〜第13章 ダブルフェイス覚醒〜

「レヴィン! もっと速度は出せないの!? 」
「これでも限界ギリギリだぜ! マナ姉!! エンジンぶっ壊れそうだ!! 」
「壊れてもいいから急いで!! 」

スローンは全力で砂漠を疾走していた。
アイリーン達とザフトのMSが戦っているエリアから既に大分離れてしまっている。
敵モビルスーツのあまりの性能のすさまじさに、スローンは援護しようにもすでに足手まといでしかなかった。
あたれば必殺の小型陽電子砲もあるこの船だが、あのザナドゥとドライ・シュヴーアの前には全ての攻撃はかわされるだろうし、当たるほどの大規模な攻撃を仕掛ければ 敵機より機動力の劣る味方の3機に被弾してしまう。
それに、逆にスローンを攻撃からかばってアイリーン達を不利な状況にしかねないと考えたマナは、一縷の望みをかけてネブカドネザルへと疾走していたのである。
最後の希望、スサノオを乗せて。

「副艦長、右前方に熱源1! これは・・・・ランドグラスパーのものです!! 」
「ホント!? コウ達、無事にもどってきたんだっ!! 」
「レヴィン!! 」
「了解!! 」

スローンはその一機の砂上戦闘機の元に駆けた。
そして、ランドグラスパーから通信が入る。

『こちら、ランドグラスパー! スローン聞こえますか!? ハッチを開いてください! 緊急着艦します!! 』

ナターシャのその声にブリッジにいた全員が驚く。

「緊急着艦って、ここは砂上だぜ!? 正気か、ナターシャ。」

スローンを操縦するレヴィンが言うのも無理はない。
そんな事、できるのかどうか誰にも分からなかったからだ。
そして、シュンが問う。

「ナターシャが運転してるの!? 艦長は!? 」

その言葉には、かわりにコウが答えた。

『みんな、冷静によく聞いてくれ。シャクスさんはライフルで肩を打たれてザフトにつかまってしまった。一命は取り留めているみたいだけど・・・これからオレがスサノオであとを追う!』
「「「「!!! 」」」」

ブリッジに衝撃が走った。

「そ、そんな、シャクスさんがですかぁ!? 」
キサトが泣き声を上げ、

「シャクスさん・・どうして!!? 」
サユが叫び、

「ちぃぃぃ!! アイリ達も危ないってのに」
レヴィンがはき捨てた言葉に、コウが反応した。

「アイリさん達が危ないって、本当ですか!? 」
「・・・そうよ。ザフトの新型に押されてるの。・・・アイリ達もパイロットとしてはとても優秀よ。でも、・・・長くは持たないでしょうね。・・・こうしている今だってもしかしたら・・・。」
「ふ、副艦長!! やめてください!! 」

シュンがマナの言葉の先を止めた。

「くそ! どうしたら・・・!! 」
「・・・コウさん、アイリさんのところへ言ってください。」

そういったのはナターシャだった。

「・・・先生は恐らくあの金色か黒のMSと一緒です。逃げたのならもう追いつかないし、もしかしたらそのザフトの新型の加勢に来るかもしれません。・・今は、先生だけじゃなくここにいるみんなで生き残る事を考えるべきです。」

ランドグラスパーの後部座席からは見えなかったが、震える声で話すナターシャの瞳が銀色に潤んでいるのをコウは感じた。
その精一杯の言葉に、コウは決意する。

「サユ! ハッチ開けて! 緊急着艦した後、スサノオでアイリさんたちのところへ出る!! 」
「! 了解、ハッチ、開きます!! レヴィンさん、軌道修正お願いします。」
「やってるぜ! ナターシャ、準備はいいか、クールに決めろよ!! 」
「ハイ! ・・・・行きます!! 」

ハッチを開いたスローンと一直線になったランドグラスパーが加速する。
そして、

「えええい!! 」

ナターシャは操縦桿を引き上げ前輪を浮かせながらウィリー走行し、見事にスローンの中に着艦した。
機体を受け止める着艦衝撃を緩和するネットにつっこんだランドグラスパーのコクピットハッチが開きコウとナターシャが駆け下りる。

「コウさん! ・・・・気をつけてください。先生だけでなく、コウさんやアイリさんたちまで何かあったら・・・私・・・。」

心配するナターシャにコウは優しい笑顔で頷き、相棒の下へと駆けた。
コクピットのハッチを開きスサノオに乗り込んだコウは、その機体を起動させる。
そして・・・。

「このディスク・・・・鬼がでるか、邪が出るか。」

ディノから渡されたディスクをおもむろに挿入する。

ヴィィィィィィィン・・・・・・・

ついに、完成したMIHASHIRAシステムが起動した。
しかし、妙だ。

「聞こえない・・・。いつもは無数の声がめまぐるしく聞こえるのに。なんで・・? 」
『それはそうさ、MIHASHIRAシステムが完成したんだからな。』
「!!? 」

妙に懐かしい、聞き覚えのある声であった。
どこで聞いたのか・・・。
そう、それはあのカリフォルニアの空・・・・・。

「あなたは・・・・アモンさん!? 」

コウの問いに、その『声』は答えた。

『お、よくわかったなー。ご名答、そしてはじめまして。アモン・サタナキア、人呼んで“カリフォルニアの黒い風”その人だ! よろしくな! ナハハハハハ! 』
「え、え、一体どういう? 」
『説明は後だ! 急いでいるんだろう!? コウ・クシナダ君? 』
「! 」

アモンと名乗った『声』のその言葉に、コウはブリッジに向けて通信を入れる。

「キサト! 『ヤクモ』は使えるのか!? 」
「うん! もうほとんどナターシャちゃんとフルーシェちゃんが直しちゃってたけど、私とロウが昨日徹夜して仕上げといたから、バッチリよ!! 」
「よし、サユ! 『ヤクモ』装着!! 」
「了解っ! ・・・空戦型背部換装パック『ヤクモ』、装着・・・! コウ・・みんなをお願いね!! システムオールグリーン、クシナダ機発進、どうぞっ!! 」

いつも以上に集中した青い瞳のその少年は、叫んだ。

「コウ・クシナダ、スサノオ、出ます!! 」

空戦型背部換装パック『ヤクモ』が唸りをあげて、新たな力を得た荒ぶる風の神は大空を走る。

「間に合ってくれよ!! 」
『・・・そうだな、間に合わせよう!! 何、オレとお前が力をあわせれば、そんな事・・・・・・簡単さ! 』

アモンがそういった瞬間、コウの体に力がみなぎる。
この感覚は!?

キィィィィィ・・・・ン!

アモンの黒い瞳と同じ色をした一粒の大いなる種が、コウの真っ青な瞳の中に弾けた。
スサノオのカメラアイが輝き、一気に加速する。
それは、まさに空を裂き、音を越えるほどの神速。

『先に言っとくが、コウ! これやるとスサノオもお前も泣くわ吐くわで大変になるからな! 覚悟しとけよ! 』

SEEDの力を借り受けた今のコウにはそれも無用の心配であった。

「・・・大丈夫です、アモンさん。行きますよ!! 」

一筋の光が空のかなたへ流れていった。



「・・・く・・・ここまで、かしらね。」

右足と両腕をもがれたブルーセイヴァーのコクピットの中で、アイリーンは覚悟を決めていた。
目の前には、蒼い魔王と白と赤紫の手負いの堕天使の姿がある。

「く・・・アイリ!! お逃げなさい!! ・・くそ! どうして動かないんですの!!! こんな時に!! ・・・・ふざけんなよ、ちくしょう!! 」

ドライ・シュヴーアの高出力ビームサーベル≪シュトラーフェ≫に全ての足を破壊され、生殺しにされていたガルゥのコクピットからフルーシェが悲痛な声を上げた。

「くそ〜〜〜〜!! 8! 何とか、動かせよ!! お前なら・・・。」
『両足と右腕を切断・・・バーニアも故障・・・悔しいが私でも不可能だ! 』

言いかけるロウに8が返答をする。

「・・・ここまで粘るとは、正直敵ながら尊敬に値するとオレは思うよ。だが、これも戦争だ。・・・・・」
「・・・ブリフォー隊長! とどめは、私に!! 」

ブルーセイヴァーの前に歩み寄ったドライ・シュヴーアは高出力ビームサーベル≪シュトラーフェ≫を天高く振りかざした。
そしてアイリーンは一つだけ、心残りを口にした。

「・・・こんな事なら、言っておけばよかったな・・・。アルフ・・・・・大好きよ・・・。」

無情にも、メリリムは誓いの刃に言霊をのせる。

「メイズ、これで全て・・・・終わるわ!!! 」
「「アイリィ!!! 」」

≪シュトラーフェ≫がブルーセイヴァーの真上に振り下ろされようとしたそのときだった。

ザキィィィィン!!

金属がこすれあうような音がその場にいる全員の耳をかすめる。
そして、宙に舞う赤紫色のMSの刃を備えた左腕・・・・。

それはまるで時が止まったかのようであった。
一体何が起こったのか、誰しもが把握できないその空間に一陣の荒ぶる風が吹きすさぶ。
そして、救世主の声・・・。

「アイリさん! 大丈夫ですか!! 」

聞きなれたその声にフルーシェも、ロウも、アイリーンも同じように叫んだ。

「「「コウ!!!! 」」」

そして、≪シュトラーフェ≫の左腕を切り落とされついに両腕を失ったドライ・シュヴーアのメリリムも、立ち尽くす蒼い魔王ザナドゥのブリフォーも叫ぶ。

「「白いミコト!!? 」」

まさに神の如きその奇跡の登場と、目にも留まらぬ速さでドライ・シュヴーアの腕を切り裂いた神業にそこにいる全ての者が驚愕した。
そして、神を駆る少年の言葉がアイリーン達に響く。

「遅くなってすみません! 話は後でしますが、この2機はオレが相手をします。ゆっくり休んでてください。」

「ふぅ、わたくしは全然心配なんかしてませんでしたわ! やっておしまいなさい! コウ!! 」
コウの事を心配してやまなかったフルーシェは強がりを言った。

「オイシイとこもってくじゃないか、コウ! 任せたぜ。」
『もうスサノオに掛けるしかない。頑張れコウ! 』
ロウも安心しながら笑い、8も機械とは思えない神頼みの言葉を表示した。

「もう〜〜〜〜・・・・・・・・遅いのよぉ。全く〜!! 」
そして、アイリーンも涙を浮かべながら笑った。また、アルフに会えるかもしれない。
当たり前のそれが、何故だがとても嬉しかった。

「邪魔しないでよォ!!! 白いミコトォ!!!! 」

スサノオの登場に半狂乱になるメリリムは2枚の硬質メタルウィングを広げてスサノオ目掛けて走り出した。

「メ、メリィ!! よせ!! お前はもう・・・!! 」

ブルフォーの言葉は届かなかった。
今のメリリムの心はメイズのことでいっぱいになっていた。
ろくに会話すらできない自分のような人間の話をちゃんと聞いてくれた。
それどころか対等な仲間として認めてくれた。
そんな、はじめての友人・・・・・大切なヒトを・・・こいつらが!!
こいつらを殺さなきゃ、私の悲しみは終わらない・・・!!

悲しき復讐の鎖に絡めとられてしまったメリリムの、命を駆けた特攻がスサノオに迫る!

『コウ! 』
「・・・わかっています! 」

アモンの言葉を合図に、コウはスサノオに神速の翼を発生させる。

メリリムの脳裏には、かつて見たほんの少しだけ微笑むメイズの姿が蘇る。
・・・・メイズ、私も・・・・あなたの所に・・・・・。

「メリィィィ!!!!!! 」

スサノオが風のようにメリリムの駆る堕天使を通り抜け、ブリフォーが絶叫した。

ドライ・シュヴーアの首が飛び、そして・・・・・・。

「・・・・え・・・・私・・・。生きて・・・る? 」

・・両足を切り落とされたドライ・シュヴーアは砂上に後ろ向きに倒れ動かなくなった。

「・・・は!! 」

ブリフォーが気付いたときにはもう遅かった。
音を超えたスサノオは手甲型ビーム砲内臓ヒートクロー≪リュウジン≫もろともザナドゥの両手足を切り落とし、背部に接続されていた小型エネルギーパックをも斬り捨てた。
『カリフォルニアの黒い風』を彷彿とさせるような、まさに神業。

シュウゥゥゥゥ・・・・。

フェイズシフトがダウンし、ディアクティブモードになったザナドゥもまた、前のめりに砂上に突っ伏した。

「な・・・・なんですの・・・あれ・・。」
「ひゃあ〜・・・コウのヤツ、強すぎだぜ! 」
『計算不能!! なんなんだ、あのモビルスーツは? 』
「・・・・コウ君・・・・本当に、強くなったわね・・・。」

アイリーンたちの見守る中、ついにその決戦は決着した。

コウはスサノオから動けなくなったザフトのMSに全周波回線で通信を入れた。

『もう決着はつきました。命まではとる気はありませんから、大人しく投降して下さい。』

「・・く、投降しろですって!! メイズを殺しといて、よく・・・。」
「やめろ!! メリィ! ・・・我々の、完敗だ。大人しく投降するんだ。」
「でも隊長ォ!! 」
「・・今は苦渋を舐めてでも生きるんだ! どんな事があってもお前が生きる事を、メイズのやつも望んでる。あいつは・・・・そういうやつだ。」
「・・・・!! はい、わかり・・・ました。」

投降したブリフォーとメリリムをワイヤーで後ろ手に縛ったちょうどそのときだった。

『みんなぁ!! 大丈夫ですかぁ!!!? 』

駆けつけたスローンのサユからの通信が入ったのは。



スローンのクルー達は、ブリフォー達を捕虜として専用の部屋(もちろん牢屋である)に連行し、もうほとんど残骸のようになってしまったブルーセイヴァー、レッドフレーム、ガルゥ、そしてザフトの2機とスサノオを収容した。
ここにはさらにシャクスのジンも乗っているため、ドックはもはやパンク寸前であった。
もともとこのスローンは5機までの運用が限界だったのである。

その狭苦しいドックの奥に立つ、スサノオのコクピットが一向に開かない事にクルー達全員が焦りの色を浮かべた。
あれだけの戦闘をしたのだ。もしかしたらシステムは完成していなかったのでは・・・・。
シュンとレヴィンが梯子を持ち、ナターシャとマナがコクピットの近くまで駆け上り、外部からそのハッチを手動で開けた。

「コウ!! 」「コウさん!! 」

心配のあまりコクピットに体を乗り入れるようにした二人に、次の瞬間衝撃が走った。
それは・・・。

「「く・・・くっさ〜い(です)!!!」」

マナとナターシャが見たものは・・・コウの吐いた嘔吐物まみれのコクピットであった。

『な、だから言ったろ? 泣くわ吐くわで大変だって。ど〜よ、気分は? 』
「さ・・・・最悪ですよ。アモンさん。・・・実は、ただでさえ乗り物酔いする方なのに・・・う、うぇ・・・。」
『あら〜。それは、ご愁傷様。』

MIHASHIRAシステムを解除したとたんに、コウは急激な吐き気に襲われたのだった。それは、アモンのSEEDの力を借り受けた事によるほんの些細な代償であった。 
気分は悪いが、以前のことを考えればすこぶる体の調子はいいのだろうとコウは考えながら・・・・吐いた。

「・・・・お兄・・・・ちゃん? 」

コクピットで軽口を叩くその聞きなれた懐かしい『声』にマナは自分の耳を疑った。

『おう! マナ。久しぶり・・になるのかな? 元気だったかい? 』
「ど・・ど、ど、ど・・・どういうこと〜〜〜〜!!!? 」

マナの絶叫がガラクタだらけのドックにこだました。


30分後、スローンのクルー達はブリッジに集合していた。
アモンの提案でとりあえずコウはシャワーを浴び着替えをしてきた。

「遅れました、すみません。」

コウがブリッジに入ってきたその時である。

『そろったようだな。』

副艦長のマナの座る艦長席の目の前の床からサークル状の突起物が現れ、そこから天井に向かって光が放たれた。
その光は、高性能な3次元ホログラムだった。
そのホログラムに映ったその人物こそ、

『改めまして、アモン・サタナキアだ。久しぶりの顔も、初めての顔もいるようだね。よろしく。』
「お兄ちゃん・・・・本当に、お兄ちゃんなの!? 」

涙ぐむマナにアモンは答える。

「ごめんな、マナ。正確には違うんだ。オレは、アモンの記憶によって作られた『ナビゲーター』というのが、どうやら正しいらしい。」
「『ナビゲーター』? いったいどういうことだい? 」

ロウが質問した。

「じゃ、まず完成版MIHASHIRAシステム、そうだな通称『ダブルフェイス』の事から話さなきゃな。まずはコウが今まで体験していたことを少し分かりやすく説明しよう。」
「ダブルフェイス・・・?」

アモンがそういうと、ブリッジ内に無数の雑音のような声がこだまし始める。

『右・・・左! ・・次も!! 』『一斉放射して、回避はさせないぞ!! 』『コクピットを・・・やめろぉぉぉ。』『一つ! ・・・・二つ! ・・三つ! 残りは・・・・! 』『死ねェェェェェェ!!! 』

無数の騒音に怪訝な顔をするクルー達。

「・・・コウがスサノオに乗っていたとき、コウの頭の中に聞こえていたのがこの無数の『声』。そう、ありとあらゆるものに関するエースパイロット達の声だ。そして、無意識のうちのこの中の一つとシンクロして素人のコウでも操縦桿を動かせるようになる。・・・しかし、これだけの声がそのエースパイロットの知識と経験と共に無差別に頭に入りこみ、そのとき必要な情報だけを利用するというのは効率が悪いし、何よりコウの精神力と体力を大幅に削る事になる。」
「なるほど、それで全体的にあんなに衰弱していたんですのね・・・。」

フルーシェは納得した。

「そこで、完成したシステムでは、その情報の仲介役を作る事にしたんだ。それが、『ナビゲーター』だ。『ナビゲーター』とは、一言で言えば、さっきの無限の『声』、つまり無数のエースパイロット達の知識・経験・そして記憶から、ミコトを駆るパイロットをナビゲートするにふさわしい者として形成された擬似人格だ。」
「「「「「!!!」」」」」

これには、さすがにコウも驚いた。

「じゃあ、アモンさんは・・・。」
「そうだよ、コウ。お前のナビゲーターとしてふさわしい人格として、システムの中に蓄積されていたアモンの記憶によって作り出された・・・・・人工AI、だな。」

アモンは少し悲しそうな表情をみせた。
そんなアモンにマナが問いかける。

「・・・でも、お兄ちゃんなんでしょう?例え、人工AIでも、お兄ちゃんの記憶があるんでしょう? 」
「・・ああ、マナ。オレの愛機が爆発した瞬間の事までね・・・・。さすがにへこむよなぁ。こういう記憶は消しといてくれればよかったのに・・・。マナ、オレは・・・・いや、アモンは・・・・死んだんだ。がっかりさせて、ごめんな。」

「・・ううん。例えどんな姿になったって、お兄ちゃんはおにいちゃんよ。・・・もう一度会えて・・・ほんとに・・・・。」

マナは必死に声を堪えて泣き出した。
レヴィンがそれとなく両肩に後ろから手を掛けて無言で見守った。

「・・・ありがとう、マナ。なんかさー、照れるよなこういうの。とにかく、MIHASHIRAシステム『ダブルフェイス』ってのは戦闘知識や経験を仲介する『ナビゲーター』とMSを操縦する『パイロット』の2人が共に意識を共有しながら戦うシステムの事だと思ってもらえればいいと思うよ。」
「2人で戦う、・・・・それで『ダブルフェイス』か・・・。」

コウのつぶやきに全員沈黙する。
それを破ったのはアモンだった。

「堅苦しいのはもう終わりだ! とりあえず、シュン、サユ、レヴィン、ナターシャ、久しぶりだな。・・・それと、ああそうか、シャクスの事と『あいつ』の事、話さないとなコウ。」
「そうか、MIHASHIRAシステムを使ったときはアモンさんとオレの意識が共有状態になるから、分かるんですね。・・・・ええ。話します。シャクスさんと・・・『ディノ』の事。」

コウの口から語られたネブカドネザルでの一連の出来事に、全員が絶句した。

「まさか、コウの弟が・・・3機目のミコトに・・!? 」
「それに・・・お母さんが・・・。」
シュンとサユはうつむいた。

「それで、シャクスはそのディノって弟に連れてかれたわけだな、コウ。」
「そうなんだ、ロウ。・・・十中八九ね。」

艦内が、重い沈黙に包まれる中、コウがその口を開いた。

「・・彼らに、聞いて見ましょう。」
「あ、捕虜にした・・・ザフト兵さん達ね。」

キサトが思い出すように口にする中、アモンがコウに問いかける。

「なるほど、確かにな。しかし、そう簡単にはしゃべらないだろうねぇ。彼らも。」
「オレは、今までの事を隠さず全て話すつもりです。そして、必ず彼らの知っている事を教えてもらいます。絶対に。いいですか?マナさん。」
「・・・そうね、今はそれしか手がかりがないですものね。レヴィン、シュンここに彼等をつれてきてちょうだい。」
「「了解! 」」



アマテラスで帰還飛行をしながらエリスは、妙に胸騒ぎが止まなかった。
心臓の鼓動が、早い。

「ブリフォー、メリィ・・・どうか、無事でいて・・・。」

祈るようにして飛ぶエリスとは対照的に、ツクヨミのコクピットでは楽しそうな少年の声が響いている。

「それにしても役者だなあ。・・・・・・いつまで、そうしているつもり? 」

その言葉は誰に対して放たれたものなのか・・・。
おもむろに返答が返ってくる。

「・・・ディノ。芝居じゃありませんよ。カルラの奴が肩なんて撃つから。いくらゴム弾のライフルでもさすがに脱臼してしまいましたよ・・・。胸を撃てと言ったのに、せっかく着込んだ防弾チョッキがだいなしです。」

ゴキゴキと音をさせながら脱臼した肩を自分で治し、その男はおもむろに立ち上がった。

「フフフ、あいかわらずだなあ、あなたは。その器用さががうらやましいよ、シャクス・ラジエル。・・・・・・いや、オーブ5大氏族イソラ家の一人、『シャクス・モア・イソラ』と呼んだ方がよかったかな? 」
「・・・・・・・・。」

月神のコクピットの中に、青い瞳の少年の笑い声がこだました。

〜第14話へ続く〜


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