〜第25章 Lost bravery〜

「くそ! 話を聞け!! オーラル! 応答せよ! こちら、・・・・く!! 」

必死の通信を試みるザナドゥに、ヴァーチューからのバリアントの砲撃が放たれる。
そして、一人の男が通信に応じた。

『私のはオーラル司令官、ライル・セフォードだ。君は何がしたい? 我らに仇なすレジスタンス壊滅作戦を阻止し、今また我々同胞の乗るディンを落とす。正気の沙汰とは思えんな。』
「オレは、この戦闘が終了し次第ザフトに複隊する! だが、今はわけあってこの戦いを止めたいんだ! 攻撃を止めて引いてくれ! 」
『なるほど、大方この戦いに協力すれば解放する、とでも吹き込まれたか・・・。なら、今すぐにでもこちらにつけばいい。』
「・・・それは、できない。」
『・・・・そうか。では、君はザフトには不必要だ。散りたまえ!! 』

2門のゴッドフリートから4本の光線がザナドゥを襲う。
ザナドゥは何とかそれをかわすが、交渉は完全に決裂してしまった。
ヴァーチューは船体を降下させ、砲の照準を下方を飛ぶスローンに再び合わせる。

「本当に君が、ザフトを裏切っていないと言うのなら、この戦艦戦の手出しはしないでもらおうか、ブリフォー・バールゼフォン! ゴッドフリート、バリアント、てぇ!! 」
「く!! ・・・オレは・・・。」

ブリフォーの迷いなど歯牙にもかけず、ヴァーチューの攻撃がスローンを襲う。
しかし、

「こちらも迎撃!! イフリート展開後、撃てるわね!? 」
「はい! 充填完了済みであります! 艦長! 」
「イフリート、小型陽電子砲『ワルキューレ』、てぇ!! 」

爆炎の壁がヴァーチューの砲撃を緩和し、残りはスローンのラミネート装甲が防ぐ。
そして、スローン最大の主砲が初の咆哮を挙げた。

「く! 回避だ!! 急げ!! 」

ライルの号令も空しく、ヴァーチューは右舷に被弾し、大きく揺れた。

「状況は! 」
「右舷に被弾! ただいま消火作業をしております! ・・・第2エンジンダウン! ・・ですが、まだ何とか飛行可能の損傷です!! 」
「おのれ、座天使!! こちらも主砲再充填! 今度ははずすなよ!! 」

力天使に再びワルキューレが充填されてゆく。

「シュン! こちらの再充填にはどのくらいかかる!? 」
「・・・5分です! 」
「・・・く、迎撃は間に合わなそうね・・・きゃあ!! 」

その瞬間、スローンに衝撃が走った。
それは、地上からの砲撃だった。

よく見ると、数機の対艦装備をしたオーラル製の地中型グーン4機とバクゥ3機が対艦用ミサイルを一斉に発射している。
いくら、ラミネート装甲が優れているとはいえ対艦ミサイルを立て続けに撃たれればひとたまりもなかった。
しかも、それはスローンの真下にぴたりとつけており、正に死角からの攻撃。

「艦長!! ラミネート装甲、廃熱・・・というか装甲自体が損傷しています!! 」
「上からは、陽電子砲!! バールゼフォン機・ザナドゥ! 応答を!! ブリフォーさん! 」

ヴァーチューのそばにいるブリフォーは動揺のあまりそのことに気付いていなかった。
通信も、ヴァーチューの優秀なCIA電子戦担当のクルーにより、電波妨害がされていたのである。
意を決し、マナが号令をかける。

「総員! ベルトを着用! 本艦はバレルロールをとる!! 出来るわね、ユガ!! 」
「バ、バレルロールでありますか、艦長!!? 」
「む、無茶ですよ、マナさん。」
「昨日レヴィンさんに少し聞いたけど・・・。そんな高等飛行、や・・やったことないですよぉぉ!! 」

シュン、サユ、ユガが不安の声をあげる。

「それでも、やらなきゃ死ぬのよ!! 」
「・・マナ姉の・・言うとおりだ・・・ユガ! 」

マナの言葉に続いたのは、なんと松葉杖をつくレヴィンだった。

「レヴィンさん!! 無茶ですよぉ!! まだ、熱が下がってないんでしょ! 」
「それに、その足! 」
「サユ! シュン! 第一戦闘配備を崩すな! ユガ、昨日オレが話した通りにやればいい! お前なら必ずできる! 」

脂汗をかきながら言うレヴィンの言葉に、ユガは決意をして強く頷く。

「はい。やってみます! 」

ユガの答えに、レヴィンは頷き、いつも空席の副操縦席に腰をかけ、ベルトを締める。
そして、マナが檄を飛ばす。

「バレルロール実行後、全砲門を地上グーンに照準! これは、シュン! あなたがやりなさい! ユガ!! バレルロールを!! 」

「よし、ユガ、今だ!! 」
「えええええい!! 」

黄金の座天使は、その巨体を旋回しながら上下反転しバレルロールを敢行する。

「何!! バレルロールだと!!! 」

そして、動揺するグーンの群れに一斉にワルキューレ以外の火線が火を吹いた。
シュンの照準の元、眼下の敵を3機破壊し、牽制をかけた。
しかし、レヴィンほどの正確さはなく、まだグーンとバクゥが2機ずつ残る。
さらに、

「バレルロールとは面白い。だが、わざわざこちらに腹を見せるなど、狙い打ってくださいと言っているようなものだ。散るがいい、座天使!! ・・・小型陽電子砲、ワルキューレ、てぇ!!! 」

無防備のスローンに最強の砲撃が唸りを挙げようとしたその瞬間、ヴァーチューの主砲は爆砕した。
それは、フィリスの掛け声と共に彼方から飛来した2本の強力なレールガン≪グラシャラボラス≫。

「パワァ、加勢に来ました! マナさん! 」
「ブリフォー! あなた、何をやっているんですか!! 」

強襲形態≪アイオーン≫となったイカロスと、天使翼型リフターユニット≪フォーリングエンジェル≫の2機が地上すれすれを舞うように滑空し、バクゥとグーンを次々に破壊してゆく。
そして、

「ワルキューレ! てぇ!! 」

体勢を元に戻した黄金の座天使から真紅の力天使に向かって、その主砲が火を吹いた。

ヴァーチューは再度右舷に被弾し、今度の損傷は非常に深い。
ここまでの2艦からの連携攻撃を受けてもまだ落ちないこのヴァーチューの操舵手は、逆に言えばかなり優秀であると言える。

「ライル司令! 右舷のエンジン停止!! このままの飛行は不可能です!! 」
「ちぃ〜〜〜〜〜!!! やむをえん!! 緊急着陸後、そのままランドモードで上空砲撃だ! 」

ライル達の誤算は、2名の青服の裏切りだけではなかった。まさか、もう1艦の方にもあれほどの武装があったとは。
だが、そこはスローン級2番艦。
飛行が不可能でも走行が可能である事をライルは知っていた。

「やった! 落としたわっ! マナさん!! 」
「まだよ! 彼ら、ランドモードで挑んでくるつもりよ! でも、フィリス、マヒル、メリィ、助かったわ。」
「負け戦は、できませんからね。この戦いは。」
「任せなって!!あたしに!」
「・・・契約ですから。」

ブリフォーのザナドゥがスローンに近づき通信を入れる。

「す・・・すまない。オレは・・・。」
「いいわ、ブリフォー。仕方ないと思うしね。あなたのお陰でディンからの攻撃は防げたし、感謝してるわ。」
「・・・・・・。」

マナの言葉に、ブリフォーは今の自分の立場に困惑した。
その時、遠くの空で一際大きな火線が火を吹く。

「あれは!? シュン、光学映像の拡大、できる!? 」
「はい! ・・・・機影確認、・・・マステマとガルゥ、それとザフトのMS2機です!! 砲撃は、ザフト機からの様子!! 」
「!! メイズ!! 」

そういうとメリリムのイカロスは空を駆けていった。

「おい! メリィ!! くそ、相手は・・・カルラなんだぞ!! 」
「ブリフォー! あなたも出来たら加勢に行って!! 」
「え・・。いいのか? 」
「こちらも、地上に降りて応戦します。今度は正真正銘の『天使』対決。手負いの偽者には負けないわ! 」
「その通りであります!! 」
「こっちは大丈夫っ! ブリフォーさんはフルーシェをお願い!! 」

スローンのクルー達に後押しされるように、ブリフォーのザナドゥも後を追う。

「マナ艦長、パワァは思ったよりエネルギー消費が激しくて、撃てて『グラシャラボラス』1発。それで、飛行困難になります。」
「フィリス達は近くの森の中に着陸して身を隠して! 万が一だけど、帰りの足は確保しなきゃね? 」
「! マナさん!! 冗談でもそんな事言わないでください! 」
「ホントだぜ!縁起でもない」

怒りながらマヒルの操縦でパワァは森の中にその艦体を進めた。
そして、

「ユガ! ランドモードに変形しながら緊急着陸!! レヴィンは適時指示を! シュンは砲撃照準を敵艦に合わせて! サユは妨害電波を出して敵に援軍を呼ばせないように! ・・・一騎打ちよ! 」
「「「「了解! 」」」」

「おのれ、『座天使』!! ヴァーチューの・・・このライル・セフォードの恐ろしさこれから見せてくれる!!! 」

黄金の『座天使』スローンと真紅の『力天使』ヴァーチューの初の対艦戦も佳境を迎えようとしていた。



「フルーシェ、大丈夫か!? 」
「ええ、何とか。・・・でも、もてすぎるのも困りますわね。」

マステマ駆けつけたフルーシェのガルゥ・ビューティフルは満身創痍であった。
いや、正確には五体満足のまま、戦闘力を失いかけていた。

セフィの操るファーブニルの地上運用試作型ドラグーン≪ヘイズルーン≫が、的確にガルゥ・ビューテルフルの武装のみを狙撃して破壊していた。
残るのは、右の頭とフライトユニット、そしてひびの入った右側の硬質メタルウィングだけであった。
以前にレジスタンスベース壊滅作戦において、スローン対して行った事をセフィはドライのフライトユニットを持つガルゥ相手に行ったのである。
これこそが、超軽量結晶装甲≪ヴァナディース≫をもつオーラル最速の高速戦闘MSの力であった。
マステマもそれを阻止する事はおろか、もう一機の漆黒の高速戦闘MSツヴァイに翻弄されて身動きが取れない。

≪ファントムコロイド≫の展開も、第3の特殊兵装を使うために無駄なエネルギーを裂く事が出来ず使えない状態であり、フレスベルグもむなしく空を裂く。
すでに、≪エデン≫の初発で左腕を失うマステマにとって、右の大盾でツヴァイの2本の硬質メタルブレードを防ぐ事は徐々に困難になりかけていた。

「・・く、カルラのヤツ・・・ツヴァイもパワーアップしているようだな! 」
「いつまでもただの青服候補生と思ってんじゃねぇぞ! 今のオレは、特務隊預かりだ!! 」
「このままでは・・・いつかやられるな・・・! 」

メイズとフルーシェに焦りの色が浮かぶ。
そこに追い討ちをかけるように、ファーブニルのヒートフィンガー≪ノーアトゥーン≫がマステマの左下方の死角から迫る。
さらに上空には≪エデン≫を構えるツヴァイの姿。

フルーシェもなんとか口からビームを発射し≪ヘイズルーン≫をようやく1基破壊するが、残りの5基が行く手を遮る。
ビームを曲げるマステマには直接攻撃、素早いガルゥには中距離ビーム包囲。
ファーブニルの性能をフルに発揮し一貫した攻撃を繰り返すセフィと、その間隙を縫うようにして追撃をかけるカルラ。
バカの一つ覚えのこの戦法も、今のマステマとガルゥには非常に有効なものだった。
しかし、

ザキィ!!

ファーブニルの右腕が飛び、ツヴァイの体に無数のフェザー型炸裂弾が突き刺さり、破裂した。

「メイズ!!! 大丈夫ですか!!? 」
「メ、メリィ!? どうして・・・。」

2本の強力な光線が蒼い魔王から放たれ、ガルゥ・ビューティフルを取り囲む≪ヘイズルーン≫を3基落とし、残りを2機とする。

「ブリフォー! 来てくれましたの? 」
「・・・フン、メリィが飛んでったからな・・・成り行き上だ。勘違いするなよ。」
「スローンとパワァは!? 」
「無事さ。今は地上で手負いの敵艦とサシで戦闘している。」

安堵するフルーシェ。
そして、再びファーブニルとツヴァイに向き直る。

「ちぃぃぃ!!! また、新型かァ!! 次から次へと忌々しい!! 」
「・・・カルラ! ここは引いて下さい!! 」
「! テメ・・・メリリムか。・・ちっ、メイズとブリフォーのバカが飛んでやがるからまさかとは思ったが。テメェまで・・!! 」
「それは違う! カルラ、メリィとブリフォーはザフトを裏切ってなんか・・・」
「うるせぇ!!! 全員殺す!! 」
「「「カルラ!! 」」」

青服の3人の言葉はもはや届かず、激情したカルラは、とんでもない攻撃にでる。
ツヴァイにて高速飛行をしながら≪エデン≫を構えた。

「落ち着いて! カルラ。それじゃあ、当たるものもあたらな・・・」

セフィがそう言いかけたときだった。

なんと、強襲形態になっていたイカロスに追行したツヴァイは、≪エデン≫の砲頭を接触させ、一気に引き金を引いた。

ドォォォォ・・・ン!!

それに気付いたメリリムはなんとか急速下降をかけて済んでのところでかわすが、背中と腰の大部分をあわやコクピットごとというところで削り壊され、飛行能力を失った。
イカロスの天使翼型リフターユニット≪フォーリングエンジェル≫をもどし、グゥルのように上に乗って、なんとか飛行を維持する。

「カルラ、やめろ! オレもメリィも敵じゃない!! 」
「いえ、『敵』よ。」

ファーブニルの左手の≪ノーアトゥーン≫とザナドゥの手甲型ビーム砲内臓ヒートクロー≪リュウジン≫の爪がぶつかり、火花を上げる。
そして、そのまま背後から2基の≪ヘイズルーン≫でザナドゥの一番の武装、≪グラシャラボラス≫を素早く破壊する。

「くそ!! 油断した!! 『グラシャラボラス』が! 」
「カルラ!! ブリフォー・バールゼフォンは私が消す! あなたは手負いの3機をそのまま落としなさい! 」

カルラの狂気に今までにない強さを感じたセフィは、まず始末できそうな3機の方をカルラに任せた。

「メリリム!!! 行くぜぇ!!! 」

≪フォーリングエンジェル≫に乗り速度の落ちたイカロスに、ツヴァイの硬質メタルブレードが唸りを挙げ、その右腕をビームランス≪ロンギヌス≫ごと切り落とし、さらに衝撃で体勢を崩させた。
そこに、≪エデン≫の砲頭がイカロスのコクピットに押し当てられる。

「・・・とどめだ! 」
「うう!! 」
「待て!! 」

その時、マステマから放たれた一基のミサイルがツヴァイの体に被弾する。
しかし、それはカルラの行動を止める事は出来なかった。

「残念だったな。その程度のミサイルじゃ、ツヴァイはびくともしない!! ・・・メリリム。あばよ!! 」

ゴォォォォ!!!!!

激しい轟音と共に、モビルスーツの頭が両肩と胸ごと削られて吹き飛んだ。
いや、歪められ削り取られていた。

「・・・え? 私・・・生きてる? 」
「ぐあああああ・・・な・・・な・・・ぜ!? 」
「・・・すまない、カルラ。」

大破したツヴァイはそのまま大地へと落下してゆく。
先ほどツヴァイに放たれたミサイルは、マステマの第3の特殊兵装の布石。
被弾した際に特殊なコロイド粒子を撒き散らし、そこに特殊な波長の光を照射する事で超常現象的な反応を引き起こし、なんと空間そのものを歪曲させるというクロウリー・オセの最高傑作。
空間歪曲レーザー砲≪フラガラッハ≫の光が、ツヴァイに炸裂したのだった。

「カルラ、しくじったわね。」

カルラを助けようと駆けるファーブニルの背後に衝撃が走った。

「逃がしませんわ。今度こそ! 」

ファーブニルの後ろの首筋辺りに、ガルゥ・ビューティフルの残った右頭の高出力ビームファング≪シュトラーフェ・ファング≫が突き刺さり、そのまま機体を破壊してゆく。

「きゃあああああ!!! 」
「・・・ちぃ!! カルラァァ!!! 」

しかし、蒼い魔王がその場を急速で下降してゆき、落下するツヴァイを助けた。
そして、衝撃で既に意識を失いかけているカルラに声をかける。

「大丈夫か、カルラ。」
「はっ・・テメェらで・・やっといて。よく・・言うぜ。」
「それだけ皮肉をいえれば大丈夫だな・・。さてと。」

そして、ザナドゥはツヴァイをかかえたままマステマの元へと駆け、なんとマステマの右腕をねじ上げて、手甲型ビーム砲内臓ヒートクロー≪リュウジン≫をつきたてた。

「フルーシェ! そこまでだ!! そのMSを放せ!! 」

ブリフォーの暴走が、ガルゥの光の牙によって粉砕される直前に、気絶するセフィを乗せたファーブニルを救った。

「ブリフォー・・・あなた。そう、行きますのね。別に人質とるような芝居する必要はないですわ。」

牙を離し、ヒートロッドをうまく使ってでファーブニルをザナドゥ目掛けて投げ飛ばす。
何とかそれを受けとめるザナドゥとマステマ。

「あなたなんか・・・どっかに行ってしまえばいいんですわ。元々、わたくし達は敵同士なんですもの。」
「・・・フルーシェ。すまない。」

いつもらしからぬ、ブリフォーの言葉にフルーシェは視線をそらす。

「メイズ。約束は充分果たした。オレはザフトにもどる。」
「・・・大丈夫か? お前は既に反逆者扱いだぞ・・・。」
「なに、一からやり直すさ。・・メリィ。お前は・・・・どうする!! 」
「・・・え? 」

ブリフォーの呼んだその少女は、意外なブリフォーの言葉に戸惑いを隠せなかった。
・・・・どうする?

「ど、ど、ど、どうするって・・・そんな事・・・。決まって・・・・・」
「メリィ、オレと来ないか・・・? 」
「え? 」

唐突に言ったのはメイズだった。
昨夜のブリフォーからの言葉。
それを聞く前から、本当はこうしたかった。
メイズだけでなく、メリリムも。

「オレは、わがままでザフトを抜けて世界を見ようとしている。でも、できたらそのわがままに付き合ってくれるパートナーが、欲しい。・・・ダメ、か? 」
「・・メ、メイズゥ。」

メリリムの瞳に心からの嬉しさがこみ上げた。

「ハハハっ、了解。メイズ、メリィ、頑張れよ。次に会う時は・・・・敵同士かもな。」
「ち・・・今度は・・・殺してやる・・からな。それまで・・くたばんじゃ・・ね・・ぞ! 」

話を聞いていたカルラも振り絞って罵声を吐く。

「ブ、ブリフォー! このイカロスを持って行って下さい! 」
「残念だが、重量オーバーだ。もし、今度戦う事があれば、その時の戦利品としていただくさ。それまでは、お前が乗れ。・・・じゃあな、メイズ、メリィ。・・・・フルーシェ。」

そのまま、ブリフォーはザナドゥを駆り、2体のMSを抱えたまま空へと消えていった。
彼の本当にあるべき場所へと・・。

「・・・ブリフォー、カルラ。元気で、な。」
「ありがとう。ブリフォー。」
「お風呂にはちゃんと入りなさいよ!! まったく・・・・不潔なんですから。」

友との別れを惜しむメイズとメリリム。
そして、ブロンドのその少女の心には何かがかけてしまったかのような、寂しさの風が吹いていた。



空高く打ち上げられる一機の機影があった。

「リース!!! 」

右足を失い、逃げる事もままならないガルムに襲い掛かるフィーア・ヘルモーズに背後から迫ったリースのジン・カスタムは、尾型のビームウィップで両足をなぎ払われ、さらに鋼鉄の蹄をもつレッグユニット≪スレイプニル≫の後ろ蹴りをまともに食らってしまったのであった。

なすすべなく落下するジン・カスタムをマックスのジークフリートが受け止める。

「邪魔しないで欲しいわね。シグーの始末をしたらあんたらも相手にしてあげるから。」
「く! そうはさせるか!! 食らえ!!! 」

マックスは背部のビームキャノン≪フォルファントリー≫を放つ。
しかし、その攻撃もフィーア・ヘルモーズの8本の馬脚にかわされてしまう。
そしてフィーア・ヘルモーズは結局動けないシグーの元へと駆け込んだ。

「無駄なのよ。遠距離攻撃はかわせるし、近寄ったら殺すしね・・・。わかってるでしょう? ・・さあ、そろそろ止めを・・」

不敵に笑うオーズのコクピットに衝撃が走る。
そして、バランスを崩して前のめりに倒れこんだ。

「・・・油断したな、オーズ・ベルダンディー! 」

ガルムのシグー・カスタムのシールドに付随していたバルカン砲が砕け、中からビームサーベルが伸びていた。
それは、ガルゥ・ビューティフルのビームファングの元となった、高出力ビームサーベル≪シュトラーフェ≫。
ガルムは待っていたのだった。オーズが油断してシグーに近づいてくるのを。
≪シュトラーフェ≫の刃は、魔法の馬の8本の脚の内、前足2本を見事に切り落としたのだった。
その隙を、マックスも見逃さない。

ビームサブマシンガン≪ザスタバ・スティグマト≫を乱射しながら、収束光波ブレード≪バルムンク≫を右腕に展開させ、倒れるフィーア・ヘルモーズの背後に突っ込んだ。
フィーアのビームウィップがジークフリートに襲い掛かるが、≪ザスタバ・スティグマト≫がウィップ射出口に連続で撃ちこまれて四散した。
そして≪バルムンク≫と、上半身を反転させたフィーア・ヘルモーズのビームコーティングシールドがぶつかり火花を散らす。
さらに、フィーア・ヘルモーズのビームジャベリンがジークフリートのシールド型の小型光波モノフェーズシールドに突き刺さる。

「おのれ、ザコども!! 私に恥をかかせてくれたわね!!! 」

フィーア・ヘルモーズはその体勢のまま、ビームジャベリン型ビーム砲≪ニブルヘイム≫を発射する。

2機の間で、爆発が生じ両方とも吹き飛ばされる。
爆煙が立ちこめ、その切れ間からは左腕の吹き飛んだジークフリートと、右手が吹き飛び、前足2本と尾を失ったフィーア・ヘルモーズが立ったままにらみ合っていた。

「・・・く、肉を切らせて骨を断つか! なんてやつだ。」
「『スレイプニル』を・・・あまりおナメじゃないよォォ!!! 」

次の瞬間、≪スレイプニル≫の馬体から6本のマニュピレーターが飛び出す。
そして、その先には先ほどシグーに足を切られたものと同じ光刃、≪シュトラーフェ≫が輝いていた。

「な・・まだ武器があるのか、あの馬は! 」
「はあ、はあ、・・・マックス兄ちゃん。くそ、オレももう何も出来ないのか!? 」

ガルムとリースが叫ぶ中、無数の光刃を振りかざすフィーア・ヘルモーズの猛攻がジークフリートに迫る。

「あんた達、しつこいのよぉぉ!! 5年前に殺してやった奴らの所に、さっさと行きなさいよぉぉ!! きっと生き残ったあんたらを恨んで待ってるわよぉぉ!! 」
「貴様が、貴様がそれを言う権利があるのかぁぁぁぁ!!! 」

マックスは≪ザスタバ・スティグマト≫を乱射しながらフィーア・ヘルモーズの懐に突っ込んだ。
オーズの狂気を孕んだ8本の≪シュトラーフェ≫がジークフリートに襲い掛かる。
しかし、ジークフリートは≪アルミューレ・リュミエール≫を展開してその斬撃をことごとく防ぎ、そのまま≪フォルファントリー≫を発射した。

かがんだフィーア・ヘルモーズの上半身が吹き飛ぶ。
しかし、ジークフリートの≪アルミューレ・リュミエール≫もそれを最後にダウンした。

「! しまった、エネルギー切れか・・・!? 」
「ひゃはあ!! 運が悪かったわね!!! 」

8本の≪シュトラーフェ≫が唸りをあげてジークフリートを襲った。
両腕、両足、2門のフォルファントリー、そして頭部に7本の光の刃が突き刺さり、 その身動きを完全に封じられる。
そして、

「とどめよ!! 白い方ほどじゃなかったけど、楽しかったわ『紫の妖精』ちゃん。」
「・・・紫の・・・。」

振り下ろされる≪シュトラーフェ≫の光を見ながら、マックスの脳裏に一人の少女の笑顔が浮かんだ。

「させるかよぉ!!! 」
「うおおおおおお!!! 」

背部のバーニアを爆発させながら跳躍飛翔してきたリースのジン・カスタムとガルムのシグー・カスタムが、振り下ろされる≪シュトラーフェ≫のマニュピレーターを両手と体で受け止め、そのまま体ごと≪スレイプニル≫だけになっているフィーア・ヘルモーズに突っ込んだ。

4機のMSが絡み合い、それぞれのコクピットに衝撃が走る。

「このぉ!!! 死にぞこないどもがぁぁぁぁ!!! 」
「そうさ、死にぞこなっているんだよ。こちとら、5年前からな! オレといっしょに逝ってもらうぜ、変態ヤロウ! 」
「・・・あははっ、最期までガルムさんと一緒とはね。ま、親父やお袋、先生の敵がとれるなら・・・・悔いはないぜ!! 」
「・・・この・・ザコども! まさかぁぁぁ!! 」

ジン・カスタムとシグー・ジカスタムは、そのエンジンを臨海まで高めようとしていた。
その体からは煙と小規模な炎を上げ、≪スレイプニル≫とジークフリートを赤く照らす。
・・・・・まさに、命を駆けた最期の手段。
自爆。

「や、やめろ! リース、ガルム!! 何をする気だ!! 」
「マックス兄ちゃん。今度は、オレがみんなを守るよ。・・・あはは、後は頼むね。」
「・・・マックス。妹の最期を看取ってくれてありがとうな。お前さんに会えて、あいつは幸せだったよ。きっとな・・・。」

ジンとシグーの体を光が包む。

・・・オレは、また!!!!!
そして同じようにマックスの意識を光が包んだ。

『・・・・ねぇ、マックス。人は、何のために生きるんだと思う? 』

オレは、まだ分からないよ。

『・・・あの中に、私の『答え』があるの・・・・! 』

そんな答えなら・・・・オレは!!!

シュウウウウウウ。

その時だった。
突然、ジン・カスタムとシグー・カスタムのエンジンがダウンし、動かなくなる。

「な、なんだと!? 」
「そんな!! 」

自爆する事すら出来なくなったガルムとリースが絶望の声を挙げる。

「こ・・・・のぉぉぉ!!! あんた達ぃ〜〜〜、驚かせてくれるじゃないのぉぉ!!!! ヴィグリードの生き残りがァァァァ!!! 」

怒りに震えるオーズの咆哮。
しかし、マックスに聞こえたものは別の声。

『あら! じゃあ、あなたが伝説のナイト、勇者ジークフリート様ね! 』

オレは・・・。

『・・・・勇気を、取り戻して? ・・・・あなたは私にとって、ううん、このヴィグリードの街の勇者様なんだから! 』

オレは!

紫の勇者・ジークフリートから光が輝き、目の前で動かなくなるシグー・カスタムとジン・カスタムを守るようにして、再び≪アルミューレ・リュミエール≫が展開される。
そして、突き刺さっていた≪シュトラーフェ≫のマニュピレーターはことごとくその光波の障壁に切断され、光の刃を失った。

「な、なんですって!! エネルギーは切れたはずじゃあ!!? 」

勇者の右手の聖剣≪バルムンク≫が輝きを増してその光を伸ばし、忌まわしき過去の元凶を、今、打ち砕く!

その奇跡とも言うべき一撃に、コクピットを貫かれたオーズは最期の言葉を口にした。

「・・・・あんたぁ・・一体、何・・・者!!? 」
「オレの名はマックス・ジークフリート。信じてくれた女一人救う事の出来なかった、偽者の勇者さ。」
「・・・うふっ・・・ス・・・テキ・・・・ねぇ・・・・。」

ドォォォォ・・・・ン!!!!

轟音と共に、ヴィグリードの悲劇を引き起こした狂気、オーズ・ベルダンディーは塵となった。

そして、その爆発から身を守りきったことを確認するように、≪アルミューレ・リュミエール≫がダウンする。

フィーア・ヘルモーズの燃えゆく様は、まるであの時の・・・・・。

そして、気のせいなのだろうか・・・・。
3人の耳に届く一つの小さな声。

『ロキお兄ちゃん、リース・・・マックス。わたしは、幸せだったよ。ありがとう。』

「ゼクファーナ・・・? 」
「先生・・。」
「・・・そうかい。オレ達も、まだ死ねねぇってこったな。」

炎を見つめる3人の瞳からは、とめどなく涙があふれて止まらなかった。

〜第26章に続く〜


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