〜第17章 遭遇〜
「おい! それは・・・本当なんだろうな!? 」
捕虜室の鉄格子を握り締めながらブルフォーが食いついてきた。
隣の部屋のメリリムも同じように鉄格子を握り締めている。
「ええ、本当ですわ。メイズという方は、わたくし達のキャンプで保護されていたようですの。今頃もう北欧に着いているんではなくって? 」
「オレ達連合の人間が言うのもなんですけど、良かったですね。ブリフォーさん、メリリムさん。」
ナターシャに変わって、フルーシェにシャワー室の電気配線を頼んだコウは、またいそいそとフルーシェのいう工具などを運びながら捕虜の二人に言った。
「よ、よかったぁ・・。メイズが・・・メイズが生きてたぁ・・・。」
その場にへたり込み、メリリムは泣き出した。
ブリフォーも心底嬉しかったのだが、本当の事なのか確認するためにあえて食いついた。
「フン、ブルーコスモスがコーディネイターを助けるなんて事、信じられるかよ! あいつら、オレ達を皆殺しにしようって連中だろう? 」
「ブ、ブリフォー・・・。」
その言葉に憤慨したのはフルーシェだった。
「な!! 失礼ですわ! たしかに他のブルーコスモスはそういう連中もいるかもしれませんが、わたくし達ピュリフィケイションはそんな横暴な真似は決していたしませんわ!! 」
「フン、だが、ブルーコスモスである事には違いないだろうが! 」
「なんですってぇ!! 」
「なんだよ! 」
フルーシェとブリフォーが、鉄格子越しに睨みあう。
遠くから見ると、恋人同士なのかと思うほどその顔は近かった。
「もう、ブリフォーさんやめてくださいよ! ほら、フルーシェも! 」
「コウ! わたくし頭にきましたわ! MSドックに参ります!! 」
「え、ちょ、ちょっとフルーシェ!! 待ってよ!! 」
「・・なんだよっ!文句あんのか!ああ!? 」
「「「!? 」」」
突然のフルーシェの男言葉にその場にいたコウ、ブリフォー、メリリムの3人は凍りつく。
「・・・いえ・・・なんでも・・ありません。」
「ふんっ!! ならいいですわ! 」
肩を怒らせて捕虜室を出て行くフルーシェにコウは何もいえなかった。
「・・・おい、コウ。あの女、いつもああなのか? 」
「・・・・い、いや、オレもはじめて見た。あんなフルーシェ・・・。」
ブリフォーとコウが互いに震える。
そして、メリリムがあきれたように言った。
「もう! 元はといえばブリフォーが余計な事を言うからですよ! 」
「い、いや、メリィ。オレは事実の確認をだな。」
「ブリフォーさん、信じてよ。メイズさんは本当に生きてるから。今はマックスって傭兵の人とユガっていうピュリフィケイションの男の子と一緒ですよ。」
「・・・信じて、いいんだな? 」
「ええ。それより、どうしてくれるんです? また、電気配線途中になっちゃったじゃないですか! 」
「・・・・・すまん。」
ブリフォーとコウのほぐれだしたやり取りに、メリリムも微笑んだ。
メイズが生きている。
このことが、二人の心の闇を少しだけ取り除いた。
「おうおうおう、よ〜やっと着いたのかね、うんうんうん。遠路はるばるよう来たね。」
地球軍北欧基地に到着したメイズ達は士官に案内され、輸送してきたMSマステマとともに地下にあるMSドックに足を運んでいた。
目の前に居るのはブロンドに白髪が半分ほど混じった一人の老人だった。
口の周りには長いひげを蓄えている。
「マックス・ジークフリートです。・・・ロシア最南西端特別補給基地のバルバトス・ザガン大佐から依頼を受け、マステマを輸送して来ました。こちらに付き次第、次の輸送があるので指示を受けるように言われています。」
「・・・メイズ・アルヴィースだ。」
「ユ、ユガ・シャクティです・・。」
ほうほう、と頷きながら2人を食い入るように見回すと、その老人は口を開いた。
「ワシは、この地球軍北欧基地でな〜んとなくMSの研究をしとるクロウリー・オセという者じゃ。ドクター・オセと、そう呼ぶが良かろう。うんうんうん。」
ドクター・オセはそういうと、くるりと背を向けておぼつかない足で歩き出した。
「おまえさん達、ち〜と、ついて来ると良かろう。うんうんうん。」
メイズ達がドクター・オセについていったその先には、輸送してきたマステマの他にもう一機のMSの姿があった。
そして、マステマの両腕には大きな盾の様なユニットが追加武装されている。
「こいつらをな、ち〜と、また運んでほしいんじゃ。うんうんうん。」
「これは? 」
「んん〜? カッチョいいじゃろう? こいつらは、近い内『ろ〜るあうと』される予定の新型GAT-Xシリーズ4体の内の2体じゃ〜。」
・・やはり、そうか。とメイズは思った。
アフリカでマステマに乗ったときに見たその型式がGAT-X279となっていたからである。
構わず、独り言のようにドクター・オセは続けた。
「X100系のブレイズとレフューズはもうどっかで出来てて、今パナマにあるそうでの。200系と300系のこいつらが、遅れとるんじゃ。複雑でのう、ワシにしかでき〜んと、大西洋連邦の奴らに泣き疲れてゆ〜っくり作っとったからの。」
「・・・ドクター・オセは大西洋連邦の士官なのですか? 」
メイズの問いにドクター・オセは笑いながら答えた。
「いやいやいや、ワシは軍人ではないでの。アクタイオン・インダストリーの者じゃ。どっちかと言えば、ユーラシア寄りじゃな。」
「じゃ、じゃあ、なんで大西洋連邦の仕事をしてるんですか? 」
「ん〜? 不思議かのぅ、『ユガっち』。」
「「「ユ、ユガっち!? 」」」
3人は突然命名されたユガのあだ名にびっくりした。
「なんじゃ? あだ名は嫌いか? 嫌いでも、ワシャ、呼ぶがね。『マッくん』に『メズメズ』、それに『ユガっち』じゃ! うんうんうん、決定。」
「「「!!!!!! 」」」
皆、何も口にする事は出来ないほどの衝撃を受けた。
特にメイズは・・・・メズメズ!? ・・・語呂すら悪い・・・。
「話を戻すがの、ええか? 」
「え・・ええ。」
「何故、大西洋の仕事をするか・・・。簡単な事じゃ。ユーラシアの技術じゃ物足りんからよ。MS技術は、まだ大西洋には程遠い。特に、あのフェイズ・シフト装甲やトランス・フェイズ装甲は素晴らしいでな。」
「・・・なるほど。依頼を受け技術を盗む、という訳か・・・。」
「まあ、そんなとこじゃ。メズメズ。」
「・・・・・・。」
ふぅ〜と一息ついてから、ドクター・オセは改めて仕事の内容を伝えた。
「ともかく、この2体をパナマまで運んでほしいんじゃ。だが、お前さんたちだけでなくこれから来る『座天使』の艦に乗って、一緒に運んでおくれ。そ〜んな感じの事をバルバトスに言われとる。それにマステマはこれで完成じゃが、まだもう一機の方は最終調整中なのでな。どっちにしろ、まあ待っとれ。」
「ここに来る『座天使』とはなんです?」
マックスの質問にメイズもユガも固唾を呑んでドクター・オセの答えを待つ。
「ん〜、・・・・・・知らん。」
「・・・・・・・。分かりました、待機します。」
マックスは仕事モードから一気に脱力させられた。
その頃、合流する予定の『座天使』の艦はというと・・・。
航行は順調であり、すでにユーラシア連邦の領空に入っていた。
あれから一時間ほどして、捕虜室にフルーシェが戻ってきた。
シャワー室の方では作業している音と声がしているのが分かる。
本当なら20分もあれば終わる作業だというのに、コウが一生懸命やっているんですわ・・・。
フルーシェは悪い事をしたと思い、その鉄格子のドアをあけてシャワー室に入った。
「・・コウ、先ほどはごめんなさいですわ。勝手に行ってしまって・・・・ええええ!!? 」
フルーシェは驚きのあまり、向かいのメリリムの部屋に激突するほどにあとずさった。
そこには、図面を睨むコウと、それを見ながら給湯調節パネルの配線をいじっている男の姿があった。
「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あなた!! そんなところで何をしていますの!? な、なんで。」
「あ、フルーシェ。来てくれたの? ちょうど良かった。結局わかんなくてさ。困ってたんだよ。」
「コウ!!! こ、これはどういう事ですの? 」
フルーシェが驚くのも無理はなかった。
作業をしていたのは、なんとブリフォーだったのである。
ということは、手錠も外されている。
「うるさい女だな。こいつがあまりにできない、できないって泣き言を言うから手伝っているんじゃないか。」
「な! 何言ってんだよ。元はといえば、ブリフォーのせいだろ。大体『オレは士官学校を首席で卒業したからこんなの簡単さ』とか言って全然繋がんないじゃないか、配線。」
「そ、それはだな、この艦の構造がだな・・・。」
フルーシェは呆然としていた。
そんなフルーシェにメリリムが話しかける。
「・・・なんだか、いつの間にか打ち解けちゃったみたいですよ。ブリフォーと彼。」
「へ? 」
フルーシェはその言葉に気を取り直してコウに言った。
「コウ! 打ち解けるなとは言いませんが、手錠を外したら危ないですわよ!! 彼はコーディネイターなんですのよ!! 」
その言葉にブリフォーはむっとする。
「お前は二言目にはコーディネイター、コーディネイターって、コーディネイターを何だと思ってるんだよ! 」
「! わ、わたくしは、」
「だいたい、お前がちゃっちゃと配線しあげてから行けばこんな事にはならなかったんだぜ?全く。」
「なんですって? それは元はといえばあなたの自業自得でしょう! 大体さっきから『お前』、『お前』って!! あなたに『お前』呼ばわりされる言われはありません事よ! 」
「なんだと! このブルーコスモス! 」
「なんですの! この宇宙人! 」
ブリフォーとフルーシェがまた顔を近づけて火花を散らす。
コウはもう疲れきり、うなだれた。
その時だった。
『全クルーに入電!本艦に接近する多数の熱源を探知! おそらく敵軍のものと思われる! 総員第一戦闘配備で対艦、対モビルスーツ戦闘用意!MSパイロットは至急ドックへ!! 』
「な、なんですの? ユーラシアの領空で敵襲? 」
「わからないけど、行かなきゃ。ブリフォー、悪いけど・・。」
「フン。そんな姑息な事して逃げようとは思わないさ。ほら。」
そういうとブリフォーは両腕を差し出し、コウは手錠をかけてブリフォーを部屋に戻して鍵を閉めた。
そして、コウとフルーシェはMSドックへと駆けた。
「・・・・エリスでしょうか。ブリフォー? 」
「いや、ユーラシア領空で戦闘を仕掛けようなんてバカな真似をする奴は青服にはいないさ。・・・・恐らく、オーラルだろうな。」
「・・・・・・・私、一人だけ、そんな青服候補生を知ってますけど。」
「・・・・・・いたな、そういえば。」
MSデッキのハッチが開きサユの声が各機に響く。
「空戦型背部換装パック『ヤクモ』、装着・・・! システムオールグリーン!クシナダ機・スサノオ発進、どうぞっ! 」
「コウ・クシナダ、スサノオ、出ます!! 」
≪ヤクモ≫が唸りをあげ、スサノオが大空へと羽ばたいた。
「メディール機・ガルゥ発進、どうぞっ! 」
「フルーシェ・メディール、ガルゥ、出かけますわ! 」
ガルゥがハッチから大空へ跳躍してスローンの甲板の上に着艦し、構える。
前足、後ろ足は治っているが、まだ、先の戦いでの損傷の修復が完璧ではなく、3つの頭部の内の中央の頭部は壊れたままであった。
そのため、今のガルゥにはフルーシェ開発のビーム砲は使えず、背部のミサイルポッドと右頭部の火炎放射、左頭部のヒートロッドのみであった。
『シュン! 敵機の数の捕捉と機種はわかるか? 』
スサノオの『ナビゲーター』・アモンがスローンのシュンに通信を送る。
「はい! 機影は8! 内3つはディン、4つはフライトタイプのジンと思われます。・・・もう一つは照合ありません! ですが・・・。」
「どうした? シュン」
コウの問いにシュンは答えた。
「・・・先日、確保したザフトの捕虜の機体と似ているみたいだ、コウ。あの、白い方と! 」
「・・・ドライだったっけ、メリリムさんの。それの新型か!? 」
『まあ、似たような黒いのもいたし、今度は何色だろうね? 楽しみだな。』
「ええ、アモンさん。行きますよ!! 」
コウのスサノオが9.98m対PS超高熱空斬剣≪ツムハノタチ≫を抜いてジンの群れに突っ込んで行く。
銃突撃銃を構える一機のジンの懐に潜り、両肩から上を一閃する。
「よし、一機! 」
『後ろだコウ! 』
「! 」
背後から重斬刀を構えて襲い掛かるジン目掛けて振り返りざまに≪ツムハノタチ≫を横薙ぎにする。
真っ二つになって爆砕するジン。
「くっ!! 」
『それでいいんだ、コウ! 戦場では油断した方が落とされる! 迷うな!! 』
「・・・はい! 次ィ!! 」
今のスサノオは、そのほとんどがコウだけの力で動いていた。
というのは、アモンの提案であった。
システムが完成し、ダブルフェイスを使えるようになったからといっても、このシステムを使い続ける限りパイロットにかかる負担は蓄積し、やがてはコウの命を奪う事になる。
それなら、極力コウの力で動かす事に勤めた方がいいだろうと考えたわけである。
そこで、アモンは今日までシミュレーションを使ってコウをパイロットとしてみっちりしごいていた。
自らがエースパイロット候補であっただけはあり、その教え方は厳しいが実践的で、コウもめきめきとその力を伸ばしていた。
ただ、心配なのはコウの性格である。
優しすぎ、そして自分の中に気持ちを抱え込みすぎるところである。
どうやら、オレンジのザフト兵の部下を手にかけてしまった事がトラウマになっているようだった。
しかし、それでも戦わなくちゃいけないし、相手を殺さずにはいられないかもしれないという事もコウは十分にわかっていた。
だからこそそれがコウの心を傷つけ、蝕んでいかないかアモンは心配だった。
そして、なるべく相手を殺したくないという心がブレーキになり、いつかコウ自身の命を危険にさらしてしまう事にならないか、そんな不安がシミュレーションだけではぬぐえなかったのである。
だから、このジン達との戦闘は、コウにとってよい実戦経験となるとアモンは考えていた。
そして、戦いを経て心も強くなってゆけるように、アモンはまさしく身も心もナビゲートするつもりであった。
コウは残りの2機の元へと駆け、こちらを狙い撃つ重突撃銃を何とかかわしながら2機の間を旋回飛翔し、上空から竜巻発生装置≪テング≫のトルネードを2機に向かってお見舞いした。
爆風によって空中で機体制御ができなくなった2機はお互いに激しく接触して爆砕した。
『よし! うまいぞ! 残るはディンかな? 』
「いえ、大丈夫みたいです。」
「ちょろちょろと! お控えなさい!! 」
ガルゥの背部ミサイルポッドが火を噴き、3機のディンに迫る。
3機は散開しそれぞれがガルゥに90ミリ対空散弾銃を構える。
その時。
「照準、敵MS! ゴッドフリート、バリアント、てぇ!! 」
「クールに落ちな! 羽ザフトども!! 」
ガルゥに気をとられていたディン達の内の一機は≪ゴッドフリート≫に、もう一機は≪バリアント≫に貫かれ、空に消えた。
「これで・・・エンドですわ!! 」
残るディンの放つ90ミリ対空散弾銃をスローンの甲板上で華麗にかわしたガルゥは、左頭部の口から特殊鋼刃鋲が先端についたヒートロッドを射出する。
ディンはそれをかわすが、ヒートロッドは生き物のように弧を描き、背部からディンを貫く。
そして、ヒートロッドを引き抜くとフライトユニットの故障したその最後のディンも落ちて行った。
「やったぁ!! やっつけたわね! 」
「へっ! サユ!オレのクールな射撃に惚れただろ? 」
サユとレヴィンが喜ぶ中、シュンの声がブリッジに響く。
「まだです!! まだ一機います!! こちらに接近してきます!! ・・・あ、あれは・・・!?」
一機だけジンやディン達の様子を見るかのように遠方を飛行していたそのMSは、既に 光学映像でも確認できる距離までスローンに接近していた。
そのモビルスーツの姿は、異様だった。
ツヴァイやドライとほぼ同じ形状の漆黒の上半身に、下半身はまるで旧世代の思い描いていたUFOのような円盤型になっている。そして、その異様な下半身の色は、純白。
「うふふふふふふ! あの数のディンとジンを短時間で簡単に落とすなんて、『テスト』合格よ! あなた達。・・・しかも、風を操るなんて面白いじゃない? まるでかわいい妖精ちゃんみたい。ああ、ひさびさのご馳走だわぁ、涎が出ちゃう・・・・。」
そのMSフィーア・ヘルモーズのコクピットに座るのは、一人の『男』であった。
男の名は、ネビロス・ベルダンディ。
ザフト北欧方面軍『オーラル』の強襲部隊の隊長を務めているエースパイロットである。
その実力は、開戦前に初めて開発されたMS一号機のテストパイロットに任命されるほどの凄腕であり、もみ消されてはいるが、『ヴィグリードの悲劇』という北欧の町が襲撃され壊滅に近い状態になった謎の事件の犯人でもある。
襲撃の理由は、壊したかったから。
それほどの力と残酷な心を持ち合わせた、『変人』であった。
「なんだ!? あの機体・・・。」
『さあな。それにしても、例のロシアの黒い奴を白い円盤に乗っけただけなんて、芸のない事はないだろうね〜。・・・来るぞ! コウ! 』
「恐らくあれが東アジアの新型なんでしょうねぇ。どちらにせよオーラルには邪魔だし・・・消えてもらいましょ! 楽しませてよね、『白い妖精ちゃん』!! 」
『4号機』フィーアの名を持つMS、フィーア・ヘルモーズの円盤型の下半身のバーニアが火を噴き、一気にスサノオに迫る。
右手にはビームジャベリンを輝かせ、左手にはアンチビームコーティングシールドを構えている。
「くっ、やはりあの系列の機体は早い!! 」
『焦るな、コウ! 今までの戦闘で、逆にオレ達は慣れているはずだ。ああいう高速戦闘を得意とするヤツの相手は!! 』
「! 」
アモンのその言葉でコウも冷静さを取り戻した。
四方から正にUFOのように飛来するフィーア・ヘルモーズの繰り出すビームジャベリンの突きをコウはすんでの所でかわし、左腕のエネルギー拡散反鏡盾≪オキツカガミ≫で後方へ受け流す。
『! ・・・コウ、お前・・・! 』
「アモンさん、大体タイミングがつかめてきましたよ! 」
その時スローンのクルー達もその光景を目撃していた。
「スサノオ、すごいわ! あの攻撃をかわしてる・・・いえ、いなしている!? 」
「こっちは相手が早すぎて援護できねえけど。コウのヤツ、クールにやりやがるな」
「レヴィン! 集中しなさい!! 隙があれば、こちらも撃ちます! ゴッドフリートは常に照準を敵MSに! 」
サユ、レヴィンが驚き、マナもその頼もしい仲間の活躍を少しでも援護しようと気合を入れる。
「う〜〜〜〜、せめてガルゥが飛べましたら援護できますのに!! コウ!! そんなUFOのバケモノ、ちゃっちゃと落としておしまいなさい!! 」
スローンの甲板の上でガルゥに乗っていたフルーシェも悔しそうにコウを応援した。
「キィィィ!! ちょこまかちょこまかと!! 生意気な『妖精』ねぇぇぇ!! さっさと串刺しになりなさいな!! 」
激昂したネビロスはフィーア・ヘルモーズのバーニアを全開にして一直線にスサノオ目掛けて飛翔した。
スサノオも≪ツムハノタチ≫を右手に構え、近づいてくる異形のMSを静かに迎え撃つ。
コウはもともと工業カレッジで古武術サークルに入っていた。
そして、今コウが取ろうとしている行動は、・・・・・・『後の先』。
『先』とは先んじて相手を打つという極意であり、『先の先』は相手の動じるより早くそれを制し、『後の先』は相手の動を見極めて制するというものである。
即ち、『後の先』とはカウンターであった。
今までもロシアの戦闘などで何回か試みているが中々うまくいった事はなかった。
それは、慣れない戦闘での焦り。
いくつかの戦闘を潜り抜け、シミュレーションをこなしてきた今のコウはかつてないほどに集中していた。
刹那!
相手のビームジャベリンがスサノオの咽喉元に突き刺さる直前にコウは操縦桿を握って体を左斜め前に倒し、すんでのところでフィーア・へルモーズの突きをかわした。
そして、一直線にフィーア・ヘルモーズに赤熱した≪ツムハノタチ≫の突きをカウンターで繰り出す。
それは正に避け様のない必殺のカウンターであった。
≪ツムハノタチ≫はフィーア・ヘルモーズの腹部を見事に貫き、その刀身を柄の部分まで突き刺した。
「よし、仕留めた! 」
『やったな!! コウ・・・・・・い、いや、離れろ!! コウ!! 』
「え? 」
次の瞬間、スサノオの両足が吹き飛んだ。
「うわぁぁぁ!! 」
機体に衝撃が走るが、≪ツムハノタチ≫を握ったまま≪ヤクモ≫のバーニアを全開にしてコウはスサノオをフィーア・ヘルモーズから遠ざけた。
距離をとり、≪ツムハノタチ≫を構えたままコウとアモンが目撃したものは・・・。
フィーア・ヘルモーズの上半身と下半身が切り離され、上半身が地上に落下してゆく。
残ったのは、純白の円盤。
そして、円盤の側面についた8つの穴から煙が上がっていた。
「く、くそ!! 本体は下半身の方だったのか!! ・・・モビルアーマー!? 」
『気をつけろ! コウ! あの円盤、高速回転しながらビームライフルを撃ってくるぞ! 下手をすれば、『オキツカガミ』でも防ぎきれない!! 』
そうなのであった。
接近したスサノオに対して、フィーア・ヘルモーズの飛行円盤型レッグユニット≪スキーズブラズニル≫は高速で回転を始め、8つの発射口から同時にビームライフルを撃ち、スサノオを足を切断するかのように破壊したのである。
その射程範囲は360度。
さすがに一つの盾では防ぎきれるものではない。
「おのれ、『妖精』! やってくれるじゃないの!! こんな屈辱!! 5年前、『黒い風』とやった時以来よ!! 」
その時。
「ゴッドフリート、てぇ!! 」
「バラバラ分解してんじゃねぇや!! クソ円盤!! 」
黄金の座天使から≪ゴッドフリート≫の光線が、怒り心頭で油断していたネビロスの ≪スキーズブラズニル≫に迫る。
ネビロスはすんでのところで回避をしたが、わずかに掠ってその部分から煙を上げた。
「こ・・・この『金色ブサイク』!!! 許さないわよ!! まずは、あんた達から落ちなさいな!! 」
完全に切れたネビロスは一直線にスローンに迫った。
「あ・・待てぇ!! 」
『コウ! 急げ!! 』
両足を失ったスサノオも≪ヤクモ≫を唸らせ、必死に後を追う。
「敵機接近! 」
「分かってます!! レヴィン、ゴッドフリート、バリアント、イフリート、イーゲルシュテルン一斉放射! てぇ!! 」
「ちぃ! オレは聖徳太子じゃないんだぜ!! やってやるけどよ、クールにな!! 」
スローンの武装が一斉に唸りをあげるが、舞うような弧を描いて飛ぶ円盤≪スキーズブラズニル≫を捉える事は出来なかった。
そして、ツヴァイやドライを撃退したイフリートの爆炎の網にも、少し距離をとってスローンの周囲を旋回する≪スキーズブラズニル≫は引っかからない。
「本物の宇宙人みたいな円盤に乗って!! お控えなさい!! 」
ガルゥの背部にある多連式ミサイルポッドから発射されたミサイルも空しく空へと消えてゆく。
「なぁに? そのブサイクな負け犬は!! 死になさいな!! 」
「させないぞ!! 円盤」
背後からもスサノオが迫るが、ネビロスはお構いなしに≪スキーズブラズニル≫を高速回転させ、360°のビームを放射する。
「くぅ!! 」
「きゃあ!! 」
コウのスサノオは≪オキツカガミ≫を正面に構えて被弾を最小限に食い止め、フルーシェのガルゥはスローンの甲板上を飛び跳ねながらかわした。
ということは・・・。
「ビーム、被弾しました!! 」
「構わないわ、まだラミネート装甲はもつはずです!! レヴィン! イーゲルシュテルン!! 」
「くらえ! クソ円盤!! 」
「あら、いい装甲じゃない? 小癪ね・・・。さっさと落ちなさい!! 」
≪スキーズブラズニル≫は高速回転を続けたまま、スローンの周囲をイフリートの壁の外側から全方位旋回し、回転ビームを連続で照射し続ける。
スローンの武装や甲板のガルゥにはもはや為す術がなく、コウのスサノオもビームを撒き散らし高速旋回するその純白の円盤に近づく事が出来ない。
「艦長!! ラミネート装甲、もう限界です!! このままでは・・・。」
シュンが言いきる前に、スローンの後部が爆発し、煙を上げる。
ものすごい振動がブリッジにいるクルー達を揺さぶった。
「シュン!! 被害状況確認!! 」
「・・・・後部第2エンジン被弾! 推力・・・このままでは落ちます!! 」
「ちぃ!! あのクソ円盤!! 」
「く・・・仕方ありません! サユ!! コウとフルーシェに通信! 本艦はこれより緊急着陸し、ランドモードにて眼下の森の中に潜行! そのまま逃げ切ります! 」
「えっ!!? あ、はい! わかりました! こちらスローン! スサノオ、ガルゥ! 応答せよ!! 」
通信を聞いたコウとアモン、フルーシェは流石に状況の危険さに息を呑む。
「了解! ・・スローンが森の中に姿を隠すまではオレが、あいつをひきつける!! ・・アモンさん! MIHASHIRAシステムの完全起動を!! 」
『仕方ないな! 了解だ・・・・行くぞ、コウ!! 』
スサノオのカメラアイが輝き一気にビームを撒き散らす円盤の真上に狙いを定めて加速する。
そうこうしている間にも、スローンはランドモードへの空中変形及び緊急着陸を試みる。
装甲は至る所から煙が上がり、かなり危険な状態であった。
『『カリフォルニアの黒い風』と宇宙建築学生のコンビの力・・・見せてやるよ!! 』
「おおおおおおおお!!!! 」
急降下するスサノオの蹴りが、円盤≪スキーズブラズニル≫の上部装甲にヒットし、真下の地面目掛けて突き落とす。
「ぐあああああ!! ・・『妖精』か・!? あいつ、急に動きが格段に良くなったわ!? どういう事!!? ・・・でも!! 」
ネビロスは体勢を立て直し、スサノオに目もくれずに傷だらけで堕天する黄金の座天使に迫る。
「あんたは後でゆっくり相手をしてあげるわ! その前に・・・この『金色』、破壊しとかなきゃ、我慢できないわぁぁぁぁ!! 」
『くそっ! あいつ、スローンを先に沈める気だ!! コウ!! 』
「何度でも行きます!! アモンさん! 今度は・・・仕留める! 」
再度スサノオは≪スキーズブラズニル≫に接近するが、さすがに2度も同じ手を食らうほど、ネビロスは甘くなかった。
スサノオが近づくたびに、360°ビームライフルの光輪がスサノオを的確に狙い、退ける。
「くそ、こうなったら被弾覚悟で・・!! 」
『く・・止むを得ないか・・・!! 』
スサノオはコクピットのある腹部の正面にエネルギー拡散反鏡盾≪オキツカガミ≫を構えて一直線に≪スキーズブラズニル≫に特攻をかける。
「ばかなコね!! 特攻したくらいで、スキーズブラズニル落とせるとお思いでないよ!! 」
スサノオノ右手が被弾して≪ツムハノタチ≫は森の中へと落ち、頭部が吹き飛ぶ。しかし・・・!
「な・・早い・・ですって!! 」
高速で迫るスサノオの体は、≪スキーズブラズニル≫に見事ぶち当たり、森の中へと吹き飛ばした。
しかし、エネルギー拡散反鏡盾≪オキツカガミ≫の鏡面は砕けてしまい、もうビームを防ぐ事は出来なかった。
『うーん、サブカメラに切り替えたけど・・・ちょっと分が悪いな。』
「・・・仕方ありません! あいつ、・・・今までのヤツよりも集中力が違う! MAとは思えないほど強いですから!! 」
「くくくくくぅ〜〜!! そんなに私と付き合いたいんなら先にあんたから仕留めてやろうかァァァァァ!! 」
スサノオの体当たりで正面のいくつかのビーム発射口は壊れたものの、ネビロスは残りの発射口を使い、スサノオの息の根を止めようと飛翔する。
その時!
周囲から無数のミサイルの雨が≪スキーズブラズニル≫に迫る。
「お控えなさい! UFOのバケモノ!! 」
密林の降り立ったデザートケルベロス・ガルゥからミサイルが発射される。
それだけではなかった。
別の2方向からもミサイルと機銃の雨がUFOを狙って襲い掛かる。
そして、2機のMSの機影・・・。
「あっはっは! とっとと消えな!! オーラルのUFO!! 」
森に溶け込むような迷彩色に塗られたバクゥに乗るその少年は、口元に笑みを浮かべながらミサイルポッドからミサイルを撃った。
「そうだよぉ!! テメェらの居場所なんか、この北欧にはねぇんだ!! 食らいやがれ!! 」
男顔負けの荒々しい言葉を使う少女の声と共に、恐らくカスタムされているのであろうジンの重突撃銃が火を噴く。
「え・・? 」
『友軍か・・!? 』
満身創痍のスサノオの中で驚くコウとアモン。
「ちぃぃぃ!! 北欧のゴミどもかぁぁ!!! 」
ピピピピピピピ・・・・。
ちょうどその時、ネビロスのコクピットで、何かを知らせるアラームが鳴り響く。
「くそ! お呼びのようね・・。命拾いしたわね、あんた達!! でも、覚えておきなさい!! 」
そういうとネビロスの≪スキーズブラズニル≫は大空のかなたに消えていった。
「逃げ・・・た? 」
『ふぅ〜、どうやら凌いだみたいだな・・。』
「・・・それにしても、あいつは一体・・!? 」
コウの青い瞳には、かつてない強敵の消えた広大な空を映していた。
〜第18章に続く〜
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