〜第14章 それぞれの迷路 ―メイズ― 〜

「・・・・・・・・。う・・ん。」
「!!!!!! あ、あ、あ、あ、あ、あ!! 」

その青年はベッドの上にいた。
意識が混濁し、妙に全身が痛い。

その冷めた輝きを持つ真紅の瞳が最初に捉えたものは、奇妙な声を上げる水色の長い髪をした・・・少年? ・・・の姿であった。
なぜか、妙に慌てているその姿にライトグリーンの髪をした後輩のことを思い出す。
!!!

メイズの中で、全ての記憶がつながった。
しかし、メイズはそれをもう一度頭上で整理する。
上半身を起こしたメイズは右手で髪をかきあげるように頭を抱え無言を決め込んだ。
その妙な様子に、その水色の髪の少年、ユガ・シャクティも焦る事すら忘れて唖然とした。
・・・この人、なんで何も言わないんだろう?

そこに入ってきた一人の男がいた。

「ユガ、そろそろ飯に・・・おう! 気がついたのか。よかったな。」
「ガ、ガ、ガ、ガルダ!! 」

両腕にファーストフードの買い物袋を抱えたガルダ・サンジュマーは考えにふけるメイズに気軽に話しかけた。
メイズも、はっとしてガルダに向き直る。

「はじめまして、ガルダ・サンジュマーだ。ザフト兵のかた。名前、聞かせてくれるかい? 」
「・・・・メイズ・アルヴィース。」

警戒し、普段よりもいっそう無愛想なメイズの事をガルダは気にも留めず淡々と続けた。

「警戒するのも無理ないな。まあ、直に言うぞ。お前さんは砂漠で倒れててな、酷い怪我だったからオレ達がつれて帰ったんだ。俺とユガの2人でな。2人乗りのランドグラスパーが狭いのなんのって・・・・。」
「・・・そうでしたか、助けていただいた事には感謝いたします。ですが・・・ここは? 」

大好きなグチを言おうとしたガルダとガルダの後ろでおびえるようにメイズを睨むユガに、メイズは軽く会釈しながら礼を言った。

「・・・ここはピュリフィケイションのベースキャンプだ。」
「!!! 」
「おどろくよなあ。そりゃ。でも、安心しろよ。今、癇癪もちのリーダーは『天使ちゃん』とお出かけの最中だし、あんたをどうこうしようって気はないさ。」
「・・・・では、何故コーディネイターであるオレを・・・助けた? 」

メイズのその言葉に答えたのはユガだった。
瞳には涙を抱え、メイズを睨みつけている。

「怪我してたからに決まってるじゃんか! そんな事もわかんないのかよ! それとも、コーディネイターはやっぱり人を殺してもなんとも思わないのかよぉ!! 」
「ユガ! 」

そう言うと、ユガは部屋を飛び出していった。

「ったく。いや、すまんね。あいつ、ユガ・シャクティってんだが。・・・・両親をコーディネイターに殺されていてね・・・・。悪気はねぇんだぜ、許してやってくれ。」
「・・・・・・! 」

メイズの心に少しだけ動揺の色が浮かんだ。

「まあ、それはともかく、3日も寝てたんだ。腹ぁ減ったろう?まあ、これでも食えよ! 」

そういうとガルダは紙袋の中から食べ物らしきものと、そのソースを取り出して渡した。

「・・・なんだ? これは・・・。」
「ドネルケバブさ。うまいぞぉ! このチリソースかヨーグルトソースをかけて食うんだが、オレは両方ごちゃ混ぜにして食うのが好きなんだ、食ってみな。」
「・・・・・。」

メイズははじめてみる異形の食べ物をまじまじと見つめながら真面目にガルダの言う ミックスソースで食べ始めた。

「・・・・・・・・・うまい。」
「はっはっはっは、そうだろう! うまいだろう! こいつは砂漠では最高の食いもんさ! あとはいい酒さえあればね。」

「あんたは何故、オレに普通に接してくれる?ブルーコスモスはコーディネイターを憎んでいるのではないのか?」

メイズの質問も最もである。
ブルーコスモスとは、この地球から遺伝子操作されて生まれたコーディネイターを自然の摂理に逆らった不条理な生物と考え、地球上から排除する事で青き清浄なる世界を取り戻そうと暗躍するテロリスト集団―。
それが、一般的に知られている姿だったからだ。
ガルダは照れくさそうに口を開く。

「確かにメイズ。あんたの言う通りさ。世界中の大半のブルーコスモスは凶悪なテロリストだ。だが、オレ達はその中でも珍しい穏健派ってやつでね。この地球からコーディネイターが手を引いてさえくれりゃ、何も殺す事はないと思ってるよ。ま、そちらにはそちらの立場があるだろうから、難しいだろうけどね〜。」
「・・・・・。」

「おい、ガルダ。オレはもういいのか。」

部屋の入り口で中の様子を面倒くさそうにうかがっていた一人の男が、これまた面倒くさそうにガルダに声をかけた。

「ああ、マックス。買いだしの手伝い悪かったな。ちょうどいいや、オレはこれから買い出した物資やらメシやらを届けなきゃなんないから、お前、メイズの話し相手でもしてやってくれ。」
「はあ、まあ、やれといわれればやるがね。・・・正直、口を開く事すら、だるいのだがな・・・。」

ガルダは苦笑しながらこの『やる気0』の男のことをメイズに紹介した。

「こいつは、マックス・ジークフリート。フリーの傭兵だ。いや、あくまでも『フリー』なんだっけか? 」
「どうでもいいが、そういうことだ。」

ガルダだけでなくメイズも絶句した。
自分も「面倒な事は避ける」がモットーだが、ここまで行くと比較的に他人に無関心なメイズでも別の意味で興味がわく。

「ま、まあ、なんだ。オレはちょっと用事済ませてくるからメイズはマックスと飯でも食っとけよ。あとで聞きたい事もあるし、今後の事とかな。マックスお前の分のケバブもそこにおいとくから、よろしく頼むぞ! 」

そういうとガルダは足早に部屋を後にした。

「・・・・・メイズ・アルヴィースだ。」
「あ、そう。どうも。・・・・・よろしく。」
「・・・・・・・。」

重苦しいのか、軽いのか、だらけきった空気の中、マイペースな二人は黙々とドネルケバブを食べた。
ソースをミックスさせて食べるメイズを見て、マックスがだるそうに口を開く。

「・・・お前、変わった食い方するな。」
「? ・・・ガルダに教わった食べ方なのだが、どこかおかしいのか? 」
「やはりな。ふつう、ソースはどっちかだぞ。ミックスなんて、ガルダくらいのもんだろう。」
「・・・そうなのか? ・・だが、・・・うまいぞ。」
「・・そんなばかな。あ〜面倒だが気になってきた。オレも食ってみるか。」

そういうと、ものすごくだるそうにチリソースに手を伸ばしたマックスはヨーグルトソースのついた食べかけのケバブにそれをかけて、口へと運んだ。

もぐもぐもぐ・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・。

「・・・・・・・うまいな。」
「・・・だろう? 」

少しだけ意気投合した2人だが、すぐに沈黙の時間が続いた。

「おまえ・・・コーディネイターだろ? 」

おもむろに尋ねたのはマックスの方だった。

「・・・ああ、そうだ。ザフトに所属しているくらいだから、当然だな。」
「そうだろうな。・・・・一つだけ、聞いてもいいか? 」

けだるそうなマックスの瞳が少しだけ真剣になる。
メイズも無言でその問いを待った。

「・・・お前は、何のために戦ってるんだ? 」
「・・・・・? 」
「いや、変な意味じゃない。ただ、・・・個人的に気になってるだけだ。人が生きる事の・・・意味って奴を。」

意味深げなマックスのその質問にメイズは考え、答えた。

「・・・・祖国のため、というのはただのお題目に過ぎないのかもしれないな。オレの場合は・・・孤児だから。・・・プラントにかえっても家族もいない。」
「そうか。・・・・プラントでも孤児はいるんだな・・・。」
「・・・ああ。・・・オレが戦う理由、か・・・・・。」

孤児であったメイズはプラントの一つにある小さな孤児院で育った。
とても貧しい孤児院であった。
メイズは時々お忍びで訪れる黄色いおヒゲのクラインおじさんからもらうケーキがいつも楽しみであった。
そして時が過ぎ、生活のためにメイズは軍に入隊する。
抜群の成績で士官学校入りをしたメイズは特待生として一切の費用が免除となった。
貧しい事には慣れていたが、あれはあれで面倒だ。だから、がむしゃらに頑張った。
そして、いつしかメイズは自分にとって面倒な事を如何に回避するかを考えるようになっていた。
それゆえの赤服の地球志願だったのである。

貧しさを知り、人のつらさや痛みは分かっているつもりであった。だから仲間の事はそれとなく気にかけていた。
しかし、様々な面倒ごとを避けるように逃げてきたメイズにとって、人付き合いは苦手なものであった。
感情をうまく表現できなかったのである。
だから、逆に感情豊かなあのライトグリーンの髪の少女にどことなく惹かれた。
一生懸命に自分についてこようとする彼女を先輩として、仲間として、そして男として守りたかった・・・・。でも・・・。

「実は、オレもコーディネイターだ。」
「!!? 」

考え込むメイズは、マックスの言ったその言葉に驚いた。
マックスは構わず続けた。

「ここの奴らには黙っておいてくれ。ナチュラルだってことになってる。でもな、オレは思うよ。・・・・言わなきゃ気付かない位のことなのに、ナチュラルだ、コーディネイターだって・・・めんどくさい世の中だってな。」
「・・・では、何故マックスはブルーコスモスの傭兵などをしている。オレ達ザフトも人のことは言えないが、彼らは完全なナチュラル至上主義者だろう? 」
「・・・だからさ。」
「・・・!? 」

マックスのその答えにメイズは首をかしげた。

「だからこそ、知りたいと思ったのさ。彼らが何を考え、何のために戦うのか・・・。面倒だが、気になってしまったものは仕方ないだろう?」

いままで、敵対する相手の事など知ろうとも思った事のなかったメイズにとって、その答えはとても衝撃的であり、新鮮なものだった。



それから、5日経ちメイズはすっかり歩けるほどに回復していた。
幸い目立った外傷や内臓の異常もなく、全身打撲と軽いやけどですんでいたからである。
あと一瞬、コクピットから飛び出すのが遅かったらそうもいかなかっただろうが・・・。
ザフトの軍服ではなく、普通の服を身に纏ったメイズは、ベースキャンプの中を意味もなく散歩していた。

5日前、あのマックスとの会話から程なくして、ガルダが戻ってきた。
戻ってきたガルダはメイズに2、3簡単な職務質問をし、メイズも助けてもらった恩もあると考え正直に答えた。

そして、ガルダの言い放った言葉は意外なものであった。
それは、復隊したいのならもう1週間ほど待てという事であった。
その間に、ある人物がこのキャンプを訪れる事になっているらしい。
それまでは、うかつに敵兵を作りたくないという事だった。

メイズも素直に了承し、時には食事やマシンのメンテナンスを手伝ったりして既になんとなくなじみ始めていた。
ブルーコスモスのキャンプでコーディネイターがなじむ。
こんな馬鹿な話はない、と誰もが思っていたが、ナチュラル(だと嘘をついている)マックスの仲介などもあり、メイズの事を皆寡黙で真面目な青年だというくらいに思うようになっていた。
もちろん、完全に信用してはいないだろうが。

オアシスの前まで来てメイズは砂上のちょうどよい岩の上に腰かけた。
・・これだけ連絡を取っていないんだ、オレはもうMIA扱いなのだろうな・・・。
メリィは、エリスやブリフォーは無事なんだろうか・・・。

見上げた空に輝くまぶしい太陽がメイズの赤い瞳を輝かせる。

ドボォォォォ・・・ン!!

ふとメイズがその音の方に目をやるとパンツ一枚になった少年達が大きな岩の上からオアシスの中に飛び込み、水浴びをしていた。

その中には、あのユガの姿もある。
あんな年端の行かない少年達がブルーコスモスに入っているなんて。
いや、ザフトもそれは同じか・・・・。

 考えながらメイズの脳裏にガルダとユガの言葉が蘇る。

『両親をコーディネイターに殺されていてね。・・・』
『・・・それとも、コーディネイターはやっぱり人を殺してもなんとも思わないのかよぉ!! 』

 ・・・オレは・・・・。

「た、たすけて!!! 」
「!! 」

その叫び声に目を向けたメイズが捉えたのは溺れる一人の少年の姿であった。
他の少年たちは動揺し、慌てふためいている。
どうやら、泳いで岸まで戻る途中に足をつってしまったらしい。

今にも沈みそうなその水面から垣間見るその水色の髪は・・・。

「・・・ユガ!? 」

メイズは駆けた。
そして上着を素早く脱ぎ捨てて、一直線にオアシスに飛び込む。
泉の中は、思ったより岸辺の近くからもうすでに深くなっている。

泳いでユガの元に駆けつけたメイズは、暴れるユガを自分の上に乗せて落ち着かせ岸 までつれて泳いだ。

他の少年たちもメイズとユガに駆け寄る。

「はあ、はあ、はあ・・・。」
「・・・・大丈夫か? 」

肩で息をするユガにメイズは話しかけた。

「・・・・・。」

無言になるユガを尻目に、他の少年達がわいわいと騒ぎ出す。

「兄ちゃんやるなあ。」「ありがとうお兄ちゃん!! 」「よかったな、ユガ!! 」

屈託のない少年たちの笑顔を見ながら微笑むメイズを尻目にユガが叫ぶ。

「おまえらうるさいよ!! こいつは・・・この兄ちゃんはコーディネイターなんだぞ!! 」
「「「「え!! 」」」」

にわかに少年達の表情も曇った。
そしてユガが叫ぶ。

「なんで、僕を助けたの!! ナチュラルの僕を! 」
「・・・お前がオレを助けてくれた事と同じ理由・・・・溺れていたからさ。助けるのは当然の事だ。・・・ユガ、だったな。お前の両親の事は聞いている。だから、わかってもらえないかもしれないが・・・・・・オレ達コーディネイターだって、好きで戦争をしているわけじゃない。人が死にそうになっているのを助けられるのにほっておけるほど、強くもないさ。」

そういうとメイズは上着を拾ってその場を後にした。

「・・・・・メイズだっけ。あの宇宙人・・・・。」

ユガはコーディネイターであるメイズの意外な言葉に少し驚きながら見つめていた。
その宇宙人の背中は、どことなく寂しそうだった。


その日は静かな夜だった。
静かすぎて、何かが起こる前触れであるかのように・・・・・。

ドォォォォン!!!!

突然の轟音と激しい振動にメイズは飛び起きた。
急ぎ服を着て外にでるとそこは・・・・。

あたり一面が火の海となっていた。
何人もの人間が倒れ、すでに動かなくなっている。

「な・・・これは一体!? 」
「どうやら、ジブラルタルの奴ららしいぞ。」

後ろから話しかけてきたのはマックスだった。
その両腕には機関銃が握られている。

「ザフトが!? しかし、降伏勧告など聞こえなかったぞ! 」
「当然さ、してないからな。」
「な!! 」
「奴らにとって、ブルーコスモスは正規軍じゃない。軍規にのっとる必要もないって事だろ、恐らくな。」
「そ・・・そん、な。」

自軍の暴虐に激しく動揺するメイズに、マックスが問う。

「・・・で、お前はどうする? 」
「・・・・!! 」
「ま、どうするにしてもお前の勝手かな。オレは奴らを迎え撃つ。モビルスーツに乗れるのは、今はオレ一人だけだからな。は〜、面倒くさい。」

そういうとマックスは駆けて行った。

「・・オレ・・・・は・・・・。」

混乱するメイズに小さなうめき声が聞こえた。
その声の方に駆けつけたメイズが見たのは、瓦礫に右足を挟まれて倒れているユガの姿であった。
体中すでにすすこけて真っ黒になっていた。

「・・・・!! ユガ! 大丈夫か! くっ・・・・・!! 」

瓦礫をどかせてユガの足を抜くメイズは、ユガに話しかけた。

「・・・すまない! ユガ・・・・オレは・・・ザフトは・・・!! 」
「・・・謝るのは・・こっちだよ・・メイズ。」

水色の髪の少年は涙を浮かべながら話した。

「昼間は助けてもらったのにコーディネイターだってだけでお礼も言わずに・・今も助けてもらって・・・・。これは、神様が僕に下した罰かもね・・・。」
「・・何を馬鹿な。大丈夫だ、お前は足を怪我しているだけでまだ・・。」
「でも、友達はみんな死んじゃった・・。ミサイルの・・直・・撃でぇ、う、う、・・・。」

昼間の少年達の明るい笑顔がメイズの目に浮かぶ。

これが、ザフトの答えなのか・・・!?
これがオレが何の疑いも持たずに勤めてきたザフトの・・・・!!!
メイズのその真紅の瞳にはいつもの冷たい輝きはなく、熱く紅蓮の炎が燃えていた。

「ユガ・・・! モビルスーツドックの場所、分かるか・・・? 」
「・・・え、どうするの・・・まさか、メイズ、ザフトに戻・・!! 」
「ザフト軍と・・・戦う!! 」
「・・・え・・・・。」
「ユガ、知ってるなら教えてくれ、ドックを! 」

ユガを背負いメイズは炎の中を駆けた。
そして、ドックの中に駆け込んだが・・・・。

「くそ、どれもこれも分解されたままで使い物にならない!! 」

ジンオーカーやザウート、バクゥなどのMSのジャンクが散乱するそのドックでメイズは珍しく叫んだ。
ランドグラスパーさえも今は出払っているようだ。
そして、ユガがおもむろに指を指す。

「あの奥のトレーラーの上に、フルーシェが、・・・僕達のリーダーが気に入ってるモビルスーツがあるよ・・・。でも、僕達誰も乗れないから、乗れるのかどうかは・・・・。」
「! あれだな!! 」

メイズは迷わずに駆け、そのトレーラーの上にかぶさるシートを剥ぎながらコクピットを探し出し、そのMSらしきもののハッチを開けた。
乗り込もうとするメイズにユガが叫ぶ!

「僕も乗せて!! 」
「ユガはそこにいろ!! 危険だ!! 」
「ベースキャンプだけど、僕の町なんだ!! 僕も、守りたいんだ!! みんなを!! 」

メイズとユガ。コーディネイターとナチュラルの二人の瞳が交錯する。
そして・・・。

「わかった! 来い! 」

メイズはユガを抱えてコクピットに滑り込む。
座席の横にユガを座らせ、自分の上着を脱ぎそれをシートベルト代わりにして座席とユガを結びつけしっかりと固定した。

そして、電源にスイッチを入れる。
ディスプレイに浮かぶそのOSの文字は・・・。

General
Unilateral
Neurolink
Dispersive
Automatic
Maneuver Synthesis System

「・・・GAT-X279・・・連合のXナンバーの新型か!!? ・・・OSも連合のものの割にはましな方か・・・エネルギー残量は・・・よし、何とかいけそうだ。ユガ、しっかりつかまっておけよ! 」
「うん!! 」

カメラアイに光が灯り、『憎悪』の名を持つガンダムがその憎しみの元凶を絶つべく大地に足をおろす。

「行くぞ・・! 立て、マステマ!! 」



「ちくしょう!! よりによってリーダーのいないこんな時に! ザフトめェ!!! 」

ガルダの駆るランドグラスパーが12連装ミサイルポッドをザウートの群れに一斉に発射する。
その内の何機かのキャタピラに被弾し、走行不可能にしてゆく。

敵は、残りザウート5機、バクゥ3機。
この小規模キャンプを襲撃するにはかなりの数である。
しかし、それも当然の事であった。
このキャンプにはあの『砂漠の虎』と互角に渡り合ったという逸話を持つ『デザートケルベロス』がリーダーをしているキャンプなのだから。
ジブラルタル基地のザフト軍にとっては、あのガルゥ相手に少ないくらいであるとフルーシェに対して過大評価をしていた。

「フン、ダコスタの奴め・・・一体何があったのか知らんがこんなキャンプなどさっさと潰してしまえばよいのだ。」

部隊を指揮するジブラルタルの新しい指揮官ランカー・サーヴィトリーは必死に奇襲攻撃をする事を止めようとしていたマーチン・ダコスタの事を吐き捨てた。
降伏勧告をし、無血によりキャンプを解体させる道をとるように言い続けたマーチンは、ランカーに上官にたてついたとされて、今ジブラルタルの独房に入れられ反省の時間が与えられている。
もちろん、顔には修正による無数のあざがあった。

「我らコーディネイターを妬み、ナチュラルこそが青き清浄なる世界の民だなどと・・・。蟻が超高層ビルを我が家だというようなものだ! デザートケルベロスもどうやらいないようだし、そんなおろかな蟻クズは、今ここでしっかりと踏み潰しておかんとな! 」

ランカーの駆るバクゥが群れを引き連れ、ランドグラスパーに迫る。

「お前の相手は、オレだ! 」

バクゥの群れの前に立ちはだかったのは鮮やかな紫色のジン・・・マックスの愛機であった。

「・・・悪いが、戦闘中のオレは・・・手加減できるほど器用じゃないぜ。覚悟しな!! 」

一列になって飛び掛る3機の野犬がジンに標的を変えて襲い掛かる。

「死ねェェェェ!!! ナチュラル!!! 」
「・・・あいにくオレは・・・コーディネイターだ! 」

ランカーの駆る一匹目の攻撃を、マックスのジンは左腕で下から掬い上げるようにして後方に投げ捨てた。
そして、2機目の攻撃は右手の重斬刀をコクピット目掛けて力いっぱい突き入れる。

「ぐわああああああ!!! 」

3機目の牙が上空から迫る!
しかし、さすがにこれまではかわしきれなそうだった。

「くらえ!!! 」
「ちぃ! ・・キャンキャンと群れを成しやがって!! 」

相当のダメージをマックスは覚悟する。
しかし、

ドォォォォン!

轟音と共に3機目のバクゥは真紅の光線に貫かれ四散した。
その光線はそのまま地平の果てへと消えてゆく。

「な、なんだというのだ!? まさか、デザートケルベロスか!? 」

ランカーの、ガルダの、マックスの視線の先にあったのは深く、暗い光を秘めた赤紫のガンダム・・・。
憎しみを貫くかのような光線を放つその勇壮なMSの姿に、その場にいる全員がはっとした。

「・・・・マックス! ガルダ! 加勢する・・・! 」
「メイズか!?」
「フッ・・あいつ。」

ガルダとマックスが驚く中、メイズはマステマの胸部誘導プラズマ砲≪フレスベルグ≫を発射する。
今のマステマには武装はこれだけしかない。
しかも、局射用の磁場発生レールもないため、≪フレスベルグ≫も直線発射しかできなかった。
しかし、それは十分すぎるほどに強力なものだった。

次々とザウートを撃破して行き、残るはランカーのバクゥ一機のみ。
状況の不利を悟ったランカーは一目散にその場を離脱した。

「お、おのれ、ナチュラル!! この私に恥を!! 許さん・・・。絶対に許さんからなぁ!!! 」

捨て台詞だけは、なんとも立派であった。

「やった! やったね、メイズ!・・・・みんなの、仇をとった・・・・。 」
「・・・・ああ。」

うつむくユガに、複雑そうな表情でメイズは答えた。
その時だった。

空からこちらに降りる2機の小型輸送艦がその姿を現す。
どうやらユーラシアのものらしい。

「また、あの人もとんでもないときに来るもんだな・・・。」

ガルダはどうやらあの輸送艦に載る人物を知っているようだった。


「随分と、派手な事になっちまったみてぇだな。ガルダ。」
「ええ、くやしいですが・・・・。」

輸送艦から降りてきたバルバトスはガルダに労いの言葉をかけた。
メイズたちもMSから降りその後ろに立っていた。

「キャンプの方は一時撤退しようと思います。被害が・・大きすぎました。」

ガルダの言葉にユガがうつむく。
メイズがその震える肩に手をかけようとしたが、その手を引っ込めた。
コーディネイターであり、ザフトである自分の励ましが一体何になるだろう。

「そうか・・・。じゃあ、オレと一緒にロシアに来い。何、しばらくは面倒見てやるさ。オレにも責任があるしな。すまねぇ。」
「いや、ザガン大佐にゃ感謝こそすれ、そんな。・・・助かります。お世話になります。」
「・・・早速で悪いが、例の兼の担当の奴は・・? 」
「ああ、ちょうどよかった。こいつです。マックス!」

呼ばれたマックスはバルバトスの前に歩み寄り挨拶をする。

「マックス・ジークフリートです。物資の搬送及び護衛、勤めさせてもらいますよ。」
「おう、大事なもんだ。あの2機の輸送艦あるだろ?黒い方を使ってくれ。もう一機はオレ等が乗って帰るときに使うんでな。よろしくな。時に、そっちの赤髪の坊主! おまえ、コーディネイターかぃ? 」
「・・あ、ああ、彼は・・。」

ガルダが言葉を濁し説明しようとする矢先、

「・・・ザフト地上侵攻特務隊所属、メイズ・アルヴィースだ。」
「「メ、メイズ!! 」」

ガルダとユガが叫ぶ。
バルバトスは神妙な顔になり、メイズに聞いた。

「ほう、確か新設の『青服』だろう? そりゃエリートさんだなぁ。で、そんなお前さんが何故ここにいて、アレに乗ってたんだ? 」

メイズを中心にガルダとユガも加わってバルバトスに状況を説明した。
長いもみ上げを何度もこすりながらバルバトスはう〜むと考え込む。そして、

「なるほどねぇ。んで、ザフトに喧嘩売って、これからお前さん。どうするんだ? 帰る場所を自ら潰したんだろう? 」

その言葉にはっとしたのはユガだった。
メイズは自分達のために戻る場所をなくしてまで戦ってくれたんだという事に今更ながらに気付き、心配そうにメイズを覗き込む。
それに気付いたメイズは無言でにこりと微笑んだ。

その様子を見たバルバトスは急に笑い出す。

「がっはっはっはっは。こんな時に不謹慎かもしれんが愉快な光景だ。コーディネイターとブルーコスモスが仲良くしているなんてよ! 嬉しくなっちまわぁ!! よし、気に入った! メイズといったな。お前さん、オレが雇う! 」
「ザガン大佐!? まさか・・・。」

ガルダの問いにバルバトスは頷いた。

「お前さん、ちょうどあの機体に乗っちまったみたいだし、マックスと一緒にあの機体・・・マステマを北欧まで輸送してくれ。テストパイロットとしてな。」
「・・・・オレは構わないが。いいのか? 」
「何が? 」
「・・・オレを信用して。」
「ハン、そんな事か。そんときゃ、そんときさ。オレに見る目がなかったってだけの話だ。たいした問題じゃねぇ。」

バルバトスのその豪快な言葉にメイズは苦笑する。

「・・今のオレは、ザフトにも・・・この世界にも疑問がある。今までは知ろうとすら思わなかった多くの事・・・・それを少しでも見て回りたいと、思っていた。・・・引き受けさせてもらう。」
「ガ、ガ、ガ、ガルダ!! 僕もメイズと一緒に行くよ! 」
「ユガ!? おまえ・・・。」
「・・・僕も、見て回りたいんだ。コーディネイターがそんなにいけない人たちなのか。それとも・・・。チシャやビン、ジェーンの分まで・・・。」

失った友人たちの名前を震える声で言うユガにガルダは頷き、バルバトスの方に目をやる。

「んん? わかった、わかった。雇ってやるよ、ついでだ。ユガ坊はたしかランドグラスパーの操縦ができるな。じゃあ、あの輸送船のパイロット、やってみろ。わかんなきゃ、マックスに聞きゃ分かるだろ? 」

既にやる気の限界で砂上に腰を下ろし、だるそうに背中を丸めていたマックスのほうに全員の視線が向かう。
おもむろにマックスは立ち上がり、

「はあ、無口で根暗な男とユガ坊ちゃんのおもりか? ・・・・・・・・・・・面倒だが、オレにわかることなら教えてやるよ。・・・よろしくな。2人とも。」
「・・・よろしく頼む、マックス、ユガ。」
「よろしく! 」

3人は固い握手を交わす。
そして、この先3人はそれぞれの『果てしない迷路の果て』にある『答え』を探すための旅にでる。
目的地は、そう――――北欧の大地。
そこで新たな出逢いがメイズ達を待っている。

〜第15章へ続く〜


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