〜第2章 ミコトという名のガンダム〜

 

 雲ひとつない快晴の空。

 輝く太陽の金色とどこまでも続く海と空の青い世界に、映る影があった。

 その数は天に3つ、いや海中にも1つ。

「・・・今回の一番の任務は、ターゲットの発見とその回収だ。わかってるんだろうな、カルラ。」

 

 青とエメラルドグリーンに彩られた専用のシグーのコクピットから、ザフト地上侵攻特務隊隊長、ブリフォー・バールゼフォンは後続を飛ぶ漆黒のMSのパイロット、カルラ・オーウェンに念を押した。

 

「わかってるよ、隊長さんよぉ。一体オレを何だと思ってんだよ。」

「・・・破壊狂のトラブルメーカー・・・・・だと思ってるんだろうな・・・。」

 

 カルラの質問に赤紫のディン・ハイマニューバを駆るメイズ・アルヴィースはさらりと答えた。

 

「メイズ!てめぇ・・・・。」

「・・・真実だろう?」

「よさないか、2人とも!!任務中だぞ。」

 

 いつもながらのまとまりのかけらも感じさせないやり取りに、ブリフォーはため息をついた。


「とにかくカルラ、お前はその新型のMS『ツヴァイ』の性能テストも兼ねているんだ。暴れるな、とはいわん。が、戦場ではオレの命令を必ず優先させろ。『青服』になりないんならな・・・!」

「へいへい、了解しましたよ、隊長殿。」

 

 青服―――――。

 ザフトには階級のようなものは存在しない。それゆえ、指揮官クラスの者や、士官学校で優秀な成績を修めた者には特別な色を持った軍服が支給される。

 それが、通称『赤服』や『白服』などである。

 青服とはつい2ヶ月ほど前に新設された『ザフト地上侵攻特務隊』に与えられる軍服であり、地上侵攻のために特別に独立した任務行動が許可されている。

 いわば、地上常勤のザフト兵にとってそれはエリートの証であり、あこがれである。

 結成して間もないため、現在青服には3名のみが所属しており、今回の任務の結果次第ではカルラも昇格という事になっていた。

 

 しかし、カルラは別に青服になりたかったわけではなかった。今回の任務に志願したのはこの新型MSのテストパイロットになる事が目的だったのである。


『なにが青服だ。偉そうにほざいたところで、所詮は地球に堕ちた負け犬さ。オレに必要なのは力だ。誰も抗えないような、大きな力・・。そう、あいつを殺すために・・・!今回の任務で結果を出してこのツヴァイは必ずオレがいただく!』

「ブリフォー。そろそろ、東アジア共和国の領海に入るわ。」

 3人目の青服、エリス・アリオーシュの駆る海中を高速で移動していたゾノが、海上にオレンジ色に彩色された頭部を出しながら通信を入れる。

「・・了解。全機これより後散開し、各自奇襲攻撃をかける!オレとメイズ、カルラの3人は敵軍を陽動しながら中央デッキで建造中のマスドライバーを叩く!その隙にエリスはグーン部隊と合流。海中から侵入しターゲットを確保しろ!みんな、ぬかるなよ!ザフトのために!」

「・・・・ザフトのために。」

「ザフトのために!」

「・・ザフトのために、ね・・。ケッ。」

 4機の悪魔は散開し、まだ未完成の海上都市へと魔の手が迫る。

 

 

 

「そうか、お父さんが『コペルニクスの悲劇』で・・・。」

「うん・・・。父さんは月基地勤務の連合軍の士官だったんだけどその日はSPとして会場の警備にあたっていたんだ。」

 第8海底コロニーGフロアの休憩所の一角で、シュンの悲痛な過去にコウとリトは目を曇らせた。

「犯人がプラントの人間なのか、ブルーコスモスなのかは今でもはっきりしないらしいけど、このままじゃいけないって、思ったんだよ。こんな戦争があるからいけないんだって。」

「それで、軍属になったんですか?」

 

 リトの問いかけにシュンは静かにうなずいた。

「僕はは、昔から気が弱くてこういうのは苦手な方だったけど、今ではやりがいを感じてるんだ。それより、コウはやっぱり宇宙建築やってるんだね、すごいなあ。」

「ああ、まあここには親の七光りで来させてもらったんだけどね。」

「ホント、ぜ〜んぜんすごくないんですよぉ。今日だってわかんない事だらけでクシナダ先生に聞きにきたんだから!」

「リ、リト〜。まぁ、ホントの事なんだけどさ。勉強中ってとこかな。ハハ。」

 懐かしい友との再会と楽しい話に心が緩む3人。

 ちょうどそのときだった。

 

ドォォォン!!!!!!

 

 轟音とともに、大きな振動がコロニーを包む。

 同時にけたたましい非常サイレンの音が工区内に鳴り響く。

 

「な、なんだ。いったい何が!!?」

 動揺するコウとリトをよそに、シュンはあたりを駆け回る士官の一人を捕まえる。

「一体どうしたんですか!?」

「敵襲だよ!なんでだか知らんが、ザフトが攻めてきたらしい!」

「!!!!!」

 絶句する3人。

「一体なんで・・くそっ・・コウ!第8ドックの向こう側に避難シェルターがある!リトちゃんを連れてそこまで行って!!」

「わ、わかった!お前は?」

「僕は第3ドックのラジエル隊長の所へ!」

「そうか、気をつけろよ!!」

 手を挙げながら足早にかけてゆくシュンを尻目に、コウはリトの手を握りシェルターの場所へ駆け出した。

「ま、待って!コウ!お、お父さんは!!」

 ザフトの攻撃ですっかりパニックになってしまったリトはその場から動こうとしなかった。

「リト!今は避難するのが先だ!行こう!」

「でも、お父さんが、お父さんが・・・。」

 言葉をさえぎるように、コウはリトの体を優しく抱き寄せた。

「大丈夫。アーキオ大佐もきっと安全なところにいっているよ。うちの親父ほっといて前線なんかに出るわけがないじゃないか。ね、オレ達も行こう?」

「・・・・・・・ん。わかった。・・・・ありがとう、コウ。」

  2人は混乱する工区の中を走り出した。

 辿り着いたシェルターも収容人員にはかなりの余裕があり、無事入る事ができた。

 小刻みに揺れる振動を感じ、避難した人たちの顔には不安の色が浮かぶ。

 父の無事を祈るように手を合わせて小さく震えるリトの肩に、コウは手を回し目で励ます。

 その瞬間、また脳裏に妙な違和感が走った。

『まただ。一体何なんだ?これは・・・・・呼んでる?・・・』

 

 

 

「所詮ナチュラルなんて、浅はかなものね。」

 先行していたグーン部隊と合流したエリスは、第2、4コロニーの防水防圧外壁を部分的に破壊しながら単機で第8コロニーの軍用潜水艦着艇ハッチをあけて内部に侵入する事に成功していた。

 この作戦でもっともキーとなる役目を買って出たエリスは震える自分の体を両腕で抱きしめた。

「・・・見ててよ、ミゲル。必ず成功させるから。」

 

 

 

 リトは泣いていた。

 というよりは、極度の不安と恐怖からとめどなく涙がでてどうしても止まらなかった。

「リト・・・。」

 それを見ていたコウは、突然立ち上がりシェルターのハッチを開けはじめた。

「コ、コウ!!?何してるのよ!!?どこ行くの!?」

「アーキオ大佐と親父の様子を見てくる!大丈夫すぐ戻るから!!あ、ここ閉めといてください!!」

「コオォ!!!!」 

 近くにいる作業員にハッチの閉鎖を頼み、リトの止めるまもなくコウは走っていった。

「これは酷いな。改修にまた時間がかかる。」

 ところどころ崩れている工区の惨状を見ながらコウは先ほど行った司令室に向かう。

「父さん!」

 ドアを開けたコウは自分の目を疑った。

 そこには血を流すケインとマクノールが横たわり、傍らには両肩に青いラインの入ったオレンジ色のパイロットスーツに身を包んだ一人のザフト兵が立っていた。

「父さん!!アーキオ大佐!!・・・どうして!!!」

 父に近寄るコウの目に銃口をこちらに向けるエリスの姿が飛び込む。

「・・・お前が、・・・お前が父さんをォォォォ!!!!!!」 

 怒りの瞳を向けられてエリスが引き金を引こうとしたその瞬間、爆発とともに部屋の天井が崩れ落ちる。
 すんでのところでかわすエリス。しかし、怒れる少年との間には大きな瓦礫の壁が出来上がる。

「とんだ時間のロスね・・・。こんなところでぐずぐずしているわけにはいかないわ。」

 エリスはその場を足早に離れた。

 

 

「・・・コウ。コウ、なのか・・・・。」

「父さん・・・。父さん!しっかりして!」

 意識を取り戻したケインの手をコウはしっかりと握った。

「・・・マクノールは・・・。」

 父の問いにコウは首を横に振った。心臓近くを銃弾が貫通し、脈は既になかった。

「そ、そうか・・・ゴホっ。」

「父さんしゃべらないで。オレが必ず助けるから。」

「いや・・・・コウ、今から言うことを・・・・・よく・・聞きなさい。このディスクをもってシャクス・ラジエルという・・・・士官のところに、・・行きなさい。」

「シャクスさんなら知ってるよ。さっき会った。」

「そ、そうか。・・・そうしたらおそらくそこに『ミコト』がある。それにこのディスクを使うようにと・・・・。」

「『ミコト』?」

GDE-01Miアマテラス・・・と・・GDE-02Miスサノオ・・・。『ミコト-シリーズ』と呼ばれる・・・フジヤマ社開発の・・・・・・モビル・スーツ・・・・。」

「モ、モビル・スーツ!?」

「頼んだぞ、コウ・・・。私は・・・お前を・・・・・・。」

「と、とう・・・さ・・・・・。」

 静寂のときが訪れる。永遠の別れの時。

 腕の中で冷たくなってゆく父を感じながら少年は涙をぬぐい、力を振り絞って立ち上がり駆けた。

 今は事情はわからなくてもよかった。ただ、父の最期の頼みを果たすためだけに駆けた。

 あの金色の船を目指して。


「スサノオの積み込み、終了しました!」

 小型輸送戦艦『スローン』の内部からマイクでナターシャが申告する。

「では、アマテラスの積み込みを急いで!!レヴィンとシュンはブリッジにて待機。いつでも発進できるようにしておきなさい!」

 てきぱきと檄を飛ばす地球軍第49独立特命部隊副隊長、マナ・サタナキアの甲高い声が工区に響いていた。

「すみません!シャクスさんはどちらですか!?」

 コウの大きな声に銃を構えるマナ。

「君は誰!?」

「フジヤマ社のコウ・クシナダといいます。父のケイン・クシナダから『ミコト』につかうディスクというものを預かってきました。・・・・父と、マクノール・アーキオ大佐は・・・・・何者かに、殺されました・・・!!」

 声を振り絞って報告したコウの姿にマナを銃口を下ろした。

「・・・ご苦労様でした。で、そのディスクはなんなの?」

「いえ、内容までは知りません。シャクスさんに渡すようにと・・・。」

「わかりました。シャクスは今ミコトの搬入を手伝っているはずだから・・・どうしようかしら・・。」

「私が、連れて行きましょうか?」

 そこに現れたのはコウの見知った人物だった。

「アイリさん!」

「話はあとよ、いいわねマナ。」

「いいでしょう。頼むわね、アイリ。」

 そういうとアイリはコウをつれてスローンのMS格納ハッチの方へと走った。

「シャクス!!ディスクが来たわよ!!」

「アイリ君!それは本当ですか?ん?君は、コウ君!?なぜここに・・・。」

 その時だった。

 隔壁の一部が砕け、一機のモビルスーツが姿を現す。

「あれは・・・ゾノですか!?こんな間近ではじめて見ました!!」

 別の意味で驚くシャクスを尻目に、ナターシャが運転する大型トレーラーに向けてオレンジのゾノは攻撃を仕掛けた。

「ナターシャ!!逃げて!!」

 アイリーンの叫び声に反応し、運転席から飛び降りるナターシャ。

 次の瞬間トレーラーが爆発し、周囲の隔壁が次々と壊れてゆき、ところどころから水漏れが起こる。

 ゾノは爆発したトレーラーの上に横たわる一機のモビルスーツの方へと近づき、ハッチを開いた。

「・・・あの、オレンジのザフト兵!!!!」

 コウの心にまた憎しみの炎がたぎる。

 察してか否か、アイリーンが声を上げる。

「このままじゃ私たちまで危ないわ!あれは今はあきらめてスローンをすぐ発進させましょう!」

「くぅ〜〜〜〜〜〜、し、し、し、仕方ありませんね!エ〜クセレントなMSなんですけどねぇ!惜しい!!!」

ナターシャを脇に抱えながらシャクスはスローンの中へと入ってゆく。

一方、エリスもアマテラスと呼ばれるMSのコクピットに侵入していた。

「ひどいOSね。こんなものでまともな戦闘などできるものじゃないわ。」

エリスは素早いキータッチでOSを書き直してゆく。

「コウ君!私たちもいくわよ!聞いてるの!?」

「・・・許さない。絶対・・・・。」

 立ち尽くしゾノを睨み付けるコウはいきなりスローンのMS格納庫に向かって全力で駆けた。

そして、同じようにトレーラーに横たわる一つの影によじ登り、コクピットを開く。

「コウ君!!何をしてるの!!!やめなさい!!」

アイリの叫びも今のコウには届かなかった。

コウはコクピットに乗り込みハッチを閉めた。

「やってやる。絶対許さない!!」

コウはおもむろに電源らしいもののスイッチを押した。

 球面上の壁が周囲の景色を映し出すスクリーンになった。

 正面下方のディスプレイが点灯し、OSらしきものの文字が浮かぶ。

 

eneral

nilateral

eurolink

ispersive

utomatic

aneuver Synthesis System -MIKOTO-

 

G・U・N・・・D・A・・・M(ガンダム)・・・・・・?」

 もちろん動かし方など微塵もわからないコウはふと父の遺品に手をのばす。

「このディスクをさせそうなところは・・・・・あった!」 

迷うことなくディスクを機体に挿入する。その瞬間ディスプレイに別の文字が浮かび始める。

MIHASHIRAシステム・・・起動?」

     ・・・・ヴィィィィーン。

 何かが作動する音とともに、コウの頭に何かが流れてくる。

「・・・・え・・・なんだ・・・わかる。わかるぞ・・・。これを・・・こうだな!」

次の瞬間そのモビルスーツの目に光がともる。

「これならやれる。あいつを・・・!!!」 

 

「ふう、OS修正完了。立ちなさい!アマテラス!!」

 エリスの意思に呼応して、アマテラスという名のMSが立ち上がった。

 その機体は各関節部分のフレームの色はライトイエローだが、装甲は奇しくもエリスの好む鮮やかなオレンジ。否、エリスにとってそれは友の敵を討つための誓いのオレンジであった。

「さて、この金ぴかちゃんにも、消えてもらおうかしら!!」

 アマテラスのイーゲルシュテルンがスローンに照準を合わせたその時。

 スローンのMSハッチからもう一機のミコトが姿を現した。

 

「なんですって?『ミコト』はもう一機いるというの!?」

「スサノオっていうのか・・・・お前だったんだな。オレを呼んでたのは・・・。」

 

 驚くエリス。そして、つぶやくコウの青い瞳の中にたぎる怒りの炎が、映りこむアマテラスの姿を焦がす
「いくぞザフト兵―――――!!!!」

 ブースターを点火させ、スサノオはアマテラスめがけて飛び込んだ。

「くっ・・・!」 

 一瞬の動揺で反応が遅れたエリスはその体当たりをまともに食らい、2機はそのままドックの隔壁を突き破ってゆく。

 この工区が水没するのも時間の問題であった。

「コウ君!!!・・・」

 MS格納庫で叫ぶアイリーンにマナからの通信の声が響く。

「アイリーン、ハッチを閉めて!出航するわ!」

「待ってマナ!コウ君が、スサノオに乗って出て行ってしまったの!!」

「な・・なんですって!!」

 

「・・・え・・コウが!!!?」

 ブリッジのCICの座席に座るシュンも、ブリッジに急ぎ駆けるシャクスやナターシャも驚いた。

 一瞬の沈黙の後、マナが決断を下した。

「アイリ!やむを得ません。一時この工区から脱出します。ハッチを閉めて!!!」

「くっ・・・了解!」

 一瞬の状況判断のミスがクルー全員の死につながる時がある事をマナもアイリーンも知っていた。

「後部ハッチ閉鎖しました。システムオールグリーン、発進準備完了ですっ。」

 ブリッジ内で士官らしき少女の愛らしい声が発進準備完了を告げた。

「よし、ラジエル艦長!!」

 マナの声にシャクスがうなずき、言葉をつなぐ。

「陸海空兼用輸送戦艦『スローン』、発進しますよぉ!!!微速潜航!!」

 座天使の名を持つ輝く黄金の輸送戦艦はその姿を海中へと溶かし込んでいった。

 

 

 

 もつれあうように隔壁を次々と突き破るスサノオとアマテラス。

「・・・くっ、ナチュラルごときが、生意気なのよぉ!!!!」

 アマテラスのブースターを点火させ、勢いを止めたエリスはすぐさま頭部イーゲルシュテルンをスサノオに一斉放火させる。

「・・そんなもの!!」

 コウは組み付いていた腕を素早く放し、イーゲルシュテルンの銃弾をことごとくかわした。

「な、なんですって!?あのOSで・・・あれに乗っているのはコーディネイターだとでもいうの!?」

 動揺しながらも背部に搭載している10基に分かれるリング状の多彩な攻防兵装システム≪トクサノカンダカラ≫の一つ、高出力ビームブレード≪ヤツカ≫を抜いた。

「どっちにしても、捕獲できないならここで破壊するわ!!」

≪ヤツカ≫を構え一直線にスサノオに飛び込むアマテラス。

「お前だけは・・・許せない!!!!」

 スサノオはその斬撃をすんでのところで後方に回避し、右掌をアマテラスに向けて構えた。

「粉々に吹き飛べぇーーーー!!!!」

 その瞬間スサノオの右掌の射出口から強烈な風が吹きすさぶ。

 風というより、それはもうすでにトルネードであった。

 一気に射出した嵐の塊は、かろうじて残っていたコロニーの構造物を破壊してそのまま、海中にアマテラスを吹き飛ばした。

「きゃあああああああああ!!!」

 突然のコロニー内部からの爆発に、海中で待機していた3機の青いグーンのパイロット達は驚いた。

「あ、あれは・・・ターゲット!?エリスさんか!?」

 その内のグーンの1機がアマテラスに近づき専用の周波数で通信を送る。

「そこのMS!所属は・・・。」

「ダヌー、私よ!一機奪う事は成功したけど、もう一機の存在を確認!今、連合の奴が乗っているわ!!」

「そうですか、了解しました。エリスさんの損傷したその機体ではこの水圧に長時間耐えられますまい。旗艦に帰投ください。ディランをつけましょう。」

「いや、大丈夫よ。たしか、スケイルユニットがあったはず。」 

 そういうとエリスはアマテラスの背部に搭載された攻防兵装システム≪トクサノカンダカラ≫から、脚部装着型水中スケイルユニット≪ヘビノヒレ≫を取り出し、両足に装着した。

「なるほど、ナチュラルとはいえなかなかの技術ですね・・・。」

 ディランの言葉に他の2人もうなずく。

「ダヌー、ノイッシュ、ディラン。ナチュラルだからと言ってあなどらないで!3人がかりで確実に仕留めなさい!かなり手ごわい奴よ!」

「『黄昏の海魔女』といわれる貴女らしくない言葉ですな。」

「『海魔女の三海魔』の名に恥じぬよう我々も勤めますよ。まあ、任せてくださいよ。」

「仕留めていいのですね?了解しました!」

 3機の海魔はそう言うとコロニーからゆっくりと姿を現した標的の元に加速する。

「!?・・・逃げるつもりか!?あのザフト兵!!!」

 スサノオのカメラアイが光り、一直線にアマテラスを追う。

 しかし、海中ではスサノオに搭載されたブースターでは思うような加速はできず、≪ヘビノヒレ≫を装着したアマテラスとの距離は離れる一方であった。

「くそっ、追いつけない!!・・・・えっ!?・・ロックされた!?」

 スサノオのコクピットにアラームが鳴り響いた次の瞬間、背部に魚雷らしきものが被弾した。 

「そらそら、どこを見ている!!」

「あなたの相手は我々がするよ。」

「急いでいます。死んでください!!」

 

 3機の海魔は見事なコンビネーションで海中を縦横無尽に駆け、スサノオの死角から的確に魚雷を打ち込んでゆく。

「くそっ・・・なんだこいつら、邪魔を・・するなぁぁぁぁぁ!!!」

 アラームが鳴り止まないコクピットの中でコウの叫び声がこだまする。

 しかし、陸戦型のMSであるスサノオにこの海の魔物達の姿を捉えることはできなかった。

「海中じゃエネルギーも作り出せない!このままでは・・・・・・・・オレは、・・・さっきから何でこいつの事がわかるんだろう・・・・。」

 コウはアマテラスを見失った事でふと自分の奇妙な感覚に気づいた。

 だが、その間にもグーンの正確無比な魚雷攻撃は続く。

「・・・地上に出さえすればいいんだろ。こうなったら、一か八か・・・!」

次の瞬間スサノオは両手を広げて大の字になった。

「!ついに観念したか!?」

「逃がしはしませんけどね!!」

止めとばかりに猛進するグーン。

「今だ!!」

 

 スサノオのカメラアイが光り、両掌から嵐の塊が噴出する。

 

「いかん!ノイッシュ、ディランこれ以上近づくな・・・!!!」

 

 

 

 その頃、リューグゥの洋上デッキでは、

 

「くくくくく、もろい、もろい!!」

 

 カルラの駆る漆黒のMSツヴァイが驚異的な速さで地球連合の戦闘機を翻弄し、両腕に展開された硬質メタルブレードで次々と撃墜していた。

「カルラ!!オレ達の目標は戦闘機と遊ぶ事が優先じゃない!建造中のマスドライバーの破壊だぞ。ったく、聞きやしない・・・。」

「・・・・・まあ、いいさ。オレとブリフォーでも十分破壊はできる・・・・。」

シグーの肩に装着された94ミリ高エネルギー収束火線ライフル≪ラドン≫2門が竜の如き咆哮をあげ、あたりを焼き尽くす。

 上空ではビームサーベルを両手に持ったディン・ハイマニューバが高速で飛来し、マスドライバーの構造体を次々に切り刻んでゆく。

 作戦は順調であった。後は、エリスからの連絡を待つのみ、と思ったそのときだった。

 

 ザバァァァーン!!!!

 

 海面から金色に輝く小型の戦艦が浮上し、なんとそのまま上空へと飛翔し始めた。

 

「な、なんだぁ?」

「・・・・・連合のMS輸送戦艦、・・・のようだな・・・。」

「間違いない、ターゲットの運用艦だ。しかし、『黄金の国ジパング』と言われた日本の企業が作ったものとはいえ、情報どおり酷い色だな。」

 特務隊の面々の様々な意味での驚きをよそに、陸海空兼用小型輸送戦艦『スローン』のクルー達(地球連合軍第49独立特命部隊の面々)は、目の前の惨状に息を飲んだ。

何機もの戦闘機が撃墜され、戦車が大破していた。

そしてマスドライバーももはや修復できないのではないかと言うくらいに損壊している。

「ひ、ひどい!・・・なんでこんな事ができるの・・・!?」

 この艦でCICMS管制を担当する事になっているサユ・ミシマは不快な気持ちを隠せなかった。

「ラジエル艦長、敵はMS3機。データ照合・・・ディンと、シグー・・・もう一機の黒いMSは・・・・ありません!」

 シュンの声に、操舵手兼砲撃手のレヴィンが続ける。

「敵機こちらを補足したみたいだぜ!?どうします?艦長殿!?」

「・・・アイリさん、申し訳ありませんが出ていただけますか。」

「この艦の護衛が任務だからね。任せときな。」

 シャクスの言葉にそう答えるや否やMSドックへ駆けるアイリーン。

「ナターシャ、私のジンは出られませんか!?」

「・・・まだ、無理です。駆動系の出力が弱すぎていくらシャクス先生でも扱えないと思われます。」

「では、至急調整します!マナさん、申し訳ありませんが艦の指示はあなたにお任せします。私はナターシャとMSドックへ!」

「了解しました。総員、第一戦闘配備!」


「ふん、名前があったとは思うが、忘れてしまった。さしあたって『リトルジパング』、とでも呼ぶか。メイズ、カルラ落とすぞ!!」

「・・・了解。」

「ククク、リトルジパングねぇ!実力も本物の黄金ならうれしいんだけどな!」 

スローンに向かって飛ぶブリフォー、メイズ、カルラの3機。

「敵機接近!」

「こちらアイリ!サユ、ハッチ開けて!!」

「了解ですっ。システムオールグリーン、フォスター機発進、どうぞっ!」

「アイリーン・フォスター、ブルーセイヴァー、出るわ!」

サユの元気な発進シークエンスの声を合図に、一機の青い剣士が血染めの空へと飛び出した。


「青い・・・モビル・スーツ!?」

「・・・あれは確か、・・傭兵部隊『カラーズ』の・・・。」

 驚くブリフォーとメイズをよそに、漆黒の悪魔が一気に加速した。

「待ってたぜぇぇぇぇ!!!モビル・スーツ相手にこいつの性能テストができるなんてよぉ!!!」

一瞬でブルーセイヴァーの目の前に迫ったツヴァイの硬質メタルブレードが閃く。

「くっ・・なんて速さ!!」

アイリーンは15.75メートル対艦刀≪シュベルトゲベールMk.2≫で済んでのところでその2本の太刀筋を受け止めた。

 しかし、カルラは機体のスピードを生かし、ヒットアンドアウェイでブルーセイヴァーをじわじわと追い詰める。

「ククク、どうした青いの?そのでかい剣は飾りかい!?」

 ツヴァイのあまりのスピードに≪シュベルトゲベールMk.2≫の斬撃は空を切り、それどころか硬質メタルブレードを受けるので精一杯であった。

「・・・ではリトルジパングは私たちで落とそうか、ブリフォー・・・?」

「ああ、初陣で撃沈とはお気の毒だがな!!」

 地球の如き青いシグーの94ミリ高エネルギー収束火線ライフル≪ラドン≫と、燃えるような赤紫のディン・ハイマニューバの6連装多目的ランチャーがスローンに襲い掛かる。

 

「副艦長、来ますぜ!」

「多目的ミサイル『イフリート』、てぇ!」

「発射された≪イフリート≫は爆炎の壁を作り、火線とミサイルの着弾をことごとく防いだ。

「こっちからもいくわよ、レヴィン!ゴッドフリート照準!!目標、MSシグー!てぇぇ!!」

「クールに喰らいな、ザフト野郎!!」

 2門の22センチ2連装エネルギー収束火線砲≪ゴッドフリート≫がブリフォーのシグーに向かって火を噴いた。

「ふん、空中ではディンよりシグーの方がトロイと考えたのかも知れんが、甘いわ!!戦艦如きで、この『ボアズの蒼竜』を落とせると思うなよ!!!」

 スローンのはなつイーゲルシュテルンやゴッドフリート等の火器はことごとく回避され、その間もシグーとディンの攻撃は続いた。

「・・・ふむ、なかなかの装甲だ。が、完全無欠の装甲など、この世にはない。」

「メイズ、お前の言う通りだ。撃ち続けりゃいずれは落ちる!!」

 メイズが分析し、ブリフォーが吼える。

「く、このままじゃ、スローンがもたないわね!いかないと・・・!」

「いかせないぜ!青いのぉ!!お前はオレに切り刻まれちまえぇぇぇ!!」

 戦況は圧倒的に不利だった。アイリは完全にカルラに抑えられ、スローンの攻撃は当たらず高速で移動する敵機の攻撃を回避するすべもない。

「ふ、副艦長!ラミネート装甲の廃熱、そろそろもちません!」

 シュンの悲痛な叫びにあせる艦内。

「シャクス!ジンはまだ、出られないの!?」

「う〜ん、相当まずそうですねぇ、マナさん。無理ですが、出るしかないかも知れませんねぇ・・!」

「ダメです、先生!こんなので出てもすぐ落とされます!」

 ナターシャの言葉がマナ達に絶望感を与えたその時。

 突如海中から巨大な水竜巻が立ち上る。

 

「ああ?今度はなんだよ!?」 

 カルラ達が目を凝らして見るその先には舞い上がる水しぶきの中、空中に打ち上げられた3機のグーンの姿があった。

「な・・・なんだと・・・グーン!?」

「・・・・・!!」

 ブリフォーとメイズも絶句する。

 もちろん、アイリーンやスローンのクルー達も。

 そして、グーンの後を追うように一機のモビルスーツが海上に飛び出した。

 竜巻発生装置≪テング≫を全開にし、巨大な海流と気流の衣をまとうその姿は、正に嵐の神・須佐之男命(すさのおのみこと)の如く荒々しい。

 ミコトの名を持つそのガンダムは太陽の光を一身に浴びて、一直線に天に駆けた。

 

〜第3章へ続く〜



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