〜第22章 それぞれの想い〜
その夜は、満月だった。
全員が話をするわけでもなく、黙々とMSの整備などをこなしている。
そこは、先日オーラルのカルラとセフィに攻撃され半壊したレジスタンスベースのMSドックであった。
改修はまだ7割程度であったが、何とか作られたスペースの中に所狭しと6体のMSが並べられていた。
ちなみにリースのバクゥは分解されて改修パーツとして使われているようであった。
スサノオの整備をあらかた終えたコウは外に出て、その金色に輝く月を見上げていた。
「・・・ディノ・・・。お前は何をしたい! くそっ!!! 」
今日起きた昼間の出来事を思い返し、コウはレジスタンスベースの岩壁に拳を放つ。
そう、事件はあの後起こった。
「そうか、お前は世界を見るために旅に出たって事か。クールだね、ユガ坊。」
「レ、レヴィンさん! ユガ『坊』っていうのやめて下さいよ! ・・マックスさんも言うんだよなあ。ヤになっちゃうよ。」
地球軍北欧基地の廊下を歩いていたのはレヴィンとユガであった。
ユガは15歳という若さでありながら、メイズたちとここまで来る際の輸送船の操縦を引き受けていた。
そこで、ユガは砂漠での戦いを切り抜けた歴戦の操舵手であるレヴィンに操艦のコツみたいなものを聞こうとして話しかけたのであった。
「コツ、ねぇ。そうだな。クールに事を行う事だな。それと、女性を大事にする事。」
「え? どういうことです??操縦と何か関係が?? 」
「ははっ、ユガ坊にはまだ分かんねぇかな。・・・要はコツなんてねぇって事さ。実戦を積んでうまくなるしかねぇ。・・・・・うまくなれない時は、死ぬときさ。」
「・・・う〜ん、重いですね。」
「参考にならなかったか? はははっ、まぁ、頑張れや。」
考え込むユガの肩をレヴィンはバンバン叩いた。
この辺はさすが弟子というべきか、バルバトスにそっくりであった。
ちょうど、その時である。
「な! ・・・何をするんですかぁ!! あなたは! 」
「! これは、ナターシャの声・・・!? 」
「あ、レヴィンさん、待って!! 」
レヴィンたちはその声のする方に走って行った。
「・・・う〜ん、君が黙ってくれないからどうやら人が来るようだよ。どうしてくれるんだい? 」
「あなた! ・・・何しにこんな所へ。・・それに・・・・・ううっ。」
突然奪われた唇の事を思い返し、ナターシャは瞳を潤ませた。
そして、突き当たりの廊下からレヴィン達が駆けつけようとしたその時だった。
「ナターシャ! どうした! 何が・・・。」
パン!
乾いた銃声がその廊下に響き渡る。
「レ、レ、レ、レヴィンさん!! 」
ユガの叫び声がする方で、ナターシャが目にしたものは・・・。
右肩を銃で撃ち抜かれ、倒れるレヴィンの姿であった。
それでも、左手に銃を持ち直し脂汗を垂らしながら構えている。
その銃口の先には、白い髪の少年が右手に持った銃をナターシャの頭につきつけながら立っていた。
「せっかちだな、君も。今、彼女と取り込み中なんだからノックくらいしてくれないとね。無粋な輩には弾丸、と決めているんだよ、ボクは。」
「・・・へっ。な、何が・・・無粋だ。てめぇ・・・何者だ。れ、連合の作業服なんて・・着やがって。」
「死にゆく君に答える義理はないな。そこの水色のヤツと一緒に消えてくれたまえ。」
ディノの冷たい言葉がその場の空気を重くする。
ディノはおもむろに懐からもう一丁拳銃を取り出し、左手でレヴィン達の方を狙った。
「・・さようなら、無粋なヤツ。」
ディノの指が引き金を引こうとするのをナターシャの言葉が止めた。
「待って! やめて! あなたの目的は知らないけど、私なら一緒についてゆくから!! その二人を殺さないで!! 」
「ほう、一緒に来てくれるのかい。約束するね? 」
「・・・はい。」
「ナ、ナターシャ!! よせ・・・。」
パン!
「があああああ!! 」
2発目の銃弾が、レヴィンの左足を貫通する。
「止めてって言ってるでしょう!? 」
「フン、力もないくせにああやって必死になるヤツがボクは嫌いでね。まあ、いいさ。君が来てくれるのなら、あんなゴミには用はない。行こう。」
「・・・・レヴィンさん、ユガくん。私、この人についていきます。だから、もうじっとしてて下さい。お願いです。」
「ナ、ター・・・シャ」
「ナターシャちゃん。」
そう言うと、ディノはナターシャを後ろ手に縛り、二人を嘲るように笑ってその場を 後にした。
「レ、レヴィンさん! 大丈夫ですかぁ!? 」
「く、くそ!!! ユ、ユガ!! オレの・・・・事よりも、ナターシャを! 誰かに、・・・・知らせてくれ!! 」
「は、は、は、は、はい!! フルーシェも呼んできますから! レヴィンさんはそこにいてください!! 」
ユガは上着を破ってレヴィンの肩と足の付け根を縛って簡単な止血をしてから、MSドックに駆けた。
「ちっく・・・・しょう!! オレは・・・・・・女一人守れねぇのか・・!!! 」
出血で、混濁する意識の中、レヴィンは自分を責め続けた。
「! なんだと!! ナターシャが!? 本当か!! ユガ!! 」
「お願いです、マックスさん。ナターシャちゃんを助けて・・・。」
「ここに乗り込んできたなら、帰るには艦かMSが必要だ! ・・・出る! 」
聞くや否や、マックスは紫のジンの元へと駆けた。
ユガもフルーシェや衛生兵を探して駆けた。
マックスは即座に愛機に乗り込み、起動させる。
「おい! 出撃命令はでていないぞ!! そこのジン!! 」
「敵だ! オレが出る! 」
困惑する整備兵を気にも止めず、マックスのジンはユガの開けたシャッターから外へと飛び出した。
「あの〜、なんかあったんですか? マックス兄ちゃん出て行ったけど? 」
リースは近くにいた整備兵に聞いた。
「俺が聞きたいよ。いきなり敵がいるとか言って出て行ったんだ。敵が接近してきたら基地のレーダーがとらえるっての。これだから、傭兵は・・・。」
「・・・マックス兄ちゃん? 」
「さて、それじゃあ行こうか。お姫様? 」
「・・・・・。」
ツクヨミのコクピットの中で後ろ手に縛られたナターシャはうつむいたまま何も言わなかった。
「でも、その前に用件を伝えてこないとね。君を連れて行く意味がなくなってしまう。・・・・少し、派手にやるかな? 」
「! ・・・な、何をする気ですか!!? 」
「な〜に、少々この基地を壊滅させて、ドクター・オセに条件を突きつけるだけさ。・・・今日まで何度も交渉したんだよ? この前の襲撃の時には今日のように忍び込んで、直接会ったりもしてさ。」
「や、やめてくださ・・・むぐぅ・・・い、いや!! 」
食いつくナターシャの頬をディノは左手で乱暴につかんだ。
ナターシャは、またさっきのような事をされるのではと思い、とっさに身を引く。
「フン、乱暴に扱われたくなければ、じっとしててくれるかい? 」
「〜〜〜!!!あなたは、最低です!」
「・・そうだよ。ボクは最低の人間だ。・・・・・・いや、『最低』・・・・かな。」
その時だった。
ツクヨミのコクピットにアラームが鳴り響く。
外を見るとそこには鮮やかな紫に彩色された一機のジンがこちらを睨むようにして立っていた。
そして、マックスは全周波回線で通信を送る。
「そこのMSのパイロット! 貴様が誰でも関係ない・・・・ナターシャを返してもらおう! 」
「! マックスさん!」
「・・・やれやれ、よく見つけたねぇ。レーダー、熱源反応の全てを遮断する完全ステルス機能をもつ装甲、この『シンゲツ』も目視されちゃあイチコロだ。さっきちょっと騒ぎすぎたかな。・・・・ま、用件を伝える手間が省けたよ・・・! 」
金色に妖しく輝くその3機目のミコトは背部に付属する2本の11.14メートル級シャムシール型重力刀≪ミカヅキ≫を両手に構え、紫のジンへと突っ込んだ。
「ジン如きが、ボクのツクヨミを相手にしようなんて一世紀早いよ・・!! 」
2 本の黄金の≪ミカヅキ≫が淡い紫の光を放ちはじめる。
「・・壊れろ! ゴミめ!! 」
唸りを上げる≪ミカヅキ≫が上方と下方の2つの軌道でジンに迫る。
それに対してマックスのジンはシールドも持っておらず。受ける事が出来るものは重斬刀のみ。
「くっ、これで・・・どうだ!! 」
ジンはバーニアを全開にふかし、下方から迫り来るツクヨミの右手の刃に向かって突進した。
すんでのところでジンの体当たりはツクヨミの右手の手首あたりにヒットし、左肩で その刃を受けつつも≪ミカヅキ≫の斬撃を最小限に食い止めた。
そして、右の振り下ろされる刃を重斬刀で真正面から受ける。
ギィィィィン!!
「へぇ! なかなかやるね、このジンのパイロット。見たところ性能は普通のジンみたいだけど、面白いよ。でもね・・・! この『ミカヅキ』ただの特殊鋼刃じゃあないよ!!月の力に、苦しむがいい!! 」
≪ミカヅキ≫が唸りを上げ、その刀身に紫の光が走る。
その刀身に展開されたのは、局所的な小型重力場。
メキメキメキ!
「ぐあああああ!!!! 」
接触した刃はその重量を増し、マックスのジンを軋ませる。
徐々にその威力を増し、ジンの左肩と重斬刀を徐々に粉砕し始めた。
「そうはさせるかよ!! 」
その時、ツクヨミの背部から一機のバクゥが口部分にビームサーベルを輝かせ、斬りかかってきた。
「くっ・・・ザコが増えたか・・・・! 」
「あれは・・・リースお兄ちゃん!? 」
レジスタンスの勇、リースのバクゥのビームサーベルをツクヨミは済んでの所でかわした。
「・・・リースか!? 」
「マックス兄ちゃん! 状況を教えて! 」
「敵機は不明! だが、中にナターシャがいる! 声を聞いて確認済みだ!! 」
「!! 了解、絶対にがさねぇぞ、この金色!! 」
2本の光の刃を携えた月の神に、2機のMSが立ちはだかる。
大切な、ナターシャを取り戻すために。
「フン、ゴミでもあんまり増えてもらうと面倒なんだよね。・・・そうなるとボク一人でこの基地全滅させなくちゃならないからさ・・・! 」
やろうと思えば簡単にできるといわんばかりのディノの声にナターシャは戦慄を覚えた。
そして、ディノがコクピットにある一つのスイッチに手を伸ばす。
「特別に君たちに見せてあげよう。・・・・・月の神の作り出す、『月食』の闇を・・・!!! 」
ヴュゥゥゥゥ・・・・・・・・・・・ゥゥゥン。
その瞬間、マックスとリースは闇に包まれた。
「なんだ!? 何も見えなくなった!? カメラの故障か!? こんな時に!! くそ、サブカメラを・・・・こっちも・・・だと!? 」
「何も見えない!! ・・・・マックス兄ちゃん! 聞こえるか!! おい! ・・・・通信も出来ない? ・・・・はっ! 計器に反応が全くない!? なんだよこれ!!! 」
闇に包まれたコクピットの中で2機のMSはその動きを止めていた。
いや、動く事は動くがカメラアイ、通信、レーダーなどの索敵に必要な機能が全てダウンしていたのだった。
「あははははははは!! どうかな、戦闘情報ジャミングシステム『ツキノミチカケ』の闇の世界は? さあ、無様に悶えるがいい! この月読(ツクヨミ)の世界でね!! 」
2本の11.14メートル級シャムシール型重力刀≪ミカヅキ≫が再び大きな唸りと輝きを上げ、盲目のジンとバクゥに迫る。
バガァァァ!!!
バクゥの首が縦にまっすぐに斬り壊され、圧壊させるような斬撃によって背部のレールガンも小規模な爆発を起こす。
続いてジンの両腕がコクピットをかろうじて避けながら胸部ごと横一文字に斬り壊された。
「ぐああああああ!!!! 」
「ああああああ!!! 」
なす術もなく、何がおきたのかすらも把握できないまま、マックスとリースの体を大きな衝撃が襲う。
そして、火花を上げる2機のMSにツクヨミは無情にも≪ミカヅキ≫の湾曲した刃先をまっすぐに構える。
その刃先にいるのは、マックスとリース。
即ち、コクピットであった。
「・・・串刺しとなって・・・はじけるがいい!! 」
重力を纏った≪ミカヅキ≫が2人の命を奪わんと突き刺されようとしたその時であった。
ナターシャが起き上がり、ディノに体当たりを仕掛けてその動きを止めた。
「!!! 邪魔をするな!! ナターシャ・メディール!! 」
「やめてください! お願いですから!! 私ならあなたについて行くし、何でもします。だから2人と・・・基地のヒトたちを殺さないで!! 」
とどめの邪魔をされて怒りをあらわにするディノはナターシャにこう吐き捨てた。
「何でもするというなら、キミからボクに嫌がっていたキスでもしてもらおうか!? 出来るというのか! ナターシャ・メディー・・・!! 」
ナターシャはディノの膝の上に身を乗り出して彼の唇に自分のそれを重ねた。
その体は小刻みに震え、後ろ手に縛られた両手は硬く握り締められていた。
「これで・・・・いいんですかぁ。」
ディノを睨みつけるナターシャの瞳からは大粒の涙が後から後からあふれて頬を伝い、ディノの膝にぽたぽたと落ちた。
ディノは目をそらし、つぶやいた。
「・・・まさか、本当にするとは。・・・・・興醒めだ。」
ナターシャを膝の上から軽く突き飛ばし、ディノはツクヨミでジンを殴り飛ばして踏みつけた。
そして、接触して直接通信を送った。
「・・・ジンのパイロットに告ぐ。一度しか言わないからよく聞きたまえ。ボクはザフト特務隊所属、ディノ・クシナダだ。ナターシャ・メディールを返して欲しかったら2つの条件を飲んでもらいたい。」
「な・・なんだと・・。」
「一つはアクタイオン・インダストリーのクロウリー・オセの引渡し。そして、もう一つはそちらの地球軍、レジスタンスの所有するMS全機を出撃させてボク達と戦う事。さっきドックを見させてもらったから確認済みだよ。・・・キミのジンとバクゥはいいや。・・・面倒だからね、オーラルと地球軍北欧基地及びレジスタンスのくだらない戦いに決着をつけよう。場所は・・・・オーラルの占拠した街・ヴィグリード。」
「な・・・ヴィグリード・・・だと!? 」
「そうだ。君達が、ボクらに勝ったらこのヴィグリードは解放しよう。でも、ボク達が勝ったら北欧基地およびレジスタンスベースは無条件降伏をしてもらう。・・・もっとも、無条件降伏しなくてもいいけどね。その時はどちらにせよ消すだけだから。
そうだ、安心しなよ。ナターシャ・メディールにはもう何もしないさ。ドクター・オセが条件を飲んでくれるための大事な客人だからね。戦闘が終了し次第解放する。・・・・明日の朝、10時に待ってるよ?」
そういうと、ツクヨミは2機の満身創痍の盲目MSを嘲るようにして空の彼方へと消えていった。
「ま、待て!! ナターシャ!! ・・・・また、オレは・・・くそぉぉぉぉぉぉ!!!! 」
マックスはコクピットに拳を叩きつけながら叫んだ。
「マックスさん! リース! 大丈夫ですか!! 」
コウのスサノオは一足遅く、駆けつけたときには全てが終わっていた。
戦闘が終わるまで、皆駆けつける事が出来なかった。
戦闘があることに気付くまでにかなりの時間を要したという事もあるが、戦闘情報ジャミングシステム≪ツキノミチカケ≫によって基地や基地内のMSや戦闘機のモニター及びレーダー等がジャミングされていたからである。
ただ一人、コウだけがコクピットを開いたままでなんとか駆けつけたのである。
状況は全く知らなかったが、奇妙な感覚がコウの頭に走ったためであった。
それが何なのかはコウにも分からなかったが、胸騒ぎを覚えてとっさにスサノオで飛び出したのである。
バクゥとジンは中破した状態であった。
特にジンの損傷は酷く、いつエンジンに誘爆してもおかしくない程の状態であった。
マックスもリースもパイロットスーツを着ていなかったために頭部を軽く打ち出血していた。
しかし、それ以上に2人の表情はナターシャを救えず、ツクヨミに手も足も出なかった悔しさにあふれていた。
「そうか・・・。ワシにヴィグリードへ来い、とな。」
地球軍北欧基地の作戦会議室のひとつには、ドクター・オセをはじめとして第49独立特命部隊のクルー達、レジスタンス、連合に雇われていた傭兵、そして北欧基地を統括するダグが集まり、マックスとリースから話を聞いていた。
2人とも用意されたソファにもたれるようにしてかけている。
「まったく! 冗談じゃない! ドクター・オセの引渡しにMSの全機出撃、無条件降伏だと!! 人質一人で、そんなばかげた条件飲めるとでも思っているのか!! 」
「なんだと!! 元はといえば、この基地の索敵ミスじゃないか!! 誰のせいでこんな事になったと思ってやがんだよ!! てめぇ!! 」
怪我をしたリースがダグにものすごい剣幕で食いつこうとするのをドクター・オセが止めた。
「やめんか! 『リスぽん』! ありゃ、仕方ない事じゃ! ・・・・ツクヨミの能力じゃからな。そんな事はどうでもいい。ダグ。ワシは行くぞ。」
「勝手な事は困る! 我らにも我らの立場というものが・・・。」
「先ほどワシはアクタイオンに辞表を出してきた。・・・・ということは、今後何をしようとワシの自由じゃな? 」
本当は郵送で本社に送りつけたので、受領は当分先の事であるのだがその事は告げずにドクター・オセは続けた。
「それと、ある男が連絡を取りたがっているんじゃ。ホレ、『マナマナ』。つなげてくれんか? 」
『マナマナ』とよばれたマナは、苦笑いを浮かべながらも作戦会議室に備えれられていた通信装置の電源をいれた。
モニターに映されたその男は一心不乱に足の指の爪を切っていた。
『・・お! すまん、すまん。やっと、つながったかぃ! 待ったぜぇ!! 30分はよぉ!! 』
「「ザ、ザガン先生!? 」」
「バルバトスおじ様!? 」
『おう! 久しぶりだな、サユ、シュン、フルーシェ。それに皆の集。』
皆意外な人物からの通信に驚いた。
「バルバトスさん・・・・い、いやザガン大佐! この非常時に連絡事項とは一体なんだね!! 」
『んん? ダグ、聞いてねぇみたいだな。』
「? 」
そういうとバルバトスはオホンと咳払いをして言った。
『本日付で、オレは准将に昇格が決まった。大出世よぉ! うらやましいかぃ?ウォールダン『大佐』? 』
「!! な、・・・そんな事を言うためにわざわざ連絡したというわけではないでしょうな!!」
興奮するダグにバルバトスは苦笑しながら言った。
『そんなことでいちいち連絡をよこすかよ! 本題は、次だ。もう一つ辞令があってな。本日付けで地球軍北欧基地の統括はオレが行う事となった! 』
「な・・・!!! 」
『ダグ、おまえさんは統括補佐だ。よかったじゃねぇか。面倒事は全部オレのせいにできんだからよぉ! 』
ダグは力なくうなだれた。
そして、バルバトスはモニター越しにその場にいる全員に話しかける。
『話は、クロウリーじいさんから聞いた。オレは身の回りをかたずけなきゃならんからそっちにはまだ行けないが、お前達第49独立特命部隊及び新型GAT-Xシリーズ輸送護衛の傭兵3名に指令を下す! 明朝08:00、全MSを搭載してスローンと傭兵に支給してある輸送船にてヴィグリードへ向かえ。そこで、2つ提案があるんだが・・レジスタンスの人間はいるかぃ? 』
バルバトスの質問にその場にいたフィリスとリースが返事を返した。
「レジスタンス所属、フィリス・エンバースです。私がお聞きしましょう。ザガン准将。」
『そうか。単刀直入に言う。相手の条件にもあった様に今回は君達に協力を要請したい。見返りはMSの修理費程度しか特に支払えんのだが・・・・。』
「いえ、元々私たちの当面の目的はヴィグリードの解放ですし、それを第49独立特命部隊の皆さんに協力していただく事になっておりました。よって、依存はありません。協力させていただきます。いいわね、リース。」
「当然さ。ナターシャをあのままにしておく気はない! 」
『ありがとう。・・・では、2つ目の提案だが・・・ああ、これはじいさんから話してもらうかな。』
そういうと話を振られたドクター・オセが話をし始めた。
「今、この基地にあるMSは、実はけっこうあるんじゃよ。」
スローンの スサノオ ガルゥ
元青服の捕虜の ドライ・シュヴーア ザナドゥ
リースの壊れたバクゥ
マックスの壊れたジン
メイズがテストパイロットを務める マステマ
そして、
「実は、後2体ある。」
「! ドクター・オセ!! それは・・・。」
『ダグ! オレが許可している!口を挟むな!! 』
「バ、バルバトス・・・准将! ・・・く。」
バルバトスがダグを黙らせ、ドクター・オセは続けた。
「1つは、GAT-X387 イカロス。
大西洋連邦受注のMSで、マステマと同時期に開発されたものじゃ。変形機構の備わるX-300系のフレームをもっておって、機構もそうじゃが、操縦も非常に難解複雑じゃ。ちなみに、後2体同時期に大西洋で開発されたものがパナマにあるがの。」
「・・・・イカロス。」
メイズがつぶやく。
「もう1機は、ユーラシア連邦が独自に開発したMS、ハイペリオンの3号機じゃ。」
「ハイペリオン? 」
「そうじゃ、ワシも製作にかかわっとっての。1号機と2号機はユーラシア連邦の所有する宇宙要塞アルテミスに既に送ったのじゃが、これだけち〜っと遅れとってな。」
遅れた理由は、ドクター・オセの勝手な作業のせいであった。
さすがに3機も同じ機体が並んでいるとドクター・オセは飽きてしまったようで、3号機の武装の一部をドクター・オセが改修していたのである。
本来、運用テストなどを兼ねて早急にアルテミスに送らなければならなかったのだが、パイロットが不足していた事と、より強力なMSになるのならという事でユーラシア連邦も放任していた。
「で、これに乗れるものがこの基地にはおらんのじゃが、使わんわけにはいかんじゃろ? 」
「オレが乗る! 」
そう言ったのはリースだった。
しかし、
「残念じゃが、リスぽん。お前さんには無理じゃ。マステマもそうじゃが、イカロスもハイペリオンもその操縦は実に困難じゃ。まだまだナチュラル対応のOSには遠い。ハイペリオンなら・・・あるいは乗れるかもしれんが、その性能を使いこなせはせんじゃろう。」
そのドクター・オセの言葉にリースは歯軋りして悔しがった。
ナチュラルとコーディネイターの壁をその場にいた皆が感じた。
そこに、マックスが発言した。
「・・・ならオレが乗るしかないでしょう。」
「言うと思っとったよ。マッくん。お前さんなら乗りこなせるじゃろうな。ハイペリオンの方を使うがいい。それと・・・イカロスの方じゃが、これは訓練を受けた専門のMSパイロットじゃないと一日では使えるようにはならんと思う。そこでな。」
一息おいてからドクター・オセは言った。
「スローンにおるというザフトの捕虜2名にも手伝ってもらうのはどうじゃ。あいにく、ドライなんたら言うやつは、フルーシェのガルゥの改造パーツとして使ってバラしてしもうたが、あの蒼いのはカッチョよかったから両手足も直して完璧に仕上げておる。」
「・・・ブリフォーとメリィに、ザナドゥとイカロスに乗ってオーラルと戦えというのか!! 」
全員が驚く中、いきり立ったのはメイズであった。
「メズメズ。気持ちは分かる。じゃが、ち〜っと彼らをつれて来とくれ。そして話そう。」
コウに連れられてきたブリフォーとメリリムはその話を聞いて驚いた。
「ふざけるな! オレ達は腐ってもザフト地上侵攻特務隊の隊員だ! そんな協力などできるか! 」
ブリフォーの言葉にドクター・オセは条件を出した。
「お前さんらは、スローンとメズメズ達の輸送艦の護衛だけしてくれればよい。要は艦が危なくなったらち〜っと出て敵を説得してくれりゃいいんじゃ。正々堂々とMS同士で戦え〜との? それに、やってくれたらザナドゥも返すし、ついでにイカロスもやる。さらに、そのまま解放する、というのでどうじゃ? 」
『おいおい、じいさん。そりゃいくらなんでも・・・。』
「ええんじゃよ、バル。どうせあのイカロスはOSをいじってもナチュラルでは一生乗りこなせんじゃろう。だって、ワシが無理じゃもん。連合には必要のないものじゃ。それよりも未来を見据えて戦う若者に託した方がええ! ・・・それに、ブリフォーとメリリムといったかの。戦う立場が変わる事で見えてくるものもあると思うがの? 」
少し考えた後に、メリリムが口を開いた。
「分かりました。引き受けましょう。」
「おい! メリィ!! 」
ブリフォーが止めようとするがメリリムは言葉を続ける。
「そのかわり、メイズも帰してください! 私たちと一緒に。・・・彼が乗ってるというMSは、別にいりませんから! 」
「フォッフォッフォ、そりゃワシじゃなくてメズメズ本人に聞いてくれんとな。ワシらの強制でここにいるのではないと聞いとるでの。・・・とりあえず、契約成立かな? 」
ブリフォーが意を決したかのように口を開いた。
「ちっ・・・わかった。いいだろう。ザナドゥとそちらの新型の受領兼我々の解放。そして、その条件として母艦となる艦が襲われそうになったときのみ手を貸す。これでいいんだな! 約束は、守れよ。」
「そうじゃ。よろしく頼むよ。『ブリブリ』、『メリィ』。」
「・・・ブ・・・・・。」
ブリフォー、メリリムは絶句した。
そして、メイズが心配そうに2人を見つめていた。
こんな事があって、一行は決戦に備えてヴィグリードの街に近いレジスタンスベースへと移動していたのであった。
月を見上げるコウにフルーシェが話しかける。
「キレイな満月ですのね。」
「ああ、そうだね。・・・レヴィンさんの方は、どう? 」
「幸い弾丸もキレイに貫通してましたから、処置もそれほどではありませんでしたわ。でも、まだ熱が酷いので今は解熱鎮痛剤を飲ませて眠らせています。」
「・・・・そう。」
コウはドクター・オセから聞いた自分達の出生の秘密を思い出した。
『ハーフコーディネイター』のコウと『スーパーコーディネイター』のフルーシェ。
そのどちらもが、完全な能無しの失敗作。
その話を切り出すべきか迷うコウの表情を見たフルーシェは、別のことを察して話しかけた。
「ナターシャの事は、コウが気に病む事はありませんわ。例え、相手が弟さんだからといって。」
「! ・・ディノが・・・あいつが何をしようとしているのか。オレにもわからない。一体何を・・・・。」
「それより、あなたは体をお休めなさい。隠してるようですけど分かってますのよ。」
「! 」
フルーシェの一言にコウははっとなった。
「やっぱり、医者なんだね、フルーシェは。」
「当然ですわ。・・・で、症状はどうなんですの? 」
「いや、以前と比べればそれほどたいした事じゃないよ。最近、急に偏頭痛が酷くなる事がある。本当に酷いときには意識を失いそうなときも・・・あるよ。」
完成したとはいえ、MIHASHIRAシステムは確実にパイロットの命を削る悪魔のシステムである。
そして、なるべく使わないように戦っているにしてもコウの体はあきらかにその悪魔のシステムに蝕まれていた。
「・・・そうですの。と〜ってもよく効くわたくし特製の『ビュ〜ティホ〜頭痛薬』をお渡ししますわ。明日にでもスローンの医務室に取りにおいでなさい。それと、今日はもうお休みなさい。・・・明日のためにも。」
「ああ。・・・・・・ありがとう。フルーシェ。」
あの事はまた今度話そう。
コウはそう思いながらその場を後にした。
「ブリフォー! 本気なのか!! 」
ザナドゥの整備をしているブリフォーにメイズが珍しく興奮しながら言った。
「・・・・そういうことになったんだから、仕方ないだろ? 」
「だが、お前らは例え解放されてもザフトと交戦した後になるんだぞ!? 」
「オレはもう一度カルラとやってるんだ。・・・手土産の1つでもなきゃ、どちらにせよ戻れんさ。」
そういって、ブリフォーはザナドゥの隣に並ぶその白い装甲とエメラルドグリーンの翼を持つ新型に目を向けた。
GAT-X387 イカロス。
戦闘終了後、この機体はブリフォー達がザフトに持って帰るという約束になっている。
そのコクピットは開きっぱなしになっており、中にはライトグリーンの髪をした少女が必死になってその複雑らしい操作マニュアルを読みふけっていた。
その後で、OSの調整などもこなさなければならない。
「それより、お前はどうするんだ? 」
「・・・・・オレは、戻る気はない。すまない。」
「別にそれは構わないさ。だが、メリィとお前を戦わせるような事だけは、出来ればオレもしたくない。・・・・・どちらにせよ、お前がメリィと話してケリをつけろよ。」
「・・・・・・ああ、そうだな。すまん、ブリフォー。」
二人の目はイカロスのコクピットを見つめていた。
「ほお! また、派手な色に塗り替えたもんだなぁ! 」
マックスに話しかけたのは意外にもこのレジスタンスの総司令官であるガルムであった。
彼らのその側には、真っ白な機体を鮮やかな紫に塗り替えられたハイペリオン3号機の姿があった。
その機体名称も、マックスの希望で変えられることとなった。
CAT1-X3/3 ジークフリート。
彼の気まぐれが生み出した偽名の一つであり、ゼクファーナの理想のナイトの名であり、そして今度こそ守るべき少女を守るという誓いの勇者の名であった。
「ジークフリートか。北欧神話『ニーベルンゲンの指輪』の英雄の名、だな。」
「あんたは? 」
「ああ、そうだったな。オレはガルムだ。このレジスタンスの総司令官をやっている。お前さんのことは、リースから聞いているよ。」
マックスがみたその傷だらけの顔の男の瞳は、妙に懐かしい輝きを秘めているように思えた。
その様子に気付いたのか、ガルムが口を開く。
「ああ、この傷か。これは、ヴィグリードの悲劇の時にやられたものさ。」
「! ・・・あんたもあの時、おそこに!? 」
「ああ。なんとかオレはこの程度ですんでな。・・・だが、年の少し離れた妹を失くした。」
「・・・・・。」
マックスは黙って聞いた。
「器量のいいやつでなあ。結婚したらいい嫁になれたろうに・・・・。オレは隣町に住み込みで働いていてな、間に合わなかった。・・・・それでも、リースを助けられただけでもよかったとは思うんだがな。」
「そうか、あんたがリースを。・・・オレがいうのも変な話だが、ありがとう。」
2人は微笑しあった。
「マックスっていったか。あんた偽名だろう? 」
「! 」
「はは、やっぱりな。自分の名前をMSにつけるにしちゃ、あんたは控えめだ。大事な名なんだろうな、きっと。実はオレも偽名でな。だから、なんとなくわかったんだよ。『ガルム』という名は妹の好きだった『北欧神話』からとってる。・・・オレの本名は、語呂が悪いんでな。」
「・・・・・・あんた、もしかして。」
マックスの言おうとした言葉にガルムは言葉をかぶせた。
「どちらにせよ、オレもあんたも、このヴィグリードにはケリつけねぇとな。・・・教えてやる。オレの掴んだ情報だと、あの当時のMSに乗っていたやつは今もまだオーラルにいる。名は、オーズ・ベルダンディー。フィリスから聞いたが、あんたたちを北欧基地で襲ったっていう蛇みたいなMSさ。」
「な・・・・・なんだと! 」
「ヤツは今度もかならず出てくるだろう。恐らく、UFOや蛇なんかより強力な、『最強のレッグユニット』をつけてな。・・・・・・。」
そういってガルムはその場を後にした。
「・・・ナターシャ、ゼクファーナ・・・。オレは、今度こそ・・・! 」
マックスは自分の新しい愛機を見上げ、決意を新たにした。
〜第23章に続く〜
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