〜第24章 ヴィグリード解放戦〜

「クロウリーさんと、・・・ナターシャはどうした! ディノ!! 」

北欧の空に2機の神が対峙する。
いや、その澄んだ空を覆うのはもっと多くの機影。

「ボクを倒せば教えてやるさ、コウ! もっとも、キミはここで死ぬんだけどね。・・・このボクに殺されるんだ!!! 」

咆哮を上げ、月の神・ツクヨミが11.14メートル級シャムシール型重力刀≪ミカヅキ≫の1本をブーメランのように投擲する。
その三日月型の刀剣は、紫色の光を放ち重力による遠心力を受けてその速度と威力を加速させてゆく。

「ディノォォ!!! 」

スサノオも両掌を突き出し、竜巻発生装置≪テング≫のトルネードをツクヨミに放つ。
しかし、輝く月のブーメランは2本の竜巻の威力をものともせず、切り裂くようにスサノオの左肩をかすめる。

メキィィ!!!

かすめただけだというのに、スサノオの装甲が大きくへこむ。

「な、なんだあのブーメラン!! 」
『恐らく、重力場を発生させているんだ! 3機目にもなると、とんでもない武装を持ってるようだな、あのミコト。コウ! 冷静に対処しないと、負けるぞ! 』

ツクヨミの月の力に動揺するコウを、≪テングを≫悠々とかわしながらディノは嘲笑する。

「フフフフフっ。その程度かい? その程度なら、MIHASHIRAシステムを起動するまでもないな。・・・・うん、大丈夫だよ。ボク一人でも・・・・フフフ、心配しないで。」

「・・・アモンさん! ダブルフェイス完全起動を! 」
『・・・仕方ない、了解!! 』

コウの一声に真の力を解放したスサノオは体勢を立て直し、9.98 m対 PS 超高熱空斬剣≪ツムハノタチ≫を構える。
しかし、そのコクピットにアラームが鳴り響く。

『コウ! 背後から攻撃だ! 』
「! さっきの・・・ブーメランですね! 」

スサノオはそのまま空戦型背部換装パック≪ヤクモ≫を全開にしてツクヨミに接近してゆく。

背部からはさらなる重力を受け加速する≪ミカヅキ≫。
そして、ツクヨミはもう一本のミカヅキを右手に構えて待ち受ける。

「前後から挟んで串刺しだ!! 死ね、コウ!! 」
「ディノ!! 」

2機のミコトが接触する瞬間、コウは左手の≪テング≫を全開にして真下に放ち、急速上昇をかける。

『ちゃんと、落し物は返してやらなきゃな! 』

アモンの言葉通り、ターゲットを失った高速の月のブーメランはそのままツクヨミに迫る。

「こしゃくな!! ・・・・・でも、甘いよ!!! 」

ツクヨミの体からその体を包み込むかのような紫色の光の結界が出現し、周囲の空気を歪め始め、月基地開発の試作型反重力フィールド発生装置≪ヤタノカガミ≫が起動する。
止めようのない超重量と化した高速のブーメラン≪ミカヅキ≫は、なんとその結界の外周に接触した瞬間、ゴムマリがはじかれるかのように軌道を変え、上空に逃れたコウのスサノオ目掛けて再び唸りを挙げる。

『・・・な!! 重力場のバリアまで展開が出来るのか!!! しかも、あれほど強力な!! 』
「・・・・それでも、やって見ます! 」
『ああ! 』

コウは上空で待ち構えるかのようにして構えていた≪ツムハノタチ≫を一直線に真下に振り下ろす。
なんと、その刀身から放たれた超高熱の空気の斬撃は、迫り来る超重量の≪ミカヅキ≫を熱疲労と斬撃のダブル攻撃で見事に破壊した。
そして、≪ツムハノタチ≫の斬空は、そのままツクヨミを襲う。
≪ミカヅキ≫を破壊した事で威力は弱まっていたものの、なんと見事ツクヨミの金色の装甲に大きな傷と衝撃を走らせる。

「やった!? 」
『なるほどね。瞬間的な展開しか出来ないんだな、あのバリア。あれほど強力で大きな重力場だ。恐らく張り続けたら機体の方が先にいかれちまうんだろう! 』

「がああああ!!! ・・・く、コウゥゥ! オマエが・・・オマエなんかが、この・・ボクのツクヨミに傷をぉぉぉ!!! 」
『落ち着きなさい、ディノ。』

その声に、ディノははっとし、怒りを静める。

「・・・ご、ごめん。でも、あいつが! 」
『・・・じゃあ、こちらも本気で行きましょう。MIHASHIRAシステム、起動。』

ヴィィィィ・・・・。

『! ・・コウ! ヤツの雰囲気が変わったぞ! 』
「ええ。ディノの奴も・・・・・・ダブルフェイスか! 」

ついに、2機のミコトがその真の力を解放した。
そこには導くべく生まれた2人のAIと、力を得る代わりに命を蝕まれる2人の兄弟。
その悪魔のシステムを起動する弟に、コウは複雑な想いで対峙する。

「ディノ。どうしてもやらなきゃならないのか!! 」
「・・・フフフフ、これでもうオマエに勝機はないよ。オマエとボクは同じでも、ボクにはオマエにないものが付いているんだから!!! ねぇ・・・・・・『母さん』!!! 」

「な・・・・・・なんだって!!! 」

コウの心に衝撃が走った。


「これは本当に、多勢に無勢ですわね!! しかも、あの水晶までいるなんて。」
「・・・ああ、さすがに多いな。オレにとっても、よく知る機体と・・・よく知るヤツさ。」

フルーシェとメイズはツヴァイとファーブニル、そしてディン・ハイマニューバ4機と通常ディン8機の群れと対峙していた。

「ハン! あの不細工な空犬、さらに不細工になったな。メリィのエモノをパクリやがって・・・。ますます腹が立つぜ!」

フルーシェの駆る空飛ぶケルベロス、ガルゥ・ビューティフルはさらに新たな力を得ていた。
それは、ドライの残骸から得た、強力なビーム散弾ミサイル≪タスラマード≫と硬質メタルウィング。
そして、高出力ビームサーベルを参考にして作られた高出力ビームファング≪シュトラーフェ・ファング≫であった。
さらに、カラーも新規一点、サンドブラウンのボディからフルーシェの好きなピンクのボディに、そして、3つの頭と4本の足は清楚な純白に塗り替えられている。
その戦闘兵器らしからぬ色にまた、カルラは腹が立った。

「それに、もう一体、ありゃ連合の新型か? ・・・あいつの・・・・メイズみたいな色しやがってェェェ!! 」
「・・・色は関係ないわ、カルラ。落ち着きなさい。数でも力でもこちらが上。・・・・でも、どちらにせよ私達を苦しめる『敵』は落とすだけの事。行きなさい! ディン部隊!」

冷静に言い放つセフィの号令の元、数に物を言わせてディン8機がマステマとガルゥ・ビューティフルに迫る。

「来ますわ、メイズ! 」
「ああ。数が多いなら、こちらも増やすまで・・・・! 」

マステマは、特殊兵装の一つ、光学偽装領域発生装置≪ファントムコロイド≫を展開し、自らの機体のダミーを次々に投影してゆく。
そして、一瞬動揺して動きの止まるディンの群れに、胸部誘導プラズマ砲≪フレスベルグ≫を放つ。
無数のマステマから放たれる真紅の光は、両腕の≪ジェミナルトリニィティス≫によって蛇のように曲がりながらディンの群れに襲い掛かった。

「うわあああああああ!! 」
「な、なんなんだ〜!! 」

ほぼ全てのディンを貫いたその光の蛇が落としたのは、マステマ本体から放たれた光の蛇を受けたディン3機のみ。
状況が飲み込めず、今だ呆然として一箇所に固まったディンの群れにガルゥ・ビューティフルの新たな力が襲い掛かる。

「わたくしの故郷に土足で上がる不潔なあなた方には、清浄なるシャワーの洗礼を差し上げますわ!! 」

背部多連式ビーム散弾ミサイルポッド≪タスラマード≫から放たれる無数のミサイルが爆散して無限のビーム散弾の雨が残りのディンとディン・ハイマニューバを包み込む!

もろに被弾し次々と爆砕するディンの群れ。そして、その場から高速で離れ、ガルゥを狙おうとするディン・ハイマニューバも、マステマの≪フレスベルグ≫によってフライトユニットなど貫かれ、墜落してゆく。
残ったのはディン3機とディン・ハイマニューバ2機のみ。
まさに、一瞬の内の壊滅であった。

「・・・戦意のないものは引け!! 来るものは・・・・確実に落とす! 」

全周波回線で通信を送るメイズの声にザフト兵たちは怖気づき、そしてカルラは驚愕した。

「て・・・・てめぇ、メイズゥゥゥ!!!!! 生きて・・・裏切りやがったのかァァァ!! 」

安堵と共に、底知れぬ怒りの火がカルラの中で沸々と湧き上がる。
そして、下がろうとするディンの群れに対して、ファーブニルの地上運用試作型ドラグーン≪ヘイズルーン≫の6つの結晶体から威嚇の光線が放たれる。

「・・・下がるなら、私が討つ。・・・そして、裏切り者、メイズ・アルヴィース。あなたも、私の『敵』よ!! 続きなさい! ディン部隊! 」
「うおぉぉぉぉ!!! メイズゥゥゥ!!!! 」

漆黒の悪魔と、水晶の化身がディンの群れを引き連れながらマステマに襲い掛かる。
カルラのツヴァイは、手当たり次第に≪ファントムコロイド≫に斬りつけ、残りの幻をセフィは≪ヘイズルーン≫で的確に射撃する。

ディン達は、≪タスラマード≫で援護をしようとするガルゥを囲み重突撃銃を四方八方から乱射した。
ドライの翼を持つさすがのガルゥ・ビューティフルも全方位を5機ものディンに囲まれてはその陣の中から容易に出る事が出来ず、≪タスラマード≫も逆に自らの脱出口をふさぐ形となるだけで当たらない。

そして、

ガキィィィ!!!

カルラの右腕の硬質メタルブレードがついにマステマの本体を捉えた。
右の≪ジェミナルトリニティス≫で防ぐマステマに、カルラは叫ぶ。

「てめぇ!!! ブリフォーといい、てめぇといい・・・・どうして!!! オレが・・・いや、エリスがどんな気持ちで戦ったかわかってんのかぁぁぁ!!! 」

普段らしからぬカルラの悲痛な叫びが、迷い人・メイズの胸を貫く。
しかし、マステマは左の≪ジェミナルトリニティス≫についた重刎腕斧≪アンフィスバエナ≫をツヴァイに向けて振りかざす。
ツヴァイも左の硬質ブレードで受けとめ、また空に大きな火花が散る。

「・・・確かに、オレは裏切り者だ。もう、ザフトだけを信じて生きてはいけない。・・・だが、ブリフォー達は違う!・・・あいつらは、必ずおまえ達のところへ戻る! この戦いが終わればな!! 」
「うるせぇぇぇ!!!! 」

カルラのツヴァイはそのまま右足で蹴りを放ち、マステマを弾き飛ばす。
そして、距離をとりその最強の武器を構える。

「・・・なら、テメェはオレが・・・オレの手で殺す!!! 覚悟しやがれ!! 」
「・・・カルラ。」

290ミリ高エネルギー砲≪エデン≫にエネルギーが充填され始める。
そして、メイズもその砲から放たれるビームに備えるべく≪ジェミナルトリニティス≫の特殊兵装を≪ファントムコロイド≫から≪ゲシュマイディッヒパンツァー≫に切り替える。

「せめて、オレの前から跡形もなく消えうせろ、メイズゥゥ!!! 」

楽園の光が空を走る。

「アレ・・・! メイズ、それは避けて!!! 」
「! 」

フルーシェの言葉に一瞬体が反応し、マステマは右に体を避け、左の≪ジェミナルトリニティス≫でそのビームを偏光させ左後方に受け流す事に切り替える。

ゴォォォ!!!!

その光はほとんど偏光される事なく、マステマの左の≪ジェミナルトリニティス≫を左腕ごと難なく破壊し、空の彼方へ消えていった。
≪ゲシュマイディッヒパンツァー≫がなければ、確実に左半身が持っていかれていただろう。

「・・・なんて威力の兵器を・・・。カルラ。」
「メイズ!! テメェも裏切りの道を選んだんなら、それなりにかかってきな!! テメェの人生をかけてな!!! オレが、受けて立ってやる!! 」

まるで、メイズの決意と迷いを察しているかのようにカルラは吼え、挑発した。
メイズもそれに答える決意をする。

「・・・行くぞ、カルラ!! 」
「こい!!! 」

カルラとメイズはそれぞれの特殊鋼刃を構え、お互いの元へ駆けた。
しかし、結晶体のユニット≪ヘイズルーン≫からの無数の多方向からのビームがマステマの行く手を遮り、その動きを鈍らせる。

「カルラ、今よ! 落としてしまいなさい!! 」


「くぅ!! メイズを援護しなきゃ・・・・このディンを振りほどかないと!! 」

一定の距離を保ったまま陣形を乱さずに取り囲む、ディンの群れの攻撃を受け続けるガルゥ。
しかし、なんとフルーシェはその陣の中で小回りを利かせて高速で飛翔し、重突撃銃の嵐を華麗にかわしていた。
そして、何を思い立ったのか、一機のディン目掛けて一直線に飛ぶ。
ディンは焦らずにそのまま距離を保とうと高速後退し、残りのディンも陣形を崩さず追行する。
しかし!

「うわあああ!! 」
「ぐあ! ちぃ!! 邪魔をするな!! ザコどもがぁ!! 」

動きの鈍るマステマに迫るツヴァイにそのディンは激突し、なんと興奮するカルラに斬り落とされた。

「オーウェン隊員! 仲間に手をかけるなんて!! 」
「バカヤロウ!! 今のオレを邪魔するヤツは斬り捨てられても文句は言わせね・・・! テメェら、後ろだ、逃げろ! ・・・」
「遅いですわ! 」

カルラにいきり立つディン部隊の隙をつき、高速で空を走るガルゥ・ビューティフルの硬質メタルウィングが2機のディンを斬り捨てる。
そして、残るディンをヒートロッドで捕獲してディン・ハイマニューバに投げつけて衝突させ、そのまま2機ごと中央の口のビームライフルで撃ちぬいた。
フルーシェの猛攻はとどまらず、足を止めたツヴァイの元にも≪タスラマード≫の光の雨が降り注ぐ。
たまらずツヴァイはその空域を抜け、マステマとガルゥとの距離をとる。

「ちぃ!! やってくれやがるな、このブス犬がぁぁぁ!!! 」
「! また、あのバケモノビームですの!? 」

再び≪エデン≫をガルゥ・ビューティフルに構えるツヴァイ。
しかし、放たれる直前にマステマのフレスベルグの蛇が迫り、それを阻止する。

「・・・お前の相手はオレだ、カルラ!! 」
「・・私もいるわ・・・! 」

メイズとフルーシェがカルラの≪エデン≫を警戒し、意識をそちらにそらした隙をセフィは逃さなかった。
高速で空を舞う水晶の化身ファーブニルの必殺の爪、ヒートフィンガー≪ノーアトゥーン≫がマステマの右の≪ジェミナルトリニティス≫に突き刺さる。

先ほどの≪ヘイズルーン≫の攻撃で、ビームがマステマには聞かないことを悟り、直接攻撃に出たのだった。
そして、6基の≪ヘイズルーン≫でガルゥを撃ち、牽制する。

「く・・・右の『ジェミナルトリニティス』まで、破壊されるわけにはいかない・・・!! 」

マステマは即座に≪ノーアトゥーン≫が突き刺さり煙を上げ始める右の大盾を自分の方に向けるようにし、そのままファーブニルの真正面にフレスベルグを発射した。
紙一重でそれをかわし、距離をとるファーブニル。

「大丈夫ですの!? メイズ! 」
「・・ああ。問題ない、まだこの大盾も使えるようだ。」

「ちぃ、邪魔するなよ、セフィ! ・・・危ねーだろうが。」
「あなたこそ、もっとしっかり狙いなさい。でないとその『エデン』、宝の持ち腐れだわ。・・私とあなたで連携を組みましょう。隙あらば撃ちなさい、カルラ。」
「・・・フン、そうだな。本気で見せてやろうか。オレ達、高速戦闘用MSの真髄を! 」

解放軍の2機とオーラルの2機は互いに駆け寄り、再びにらみ合う。
実力は五分と五分。
しかし、パワーアップしたツヴァイと、地上型ドラグーンを使うファーブニルの性能は驚異的であり、一瞬で戦局を覆すほどの力を持っている。

「毎度の事ですけど、強いですわね。」
「・・・ああ。だが、こちらにも奥の手がある。・・・マステマの第3の特殊兵装が。」
「クロウリーおじい様の発明ね。期待、できますの? 」
「ああ、だがカルラの強力なビーム同様、チャージするために隙ができる。・・・その上1、2発が限度だ。・・が、あたれば・・・・それで終わる! 」
「まあ、素敵ですわ。でしたら、わたくしが何とか隙を作りますわ。・・・では、いきますわよ!! 」

ガルゥ・ビューティフルの特攻を合図に、4機のMSが再び空で激突した。



「く・・・なんてヤツなんだ! あいつは!! 」

ヴィグリードから少し離れた大地に立つジン・カスタムのリースの口調には、いつもの笑いは微塵も浮かんでいなかった。
側にはガルムのシグー・カスタム、マックスのジークフリートが肩で息を切らしながら構えている。
そして、3人の目が捉えている光景は、無残極まりないものだった。

無数のバクゥと地中型グーンの残骸。
その半分以上は彼らが撃ったものではなかった。

その脅威の犯人は伝説の魔法馬を模した8本の足で彼らの目前に悠然と立っていた。
まるで、蟻でも見下すかのように。
それは、オーズ・ベルダンディーのMS、フィーア・ヘルモーズ。
その下半身のレッグユニット≪スレイプニル≫は、地上戦に特化したものであるが、その巨体に似つかわずバクゥをはるかに超える機動力とパワーを持ち、その足に付随する超重量蹄によって放たれる蹴りは大地を砕き、そして仲間であるはずのオーラルの陸戦型MSと地中型MSをことごとく粉砕した。

リースたちはそれを何とかかわし、隙を見て攻撃を仕掛けようとするが、尾につくビームウィップが周囲をなぎ払い、それをことごとく阻止する。
そして、パワーアップしたビームジャベリン型ビーム砲≪ニブルヘイム≫で的確に狙撃してくる。

隙を複数種類の装備で補うその戦いぶりは、まさに狂鬼と化したオーズの真骨頂の戦法だった。

「ひゃっはっはっはっは!!! もう、最高!! 私の周りにいるものは全て獲物よ! 私の欲望を満たすために消えなさい!! 」
「勝手な事ばかり言いやがって! そうやって、あの時のヴィグリードも焼いたのか!テメェは!! 」

ガルムの叫びにオーズは笑いながら答える。

「ええ! そうよ!! だって、仕方がないじゃない? ・・・・・退屈だったんだから。」
「な・・・んだと! 」
「おまえぇぇぇぇぇ!!! そんな事で・・・・先生を・・・親父とお袋をぉぉぉ!!!! 」

シグー・カスタムとジン・カスタムが烈火の如き咆哮を上げ、フィーア・ヘルモーズに迫る。その手に構えるは、重斬刀、そしてバルスス改・特火重粒子砲。

「・・・な〜に? そんな闇雲な攻撃で・・・・なめんじゃないよぉ!!! 」

シグー・カスタムの振り下ろす怒りの重斬刀は前足の超重量蹄に右肘ごと蹴り上げられ、さらに胸部にも超重量蹄の蹴りが叩き込まれる。
そして、ビームウィップがその左足に巻きつき、そのままバルスス改・特火重粒子砲を構えるジン・カスタムに投げつける。その際、シグーの左足は無残にももげた。

「ぐわああああ!!! 」
「うわああ!! 」

激しく衝突する2機に、発射直前だったジンの特火重粒子砲が暴発爆散し、さらに追い討ちをかけた。

「死になさい。ザコは!! 」

覆いかぶさるようにして倒れるジンとシグーのレジスタンス製カスタム機に、無情にもビームジャベリン型ビーム砲≪ニブルヘイム≫が放たれた!!

ビュィィィ・・・・! バシュ!!

しかし、その光線は2機に被弾することなくはじかれた。

「2人とも!! 落ち着け! ・・・気持ちは分かるが、そんなことでは勝てるものも勝てないぞ!! 」
「・・マックス、す、すまない。」
「マックス兄ちゃん・・・これは!? 」
「なんなの!? あの紫の新型・・・・・アルテミスの傘!? 」

モノフェーズ光波シールド≪アルミューレ・リュミエール≫の光が、2機の前に立ちふさがるジークフリートに展開され、フィーア・ヘルモーズの攻撃を防ぐ。

「・・・オーズと言ったな。覚えているか。オレは5年前貴様を撃った戦闘機のパイロットだ。」
「!!! なんですって!! あの時の、『黒い風』をしとめ損ねた原因の・・・・。」

マックスの言葉にオーズも驚き、そして逆上する。

「あの時の屈辱、忘れた日はなかったわよ!! そう、あんたが・・・。絶対、殺すわ! 今すぐに!!! 」
「・・・奇遇だな。オレも、忘れた日はないさ。・・・本当に守りたかった者を守れなかったあの日の事をな! 今日こそ、決着をつける!! 」

マックスの言葉に、2人も闘志を燃やし立ち上がる。

「そうさ、オレもそのために、もう二度とあんな悲しい事を起こさない為にレジスタンスに入ったんだ!! 笑って暮らせる世界を築くために!! 」
「・・・そうだな。貴様を討っても、妹は帰らない。しかし、同じ過ちを平気で繰り返す人間を野放しには出来ない!! レジスタンスの名において、貴様を討つ! 」
「いくぞ! リース、ガルム! 援護を頼む! 」

≪アルミューレ・リュミエール≫の光が2つに収束され、左腕に小型のモノフェーズ光波シールドが、右手に全てを切り裂く収束光波ブレード≪バルムンク≫が形成される。
この世で一番大切だった人が大好きだった「ニーベルンゲンの指輪」の勇者・ジークフリート。
今、その紫の勇者が聖剣バルムンクを手にして悲劇の元凶を絶つべく、駆ける。
リースのジンもフィーア・ヘルモーズの周囲を走りながら重突撃銃を乱射し、ガルムのシグーも片膝をつきながら右腕の重突撃銃とシールド内臓のバルカンを乱打しながらジークフリートを援護した。

「なるほどねぇぇぇ!! あんた達、あの時の生き残りってワケね。・・・だったらなおさら生かしちゃおかないわ!! 生き証人なんていらないのよ!! 」

フィーア・ヘルモーズの≪スレイプニル≫の8本の足が唸りを上げ、ジークフリートに駆ける。

そして、激突!

ヴィグリードの悲劇の決着がどのような形でつく事になるのか。
さらなる悲劇か、それとも・・・。
どちらにせよ3対1の最終決戦が幕を開けた。



「ゴッドフリート、バリアント、全門、てぇ!! 」

ライルの号令の下、真紅の力天使ヴァーチューから見慣れた光線がスローンに迫る。

「ユガ、回避!! 」
「はい!! 」

慣れない操作も、レヴィンほどではないものの既に完全にこなし、ユガの駆るスローンは済んでのところでヴァーチューからの砲撃をかわした。

「何故かは知らないけど、スローンの同型艦とやり合うとは思わなかったわね。」

マナの言葉にクルー達も頷く。

「艦長! 敵機接近! 数7・・・ディンです! 」
「7もいるの!!? ・・・ブリフォーさん、聞こえますか? お願いします! 」
「了解だ、サユ! ・・・接近中のディンに告ぐ! こちらは・・・」
『裏切り者、ブリフォー・バールゼフォン! 覚悟しろ!! 』

ブリフォーが退避勧告と状況説明をするより早く、ディン数機からの罵声のような通信が届く。

「おい、待て! 話を聞け!! 」
「問答無用! 『座天使』ごと、沈め!!! 」

7機のディンはフォーメーションを組み、対空散弾銃や重突撃銃、6連装多目的ミサイルランチャーを一斉にザナドゥに放つ。
その背後にはスローンが控えていた。

「ミサイル接近! 」
「ブリフォー、離れなさい!『イフリート』を撃ちます! 」
「必要ないぜ、艦長さん・・・・。人の話を聞かない様な礼儀知らずには、仲間でも仕置きが必要だ・・・! 」

蒼き魔王、ザナドゥは自らその激しい弾雨に突っ込み身を挺してスローンへの被弾を防いだ。
そう、PS装甲により実弾系の攻撃は、蒼き魔王の前では涼風も同然であった。
そして、そのまま翼を広げて加速し、両腕の手甲型ビーム砲内臓ヒートクロー≪リュウジン≫のクローとビームを次々にディンのフライトユニットに叩き込み、全機の空中戦闘能力のみを奪って不時着させた。

「ほう、あれが『ボアズの蒼竜』の駆る魔王か。随分と、お優しい竜だな。ククク。・・目標! 『蒼竜』越しに『座天使』! ・・・・『ワルキューレ』充填!! 」

ヴァーチューの主砲が輝き始め、その連合軍究極の兵器といえる陽電子砲のエネルギーが充填される。

「! 敵艦、主砲充填中。ということは・・・・『ワルキューレ』です!!! 」

シュンの報告に、マナとサユははっとなった。

「ユガ!! 急速下降!! 回避して!! 」
「了解!しっかりつかまっててください!! 」

「逃がすか、座天使! 小型陽電子砲『ワルキューレ』、てぇ!! 」

低空へと下降するスローンに、スローン級戦艦最大の兵器の光線が迫る。

ゴォォォン!!!

「右減に被弾! ・・・損傷は、軽微! 掠っただけです! 」
「くそ、オーラルの艦か!? ・・・オレが行って話をつけてくる!! 砲撃はするなよ! 」

ザナドゥはヴァーチューの元に駆ける。

「ブリフォー!今は戦闘中よ!! ・・・もう! 」

マナ達は照準を上空のヴァーチューに合わせたまま、仕方なく待機した。


「な、なんなの!! この新型は!! 」

一方、パワァはペルセポネ率いるジン・アサルトシュラウド部隊に襲撃されていた。
いや、しかし既にその空にある機影は、ペルセポネのピンクのジンを入れても、たった3。

武装の上では最強クラスを誇るジン・アサルトシュラウドだったが、舞台が悪かった。
ここは、天空。
そう、すなわち天使の住まう場所。
飛び交う2体の天使の華麗な連携攻撃は、グゥルに頼るジンでは捉える事などもっての他で、できる事はただその美しい機影の協奏曲に見とれるだけ。

「もう、やめてください! こちらの艦は武装すらないのですよ。これ以上やると言うならあなた達も落とします! 」

メリリムの駆るイカロスは、背部にもつ巨大な天使翼型リフターユニット≪フォーリングエンジェル≫を分離させ、さらに機体そのものも両肩の天使翼型のウイングと、腰背部の尾翼型ウィングを左右に開いて、後日ザフトで開発されるカオスのような強襲形態≪アイオーン≫となって多彩な2重飛行を展開していた。

高速で空を舞う≪フォーリングエンジェル≫はフェザー型炸裂弾機銃≪ニードルフェザー≫を乱射して敵機の動きを威嚇、牽制し、≪アイオーン≫となったイカロスはその隙をついてビームランス≪ロンギヌス≫で確実にジン・アサルトシュラウドの武装やグゥルのみを斬り壊した。

これが、ドクター・オセに一生ナチュラルには困難な操縦性と言わしめた機体の力であった。
あたかも2機のMAとなって連携攻撃を仕掛けるこのMSは画期的ではあるが、それは即ち、パイロットが2重の操作を自らこなさなくてはならないという事である。
恐らく、ガンバレルやドラグーン適性を持っているものにしか扱えないと思われるほどに高度な操縦技術が必要なこのイカロスを、メリリムは初戦闘で見事に乗りこなしていた。

MSに乗る事でその真価を発揮してきた心優しき少女の『2機』は、ペルセポネ達に最後通告をしながら空を舞う。

「・・・確かに、分は悪いわね。でもね! 」

なんとペルセポネのジン・アサルトシュラウドが乗っていたグゥルを飛び降り、空中に飛び出した。
そして、両足からバーニアが火を噴き空中を舞う。

「わたしもね、『ミコト』の副産物、もらってるのよね。・・・初めて使うから、優しくしてね? 」

アマテラスの攻防兵装システム≪トクサノカンダカラ≫の一つ、脚部装着型空中飛行ユニット≪ハチノヒレ≫を応用した試作型レッグフライトアーマーが火を噴き、超重量のピンクのジン・アサルトシュラウドがイカロスに迫る。
そして、その後を2機の同型MSが続いた。

「・・・分かりました。残念です! 」

メリリムの駆る2機の天使が3機のジンの周囲を舞う。
しかし、

「気をつけるのは、本体の槍だけよ! 『天使の翼』ちゃんの羽の被弾は覚悟なさい! アサルトシュラウドなら、耐えられるわ!! 」
「「了解! 」」

言葉どおり、≪フォーリングエンジェル≫の放つ≪ニードルフェザー≫の弾幕に3機は突っ込んだ。
しかし、その威力は見かけ以上のものであった。
先端が鋭い鋲になっているフェザー型炸裂弾は装甲に突き刺さり爆発するため、装甲の傷ついた箇所を広げ破壊を拡大するというものであった。

次々と連射される羽の嵐によって、3機のジンの自慢の装甲は次々に破砕され、2機はグゥルごと爆発して落下した。
試作型レッグフライトアーマーによっていち早くその弾幕から抜け出したペルセポネのジンも、すでにアサルトシュラウドとは言えない通常装甲のジンであった。
しかし、それで充分であった。

狙いは、パワァなのだから。

「し、しまった!! フィリスさん! 逃げて!! 」
「ンフ、ごめんなさいね。弱いものいじめも、戦術の内なのよ? 」

ビームサーベルを構えるピンクのジンがパワァを貫こうと迫る。

「・・・そんなものは、戦術とは言いませんね。今よ、マヒル!!」
「よっしゃ!フィリス、まかせな!」

フィリスとマヒルが不敵な笑みをこぼすと、パワァの正面から突如2門の砲頭が出現した。
メリリムがよく見ると、それは見覚えのある兵器であった。

「『グラシャラボラス』、てぇ!! 」
「喰らいやがれ、オーラル!!」

蒼き魔王から拝借した2門の試作型レールガンが火を噴き、ジンの右足と頭部を見事に撃ち抜いた。

「きゃあああああああああ!!! 」

片足のみのバーニアでは飛行もままならず、回転するようにペルセポネのジンは落下してゆく。
それをポカンと見つめるメリリムに、フィリスは言った。

「ごめんなさいね、黙ってて。でも、強力な武装が一門もないまま戦場に出るほど、私は勇敢じゃないの。マヒルに昨日急ピッチでつけてもらったわ。その代わり、彼の蒼いヤツには2門しかないけど・・・。」

奥の手は、隠し持つものだ。
使ってしまったからには既に奥の手とは言えないが、一夜限りの突貫工事にしては上出来であるとフィリスは思った。
メリリムも敵ながら感心させられる。

「さあ、メリィ、マヒル。スローンの加勢に行くわよ!まだ『グラシャラボラス』も2、3発は撃てるしね。」
「はい、了解です。」
「この調子であたしが潰してやるよ! オーラルなんか! 」

北欧の地で繰り広げられる乱戦は、これからが本番であった。

〜第25章へ続く〜


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