飛ばし、ディン・ハイマニューバとともに連携飛翔する。
「きゃあああ、くっ、コウ君!!逃げなさい!!」
アイリーンの叫びは届かず、作戦通りスサノオは94ミリ高エネルギー収束火線ライフル≪ラドン≫を放火してくるシグーの方めがけて突っ込んできた。右腕には≪ツムハノタチ≫が先ほど以上に赤く輝き、蒸気を上げている。
「喰らえっ、白いの!!」
「・・・堕ちろ!」
スサノオの右側から硬質メタルブレードを構えたツヴァイが、
左側からビームサーベルを構えたディン・ハイマニューバがそれぞれ超高速で飛来する。
「・・・・邪魔を、するなぁ!!」
コウの咆哮もむなしく、2機の刃がスサノオの体を無残にも切り裂く、
「な、なにぃぃー!!!?」
「・・・・ばかな・・・!?」
事はできなかった。
右腕に装備された実体弾衝撃緩和盾≪ヘツカガミ≫から高出力で噴出された空気によって硬質メタルブレードのダメージは最小限に抑えられ、左腕のエネルギー拡散反鏡盾≪オキツカガミ≫がビームサーベルの威力を拡散させた。
激しい激突で体制を崩し落下するスサノオ、ディン、ツヴァイの3機。
驚愕のあまり一瞬思考が止まった特務隊の面々とは裏腹に、まだコウの目はシグーの姿を捉えていた。
「落ちろぉぉぉーーーーー!!」
半ば発狂しているかのような叫び声とともに、30m以上上空に飛翔するシグー目掛けてコウは≪ツムハノタチ≫を振り上げる。
「そ、そんなところから何を・・・はっ。」
微かな風を感じたのか、それともエースパイロットとしての勘なのか、ブリフォーはシグーの上体を少しそらした。
そこに、超高熱の空気の塊が斬撃となって襲い掛かり、シグーの右足と右腕を溶かし斬ってゆく。
少しでも上体を動かしていなければコクピットごと真っ二つにされていただろう。
体制を崩し、すこし下降するシグー。
「ぐっ、馬鹿な。あの距離から、斬撃だと!?連合め!!なんてものを・・・!!!」
ちょうどその時、エリスからの通信が3機のコクピットに入った。
『ブリフォー、メイズ、カルラ!こちらエリス。ターゲットのミコトは二機あり!一機確保して今帰還したわ。もう一機はダヌー達が・・・』
「ダヌー達は全滅だ!今オレ達がそいつと交戦している!!」
『そ・・・んな!!!?』
ブリフォーの言葉に、エリスは言葉を失った。
「とにかく、当初の目的は達成したって事だな。メイズ、カルラ引き上げるぞ!!!」
「・・・了解。」
「〜〜〜〜〜〜ちっくしょおぉぉぉ!!!」
そういうと、素早く3機は引いていく。
「逃がすとでも・・・・・」
コウは後を追うためにスサノオの機体を立て直そうとしたが、突然大量の血を吐いてコクピットにうずくまった。
「な・・・・がはっ・・・・・・あ。」
スサノオはぴくりとも動かず、そのまま海面めがけて落下する。
「コウ君!!!!」
急降下してきたブルーセイヴァーがスサノオを受け止め、あわや海面にたたきつけられる寸前でようやく停止した。
「コウ君!しっかりして!コウ君!!!」
「と、父さん・・・・・・リト・・・・・・・。」
薄れ行く意識の中、コウは無意識に愛する人たちの名前をつぶやいていた。
東アジアの領海を脱出したボズゴロフ級潜水母艦ティアマトの一室で、エリスの瑪瑙色の瞳は憎しみと悲しみのの炎で潤んでいた。
「ナチュラル!!ナチュラルめっ!!!ダヌー、ノイッシュ、ディラン・・・・・あなた達の仇はミゲルの分も一緒に、私がっ!!!」
エリスの両手には、一枚の写真の入った写真立てが握られていた。
そこに写るのは楽しそうに笑う自分とブリフォー、そして失われた笑顔。
決して真面目な男ではなかった。
何人もいる士官学校の同期生の中でも、実力はありながらも常に自分の信念の元、自由に行動していた彼の事がエリスには新鮮に見えた。
その感情が何なのかはエリスにも分からなかったが、『自分もこの人についていけたら』、と必死に励んだ結果の赤服だった。
もっとも、彼は赤にはなれず派遣される場所もバラバラになってしまった。
士官学校卒業の時、気の弱かったエリスは意を決して自分からミゲルに話しかけた。
何を話したかは全然覚えてはいなかったが、ミゲルとした約束は今でもしっかりと心に焼きついている。
「オレは、緑服でもエースパイロットになってやるんだ。赤だけがザフトじゃないって事を生意気なナチュラルや、ザフト上層部の堅物に示してやるためにもな。そうだエリス、おまえはもっと自信をもてよな〜。オレとだって対等にやれるくらいの力あるんだからさ!」
「・・またまたぁ。じゃあ、いつか私とミゲルで一緒に戦える時が来たときはよろしくね。」
「おう!そーなったら、最強だぜ!いつの日か、アイマン隊を結成したら真っ先にスカウトするからな!」
「あら、アリオーシュ隊の方が先にできちゃうかもよ?その時は、ミゲルは私の部下ね。」
「何を〜、よ〜し分かった。じゃあ、どっちが早く隊を持てるか競争だ!負けた方がその右腕になる。約束だぞ。」
「ええ、約束よ。」
『黄昏の魔弾』の名はそれから程なく宇宙に響き渡り、ミゲルは名実ともに緑服のエースパイロットになった。
その活躍をほほえましく見ていたエリスは、その元来の優しく気の弱い性格からミゲルとは反対の道をたどる事となる。
赤服の地球行き。
それはほとんど左遷であり、赤なのに能力がないと見なされた事に等しかった。
それを聞いたミゲルやブリフォーは激昂し、上層部に再検討を再三にわたり申告したがその人事は覆る事はなかった。
オーストラリアのカーペンタリア基地配属になったエリスはモラシム隊の所属となり、グーンやディンに乗りながら巡察などの任務に明け暮れた。
『私には、こういう仕事の方が性に合っているんだ。』
そう思いながら、ミゲルとの約束の事も薄れてきていた矢先の事だった。
ヘリオポリスでの連合のMS強奪作戦の知らせが飛び込んできたのは。
ミゲル・アイマン、戦死。
エリスは信じられなかった。いや、信じようとしなかった。
あの時互いにかわした約束が昨日の事のようにフラッシュバックする。
「そうだ・・・・約束・・・・果たさなきゃ・・・・。」
その日からエリスは変わった。グーン一機で一度に5隻もの地球軍潜水艦を沈め、その後モラシム隊から独立してアリオーシュ隊を持った。
ミゲルのパーソナルカラーであるオレンジ色のゾノを駆り、3機の青い海魔を引き連れる『黄昏の海魔女』として生まれ変わったエリス・アリオーシュは、いつしかミゲルの仇をとる事が、地球軍を滅ぼす事だと信じるようになっていた。
青服になった今もそれは変わらない。
そして、今日もまた、親しい部下達の命をナチュラルに奪われてしまった。
果てる事なき憎しみの連鎖の中に、エリスは落ちようとしているのだった。
『アリオーシュ特務兵、バールゼフォン特務隊長より入電です。』
「・・・つないで。」
『エリス。大丈夫か。』
スピーカーの向こうから聞こえるブリフォーの声はとても心配そうであった。
ブリフォー・バールゼフォン――――。
ザフト士官学校ではミゲル、エリスと同期で首席卒業を果たしたトップレッド。
非常に優秀で、ミゲルとともにシンセイの護衛をしてからは、改造され軍事要塞となったボアズに残り常駐する。
ボアズでは当時最年少で最新鋭機であるシグーを受領し、自分の小隊であるバールゼフォン隊を率いて『ボアズの蒼竜』として恐れられる。
ミゲルの戦死の知らせを聞いた後は、自分が一緒にいれなかったことを悔やみ、エリスの事を心配して地球行きを志願した。
そして、元々発足予定のあったザフト地上侵攻特務隊結成に際し、その隊長としてふさわしい人物であるとされ青服に任命されることとなった。
『青服の隊長として、守るどころか一緒にいる事すらできなかったミゲルの分までエリスを、そして仲間を守る。』
普段口うるさいのは、そういった信念の裏返しなのであった。
「ええ、大丈夫。心配しないで・・・。」
エリスの声に力がないことはブリフォーにもよく分かっていた。
しかし、あえて次の任務の事を伝えた。
『そうか。早速で済まないが、次の任務が決まった。君はこのままティアマトに乗りカーペンタリアに帰還してくれ。』
「・・ブリフォー達は?」
『オレはシグーの損傷が激しい。ティアマトに合流して君と同じくカーペンタリアへ帰還する。メイズとカルラには補給を受けさせた後、隠密偵察型輸送艦バズヴを使って『リトルジパング』を追跡させる。』
「リトルジパング?あの金ぴかの事!?追跡って、リューグゥからどこかへ発進したと言うの?」
『ああ、よくは分からないがそうらしい。行き先は不明だが、ユーラシア大陸の方へ向っているとの情報だ。』
「ユーラシア?・・・・あのもう一機のミコトも、乗ってるのね。」
エリスの心に再び付きかけた炎を消すかのように、ブリフォーは釘をさす。
『乗っているが、君は帰還だエリス。君にはカーペンタリアであの『アマテラス』の整備、情報の引き出し、性能テストなどをやってもらうことになっている。テストパイロットとしてな。』
「そんな事、あなたがすれば・・・!!」
『甘ったれるな、エリス!!』
普段以上に強い口調でブリフォーは叱咤した。
『感情で動くようなやつに青を着る資格はない。ミゲルの分まで戦うことを決めたのだろう?だったら、今自分に与えられたできることを全力でこなせ!!』
「・・・・・・。」
ミゲルの名を出され、エリスはその正論に納得するしかなかった。
『それに、チャンスはきっと来る。おまえがあの『アマテラス』に乗る限りは・・・・。』
「・・・どういう事?」
『なに、歴戦の勇者様だけがもつ、勘さ。』
「・・・ふふっ。その歴戦の勇者様は今から追撃をかける大事な仲間が任務を失敗するとお思いなわけね。」
『そ、そういうわけではないが・・・・あー、とにかく君は少し休め。カーペンタリアまではまだ時間もある、隊長命令だからな!』
言葉に詰まりながらブリフォーは通信をきった。
そんなブリフォーにエリスは苦笑する。
「・・・ありがとう、ブリフォー。」
ボズゴロフ級潜水母艦ティアマトは静かに、そしてゆっくりと太平洋を南下していった。
深い闇の中にいた。
いや、闇に溶け込み、闇は自分自身だった。
怖いくらい澄んだ静寂の中にいるようで、四方八方から幾千、幾万の声がこだましている。
『これで終わりだぁ!!!』『そんな動きで・・・!!』『そこかぁ!!』
『何で分からないのだ、貴様らは!!』『そ、そんな!!』『いくら装甲がよかろうが!』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
数え切れないほどの想いが闇にあふれた。
『頼んだぞ、コウ・・・。私は・・・お前を・・・・・・。』
・・・と、父さん行かないで・・・父さん!!!
『コ、コウ!!?何してるのよ!!?どこ行くの!?コオォ!!!!』
・・・・リト、オレはここだよ・・・リト・・・・リト?
闇の奥に去ってゆくケインとリトの姿を、コウは必死で追った。
・・待ってよ!父さん、リト、オレは!!!!!
「待って!!!」
叫んだコウの瞳に飛び込んだのは一人の少女の顔だった。
心配そうなその表情は、起き抜けのコウにはぼやけて見えた。
「リト・・・!?」
「よかったぁ、気が付いたのね。」
明るく澄んだその声は、コウのよく知る少女のものではなかった。
「今、シャクスさん達呼んでくるから、ちょっと待ってね。」
「・・・君・・・は?」
コウのぼんやりと驚く顔を見て、その少女は自分がうっかりしていた事に気づいて小さく舌を出しながら罰の悪そうに微笑んだ。
「あ、はじめまして。私はサユ・ミシマ。シャクスさんの部下よ。サユでいいからねっ。私もあなたの事、コウって呼ぶから。」
「は、はあ・・・。」
少女の自己紹介を受けてもさっぱり状況が飲み込めず、気のない返事をするコウ。
その時、部屋のドアが開き、サユと入れ違いで坊主頭の少年が泣きながら駆け込んできた。
「コウ!!よかった、気が付いたんだね!!!」
「・・シュン・・・?」
シュン・・・あの金色の輸送船に乗ってた・・・。!!!!
全ての記憶がつながったコウは、シュンに問いかける。
「シュン、ここはどこなんだ?オレは、モビルスーツに乗って、血を吐いて倒れて・・・。親父が、・・・・死んで!・・・・そうだ、リト。リトは!?」
「ま、まあ落ち着いて。順番に話すよ。」
そういうとシュンはコウが気を失ってからの事を話し始めた。
「コウが気を失って落下するスサノオはアイリさんがこの『スローン』に運び込んでくれたんだ。それからコウはここに運ばれて、もう2日間も眠ってたんだよ。」
「2日も!?」
「うん、それから、色々基地内でもごたごたがあって・・・。ああそうだ、リトちゃんは無事だよ。アーキオ大佐がお亡くなりになった事でかなりショックを受けていたけど、シートっていう人と一緒に東アジア共和国のご自宅の方へ行ったみたい。葬儀とか、色々あるだろうから・・・。コウの事も元気だって伝えてある。まあ、その時コウは昏睡状態だったから、嘘付いちゃったんだけどけどね。」
コウはほっとした。リトが無事だと言うことが何よりも嬉しかった。
父を失った上に、リトの身にまで何かあったらコウは生きる希望を失っていただろう。
「シート先輩が一緒に行ったなら安心だ。・・・『行った』?・・・・。シュン、ここはどこなんだ?」
「ここは・・・。」
「その先は私が説明しますよ。」
そういって入ってきたのは寝癖のある緑髪の男と、くわえ煙草をした青髪の女性、そして背のひときわ小さいポニーテールの黒髪の女性だった。
「シャクスさん、アイリさん、それと・・。」
「地球軍第49独立特命部隊副隊長、マナ・サタナキアよ。あなたとはドッグで一度会っているわね。よろしく。」
「気分はどうですか?いや〜、長いこと眠ったままでしたので心配しましたよ。」
シャクスのにこやかな表情にコウは軽く会釈をして質問をした。
「シャクスさん、ここはどこなんです。」
「ここは、陸海空兼用輸送戦艦『スローン』の医務室です。そして、この船は中国の上空あたりを飛行中です。」
「!??」
「驚かれたでしょうが、質問は最後にまとめてと言うことで。単刀直入に言います。コウ君、今から君には協力してもらいたいことがあります。詳しいことはまず、・・・・これを見てください。」
そういうとシャクスは一枚のディスクをポケットから取り出した。
そのディスクはコウがケインから託され、スサノオを鬼神へと変えたあのディスクであった。
「これには映像データも入ってましてね。私たちは全員、一度見させていただきました。では、再生しますよ。」
そういうとシャクスは医務室にあるコンピューターにディスクを差込んだ。
そして、ディスプレイにコウのよく知る男の姿が映し出される。
「父・・さん・・。」
ディスプレイに写るケイン・クシナダはどこかの研究室らしき部屋で、デスクに両肘を突いた状態で手を軽く組みながら椅子にかけていた。
『私は、ケイン・クシナダと言う。このシステムの開発者の一人だ。』
「な、!!!!」
衝撃の告白に言葉を失うコウとは関係なく、映像の中のケインは語った。
『この映像を見ていると言う事は、私の身に何かあったということなのだろうな・・・。複雑な気持ちだが、ディスクの説明をしよう。
このディスクを既に使った事があるなら分かるだろうが、これは地球連合軍・東アジア共和国が独自に開発したモビルスーツ、東アジアガンダム『ミコト』シリーズ専用の追加システムだ。』
東アジアガンダム『ミコト』シリーズ。
それがスサノオとアマテラスの機体種名であった。
『システムの説明の前にこのモビルスーツ『ミコト』シリーズの説明を軽くしよう。フジヤマ社製造のこのモビルスーツは、極秘にオーブの技術提供を受けて開発された。現在、2機の『ミコト』が完成している。
一機目はGDE-01Mi アマテラス。
この機体は太陽電池と従来のエネルギーのハイブリッドで動く試作動力を持ち、その最大の特徴は、背部に背負ったリング状のユニット、攻防兵装システム≪トクサノカンダカラ≫にある。これは全部で10種類の攻防兵器に分解でき、状況に応じて様々な武装や支援装置として使う事ができる。』
「・・・あのザフト兵の機体か!どうりで、海中でも早かったわけだ・・・」
コウはなんとなくアマテラスがあのオレンジのザフト兵の盗んだ機体だとわかっていた。
『二機目はGDE-02Mi スサノオ。
この機体は空気中の成分を取り込みエネルギーに変換することができるフジヤマ社の新技術が使われた機体だ。地上にいる限りは無限のエネルギーを発揮できる。また、その力を利用して気流を発生させることも可能だ。最大の特徴は陸戦型であるこの機体に、2つの専用背部換装パック≪ヤクモ≫、≪ワダツミ≫を装着させる事で単機飛行や海中における高速移動などが可能になる点だ。』
「コウ、あなたが乗っていたのは『スサノオ』の方になるわね。」
マナがコウに補足した。
『さて・・・、それでは本題といこうか。この2機のミコトには大きな共通点がある。
それが、今諸君らが見ているこの映像の入ったディスクだ。
このディスクはミコトシリーズのOSに、あるシステムを追加インストールする事ができるものなのだ。そのシステムとは・・・。』
「MIHASHIRAシステム・・・・!」
「コウ君、知っていたのですか?」
シャクスの問いにコウはうなずく。
「スサノオにディスクを入れたら、ディスプレイに文字が・・・。内容は実際にあの機体を使ったのでなんとなくは・・・・。」
映像のケインの話は続く。
『・・・MIHASHIRAシステムという。
このシステムは、簡単に言うならモビルスーツのパイロットを強化するブーステッドシステムだといえる。
数年前、連合軍がSEEDの力を恐れて開発したとあるシステムに対抗して、我々が開発したものだ。』
「SEED・・・?」
「Superior Evolutionary Element Distend-factor――――。
『種の進化的要素を決定付ける因子』といって、昔一回だけ学会誌に発表されて議論を呼んだ定義らしいですよ。私もよくは知りませんがね・・・。」
コウの疑問にシャクスは即答した。
『既に使ったものなら分かるかもしれないがこのシステムは、過去の様々なエースパイロットの経験や、知識を全てデータ化し、そのノウハウの全てをパイロットにダウンロードする事で、一切モビルスーツの操縦ができない人間でもエースパイロット数人分の能力を発揮する事ができるようになるという驚異的なものだ。
・・・・・ただし、致命的な欠点がある。』
ケインは一呼吸おいてから沈痛な表情を浮かべ、言葉をつなぐ。
『このシステムは使った者の命を確実に削る。』
「!!!!」
コウも無言ではあったが驚きの表情を見せた。
『生身の人間に何人もの優秀な人間の膨大な知識や経験を一度にダウンロードするという事は、想像以上に肉体と精神を削るものなのだ。厄介な事に、使っている最中は自覚症状はほとんどなく、その代償は突然襲ってくる。
突然の吐血や昏睡、そして最悪即死もありえる。』
「コウ君が、突然気を失ったのもこういうわけよ。」
コウはアイリーンの言葉にうなずく。
『このシステムは悪魔のシステムだ。いかにこの時代の中で力が必要であるといっても極力使うべきではない。・・・・もし、このシステムをどうしても使うというのなら、平和のためにだけ使ってほしい。・・・・それができる者に託すものがある。アフリカの『ネブカドネザル』という研究施設に行くがいい。』
「ネブカド・・・ネザル・・・?」
『実はこのディスクだけではMIHASHIRAシステムはまだ未完成なのだ。このまま使っていけば必ず近いうちにパイロットは死ぬだろう。『ネブカドネザル』にいるアリア・クシナダという研究員からもうひとつのディスクを受け取り、つかうといい。』
ケインの話にでたその聞きなれた名前に、コウは驚きの声を上げた。
「な!!!?母さん!!」
「ええ!?」
「・・・やっぱりね・・・。」
「コウ君の・・・お母さん!?」
「な、なんで。」
コウだけでなく、コウの言葉にシャクス、マナ、アイリーン、シュンも同様に驚いた。
『最後にこれだけは言っておく。ディスクを追加してシステムを完成させたとしても、MIHASHIRAシステムは確実にパイロットの命を削るライフイーターであることは変わらない。このシステムを使わずにすむ時代が来ることを切に願いたいと思う。
あ〜。それと、これは予感なのだが・・・。外れたのなら気にしないでほしい。そこに、コウはいるか・・・?』
映像のケインの意外な問いかけに、コウはディスプレイに釘付けになる。
『本当に万が一の可能性だとは思うが、もし、お前がこのミコトに乗ってしまったなら、もう乗るのはやめなさい。他の人間になんと言われようと、お前がかかわる必要はない。お前は、お前の望む世界で好きなように生きたらいい。それと、母さんの事、黙っていてすまなかった。だが、今は会わない方がいいかもしれない。どうしても会いたいのなら、戦争が終わったとき会いに行きなさい。・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
そこに息子がいなかったなら私事を吹き込んでしまい、すまない。できたら、2人の息子に伝えてほしい。・・・・愛していると。・・・それでは、諸君らの未来におおきな希望が訪れん事を・・・。』
ディスクの映像は、そこで終わっていた。
「とう・・・さ・・・!!・・・!!・・」
瞳を青く潤ませながら、コウはうつむいた。
全員が無言でコウの方を向く。
しばしの沈黙の後、その重い静寂を意を決したように破ったのはコウ本人だった。
「・・・・で、オレにどうしろと言うんです、シャクスさん。」
「・・・あの映像の通り、私たちはアフリカに向っています。事情があって、君をそのまま連れてきてしまいましたがね。」
「・・・状況を私が補足しましょう。」
そういうと、マナはうつむくコウの前に歩み出た。
「君をリューグゥにおろさず連れてきたのには理由があるの。それはスサノオの事。」
「・・・オレが、勝手に乗ったからですか・・・軍事機密に触れたから・・。」
「もちろん、それもあるわね。MSに勝手に乗り込んだんですから。本来なら、銃殺刑ものね。」
マナの冷たい言葉にコウは顔を上げて睨む。
「マナ!なにもそんな!!」
アイリーンの言葉をさえぎって、マナは続けた。
「でも、あなたが戦ってくれなければ、私たちはやられていたのは事実。正直、感謝してるわ。問題はあなたじゃなくて、スサノオの方。」
「スサノオの方?」
「そう、ヘリオポリスでの事件は知ってるかしら?」
「ええ、人並みには・・・。」
ヘリオポリスとは、中立国オーブの資源衛星の一つだった。先日ザフト軍がそこに攻撃を仕掛けた、というのが一般的に知られる『ニュース』の内容だ。
その実は、ヘリオポリスで連合軍が極秘に開発していた5機の新型MSの内4機がザフトに強奪されたというものであった。
「連合の新型MS強奪、ですか。そこまでは知りませんでした。」
「そう。それがあったからこのミコトには強奪防止のためのパイロット認識システムが付いているのよ。」
「そ、そんな。普通に乗れましたよ!!・・・・まさか!」
コウの言葉にマナがうなずいた。
「そう、まだパイロット登録が済んでなかったの。あなたが初パイロットよ。」
「え〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
驚きのあまり、大声を上げるコウ。
シャクスもアイリーンもシュンも、皆『驚くのももっともだ』と言う表情を作った。
「そ、そんな間抜けな話・・・あっ。」
自分がした強奪に近い所業を棚に上げて言おうとしていたその言葉をコウは飲み込んだ。
それを聞きながら、マナはため息をつく。
「そう。君の考えてる通りよ。わざわざ盗難防止に作った機能付けたうえで盗難されてね。でもね、事情があったのよ。」
「事情、ですか?」
マナの表情がにわかに暗くなる。
その様子を察したシャクスが話を続けた。
「・・・・パイロットとなるはずだった男が、事故で亡くなったんです。
名前はアモン・サタナキア。マナさんのお兄さんで、・・・そう、君の乗ったスサノオが彼の愛機になるはずでした。」
「!!」
シャクスの言葉にコウは絶句した。
「・・・ごめんなさい、シャクス。私が話すわ。」
話をつなげようとするマナにコウは鎮痛のまなざしを向けた。
マナもその様子に気づき、口を開く。
「兄の死は、今回のこととは関係ないの。だから、君が気にする必要はないわ。でも、・・・・それが原因で、パイロット登録は延期されてしまっていたの・・・。」
「・・・そうだったんですか。すみません。失礼な事を言ってしまって。でも・・・パイロットのロックを解除できないことはないんでしょう?」
コウの質問にシャクスがうなずく。
「ええ、それこそが協力してほしいといった事なのですよ。な〜に、簡単です。一度登録したパイロットがコクピットに座り、指紋、声紋、D.N.Aをスサノオにチェックさせ、さらに搭乗した際に音声入力した暗証コードを入力すれば・・・。」
「ちょ、ちょっと待って下さい。暗証コード!?」
「ええ、入力・・・・しませんでしたか?」
室内の空気が再びどんよりとしたものに変わる・・・。
「・・・・入力した覚えが・・・ありません・・・。」
「「「「え〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!?」」」」
4人の見事にハモった叫び声が、スローンの艦内にこだました。
〜第4章に続く〜
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